著者
大野 夏樹 中田 裕之 大矢 浩代 鷹野 敏明 冨澤 一郎 細川 敬祐 津川 卓也 西岡 未知
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

大規模な地震の発生後に地面変動や津波により生じた音波や大気重力波が電離圏高度まで伝搬し電離圏擾乱が発生することが知られているが,地震発生後の電離圏中での鉛直方向の伝搬を捉えた例は多くない.本研究で用いる HFドップラー(HFD)では, 異なる送信周波数(5.006,6.055,8.006,9.595 MHz)の電波を用いることで複数の高度での変動を観測することが可能である.国土地理院のGNSS連続観測システム(GNSS Earth Observation Network : GEONET)により導出されるGPS-TECのデータと合わせて,地震に伴う電離圏擾乱の変動について高度方向の変化に注目し,解析を行った.2011年3月11日 14:46(JST)に発生したM9.0の東北地方太平洋沖地震において,観測点( HFDの電波反射点)直下付近の地震計に変動が確認された.HFDでは地震計に表面波が到達した約9分後に菅平,木曽受信点の両データに変動を確認しGPS-TECでは約10分後に変動を確認した.津波から直接音波が到達するには約20分かかるため,変動初期の10分は地面の変動により励起された音波が上空に伝搬して発生したと考えられる。さらにHFD, GPS-TEC, 地震計のデータにより観測された擾乱の周波数解析を行った.地震計および比較的低高度電離圏で反射したHFDデータ(5.006,6.055 MHz)の変動は,3~20 mHzまで周波数成分を含んでいたが高高度で反射したHFDデータ( 8.006,9.595 MHz)は3~5 mHzの周波数成分が卓越していることが分かった.3~5 mHzは多くの地震に伴うTEC変動で卓越する周波数帯であり本イベントでも同様の変動が確認され,高高度で反射したHFDデータにおいて近い周波数成分をもつ変動が確認された.7~20 mHzの周波数成分は,地震波が励起した音波は高い周波数ほど高高度で減衰するため,8.006,9.595 MHzのデータでは変動が減衰したと考えられる.この変動について,他の受信点のHFDデータとGPS-TECデータ, 地震計データを用いて比較・解析を行っており,発表ではその結果について報告する予定である.
著者
馬嶋 健一郎 古谷 直子 細川 直登
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.44-52, 2021-01-25 (Released:2021-07-21)
参考文献数
16

季節性インフルエンザワクチンの接種法は本邦では皮下注射(皮下注)であるが,海外では局所副反応が軽度で抗体価上昇が良好なため筋肉注射(筋注)が推奨されている.しかし,皮下注・筋注での発症予防効果の差までは明らかではなく,接種時の疼痛の差異は今まで検討されていない.当院は病院職員と看護学生への接種が皮下注・筋注の希望選択となっており,発症率,接種時疼痛,接種後副反応の接種法による違いを前向きコホート観察研究で調査を行った.病院への発症者報告は皮下注11.3%(65/574),筋注8.2%(258/3147)で,有意に筋注で少なく(P=0.02),性別,年齢,15歳以下と同居,感染予防のタイプを調整したロジスティック回帰でも有意に筋注で少なかった(odds比0.73,P値=0.04).接種時痛や接種後副反応は看護学生320名(皮下注77,筋注243名)で調査し,接種時の痛みスコア(0痛くない~10非常に痛い)中央値は皮下注4,筋注2であり,筋注群で有意に痛みが少なく(P<0.001),注射への恐怖心等で調整した多重回帰でも筋注の方が1.26有意に少なかった.接種後の痛みや腫脹についても,筋注群の方が軽度であった.筋注は皮下注に比べて,インフルエンザ発症の報告数が少なく,接種時疼痛,接種後疼痛腫脹も少なかった.筋注は優れた投与方法と考えられ,本法の用法として認められることが望まれる.
著者
羽石 英里 河原 英紀 岸本 宏子 竹本 浩典 細川 久美子 榊原 健一 新美 成二 萩原 かおり 齋藤 毅 藤村 靖 本多 清志 城本 修 北村 達也 八尋 久仁代 中巻 寛子 エリクソン ドナ
出版者
昭和音楽大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

歌手は自らの身体が楽器であるため、歌唱にかかわる諸器官の動きを視認することができない。本研究では、歌手の身体感覚と実際の現象との対応関係を検証することを目的として、歌手へのインタビューを行い、歌唱技術の要とされる横隔膜の動きを実時間での磁気共鳴画像法(MRI動画)を用いて可視化した。その結果、プロ歌手の制御された横隔膜の動きが観察され、その現象が歌手の主観的な身体感覚の説明とも一致することが明らかになった。また、声道や舌の形状、ヴィブラートにも歌唱技術を反映すると思われる特性がみられた。本研究で提案されたMRIによる撮像法と分析法は、歌唱技術を解明する上で有用な手段のひとつとなりうるであろう。
著者
細川 まゆ子
出版者
順天堂大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

