著者
吉田 裕実子 大澤 脩司 藤生 慎 高山 純一 中山 晶一朗
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集A1(構造・地震工学) (ISSN:21854653)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.I_873-I_882, 2018 (Released:2018-11-01)
参考文献数
17

過去の被災事例より,被災者の元へ公的な支援物資が行き渡るには時間がかかることが明らかである.よって本研究では,各家庭で買い置かれている食料やコンビニエンスストア等の小売店の食料といった平時の地域に存在する食料に着目し,被災直後の食における住民の自助・共助を提案する.はじめに,地域に存在する食料の実態把握のため,平時の一般家庭・一人暮らしの学生の世帯に存在する食料に関するアンケート調査を実施し,食料原単位を算出した.さらに,小売店において調査を実施し,小売店に存在する商品の量を明らかにした.これらより,平時に地域に存在する食料を,災害時の食料供給源として活用する可能性に関して検討を行う.
著者
藤原 佳典 天野 秀紀 熊谷 修 吉田 裕人 藤田 幸司 内藤 隆宏 渡辺 直紀 西 真理子 森 節子 新開 省二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.77-91, 2006 (Released:2014-07-08)
参考文献数
32
被引用文献数
4

目的 在宅自立高齢者が初回介護保険認定を受ける関連要因を,要介護認定レベル別に明らかにする。方法 新潟県与板町在住の65歳以上全高齢者1,673人を対象にした面接聞き取り調査(2000年11月実施,初回調査と称す)に1,544人が応答した。ベースライン調査時の総合的移動能力尺度でレベル 1(交通機関を利用し一人で外出可能)に相当し,未だ要介護認定を受けていない1,225人をその後 3 年 4 か月間追跡した。この間,介護保険を申請し要支援・要介護 1 と認定された者を軽度要介護認定群,要介護 2~5 の者を重度要介護認定群,未申請で生存した群(以降,イベント未発生群と称す)に分類し,男女別にイベント未発生群と軽度あるいは重度要介護認定群との間で初回調査時の特性を比較した。つぎに Cox 比例ハザードモデル(年齢,老研式活動能力指標の手段的自立,慢性疾患の既往は強制投入し,単変量分析で有意差のみられた変数すべてをモデルに投入したステップワイズ法)を用いて,要介護認定に関連する予知因子を抽出した。成績 追跡対象者のうち初回調査時に BADL 障害がなく,かつ申請前の死亡者を除く1,151人を分析対象とした。うちイベント未発生群は1,055人,軽度要介護認定群は49人,重度要介護認定群は47人であった。男女とも共通して在宅自立高齢者の軽度要介護認定に関連する予知因子として高年齢と歩行能力低下(男は「1 km 連続歩行または階段昇降のいずれかができないまたは難儀する」のハザード比が7.22[95%CI 1.56-33.52] P=0.012;女は「1 km 連続歩行・階段昇降ともにできないまたは難儀する」のハザード比は3.28[95%CI 1.28-8.42] P=0.014)が,また重度要介護認定の予知因子として高年齢と手段的自立における非自立(4 点以下のハザード比は男で3.74[95%CI 1.59-8.76] P=0.002;女で3.90[95%CI 1.32-11.54] P=0.014)が抽出された。また,男性のみ重度要介護認定に重度認知機能低下が,女性のみ軽度要介護認定に入院歴と咀嚼力低下が抽出された。結論 在宅自立高齢者の要介護認定の予知因子は,高年齢を除き,大半は介護予防事業により制御可能であろう。今後,これら介護予防事業の効果が学術的に評価されることが期待される。
著者
吉田 裕季
出版者
ロシア・東欧学会
雑誌
ロシア・東欧研究 (ISSN:13486497)
巻号頁・発行日
vol.2005, no.34, pp.157-167, 2005 (Released:2010-05-31)

