著者
大東 実里 星野 聡子
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
日本体育学会大会予稿集
巻号頁・発行日
vol.69, pp.102_3, 2018

<p> 「挑戦か脅威か」という認知的評価は自律神経に作用して心臓血管系応答を乱し、競技場面においてはパフォーマンスに影響を及ぼすと考えられる。スポーツパフォーマンスの予測可能性を自律神経系活動に求めることを目的として、本研究では、認知的評価と自律神経系活動の関係を心拍変動から検討する。剣道団体戦の代表戦場面というストレス事態下を想定し、等身大に提示した競技レベルの異なる対戦相手(High、Middle、Low条件)に対して有効打突を決めるイメージで対峙することを課題とした。自律神経活動は対峙5分間の心拍数および心拍変動スペクトル解析からLF成分(0.04~0.15Hz)とHF成分(0.15~0.4Hz)を、またLF/HF、LF/total、HF/totalによって評価した。その結果、相手の競技レベルが自身より高いと認知したHigh条件と低いと認知したLow条件では、自身の競技レベルと近いMiddle条件よりも交感神経活動の促進と副交感神経活動の抑制が示された。すなわち、認知的評価に伴う緊張や退屈による覚醒水準の推移に伴って、交感神経活動はU字を、副交感神経活動は逆U字を描くということが示唆された。</p>
著者
金杉 高雄
出版者
学校法人 天満学園 太成学院大学
雑誌
太成学院大学紀要 (ISSN:13490966)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.23-34, 2019 (Released:2019-06-04)
参考文献数
7

「何のために英語を学ぶのか?」という問いかけに対して,「グローバル時代だから,英語ができるようになっておかないといけないのではないか」等の漠然とした返答をよく耳にする。グローバル化の時代,文部科学省は将来のグローバル人材育成のための基礎を築く戦略の一つとして,2020年より小学校3・4年から外国語活動を,5・6年からは外国語科としての授業を義務づけている。すなわち,小学校5・6年からは教科としての「英語」が必修となり,教科書が選定され,英語の成績が成績表に記載される。英語の成績に関しては,明確な目的意識を持っているかどうか,が成功する者と失敗する者とを分ける鍵になる。例えば,自分の人生の目標を達成するためには英語ができるようになることが絶対に必要だ,という環境に置かれれば,英語の習得は成功するであろう。自分の人生の目標を見つけるため等と称して,とりあえず,語学留学してみようという漠然とした動機では失敗に終わる。また,英語さえできればそれで良い,というわけでもない。異なる文化,生活習慣,価値観を持つ人々との多文化共生の中でお互いを認め合いながら,共に生活することができる異文化間能力が我々に求められている。
著者
牲川 波都季
出版者
言語文化教育研究学会:ALCE
雑誌
言語文化教育研究 (ISSN:21889600)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.96-114, 2018-12-31 (Released:2019-05-12)

本研究は,外国人のグリーン・ツーリズム受入を成功させてきた,秋田県仙北市の農家 A夫妻を対象に,インタビュー調査からその他者認識の特徴を明らかにしようとするものである。ここで導出される他者認識の特徴は, A夫妻の成功の理由を示すとともに,外国人との接触や外国語・外国文化を学ぶ機会が限られていながらも,間近に外国人との出会いが迫った多くの日本人にとって,参照できる事例になりうると想定された。分析の結果,自らとは異質な存在であるからこそ,その他者と伝え合い出会い続けたいと願うという,他者認識のあり方が描き出された。ただしこの他者認識において,外国人であることに特別な重みは付与されていない。未知の一人ひとりと関係を作っていこうとする意志は,特定のカテゴリーを重視することからは生まれてこない。ここに外国人といった捉え方でない他者認識のあり方を育てることが,新たな言語文化教育の課題として立ち上がってくる。
著者
茂木 謙之助
出版者
特定非営利活動法人 頸城野郷土資料室
雑誌
頸城野郷土資料室学術研究部研究紀要 (ISSN:24321087)
巻号頁・発行日
vol.1, no.5, pp.1-24, 2016 (Released:2019-04-18)
参考文献数
7

