著者
長崎 二三夫 山本 毅也 北方 健作 脇坂 昇
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.5-16, 2014-04-25 (Released:2017-08-10)

はじめに オオムラサキは,最も大きなタテハチョウの1種であり,日本,朝鮮,中国,台湾等に分布している.通常年1化で,幼虫越冬をする.翅表は黒褐色を基調に,♂は翅表の基部を広く紫色が被い,♀では紫色を欠く.日本のオオムラサキの♂の翅表については,紫色が少し薄い北海道から黒みを帯びる九州まで,微妙な地方変異が知られている.海外に目を転じると,台湾において青く輝くオオムラサキが知られており,また最近,長野県産の輝きの強い個体が提示されており(小舘,2009),これも青いオオムラサキの1型である可能性が高い.著者の一人は大分県北部から1頭の青みを帯びた輝きの強い♂を飼育により得ている.そんななかで滋賀県の同好者の間で(ブルー)と呼ばれているオオムラサキの存在を聞くに及んだ.同産地の越冬幼虫をたまたま累代飼育していたところ,青いオオムラサキの出現を記録し,遺伝形式を解明すべく累代実験を行うこととした.最初の越冬幼虫は,2005年に滋賀県の鈴鹿山地より得たものである.飼育はそれぞれの著者の庭に植えてあるエノキを用い,ナイロンネットの袋掛けを行い,越冬幼虫を4月のエノキの芽吹きに合わせて放ち行った.成虫の羽化後♂は約10日経ち成熟してから,♀は羽化後2日目から7日目までを交配に用いた.交配はハンドペアリング法で行った.採卵はエノキの袋掛けネット内で行った.12月上旬に越冬幼虫が木を降りる頃を見計らい回収し,土を入れた植木鉢に保管した.2005年12月に野外採集で得られた越冬幼虫からF2世代まで3世代累代して青い異常個体を得,その後出現した青い異常型個体から世代を重ねて純系作成を試みた.内交配を繰り返し,得られる翅色彩についてすべての組み合わせによるペアリングをして,純系の作成を目指した.一腹から得られた次世代の全個体が青色異常型となった後には,純系であることの確認のために純系個体同士の交配を行った.青い異常型が出現する遺伝形式を見極めるために,青純系と新たに野外から得た幼虫より羽化した正常型との間で交配実験を計画した.2010年原産地より5km離れた地点から得た30頭の正常型と青純系の2頭の♂,2頭の♀との間で4組の交配を行った.飼育結果 1.青い異常型個体の出現 Table 1の通り,2005年12月採集の同一産地に由来する正常型の1♂1♀を交配し,内交配による累代飼育の結果,2008年6月に3世代目として羽化した3頭の♂のうち2頭が青く輝く異常型であった.2.青の純系の作成の試み 累代を続けた結果,3世代後の組み合わせの一つから羽化した♂は,30頭すべてが青で,F5世代で青の純系が誕生したことが示唆された.これらが本当に純系であるかどうかの確認を行うため,純系と思われる2家族同士の交配を2011年6月から7月にかけて行った.翌年2012年6月から7月にかけて,Cross11#1,#2それぞれから38頭と91頭の青の♂のみが羽化し青の純系であることが確認された.3.青純系と野外の正常型との交配実験 前節で得られた青の純系♂と♀を,野外の正常型と交配させた.これらの4組の組み合わせから,翌年2012年6月から7月にかけて,正常型の紫の♂46頭のみが羽化した.青が1頭も羽化しなかったことより青は劣性であることが強く示唆され,羽化した♂,♀ともすべて青の遺伝子をヘテロの状態で保持していると考えられた.最後に2012年7月に上記のF6-3,4,5,6同士の間で交配を行った.すなわち青のヘテロ同士で交配を行ったことになる.2013年6月から7月にかけてCross12#1-4のそれぞれから青と紫の両方が羽化した.