著者
渡辺 晋一
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.129, no.8, pp.1619-1625, 2019-07-20 (Released:2019-07-20)
参考文献数
16

顔面の色素病変には色素性母斑や皮膚癌など種々のものがあるが,美容目的で来院する患者の主訴の多くは“シミ”である.そしてシミを主訴に来院する患者の60%近くは老人性色素斑で,12%は顔面真皮メラノサイトーシス(FDM)である.次いで扁平な老人性疣贅が7%程度を占め,教科書でその俗称がシミとされている肝斑は,10%以下である.これらの色素病変は治療法がそれぞれ異なるので,その鑑別が治療成功の鍵となる.
著者
アメリカ版画評議会 編 越川 倫明 訳 坂本 雅美 訳 渡辺 晋輔 訳
出版者
国立西洋美術館
巻号頁・発行日
2016

作品の貸出しは美術館の基本的な業務のひとつですが、その実際の作業方法は館によって、あるいは担当者によって異なることがあります。また、どのように対処すべきか迷うこともしばしばです。とりわけ素描や版画といった紙本作品は性質が特殊なため、その傾向が顕著でしょう。本書はこうした状況において、指針となるものです。紙本作品を貸し出す際の個々の作業に関して、アメリカの経験豊かなキュレーターや修復家、レジストラーの声が反映されています。なお、本書に記されていることは、ヨーロッパの美術館においてもほぼそのまま指針として通用します。本書は1995年に初版が出され、日本でも1998年に国立西洋美術館から翻訳が出版されました。しかしその後約20年のうちに、インターネットやLED照明の普及など、技術の進歩には目覚ましいものがありました。これらの変化を踏まえ、2015年にアメリカで、初版に大幅な改訂を加えた「2015年デジタル版」が完成します。ここに公開するのは、このデジタル版に従った改訳です。本書は通常の貸出業務の参考図書として利用することができますし、欧米における紙本作品貸出のスタンダードを知るうえでも有用でしょう。各トピックについてさらに深く知りたい方のためには、充実した文献案内もついています。もっとも、本書はアメリカの美術館向きに作成されたものであるため、日本美術の作品等については、記述どおりに運用できない部分があるかもしれません。実際の作業にあたっては現場の経験と判断を重視することはもちろんですが、それでもガイドラインとしてきわめて有益と思われます。本書が日本の美術館の活動に資するところがあれば幸です。
著者
渡辺 晋 石川 寛夫
出版者
九州産業大学
雑誌
九州産業大学芸術学部研究報告 (ISSN:02867818)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.171-179, 1989-03-10

Autochrome process, invented by A. and L. Lumiere of Lyon in 1904,was reproduced. This process was so-called screen plate process in which the emulsion is exposed through the color screen (mosaic) and reversal processed to yield an additive color transparency. We made color screen using dyed potato starch grains as color screen element and commercial use B/W negative film as panchromatic emulsion. The B/W negative film was exposed behind a separable color screen and reversal processed to a silver positive. This positive was combined with color screen to obtain color transparency. The results obtained were fine. Reproduction of Autochrome was discussed about color, contrast and image details.
著者
渡辺 晋一
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.122, no.7, pp.1749-1754, 2012-06-20 (Released:2014-11-13)

細菌感染症の治療の際には,起炎菌に感受性がある抗菌薬を投与しなければならないが,感受性がある抗菌薬を投与しても,十分な治療効果が得られないことがある.それは抗菌薬の投与量が少なかったり,不適切な投与法のためと思われる.ここでは最近のPK/PD理論を解説し,抗菌薬の有効性と安全性を高め,また耐性菌の出現を抑えるための適切な抗菌薬の使い方を紹介する.また肝・腎機能低下時の抗菌薬の使い方も述べる.
著者
清 佳浩 滝内 石夫 渡辺 晋一 本田 光芳 伊東 文行 西川 武二 小川 秀興 原田 敬之 西山 千秋 加藤 卓朗
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.87-97, 1997-02-28 (Released:2009-12-18)
参考文献数
20
被引用文献数
1 4