The Military convention of Belgrade was concluded between the Allies and Hungary when the First World War came to an end. This convention established the boundary line on the southeast part of Hungary. But this boundary line was violated by the Rumanian Army which crossed it from Transylvania on 15th December, 1918. Later, this line was modified in favor of Rumania.About that time the Ukrainian invasion started under the initiative of the French Army. The French Army was obviously defeated owing to a shortage of forces.Some historians argued that the Ukrainian invasion had an influence on the amendment of the boundary line. They explained that the French policies took a measure in favor of Rumania, because they wished the supplement of the shortages of forces by the Rumanian Army, accepting the territorial demands of Rumania as compensation.The purpose of this article is to explain in view of the Ukrainian invasion why the amendment of the line was realized in favor of Rumania.The first chapter makes clear the significances of the Military convention of Belgrade for Hungary, France and Rumania. This convention should accept the Hungarian territorial demands and contribute to extend the French influence on Central Europe through the occupation of Hungary. But for Rumania it would hinder her territorial claims.The second chapter makes evident through the process of the Ukrainian invasion the factors related with the amendment of the boundary line. It is quite obvious that the French Army was not enough to invade Ukraine, therefore the military authorities suggested to make a profit from the Rumanian Army. The French Army without the indigenous inhabitant's cooperation was overpowered by the Bolshevik Army. For this reason an anti-Bolshevik policy was increasingly regarded as necessary. Besides the Rumanian government had indicated her intentions to render some military services in Russia.The third chapter concerns influence of the Ukrainian invasion on the amendment of the boundary line through the discussions on the revision in the Peace Conference. There was an atmosphere in the chamber that one should defend the benefits of the Allies. Therefore on the one hand, the demands of Rumania were approved, on the other, the claims of a hostile country, Hungary, were rejected. However it remarked that France proposed to recognize Rumania as an Ally, and submitted the draft for the amendment of the line. Besides the fact that Rumania let her army march across the boundary line to make fait accompli might have served to accord her territorial demands. The French Army, however, did not occupy Hungary, for it considered that this circumstance would permit the Rumanian Army to advance.Therefore, the French policies must be emphasized as a factor of the amendment of the boundary line in favor of Rumania. In this case, however, a great importance should be attached to not only the shortages of forces, but also to the anti-Bolshevik policy and it should be also taken into consideration that an anti-Bolshevik attitude of Rumania proved to be favorable for France. With reference to the amendment of the boundary line, this policy has not been argued enough until today.
著者
吉田 裕
出版者
カルチュラル・スタディーズ学会
雑誌
年報カルチュラル・スタディーズ (ISSN:21879222)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.125-144, 2018 (Released:2019-10-09)
参考文献数
61

本論文は、第三世界主義の決定的な瞬間の一つである、パリで開催された第一回黒人作 家芸術家会議を取り上げる。そして、英語圏、仏語圏の作家や知識人たちのあいだでの人 種を超えた連帯という表向きの祝祭的な雰囲気の影で密かに存在していた不協和音を検討 する。この論文の主な焦点は、合衆国の黒人作家であるリチャード・ライトによる発表「伝 統と産業化」とバルバドスの作家ジョージ・ラミングによって読み上げられた原稿「黒人 作家とその世界」を分析することにある。当時、パリに逗留していた若きアフリカ系アメ リカ人の作家ジェームズ・ボールドウィンによる会議の報告も一部、検討対象とする。合 衆国の内外での反共主義の隆盛という文脈において考えた時、フランス語圏の知識人たち とのあいだの共通性と差異、そして、目指されなかったものとは何なのだろうか。人種主 義と植民地主義を問題化するということはフランス語圏のアフリカ系知識人やカリブ系作 家らには共有されていたが、英語圏の作家らには別様に捉えられていたのではないだろう か。 前半では、人種主義と植民地主義の見え方に関して、合衆国代表団とフランス語圏の発 表者(特にエメ・セゼール)のあいだに存在していた軋轢に注目するが、その軋轢の要因 の一つとして合衆国代表団に共通してみられたのは何だったのかについて論じる。そして 後半では、この軋轢を反省的にとらえかえすための問いかけの出発点として、恥という情 動にラミングが傾注していることを論じる。そのことによって、冷戦期の情報戦や心理戦 が脱植民地期の「文化」概念に隠然たる影響を与えたことや、その影響に対する抗いの試 みの一端を明らかにする。
著者
新開 省二 藤田 幸司 藤原 佳典 熊谷 修 天野 秀紀 吉田 裕人 竇 貴旺 渡辺 修一郎
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.443-455, 2005 (Released:2014-08-06)
参考文献数
30
被引用文献数
18

