著者
山永 成美 江川 裕人 蛭子 洋介 大澤 良介 小野 稔 剣持 敬 十川 博 名取 洋一郎 日比 泰造 矢野 晴美 芳川 豊史 吉川 美喜子 吉田 一成 湯沢 賢治
出版者
一般社団法人 日本移植学会
雑誌
移植 (ISSN:05787947)
巻号頁・発行日
vol.55, no.Supplement, pp.194_1, 2020 (Released:2021-09-18)

2019年末からの中国武漢での報告後、瞬く間に世界中に拡散した新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)は、現在も収束することなく、2020年8月31日時点で全世界で2500万人以上が感染していると報告されている。COVID-19は、移植医療の在り方に大きな影響をもたらし、世界中の多くの移植施設で、生命に関わる臓器の移植を除き、生体移植を中心とした待機可能な移植は一時停止を余儀なくされた。ドナーからの伝播の可能性、院内感染の可能性、移植患者への感染対応など、様々な状況を想定し、院内のコンセンサスを得ることで、現状では多くの施設が移植医療の提供を再開した。しかし、安心安全な移植医療を提供するためには、COVID-19以前とは異なる、新しい移植医療の様式を実践していく必要がある。また、移植患者は免疫抑制剤を服用しており、ウイルス感染症に脆弱である一方、COVID-19は、感染後期での免疫抑制剤使用による重症化抑制も知られている。相反する病態を理解し、免疫抑制剤調整を含めた移植患者の管理を適切に行うことも重要である。これまでに得られたCOVID-19と移植医療に関する文献的報告をレビューし、新しい移植医療の様式について提言したい。
著者
岡崎 武二郎 高畠 浩 角 ゆかり 梅内 正勝 町田 豊平 小野寺 昭一 清田 浩
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.1-6, 1993-01-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
8

都立台東病院産婦人科でクラミジア陽性と診断された妊婦の男性配偶者で, 1989年8月から1992年5月までに同泌尿器科を受診した149症例を対象として, クラミジア血清抗体検査 (イパザイム®) と抗原検査 (クラミジアザイム®あるいはIDEIAクラミジア®) の2方法でクラミジア検査を行った.149例中90例 (60.4%) は, 抗体検査でクラミジア陽性であった. 抗原検査では, 149例中11例 (7.4%) が陽性を示し, この11例はすべて抗体も陽性であった.抗原陽性11例の患者は, 全例尿道炎の自覚症状はなかったが, 8例は他覚的には尿道炎の所見が認められた. しかし, 3例は自覚的にも他覚的にも正常で, 典型的な不顕性クラミジア感染症であった.今回の検討で, クラミジア抗原陽性症例は少なかったが, 抗体検査では半数以上が陽性であり, クラミジアは不顕性感染で家庭内に侵入していくものと思われた.
著者
遠藤 佳章 小野田 公 久保 晃
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.733-737, 2018 (Released:2018-10-26)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

〔目的〕左右腰椎各レベルの多裂筋横断面積と体組成との相関関係を明らかにする.〔対象と方法〕対象は若年健常男性48名とした.超音波画像診断装置で左右腰椎各レベルの多裂筋横断面積(LM)を測定,InBodyで体組成(体重,BMI,FMI,FFMI,SMI,骨格筋量,左右上肢筋量,体幹筋量,左右下肢筋量)を測定および算出した.身長は身長計にて測定した.〔結果〕体重,身長,右脚筋量は左右全腰椎LMと,BMIは右L3~5,左L4,5のLMと,FFMIは左L4のLMと,SMI,左脚筋量は右L2~5,左全腰椎LMと,右腕筋量,左腕筋量,体幹筋量は右L3~5,左の全腰椎LMと,骨格筋量は右L1, L3~5,左全腰椎LMと正の相関を示した.〔結語〕左右腰椎各レベルの多裂筋横断面積と各々の体組成は関係性が各々異なることが示唆された.
著者
小野 光絵 ONO Mitsue
出版者
総合研究大学院大学文化科学研究科 / 葉山町(神奈川県)
雑誌
総研大文化科学研究 = SOKENDAI Review of Cultural and Social Studies (ISSN:1883096X)
巻号頁・発行日
no.18, pp.73-91, 2022-03-31

