著者
佐藤 善輝 小野 映介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.90, no.5, pp.475-490, 2017-09-01 (Released:2022-03-02)
参考文献数
43

伊勢平野中部の志登茂川左岸において,地質調査,堆積物の放射性炭素年代測定および珪藻化石分析を行い,完新世後期における浜堤の地形発達過程を明らかにした.当地域には4列の浜堤が認められ,内陸側の浜堤Iの閉塞完了時期が最も古く,海側の浜堤IVが最も新しい.浜堤Iは,5,700~6,000calBPまでに後背地の閉塞を完了した.浜堤IIは3,300calBP頃に形成を開始し,2,700calBP頃に閉塞を完了した.浜堤IIIは少なくとも1,500~2,200calBP頃までには閉塞を完了した.浜堤IVは現成の浜堤である.浜堤Iの形成時期には,対象地域南方の雲出川下流低地で浜堤の発達が認められない.これは両低地間における埋没平坦面の有無,河川営力の相対的な大きさの違いを反映している可能性がある.また,浜堤IIおよびIIIの形成完了時期は雲出川下流低地と一致しており,1,500~3,000calBP頃にかけて伊勢平野中部の広域でほぼ一様に浜堤の発達が進んだことを示唆する.
著者
小野寺 瑶子
出版者
公益財団法人 史学会
雑誌
史学雑誌 (ISSN:00182478)
巻号頁・発行日
vol.128, no.10, pp.1-26, 2019 (Released:2021-09-02)

18世紀ロンドンでは、都市化の進行をはじめとする社会状況の変化に対応すべく、治安維持機構の改革が進められていた。近年の研究において、18世紀と19世紀の間に一定の連続性が認められる中で、本論文は、中央集権的な警察機構に強い抵抗を感じていたイングランド社会に、いかにして近代警察が導入されるに至ったかについて改めて探ることを目的とした。パーマーによれば、首都警察導入の背景として、騒擾対応において軍隊を用いる機会が増え、警察への抵抗感も薄れていったのであろうと指摘されている。これに対し、筆者は、軍隊と異なる性質を持つ義勇団の治安維持活動に着目し、治安維持組織改革における義勇団の役割と意義を捉え直すことを試みた。 本論において、まず、ロンドン・ウェストミンスタ義勇軽騎兵団及びシティの2つの武装協会を事例に、義勇団の構成並びに財政のあり方について詳しく考察した。結果、義勇団は国からの支援を受けて国と協力関係を結びながらも、日頃から培われてきた地域共同体のネットワークを基盤としていたことが明らかになった。続いて、対仏戦争期の騒擾対応の検討を通して、社会の変化と共に繁雑となった治安業務について、内務省の緩やかな指揮の下、様々な治安維持の担い手が連携しながら、戦時下の新たな社会状況に対処していたこと、また義勇団の参与により、治安判事と治安官を中心とする従来の治安維持組織の不備が補われたことも明らかにした。さらに、議会議事録や下院委員会の報告書の分析を通して、ナポレオン戦争終結後、義勇団の騒擾対応における働きを念頭に置きながら、共同体の自立した住民から成る組織に軍事的規律を導入し、有用性を高める方向で、治安維持組織改革が検討されたことを明らかにした。首都警察成立はその流れの中に位置づけられると共に、リスペクタビリティよりも実践的な有用性を重視した点において従来の治安維持組織と一線を画していたといえる。
著者
小野 昭紘 山口 直治
出版者
The Iron and Steel Institute of Japan
雑誌
鉄と鋼 (ISSN:00211575)
巻号頁・発行日
vol.70, no.10, pp.1377-1384, 1984-08-01 (Released:2009-06-30)
参考文献数
6
被引用文献数
7 5

A new spectrophotometric method for determination of elemental sulfur in blast furnace slag has been developed. The outline of the procedure is as follows. A slag sample is powdered with n-hexane using a disk mill and elemental sulfur in the sample is extracted into n-hexane at the same time. The ultraviolet absorption of the n-hexane layer is measured at 275 nm to determine the quantity of elemental sulfur.By using this method elemental sulfur can be determined with high accuracy, provided the amount is higher than 0.002%. The coefficient of variations at the 0.05 and 0.2% levels of elemental sulfur are 2.3 and 1.4%, respectively. The time required for analysis of one sample is less than 10 min. There is no interference effect for sulfur compounds in the slag sample such as sulfate, thiosulfate, sulfite, sulfide and poly-sulfides.When a slag sample is powdered under the dry condition before the n-hexane extraction, lower analytical values are obtained, because elemental sulfur changes into poly-sulfides by the reaction with Ca components of the slag sample. This chemical change is found to be suppressed by simultaneous performance of powdering and extraction. Based on this technique, an analytical method is proposed and successfully applied to determine elemental sulfur in a slag sample.
著者
石川 雄大 高木 昭佳 梶浦 新也 真鍋 優希子 髙橋 則正 小野 敦央 加藤 敦
出版者
一般社団法人日本医療薬学会
雑誌
医療薬学 (ISSN:1346342X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.1-9, 2021-01-10 (Released:2022-01-10)
参考文献数
24

