著者
髙橋 裕子
出版者
ジェンダー史学会
雑誌
ジェンダー史学 (ISSN:18804357)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.5-18, 2016

<p>本稿では、2015年12月に開催されたジェンダー史学会年次大会シンポジウム「制度のなかのLGBT- 教育・結婚・軍隊」での報告を纏めるとともに、セブンシスターズの5女子大学が女子大学としての大学アイデンティティを重視しながらも、もはや「女性」という「性別」を一枚岩的に捉えることができなくなってきた現状を紹介する。さらに、とりわけ誰に出願資格があるのかを決定する判断の背景にある、女子大学自体の大学アイデンティティの問題を考察しつつ、2014年から15年にかけて発表された新たなアドミッションポリシーを概観した。この問題は、いわば21世紀に女子大学が直面しているもう一つの「共学」論争とも言える。20世紀後半に経験した「共学」論争との違いはどこにあるのか、その点にも着目しながら、性別二元論が女子大学における入学資格というきわめて現実的な問題としてゆらぎをみせていることとともに、米国における今日の女子大学の特色をあぶり出すことを試みた。</p><p>トランスジェンダーの学生や、ノンバイナリーあるいはジェンダー・ノンコンフォーミングというアイデンティティを選び取る学生が増えていることは、女子大学が、「常に女性として生活し、女性と自認している者を対象とする」高等教育機関であるとあえて明示しなければならなくなったことに反映されている。それにも拘わらず女子大学のミッションが、すなわちその必要性や存在意義がよりいっそう強く再確認されていることに注目した。女性が社会で、そして世界で、多様な分野で参画できる力と自信を、大学時代に身に付ける場として、女性がセンターに位置づく経験をする教育の必要性が、このトランスジェンダーの学生の受け入れを巡ってのディスカッションを通していっそうクリティカルに再確認されたとも言える。</p><p>大学教育という実践の場において、ジェンダー的に周縁に位置するセクシュアルマイノリティの学生をめぐって、アドミッションポリシーを文書化し、具体的に「女子大学」と名乗るのかどうか、さらには「よくある質問(FAQ)」で「女性とは誰のことなのか」という質問に詳細にわたって回答し、ジェンダー的に流動的な(gender fluid) 学生に対応しているこの局面に、21世紀のアメリカにおけるセブンシスターズの女子大学が果たしている新たな先駆的役割を見て取れる。</p>
著者
橋塚和典 神原誠之 萩田紀博
雑誌
研究報告コンピュータビジョンとイメージメディア(CVIM)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.25, pp.1-6, 2014-01-16

拡張現実感 (AR) は,現実物体へ直観的な情報提示が可能であることから,作業習得のための教示への応用が期待されている.本研究では,単純な作業の繰り返しであるルービックキューブの解法の習得を目的とした AR を利用した教示システムを提案する.本稿では,作業中の手などの隠蔽に対して,ルービックキューブの形状と色情報を利用した物体の追跡による頑健なルービックキューブの位置姿勢の実時間推定手法,および,推定した結果を用いた,ユーザに解法を記憶し理解させること目的とした情報提示法を提案した.実験では,手による隠蔽が発生した画像での位置姿勢推定実験を行うと共に,実際にルービックキューブを解く教示実験を行い提案手法の有効性を示す.
著者
網岡 尚史 渡邊 敦之 大塚 寛昭 赤木 達 麻植 浩樹 中川 晃志 中村 一文 森田 宏 小谷 恭弘 新井 禎彦 笠原 真悟 佐野 俊二 伊藤 浩
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.49, no.SUPPL.1, pp.S1_110, 2017-08-28 (Released:2018-08-28)