尾崎翠(一八九六―一九七一)のテクストでは、小説やエッセイ、詩や座談録といったジャンルを横断する形で、「チヤアリイ」ことチャールズ・チャップリンへの思慕というテーマが繰り返し表象されている。しかし、これらは従来の研究ではほとんど看過されており、充分な掘り下げがなされてこなかった。本稿は、短篇小説「木犀」(一九二九年)を中心に、その重要性に光を当てるものである。映画をめぐる尾崎の複数のエッセイの中で、「影」というキーワードが繰り返し登場する。「影」という言葉を用いて表象されているのは、映画などの媒体を通すことによって生じる一種の異世界の魅力であり、なおかつ、その中で生身の人間とは異なる異世界の存在として見えてくる人物像への強い関心である。「影の世界」に触れ、没入することによって自身の「心のはたらき方までも」が根本から影響を受けるという、単なる娯楽としての消費に留まらない映画鑑賞のあり方が語られる。また、チャップリンについても生身の俳優としてではなく、映画の幕の上の「影の男性」としての魅力が見出されている。以上を踏まえた上で、「木犀」の「私」の恋のあり方について考察を加えた。「木犀」の語り手である「私」は、学生時代の友人「N氏」からのプロポーズを退けたことで「淋しさ」を感じるが、映画館で観た「ゴオルドラツシユ」の「チヤアリイ」に対する好意を語る時にはじめて「恋してゐる」「愛してゐる」という言葉が用いられる。さらに、「私」が強く関心を示しているのは、億万長者となり恋人を得るハッピーエンドを迎えた成功者としての「チヤアリイ」ではなく、むしろその途上における「孤独な彷徨者」に対してである。その上で、彼の姿に「淋しさ」を見出して共鳴を示す「私」自身もまた、「孤独な彷徨者」の性質をそなえた人物であることを指摘した。また、映画が上映終了となった後、「私」は眼前にありありと「チヤアリイ」を思い描き、幻想上の会話を交わしている。ここに表象されるイメージは、映画「ゴオルドラツシユ」のチャップリンのイメージを借用・変形することによって表現された「私」の分身であり、「私」の〈内なる男性像〉の具現化であると、後続の尾崎翠テクストとのテーマの連続性に言及しつつ結論づける。In the texts of Midori Osaki (1896–1971), the recurrent theme of her admiration for Charles Chaplin or “Charlie” appears across her works such as in novels, essays, poetry and records of dialogues. However, this theme has been largely overlooked in previous studies and has not been explored in depth. This article focuses on the theme by making reference to one of her short stories titled Mokusei (Osmanthus fragrans) (1929) and sheds light on its importance.In some of Osaki’s essays on films, the word “shadow” appears repeatedly. This word suggests a sort of otherworldly fascination that emerges from a medium such as film, and her strong interest in the characters who appear in films as otherworldly beings different from actual human beings. She says movie watching is more than mere entertainment. When watching a film, she touches and is absorbed into the “world of shadow”, and even her way of thinking is influenced. Osaki finds Chaplin attractive as a “man of shadow” in a film rather than an actual human being. In light of the above, the author discusses what “I” is and what “my” love is in Mokusei.While “I”, the narrator of Mokusei, feels “loneliness” after declining a marriage proposal from N, a friend from her school days, she says “I am in love” and “I love you” for the first time when she talks about her fondness for Charlie in The Gold Rush, which she saw in the theater.The narrator is more interested in Charlie as a lonely wanderer than Charlie as a successful man who becomes a millionaire and has a happy ending with his lover in the film. The author points that “I”, the narrator, who finds “loneliness” in him and has sympathy for him, is also a person who may be characterized as a “lonely wanderer”.After the film, the narrator has an imaginary conversation with Charlie with a vivid image of Charlie in herself. The author, based on the thematic continuity in Osaki’s subsequent texts, concludes that the image represented in this novel is an alter ego of the narrator, borrowed and transformed from Chaplin’s image in the film The Gold Rush, and is an embodied “male model” in her mind.
著者
小野 佐和子
出版者
社団法人 日本造園学会
雑誌
造園雑誌 (ISSN:03877248)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.55-60, 1984-03-30 (Released:2011-07-19)
参考文献数
57
被引用文献数
3

自然と人間との遊びを媒介としたかかわりをさぐる一助として江戸時代の園芸植物の流行現象を考察した。江戸時代のたび重なる園芸植物の流行は, 奇品-通常とは異なる珍しい植物の嗜好を大きな特徴とするか, そこでは, 奇品は自然が人間の助けをえて作り出す傑出した作品であると考えられた。また奇品の流行には競争及び賭の要素を, 流行の背景には武家と植木屋の積極的な関与の存在を認めることができる。
著者
長井 真弓 釼明 佳代子 桂 理江子 小野部 純 小林 武
出版者
東北文化学園大学医療福祉学部リハビリテーション学科
雑誌
東北文化学園大学医療福祉学部リハビリテーション学科紀要 : リハビリテーション科学 = Rehabilitation science : memoirs of the Tohoku Bunka Gakuen University Faculty of Medical Science & Welfare, Department of Rehabilitation (ISSN:13497197)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.33-39, 2022-03-31

