著者
塩沢 昌 田野井 慶太朗 根本 圭介 吉田 修一郎 西田 和弘 橋本 健 桜井 健太 中西 友子 二瓶 直登 小野 勇治
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.323-328, 2011 (Released:2011-08-29)
参考文献数
4
被引用文献数
28 31

福島第一原子力発電所事故で放射性物質が多量に降下してから約2か月後に,耕起されていない水田の深さ15cmまでの表土を厚さ1~5cmの6層に分割してサンプリングし,放射性セシウム(134Csと137Cs)の鉛直濃度分布を求めた結果,放射性Csの88%が0~3cmに,96%が0~5cmに止まっていた。しかし,量的に大半は表面付近に存在するものの,15~20cmの層まで新たに降下した放射性Csの影響が及んでいた。濃度分布から求めた放射性Csの平均移動距離は約1.7cmで,70日間の雨量(148mm)から蒸発散量を引いて体積含水率で割った水分子の平均移動距離は約20cmと推定され,土壌への収着により,Csの移流速度は水の移流速度に比べて1/10であった。しかし,文献にみられる実験室で測定した収着平衡時の土壌固相と土壌水との間の分配係数から計算される移流速度よりは2~3桁大きく,現場の移動現象が収着平衡からほど遠いことを示している。一方,耕起された水田では,表層の高濃度の放射性セシウムが0~15cmの作土層内に混合されて平均値(約4000Bq/kg)となっていた。
著者
橋本 健一
出版者
千葉県立衛生短期大学
雑誌
千葉県立衛生短期大学紀要 (ISSN:02885034)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.21-25, 1987
被引用文献数
1

DANILEVSKY(1961)の総説によれば,アオムシコマユバチApanteles glomeratus L.は,多化性のオオモンシロチョウPieris bΓassicae L.を宿主としたときは比較的低温でしかも短日の条件のときに前始期での休眠に入るが,1イヒ性のエゾシロチョウAporia cratagei L.に寄生した場合は1令期に宿主の休眠幼虫体内で越冬し,春になってエゾシロチョウ幼虫の休眠が終了しない限り,活性化されない。一方,日本ではアオムシコマユバチ(以下ハチと略記)はモンシロチョウP. rapae crucivora BOISDUVAL幼虫(以下アオムシと略記)を主要な宿主としている。著者は,10〜11月に野外で採集したアオムシから脱出・営繭したハチ繭が25℃全暗の条件下で脱出後8〜12日めに羽化してしまうことから,少なくとも東京地方ではアオムシを宿主とするハチは休眠状態に入らずに越冬していると考えられることを報じた(橋本, 1981)。しかし,TAGAWA et. al(1984)が,京都付近のキャベツ圃場より11月および2月に得たハチ繭は前蛹での休眠に入っていることを報じ,さらに,石井他(1987)は本種の休眠要因として,アオムシ体内で寄生時代に経験する低温が重要であることを報告した。そこで,千葉市産の本種個体群を用いて前蛹休眠および休眠誘起条件について実験を行ったところ若干の知見を得たので報告したい。
著者
橋本 健二
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.127-139,en308, 1984-09-30 (Released:2011-03-18)

The purposes of this paper are to outline Marxist approaches in the sociological study of education taken initiative by S. Bowles in 1971, to point out problems to be solved in them, and to find direction to overcome them.There are three major question in the theory of Bowles and H. Gintis:(1) Instrumentalist view of public educational institutions, (2) Underestimation of economic functions of them, (3) Overestimation of reproductive functions of them. They dealt with the problems of reproduction of capitalist mode of production as far as public educational institutions took part there, and failed to locate them in the whole processes of the reproduction. Furthermore, they regarded public educational institutions as instruments of ruling classes which they could operate arbitrarily. And they concentrated on only noneconomic, political and ideological functions of them.There have been many critiques of their theory. And some have been proposed attempts to overcome them in two directions:(1) integration of “micro” and “macro” sociology, (2) investigation of structural mechanisms and contradictions.Relative to the second direction, I try to locate “Marxist sociology of education” as a branch of the theory of the capitalist state. That is, “Marxist sociology of education” must, based on more general theories of the state and social classes, (1) analyse functions of public educational institutions as a part of the state, (2) investigate factors influencing these functions, (3) locate these functions in the whole processes of reproduction of capitalist mode of production including both economic and non-economic.
著者
平田 昂大 小熊 祐子 真鍋 知宏 橋本 健史
出版者
日本運動疫学会
雑誌
運動疫学研究 (ISSN:13475827)
巻号頁・発行日
pp.2208, (Released:2023-03-31)

