- 著者
-
佐藤 文博
- 出版者
- 東北大学
- 雑誌
- 若手研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 2005
本期間においては,磁界を介したエネルギー伝送により複合型発熱素子の励磁加温を実現した.最終年度までの検討により,より実用化に近い励磁コイル形状として,平面型スパイラルコイルを用いて実験を行った.平面型スパイラルコイルは,素子の刺入を考えた場合の励磁方向への磁束の指向性の問題と平面型スパイラルコイルによる励磁での圧迫感の軽減や自由度の増加といった利点がある.これを用いて将来の生体応用を想定し,血流の存在するマウスにおいて,実際の腫瘍に対する効果の検証を行っている.動物実験に用いている腫瘍はB-16メラノーマである.このB-16メラノーマは細胞増殖が比較的早いことから選択した.マウスに植え込んだ腫瘍に素子を挿入してハイパーサーミアを行い1週間後の腫瘍のサイズとマウスの様子を確認した.何もしていないコントロールマウスと比べて,熱を加えたマウスは明らかに腫瘍サイズに差が生じた.温熱以外の作用は加えていない為,素子の発熱によって組織温度が上昇し,腫瘍組織を壊死させることが確認できたと考えられる.このように,複合型発熱素子の発熱による熱的効果によって腫瘍の縮退がみられ,ハイパーサーミアの有用性が実証できた.まとめにあたり,簡易自動治療システムの一連のプロトコルを考え,上記治療結果を得た事は大きな成果である.ハイパーサーミアは種々の方法で臨床応用されているが,どの方式が最適かというコンセンサスすら確立されていないのが現状である.そのため医師やがんで苦しむ患者に浸透していないのが現状である.上記成果より簡易的な治療法に一定の指針ができた事で,完全治癒可能なハイパーサーミアが現実に近いものになったと言える.