背景 地域高齢者における“タイプ別”閉じこもりの実態についてはほとんどわかっていない。目的 地域高齢者における“タイプ別”閉じこもりの出現頻度とその特徴を明らかにする。方法 地域特性の異なる二地域[新潟県与板町および埼玉県鳩山町鳩山ニュータウン(以下鳩山 NT と略す)]に住む65歳以上の地域高齢者全員(それぞれ1,673人,1,213人)を対象に横断調査を実施した。ふだんの外出頻度が「週 1 回程度以下」にあるものを「閉じこもり」と定義し,そのうち総合的移動能力尺度でレベル 3~5 にあるものを“タイプ 1”,同レベル 1 または 2 にあるものを“タイプ 2”,と二つに分類した。地域,性,年齢階級別にタイプ別閉じこもりの出現頻度を比較するとともに,総合的移動能力が同レベルにあり,ふだんの外出頻度が「2, 3 日に 1 回程度以上」に該当する「非閉じこもり」との間で,身体的,心理・精神的,社会的特徴を比較した。成績 調査時点で死亡,入院・入所中,長期不在のものを除くと,与板町では97.2%(1,544/1,588),鳩山 NT では88.3%(1,002/1,135)という高い応答率が得られた。両地域とも地域高齢者のうち「閉じこもり」は約10%にみられ,そのタイプ別内訳は,与板町ではタイプ 1 が4.1%(男4.0%,女4.2%),タイプ 2 が5.4%(男5.2%,女5.6%),鳩山 NT ではそれぞれ3.3%(男1.5%,女4.9%)と6.8%(男5.7%,女7.8%)であった。潜在的交絡要因である性,年齢,総合的移動能力(レベル 1, 2 あるいはレベル 3-5)を調整すると,タイプ 2 の出現率に地域差がみられた[鳩山 NT/与板町のオッズ比=1.44(1.02-2.03)]。一方,タイプ 1 の出現率における地域差や両タイプの出現率における性差は認められなかった。両地域,男女において,年齢階級が上がるにしたがって両タイプの出現率は上昇し,タイプ 2 は80歳以降で,タイプ 1 は85歳以降で10%を越えていた。タイプ 2 はレベル 1 または 2 にある「非閉じこもり」に比べると,潜在的交絡要因を調整しても,歩行障害や失禁の保有率が高く,健康度自己評価や抑うつ度などの心理的側面,さらには高次生活機能や人・社会との交流といった社会的側面での水準が低かった。一方,タイプ 1 は,レベル 3~5 にある「非閉じこもり」に比べると,基本的 ADL 障害や「知的能動性」の低下を示す割合が低いにもかかわらず,家の中での役割がなく,転倒不安による外出制限があり,散歩・体操の習慣をもたないと答えた割合が高かった。結論 タイプ別閉じこもりの出現率には,地域差,年齢差を認めた。タイプ 2 には“要介護状態”のハイリスク者が多く含まれており,タイプ 1 を含めタイプ 2 も介護予防のターゲットとして位置づけるべきである。
著者
吉田 裕一 尾崎 英治 村上 賢治 後藤 丹十郎
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
Journal of the Japanese Society for Horticultural Science (ISSN:18823351)
巻号頁・発行日
vol.81, no.4, pp.343-349, 2012 (Released:2012-10-24)
参考文献数
27
被引用文献数
8 11

低コストで簡便な促成栽培イチゴの新しい花芽分化促進法として間欠冷蔵処理を考案して‘女峰’のトレイ苗に試みたところ,体内非構造炭水化物濃度の低下が抑制され,顕著な開花促進効果が認められた.果実予冷用に用いられるプレハブ冷蔵庫を用いて 13℃暗黒の冷蔵庫内と戸外の 50%遮光条件下に 2,3,4 日間ずつ交互におく処理をそれぞれ 4,3,2 回繰り返し行った.冷蔵庫の利用効率を高めることを前提として,冷蔵庫と戸外で経過する期間は同一とし,交互に入れ替える 2 処理区をそれぞれに設定した.相互の移動は正午頃に行い,処理期間中の戸外の環境条件は,日平均気温 22.5~29℃,日長 12.4~13.1 時間(日の出から日没まで)であった.ピートバッグに定植し,12 日間連続で低温暗黒処理を行った処理区および無処理の対照区と比較したところ,いずれの処理においても,冷蔵処理区は無処理区より 6~10 日早く開花した.12 日間連続処理区と同じ日に処理を開始してその中間で 4 日間戸外においた間欠冷蔵処理区とを比較すると,9 月 13 日定植では 15 日,9 月 17 日定植でも 4 日早く間欠冷蔵処理区が開花した.冷蔵を中断し,2~4 日間戸外で光合成を行わせることによって炭水化物栄養条件が大きく改善される結果,イチゴの花芽分化が促進されると考えられた.効果的な処理条件については今後詳細に検討する余地があるが,2 から 4 日間の低温暗黒と自然条件を繰り返す間欠冷蔵処理は新規の花芽分化促進技術としてきわめて有望であることが示された.
著者
吉田裕著
出版者
学習の友社
巻号頁・発行日
1981
著者
後藤 丹十郎 高谷 憲之 吉岡 直子 吉田 裕一 景山 詳弘 小西 国義
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.760-766, 2001-11-15
参考文献数
19
被引用文献数
5 5