Chemotherapy-induced peripheral neuropathy (CIPN) reduces patient quality of life, but there is little evidence of preexisting supportive care drugs. Mirogabalin is a novel drug with indications for peripheral neuropathic pain, and its mechanism of action involves strong and selective binding to the voltage-gated calcium channel α2δ subunit. We examined the effects of mirogabalin on CIPN. We followed up 21 patients with CIPN caused by taxanes or platinum-based anticancer drugs who started mirogabalin. A numerical rating scale (NRS) was used for the evaluation, and pharmacists evaluated the mirogabalin dose at its initiation by creatinine clearance in all patients, and no overdoses occurred. Mirogabalin significantly reduced NRS scores from a median of 6 to 2 (P < 0.001), and the median number of days of mirogabalin administration until determination of the best effect was 29.5 days. Furthermore, the median NRS significantly decreased by administration of mirogabalin in both the taxanes-based anticancer drug group and the platinum-based anticancer drug group. In the safety investigation, a somnolence grade of 1 or 2 was observed in 4 patients, an edema grade of 1 or 2 in 4 patients, and an edema grade of 3 was observed in 1 patient. There were no serious side effects that required hospitalization. Our study suggests mirogabalin has a palliative effect on CIPN and may be an important supportive care drug for chemotherapy. Simultaneously, it’s considered that pharmacists evaluate renal function and contribute to proper use, so that patients can expect the maximum drug efficacy after the introduction of mirogabalin.
著者
小野 紘貴 杉野 圭史 渡邉 菜摘 安藤 真弘 蛇澤 晶 坪井 永保
出版者
日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会
雑誌
日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会雑誌 (ISSN:18831273)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1_2, pp.86-90, 2021-10-01 (Released:2022-01-26)
参考文献数
19

症例は 78歳,女性. X年 1月下旬から著明な全身倦怠感,食欲不振が出現し当院消化器科を受診.胸部 -骨盤造影 CTで肺門,縦隔リンパ節の腫大を認め当科へ紹介となった.気管支鏡検査を施行し,気管支肺胞洗浄でリンパ球比率 46.4%およびCD4/8比4 .7と上昇を認めた. #4Rリンパ節からの生検で非乾酪性類上皮細胞性肉芽腫を認めた.頭部 MRI検査で下垂体柄の腫大を認め,内分泌学的検査でLH,FSH,TRH, ACTHといった下垂体前葉ホルモンの低下を認めた.ガリウムシンチグラフィで両側肺門部,縦隔リンパ節,両側涙腺および耳下腺に対称性の集積を認めた.以上から下垂体機能低下症を合併した全身性サルコイドーシスと診断し X年 2月より PSL 60mg/日の内服を開始した.また尿崩症の合併に対しデスモプレシン点鼻を併用した.治療開始後,食欲不振,全身倦怠感は消失し同年 2月の CT検査では両側肺門,縦隔リンパ節腫大は消失し多尿も改善を認めた.
著者
小野 浩二 伊藤 挙 窪山 泉 大木 幸子 椛沢 靖弘
出版者
日本保健科学学会
雑誌
東京保健科学学会誌 (ISSN:13443844)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.35-41, 2004-06-25 (Released:2017-10-27)

東京都の総死亡の月別変動を見ると,1月に極大値を持ち,6〜9月に極小値をとる1年を周期とした明らかな季節変動が認められた。4つの疾患群(悪性新生物,心疾患,脳血管疾患の3大死因及びそれ以外の死因)の中で,心疾患,脳血管疾患,その他の疾患の3群ではほぼ同一の季節変動が認められた。悪性新生物の季節変動は他の疾患群より小さかった。主成分分析を行うと,4つの疾患群に共通した季節変動を表すと見なされる第1主成分と,主に悪性新生物に関係した長期に亘って漸増する第2主成分とが抽出された。第1主成分は全死亡の変動の分散の75.6%を説明した。第1主成分の1月の極大値は年によって大きく異なった。インフルエンザによる死亡の年による増減と第1主成分のピーク値の増減とは明らかな相関が認められた。
著者
小野恭靖著
出版者
新典社
巻号頁・発行日
2010
著者
小野 誠司
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.31-40, 2011-03-05 (Released:2011-05-20)
参考文献数
26

