著者
佐藤 薫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.152, no.6, pp.287-294, 2018 (Released:2018-12-08)
参考文献数
177
被引用文献数
1 3

中枢神経系(central nervous system:CNS)の血管は血液と脳実質間の物質交換を血液脳関門(blood brain barrier:BBB)により制限している.現状,新薬候補化合物の脳内移行性を検討するための信頼性の高いin vitro BBBモデルは存在せず,中枢神経医薬品上市の低確率,中枢性副作用予測の困難さの一要因となっている.本レビューでは,まずBBBの構造と機能,汎用されるBBB機能定量パラメーターについて概説する.そして,新薬開発過程でこれまで使われてきたin vitro BBBモデルの歴史を紐解き,非細胞系モデルPAMPAから初代培養齧歯類細胞,畜産動物細胞,株化細胞,等の細胞系モデルへの推移を紹介する.また,ヒト予測性を向上させるためのヒト細胞適用の試みや,マイクロ流体モデルに代表される工学的アプローチなど,in vitro BBBモデルの最新開発動向についても紹介する.脳の恒常性維持に欠かせない強固なBBBをin vitroで再現することは,BBB形成メカニズムを解明することでもある.これらの新知見,それに基づいて開発される新しいin vitro BBBモデルは,中枢神経系の薬物動態予測,ドラッグデザイン,さらには,毒性・安全性評価を大きく進展させ,新薬成功確立の向上に貢献することが期待される.
著者
佐藤 拓実 HADFI Rafik 武田 弘太 伊藤 孝行
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第36回 (2022)
巻号頁・発行日
pp.2C1GS604, 2022 (Released:2022-07-11)

自分の意見を述べたり,情報を共有したり,様々な問題について合意形成を行うために議論は重要である.オンライン議論プラットフォームをはじめとしたソーシャルメディアの普及により,議論における意見数や多様性は増加し,議論を自動的に取得することはより困難になっている.本論文で提案する議論検索は,検索エンジンの基本的なプロセスに準じ,indexing process(索引付け処理)とretrieving process(検索処理)から構成される,新しい試みである.索引付け処理では,自然言語処理技術を用い,前処理されていない議論のテキストデータを,検索可能な形へと変換する.検索処理では,類似した議論を適切に取得する.我々の提案手法では,議論の複雑性を適切に取り扱うために議論のモデル化手法を用いる.実験により,本手法が類似議論の検索に有効であることが示された.また,議論モデル内の要素,要素間の関係を利用し検索を行うことで,検索精度が向上することが示された.更に我々は,オンライン議論プラットフォーム上での議論支援に活用するための議論検索機構の実装を目指しており,その試作について紹介する.
著者
盛田 寛明 佐藤 秀紀 福渡 靖
出版者
日本保健福祉学会
雑誌
日本保健福祉学会誌 (ISSN:13408194)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1-2, pp.55-63, 2005-03-31 (Released:2017-09-15)

本研究の目的は、男性退職者におけるうつ状態と運動の実施状況との間の双方向因果関係を、構造方程式モデル(以下SEM)を用いて明らかにすることである。全国7地区の企業または団体に勤務していた、55歳以上の退職後3年以内の男性退職者655名(平均年齢61.8±2.5歳)に対し、うつ状態および運動の実施状況に関する調査を行いSEMの双方向因果モデルで解析した。その結果、高齢群では[うつ状態]と[運動の実施状況]との間に双方向の因果関係を認めた。一方、中年群では[うつ状態]から[運動の実施状況]への影響は示されたものの、逆方向の因果関係は認めなかった。また、[うつ状態]から[運動の実施状況]への影響の強さは中年群より高齢群の方が大きいことを認めた。これらのことから、男性退職者では、うつ状態により運動の実施状況が低下している場合であっても、運動実施への介入に先立って、先行的にうつ状態を軽減することが運動・散歩・体操等の運動習慣の形成につながる可能性があり、その影響の強さは中年群より高齢群の方が大きいことが示唆された。一方、高齢群では、運動・散歩・体操等の運動習慣を継続することでうつ状態が軽減する可能性があるが、中年群では、運動の継続がうつ状態の軽減につながるとはいえないことが推察された。
著者
皆川 明大 酒井 理歌 福留 慶一 久永 修一 年森 啓隆 佐藤 祐二 藤元 昭一
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.47, no.11, pp.685-690, 2014 (Released:2014-11-28)
参考文献数
15