近年、アジアの地方部では骨フッ素症以外の健康被害として飲料水を介してフッ素を大量に摂取している児童のIQが低下した報告がある。そこで本研究では、児童のIQ低下が認められた濃度と同程度のフッ素(5、25、50 ppm)を飲料水に混ぜ妊娠期のICRマウスと離乳後の仔に自由摂取させ、記憶学習能力に影響を及ぼすかを検討した。胎児期のフッ素投与により、雌雄共にY-mazeとBarnes迷路の結果から認知機能の低下が示唆された。また、高架式十字迷路では、雄のみ対照群に比べ全ての群でオープンアームへの滞在時間が長かったことから不安感を示さなかった事が考えられ、交感神経系への影響が示唆される。
著者
大坂 巌 坂下 明大 木澤 義之 細川 豊史
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.31-37, 2018 (Released:2018-02-16)
参考文献数
18
被引用文献数
2 4

【目的】非がん疾患に対する緩和ケアについて実態調査を実施した.【方法】日本緩和医療学会代議員196名を対象にインターネットアンケート調査を行った.非がん疾患の診療経験,緩和ケアに関する考え方,緩和ケアを実践するうえでの困難感,必要な教育内容について選択式の質問で尋ねた.【結果】111名(57%)より回答を得た.回答者の99%は非がん疾患の診療を経験していたが,63%は終末期の累計経験患者数が50人未満であった.回答者の80%は非がん疾患に対する緩和ケアに自信がなく,予後予測の難しさや緩和ケアに関する診療加算が算定できないことなどのために83%が困難感を感じていた.教育において重要なことは,コミュニケーション,多職種チーム医療の順であった.【結論】日本緩和医療学会代議員は,非がん疾患に対する緩和ケアの必要性を認識しているが,経験豊富な代議員は少なく,8割以上が自信のなさと困難感を感じていた.
著者
細川 康二 西田 優衣 吉野 雅人 岸田 正臣 久保 富嗣 山賀 聡之 志馬 伸朗
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.513-516, 2019-06-30 (Released:2019-06-30)
参考文献数
10

背景:広島市消防局では,心停止傷病者で主治医から心肺蘇生を行わない(DNAR)よう指示されれば蘇生処置を中止する運用がされてきた。本調査の目的は,現状を把握し課題の有無を明らかとすることである。方法:2015年4月からの2年間,同局管内で医療機関搬送までに蘇生処置中止希望が表明された心停止傷病者について,救急救命処置録等の情報を解析した。結果:対象は38例であった。蘇生処置中止希望は文書で1例,ほかは口頭で確認され,87%で主治医か主治医の属す医療機関の医師から確認された。医師よりDNAR指示が出されたのは63%であり,37%で主治医が現場に出向するため不搬送となった。結語:広島市消防局において救急要請後に蘇生処置中止希望が確認される事例では,蘇生処置の中止希望は文書で確認された1例を除くすべてが口頭で確認され,約6割で医師よりDNAR指示が出されていた。救急要請される背景をさらに調査し対策する必要がある。
著者
片山 智博 細川 昭雄 藤井 洋子
出版者
日本獣医循環器学会
雑誌
動物の循環器 (ISSN:09106537)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.27-32, 2019 (Released:2019-09-05)
参考文献数
17

雄のペルシャネコ,13歳2カ月齢が,左眼が見えないとの主訴で来院した。眼底検査にて,眼底動脈の蛇行と網膜剥離が認められたことから,高血圧を疑い血圧を測定したところ,収縮期血圧は250 mmHgと重度の高血圧であった。心臓超音波検査では,バルサルバ洞から上行大動脈にかけて大動脈壁のフラップと偽腔が認められたことから,大動脈解離と診断した。高血圧症の治療としてエナラプリルマレイン酸塩およびアムロジピンベシル酸塩を併用したところ,収縮期血圧は150 mmHgに低下した。第275病日に食欲の低下と体重の減少が認められ,血液検査では,腎数値の上昇と貧血が認められた。慢性腎臓病の治療を行ったが,第284病日に自宅にて死亡した。ネコの大動脈解離は稀であり,病態や予後は不明である。ヒトにおいて,大動脈解離は短期死亡率が高く緊急疾患である。本症例は大動脈解離の診断後約9カ月生存し,過去の症例報告においても同様の傾向が認められることから,ネコではヒトとは異なる転帰をとる可能性があると考えられた。
著者
細川 敏幸 山田 邦雅 宮本 淳
出版者
北海道大学高等教育推進機構
雑誌
高等教育ジャーナル : 高等教育と生涯学習 (ISSN:13419374)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.69-73, 2018-05

Japanese universities are recommended to introduce an assessment policy to certify the quality of education. The policy should have a checklist that shows the methods used to assess the degree of achievement of the diploma policy. We describe an example of the checklist in detail in this paper. It shows the important role of a survey of the students, including a questionnaire for alumni. It is important in this assessment that the survey uses common questionnaire items. It also should report the results of the assessment and ideas for educational reform. This will be the last step to create a PDCA cycle in our education system.
著者
細川 まゆ子
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