目的:栄区セーフコミュニティの活動の一環として実施されたアンケート調査から,栄区民が自主的に実施している運動・スポーツ中における有害事象(事故・けが)の現状と傾向を捉えることを目的とした。 方法:2017年に栄区が自主的に運動・スポーツを実施している者を対象に実施した「スポーツ活動時に発生した事故・けがに関するアンケート(選択式・自由記述)」から得られたデータを量的・質的に解析を行った混合研究である。回答が得られた518件のうち,解析が可能であった473件を解析対象として実施した。 結果:過去5年間の活動で有害事象があったのは94件(20%)であった。サッカー,バドミントン,バレーボールの順に報告数が多く,下肢の捻挫・靭帯損傷(26件),下肢の筋・腱損傷(20件),頭部・顔面の打撲(7件)が多く発生していた。自由記述の結果からアキレス腱断裂,膝関節前十字靭帯損傷,頭蓋骨骨折,大腿骨骨折,脳出血が発生していた。年代別では,40~50代の筋・腱損傷(16件),60~70代の転倒(11件)が特徴的であった。 結論:地域住民が自主的に実施している運動・スポーツ中において,足関節捻挫などの下肢の傷害や高齢者の転倒といった有害事象が発生していることが明らかとなった。これらに対する予防策,対策を講じる必要性が示唆された。
著者
橋本健二編
出版者
弘文堂
巻号頁・発行日
2015
著者
廣田 美里 松葉 祥一 橋本 健志
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.2_13-2_23, 2016-06-20 (Released:2017-01-27)
参考文献数
23

本研究は,うつ病をもつ夫と生きる妻の体験を記述し,うつ病患者の妻に対するケアへの示唆をうることを目的とした。うつ病と診断された夫の妻2名に対し,非構成的インタビューを行い,得られた語りをPatricia Bennerの解釈学的アプローチを用いて分析した。分析の結果,妻は夫がうつ病をもつことで,夫婦間のコミュニケーションの変容を体験していた。妻はうつ状態の夫といるとき,夫の症状と同様の身体的感覚を受けていた。これはMaurice Merleau-Pontyが提唱した間身体的次元でのコミュニケーションの影響であると考えられた。この間身体的な体験が,夫を理解することに重要な意味をもっていた。そして,妻は夫のうつ病症状,および医療者や親戚等が期待する妻の行動を意識するがゆえに,自己に非常に自覚的になっていた。妻は経験を重ねながら,知的理解と間身体的理解を通して妻なりに夫を理解し,自らのあり方を見出していた。
著者
高西 淳夫 石井 裕之 橋本 健二 大谷 拓也
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2021-04-05

本研究は,既存の人型ロボットのエネルギー効率が低いという問題を解決するため,人間の身体構造および運動を参考に,『ロボット身体内保存力学的エネルギー活用運動』およびそれに適した身体構造により全身運動時の消費エネルギーを低減させることを目的とする.具体的には,力学的エネルギーの3形態変換を伴う消費エネルギー最小運動生成法を確立し,脱力・弾性の発揮が可能な高出力関節メカニズムおよび動力伝達機構を用いた人間規範軽量四肢構造,さらに消費エネルギー低減運動に最適化した等身大の人型ロボットを開発し,提案手法をロボット実機で評価する.
著者
橋本 健二
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.94-113, 2008-06-30 (Released:2010-04-01)
参考文献数
63
被引用文献数
4 4