上記の交配に用いた両親は,いずれも青に関してはヘテロでありまた青の遺伝子は劣性と想定していたので理論的に導かれる交配の結果は次のようになるはずである.♂Aa x ♀Aa→AA+2Aa+aa→3紫+1青 ここでA:優性の紫の遺伝子 a:劣性の青の遺伝子 AA:ホモの紫 Aa:ヘテロの紫 aa:ホモの青 すなわち理論的には青対紫の分離比は1:3であり,青出現率は0.25(1/4)のはずである.そこで実験結果につき統計学的検討を行うこととした.Cross12#1-4それぞれについて理論的な分離比から仮定される青出現率(p_0)に対し実験で得られた比率(p)が有意に異なるかを正規近似を用いて検定したところ,4組ともメンデル遺伝の理論分離比で劣性遺伝すると判断された(Z検定:Cross12#1-4それぞれ|Z_0|=0.425,p=0.67;|Z_0|=0.994,p=0.32;|Z_0|=0.478,p=0.63;|Z_0|=0.266,p=0.79).考察 以上の飼育実験より青い異常型はメンデルの劣性遺伝をすることが確かめられた.飼育実験を重ねるうちに集積された標本を検討すると,青の青さにスカイブルーから比較的暗いダークブルーまで,連続した微妙なバラツキのあることに気付いた.青と正常型の決定的な違いは,青は斜めに傾けて翅表を観察すると強く金属的に輝くことである.この金属色は構造色とよばれ鱗粉の微細構造に由来するものである.正常型オオムラサキの鱗粉は大きく2種類に分けられ,そのうちの1種類が櫛状構造に外皮様のヒダが何層にも重なってついており,これが構造色を生み出しているという(Matejkov-Plskova et al.,2009).鱗粉の櫛状構造の櫛についている多数のヒダの間隔が正常型では103nmに比し青では169nmと広く,この広いことが光学的研究により,青く輝く原因となっていることが突き止められている(永井ら,2009).この間隔が169nmより少し狭いと,濃い青へ,広くなるとスカイブルーの方ヘバラツクのではないかと想像される(吉岡,私信).スギタニ型にも青い遺伝型が出現し,スギタニ型での青はギラツキ感がやや弱く,また青みが暗い傾向がある.これらの微妙な変異をまとめてFig.7からFig.38まで提示してみた.連続した変異が理解されるものと思う.青い異常型の存在は,各地でささやかれてきた.先に示した大分県をはじめとして,福岡,京都,山梨からは報告は無いものの知られており,栃木,北海道からは最近報告されている.栃木県の報告では,同一のエノキから得られた8頭の越冬幼虫より青が2頭出現しており,遺伝の関与を示唆している(瀬在,2012).北海道では2011年と2012年のオオムラサキの大発生の年に,計6頭の青い異常型が採集されたと報告しており(上野・高木,2013),それぞれの年に,500〜600頭のオオムラサキが容易に捕獲できたとのことである(高木,私信).そうであればおおざっぱであるが,青の出現率は約0.5%(6頭/600×2年)となり極めて稀であることが理解される.オオムラサキは、蝶の愛好家の間では最も人気ある蝶の一つであり,過去半世紀以上数知れぬ越冬幼虫が飼育されてきた蝶である.にもかかわらず青い異常型の報告は,上記のように最近の数例しかない.それほど稀な型ということであろう.この青い異常型は極めて稀で,分布が限られており,保護が計られねばならない.その理由で詳しい産地の公表は控えさせていただいた.その一方で保護の目的で著者たちは累代の努力を継続中である.
著者
峪 道代 住田 恵子 井脇 貴子 山本 基恵
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.131-139, 1994-12-25 (Released:2009-11-18)
参考文献数
22