根域制限によって生じるキクの生育抑制が, 養水分ストレスの軽減によってどの程度まで解消できるかを明らかにするため, 連続給液式の水耕法と1日の給液頻度を異にした点滴灌水式の培地耕を用いて根域制限と養水分ストレスに対する品種'ピンキー'の反応を調査した.連続給液水耕では, 茎長, 節数は定植25日後においても根域容量(10∿1000ml)による差が生じなかったが, 葉面積, 地上部・地下部乾物重は根域容量が小さいほど抑制された.最も抑制程度が大きかった葉面積には定植10日後から影響が認められ, 定植25日後には根域容量10mlで根域容量1000mlの約70%となった.S/R比は根域容量の減少に伴って大きくなったが, その差は比較的小さかった.点滴給液した培地耕において, 根域容量30mlで給液頻度が少ない場合には, 定植14日後から茎長に差が認められたが, 8回では28日後においてもほとんど差が認められなかった.根域容量が小さいほど定植35日後の地上部の生育は劣ったが, 根域容量30および100mlでは給液頻度が8回以上の場合, 1および3回と比較して抑制程度はかなり小さくなった.地下部乾物重は給液頻度に関わらず根域容量が大きくなるほど重くなった.S/R比は給液頻度1回および3回では根域容量による影響がみられずほぼ一定であったが, 8回および13回では根域容量が小さくなるほど大きくなった.以上のように, 養水分を十分に与えることによってキクの生育抑制を軽減することができたことから, 根域制限による植物体の生育抑制の最大の要因は, 養水分ストレス, 特に水ストレスであると推察された.100ml以下の根域容量で栽培されるキクのセル苗や鉢育苗においては, 養水分供給頻度を高めることによって, 養水分ストレスが回避され, 生長が促進されると考えられる.
著者
吉田 裕季
出版者
ロシア・東欧学会
雑誌
ロシア・東欧研究 (ISSN:13486497)
巻号頁・発行日
vol.2005, no.34, pp.157-167, 2005