症例は17歳男性.4年前より運動時に胸痛,失神を認め,症状は増悪傾向であった.他院にて電気生理学的検査まで含めた諸検査を施行するも原因不明であり当院に紹介,入院精査となった.入院時に施行したトレッドミル負荷試験にて心電図上,aVRにST上昇が出現,補充調律に移行,また著明な血圧低下,胸部絞扼感,前失神症状を呈した.冠動脈の器質的異常を疑い冠動脈CTおよびCAGを施行したところ左冠動脈は右冠尖起始であり,主幹部は大動脈と肺動脈に挟まれ圧迫,変形していた.失神の原因は左冠動脈圧排による虚血と診断し心臓血管外科に紹介,手術加療の方針となった.冠動脈起始異常は臨床上,しばしば認められる先天的異常であるが,若年者の突然死の原因ともなり得る.若年者における繰り返す失神の一因として冠動脈起始異常は考慮すべきと考えられ,啓蒙的に報告する.
著者
濡木 理 伊藤 耕一 MATURANA ANDRES 加藤 英明 石谷 隆一郎
出版者
東京大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2016-04-26

光感受性チャネル:光駆動性カチオンチャネルであるチャネルロドプシンは励起光(480nm青色光)の照射によってイオンを流入させることができるため、「光遺伝学」と呼ばれる手法のツールとして神経生物学の分野で広く用いられている。平成28年度にはこのチャネルロドプシンのイオン流入の分子機構を明らかにするため、SACLA自由電子レーザーを用いた時分割構造解析を行い、励起光照射した後1, 50, 250, 1000, 4000マイクロ秒後における構造変化を明らかにした。その結果、発色団レチナールにおけるall-trans型から13-cis型への異性化に伴ってチャネルロドプシン内部に構造変化が生じ、イオン透過経路におけるinner gateと呼ばれる狭窄部位が広げられるように変化することがわかった。音感膜タンパク質:Transmembrane channel-like protein1/2 (TMC1/2) は,聴覚や平衡感覚の受容に関わる機械刺激受容チャネルの有力候補である.鳥類や爬虫類に由来するTMCホモログの発現・精製に成功し,熱安定性が向上して均一性高く発現するコンストラクトの同定に成功した.現在ネガティブ染色による電子顕微鏡観察を試みている.ニワトリ由来Prestinに関しては,さらにコンストラクトの改変および発現・精製系の検討を行った結果,細胞質ドメイン欠損変異体について大量かつ均一に精製することに成功した.これと並行して,ヒト由来Prestinのクローニングも新たに行い,さまざまな細胞を用いての発現条件の検討を行った結果、HEK293S細胞にて良好な発現が確認された.この発現系を用いて界面活性剤や緩衝液などの可溶化条件の検討および120種以上のコンストラクトの比較検討を行った結果,熱安定性が向上して均一性高く発現するコンストラクトの同定に成功した.
著者
やまだ ようこ
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.146-161, 2000
被引用文献数
7

この論文では, 最近のライフストーリー研究を展望し, 特に生涯発達心理学の観点から, 理論的・方法的問題を論じる。第1に, 「物語」は「2つ以上の出来事をむすびつけて筋立てる行為」と定義される。人生の物語とは, 意味づける行為であり, 人生経験の組織化である。第2に, 人生の物語は, 静態的構造ではなく, 物語の語り手と聴き手によって共同生成されるダイナミックなプロセスとしてとらえられる。特に, 物語の「語り直し」は, 人生に新しい意味を生成する行為として重要だと考えられる。私たちは, 過去の出来事を変えることはできないが, 物語を語り直すことによって, 過去の出来事を再構成することが可能になるからである。第3に, 「物語としての自己」の概念は, アイデンティティやジェネラティヴィティ(生成世代性)の概念と関連づけられる。人生の物語を語ることは, 現世代から, 次の世代や未来世代へのコミュニケーションの重要な道具となる。
著者
Fumitaka TAKAHASHI Shigenori KOUNO Shinya YAMAGUCHI Yasushi HARA
出版者
JAPANESE SOCIETY OF VETERINARY SCIENCE
雑誌
Journal of Veterinary Medical Science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
pp.17-0553, (Released:2018-12-24)
被引用文献数
1

