著者
相庭 達也
出版者
北海道大学大学院文学研究科北方研究教育センター
雑誌
北方人文研究 (ISSN:1882773X)
巻号頁・発行日
no.12, pp.1-17, 2019

本稿は、西南戦争へ従軍し、出征から帰道までの期間に「戦闘」「病気」「事故」で亡くなった屯田兵の慰霊について、その実態と特性について考察したものである。 その数は37名に及ぶが、戦闘死とされる者8名の内3名は「溺死」であった。病死とされる者は28名で、ほとんどが「コレラ」によるものであった。出征当日に同郷出身の兵士によって殺害された者が1名いたが、それを開拓使は「横死」と位置づけた。 それぞれの「慰霊」について、当時病死者は合祀対象ではなかった東京招魂社に対して、開拓使は溺死者を戦闘死とし、病死者を合祀対象にとする意向があった。一方現地(札幌)に「屯田兵招魂碑」の建立を計画し、その碑文には横死者1名を含めた37名全員の戦没者を記した。それが札幌護国神社の特性を生むことになった。 上記の慰霊に対する開拓使の意向は、陸軍とは異なる屯田兵の特殊性によるものであった。そして、その最も重要なポイントは、屯田兵は1兵士であると同時に「戸主」であった点にある。したがって、屯田兵士の死は戸主の死であり、屯田兵が一方で担う北海道開拓に大きな支障を来すものであったのである。 戦没した屯田兵士の慰霊とは、その名誉を顕彰することだけでなく、遺族への保護といった観点が含まれており、緒についたばかりの北海道開拓を確実に進めるためのものであったのである。
著者
Takao FURUKAWA Mariko NAKAZAWA Chikako MIURA Sakiho KAI Kaoru MORI
出版者
Japan Society of Kansei Engineering
雑誌
International Journal of Affective Engineering (ISSN:21875413)
巻号頁・発行日
pp.IJAE-D-19-00009, (Released:2019-12-13)
参考文献数
17
被引用文献数
2

To reveal the actual situation of luxury fashion products in the online market, this study sheds light on dynamic pricing observed from the difference between regular and selling prices. Regular price distributions indicated the prestige of luxury fashion brands, with traditional French and Italian brands appearing in a higher rank. Two emerging luxury brands also had a higher social status. This result suggests that the mobility of creative talents allows emerging brands to inherit the brand equity of traditional and prestigious brands. This paper also analyzed dynamic pricing strategy in luxury fashion products by category. The results revealed 67.4% of dresses were discounted with the large markdown ratio even for online luxury fashion stores, however, 69.1% of bags were sold at regular price. A time fluctuation model of product value to interpret the dynamic pricing difference between dresses and bags are also discussed.
著者
西野 卓
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.936-940, 2017-12-18 (Released:2018-01-10)
参考文献数
18

呼吸困難は異常な呼吸感覚であり,呼吸困難の発生には呼吸調節系で重要な役割を果たしているいくつかの感覚受容器が大きく関与している.受容器からの情報は延髄,視床を経由し,体性感覚野や大脳辺縁系に収束する.現段階で最も有力な呼吸困難の発生機序は,中枢-末梢ミスマッチ説あるいは出力-再入力ミスマッチ説と呼ばれている説であり,これらは中枢からの運動出力と神経受容器からの求心性入力に乖離あるいはミスマッチが存在する場合に呼吸困難感が発生するという説である.この説において,中枢からの運動出力は逆行性に大脳皮質感覚受容野に伝えられ,求心性入力には呼吸調節系に存在するすべての受容器からの入力が含まれる.
著者
春日 彩花 土田 宣明
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.184-198, 2016 (Released:2016-08-08)
参考文献数
11
被引用文献数
2 2

本研究の目的は, 大学(院)生が力学のプリコンセプションをどの程度有しているかを明らかにし, プリコンセプションから科学的概念への変容過程を検討することである。対象者67名に中学校で学習する力学課題を提示したところ, 多くの者が, 学校で教えられる「科学的概念」と不一致の概念を所持していることが確認された。この結果をもとに, Hashweh(1986)の概念変容モデルに沿って教材を作成し, 全問正答者を除く52名に提示した。概念の変容が比較的容易な課題(課題1)では, 提示された新情報と自分の考えを関連付けて整理する(関連付け)ことで, 科学的概念へ変容し得ることがわかった。一方, プリコンセプションが強固で概念の変容が難しい課題(課題2, 3, 4)では, 新情報に対して疑問を示す(懐疑)ことで受容しなかったり, 新情報を自分の考えと関連付けることでプリコンセプションの不整合には気付いたものの(関連付け), 新情報をそのまま取り入れず再解釈して, プリコンセプションを部分的に変化させたりした可能性が示された。また, 提示された「科学的概念」が他の現象も統一的に説明できることに注目しなかったために, 変容には至らなかった可能性も考えられた。
著者
板東 浩
出版者
日本補完代替医療学会
雑誌
日本補完代替医療学会誌 (ISSN:13487922)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.27-36, 2008 (Released:2008-03-12)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