戦前期の埼玉県秩父地方において、特権的な立ち位置をもった皇族に、昭和天皇の弟宮である秩父宮雍仁親王がいた。地域の名前を冠した皇族という存在と、それとの関係形成は、近代化の中で〈傷〉を負った地域としての秩父地方にとって、天皇(制)国民国家への参入のための階梯となっていた。また、同時代においては地域と秩父宮との関係性の深さが繰り返し語られていたが、それは地域や語りの主体の卓越化に直結するものであった。まさに〈僻地〉かつ過去に〈負〉の記憶を有する土地にとって、皇族は救済を齎す存在として在り得たのである。だが、秩父地方における皇族表象の特異性はそれだけにとどまるものではない。地域からの過剰な親密さは時として皇族の権威性を攪乱し、地域において生起していた秩父宮の神格化の進展は時として昭和天皇をも超越するような状況をも生んでいた。いわば皇族への過剰な寄り添いと、それをもととした皇族表象の生成は、結果として天皇(制)国民国家の規範を揺さぶるものともなっていたのである。
著者
正木 光 田中 一
出版者
一般社団法人 照明学会
雑誌
照明学会雑誌 (ISSN:00192341)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.234-239, 1963 (Released:2011-07-19)
参考文献数
11
被引用文献数
3 4

For the measurement of the extinction coefficient of light through the atmosphere, the layout of instruments on a large scale is usually needed. Methods to estimate the extinction coefficient σ or σλ by measurements with simple portable instruments and computations are studied.In the first method, targets shown in Fig. 3 are used and σ is estimated from the reduction of contrast and the known values of contrast threshold.In the second method a is obtained from the visual range of large dark objects.In the third method σ is estimated from the change of apparent luminance of natural objects with distance. The spectral extinction coefficient σλ is computed by equations (11) from the change of apparent colors, where σλ is assumed to be σo (λo/λ) n. Thereby electronic computation is applied and the solution is obtained graphically.Though high accuracy is not expected from these methods, a large number of data are easily obtained because of experimental simplicity and they can be applied to the discussion of visibility for the traffic safety.
著者
中村 卓 鵜沢 隆
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.4_99-4_106, 2012 (Released:2013-01-17)
参考文献数
25

レッド・ブルーチェアはG.Th.リートフェルト(1888-1964)によってデザインされた家具作品として現在も広く知られており、そのデザインは1918年頃に初めて制作されてから、形状・彩色等の異なる様々な作例が作られた。筆者は制作年代とデザインの異なる3つの作例(1918, 1921, 1935)の実測調査を行い、既に指摘されている架構の構成の特徴を問い直した。その結果、1:2の比率の矩形が架構全体を通して角材の架構の配置の基準として立体的に展開していることを指摘した。また実測調査した3作例を比較した結果、部材の寸法値はそれぞれで異なるが、角材の配置基準は一貫していた。そのため架構の構成は部材の形状差に柔軟に対応し得るシステムをその特徴としていることが明らかとなった。さらにこの特徴を考慮し、リートフェルトの他の代表的作品とレッド・ブルーチェアを比較した。その結果、レッド・ブルーチェアの特徴的な構成は後の作品の展開の上で、中核的な役割を果たしていたことが確認され、リートフェルトの家具作品の中でのレッド・ブルーチェアの重要性を指摘した。
著者
渡部 雪子 新井 邦二郎 濱口 佳和
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.15-27, 2012 (Released:2013-01-16)
参考文献数
38
被引用文献数
1