2020年度の一般企業による新規卒業者採用は,COVID-19感染拡大の影響を受け,採用時期が例年よりも遅かった.しかし,理学療法学生の就職活動状況に変化があったのかは不明である.そこで,学生の就職活動状況と養成校に届いた求人件数を2019年度と比較した.2019年度と2020年度に東北文化学園大学理学療法学専攻に4年次生として在籍し,アンケートに回答した95名のデータを分析した.2019年度,2020年度ともに95%以上の学生が医療機関から内定を得ていた.2020年度の内定月の最頻値は2019年度よりも1ヶ月遅く,第一希望施設から内定を得た学生割合も2020 年度の方が少なかった.求人件数についても2020年度は,2019年度よりも約80件少なかった.内定時期が1ヶ月遅かったことと第一希望施設から内定を得られなかった学生が多かったことは,緊急事態宣言などの影響により早期に募集定員が満たされたことも原因と推察され,2020年度の就職活動状況は少なからずCOVID-19による影響を受けたと考えられる.
著者
崔 煌 権藤 恭之 増井 幸恵 中川 威 安元 佐織 小野口 航 池邉 一典 神出 計 樺山 舞 石崎 達郎
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.5-14, 2021-04-20 (Released:2022-04-26)
参考文献数
38

本研究の目的は高齢者の社会参加と主観的幸福感の関連において,ソーシャル・キャピタルがどのような役割を果たしているのかを明らかにすることである.地域在住高齢者のデータ(74〜78歳,N=624)を分析した結果,社会参加と主観的幸福感の関連は認められないが,4種類の社会参加のなか,地縁組織への参加は主観的幸福感と統計的に有意な関連があること,また,ソーシャル・キャピタルへの認識と近所の人の数を介した間接効果があることが確認された.この結果から,社会参加の種類によって主観的幸福感との関連が異なり,地縁組織への参加はソーシャル・キャピタルを介して主観的幸福感に影響を与えることが明らかになった.
著者
菓子野 元郎 漆原 あゆみ 児玉 靖司 小林 純也 劉 勇 鈴木 実 増永 慎一郎 木梨 友子 渡邉 正己 小野 公二
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第51回大会
巻号頁・発行日
pp.209, 2008 (Released:2008-10-15)

我々は、DMSOによる放射線防護効果が、放射線による間接作用の抑制ではなく、DNA-PK依存的なDNA二重鎖切断修復の活性化によりもたらされているという仮説の検証を行った。細胞は、マウス由来細胞のCB09、及びそのDNA-PKcsを欠損するSD01を用いた。DMSOの濃度は、1時間処理しても細胞毒性がなく、放射線防護効果が大きく現れる2% (256 mM)とした。DMSO処理のタイミングは、照射前から1時間とし、照射直後にDMSOを除いた。放射線防護効果については、コロニー形成法による生存率試験及び微小核試験法を用いて調べた。DMSO処理細胞により放射線防護効果が現れることが、CB09細胞の生存率試験により分かった。微小核試験においても、同処理により、微小核保持細胞頻度が有意に抑制された。これに対して、DNA-PKcs欠損細胞(SD01)では、同処理による放射線防護効果がほとんど見られなかった。DNA-PKの有無がDMSOによる防護効果の機構に関わる可能性が考えられるので、照射15分後から2時間後までDNA二重鎖切断修復の効率を解析した。その結果、DNA二重鎖切断部位を反映すると考えられる53BP1のフォーカスの数は、照射15分後ではDMSO処理により約10%減っていた。これに対し、照射2時間後ではDMSO処理により約30%のフォーカス数の減少が見られ、照射15分後よりも2時間後に残存するDNA二重鎖切断の方が、DMSO処理により大きく軽減されることが分かった。これらの結果は、放射線照射により誘発されたDNA二重鎖切断生成がDMSOにより抑制されるわけではなく、照射直後からスタートするDNA-PKcsに依存したDNA二重鎖切断修復機構がDMSOの照射前処理により効率よく行われている可能性を示唆している。
著者
菓子野 元郎 鈴木 実 木梨 友子 増永 慎一郎 小野 公二 渡邉 正己
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.231, 2007 (Released:2007-10-20)