今日の「格差社会論」の隆盛は,これまでの階級・社会階層研究には深刻な問題があったことを明らかにした.階級・社会階層研究は,拡大する経済格差と「格差の固定化」など,社会的に注目されている諸現象を十分解明することができず,社会学に対する社会的要請に応えることができない状態にある.このことは同時に,社会学の諸分野に階級または社会階層という有効な独立変数を提供するという,階級・社会階層研究の固有の使命を十分に果たしえていないということも意味する.こうした階級・社会階層研究の困難をもたらしたのは,その戦後日本における独特の展開過程だった.戦後日本の階級研究は大橋隆憲によって確立され,その階級図式は社会学者を含む多くの研究者に受け入れられたが,それはMarxの2階級図式を自明の前提とし,しかも労働者階級を社会主義革命の担い手とみなす政治主義的なものであり,1980年代には有効性を失った.社会階層研究を確立した尾高邦雄も,同様に階級を政治的な存在とみなしたが,大橋とは逆に現代日本には明確な階級が存在しないと考え,連続的な序列,あるいはその中に人為的に作られた操作的カテゴリーとしての社会階層の研究を推進した.こうして日本では,他の多くの国とは異なり,階級と社会階層がまったく別の概念とみなされるようになり,その有効性と現実性は大きく制約されてしまった.階級・社会階層研究のこうした弱点と困難を克服するためには,(1)Marxの2階級図式を明確に否定して,資本家階級,新中間階級,労働者階級,旧中間階級の4階級図式,あるいはそのバリエーションを採用するとともに,(2)社会階層を,階級所属が産業構造,労働市場,家族,国家などさまざまな制度によって媒介されることによって形成される社会的カテゴリーとして定義することが有効である.このとき階級と社会階層の不毛な対立は克服され,両者を相互補完的に活用することにより,現代社会の構造を分析する生産的な研究分野としての「階級-社会階層研究」を構想することができよう.
著者
橋本 健志 四本 かやの 児玉 豊彦 田中 千都 平良 勝 大畠 久典 北岡 祐子 藤本 浩一
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、自殺未遂歴および希死念慮がある精神障害者に対してリスクをマネージメントしながら、就労支援を行う特化型就労支援プログラムを開発しその有用性を検討することを目的に実施した。このプログラムは、医療機関と連携した特化型就労支援窓口と携帯メール自動配信サービスから成り立っている。K市内の就労支援事業所と精神科診療所外来作業療法部門の2箇所で医療機関と連携した特化型就労支援窓口を開設しその有用性を検討した。さらには、希死念慮等の精神症状を有する精神障害者に対して携帯メールを配信するプログラムを開発し、それによって希死念慮が低下し、社会資源を積極的に利用する者が有意に増加したことを報告した。
著者
橋本 健一 澤 友美
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.10-16, 2019 (Released:2020-04-13)
参考文献数
19