血液透析患者において適正体液量の維持は心血管合併症や生命予後改善の点で重要である. 今回われわれは, 健常者および血液透析患者に体組成分析装置を用いて透析前後に体液過剰・不足量 (OH) の測定を行い, 有用性の検証について横断的研究を行った. 219名の健常者 (平均年齢68.8±8.4歳, 男性69名) と64名の慢性維持血液透析患者 (平均年齢61.7±12.8歳, 男性37名) を対象とした. 健常者平均OHは0.7±0.8L (平均±SD) であり, 海外での健常者のOH基準値 (−1.1~1.1L) に相当した参加者は全体の76.3%であった. 血液透析患者の透析前平均OHは2.9±1.5L, 透析後平均OHは0.6±1.7Lであった. 透析前後でのOH変化量と体重変化量は有意な相関関係を認めた (r=0.61, p<0.05). 一方, 透析前あるいは透析後OHと透析前血圧・心胸郭比との間には, 有意な相関関係は認められなかった. 透析後血中ANP濃度と透析後OH値との間に正の相関関係を認めた (r=0.48, p<0.05). 透析後血中ANP濃度で3群 (高値群>60pg/mL, 中間群40~60pg/mL, 低値群<40pg/mL) に分類し, 透析後平均OHを比較したところ, 血中ANP濃度が高値になるほどOHも高値となった, p<0.05). これらの結果から血液透析患者において, 潜在的に体液過多となっている患者の存在が示唆された. 目標体重検討の際に考慮する心胸郭比や血圧との有意な相関関係は認められなかったが, 透析前後での劇的なOHの変化や血中ANP濃度との関係をみると, OHは血液透析患者の体液量の指標として有用な可能性がある. 今後OHと心機能との関連性など検証し, 有用性についてさらに具体的に検討していく必要があると思われた.
著者
島田 健司 佐藤 浩一 佐藤 裕一 羽星 辰哉 花岡 真実 仁木 圴 松崎 和仁 三宅 一 高木 康志
出版者
特定非営利活動法人 日本脳神経外科救急学会 Neurosurgical Emergency
雑誌
NEUROSURGICAL EMERGENCY (ISSN:13426214)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.157-164, 2019 (Released:2019-10-12)
参考文献数
16

ステントリトリーバーあるいは吸引カテーテルを用いた機械的血栓回収療法は中大脳動脈遠位部(M2)を除く,前方循環系脳主幹動脈閉塞による急性期脳梗塞に対する標準的治療といえる.さらに,ステントリトリーバーと吸引カテーテルを同時に使用する併用治療に関する報告例がいくつか散見されるようになった.しかし併用療法とこれまでの単独療法を比較した文献も少なく,併用療法はまだ標準的治療とは言い難い.今回我々は当施設での前方循環系脳主幹動脈閉塞(M2を含む)による急性期脳梗塞に対し,従来のステントリトリーバー,あるいは吸引カテーテルによる単独療法と,両者を同時に使用する併用療法の治療成績を閉塞血管別に比較し,検討した.2014年8月から2018年12月に前方循環の脳主幹動脈閉塞による急性期脳梗塞に対し血栓回収療法を施行した51例を対象とした.2017年8月までは単独療法で治療し(N=31),2017年9月以降併用療法で治療した(N=20).2群間での治療転帰や再開通率,再開通までの時間を比較したが,有意差はみられなかった.そこで閉塞部位別にM2閉塞とそれ以外の閉塞血管で比較したところ,やはり治療転帰や再開通率において2群間で有意差はみられなかった.しかし手技時間がM2閉塞では併用療法において有意に長く,それ以外の閉塞血管では併用療法が短い傾向であった.併用療法は閉塞血管によっては単独療法より有用な可能性のある治療法である.