大阪府立母子保健総合医療センターにおいて出生した超未熟児の学齢期における言語能力検査を実施した.対象児44名(男20名,女24名)の出生体重の平均は871.6g(SD 158.9),在胎週数の平均は27.2週(SD 1.9)であった.検診時の年齢は7~9歳で,合併障害をもつものが14名含まれていた.知能検査が実施できた43名の平均知能指数は94.4(SD 16.4)で正常範囲内であった.語彙指数の平均は理解86.8(SD 17.3),表出88.1(SD 16.0)で同年齢児に比べて有意に低い成績を示した.口腔器官運動は,巧緻性は低いがoral diadochokinesisは同年齢児と比べて差はなかった.構音の成熟に遅れを示したものは多かったが,特徴的な構音の誤りは認められず,構音障害の出現率は同年齢児と差がなかった.これらの結果は,過去に報告された同様の研究結果と一致するところが多かった.同時に行われた心理,耳鼻科など他領域の検診結果との関連を検討することが今後の課題である.
著者
後藤(山本) 奈美 DANG Hong Anh
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.101, no.12, pp.949-956, 2006-12-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
19

実験室酵母を用いた実験で, ALD2, ALD3, 及びACH1の遺伝子破壊は, 発酵条件での酢酸生成に影響しないことが示された。また, ACS2の高発現は酢酸生成を抑制したが, アルコール発酵も阻害した。既報のとおり, ALD6の破壊は酢酸生成を減少させたが, ピルビン酸を高生産しており, これは還元力の不足が原因と考えられた。以上のことから, 酢酸の生成には代謝系の酵素活性の他, 酸化還元バランスの維持が強く関わっていることが推察された。
著者
森田 拓也 土橋 宜典 山本 強
雑誌
研究報告コンピュータビジョンとイメージメディア(CVIM)
巻号頁・発行日
vol.2012, no.9, pp.1-6, 2012-11-26

近年,流体シミュレーションを利用した映像生成が盛んに行われている.本稿ではとくに爆発現象の映像生成に着目する.流体シミュレーションを利用した爆発現象の映像生成を行う手法はいくつか開発されているが,いずれにおいても多くのシミュレーションパラメータを設定する必要があり,所望する形状を持つ爆発の生成は困難である.そこで本研究では,所望の爆発アニメーションを容易に生成することができる制御システムを提案する.提案手法では,爆発規模最適化ステップと爆発形状編集ステップの 2 段階による制御を行う.提案システムを適用することで,ユーザが所望する形状に従って制御された爆発アニメーションを生成することができる.Recently, many methods for creating fluid animation based on fluid simulation have been proposed. We focus on the simulation of explosions. Some methods for simulating explosion were already developed. Although these methods can create realistic shapes and movement of explosions, the resulting shapes and motion depend on many simulation parameters. Therefore, it is very difficult to create the explosions with desired shapes. In this paper, we propose a system for controlling explosion shapes towards desired shapes. Our system consists of the following two steps: scale-optimization step and shape-editing step. Using the proposed system, the animation of explosions controlled into specified shapes can be generated.
著者
坂田 悍教 佐藤 雄二 藤縄 理 新藤 良枝 須田 桃子 上原 美子 北沢 潤 岩田 真一 山本 眞由美
出版者
埼玉県立大学
雑誌
埼玉県立大学紀要 (ISSN:13458582)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-8, 2004
被引用文献数
1

中学1年生、男子91名、女子88名、179名を対象に運動、食生活、日常生活習慣と骨量についての関連を検討した。骨量の測定は、超音波骨量測定装置を使用、右踵骨で測定した。骨量は、女子が男子に比較して有意に高値を示した。男子の骨量は身長と正の相関示したが、女子では骨量と体格の間に相関は認められなかった。骨量と食生活習慣では、女子の肉類摂取で影響が見られたが、牛乳、魚、生野菜、豆類、スナック菓子、炭酸飲料、コ-ヒ-類の摂取状況の相違による骨量の差は男女とも見出せなかった。女子において運動の有無、徒歩通学時間は骨量への影響因子となったが、男子では関連を示さなかった。中学1年(12歳)の骨量は、多様性がみられ、発育を加味した縦断的な調査・研究が必要と考えられた。
著者
山本 由徳 濃野 淳一 新田 洋司
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.p601-609, 1994-12
被引用文献数
3

約1/1000aポットに直播栽培した水稲主稈の第2節から第11節の範囲で, 下位, 中位, 上位節に1次分げつを1節のみ, 2節あるいは4節残存させ, 株当り分げつ穂数を20本とし, さらに残存節数が同じ区では, それらの次位別構成を同一とした条件下で, 主稈の節位別, 次位別分げつの子実生産力について検討した. 1) 主稈の生育, 収量(穂重)は, 残存節数が少なく, 残存節位が上位であるほど優った. 2) 同一残存節数区の1次分げつの平均1穂重は, L位>中位>下位節の順に優った. 2次分げつの平均1穂重は, 1節および2節残存区では中位>上位>下位節の順に, また4節残存区では上位=中位<下位節の順に重くなった. 3(4)次分げつの平均1穂重は, 1節および2節残存区では中位>下位>上位節の順に, また4節残存区では中位=上位>下位節の順に重くなった. これらの結果, 全分げつの平均1穂重は1節, 2節および4節残存区でそれぞれ中位>下位>上位節, 中位>上位>下位節, 上位>中位>下位節の順に重くなり, 分げつの子実生産力は出現時期が早く, 栄養生長量の優る下位節ほど優るという傾向はみられなかった. 3)1次分げつの1穂重は穎花数と密接に関係し, 1穂穎花数は茎の生理活性をより直接的に示すと考えられた葉鞘からの葉身抽出速度(cm/日)と非常に高い有意な正の相関関係を示した.
著者
山本 喜久
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.60, no.12, pp.928-934, 2005-12-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
31