フケ症を対象に,0.75%硝酸ミコナゾールシャンプー(MZS)の有用性を,シャンプー基剤(BSS)を対照として8施設による二重盲検比較試験により検討を行った.また,フケおよびかゆみに対する症状の改善とMalassezia furfurの菌数の減少,すなわち真菌学的効果との関係についても併せて検討した.その結果,総症例数134例中,安全性解析対象症例は130例,有効性および有用性解析対象症例は108例であった.有用率はMZS群58例中34例(58.6%),BSS群50例中19例(38.0%)であり,MZS群がBSS群に比し有意に優れる成績であった(p=0.020).フケの改善率では,MZS群58例中42例(72.4%),BSS群50例中26例(52.0%)であり,MZS群がBSS群に比し有意に優れる成績であった(p=0.017).M.furfurに対する真菌学的効果とフケに対する有効性に関して,効果の発現がみられた症例においては,菌数の有意な減少が認められた(p=0.0001).これに対し,無効の症例では試験開始前と終了後の菌数の変化に有意差を認めなかった.また,試験開始時の菌数による有効性の層別解析では,菌数が比較的多い症例において,MZS群がBSS群に比し有意に優れていた(p=0.038).副作用は130例全例において全く認められなかった.以上より,MZSはフケ症に対して有効であり,フケの改善とM.furfur菌数の減少とも比較的一致する極めて有用なシャンプー剤であると考えられた.
著者
渡辺 晋一
出版者
特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
雑誌
日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.315-326, 2007-01-15 (Released:2008-01-15)
参考文献数
17
被引用文献数
3

ナノ秒のパルス幅のQスイッチ・レーザーは肝斑以外の色素病変の治療に有効である.しかし,カフェオレ斑のような茶アザはレーザー治療に反応しない事が多い.そこで,正確な診断を下すことがレーザー治療の鍵を握る.ただしレーザー治療後に炎症後色素沈着が見られるが,通常3-4カ月で自然消失する.もし,炎症後色素沈着が1年以上続く場合は,組織学的色素失調を疑わなければならない.血管腫の治療にはマイクロ秒のパルス幅のレーザーを使用しなければならない.また,光が到達する深さには限界があるため,すべての血管腫に有効というわけではない.脱毛や皮膚の若返りは,ミリ秒のパルス幅のレーザーあるいは光によって可能である.しかし,このパルス幅の光では表皮のダメージが強いので,照射エネルギーを下げ,また表皮を冷やさなければならない.その結果,皮膚の若返り効果は不十分である.いずれにせよレーザー光のパルス幅と波長はレーザー治療の鍵となる.使用するレーザーのパルス幅と波長をみれば,その治療の結果がどのようになるかを予想することができる.
著者
佐藤 直樹 大屋 美那 渡辺 晋輔 山口 惠里子 大屋 美那 渡辺 晋輔 小針 由起隆 萬屋 健司
出版者
東京芸術大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

ローマで活動した外国人芸術家たちの風景画を中心としたデータベースは、総データ件数が2996点にも達し、今後の美術史研究に有用なツールとなった。3年間にわたる本研究課題の研究成果は、論文集『ローマ-外国人芸術家たちの都』(竹林舎)として2013年秋に刊行予定である。本書以降、「近代都市と芸術」シリーズとして7巻の刊行が続くこととなり、19世紀の都市と芸術に関して新しい視点を美術史学に提供することが期待される。
著者
厚坊 浩史 森川 優香 住田 千明 渡辺 晋吾 東 陸広
出版者
近畿大学臨床心理センター
雑誌
近畿大学臨床心理センター紀要 = Bulletin of center for clinical psychology Kinki University (ISSN:21868921)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.159-170, 2013-11-01

[要約]こころのSOSサポートネットは、自殺予防活動を行うゲートキーパーの養成を目的として、2010年に和歌山県で設立された。活動開始後、和歌山県における自殺者は低減しており、ゲートキーパー養成の意義があることが窺える。一方、本養成講座が自殺者数減少に直結するというエビデンスは証明できていない。しかし希死念慮を持つ1 人の人を救うことは、地道な作業が必要である。様々な立場で今、出来る事を頑張っている団体や個人とコラボレーションを行いながら、今後も活動を継続したいと考えている。 [Abstract] The SOS Support Net of the Heart was established for the purpose of the training of a suicide preventive active gatekeeper in Wakayama at 2010. After an activity start, the suicidal attempt in Wakayama decreases and it is indicated that the gatekeeper training is important. On the other hand, I cannot prove the evidence that this training lecture is directly connected to for number of the suicides decrease. However, it needs steady work to save one person with a suicidal idea. I want to continue activity in future now in various situations while performing collaboration with a group and an individual trying that I can do it hard.
著者
高橋 千歳 大西 誉光 渡辺 晋一
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.109, no.4, 1999