小学校3学年理科B生命・地球(1)身の回りの生物の単元では,昆虫の体は頭・胸・腹からできていることについて学習する.手軽に得られ,簡単に観察できる材料として,アブラゼミ(Graptopsaltria nigrofuscata)などのセミの抜け殻を教材とした授業実践を行い,その有効性について検討した.授業に先立つ事前アンケートで,「セミの抜け殻を見たことがあるか」に対しては,東京都渋谷区立笹塚小学校(以下笹小)3年生児童120名(男子55名女子65名)の95%,私立津田学園小学校(以下津小)(三重県桑名市)4年生児童45名(男子21名女子24名)の87%,津小1年児童35名(男子17名女子18名)の94%が「ある」と回答した.また,「セミの抜け殻を拾ったり触ったりしたことがあるか」に対しては,笹小3年児童の71%,津小4年児童の67%,津小1年児童の65%が「ある」と回答した.セミの抜け殻は児童にとって身近な存在であり,比較的多くの児童が興味を持つ存在である思われる.2015年9月4日に笹小3年児童26名(男子13名女子13名)を対象に,アブラゼミの抜け殻を用いて,昆虫の体のつくりを調べる授業実践を,連続した2単位時間の授業として行った.抜け殻は児童1人に1個体配布し,先ず,自由に観察・スケッチした後,図中に頭・胸・腹を境目がわかるように示すよう指示した.次いで,頭は触角や眼のあるところ,胸は翅や肢がついているところなどの観察の視点を与えた上で2回目のスケッチを行わせ,再度,図中に頭・胸・腹を境目がわかるよう示すことを指示した.その結果,視点を与えていない1回目のスケッチでは,頭・胸・腹の区別をほぼ正確に捉えていたと思われる児童は19%であったのに対し,視点を与えた後の2回目のスケッチでは58%に増加した.また,2016年10月12日に,笹小3年児童64名(男子27名女子37名)を対象に,授業時間は1単位時間とし,最初から観察の視点を与えた上でスケッチさせた.その結果,児童の61%が頭・胸・腹の区別をほぼ正確に捉えていた.この結果から,多くの児童がセミの抜け殻の体のつくり,特に,頭・胸・腹の区別を観察により捉えることができ,特に,予め,観察の視点を与えることにより,効果的な授業展開が可能と思われた.セミの抜け殻は終齢幼虫の脱皮殻であるが,セミ類は不完全変態の昆虫であるため,その体のつくりの成虫との差は完全変態の昆虫ほど大きくはなく,昆虫の体のつくりの基本を確認することができる.都市部でも容易に見つかり,均一な材料を多数,簡単に集められ,長期間の保存にも耐えうるので,昆虫の体のつくりを調べる教材の一つとして有効に活用できるものと考えられる.
著者
橋本 健二
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.2_5-2_22, 2008

「格差社会論」が注目を集めるなかで、階級研究・社会階層研究は、拡大する経済格差と「格差の固定化」など、社会的に注目されている諸現象を十分解明することができず、社会学に対する社会的要請に応えることができない状態にある。このことは同時に、現代日本の階級研究・社会階層研究が、社会学の諸分野に階級または社会階層という有効な独立変数を提供するという固有の使命を十分に果たしえない状況にあるということを意味する。<BR> 階級研究・社会階層研究の困難をもたらしたのは、その戦後日本における独特の展開過程だった。そこでは階級という概念が、政治主義的な主体、あるいは前近代的性格を残した世代的に固定的な集群とみなされ、対称的に社会階層は、連続的な序列、あるいはその中に人為的に作られた操作的カテゴリーにすぎないとみなされた。このため日本において階級と社会階層は、その有効性と現実性を大きく制約されてしまった。<BR> 階級研究・社会階層研究のこうした弱点と困難を克服するためには、(1)Marxの両極分解論を明確に否定して、資本家階級、新中間階級、労働者階級、旧中間階級の4階級図式、あるいはそのバリエーションを採用するとともに、(2)階級所属が産業構造、労働市場、家族、国家などさまざまな制度によって媒介されることによって形成される社会的カテゴリーとして社会階層を定義することが有効である。本論文ではこうしたアプローチを「階級―社会階層研究」と呼び、1965年SSM調査データ再コードデータの分析によってその有効性を明らかにする。
著者
橋本 健志
出版者
立命館大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、運動効果の分子機序としての乳酸が、認知機能などの脳機能にどのような影響をもたらすかを探究し、認知症改善への応用を目指すものである。そして、認知症の予防または改善に効果的な運動・栄養処方の確立のための学術的基礎の構築を目的とした。神経細胞に対する乳酸添加や、実験動物に対する運動と乳酸サプリメント併用の結果から、乳酸が脳機能の亢進に寄与する可能性を示唆する結果を得た。また、ヒトを対象とした実験から、乳酸代謝と神経活動の亢進が認知機能亢進に重要である可能性が示唆された。
著者
真下 いずみ 田中 和宏 橋本 健志
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.372-379, 2020-06-15