1 0 0 0 OA 空気砲の物理

著者
石原 諭 佐藤 光 三宅 明 松川 敦子
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育 (ISSN:03856992)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.188-192, 2008-09-01 (Released:2017-02-10)
参考文献数
6
被引用文献数
1

密閉したダンボール箱の一つの面に穴をあけ,箱の側面をたたくと,空気のかたまりが打ち出される。箱の中に煙を入れてたたくと,空気のかたまりは渦輪であることがわかる。本研究では穴の形を変えたときの渦輪の運動を観察し,渦輪の変形の周期と並進速度との間に一定の規則性のあることを見出した。科学のイベントなどでよく取り上げられるこの興味深い現象は,物理の探究活動や課題研究のテーマとしての教材化が可能である。
著者
岡崎 仁昭 長嶋 孝夫 佐藤 英智 平田 大介
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

【目的】スタチン類はHMG-CoA還元酵素抑制によるコレステロール低下作用以外にも様々な多面的効果(pleiotropic effect)を持ち、近年、免疫抑制作用を有することが注目されている。我々はスタチン類の免疫抑制作用の機序をアポトーシス誘導作用の観点から研究を進め、脂溶性スタチンのフルバスタチンは活性化T細胞と培養RA滑膜細胞に対してアポトーシス誘導能を有し、その機序としてprotein prenylation阻害に基づくことを見出した。今回はスタチン類がループスモデルマウス(MRL-lpr/lpr)に対して治療効果を示すか否かを検討した。【結果】既に自己免疫病を発症している生後4か月齢のMRL-lpr/lprマウス計60匹をコントロール群、フルバスタチン投与群(10mg/kg)、副腎皮質ステロイド投与群(10mg/kg)の3群に分け、週3回腹腔内継続投与した。(1)投与開始4か月後の生存率:コントロール(C)群(50%)、フルバスタチン(F)投与群(55%)、副腎皮質ステロイド(S)投与群(90%)(2)尿所見:C群1.3±0.4、F群0.4±0.2、S群0.6±0.2(3)血清抗ds-DNA抗体価(EU):C群62.9±24.9、F群178.6±88.6、S群17.7±5.3(4)血清INF-γ(ng/ml):C群45.1±12.7、F群34.4±5.7、S群16.0±3.9【考察】今回のフルバスタチン投与実験(投与量と期間)では蛋白尿減少作用を認めたが、長期的生存率は上昇させなかった。血清抗ds-DNA抗体価はフルバスタチン投与群では逆に上昇傾向であった。スタチンには薬剤誘発性ループスの症例報告もあり、全身性エリテマトーデス(SLE)患者に投与する場合には注意を要すると考えられた。【臨床への応用】リウマチ膠原病患者は動脈硬化を合併しやすいことが報告されている。スタチン類がその抗動脈硬化作用に加えて、免疫調節作用をも有していれば、リウマチ膠原病に対する新たな治療薬となり得ることが期待される。
著者
門田 浩一 本橋 あずさ 佐藤 真吾 三嶋 昭二
出版者
公益社団法人 地盤工学会
雑誌
地盤工学ジャーナル (ISSN:18806341)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.253-271, 2019-08-31 (Released:2019-10-01)
参考文献数
25
被引用文献数
1

東北地方太平洋沖地震では,仙台市の盛土造成地において,多数の地すべり的変形被害が発生した。この被害は細粒分を多く混入する液状化が生じにくい盛土で発生しており,液状化に起因する盛土の変形被害とは異なる現象であった。本研究では,地すべり的変形が発生した盛土を対象として,変動部における物理・力学特性及び地下水特性を分析すると伴に,動的有効応力解析法等による再現解析を行い,その発生要因と機構について検討した。その結果,液状化が生じにくい盛土であっても,盛土内の締固め度89%以下の飽和部及び不飽和部(飽和度80%以上)では,大規模地震による繰返し載荷を受けると間隙水圧が上昇し,塑性変形が発生することを示した。また,繰返し載荷により上昇する過剰間隙水圧比は,盛土の静的な三軸圧縮試験結果より得られるせん断破壊時の過剰間隙水圧比と,同程度であることを示した。
著者
木村 拓 廣瀬 和紀 國松 勇介 谷 望未 佐藤 いずみ 小倉 由莉 瀬野 真文 竹田 隆之
出版者
京都第二赤十字病院
雑誌
京都第二赤十字病院医学雑誌 = Medical journal of Kyoto Second Red Cross Hospital (ISSN:03894908)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.90-97, 2020-12

