著者
窪内 郁恵 薦田 昭宏 橋本 聡子 川口 佑 中谷 孝 中島 利博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0489, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】線維筋痛症(Fibromyalgia;以下FM)は,3カ月以上持続する原因不明の全身痛を主症状とした,精神・自律神経系症状を伴う慢性疼痛疾患である。中高年の女性に多く,日本では推定200万人以上の患者がいるとされている。経頭蓋磁気刺激法(Transcranial magnetic stimulation;以下TMS)は,磁気エネルギーを媒体として,頭蓋骨の抵抗を受けずに大脳皮質を刺激することができる治療法である。反復性経頭蓋磁気刺激法(Repetitive TMS;以下rTMS)は,アメリカ食品医薬局(Food and Drug Administration;FDA)より薬物治療抵抗性うつ病への治療的使用が承認され,線維筋痛症診療ガイドライン2013でも推奨されている。副作用は非常に少なく,安全性が高いと言われている。今回FM例に対してrTMSを施行し,施行前後の痛み・心理面の経過を追ったので報告する。【方法】対象はFMにて当院フォロー中の症例で,12例中rTMS治療の全過程を終了した9例である。内訳は,入院対応4例,外来対応5例,平均年齢44.7±13.9歳,全例歩行自立レベルであった。ACR2010線維筋痛症予備診断基準(Fibromyalgia activity score 31;以下FAS31)は平均総得点18.6±5.8点,平均広範囲疼痛指数(widespread pain index;以下WPI)11.6±4.8点,平均症候重症度(symptoms severity score;以下SS)7±1.3点であった。除外項目は,rTMS装置の絶対禁忌・相対禁忌である人工内耳,頭蓋内金属使用などの開頭手術歴,てんかんの既往,人工ペースメーカーなどとした。rTMS装置は,NeuroStar(Neuronetics社製)を使用し,左前頭前野に10Hzの高頻度刺激を行った。標準治療時間は4秒間刺激,26秒間休息の繰り返しで約40分,これを週3~5回,合計30回施行した。評価として,痛みの部位はWPI,強度はVisual Analog Scale(以下VAS),質は神経障害性疼痛重症度評価ツール(Neuropathic Pain Symptom Inventory;以下NPSI),認知・心理面においては痛みの破局的思考評価であるPain Catastrophizing Scale(以下PCS),不安・抑うつのHospital and Depression Scale(以下HADS),生活の質(quality of life;以下QOL)は日本語版線維筋痛症質問票(Japanese fibromyalgia impactquestionnaire;以下JFIQ)を評価し,経過を追った。全て自己記入式で,rTMS施行前,施行10回毎に評価した。統計学的処理は対応のあるt検定,一元配置分散分析を用い,有意水準5%未満とした。【結果】FAS31の総得点,WPI,SSでは,rTMS施行前,施行10回,20回,30回で有意差を認めなかった。VASにおいては,rTMS施行前と施行20回,30回で有意差を認めた。NPSIの総得点では施行間の有意差を認めなかった。PCSは総得点,下位項目3つとも有意差を認めなかったが,継時的な減少を認めた。HADS,JFIQにおいても,有意差は認めなかったものの減少傾向を認めた。【考察】慢性疼痛例は,健常例と比較して前頭前野の活動が乏しく,下行性疼痛抑制系機能が減弱状態であると考えられている。今回,VASにおいてrTMS施行前と施行20回,30回で有意差を認めたことから,前頭前野を活性させることで,痛みの関連組織である扁桃体,前帯状回,島などの活性も促通することができたと推察する。またPCS,HADS,JFIQにおいても,有意差は認めなかったが改善がみられ,rTMSが認知・心理面やQOLの向上に繋がる因子になったのではないかと考える。しかし痛みの悪循環を示す恐怖・回避モデルと照らし合わせると,痛みに対する無力感,自宅生活だけでなく就労などにおける社会への適応に対しても,さらなる評価・検討が必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】FM例などの慢性疼痛疾患は,感覚的痛みに加え情動・認知的痛みの要素が大きく関わってくる。rTMSは副作用が少なく,磁気刺激によって痛みの関連領域を含めた脳の活性を図ることができると本研究で示唆されたため,今後のFM治療への有効性が考えられる。
著者
久留 一郎
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.136, no.6, pp.325-329, 2010 (Released:2010-12-06)
参考文献数
13
被引用文献数
2

高尿酸血症は高血圧患者の心血管事故の危険因子であることが報告されている.その原因として尿酸トランスポーターの役割が注目されている.尿酸トランスポーターURAT1は腎での尿酸再吸収を担い血清尿酸値を規定する分子であるが,近年URAT1が腎のみならず,血管や脂肪細胞に発現し尿酸を細胞内に取り込み細胞内レドックスの異常を惹起して血管の炎症やアディポサイトカインの分泌異常を惹起する.この事実は高尿酸血症による臓器障害は細胞内尿酸濃度の増加によると考えられる.一方で低すぎる血清尿酸値も相対的な酸化ストレスの増大が血管の攣縮を来して,腎不全のみならず心血管事故に関与する可能性が示されている.高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインに沿った高尿酸血症合併高血圧の管理が重要である.
著者
鈴木 誠 松嶋 敏泰 平澤 茂一
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:03875806)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.1-11, 2000-01-15
参考文献数
19
被引用文献数
1

