著者
戸髙 南帆
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.59-74, 2023-07-15 (Released:2023-10-13)
参考文献数
35

本稿では、子どもに家事を教えることに着目して、性別役割分業意識を平等化する可能性を検討する。「子どもの生活と学びに関する親子調査」のペアデータを用いて、親子それぞれの性別役割分業意識をふまえながら、小学校高学年から中高生の子どもを対象に、母親が家事のしかたを教えるという行為の効果を探った。その結果、女子と比較して、男子は「男性は外で働き、女性は家庭を守るほうがよい」という性別役割分業を支持する傾向にあるものの、母親に家事を教えてもらった経験がある男子ほど、性別役割分業を支持しない傾向がみられた。この傾向は母親の性別役割分業意識などを考慮しても確認された一方で、女子については有意な効果が認められなかった。このことから、子どもが男子である場合、性別役割分業に沿わない家事という行為を教えること自体が、ジェンダー意識を問い直す契機となり、意識の平等化を促す効果をもっていることが示唆された。
著者
北村 淳一 金 銀眞 中島 淳 髙久 宏佑 諸澤 崇裕
出版者
一般社団法人 日本魚類学会
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.23-28, 2021-04-25 (Released:2021-05-09)
参考文献数
25
被引用文献数
2

Habitat use of Misgurnus anguillicaudatus was surveyed at Tanushimaru, Kurume City, Fukuoka Prefecture, Kyushu Island, Japan, at winter season. The study site was composed as traditional agricultural ditches in parts of the paddy field with some parts of concrete artificial type of the canals. The spatial distribution of M. anguillicaudatus in the study area was examined in 36 square frames (1 m × 1 m) located spaced along agricultural pathway for approximately 20 m. Relationships between presence of M. anguillicaudatus and several environmental factors was analyzed using the generalized linear model (GLM). Result of the GLM analysis showed that probability of the presence of M. anguillicaudatus mainly explained by water depth and the probability increased with increasing water depth.
著者
位髙 啓史
出版者
公益財団法人 日本学術協力財団
雑誌
学術の動向 (ISSN:13423363)
巻号頁・発行日
vol.26, no.10, pp.10_38-10_43, 2021-10-01 (Released:2022-02-25)
参考文献数
16

人工的に合成したメッセンジャーRNA(mRNA)をクスリとして体内に投与し、治療薬やワクチンとして用いるmRNA医薬・ワクチンが注目されている。核酸配列を変えるだけでどのようなタンパク質でも産生させることが可能で、ゲノム挿入変異リスクが無いなど、多くの疾患に対する治療薬・ワクチンとしての開発が期待される新規医薬品モダリティである。新型コロナウイルスに対して迅速なワクチン開発が行われたが、そこにはmRNA作成技術、mRNAの免疫原性を制御する技術、体内の目的とする組織・細胞にmRNAを安全に送り届ける送達システム(ドラッグデリバリーシステム:DDS)など多くの技術の寄与がある。本稿ではmRNA医薬・ワクチンの開発経緯、用いられる技術、適応や今後の課題について概説する。
著者
仁田 雄介 髙橋 徹 熊野 宏昭
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.2-12, 2019-11-30 (Released:2020-01-04)
参考文献数
40

【背景】イメージ書き直しとは,恐怖記憶のイメージをより安全なイメージに書き直す技法である。メカニズムには未だ不明な点が多いが,再固定化を利用して恐怖記憶を減弱すると考えられている。【方法】Web of Science, Science Directにて“imagery rescripting” and “reconsolidation”というタームを用いて検索した。【結果】現時点ではイメージ書き直しと再固定化の関係を示す研究は存在しない。【結論】今後の研究では(1)イメージ書き直しとイメージエクスポージャーの再発率の比較,(2)イメージ書き直しとイメージエクスポージャーに関与する脳部位の比較,(3)イメージ書き直しとイメージエクスポージャーによるトラウマの陳述内容の変化の比較,(4)記憶想起直後にイメージを挿入する条件と記憶想起10分後にイメージを挿入する条件の比較,が行われる必要がある。
著者
髙坂 康雅
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
pp.27.1.11, (Released:2018-05-18)
参考文献数
7

This study investigates how many university students who do not desire a steady romantic relationship become involved in a steady relationship or want to have a romantic relationship in 1 year. A total of 96 students who did not desire a steady romantic relationship at Time 1 were asked about the status of their romantic relationship at Time 2. Those who had the highest score for “the influence of past romantic relationships” were identified, and 29 were found to desire a romantic relationship. The reasons for entering into or desiring a romantic relationship were categorized into seven groups.
著者
安西 航 髙橋 洋生 戸田 光彦 遠藤 秀紀
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.40, pp.45-52, 2017-05-31