The Military convention of Belgrade was concluded between the Allies and Hungary when the First World War came to an end. This convention established the boundary line on the southeast part of Hungary. But this boundary line was violated by the Rumanian Army which crossed it from Transylvania on 15<SUP>th</SUP> December, 1918. Later, this line was modified in favor of Rumania.<BR>About that time the Ukrainian invasion started under the initiative of the French Army. The French Army was obviously defeated owing to a shortage of forces.<BR>Some historians argued that the Ukrainian invasion had an influence on the amendment of the boundary line. They explained that the French policies took a measure in favor of Rumania, because they wished the supplement of the shortages of forces by the Rumanian Army, accepting the territorial demands of Rumania as compensation.<BR>The purpose of this article is to explain in view of the Ukrainian invasion why the amendment of the line was realized in favor of Rumania.<BR>The first chapter makes clear the significances of the Military convention of Belgrade for Hungary, France and Rumania. This convention should accept the Hungarian territorial demands and contribute to extend the French influence on Central Europe through the occupation of Hungary. But for Rumania it would hinder her territorial claims.<BR>The second chapter makes evident through the process of the Ukrainian invasion the factors related with the amendment of the boundary line. It is quite obvious that the French Army was not enough to invade Ukraine, therefore the military authorities suggested to make a profit from the Rumanian Army. The French Army without the indigenous inhabitant's cooperation was overpowered by the Bolshevik Army. For this reason an anti-Bolshevik policy was increasingly regarded as necessary. Besides the Rumanian government had indicated her intentions to render some military services in Russia.<BR>The third chapter concerns influence of the Ukrainian invasion on the amendment of the boundary line through the discussions on the revision in the Peace Conference. There was an atmosphere in the chamber that one should defend the benefits of the Allies. Therefore on the one hand, the demands of Rumania were approved, on the other, the claims of a hostile country, Hungary, were rejected. However it remarked that France proposed to recognize Rumania as an Ally, and submitted the draft for the amendment of the line. Besides the fact that Rumania let her army march across the boundary line to make fait accompli might have served to accord her territorial demands. The French Army, however, did not occupy Hungary, for it considered that this circumstance would permit the Rumanian Army to advance.<BR>Therefore, the French policies must be emphasized as a factor of the amendment of the boundary line in favor of Rumania. In this case, however, a great importance should be attached to not only the shortages of forces, but also to the anti-Bolshevik policy and it should be also taken into consideration that an anti-Bolshevik attitude of Rumania proved to be favorable for France. With reference to the amendment of the boundary line, this policy has not been argued enough until today.
著者
佐藤 萌都子 田村 幸嗣 吉田 裕一郎 河野 芳廣 森山 裕一(MD)
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100387, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 癌患者、その家族にとって終末期をどのように過ごすかは大きな問題のひとつである。今回、癌の進行に伴い、ADLおよび活動意欲が低下し、目標喪失となった終末期癌患者への理学療法を担当した。本症例を通し、意識変化のきっかけを与えることで、共通目標の設定・自宅退院が可能となった症例を経験する機会を得たため、報告する。【方法】 症例は30歳代女性。子宮肉腫に対し、他院にて子宮全摘+両側付属器切除施行。その6年後、子宮肉腫クラスV再発を認められ、当院にて抗癌剤治療目的に入院となる。生命予後については、主治医より“年単位は難しい”と入院時のインフォームドコンセントにて症例・ご家族に対し告知済みである。ご家族は夫・両親・義理の母親を中心に終日誰かが病室にいる状態であり、症例に対し非常に協力的であった。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に沿って個人情報保護に配慮し、患者情報を診療記録から抽出した。症例ご家族に対し、本学会にて症例報告を行うことについて同意を得た。また、当院の倫理委員会の承諾も受けた。【結果】 当院入院から退院までを以下の3相に分け、経過を報告する。(介入初期)当院入院約1ヶ月経過し、機能改善目的にリハビリテーション(以下リハ)開始となった。介入当初は、PS2~3と個室内トイレへは点滴台歩行にて自立レベルであったが、終日嘔気・嘔吐に加え間欠的な腹部痛、下腿浮腫を中心とした倦怠感により臥床傾向であった。また、人目を気にすることで個室外出はほとんどみられず、“リハが入っても何もできない”とリハ介入に対しての強い不安が聞かれた。そこで、まずは「個室からリハ室までの外出」を目標に、他の利用者のいない昼休み時間を利用するなど環境設定をしながら、少しずつ離床を図った。(活動範囲拡大期)点滴台歩行に加え自転車エルゴメーターを中心に運動耐容能改善を図るなかで、“思ったより歩けた”“動けるなら自宅に帰って妻らしく家事がしたい”など心理的変化に加え、意欲的な発言がみられ始めた。一時的には病棟内を散歩するなど、人前に出る機会も多くなり、身体機能の向上を図ることができた。PTに対して、在宅復帰への希望がある一方で、ご家族の負担となることへの不安を話す場面もあったが、症例、ご家族、病棟スタッフを含め「自宅退院」という目標を共有した。その後、抗癌剤治療の合間に自宅退院の予行を含め、訪問看護を導入しながら一時退院となった。(自宅復帰移行期)再入院に伴い再び介入したが、抗癌剤治療開始に併せ、腹水の増加や熱発・嘔吐が持続し、誤嚥性肺炎を呈するとNGチューブ・ドレーン留置となり、徐々にベッドサイドでの身体機能維持を目標とした緩和的な介入が中心となった。加えて、症状の不安定性により積極的な介入が行えない日が増えた。そのため、病棟との連携の中で疼痛コントロールを図った上での介入を行い、リラクゼーション・下腿浮腫に対するマッサージをはじめとし、体調に合わせたプログラム設定の中で、個室内の点滴台歩行の継続を図り、機能維持に努めた。最終的な自宅退院が近づく中、希望がみられる一方で“家に帰っても家族の迷惑になるのでは”という強い不安が聞かれたが、家族の受け入れを得ることができ、再入院から2ヵ月後、状態維持のまま自宅退院となった。【考察】 介入当初、活動意欲の低かった症例に対し目標設定を行うことに大変苦慮したが、症例に合わせた環境設定を行うことで個室外への離床を図ることができ、そこから前向きな意識変化を生み出せたことが自宅退院という共通目標設定に大きく繋がったと考える。また、終末期においてADL低下は避けられないが、緩和的介入へ移行し症状が不安定な中でも介入し続けることで治療はまだ続いているという精神的な支えとなり、身体機能低下を遅らせるだけでなく、目標への意欲を保持することも可能であると考える。自宅退院が決まったのち、症例からは笑顔とともに“やっぱり家が良いね”と、ご家族からは“家に帰らせることができて良かった”という発言が聞かれ、QOL向上を図れたことから今回のPT介入は適切なものであったと考える。【理学療法学研究としての意義】 癌の終末期において、QOLの向上を図ることは重要である。ADL機能の向上が図れなくなった時こそ、身体機能面への介入だけでなく、症例に合わせた理学療法を行い、目標を共有し意識を高めることはQOL向上に有効なアプローチと考える。
著者
田村 幸嗣 吉田 裕一郎 河野 芳廣 大寺 健一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Db1208, 2012