This study investigated cerebral ventricle size and concurrent craniocervical junction abnormality in relation to atlantooccipital overlapping (AOO) in dogs with atlantoaxial instability (AAI). A total of 61 dogs were treated with atlantoaxial ventral fixation. Medical records of each dog, including magnetic resonance (MR) and computed tomography (CT) images, were retrospectively reviewed. CT images were assessed for the presence of AOO and the dogs were then assigned to either an AOO group or a non-AOO group accordingly. CT images were also evaluated to determine the foramen magnum (FM) index. Syringomyelia, cerebellar compression, dorsal compression, and the degree of enlargement of each cerebral ventricle were evaluated using MR images. Of the 61 dogs, 23 had AOO and 38 did not. Furthermore, the ventricle/brain height ratio, the fourth ventricle height/cerebellum length ratio, and the fourth ventricle width/cerebellum length ratio were significantly higher in the AOO group than in the non-AOO group. However, the FM index, third ventricle/brain height ratio, and incidence of syringomyelia did not differ significantly between the two groups. Dogs with concurrent AOO exhibited significantly more dilatation of the lateral and fourth ventricles.
著者
松山 惇 渡辺 学 林 憲一朗 江澤 真 清澤 功 長澤 太郎
出版者
japan association of food preservation scientists
雑誌
日本食品低温保蔵学会誌 (ISSN:09147675)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.24-29, 1993-03-30 (Released:2011-05-20)
参考文献数
20

80℃, 30分間殺菌した豆乳にLactobacillus bulgaricus, Streptococcus thermophilusおよびBifidobacterium longumを混合接種して調製した発酵豆乳および発酵植物油添加豆乳ならびに市販プレーンヨーグルトを10日間冷温保蔵 (5℃) し, 48時間ごとにpH, 酸度, 乳酸菌およびビフィズス菌の生菌数およびホエー量を測定した。発酵豆乳および発酵植物油添加豆乳では, 日数の経過とともにpHは低下し, 酸度が上昇した。乳酸菌数は, いずれも減少傾向を示したが, 10日間保蔵で生菌数107以上を確保することができた。また, B.longumは, 10日間保蔵で108の菌数を保持した。ホエー量は, 保蔵日数の経過とともに, いずれもわずかに増加したが, ヨーグルトより少なかった。次に, 殺菌温度 (80℃, 90℃, 100℃, 30分間および121℃, 15分間) の異なる豆乳を用いて, 発酵豆乳および発酵植物油添加豆乳を調製して冷温保蔵した。その結果, 90℃, 30分間加熱の発酵豆乳は, 0日目のpHが最も高く, 酸度が最も低かったが, 冷温保蔵時にはその変化が, 最も大きかった。生菌数は, いずれの殺菌温度で冷温保蔵によって減少傾向を示したが, 10日間冷温保蔵で107以上を保持した。ホエー量は, いずれの発酵豆乳も殺菌温度が低いほど多かったが, ヨーグルトより低値であった。なお, 植物油添加の有無による差異はとくに認められなかった。

2 0 0 0 OA 政事要略

著者
惟宗允亮 [著]
出版者
巻号頁・発行日
vol.[1],
著者
川那部 浩哉 森 主一 水野 信彦
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.22-26, 1957-05-31 (Released:2017-04-08)

A dense population of a salmon-like fish, Plecoglossus altivelis, or Ayu in Japanese, is found in the River Ukawa in the north-western part of Kyoto Prefecture. We have been studying the ecology of this fish from various viewpoints since 1955. This report concerns the change of the modes of utilizing the river-pools, which we observed during the course of our study. As we have already reported (KAWANABE, MIYADI, MORI, HARADA and OHGUSHI, 1956), there can be distinguished two kinds in the life of Ayu in pools, which are related to the topographical characteristics of the river-pools as well as to their adjoining riffles, i.e., using the pools as both feeding and resting places or as shelters only. By our recent observation it was discovered that the modes practically taken by Ayu might be changed according to population density. The population of Ayu by our estimation in 1956 was far less than that of 1955 (about one-sixth). The decrease in population in 1956 was far greater in the river-pools (about one-tenth of 1955) than in the riffles (about one-fourth of 1955). In 1956,when the density of Ayu in the river was low, the pools were utilized chiefly as shefters or resting places in the night-time, and the fish used to take their foods in the daytime in the adjoining riffles, where they could find better and richer food materials in the form of algae attached to stones than, in the pools. On the contrary, in 1955,when the density was high, the pools were utilized as feeding places as in the case of the riffles ; so, some individuals were found staying and feeding there both in the daytime and at night.
著者
川那部 浩哉
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.131-137, 1957-12-31 (Released:2017-04-08)
被引用文献数
2