小笠原諸島では、固有昆虫を保護するべく、粘着トラップを主としたグリーンアノールの駆除事業が進んでいる。しかし小笠原に生息する集団の基本的な生態はあまり調べられておらず、捕獲の効率化の検討に資する生態学的知見は少ない。本研究では、グリーンアノールの利用する止まり木に着目し、父島と母島の集団間あるいは雌雄間で、利用する微小環境を定量的に比較した。その結果、両島ともに雌雄差がみられ、雌の方が細い枝や根が混み合った微小環境を利用していることがわかった。このことから、効率的に雌を捕獲するには、樹幹や太い枝だけではなく、雌が好むような微小環境にもトラップを設置することが有効と考えられる。
著者
牧 美充 髙嶋 博
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.69, no.10, pp.1131-1141, 2017-10-01

多くの橋本脳症の患者がgive-way weaknessや解剖学的には説明しづらい異常感覚を呈していることをわれわれは見出した。それらは身体表現性障害(いわゆるヒステリー)で特徴的とされる身体症状に類似しており,脳梗塞のような局所的な障害で引き起こされる症状とは切り離されて考えられてきた。そのような神経症候が出現するためには,びまん性,多巣性に濃淡を持った微小病変を蓄積させることができる自己免疫性脳症のような病態を想定する必要がある。このような考え方で,われわれは「びまん性脳障害による神経症候」という新しい診断概念に到達し,実臨床では多くの患者を見出している。今回,抗ガングリオニックアセチルコリン受容体抗体関連脳症,子宮頸がんワクチン接種後に発生した脳症,またはスティッフ・パーソン症候群でも同様の症候がみられることを報告する。自己免疫性脳症の臨床では,抗体の存在だけでなく,自己免疫性脳症による「びまん性脳障害」という概念が重要であり,この新しい診断概念を用いることで診断が困難な自己免疫性脳症の軽症例であっても容易に診断が可能となる。
著者
髙野 大貴 寺岡 睦
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.358-364, 2019-06-15 (Released:2019-06-15)
参考文献数
13

作業に根ざした実践(Occupation-Based Practice 2.0:OBP 2.0)は,クライエントの作業機能障害を評価しつつ,それを取り巻く信念対立に対処していく方法論である.本報告では,地域在住で脳卒中後遺症を有するクライエントに対してOBP 2.0を用いた評価と介入を実施し,訪問作業療法(訪問OT)におけるOBP 2.0の臨床有用性を検討した.その結果,作業機能障害の改善と生活機能の向上が見られ,作業療法士,家族とクライエントの間で生じた信念対立の解明が進んだ.OBP 2.0は,作業機能障害の改善に向けて訪問OTの方針の共有と,状況に応じ様々な方法の使用ができると考えられた.また,クライエントや周囲の人々と協業した訪問OTを促進できた.
著者
髙橋 美貴 井上 重治 羽山 和美 二宮 健太郎 安部 茂
出版者
日本医真菌学会
雑誌
Medical Mycology Journal (ISSN:21856486)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.255-261, 2012 (Released:2012-12-15)
参考文献数
11
被引用文献数
17 14

われわれは, 4種の飽和脂肪酸 (カプロン酸 C6, カプリル酸 C8, カプリン酸 C10, ランリン酸 C12) について, 2.5% ウシ胎児血清含有 RPMI1640培地 (基礎培地) を用いてカンジダ発育に対する作用を検討した. さらに抗真菌活性の強かったカプリル酸, カプリン酸についてマウス口腔カンジダ症に及ぼす作用を調べた. 4種の飽和脂肪酸のin vitro での Candida albicans の増殖に及ぼす効果を調べた結果, カプリル酸, カプリン酸, およびラウリン酸を終濃度0.78μg / ml 以上で添加すると, その菌糸形発育が抑制された. 口腔カンジダ症マウスモデルを作製し, カプリル酸, カプリン酸を1回につき50 μl (3% 濃度) を C. albicans 接種3時間後, 24時間後および27時間後に, 3回口腔内に投与したところ, 舌の症状が改善され, 病理標本でも菌の定着が少なくなることが示唆された. カプリン酸においてはより少量で効果を示し, その改善も著しいものであった. カプリン酸が少量の投与でマウス口腔カンジダ症に効果を示すことから, 口腔カンジダ症の予防および患者への補完代替医療としての使用が期待される.
著者
谷 良夫 林 亮太朗 髙田 一翔 大路 紘裕 入江 祐樹 今村 拓未 早川 祐 向井 貴彦
出版者
日本魚類学会
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
pp.18-002, (Released:2019-03-29)
参考文献数
24

