著者
安達 登 近藤 修 角田 恒雄 神澤 秀明
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

研究期間中に、査読つき英文論文6編、査読つき和文論文5編を出版した。成果の中で特筆すべきものとして、江戸時代アイヌのミトコンドリアDNAについて世界初の論文を公表したことが挙げられる。この研究で、アイヌは縄文時代人の遺伝的特徴を色濃く受け継ぐ他に、シベリア先住民族および本州日本人の遺伝的影響も想像以上に大きいことが明らかとなり、日本列島人の成立を説明する二重構造モデルに一部修正が必要なことを初めて実証した。さらに、北海道船泊遺跡出土縄文後期人骨について、世界初となる現代人レベルでの高精度ゲノム解析に成功した。このデータは今後日本列島人の成立を考える上で根幹となる重要なものである。
著者
篠田 謙一 神澤 秀明 角田 恒雄 安達 登
出版者
一般社団法人 日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.127, no.1, pp.25-43, 2019 (Released:2019-06-26)
参考文献数
42
被引用文献数
5 5

佐世保市下本山岩陰遺跡から出土した2体の弥生人骨の核ゲノム解析を行った。これらの人骨は,遺跡の地理的な位置と形態学的な研究から縄文人の系統を引く西北九州弥生人集団の一員であると判断されている。しかし,次世代シークエンサを用いたDNA解析の結果,共に縄文系と渡来系弥生人の双方のゲノムを併せ持つことが明らかとなった。これらの人骨の帰属年代は弥生時代の末期にあたる。本研究結果から,この時期には九州の沿岸地域でも,在来集団と渡来した人々との間で混血がかなり進んでいたことが明らかとなった。このことは,これまで固定的に捉えられていた渡来系弥生人と西北九州弥生人の関係を捉え直す必要があることを示している。また本研究によって,古人骨の核ゲノムの解析で得られたデータは,このような混血の状況を捉えるのに有効であることも示された。今後,北部九州の弥生人骨のゲノム解析を進めていけば,日本人の成立のシナリオは更に精緻なものになることが期待される。
著者
篠田 謙一 佐藤 丈寛 安達 登 角田 恒雄 神澤 秀明
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2018-06-29

昨年度行った縄文人のゲノム解析の成果の一部を本年に論文発表した。また同時に、得られたSNPデータからこの人物の形質の特徴を抽出して復顔像を作成し、プレス発表を行った。このニュースは多くのマスコミの取り上げられ、大きな反響があった。北部九州と南西諸島の縄文時代相当期の人骨の持つミトコンドリアDNAの分析を進め,両者が1万年ほど前に分離した集団である可能性があることを明らかにし、沖縄で行われた学会で発表を行った。更に、初年度の分析で縄文人のゲノム解析に関してある程度の成果を得たので,本年は日本人の成立を考える上で重要な,弥生時代人骨を中心にゲノム解析を進めた。縄文人の末裔と考えられている西北九州の弥生人のゲノム解析によって,彼らが既に渡来系集団と混血した集団であることを明らかにし,論文発表した。また,渡来系集団の起源地と考えられる韓国の6千年前の貝塚人骨である加徳島の新石器時代の遺跡から出土人骨のゲノム解析を行い,彼らが現代の韓国人よりも縄文的な要素を多く持っていることを見いだし報告した。更に渡来人の遺伝的な特徴を更に詳しく知るために,弥生相当期に当たる韓国の人骨の分析を進めている。日本国内でも渡来系とされる弥生人集団のゲノム解析を進めた。特に大量の人骨が出土した弥生時代後期の鳥取県青谷上寺地遺跡から出土した人骨について,網羅的な解析を行った。その結果,彼らの遺伝的な特徴は現代日本人の範疇に入るものの,多様性は大きいことが判明した。このほか,全国の大学研究機関や埋蔵文化財センターに所蔵されている縄文~古墳時代人骨を収集し,ミトコンドリアDNAの分析を進めた。更にその中でDNAの保存状態の良い個体については核ゲノムの解析も実施している。
著者
日野 晶也 角田 恒雄 釜野 徳明 野川 俊彦 小笠原 強 速水 格 松本 政哲 服部 明彦 西川 輝明 竹内 一郎 橋本 惇 三浦 知之 木津 治久 森田 博史 姚 揚貨 易 新生 小宮山 寛機 林 正彦 川村 将弘 張 恵平
出版者
神奈川大学
雑誌
年報 (ISSN:13420917)
巻号頁・発行日
vol.2001, pp.127-129, 2002-03