A dense population of a salmon-like fish, Plecoglossus altivelis, or"Ayu"in Japanese, is found in the River Ukawa on the Japan Sea coast of Kyoto Prefecture. Members of our research group have been studing the ecology of this fish from various viewpoints since 1955. This paper concerns the change of the social behaviour and the mode of production. As already reported by our group, the common habit of this fish is territorial in the river-rapids and schooling in the river-pools. But on certain occasions, it shows no territorial behaviour, even in the river-rapids. By my recent observation, the social type of this fish appears to change with reference to the population density, and this change is accompanied by the difference in the body-length distribution. Five types were recognized in its social behaviour : schooling, solitary travelling, non-territorial solitary residential, solitary territorial and aggregated. The schooling is a social type in which all the members of a group show common behaviours, swimming in the same direction and feeding in similar manner. Solitary traveller is an independent passenger, having no home, but it may be united with a school or may be separated again. Non-territorial resident is a solitary dweller having its own range but does not show the territorial or attacking behaviour to the nearby individuals. In the territorial solitary type each fish has its own territory. An aggregation means that its members are aggregated within a certain area but do not show the common behaviour, and this type of behaviour is observed when they are resting or sleeping. The population of this fish, by our estimation, was far less in 1956 than in 1955(about one sixth), and the social relationship seemed to have been influenced by it. In 1955,when the density was high, most fishes showed the schooling behaviour and the territorial ones were very scarce. On the contrary, in 1956,when the density was low, many fishes behaved as settled solitaries and territorial individuals were not scarce. The stability of the school and the territory differs according to the change of population density. In the high density, the schooling is the common and more stable behaviour type of this fish and no difference is seen in the bodylength between the schooling and terrtorial ones. In the low density, however, the territorial behaviour is more stable, and there occurs a difference in the body-length, i.e. the territorial fishes are much larger than the schooling ones. In the case of the social structure in which the fishes are stabilized with territoriality, the growth of the non-territorial fishes seems to be checked because the latter cannot invade the bottom of the first class, which is defended by territorial fishes.
著者
川那部 浩哉
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.144-151, 1970-08-01 (Released:2017-04-11)

The immigration number from the sea in spring, and population density, body-length distribution and social behaviour during the settling season (summer) of the Ayu-fish (Plecoglossus altivelis) were investigated from 1955 to 1969 in the River Ukawa. The population density varied between 0.03 and 5.5 indiv./m^2,but the natural mortality from spring to summer was stable being about a half to onethird. It was confirmed that the social behaviour was changed by its population density and that the growth was not limited directly by algal production but mediated by its own social structure. When overall population density was about four times to that the all fish had their own territories, territorial structure was established only in certain types of river-bed. The difference resulted from the relation between the value of the feeding or resting site and its closedness against the invasion of non-territorial ones. Territorial structure of Ayu had probably evolved as a self-regulatory process but was not so distinct as at the present time.
著者
永澤 美保
出版者
麻布大学
巻号頁・発行日
2008-03-15