【はじめに、目的】 一般に肺外科手術の術前評価の一つとして肺機能検査が行われる。最近では一秒量が1000mlを下回る症例でも手術適応となる場合があり、当施設でも低肺機能症例に対して術前理学療法が処方される。これらの症例に対しては術前オリエンテーション、排痰法指導、深呼吸指導等と合わせて効率的な分泌物の除去方法とされているアクティブサイクル呼吸法(以下ACBT)の指導もしている。ACBTは呼吸コントロール、胸郭拡張、ハフィング、強制呼出手技で構成される。一般には吸気筋トレーニングに関してはある程度の効果とする報告が多い一方、EMT(expiratory muscle training:以下EMT)の呼気流速に関連する呼吸機能に関しては変化がなかったとする報告が多い。EMTの具体的な方法としては器具を使用し呼気に抵抗をかける場合がほとんどである。そこで今回は低肺機能症例でも安全でかつ呼気流速を改善する方法として、ハフィングの反復練習が呼吸機能に及ぼす効果を研究目的とした。【方法】 喫煙歴や疾患の既往がない健康な成人18名(男性6名、女性12名)を無作為にトレーニング群(男性3名、女性6名、平均年齢28.1±7.3歳、身長160.5±8.65cm、BMI22.0±4.07)と対象群(男性3名、女性6名、平均年齢26.2±3.88歳、身長163.2±9.19cm、BMI21.8±2.60)に振り分けた。トレーニング群にはスパイロメーター用のマウスピース(直径30mm)を渡し、立位をとり肺機能検査の方法で最大努力の呼気を1日20回ハフィングの反復を指示した。トレーニングは続けて行わず個々のペースで行なうよう指示した。トレーニング期間は2週間とした。測定にはVM1 VENTILOMETERを用いて努力性肺活量(以下FVC)、一秒量(以下FEV1)、peak expiratory flow以下(PEF)を測定した。測定はトレーニング群にはトレーニング開始前と2週間後、対象群には初回測定日と2週間後の2回、初回測定時と同時刻にそれぞれ3回測定し、最高値を測定値とした。統計処理は対象者の属性についてはMann-Whitney U検定を行い、呼吸機能の測定値にはウィルコクソンの符号付順位和検定を行った。統計処理の手段としてはR Ver.2-11を用い、すべての検定において有意水準は5%とした。【説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に沿って進めた。対象者には研究内容を文書及び口頭で説明した。参加は任意であり、参加に同意しないことをもって不利益な対応を受けないこと、いつでも不利益を受けることなく撤回することができることを説明し参加の同意を得た場合には研究計画書に自筆署名して頂いた。【結果】 1.トレーニング群と対象群の基礎データにおいて、各代表値に有意な差は認めなかった。2.呼吸機能の変化;FVCではトレーニンニング開始前(2.95±1.27L)、トレーニング2週間後(3.39±1.39L)となりトレーニング群において、トレーニング前後の代表値に有意な差を認めた(P<0.05)。FEV1、PEFには有意な差を認めなかったもののトレーニング群においては一定の増加傾向がみられた(但しFEV1;P=0.07、PEF;P=0.05)。3.対象群ではいずれの測定値も有意な差を認めなかった。【考察】 一般には呼吸筋トレーニングの効果として肺機能の指標は変化しないと言われている。今回の結果ではFVCにおいて改善を認めた。FVCは最大吸気位からの最大呼気量である。FVCの改善のためには吸気量が増える事、残気量が減少することで達成される。これらは胸郭の柔軟性の改善と吸気筋および呼気筋の筋力の増強が因子として挙げられる。胸郭の柔軟性に関してはトレーニングの際は最大吸気位からの最大呼出を指示しているため反復することで通常よりも大きな動きを繰り返した結果胸郭の柔軟性が改善した可能性がある。今回は安静位、最大吸気位、最大呼気位の胸郭拡張差の測定を実施しておらず胸郭柔軟性の改善は検討できていないため今後の検討が必要となる。また、筋力としては2週間のトレーニングでは筋の肥大は起こらないとされているが、神経因性の筋力増強のメカニズムとされている大脳の興奮水準の増加(活動参加する運動単位の数や発火頻度の増加)、拮抗筋の抑制、運動プログラムの改善などが関与した可能性がある。また、今回はマウスピースを使用したハフィングトレーニングのため肺機能検査と同様の運動様式となり特異性の法則により効果的に高められた可能性もある。今回の結果では有意な差は認めなかったもののピークフロー値も増加の傾向があることから効率的な運動が可能となった可能性もある。今後は諸因子の検証とともに低肺機能患者についても検討を加え術前トレーニングの有効性を検討する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果、2週間のマウスピースを使用したハフィングトレーニングは呼吸機能の改善を期待できる。
著者
吉田 裕俊 中井 修 黒佐 義郎 鵜殿 均 山田 博之 大谷 和之 山浦 伊裟吉
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.247-252, 1994-03-25