放射線照射された細胞では、活性酸素種などの短寿命ラジカルが大量に生成し、それらがDNA損傷をはじめとする様々な障害を誘発すると考えられている。DMSOは、照射に伴い生成するヒドロキシラジカルを軽減させ、放射線防護効果を示すと理解されているが、DMSOの作用は多岐に渡るので、DMSO処理細胞が如何にして放射線防護作用を示すのかは、依然、不明な点が多く残されている。そこで我々は、細胞毒性と酸化ストレス抑制作用をほとんど示さない0.5% DMSOで処理された細胞の放射線防護効果について検討を行った。その結果、0.5%DMSOで処理されたCHO細胞は、放射線により誘発する微小核生成が抑制され、生存率の上昇が見られた。しかし、興味深いことに、Ku80を欠損し非相同末端結合能に異常を持ち放射線高感受性を示すxrs5細胞では、同様のDMSO処理により放射線防護効果が見られなかった。DNA-PKcs欠損マウス(Scid)細胞でも、DMSO処理による防護効果は見られなかった。このことは、DMSOによる放射線防護効果が、DNA二重鎖切断修復機構と関連していることを示唆している。さらに、DNA二重鎖切断部位を反映すると考えられる53BP1のフォーカス形成を調べたところ、照射15分後における53BP1フォーカス数は、0.5%DMSO処理細胞と未処理細胞で変わらなかった。一方、照射1時間後から2時間後にかけて、DSBの修復に伴う53BP1フォーカスの消失が見られたが、0.5%DMSO処理細胞の方が未処理細胞に比べ、その消失速度が早いことがわかった。これらの結果は、DMSOによる放射線防護効果が細胞内活性酸素種の軽減効果に起因するものではなく、非相同末端結合修復をはじめとするDNA二重鎖切断修復機能の活性化に起因している可能性を示唆する。
著者
小野 尋子 清水 肇 池田 孝之 長嶺 創正
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.72, no.618, pp.49-56, 2007-08-30 (Released:2017-02-25)
参考文献数
19

This paper aims to clarify the today's OKINAWAN folksy disciplines, at OROKU district which has been requisition by Army in NAHA City. Research methodologies are interview, document analysis and interpretation of an aerial photograph. The evaluate the appropriateness for case study, first, we draw a comparison between requisitioned settlements and others in folkways. Accordingly, there are really not much difference between two kinds of settlements. Second, we trace requisitioned settlements' history of sacred spots and colonial morphology. Results are followings; 1.Inhabitants has been regarded hilly land as a sacred cow. 2. Settlement's meeting house has been recognized as important facilities. 3. 'Utaki' and other Okinawa's sacred spots has been treasured, but change in shape and quality. 4. The hierarchy between head family and cadet family is decreesing. 5. The south facing street pattern was changed back to back pattern
著者
小野 雄大 友添 秀則 長島 和幸 根本 想
出版者
日本スポーツ教育学会
雑誌
スポーツ教育学研究 (ISSN:09118845)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.15-30, 2016-11-30 (Released:2017-04-03)
参考文献数
34