犬との関わりが人にもたらす恩恵は、医療や福祉、教育など様々な分野において注目されているが、人と犬との関わりがなぜ人の心身に影響を与えるかについてはいまだ明らかではない。 犬によってもたらされる効果の機序を明らかにするためには、他の動物種には見られない犬の特異性に注目したうえで、実際の行動上の相互交渉に基づいた両者の関係性から客観的に判断する必要がある。 本研究では、人の母子間の絆の形成を説明する「アタッチメント理論」(Bowlby, 1969)に基づいて、犬との関わり方と飼い主の心身への影響との関連を明らかにすることを目的とした。アタッチメントは、子の生存確率や養育者の適応度を高めるための行動制御システムであると説明されており、子の養育者との近接を維持するための行動(アタッチメント行動)への養育者の対応の仕方が両者間の絆の形成に関連しているともいわれている。さらにラットやサルなどでは、絆の形成された対象の存在によって生理的変化が生じることが明らかにされている。 一方、犬は家畜化に伴って、人に対する社会的な認知能力が向上したといわれている。特に視覚による認知能力は、類人猿などに比べ、より人間に近い優れたものがあり、人との関係における犬の特性として注目されている。 そこで、人の母子間において、特に重要なアタッチメント行動といわれている「注視」に焦点をあてた。第1章では、「犬の視覚的行動がアタッチメント行動として作用し、飼い主の犬に対する養育行動を促進することで、飼い主の心身へ影響がもたらされる」という仮説を検証するために、犬の飼い主に対してアンケート調査を行った。その結果をふまえ、第2章では、飼い主と犬の交流時の行動を観察し、犬の「注視」が飼い主の心身の状態と関連があるかどうかについて検討した。さらに第3章では、その関連が「アタッチメント行動」から発したものであるかどうかを、内因性物質の変化に注目し、客観的に評価した。第1章 「犬の視覚的行動」と人から犬への愛着との関連【目的・方法】 犬の視覚的行動がアタッチメント行動として飼い主に認識され、心身の健康に影響を与えているかどうかについて調べるために、犬の飼い主および犬の飼育経験者(n=771)を対象にアンケート調査を行った。質問内容は、犬の視覚的行動に対する飼い主の意識と、犬への愛着の程度、犬の飼育状況、飼い主の飼育経験等であり、心理尺度への回答も求めた。【結果・考察】 アンケートの結果を重回帰分析したところ、犬の視覚的行動に対する飼い主の意識、犬への愛着、心理尺度、健康状態との間にそれぞれ有意な標準回帰係数が得られ(R^2=.09, p<.001)、飼い主が犬の視覚的行動を意識することと、犬に対して感じる愛着の程度に関連が見られ、人生や人間関係等に対するポジティブな感情をもたらすが示唆された。年代別では、23~39歳の群には関連が見られず、40~64歳の群と65歳以上の群に有意な結果が見られ(40~64歳:R^2=.15, p<.001, 65歳以上:R^2=.12, p<.001)、特に65歳以上の高齢者群では項目間で強い因果関係が見られた。犬への愛着の程度が飼い主の心身の健康に与える影響は、年齢層が高いほどその効果が期待されることが示唆された。この結果は、年齢や過去の飼育経験が現在の飼い主の精神的健康状態に影響を及ぼすこと(Nagasawa & Ohta, 2007)と一致した。 しかし、犬の視覚的行動と犬への愛着の程度はともに「犬のしつけの程度」と関連が見られたため(ともにp<.001)、犬への愛着や飼い主のポジティブな感情が本来の意味でのアタッチメントによって喚起されたものなのかどうかについて、さらに検討が必要となった。Nagasawa & Ohta(2007). The influence of the experiences of dog-ownership in the past on the present mental health of the elderly men.The 11th International IAHAIO Conerence, p.192.第2章 「犬からの注視」が飼い主の心身の健康に与える影響【目的・方法】 飼い主と犬との交流時に、実際に犬から飼い主へ向けられる注視行動が、飼い主の心身の状態に影響を与えるかどうかについて検討した。また、第1章で示された結果が、犬からのアタッチメント行動が飼い主に対して機能したことによるのか、あるいは、犬のトレナビリティ(trainabiliy)によるものなのかという課題についても検証を行った。実験室内において、飼い主(n=70)と犬に対し、基本的な指示を与え、また遠隔指示によるスラロームの課題を出し(実験1)、それを達成する過程での相互行動を観察し、各行動や課題の達成率と、飼い主の唾液中クロモグラニンA(CgA)、血圧・心拍数、心理尺度の実験前後の変化との関連を調べた。さらに同じ条件で課題を提示しない場合(実験2)との比較も行った。【結果・考察】 飼い主と犬との間に見られる交流のタイプによって群分けするために、「犬から人への注視時間」、「犬から人への接触時間」、「人から犬への接触時間」と「成功所要時間/回」の4項目に対して主因子法による因子分析を行った。