- 著者
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佐藤 文彦
- 出版者
- 社団法人日本産科婦人科学会
- 雑誌
- 日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
- 巻号頁・発行日
- vol.24, no.6, pp.427-434, 1972-06-01
精子は女性々器を上昇するに際して受精能を獲得し, 受精が成立すると言われている. Hammer&Williams (1963) 等によれば, 家兎精子を家兎子宮内で培養した場合, 或いは雄鶏精子を雌鶏卵管内で培養した場合, それぞれ射精直後の精子に比較して約2〜4倍の酸素消費量の上昇がみられ, 射精直後の精子に比べ妊娠率が高まると報告している. しかしヒト女性々器分泌液による精子の酸素消費量の変動についての報告はすくない. 私は各種女性々器分泌液による精子の酸素消費量の変化を中心として, 精子の運動率, 生存時間, 速度の変化を観察し, 受精現象に対する女性々器分泌液の影響についての一面を検討し, 次の結果を得た. 1) 精子の酸素消費量は従来Warburg検圧計により測定されていたが, 本実験ではガスクロマトグラフィーによる非気相下で, 一定溶存酸素中の精子の酸素消費量をみたもので検圧法の値より1/3〜1/5低かつた. 2) 各種分泌液一定量の溶存酸素量は, 卵管液を最高に血清, 卵胞液, 子宮分泌液, 腹水, 精液の順に少なかつた. 3) 各種女性分泌液添加後における精子の運動率, 速度, 生存時間への影響は血清において最も強く, 次いで卵胞液, 腹水と続き, 卵管液, 子宮液ではそれらより劣る傾向を示した. 4) 各種女性分泌液添加後の精子の酸素消費量と運動率との間には一定の関係を見出すことは出来なかつたが, 各種分泌液添加後の酸素消費は血清と卵胞液において最も高い値を示した. 5) 以上の結果から精子の受精能, 受精現象について勿論結論的な事は言えないが, Kurzrok (1953) 等が言う様に, 卵胞液が排卵と同時に卵管に取込まれ, 卵管液と相まつて受精現象に何か影響を持つかの様な印象を受けた.