本稿では, 物理学と工学の境界領域で量子力学が本質的な役割を演じ, そして成功を収めたいくつかの事例を取り上げる.具体的には, 核磁気共鳴, レーザー, 量子情報, の3つの分野を概観する.この3つの分野に着目したのには2つの理由がある.その第一は, 過去60年にわたって, 時系列的に発展してきたこれら3つの分野の基本概念・原理には驚くほど共通するものが多いことである.第二の理由は, これらの分野で基礎研究から応用へ至る道筋で, 新しい時代を切り開いてきた研究者間のバトンタッチのあり様にも, やはり共通したものがあり興味深いからである.
著者
井沢 邦英 瀬川 徹 門原 留男 岩田 亨 山本 正幸 佐々木 誠 矢次 孝 松元 定次 江藤 敏文 元島 幸一 角田 司 土屋 涼一
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.23, no.12, pp.2757-2763, 1990-12-01
被引用文献数
10

肝細胞癌自然破裂18例について病態, 治療法, 予後を検討した. 教室経験した肝細胞癌の 7.1% を占め, このうち11例 (61%) が出血性のショック状態を呈していた. 治療法は, 1期的根治的肝切除が5例で, 1例が術死の外は, 4例が1年以上生存し, そのうちの1例は7年3ヶ月の現在生存中である. 姑息的治療は6例で, 破裂部肝部分切除あるいは破裂部縫縮が3例, 肝動脈塞栓術 (以下 TAE) 2例, 肝動脈枝結紮1例で, すべてが両葉多発であった. 術死が2例, 最長生存期間は5ヶ月18日であった. 全身管理のみで, 破裂に対し処置が出来なかったものは7例で, 自然止血後の2ヶ月目肝不全死が最長生存であった. 検査値ではコリンエステラーゼ, 血小板数, プロトロンビンタイムで肝切除群と姑息的治療群, 無治療群の間に有意差がみられた. 切除可能であるならば可及的に切除することにより長期生存が期待されると考えられた.
著者
山本 利一 中圓尾 陸
出版者
日本教育情報学会
雑誌
教育情報研究 (ISSN:09126732)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.23-30, 2016 (Released:2017-05-01)
参考文献数
10

近年,学習者が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティブ・ラーニング)への転換が求められている.本研究は,それらの学習過程を支援するICTの環境を構築し,それらの活用の効果を提案するものである.ICTの環境については,予算的な制約もあり,目的を定めた機器の選定と教室設計が大切である.本システムは,アクティブラーニングを支援する観点から,机と椅子の一体型の移動可能な「ノード」を導入することで,様々な学習形態に対応することを可能にしている.一斉学習の机配列から,個別,グループ学習へ瞬時に対応できる.画像提示は,三連式のプロジェクターとミキサーで入出力を制御するもので,同時に4入力(1入力はネットワークを活用した無線)に対応しており,3台のプロジェクターから4つの画面を提示することができる.また,1画面は,電子黒板機能を有している.これらの学習環境で講義を行い,それらの評価とICTに対する院生の意識調査の結果を報告する.
著者
山本 佳久 鈴木 豊史 深水 啓朗 鎌野 衛 伴野 和夫
出版者
一般社団法人日本医療薬学会
雑誌
医療薬学 (ISSN:1346342X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.7, pp.691-698, 2008 (Released:2010-02-07)
参考文献数
22
被引用文献数
1 2

We determined the adhesion loss in a metering glass for 9 types of syrup for infants,and investigated the relationship between the adhesion loss and the rheological properties of the syrups.There was a good correlation (r2=0.981)between the viscosity of the syrups and percentage syrup residues on the metering glass.Further,from the viewpoints of accuracy and efficiency in dispensing,our finding that percentage residues for a dispenser were much lower (<0.15%) than for the metering glass suggested that it was better to use a dispenser for dispensing viscous syrups with a viscosity of at least 50-60 mPa·s.The results of our examination of syrup viscosities in the present study are expected to be useful information for their administration,and to contribute to the establishment of dispensing procedures based on scientific evidence.