得られた因子によってクラスター分析を行い、犬からの注視時間の長い「注視」群、注視、接触時間がともに低い「低交渉」群、人と犬の双方からの接触時間の長い「接触」群の3群に分け、反復測定分散分析を行ったところ、注視群は、精神的な負荷による交感神経の活性を反映するCgAの値の上昇が見られず、それに対し、接触群は実験後のCgA値が有意に高く(p<.001)、心理尺度の結果、不安度も高かった(p<.05)。血圧・心拍数は有意な差が見られなかった。実験2では、接触群のCgA値が実験1と比較して有意に低くなっていた(p<.001)。また、実験後に実施した心理尺度の結果から、注視群は生きがい感が高く、友人から社会的支援を受けていると感じている程度も有意に高くなっていた(生きがい感:p<.01, 友人からの支援:p<.001)。 以上の結果から、人と犬の双方からの接触が多い群はCgA値の上昇が見られ、不安度も増したのに対し、犬からの注視の長い群は本実験では飼い主に精神的な負荷をかけることなく、人と犬との間でスムーズなコミュニケーションを図ることができたと思われた。しかし、課題達成時間が注視群間で有意に短いこと(p<.05)と、犬のしつけの程度が高いほど達成時間も短いこと(rs=-.47,p<.05)から、本実験のCgAの反応は犬からの注視がアタッチメント行動として機能した結果ではなく、犬のトレナビリティに起因するものである可能性を排除できなかった。第3章 「犬からの注視」とアタッチメントとの関連~飼い主の尿中オキシトシンによる検証~【目的・方法】 「犬からの注視」と飼い主が感じるアタッチメントとの関連を正しく評価するために、飼い主(n=55)の尿中オキシトシン(OT)とCgAを用いて実験を行った。実験では、飼い主と犬の30分間の交流の中での、犬からの注視時間の長さと飼い主の尿中のOTおよびCgAの交流前後の変化との関連を見た(実験1)。また、実験中に見られた飼い主と犬との相互のやりとりを1バウトとして、各バウトがどの行動から始まったかで分類したものも解析に使用した。実験前後の気分の変化はPOMS短縮版によって測定した。さらに、飼い主が「犬からの注視」を認識できる場合とできない場合で、実験前後のOT値の変化に違いが見られるかどうか調べた(実験2)。実験2では、飼い主に壁を向いて座ってもらい、犬からの注視を直接認識できないようにし、それ以外は実験1と同じ条件で行った。【結果・考察】 事前に行ったアンケートの回答と実験中に観察された犬からの注視時間を用いて、クラスター分析を行い、飼い主を「高注視」群と「低注視」群の2群に分けて、反復測定分散分析を行った。 実験1では、高注視群の交流後のOT値が低注視群よりも有意に高くなっていた(p<.05)。また、高注視群では、OT値の実験後の上昇と犬からの注視で始まるバウト数との間に有意な高い相関が見られた(rs=.74, p<.01)。犬の注視を認識できない設定の実験2では、高注視、低注視群ともに、有意なOT値の変化は見られなかった。一方、CgA値はどの条件でも有意な変化はみられなかったが、高注視群のほうが低い傾向がみられた。しかし、高注視群において、犬からの注視時間とCgA値、POMS(緊張・不安度)得点の間にそれぞれ有意な相関が見られた(CgA:rs=.65, p<.05, POMS:rs=.66, p<.05)。 以上のことから、犬からの注視時間が長い群の方が、OT値が上昇することと、犬からの注視で始まるやりとりが多いほどOT値が上昇すること、飼い主による「犬からの注視」の認識を遮ることによってOT値が減少することが示され、「犬からの注視」がアタッチメント行動として飼い主に対して機能している可能性が示された。また、OT値の動向と年齢や性別等との関連についても新たな結果が得られた。一方、注視時間が長いほどCgAや緊張度が上昇することから、OTとCgAとでは、それぞれアタッチメントの異なる側面を表していることが示唆された。まとめ 本研究は犬の何が、どのようにして人の心身に影響を及ぼすのか、その一端を明らかにすることができた。犬から飼い主に向けられる「注視」は視覚によるアタッチメント行動として飼い主に認識され、その結果、飼い主の精神状態に変化をもたらすことが示された。動物は種特異的なアタッチメント形態を持つといわれているが、本研究では人と犬とがアタッチメントにおいて共通の基盤を持つ可能性が示され、なぜ、犬がこれほどまでに人社会に溶け込むことができたのかという疑問の解明につながると考えられる。さらに、それぞれの飼い主と犬とが固有の関係を持つことや、犬が人の健康にもたらす効果に差が生じることを説明する上で、「視覚的アタッチメント行動」は明確な指標となりえると考えられる。 また、本研究で測定した尿中OTは、人の内的変化を客観的に評価できるものとして、その有用性は高い。従来、動物とのふれあいによる効果は、コルチゾールやカテコラミンによって、ストレス反応を軽減させる「緩衝作用」として評価されてきたが、愛情や親和的情動等ポジティブな効果の評価には適切とはいえない。OTは、社会的な接触によって分泌が促進される等、個体間の関係性に関するポジティブな評価が可能であり、本研究では30分間という短い犬との交流でも、その影響が尿中OTに反映された。今後、人と動物との関わりを評価する際の重要なパラメータとなりうるであろう。
著者
山下 留理子 荒木田 美香子
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.39-49, 2014 (Released:2015-01-13)
参考文献数
25
被引用文献数
2