抄録:腰椎椎間板内に生じる透亮像は,vacuum現象として知られているが,実際には同部は真空ではなく,ガスが存在しているとされている.その発生には,高度に変性した椎間板が関与しているとの報告があるものの,その発生の由来および病態については未だ不明のままである.そこで,腰椎椎間板内ガス像を認める椎間の画像診断上の特徴を検討し,椎間板変性との関係について言及すること,腰椎椎間板内ガスの由来及び病態を考察することを今回の研究目的とした.その結果,腰椎椎間板内ガス像を認める椎間には,椎間板腔狭小化が88%,脊髄造影で,椎間板膨隆が80%,CTで終板破壊が95%,MRI上,終板軟骨下骨輝度変化が76%に認められた.終板の破壊性変化部位に一致したガスの存在や,終板の欠損部にもガスが存在していることから,椎間板内ガスは腰椎伸展などにより生じた椎間板内陰圧部に,椎体内血液から終板を経由し発生したものと考えられた.
著者
イスラム マハメッド シャヒドール 松井 年行 吉田 裕一
出版者
日本生物環境工学会
雑誌
生物環境調節 (ISSN:05824087)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.245-251, 1994
被引用文献数
5

トマト (品種レディファースト) 果実の糖含量と酸性インベルターゼ活性に及ぼす炭酸ガス施用 (700~900ppmv) の影響について検討した.炭酸ガス施用を行った果実のブドウ糖と果糖は無施用区 (250~400ppmv) よりも有意に高かったが, ショ糖では有意差が認められなかった.酸性インベルターゼ活性は可溶性のものが細胞壁結合性のものよりも高かった.開花後50日からのインベルターゼ活性の増大は還元糖含量の増大傾向と一致した.さらに, 炭酸ガス施用を行った果実は対照区のものよりもインベルターゼ活性は高かった.炭酸ガス施用は光合成とインベルターゼ活性の増大を導き, 糖含量および果色を向上させるものと考えられた.
著者
イスラム マハメッド シャヒドール 松井 年行 吉田 裕一
出版者
日本生物環境工学会
雑誌
生物環境調節 (ISSN:05824087)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.185-190, 1995

トマト (品種'レディファースト') 果実の糖含量とショ糖合成・ショ糖リン酸合成酵素活性に及ぼす炭酸ガス施用の影響について検討した.生育申に炭酸ガス施用を行った果実重量, 全糖, 還元糖は無施用区よりも有意に高かった.ショ糖合成酵素活性は開花後50日目まで施肥トマトで高く, その後急激に減少したが, 無施肥区では徐々に減少した.ショ糖合成酵素活性の減少はショ糖濃度の減少を伴った.処理間のショ糖濃度とショ糖合成酵素活性の間に有意差は認められなかった.ショ糖リン酸合成酵素活性は, 生育中比較的一定であった.
著者
新開 省二 藤田 幸司 藤原 佳典 熊谷 修 天野 秀紀 吉田 裕人 竇 貴旺
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.52, no.10, pp.874-885, 2005