要旨:4年間自閉的生活を送っていた重症統合失調症患者に,生活行為向上マネジメント(MTDLP)を用い,患者の希望する生活行為である「働くこと」を支援した.作業療法士が,就労継続支援B型事業所内(以下,事業所)に出向いて認知機能,精神症状,身体機能を評価した.多職種連携プランを立案し,事業所職員と協働した結果,患者は通所に至った.また介入前後で機能の全体的評定,社会機能評価尺度,WHO/QOL 26の得点が向上した.以上から,重症度によらず患者が希望する生活行為を遂行することが,社会機能と主観的QOLの向上をもたらすと考えられた.作業療法士が地域に出向いて患者が希望する生活行為に介入することの有用性が示された.
著者
橋本 健一 八谷 和彦
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.229-236, 2006
参考文献数
23
被引用文献数
1

The photoperiodic induction of diapause in a newly established population of Pieris brassicae (L.) in Hokkaido, Japan was investigated. The critical photoperiod for pupal diapause was about 13hr50min at 20℃. In the fields of Sapporo City in Hokkaido, diapausing pupae were obtained late in September. The present results obtained in the laboratory correlated well with the photoperiodic conditions of the diapause incidence observed in the field late in September. A well synchronized emergence from diapausing pupae was induced by chilling at 5℃ or 10℃ for 160 days. The conditions were comparable to the period of cold season in the habitat of this population.
著者
橋本 健二
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.164-180, 1999
被引用文献数
3

戦後日本では, 大橋隆憲らを中心に階級構成研究が独自の発展を遂げたが, 彼らの研究は, 資本家階級と労働者階級への2極分解論や, 労働者階級=社会主義革命勢力という規定など, きわめて非現実的な想定に立っていたこと, また特定の政治的立場を前提とした政治主義性格のために, 階級研究に対する数多くの誤解を生みだし, このことが日本における階級研究を衰退させる結果をもたらしてしまった。いま必要なことは, 階級研究からこうした理論的・政治的バイアスを取り除き, これを社会科学的研究として再構築することである。理論的には, 1970年代半ば以降の, 構造主義的階級理論から分析的マルクス主義に至る階級研究の成果を生かしながら, フェミニズムの立場からの階級研究批判に答えうる階級構造図式と階級カテゴリーを確立することが求められる。実証的には, 社会階層研究の豊かな蓄積を模範としながら, 計量的な研究のスタイルを確立する必要がある。本稿はこうした階級研究の発展のための基礎作業である。<BR>以上の目的のため, 本稿はまず, 現代日本の階級構造を, 資本主義セクターと単純商品セクターの節合関係を前提として, 資本家階級・新中間階級・労働者階級・旧中間階級の4階級からなるものとして定式化し, さらに各職業の性格のジェンダー差を考慮して, 実証研究に適用可能な階級カテゴリーを構成する。次に, 階級構成の変化を概観するとともに世代間階級移動量の趨勢を検討し, 近年の日本では世代間階級移動への障壁が強まりつつあることを明らかにする。最後に, 階級所属と社会意識の関係を検討し, 階級所属が社会意識の形成に第一義的な重要性を持ち続けていることを明らかにする。
著者
橋本 健二
出版者
経済理論学会
雑誌
季刊経済理論 (ISSN:18825184)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.29-40, 2008-01-20 (Released:2017-04-25)

This article aims to clarify the structure and dynamics of contemporary Japan as so-called "gap-widening society" from the viewpoint of class studies. For this purpose, 4-class scheme, which consists of capitalist, new middle, working and old middle classes on the basis of jobs, employment status, size of business and gender, is introduced and operationalized for quantitative analysis. Thereafter, economic disparity among classes are measured, income determination processes and income functions are estimated, and structure and trend of inter-generational class mobility is examined. Findings are as follows. (1) Class locations are very important determinant of income, independent of factors such as education, years of work experience and size of business. Income functions vary depending on class locations, which means different income determination processes exist corresponding to class locations. (2)Economic disparity among classes is expanding and its importance as component of total economic disparity is becoming large. Poverty rates vary greatly depending on class locations and these variations are becoming large. (3)Concerning about intergenerational class mobility, all classes show some exclusiveness, nevertheless capitalist class is extremely exclusive, and its exclusiveness has been strengthened in this 30 years. These findings imply that class theory and 4-class scheme have much power of explanation for social structure and processes of the "gap-widening society" in contemporary Japan. Speaking generally, contemporary Japan can be called class society.