- 著者
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杉浦 直
- 出版者
- 東北地理学会
- 雑誌
- 季刊地理学 (ISSN:09167889)
- 巻号頁・発行日
- vol.67, no.1, pp.1-21, 2015 (Released:2015-08-01)
- 参考文献数
- 20
本稿は,ロサンゼルスの日系エスニック・タウン,リトルトーキョーの変容過程を,再開発による建物・施設の新築・修復など実体的過程及びパブリックアート創造など表象的過程の両面に着目して検討し,その構造的本質を考察したものである。リトルトーキョーは,1970年から始まった都市再開発事業によって,1994年段階までに28のプロジェクトが完了し,住宅,ホテル,商業用オフィス・スペース,小売り商業用スペースなどが整備された。1995年以降はやや再開発の速度が停滞したが,4棟の大型集合住宅が建設され,近傍の民間開発と合わせて居住機能が強化された。また,パブリックアート創造など表象的事業が再開発過程に組み込まれ,現在多数のパブリックアート,記念碑,ロゴマーク,バナー等が域内に存在して一大表象空間と化している。このような変容動向をエスニシティの観点から見るとき,脱日系,マルチエスニック化への方向と日系エスニシティの維持・強化への方向との2つの異なったベクトルが指摘できる。この両者の関係は,「空間的ストレス─シンボル化」モデルから解釈され,さらに抽象化すれば「想像された空間」と「生きられた場所」との弁証的相克として理解される。