人工知能(AI)における不確実性を含む推論の分野では,1980年代にBelief Network(BN)がPearlによって提案され,不確実性を含む推論の基礎理論として脚光を浴びるようになった.BNは人間にとって直感的に理解しやすい知識表現機能を備えており,不確実性を含む推論に携わるAI研究者の間で現在も活発に研究がなされている.しかし,BNをはじめとする従来手法は「なぜ不確実性が生じるのか」,「どのような不確実性を扱っているのか」などの不確実性の発生メカニズムやその種類が明確にされないまま推論方法が論じられているため,求められた推論結果の意味が明確でなかった.そこで本稿では,不確実性を含む推論の問題を多変量データ解析や情報理論的な視点から考察し,従来の手法を一般化した数理モデルと推論法を提案する.さらに,従来から多くの診断・予測型ESが扱ってきた不確実性を含む推論の問題が,一種の制約条件付き最適化問題としての性質を備えていることを明らかにする.
著者
福島 光義
出版者
群馬大学
雑誌
群馬大学社会情報学部研究論集 (ISSN:13468812)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.1-13, 2003-03-31

19世紀に、社会を理解する事の可能性への懐疑や不信が増大し、結果として、知る事の出来る関係と、知る事の出来ない社会との間に亀裂が生じている。Charles Dickensは彼の後期の小説の一つBleak House(1852-53)において、共同社会認識の危機に対して重要な反応を示している。Dickensはロンドンの警察力の集合的な力と情報を描き、Bucketという人物を通じて社会についての新しい形の認識を表明している。Bucket は特別に注目を引く人差指を与えられており、それはグロテスクな描かれ方をしている。本論文は、Bucketの人差指によって代弁される社会共同体の構造を分析し、又捜査中におけるBucketの独特の情報収集方法を探り、最後に、公私両面におけるBucketの他の人達への親切な態度や人間味について分析している。
著者
金子 雄一郎 山下 良久 小林 啓輝
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木学会論文集F6(安全問題) (ISSN:21856621)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.I_87-I_94, 2013
被引用文献数
1

近年鉄道駅において,ホームからの転落事故や列車との接触事故が多発しており,利用者の安全確保が喫緊の課題となっている.このような状況を受け,国土交通省は2011年8月にホームドア等の整備促進に関する基本方針を定めており,今後はこれらの施策の事業評価において,利用者の安全性向上効果を計測する必要性が高まると考えられる.そこで本研究では,鉄道駅へのホームドア設置による安全性向上便益について,仮想的市場評価法を用いて計測を試みた.具体的には,東京圏の鉄道利用者を対象にWebアンケート調査を実施し,ホームの安全に対する意識を把握するとともに,ホームドア設置による価値について,提示額に対する賛否を二段階二項選択方式で尋ねた.これらの回答を基に,ロジットモデルを用いて支払意思額を推定し,これに受益者数を乗じることで便益を計測した.
著者
松下 恭之 佐々木 健一 郡 英寛 江崎 大輔 春田 明日香 古谷野 潔
出版者
Japan Prosthodontic Society
雑誌
日本補綴歯科學會雜誌 = The journal of the Japan Prosthodontic Society (ISSN:03895386)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.1-9, 2008-01-10
参考文献数
41
被引用文献数
7 1

オッセオインテグレーションインプラントは, 表面性状の改善や埋入システムの確立により, 5年程度の中期経過では100%に近い生存率も報告されている. しかし一方で長期の使用に伴い, 破折などの機械的偶発症と支持骨の吸収などの生物学的偶発症が増加することが報告されている. この原因は多様だが, インプラントに付与した咬合から生じたオーバーロードが偶発症の主な因子のひとつとして上げられている。<br>インプラントの咬合において, オーバーロードを引き起こすと考えられるリスクファクターについて疫学研究と基礎的研究のレビューを通して, 現状を整理した.<br>天然歯とインプラントが混在する場合の咬合については, 当初被圧変位量の差を考慮すべきとされたが, 現在これを積極的に肯定する研究は少なく, むしろ被圧変位量の分だけ低くした咬合を付与した場合に, 顎関節や隣在歯などへの影響を危惧する報告も散見される. 現状では, 天然歯と同様の接触を与えても臨床的な問題は少ないと考えられる.<br>側方ガイドや咬合力の側方成分, カンチレバー, 広すぎる咬合面幅によるオフセットローディングなどの非軸方向荷重については, 曲げモーメントとして作用するため, 軸方向荷重よりもその影響は強いと思われる. しかしながら生物学的に影響ありとした疫学データは見られない.<br>天然歯とインプラントの連結については, メタ解析の結果により骨吸収へのリスクが示唆されている.
著者
大塚 裕子 諏訪 正樹 山口 健吾
出版者
人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 (ISSN:13479881)
巻号頁・発行日
vol.29, 2015