約100万種といわれる海洋生物は,地上における最も未知の世界である。この海洋生物から,医薬資源となりうる有用な生理活性物質を発見し,構造を明らかにし,生理活性を検討することを目的としている。NIHで臨床試験中のドラスタチン10(ウミウシ成分)とブリオスタチン1(フサコケムシ成分)は,釡野がその研究に携わったものである。平成元年以来,日野,西川等の協力を得て,平塚付近(相模湾)および岩手県大槌町付近(大槌湾)の海洋生物を検討し,特に青森,浅虫湾のフサコケムシからブリオスタチン10という強い抗癌性物質を見いだし,抗エイズ活性もあることが分かった。また,これらの物質には,ホルモン産生活性などの作用の存在も明らかになり,医薬品としての開発の可能性が考えられる。さらに,フロリダ産コケムシから10数種の新規アルカロイドを単離したが,このうちconvolutamydineが,ヒト急性骨髄性白血病細胞HL-60に対し,強力な分化誘導作用を示し,新たな抗癌剤発見の手がかりになる可能性もある。2000年度には,ほぼこれらのアルカロイドの全合成を完成した。これらの結果をふまえ,日本沿岸およびアジア各地の海洋生物について探索が計画されている。さらに,橋本,三浦等が「しんかい6500」,「しんかい2000」により採集した深海生物に対する検討も行い,今までに相模湾産シロウリガイとヘイトウシンカイヒバリガイおよびサツマハオリムシ,さらに巻き貝2種Alyinconcha cf. hesseleriおよびIfremeria nautileiの化学成分の検討を行っている。また,竹内等による南極付近の生物の入手も期待できる現状にある。さらに,新しく速水先生が加わり,洞窟生物の調査・採集が可能となっている。一方,生理活性,薬理作用検討に新たにそれぞれ小宮山博士,林博士,川村教授の協力が得られている。また,一昨年から中国でのフサコケムシの探索が姚新生教授と新たに参加した易楊貨教授によって開始され,かなり大量の生物が採集された。この生物からの活性物質の単離はこれからの大きな仕事であり,その結果が期待される。本年度は今までの生物成分のまとめを行った。特に,日本産ナマコ類成分,沖縄と真鶴で採集した日本産フサコケムシ成分,および深海巻貝2種の成分研究を完成した。
著者
篠田 謙一 神澤 秀明 角田 恒雄 安達 登
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.127, no.1, pp.25-43, 2019
被引用文献数
5

<p>佐世保市下本山岩陰遺跡から出土した2体の弥生人骨の核ゲノム解析を行った。これらの人骨は,遺跡の地理的な位置と形態学的な研究から縄文人の系統を引く西北九州弥生人集団の一員であると判断されている。しかし,次世代シークエンサを用いたDNA解析の結果,共に縄文系と渡来系弥生人の双方のゲノムを併せ持つことが明らかとなった。これらの人骨の帰属年代は弥生時代の末期にあたる。本研究結果から,この時期には九州の沿岸地域でも,在来集団と渡来した人々との間で混血がかなり進んでいたことが明らかとなった。このことは,これまで固定的に捉えられていた渡来系弥生人と西北九州弥生人の関係を捉え直す必要があることを示している。また本研究によって,古人骨の核ゲノムの解析で得られたデータは,このような混血の状況を捉えるのに有効であることも示された。今後,北部九州の弥生人骨のゲノム解析を進めていけば,日本人の成立のシナリオは更に精緻なものになることが期待される。</p>
著者
四戸 隆基 佐藤 正夫 馬場 岳士 角田 恒
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.1, 2007