中国やインド等、高濃度のフッ素を含有する水を摂取している地域では骨フッ素症や斑状歯の患者が多く発生している。その他の健康被害として近年ではIQ低下、認知機能障害および学習・行動障害等自閉症スペクトラム障害と類似した症状が報告されている。フッ素は出生前後に曝露されると脳の発達に影響を及ぼす可能性があることが懸念されている。動物実験ではフッ素曝露による記憶学習能力低下や不安感について一様の見解が得られないが、一般に胎児期から発達期の化学物質曝露は神経系への影響が大とされる。本研究では、妊娠期飲料水中フッ素曝露による仔マウスの自閉症スペクトラム障害を引き起こす可能性について検討することを目的とする。
著者
細川 周平
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.451-467, 2007-05

ジャズはそれまでの音楽にはない急速で広範囲の伝播を特徴としている。その原型ができあがってまもない一九二〇年代に世界共通語になった背景には、三つの新しい再生技術―電気録音、ラジオ、サウンド同期映画(トーキー)―の力が大きい。 ジャズが地理的な辺境を拡大するにつれて、多くの地元の音楽家はその外来性をいかにして地元の文脈に引き寄せるかという問題にぶつかった。ジャズは生まれた時から圧倒的にアメリカ中心の価値観で世界中に広がったが、各地のアメリカ観・演奏家・評論家・聴衆は、外来モデルの拘束力、個人の嗜好と能力、創造性などの交錯するなかで、それぞれの状況にふさわしく変形し、解釈してきた。日本もまた例外ではなかった。本論はそれをいくつかのパターンに分けて明らかにする。(1) 概念。「日本的ジャズ」と仮に呼ばれるタイプの音楽は昭和十年代から間歇的に提唱された。常にアメリカの物まねではないジャズ、日本人らしいジャズという民族的独自性が含意されてきた。この発想はジャズ界のなかでは常に少数派に属し、主流とはならなかった。時には「間」、「わび」のような伝統的な概念を使ってジャズの日本らしさを言い表すこともあった。これは六〇年代末から七〇年代にかけて、ジャズ界の前衛派のなかで民族主義が強かった時期に顕著だった。(2) 俗調の編曲。ジャズを日本に適応させる最も手軽な方法は民謡、俗曲、三味線曲の編曲で、昭和一ケタ代から試みられてきた。これは明治前半の軍楽隊以来、外来の器楽形式が導入されるたびに繰り返されてきたことで、最近では素材が拡張し、二〇年代の童謡を採り上げた録音が盛んになっている。(3) 日本の旋法の応用。一九五〇年代末、アメリカで新しい音階(旋法)理論にもとづくスタイルが創造されると、それを日本の伝統音階に応用する試みが始まった。雅楽の旋法は日本の音楽のなかでも特異だが、それを応用した録音が八〇年代以降、いくつか現れている。伝統楽器の採用。六〇年代初頭、筝と共演が試みられて以降、尺八や能管、鼓、太鼓、笙などがジャズ演奏に加わってきた。これは西洋人のリードないしあるいは西洋での演奏のために企画されることが多い。日本らしさを視覚的にも音響的にも最も明確に打ち出す方法といえる。
著者
細川 周平
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 : 国際日本文化研究センター紀要 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.209-248, 2007-03-31

録音を黙って鑑賞する喫茶店(レコード喫茶と仮に呼ぶ)は日本独自の音楽空間といえる。本論はそのひとつであるジャズ喫茶が昭和初年に生まれ、昭和十年代にスウィングの流行とともに定着した過程を追う。レコード喫茶は録音に依存して欧米音楽を受容せざるを得なかった日本の状況と深く関わっている。録音は大正時代、「缶詰音楽」と軽蔑されるどころか、コンサート興行の基盤が未熟であるために生で演奏を聴けない曲種を知るのに不可欠なテクノロジーとして洋楽評論家に高く評価された。レコード鑑賞空間はそのような前提から生まれた。震災後、カフェが女給のエロティシズムを売り物にしたのに対して、その姉妹施設、喫茶店は主に大学生や若い社会人相手にもっと親密な雰囲気、趣味的なサービスを売り物にした。レコード喫茶は彼ら向けの音楽を聞かせることで一般の喫茶店と区別を図り、レコード、オーディオ、サービス・ガール、インテリアの四つの要素で店の特徴を出した。女給目当ての客も少なくなかったようだが、店の看板はレコード収集と高価な再生装置だった。ジャズ喫茶の始まりには昭和初年の都市中間層の拡大、彼らの新しい娯楽のかたちや感性、趣味の洗練への関心、文化ヒエラルキー観、音響テクノロジーの発展、レコード市場の拡大、ニッチ市場の確立などが関わっている。