本研究は, 親からの期待の受け止め方を測定する尺度を作成し, 期待を感じる程度を統制した上で期待の受け止め方と内的適応との関連を検討することであった。研究1において, 積極的受け止め, 負担的受け止め, 失望回避的受け止めを含む3因子構造から構成される親の期待に対する子どもの受け止め方尺度(受け止め方尺度)が作成された。中学生383名のデータを分析したところ, 一定の信頼性と妥当性が確認された。研究2では, 中学生312名を対象として質問紙を実施し, 期待を感じる程度および交互作用を統制した上で親の期待の受け止め方と適応の関連を階層的重回帰分析を用いて検討した。本研究の結果から, 期待を感じる程度よりも期待の受け止め方が内的適応に対する説明力が大きいことが示唆された。積極的受け止めは, 自己価値といった適応を促進することが示され, 負担的受け止めは, 不機嫌・怒り, 抑うつ・不安, 無気力, 身体反応を含むすべてのストレス反応を促進する事が示された。
著者
酒井 潔
出版者
学習院大学
雑誌
東洋文化研究 (ISSN:13449850)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.326-356, 2014-03

Literature on Philosophy or the history of religion sometimes suggests that Leibniz's Monadology (1714) and Kegon-Gyô - also known as the Buddhist philosophical tradition introduced into Japan from China in the eighth century - present almost the same content in many respects. However, no text-orientated precise analysis of the theme was made until Toshie Murakami (1871-1957) wrote Raibunittsu-shi to Kegon-shû (Mr. Leibniz and Kegon\Buddhism) as his graduation thesis, originally presented to the Imperial University of Tokyo in 1896. The first and only contribution to the topic by Murakami, however, remained unknown until his paper was collected in Kegon Shiso (The Thought of Kegon), edited by Hajime Nakamura in 1960. At that point, for the first time, one realized the solid contribution Murakami had made not only to Leibniz Studies but also to Philosophy of East-West Dialog. Murakami concludes in his article that there is no difference between Leibniz's concept of "monad" and the Buddhistic idea of "Jijimuge"(事々無礙) or the doctrine of the Kegon school that every individual already comes out from itself and that, at the same time, it goes into each other without any barrier.
著者
長谷川 明紀
出版者
皇學館大学文学部 ; 2009-
雑誌
皇學館大学紀要 = Bulletin of Kogakkan University (ISSN:18836984)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.186-158, 2017-03

醍醐寺蔵『諸経中陀羅尼集』の最初に掲載されている法華経陀羅尼と『法華経山家本』の法華経陀羅尼は、慈覚大師点本に由来するとされているので、両本における漢字加点が比較検討された。仮名、声点に加えて、ダッシュ(-) 印が醍醐寺本における加点に含まれる。このダッシュ印は、悉曇文字一字が漢字二文字を用いて音訳される場合、この漢字間に導入されていると結論された。 陀羅尼では、上声および去声の声点は、悉曇字に従ってそれぞれ短音および長音を識別する記号として代用されることが知られている。これら両本での声点を比較して、『法華経山家本』の声点の幾つかは時代の経過につれて変化しているものの、両本は慈覚大師を源流とする事を示す多くの共通した特徴をもつことが明らかにされた。 Since Lotus Sutra dhāran・īs in the first set of "A Collection of Dhāra n・īsin Sutras " stored in Daigo-ji Temple and contained in "The Hokekyo Sangebon " are believed to have their origins in a text of Jikaku Daishi(Ennin), the guiding notes added beside the kanji of the dhāran・īs were compared between these two texts.In addition to kana and accent marks, dash (-) marks are involved in the guiding notes in the Daigo-ji text. Each of the dash marks was concluded to be introduced between the two kanji into which a single original siddham・ script was transliterated.In dhāran・īs, the accent marks of jyosho (high pitch) and kyosho (rising pitch) are known to be substituted for the marks distinguishing between short and long sounds, respectively, according to the siddham・ scripts. The comparison of the accent marks between the two texts leads us to the conclusion that both texts have many common characteristics suggesting the origin from Jikaku Daishi, while some of the accent marks in "The Hokekyo Sangebon " were subject to alteration in the process of time.