【目的】高齢者大腿骨近位部骨折において医療費高騰の要因とされる「社会的入院」の実態を知る.【対象】2003~2005年に加療した60歳以上の大腿骨近位部骨折症例のうち解析可能であった75例(男24,女51例)を対象とした.年齢は平均81.2歳(60~97歳).骨折型の内訳は頚部骨折39例,転子部骨折36例.治療法は保存治療1例,人工骨頭置換29例,骨接合(頚部骨折)11例,骨接合(compression hip screw,以下CHS)21例,骨接合(ネイルタイプ)13例.在院日数は平均57.3日(15~163日).【方法】主治医より本人,家族に退院勧告した日以降の入院日数を「社会的入院日数」と定義し,社会的入院日数が2週間を越える「長期群」(46例),2週間以内の「標準群」(29例)に群別し各項目を比較した.【結果】1)年齢:長期群81.7歳(60~97歳),標準群83.4歳(64~94歳).有意な差は認めず.2)歩行能力:当施設のGrade分類を用い歩行能力をGrade1からGrade4までの4段階に分けた.退院時の歩行能力は,長期群でGrade1が21例(45.7%),Grade2が11例(23.9%),Grade3が14例(30.4%).標準群でGrade1が11例(37.9%)Grade2が4例(13.8%)Grade3が13例(44.9%),Grade4が1例(3.4%).長期群で退院時歩行能力が高い傾向にあった.3)治療:長期群は人工骨頭15例(32.6%),CHS15例(32.6%),ネイル9例(19.6%),骨接合(内側)7例(15.2%),標準群は人工骨頭14例(48.3%),CHS7例(24.1%),ネイル4例(13.8%),骨接合(内側)3例(10.3%),保存治療1例(3.4%)で治療されていた.治療による差は明らかでなかった.3)退院後の生活環境:長期群で,退院後自宅生活者35例(76.1%),施設入所11例(23.9%).標準群で自宅16例(55.2%),施設13例(44.8%).長期群で自宅退院が多かった.4)社会的入院日数と在院日数:社会的入院日数と在院日数は有意な強い正の相関を示した.5)社会的入院の理由:長期群46例の退院できない主因は, 疼痛の残存と日常生活動作の不安が入院継続希望の理由である「本人の希望」が15例(32.6%), 経済的な理由や家族関係の問題を理由とした「家族の希望」が9例(19.6%), 手すり増設や段差解消等の「自宅整備のため」12例(26.1%),「施設の空き待ち」10例(21.7%).であった.中には,永久的な入院を家族が希望する例や,本人と家族の施設入所に対する意志の相違が著しく紛糾した症例もあった.【考察】当院においては,高齢者の大腿骨近位部骨折症例の在院日数は社会的入院により長期化していた.社会的入院の長期化の要因としては,実際の歩行能力や治療法,骨折型等の純粋な医学的問題よりも本人や家族の意識の問題や経済的事情,後方施設との連携の方がより重要であった.入院が長期化することは国民医療費の増大に繋がり,病床稼働率の低下に伴う病院経営の悪化や空床不足による地域医療への悪影響といった弊害をも生み出す.社会的入院長期化の改善のため医療スタッフが適切な治療や効果的なリハビリ等の「狭義の医療」に力を注ぐのは当然だが,ソーシャルワーカーと本人および家族との相互理解を深め後方施設との風通しを良くするなど「広義の医療」を実践するべく大きな視野を持つ事が望ましい.また経済的な問題も決して少なくない.介護保険の適用や診療報酬の問題など行政の対応に依存する部分については,現場の状況を最もよく知る我々が声を発信し理解を求めていくことが必要であると改めて認識した.
著者
佐伯 史子 萩原 康雄 奈良 貴史 安達 登 米田 穣 鈴木 敏彦 澤田 純明 角田 恒雄 増山 琴香 尾嵜 大真 大森 貴之
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.124, no.1, pp.1-17, 2016
被引用文献数
2

岩手県大船渡市野々前貝塚から出土した縄文時代晩期の熟年男性1体(1号),胎児ないし新生児1体(2号),壮年後半から熟年前半の女性1体(3号),熟年女性1体(4号),3歳程度の幼児1体(5号)の計5体について,形態人類学的および理化学的分析を実施した。人骨の年代は放射性炭素年代測定により3150~3000年前(cal BP)と推定された。形態学的検討およびDNA分析の双方から,野々前貝塚人骨が縄文時代人に一般的な形質を有することが明らかとなった。ミトコンドリアDNAのハプログループが判明した3体(1号N9b1,4号N9b*,5号M7a2)に母系の血縁関係は認められなかった。特筆すべき古病理学的所見として,出土成人3体全ての外耳道に明瞭な外耳道骨腫が確認された。これは,野々前貝塚の人々が水中(潜水)ないし水面域での漁撈活動に従事していた可能性を示唆するものである。炭素・窒素同位体比の分析では海産物を多く摂取していた食性が提示されており,外耳道骨腫の多発との関連がうかがわれた。また,出土成人3体全ての頸椎に重度の椎間関節炎が生じており,野々前貝塚の人々が頸椎に強い負荷のかかる生活環境にあったことが想起された。
著者
沼野 藤夫 GRANDOS Juli PARK Y.B HOFFMAN Gray REYESーLOPEZ ペドロエー ROSENTHAL Ta ARNETT Frank MECHRA N.K. SHARMA B.K. PREEYACHIL C SUWANWELA Ni 角田 恒和 能勢 真人 松原 修 木村 彰方 長沢 俊彦 西村 泰治 CHARAOENWONGSE P. REYES-ROPEZ P.A. GRANDOSE J. PEDRO A Reye FRANK C Arne YACOV Itzcha N.K Mehra B.K Sharma NITAYA Suwan Y.B Park
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