現在,補完代替医療 (CAM) の一つとして音楽療法 (music therapy, MT) が注目されている.同療法には広義でレクリエーションなどを主とする音楽健康法と,狭義で治療の視点を有する狭義の音楽療法がある.セッションにより単に良くなったという判断は不十分で,何らかの評価法で改善したというエビデンスや効果の判定が必要となる.音楽を聴取する受容的音楽療法と,カラオケなどの歌唱や楽器演奏などを行う能動的音楽療法に大別される.対象者としては,小児や精神疾患患者,高齢者,認知症などがあり,本邦では高齢者対象の場合が多く,ニードが高い.高齢者では認知レベルや QOL, ADL の変化を評価し,療法の効果を判定すべきである.近年 MT と他の CAM との併用が行われ,行政の見地からも,展開する余地が残されている.今後は CAM の中で MT の重要性が増し,evidence-based MT ならびに narrative-based MT の両者で研究の発展が望まれる.
著者
大澤 博隆 今井 倫太
雑誌
ゲームプログラミングワークショップ2007論文集
巻号頁・発行日
vol.2007, no.12, pp.188-194, 2007-11-09

本研究では,シミュレーション上で実施されることの多い繰り返し囚人のジレンマゲームを人間のプレイヤ同士で行わせ,各エージェントの戦略を,実際の人間プレイヤ同士にプログラムさせることで,ゲーム上でのエージェントの戦略の変化を調べる.これにより,実際の人間同士の集団ゲームにおいて,人間がどのように戦略を変化させていくか分析した.本研究では Axelrod の初回の大会の条件を元に,囚人のジレンマゲームの条件を設定し,大学の授業の課題として,授業参加者 72 人の人間を対象とし,25 日間の実験を行った.その結果,Axerlod の初回の大会や,シミュレーションの結果と異なり,上位のものほど記述が複雑化する傾向が発見された.また複数のプレイヤ同士が協力する「主人−奴隷戦略」,上記の戦術に対する寄生戦略,自身の勝利を目指さず,他プレイヤを追い落とす戦略など,一見すると合理的でない,様々な戦略が確認された.
著者
古川 宇一
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.34-46, 1978-03-15 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
1 1

中部太平洋岸の小漁村における成人知的遅滞者の生活状況の特徴とその社会的背景について検討した。資料は知的遅滞者の家族・職場関係者、村人との面接資料、および関係事務所の文献資料である。世帯数371、カツオ・マグロ遠洋漁業を主産業とするこの村では、男子知的遅滞者は1人前に働きうる存在であり、就業し家庭を持っているものが多い。女子の場合、結婚するか、さもなくば次世代の家族に扶養されている。村人の態度は受容的であり、知的遅滞が問題になることは比較的少い。このような知的遅滞者の生活状況を支える社会的背景として、地域社会の主産業である漁業の技術的単純性、職場適応への良い教育環境、職場・地域社会における強い血縁的紐帯、漁業利益配分における古い平等原則の残存、世帯間の生活様式の類似性、家計収入面での利害の共有性、古くからのつきあいの緊密性、しつかりした家制度の残存などの要因が考えられた。
著者
小林 茂
雑誌
情報処理学会研究報告音楽情報科学(MUS)
巻号頁・発行日
vol.2001, no.82(2001-MUS-041), pp.9-14, 2001-08-04

1995年の登場以来、BeOSはマルチメディア処理に適したOSとして一部で高い評価を得てきた。しかし、残念ながら一般への普及度は低く、実際にどのようなことができるのかについてはあまり知られていないというのが実情である。BeOSはモダンOSの一つであり、よくデザインされたC++によるマルティメディア(ビデオ・オーディオ・MIDI)処理のためのフレームワーク・プリエンプティブなマルチタスキング・マルチスレッド・高性能な64bitジャーナリング機構付きファイルシステム、といった特徴を持っている。ここでは、リアルタイムのマルチメディア処理環境という視点からBeOSを紹介してみたい。