症例は、76歳女性。咳嗽、労作時呼吸困難で近医受診、上気道炎として加療後、低酸素血症をきたし京都第二赤十字病院呼吸器内科へ紹介された。胸部CTで胸膜直下、気管支血管束周囲に広範なconsolidation、すりガラス影を認めた。筋症状を伴わず、特徴的な皮疹を認め、臨床的無筋症性皮膚筋炎に伴う急速進行性間質性肺炎と診断した。入院後ステロイド、シクロスポリンで加療したが改善なく、第8病日に抗MDA5抗体陽性が判明し、シクロフォスファミドパルス療法、第14病日から血漿交換療法を併用したが改善なく、第29病日に永眠された。本症例は入院時に重度の呼吸不全を認め、入院直後から集学的治療を行っても救命は困難と考えられた。しかし、呼吸不全が軽度で画像上の肺障害が少ない症例で集学的治療の有効性を示す報告もあり、本疾患が疑われる軽症例では抗MDA5抗体の結果を待たずに集学的治療の検討が必要と考えられた。
著者
清水 哲雄 小松 治男 馬田 俊雄 高橋 清 佐藤 正矩
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集 C編 (ISSN:03875024)
巻号頁・発行日
vol.64, no.623, pp.2348-2353, 1998-07-25 (Released:2008-02-26)
参考文献数
3
被引用文献数
1

Understanding the spinning mechanism of an impacted golfball is an important factor in golf science and engineering. The rigid sphere model which considers the Coulomb-type slip friction presented independently by Daish and Kawamura (referred to here as the Daish-Kawamura model) seems to well explain the experimental results of golfball spinning. For a more general interpretation of the spin phenomenon, we attempted to modify this model by introducing a physical quantity called the "s parameter", which is defined as the ratio of the circumferential velocity of the ball to its centroid velocity. An experiment performed to verify the appropriateness of the new parameter introduction led to the following conclusions: The spin phenomenon in golf impact can be divided into two phases, in both of which the Daish-Kawamura model is effective. A method is described to evaluate the coefficient of slip friction under high sliding velocities, and the value is estimated as 0.07 for a slippery surface condition.
著者
佐藤 隆彦 三浦 啓太 藤倉 俊幸 安積 卓也
雑誌
研究報告組込みシステム(EMB) (ISSN:2188868X)
巻号頁・発行日
vol.2020-EMB-53, no.46, pp.1-9, 2020-02-20

自動車の運転手不足や高齢者による運転操作ミスが社会問題になっている.そのため,自動運転システムの開発が急がれており,自動車業界ではモデルベース開発が盛んに行われている.自動車機能安全規格ISO 26262 では,モデルベース開発において,Back-to-Back テストを行うことが要求されている.そのため,製品の動作環境に組込む際に,制御仕様と動作が一致しているかの検証をする必要がある.本研究では,自動運転ソフトウェア向けの Back-to-Back テストフレームワークを提案する.既に正しく動作しているモジュールと,その機能を移植したモジュールの入出力結果を保存・比較する.本論文では,MATLAB/Simulink で作成したモデルが正しく動いているかを,自動運転ソフトウェアである Autoware のモジュールを用いて Back-to-Back テストで評価する.
著者
佐藤 啓介
出版者
日本ミシェル・アンリ哲学会
雑誌
ミシェル・アンリ研究 (ISSN:21857873)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.25-49, 2014 (Released:2019-07-12)
参考文献数
16

This article investigates Henry’s transcendental Interpretation of John critically. The ideas on God and Jesus which John tells are close to the structure of Life in Henry’s phenomenology in that God, Jesus, Truth, Life and Logos are identical and they preexist in God himself together. It is not the case, however, that John changes Henry’s philosophy, but rather that the method of his biblical interpretation can be called “check for the correspondence”. Moreover, his correspondence-method fails on that it cannot cover the death of Jesus John tells as “death in God’ glory”. This failure appears clearly in Henry’s interpretations of John 10:1-18 (parable of the Good Shepherd and His Sheep) as Henry’s interpretation cannot include the phrase “lays down one’s life” (in 11, 15, 17 and 18) which Jesus declares. Jesus which Henry tells doesn’t die, contrary to John’s narrative.