Previous research has shown that physical education was introduced to young men’s associations through the strong encouragement of Giichi Tanaka. However, there has not been sufficient research on how Tanaka promoted physical education to young men’s associations or specifically what kind of plans were set forth.Accordingly, this study aims to clarify in detail the concept of promotion of physical education to young men’s associations.As a result, the following points were clarified:1) Tanaka positioned youth education in France, Russia and Austria as single-minded military school education and while he recognized its usefulness, he perceived it as negative. Meanwhile, he perceived German youth education favorably as discipline for the body and mind as a prerequisite to activities in the military.2) In the backdrop of German youth education as a model, Tanaka had a sense of impending crisis with respect to the current state of youth education in Japan which was in a trend of implementing excessive military style education. Based on these points, the education in Tanaka’s concept was, at least, positioned as activities in order to become healthy in terms of both stamina and spirit.3) The promotion of physical education to the youth was, for Tanaka, keeping in mind the combination of military education and national education, an experiment that required strong and healthy spirits and bodies as a basic prerequisite for the promotion of national power and war potential at time of generalized war as well as an expansion of military training.
著者
原口 仁美 石崎 仁弥 西島 涼 橘 竜太郎 小野内 雄 松岡 健
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1273, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】黄川らはスポーツ活動時の体重支持における大腿四頭筋の重要性から,体重当たりの膝関節伸展筋力を体重支持指数(weight bearing index:以下WBI)として表わすことを提唱し,以後,WBIは下肢傷害予防やトレーニング処方をするための客観的な筋力評価方法として応用されている。また,山本らは立ち上がり動作を用いた下肢の筋機能評価法を考案し,WBIと立ち上がり動作に高い相関があると報告している。そのため臨床では,身体能力判定目的で膝伸展筋力測定を行う場面が多い。しかしながら,各種トレーニング,動作訓練等を行っても,実際の歩行・ADL場面になると,獲得した筋力が動作遂行に繋げられず苦慮するケースが多い。山中らによると足底の感覚が敏感で,中殿筋・大腿四頭筋・腓骨筋の筋力が強いほど,片脚立位姿勢が安定していたとしており,筋力と感覚には強い相関があると報告している。また,弘瀬らは,立位姿勢は視覚・前庭・体性感覚系からの感覚入力に基づき頚部・体幹・四肢の抗重力活動によって行われていると報告している。そこで,末梢(足底)知覚の詳細なテストが可能な,モノフィラメント知覚テスターを用い,知覚異常の有無と膝伸展筋力および片脚時間との関係について検証したので報告する。【方法】対象は平衡機能,下肢・体幹機能に問題のない男女20名(男性13名,女性7名)とした。また対象者に表在感覚検査(酒井医療株式会社社製,モノフィラメント知覚テスター)を施行し,知覚異常を認めた10名(平均年齢26.67歳,平均身長168.89cm,平均体重63.33kg),知覚異常を認めなかった10名(平均年齢24.80歳,平均身長167.30cm,平均体重64.00kg)の2群に分けた。異常のない群をI群,異常を認めた群をII群とした。表在感覚の評価として,腹臥位になり足部をベッドから出した状態で,足底にモノフィラメントが軽くたわむ強度で刺激を加え,3回の刺激のうち一度でも感じたものを正常とした。また足底の7箇所を刺激部位とし,それぞれ番号を付け,その部分に刺激を感じたらその番号を言ってもらうように指示した。フィラメントはNo.2.83(Green),No.3.61(Blue),No.4.31(Purple),No.4.56(Red),No.6.65(Red)の5本を使用した。片脚立位時間の計測は,平行棒内で上肢の支持をなくし,開眼・利き足(ボールを蹴る足)にて30秒を上限として2回測定し,最高値を採用した。膝伸展筋力は下腿下垂した端坐位,体幹垂直位で5秒間の最大等尺性収縮筋力を2回測定し,数値の高い方を採用した。測定にはハンドヘルドダイナモメーター(アニマ社製,等尺筋力測定装置μ-Tas F-1)を使用し,最大値を体重比百分率(%)に換算して行った。測定に際し,代償を防ぐため上肢は腕組みとし,対側足底は床面接地させた状態で測定を行った。統計処理にはSPSSを用い,群間の比較には対応のないt検定を,膝伸展筋力と片脚立位時間の関係にはPearsonの相関係数を用い,有意水準は5%未満とした。結果は平均±標準偏差で表記した。【倫理的配慮,説明と同意】全ての被験者には動作を口頭で説明するとともに実演し,同意を得たのちに検証を行った。【結果】年齢,体重,身長に両群間で有意差は認めなかった。膝伸展筋力はI群(平均57.21±13.40),II群(平均67.53±17.91)でありI群が有意に高値を示した(p<0.05)。I群の膝伸展筋力と片脚立位時間(平均36.09±23.47)で中等度の相関(r=0.561,p<0.01)を示した。またII群の膝伸展筋力と片脚立位時間(平均40.81±20.88)に高い相関(r=0.794,p<0.01)を示した。両群間の片脚立位時間に有意差は認めなかった(p<0.15)。【考察】感覚障害の有無が,膝伸展筋力,いわゆる筋出力に影響を及ぼしている事が示唆された。これは,筋力評価・トレーニングを行う場合には,末梢からの入力系障害についても考慮する必要性があることを示す結果となった。また,膝伸展筋力と片脚立位時間で高い相関を示した事は,感覚機能を代償するために筋力に依存している事を示しており,先行研究と同様の結果であった。今後は,性差・年齢による変化の有無,知覚異常部位との関連性についても検証したい。【理学療法学研究としての意義】知覚異常を有する群で,膝伸展筋力と高い相関を示したことから,膝伸展筋力に依存することが示された。これは,足底知覚異常検査を行うことの必要性を示すものである。筋力評価・トレーニングを行うにあたり,出力系に主眼をおく方法だけでなく,入力系の評価・トレーニングも重要であると考える。今後,運動器疾患のみでなく,多くの臨床の場で検証を深めたい。