高安動脈炎は非特異性血管炎であり、その成因は不明で、我国では難病の1つに指定されている。長年の研究の結果、この血管炎の発生に自己免疫機序の関与が示唆されるが、まだ十分解明されるまでには至っていない。本症は、臨床的にもいくつかの特徴が明らかにされており、(1)若年女性に多発し、(2)アジア諸国に多く、欧米に少ない種属差が知られている。我々は、本症の成因に遺伝要因の関与を想定し、現在までにHLA A24-B52-DR2のhaplotypeが本症患者に有意に高い頻度で出現していることを確認し、この事実がアジア諸国に多発する本症の謎と解きあかす鍵と考えられた。なぜならばB52の高い出現頻度を示しアジア諸国、アメリカインディアン、南米と本症の多発地域とが一致するからである。その後の検索で南米、韓国、インド等に於いても、本症患者にB-5 or B-52が有意に高い頻度を示すことが明らかにされてきている。そこで本症の病態につき国際研究を開始したが、この国際比較に於いていくつかの新しい事態が明らかにされた。その1つは、各国によって男女比が異なることである。我国では、女性が圧倒的に多い事実に対して西方にゆくに従って、その比率が減少し、イスラエル、トルコでほぼ6:4の割合までにゆくことである。もう1つは種属によりその臨床病態が異なり、我国では上行大動脈より大動脈弓部にかけての病変が多いのに対し、インド、タイ、南米(メキシコ、ペル-)ではむしろ腹部大動脈に病変が多いという差が明らかにされた。特にインド等では腹部大動脈に限局した患者もかなり認められた。このことから病態の分類に腹部大動脈の病変のみを含めた新しい体系を国際間で取り決め、この新分類に従った患者の実態を目下明らかにしつつある。このことはHLAの研究に於いても新たな展開を開かしめた。我々の研究に於いてHLA B-39の存在が健康日本人に比し有意に高い統計上の成績が得られたが、実数はわずか10名に満たぬ程であった為に放置しておいたが、そのDNAレベルの研究から、本症患者にのみ認められるB-39-2という新しいタイプの存在が発見された。そしてこのB-39は南米や東南アジア諸国に於いてはB-52より高い出現頻度を示しており、B-39と連鎖不平衡を示す遺伝要因が改めて注目されるようになっている。目下、各国に於いてB-39の出現頻度とその臨床病態との比較が新たなテーマとして取り上げられ、目下検討が成されつつある。このDNAレベルの解析は、各国より送ってもらった血液にて当大学で目下行いつつある。
著者
山田 格 Chou Lien-Siang Chantrapornsyl Supot Adulyanukosol Kanjana Chakravarti Shyamal Kanti 大石 雅之 和田 志郎 Yao Chou-Ju 角田 恒雄 田島 木綿子 新井 上巳 梅谷 綾子 栗原 望
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.1-10, 2006

台湾,タイ,インドの研究施設に保存されている中型ナガスクジラ属鯨類標本22点を調査し,骨格の形態学的特徴から,ミンククジラBalaenotera acutorostrata 4点,カツオクジラB. edeni 7点,ニタリクジラB. brydei 1点,ツノシマクジラB. omurai 10点を確認した.1970年代以来議論は提起されていたもののWada et al.(2003)が記載するまで不明瞭であったツノシマクジラの標本点数が相対的に多かったことは特筆に値する.本研究の結果は,これまで混乱が見られたいわゆる「ニタリクジラ類」の分類学的理解を解きほぐすものである.さらにこの混乱を完全に解決するためには,とくにカツオクジラのホロタイプ標本の分子遺伝学的調査が強く望まれる.