Learning new motor behavior is aided by error signals that occur in association with each attempted behavior. Although sensory error inputs are known to be essential for guiding motor learning, the nature and source of error signals are incompletely understood. Therefore, we applied micro-electrical stimulation in the pretectal nucleus of the optic tract (NOT), which encodes retinal error information during smooth pursuit and sends signals to the cerebellum through the inferior olive. Here we would argue that artificial error information (simulated retinal motion) produced by NOT stimulation could provide instructive signals for visually guided motor learning.
著者
髙橋 司 榊 真智子 管 利大 佐々木 佑佳 小野 愛季 西山 徹 小林 武
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AdPF1007, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 バランスは「質量中心を安定性限界(Limit of Stability: LOS)内に保持する能力」と定義される。また、筋力はバランスの構成要素の一つであるため、筋力低下が生じることでバランス能力が低下する。 バランスに関する先行研究は、立位バランスと姿勢調節筋について述べられているものが多い。主要姿勢筋は、主に安静立位姿勢を保持する役割を担っているが、足圧中心(Center of Pressure: COP)が絶え間なく移動している安静立位では、主要姿勢筋の活動のみでなく、当然足関節背屈筋なども関与している。しかし、足関節背屈筋と立位バランスの関係についての研究報告は主要姿勢筋に比べ数件しかなく、LOSとの関連は報告されていない。 しかしながら、臨床場面では脳卒中や腰椎椎間板ヘルニア、腓骨神経麻痺などによって前脛骨筋(Tibialis Anterior:TA)の筋力発揮が障害される疾患に多く遭遇する。TAの機能不全が立位LOSに与える影響を明確にすることは、臨床場面に有益な情報をもたらすと考える。これらの理由から、本研究はTAの筋力低下が立位LOSに与える影響を明確にすることを目的とした。【方法】 対象は健常男性21名(年齢21.1±1.0歳、身長170.5±5.9cm、体重61.4±6.4kg、BMI 21.1±1.3kg/m2)、対象筋は両側TAとした。測定項目は、徒手筋力計での足関節最大背屈筋力と重心動揺計を用いたクロステストでの足圧中心位置とし、各々TAの筋疲労前後で測定した。筋疲労はクロステスト実施中の筋力回復を考慮し、体重10%の重錘を足背部に負荷して30%以下になるまで背屈運動を行った。クロステストは、閉脚立位にて15秒間の静止立位後、前後左右ランダムにCOPを可能な限り移動させ、その位置を各々10秒間保持させた。疲労前後の平均COP位置を対応のあるt検定を用いて比較・検討した(p<0.05)。【説明と同意】 全被験者に対して実験実施前に本研究の目的・方法について、文書と口頭にて説明し実験参加の同意を得た。【結果】 疲労運動による足関節最大背屈筋力は、疲労前249.2±39.6N、疲労後63.1±27.0Nであり、疲労直後の筋力は疲労前の23.1±5.9%となった。足長と足幅のそれぞれ半分の位置を原点として、x座標は正で右方、負で左方に、そしてy座標は正で前方、負で後方に位置していることを示す。疲労前の静止立位位置は(-1.6±6.0,-12.3±8.3)%。LOSは、前方(-3.9±9.1,43.7±23.3)%、後方(-4.3±7.9,-48.3±23.9)%、右方(38.3±9.3,-10.9±7.2)%、左方(-49.1±9.3,-6.0±10.5)%であった。疲労後の静止立位位置は(-2.7±6.1,-17.2±11.8)%。LOSは、前方(-3.2±6.6,37.3±21.9)%、後方(-5.9±10.5,-38.2±23.9)%、右方(32.5±8.5,-17.9±10.7)%、左方(-38.2±10.6,-16.6±12.2)%であった。疲労前に比べ、疲労後のLOSは、足長・足幅に対して前方:6.9%、後方:10.1%、左方:10.6%、右方:5.8%それぞれ有意に減少した(p<0.05)。 また、疲労後の静止立位時と左右方向での姿勢保持時におけるCOP位置(y座標)は静止立位:4.9%、左方:10.6%、右方:7.0%それぞれ有意に後方へ変位した(p<0.05)。【考察】 TAの筋疲労前後での立位LOSは、疲労前に比べて疲労後は全方向で有意に減少した。また、静止立位時や左右方向での姿勢保持時におけるCOP位置は静止立位、左方、右方、それぞれ有意に後方へ変位した。 COPが前方移動すると母趾側荷重となり、足関節回内位となる。足関節の回内運動は内側縦アーチの降下を引き起こすことになる。後方移動では下腿は後方傾斜し、左右移動では外方傾斜する。 TAは内側縦アーチの保持を担い、閉鎖性運動連鎖では下腿の後方、外方傾斜の制動に関与する。そのため、TAの筋力低下により下腿の後方、外方傾斜の制動作用と内側縦アーチの保持作用の減弱が生じ、LOSが減少したと考える。また、静止立位位置と左右方向のCOP後方変位(y座標)については、足関節戦略での姿勢調節が関係していると考える。静止立位では、ヒラメ筋とTAの持続的な等張性活動によって姿勢を制御している。TAが疲労するとヒラメ筋とTAの筋活動比率が崩れ、TA劣位の姿勢制御となる。そのため、COPの後方変位が生じたと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 臨床場面では脳卒中や腰椎椎間板ヘルニア、腓骨神経麻痺などによってTAの筋力発揮が障害される疾患に多く遭遇する。TAの機能不全が立位LOSに与える影響を明確にすることは、臨床場面に有益な情報をもたらすと考える。