症例1:54歳男.約10年前より右足関節外異の皮疹が徐々に増大し,30×25×5mmの広基性の表面平滑で一部糜爛を伴う腫瘤となった.症例2:46歳男.約5年前よりの左下腿の結節が最近数ヵ月で急速に増大し,38×48×8mmの広基有茎性の表面細顆粒状,易出血性の赤褐色腫瘤となった.症例3:76歳女.3年前に左腓骨骨折,2ヵ月後のギプス除去時,同部の結節に気付くも放置.42×29×6mm大の広基有茎性で,糜爛を伴う易出血性紅色腫瘤となった.症例4:63歳男.約8年前よりの右下腿の結節が2年前より急速に増大し,35×38×7mmの広基有茎性で,潰瘍を伴う易出血性紅色腫瘤となった.4症例とも全身検索にて転移は認められなかった.組織はいずれも腫瘍は表皮と連続して真皮内に島嶼状または索状に増殖し,一部に管腔構造を認めた.腫瘍細胞は小型で好酸性の胞体を持つporoma様細胞で,異型性を認めた.症例1,2ではその他に胞体の豊富な澄明細胞の増殖を認めた.以上4例の腫瘍細胞の分化の方向を探る目的で各種抗ケラチン抗体にて免疫組織化学染色を行ったところ,RCK102とMNF116抗体染色が陽性を示すなどeccrine poromaと同様な染色態度を示し,腫瘍細胞の多くは真皮内汗管の基底細胞へ分化しているものと考えられた.
著者
渡辺 晋一 西本 勝太郎 浅沼 廣幸 楠 俊雄 東 禹彦 古賀 哲也 原田 昭太郎
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.111, no.14, pp.2101-2112, 2001-12-20
参考文献数
17
被引用文献数
29

わが国における足疾患,特に足・爪白癬の頻度を知る目的で,1999年および2000年の5月第3週に受診した皮膚科外来患者を対象に,足疾患に関する無作為調査を行った.その結果,2年間で計21,820例が集積され,足にトラブルを持つ患者は,14,087例(64.6%)であった.このうち8,737例(40.0%)は足の真菌症で,ついで「うおのめ・たこ」2,826例(13.0%),「いぼ・ほくろ」1,259例(5.8%)の順であった.この成績は同様に行われたヨーロッパの調査結果とほぼ同じで,足の真菌症が多いことがわかった.そこで,2000年度の調査においては,受診理由を「真菌症の疑い」と「真菌症以外」に分けて別個に集計したところ,前者では3,231/3,420例(94.5%)に,後者では1,723/8,804例(19.6%)に真菌感染症を見いだした.この真菌感染症に関与する要因をさぐる目的で,得られた背景因子を多重ロジスティック回帰分析により解析したところ,「加齢」,「男性」,「高コレステロール血症」,「ゴルフ」,「同居家族に真菌症あり」などに有意に高いオッズ比が認められた.治療に関しては,外用剤による治療が主であり,爪白癬においても2/3が外用剤のみの治療であった.また美容上の問題点ばかりでなく,歩行困難などの支障を訴える患者も少なくなかった.今回の調査では,皮膚科外来患者のみを対象としたが,40%におよぶ足・爪白癬患者が存在することが明らかとなった.またその病変の多くが,患者自身が気付いていないか,あるいは気付いていても不充分な治療しか受けていない実態も明らかとなった.また白癬の感染リスク因子についても考察をおこなったが,今後感染予防を考える上で興味のある結果が得られた.これらの患者のQOLを高めるためにも,また家庭内感染を防ぐためにも,足・爪白癬患者を積極的に治療すべきだと考えられた.
著者
中村 遊香 中村 満洲雄 加納 塁 渡辺 晋一 高橋 久 長谷川 篤彦
出版者
日本獣医皮膚科学会
雑誌
獣医皮膚科臨床 (ISSN:13418017)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.47-51, 1997-12-20 (Released:2008-05-16)
参考文献数
2

食物性アレルギー, 接触性皮膚炎, 動物寄生性皮膚炎, 細菌性皮膚炎など原因が特定される疾患が除外されるそう痒を伴う皮膚炎の犬3例に対して, 十味敗毒湯エキス (ツムラ十味敗毒湯エキス顆粒 (医療用)®) を経口投与した。その結果, 3症例すべてで十味敗毒湯エキス投与2週間後にそう痒は概ね認められなくなり, 皮疹も改善傾向を示した。また, 3症例とも投与4週間後にはそう痒, 皮疹は消失したので, 投与を終了した。試験期間中に実施した身体一般検査, 血液学的検査及び血液化学検査において副作用と思われる所見は認められなかった。以上のことから, 十味敗毒湯エキス (ツムラ十味敗毒湯エキス顆粒(医療用)®) が有効な, そう痒を伴う皮膚炎の犬の症例があることが判明した。
著者
川崎 ゆりか 林 耕太郎 石川 武子 大西 誉光 多田 弥生 渡辺 晋一
出版者
協和企画
巻号頁・発行日
pp.471-474, 2017-05-01