目的:特定保健指導における保健指導の技術の経験,自信,修得意思について,保健師と管理栄養士で相違を明らかにし,両職種の技術の向上につながる研修への示唆を得ることである.方法:全国の自治体及び保健指導実施機関で保健指導に従事する保健師,管理栄養士(1,758人)を対象に横断調査を実施した.49項目の保健指導の技術の経験,自信,修得意思の程度と研修の参加状況等について,郵送による無記名自記式質問紙調査で尋ねた.有効回答率は40.8%で保健師503人,管理栄養士215人を分析対象とした.技術項目ごとにMann-WhitneyのU検定,χ2 検定,t検定を用いて,職種間で比較検討をした.結果:管理栄養士の方が「経験が少ない」と回答した割合が高かったものは,49項目のうち20項目あった.「健診・保健指導事業の企画・立案・評価技術」の領域で,すべての技術において経験が少なかった.保健師の方が「自信なし」と回答した割合が高かったのは,「栄養学および食事摂取基準,関連学会ガイドラインの食事療法を理解して活用する」等16項目であった.また,保健師の方が「経験は多いが自信なし」と回答した割合が高かった技術は19項目あった(p<0.05).結論:保健師と管理栄養士の保健指導の技術において,経験,自信,修得意思に職種間の相違がみられた.また,保健師の方が経験は多いが自信がないと回答した技術項目が多かった.
著者
本田 雅文 牛見 宣博
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
ロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集 2018 (ISSN:24243124)
巻号頁・発行日
pp.2P1-A13, 2018 (Released:2018-12-25)

For home robots, functions such as support, dialogue, guidance, and hospitality with human beings are expected while safely moving in coexistence environments of the human being, such as home environments or the like. However, there arise problems concerning hugging on the home robot and falling down of the home robot accompanying it. This paper develops a standing up mechanism during falling down as a wheeled home robot function capable of smooth service.