本研究では、感じ方や表現方法の個人差を重視した言語化プロセスについて研究することを目的に、複雑で多様な日本酒の味わいを対象とした言語使用のデータを作成する。作成にあたり、個人が直感的に創作したオノマトペで味わいを表現し、その後、その言語音の創作理由を弁別的に分析し、言語化する。創作オノマトペと分析的用語の対応により、従来の味覚表現を超えた、個人差の反映された味わい表現リストを作成する。
著者
本間 幸徳 貞光 九月 西田 京介 浅野 久子 松尾 義博
雑誌
研究報告音声言語情報処理(SLP) (ISSN:21888663)
巻号頁・発行日
vol.2017-SLP-116, no.26, pp.1-6, 2017-05-08

本稿では,ある文書におけるユーザの検索要求に対し,一つ以上の文を回答として提示する部分文書検索手法を提案する.検索要求によっては提示すべき文が文書中に散在する場合があるため,提案手法では,文間の関係性に基づいて推定した文書構造を用いることで,文書に散在する文の集合を部分文書として抽出する.また抽出された部分文書について,分散表現を利用した意昧ベクトルを作成し,検索スコアの算出に用いることで検索精度の向上を図る.評価実験により,文書構造に基づいて部分文書を抽出し,対応する意昧ベクトルを検索に用いることで,ユーザの検索要求に適した検索結果が得られることを示す.
著者
小野 正揮 新舎 博 中川 大輔 丸岡 弘晃 堤 彩人
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木学会論文集C(地圏工学) (ISSN:21856516)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.365-379, 2015

東京都新海面処分場は東京港内の最後の廃棄物処分場であり,できるだけ長く利用することが求められている.そこで,Cブロックにおいて,粘土の減容化施工を実施した.施工は幅150 mm×厚さ3.9 mmのPBDを1.8 m間隔の正方形配置で,平均A.P. +1.5 m~-33.8 mまで水上から打設し,-65 kN/m<sup>2</sup>の負圧を310日間継続して作用させるものである.工事は2005年度の試験施工から始め,本施工は2007年度~2015年度まで実施した.施工面積は38.3万m<sup>2</sup>であり,平均沈下量は5.13 m,総沈下容積は216.7万m<sup>3</sup>である(2015年4月の推定値).この沈下容積は東京都の浚渫土埋立処分計画量の約2.3年分に相当する.本文は地盤工学の観点から,減容化施工とその効果について,総合的にまとめたものである.
著者
吉村 幸雄 井藤 英喜 吉村 英悟 鎌田 智英実 奥村 亮太 秦野 佑紀 鈴木 太朗 堀江 寿美 高谷 浩司 大見 英明
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.51-64, 2018-01-25 (Released:2018-03-05)
参考文献数
21
被引用文献数
1

目的:移動販売車利用者の栄養素摂取量および食品摂取量を,店舗利用者のそれらと比較した.さらに,移動販売車利用者の中で買い物回数の違いおよび買い物手段が移動販売車以外にもある場合と無い場合の栄養素摂取量および食品摂取量についても比較した.これらの検討から,移動販売車利用者の栄養摂取状況の問題点を明らかにする.方法:買い物に移動販売車または店舗を利用した65歳以上の女性高齢者257名を対象に24時間思い出し法による食事調査および食料品アクセスに関するアンケート調査を実施した.栄養素摂取量および食品摂取量の比較は,年齢を共変量とした共分散分析により行った.結果:移動販売車利用者の栄養素および食品摂取量は,店舗利用者と比較して,エネルギー摂取量が168 kcal有意に低く,また3大栄養素および種々のビタミン,ミネラル類が有意に低値であった.食品摂取量では,移動販売車利用者は緑黄色野菜,その他の野菜,肉類等が有意に低値であった.次に移動販売車利用者について解析を行った.移動販売車のみを買い物手段とする者は,移動販売車以外に買い物手段を持つ者より,エネルギー,3大栄養素およびその他の栄養素が有意に低値であった.さらに,移動販売車のみの利用者で買い物回数と栄養素摂取量および食品摂取量を比較したところ,1週間の買い物回数が1回の者は,2回の者よりもエネルギー,たんぱく質等の摂取量が有意に少なかった.結論:移動販売車利用者では,3大栄養素や種々のミネラル,ビタミン摂取量が低値であり,食品としては野菜,肉類,乳類等の摂取量が少なかった.これらの事実は,移動販売車利用者では,食事量そのものが不足気味であることを示唆している.その一因として,移動販売車以外の他の買い物手段がないことや買い物回数が週に1回であることが考えられ,これらの改善が望まれる.
出版者
日経BP社
雑誌
日経アーキテクチュア (ISSN:03850870)
巻号頁・発行日
no.982, pp.40-47, 2012-08-25

約40年前に完成した旧体育館を建て替えた。場所は都内の住宅密集地。国際試合を開催する巨大なスポーツ施設を、周辺住民に圧迫感を与えることなく建設する。それが、設計者に課せられた重要なテーマだった。 「大田区をスポーツ健康都市にする」。2012年6月30日、大田区総合体育館のオープンにあたり、松原忠義区長はこう宣言した。