<症例のポイント>肺炎球菌ワクチン接種後に生じた蜂窩織炎様反応と考えられる1例を報告した。局所の肉眼的炎症所見は軽度で、蜂窩織炎単独では高度な炎症反応や筋酵素の逸脱を説明しづらく、臨床所見、経過やCTから壊死性筋膜炎も否定的であった。蜂窩織炎様反応は、同種の防腐剤を含む他のワクチンでの報告はほとんどなく、肺炎球菌ワクチンの主成分に特異的な反応と考えられる。また、同様の報告がBehcet病患者数例にみられることから、Behcet病患者に比較的特異的な反応であることが示唆された。
著者
渡辺 晋輔 幸福 輝 陳岡 めぐみ 保井 亜弓
出版者
独立行政法人国立美術館国立西洋美術館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

イタリア、ネーデルラント・フランドル、ドイツ、フランスを専門とするメンバーが、それぞれ15世紀から18世紀までの西洋版画史に関する一次史料を収集し、史料集を作成した。また、いくつかの史料については翻訳も行った。そして、集積した史料をもとにして、当時版画がどのように生産・消費され、評価されたのかを考察した。その成果は学会発表、論文、書籍で発表したほか、研究報告書の形でまとめ、出版した。
著者
渡辺 晋
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.506-512, 1989-05-20 (Released:2013-05-10)
参考文献数
11

Many studies have been performed on cases with chronic Ménière's disease who have had recurrent previous attacks. The purpose of the present study was to investigate the vestibular and cochlear manifestations of incipient Ménière's disease. None of the patients in this study had had a single attack until the current hospitalization, thereafter, they had recurring episodes of vertigo and hearing loss. The following results were obtained: 1. Meniere's disease is most often seen in the fifth decade of life. However, in my investigation, 91% of the 34 cases occurred before 48 years of age, and the most incidental age at onset was at 35 years of age. 2. At onset and at the second attack, a marked fluctuation in the lower frequencies was noted when compared with the third attack. 3. The vertigo score was 3.1 at the second attack, 2.4 at the third attack, and 2.2 at the fourth attack. The interval between the third and fourth attack was longer than the previous attack intervals.
著者
根田 遼太 井上 純大 中村 健太郎 堀 隆博 渡辺 晋二
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.126, 2015

2011年3月に発生した東日本大震災の津波被害を受けた東松島市沿岸部(宅地、畑地等)を対象に、被害後3年半経過した植生及び土壌状況(化学性、物理性)の調査を行ったので報告する。東松島市沿岸部8箇所において周辺域の植生を調査し、長谷川式土壌貫入計を用いた土壌硬度の測定及び0-10cm、10-20cm、20-30cmの深さごとの土壌化学性(pH、電気伝導度、C/N比、土壌塩類)を測定した。<br> 調査地の植生は、木本種の出現はほぼニセアカシアのみであり、草本種ではセイタカアワダチソウなどの外来種が優占した。ニセアカシアの樹齢は3年であったため、津波被害直後に成立した可能性が高い。土壌硬度は植物生育に概ね良好な値を示したが、化学性は一部で土壌塩類、pH、C/N比などが植物生育にとって異常値を示した。津波被害を受けた沿岸部は3年半経過した現在でも海水の塩の影響が残っていると見られる場所が存在し、土壌改良および適切な植生誘導がなければ、旺盛な繁殖力と塩類堆積土壌への適応性の高さによりニセアカシアの優占する景観となる可能性が高いと考えられた。沿岸部の正確な植生動態の予測には、今後の詳細かつ広域な調査が必要である。
著者
幸福 輝 佐藤 直樹 渡辺 晋輔 栗田 秀法 金山 弘昌
出版者
独立行政法人国立美術館国立西洋美術館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、16世紀から17世紀にかけ、版画という媒体において古代がどのように表象され、また、この媒体を通じて古代文化はどのように伝播されていったかという問題を、西欧各国の具体的な事例に基づいて、明らかにしようとする目的でおこなわれた。もとより、きわめて大きな問題であり、われわれの目的はその基礎的な概略図を描くことでしかないが、それぞれ異なる分野を専門とする者が協力しあったことにより、当初の目的は達成できたのではないかと考えている。はじめに、イタリア、ドイツ、ネーデルラント、フランスの順で、ごく簡単にこの主題について各国の状況を略述し、次いで、各研究分担者による研究成果を掲載する。佐藤はデューラーとイタリア版画の関係について、幸福はヒエロニムス・コックの版画出版活動について、金山は古代建築の復元図とバロック建築との関係について、渡辺はズッカレリの風景画に見られる古代彫刻のモティーフについての議論をおこない、栗田はフランス・アカデミーにおけるラオコーンに関する講演の翻訳とその解題を寄せている。なお、国立西洋1美術館に属す研究代表者の幸福と研究分担者の佐藤および渡辺は、2005年と2007年に本研究に関連するふたつの版画の展覧会(『「キアロスクーロ:ルネサンスとバロックの多色木版画』と『イタリア・ルネサンスの版画』)を同館で企画・開催した。別冊資料1、同2として、それら2冊の展覧会図録を本研究成果報告書に添付して提出する。