<b>目的</b>&emsp;地域高齢者における閉じこもり発生の予測因子をタイプ別に明らかにする。<br/><b>方法</b>&emsp;新潟県与板町の65歳以上の全住民1,673人を対象として 2 年間の前向き疫学研究を行った。ふだんの外出頻度が「週 1 回程度以下」にあるものを閉じこもりと定義し,そのうち総合的移動能力尺度でレベル 1(独力で遠出可能)あるいは 2(独力で近隣外出可能)にあるものをタイプ 2,同レベル 3 以下(独力では近隣外出不可能)にあるものをタイプ 1 と二つに分類した。初回調査時にレベル 1, 2 かつ非閉じこもりにあった1,322人(応答者1,544人の85.6%)について 2 年後の状況を調べ,レベル 1,2 非閉じこもりを維持,タイプ 1 に移行,タイプ 2 に移行,レベル 3 以下非閉じこもりに移行の 4 群に分類した。分析においては,まず,追跡調査時もレベル 1, 2 非閉じこもりを維持していた群を基準として,タイプ 1 あるいはタイプ 2 に移行した群との間で,初回調査時の身体,心理,社会的特性の分布を比較した。次に,多重ロジスティックモデル(ステップワイズ法)を用いて,性,年齢を調整しても有意な関連性を示した変数全てをモデルに投入し,レベル 1, 2 非閉じこもりからタイプ 1 あるいはタイプ 2 に移行することの予測因子を抽出した。<br/><b>成績</b>&emsp;初回調査時にレベル 1, 2 非閉じこもりであったものの 2 年後の状況は,レベル 1, 2 非閉じこもりが1,026人(77.6%),タイプ 1 が22人(1.7%),タイプ 2 が63人(4.8%),レベル 3 以下非閉じこもりが29人(2.2%)であった[追跡不可(死亡等含む)は182人(13.8%)]。タイプ 1 への移行を予測するモデルに採択された変数(予測因子)は,年齢(高い,5 歳上がるごとのオッズ比[95%信頼区間]は2.10[1.36-3.24]),就労状況(なし,4.42[1.21-16.2]),歩行障害(あり,4.24[1.37-13.1]),認知機能(低い,5.22[1.98-13.8])であり,タイプ 2 のそれは,年齢(高い,5 歳上がるごと1.65[1.32-2.06]),抑うつ傾向(あり,2.18[1.23-3.88]),認知機能(低い,2.72[1.47-5.05]),親しい友人(なし,2.30[1.08-4.87]),散歩・体操の習慣(なし,2.21[1.26-3.86])であった。<br/><b>結論</b>&emsp;地域高齢者におけるタイプ 1 閉じこもりの発生には身体・心理的要因が,タイプ 2 閉じこもりのそれには心理・社会的要因が,それぞれ主に関与していることが示唆された。閉じこもりの一次予防に向けた戦略はタイプ別に組み立てる必要がある。
著者
吉田 裕久 難波 博孝 青山 之典 三藤 恭弘 立石 泰之
出版者
広島大学学部・附属学校共同研究機構
雑誌
学部・附属学校共同研究紀要 (ISSN:13465104)
巻号頁・発行日
no.39, pp.207-212, 2010

昨年度は書く活動を取り入れ, 読み手の読みを自覚的にする工夫を行うことで, 日常の読みに転移でき, 活用して, 「解釈・熟考・評価」できる力を育成できるのではないかという仮説を立て, 授業をとおして検証を進めてきた。そして, 「解釈・熟考」段階における読み手の「疑問・予想・確認・吟味」という一連の反応が繰り返されるなかで〈読み〉が形成されるのではないかという一定の知見を得ることができた。しかし, 読みの自覚化のためには, 書くという活動形態をとらない方が有効な場合もあるという課題も明らかになった。そこで, 今年度は書く活動もその一つとして取り入れつつも, それに固執せず, 一連の反応過程を取り入れつつ, 読み手に〈読み〉とその変容を自覚化させるための手立てを見出していくために, 小学校1年生(説明文), 2年生(物語文), 5年生(物語文)において授業実践を行った。各学年の実践を(1)いかなる手立てが, 読みの自覚化として設定されたか, (2)その手立ては, 読みの自覚化や, 日常の読みに活用できるような読む力の育成に寄与していると言えるか, (3)当該学年段階と文種に応じた読む力の育成が果たされているかという観点で評価し, 成果と課題を得ることができた。
著者
吉田裕昭 橋本周司 中村真吾
雑誌
第76回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2014, no.1, pp.627-628, 2014-03-11

強化学習において、入力数が多く複雑なシステムが最適な制御器を獲得する手法の一つとして、モジュール型強化学習が提案されている。しかし、モジュールに用いる入力を決定し、設計を行うのは設計者自身であることから、設計者が学習に関する最低限の知識を有する必要があるなどの問題がある。本稿では、この問題に対して遺伝的アルゴリズムと寄与率という新たな指標を定義することによって自動的にモジュールが組み上がるアルゴリズムを提案する。