Nuclear DNA (nDNA) markers were developed to distinguish between the closely related brackish water gobies Tridentiger brevispinis and T. obscurus. Although genetic differentiation of the two species has already been demonstrated by allozyme analysis in previous studies, the nucleotide sequences of mitochondrial DNA (mtDNA) haplotypes were similar and often shared by introgressive hybridization, obscuring the identification of the two species by mtDNA markers. In this study, one mtDNA gene [cytochrome b (cytb)] and four nuclear DNA gene regions [G protein-coupled receptor 85 (gpr85), ryanodine receptor 3 (ryr3), recombination activating protein 1 (rag1) and zic family member 1 (zic1)] were sequenced in 11 to 17 individuals, respectively, of T. brevispinis and T. obscurus, collected from the Mukogawa River, Hyogo Prefecture, Japan. The results for the mtDNA cytb region matched those of previous studies, the nucleotide sequences being very similar, with haplotypes shared among species. On the other hand, two (gpr85 and ryr3) of the four nDNA regions clearly differed between the two species, PCR-RFLP conducted on the former also showing specifically-different electrophoretic patterns. In order to confirm that nDNA PCR-RFLP could distinguish between the two species in other populations, additional samples of both from the Shonai River, Aichi Prefecture were subjected to and identified by the above method. In addition, eight individuals of putative F1 hybrid identified by allozyme analysis (three diagnostic loci) were also investigated. Although six of the eight putative hybrids included heterozygotes at both of the two nDNA PCR-RFLP loci, two individuals were characterized by a heterozygotic pattern at one locus, homozygotic at the other, both individuals possibly being F2 or backcross progeny, although initially misidentified as F1. The results indicated that nDNA markers may be helpful in distinguishing closely related Tridentiger species, which cannot be identified by mtDNA markers.
著者
髙木 咲織
出版者
日本記号学会
雑誌
記号学研究 (ISSN:27588580)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.37-50, 2023 (Released:2023-11-24)

記号に「指示」と「例示」という二つの働きを見出したグッドマンは、特に例示の働きを重視し、「隠喩的例示」に「表現」という特別な名を与えた。例示が重視されたのは、例示されるものが言語によっては置き換えられないものであるために「経験を再組織化」するためである。しかし、既に言語によって記述されている文学作品において、記号がどのように「経験の再組織化」を可能にするのかについては、グッドマンの説明は不十分である。本稿では、言語で記述された隠喩が「経験の再組織化」を可能にする事例を挙げ、そこでイメージというレイヤーが重要であることを見るが、それに先だって、あらゆる隠喩が何かを「表現」するわけではないことを確認するべく、表現的でない隠喩の例についても検討する。すると、イメージにおいて稠密で充満した記号システムによって読み取られる場合に、「経験の再組織化」が可能になることがわかる。このとき、記号システムは作品附随的なものではなく読者/鑑賞者付随的なものと考えるべきである。そう考えることで、グッドマンが「美的なものの兆候」として示した稠密性と充満が、彼自身が想定している以上に重要であることが明らかになる。
著者
石垣 賢和 竹林 崇 前田 尚賜 髙橋 佑弥
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.6, pp.689-703, 2020-12-15 (Released:2020-12-15)
参考文献数
18

要旨:エビデンスレベルの高い介入研究を実施するためには,対照群を設定する必要があるが倫理的に容易ではない.本研究では,一般臨床のデータを後方視的に抽出することにより,214名の脳卒中後上肢麻痺における回復期の傾向スコア算出のためのデータプールを構築した.データの使用例として,過去に著者らが実施した,対照群を用いない前後比較試験のデータを介入群とした傾向スコアマッチングを行った結果についても併せて報告する.本研究のデータを多くの研究者や臨床家が対照群として使用することにより,臨床研究の質向上に貢献できると考える.
著者
髙根 雄也
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.7-14, 2018-02-15 (Released:2018-02-15)
参考文献数
39
被引用文献数
1

近年,気候変動に関連し世界中で猛暑が頻発しており,これらの猛暑の発生頻度は今後ますます増加すると予測されている.猛暑は人間健康や電力需要,農業等へ悪影響をもたらすため,これらの具体的な対策を立てる必要がある.そのためには猛暑の特徴を理解することが望ましい.そこで本稿では近年国内で発生した地域スケールの猛暑の特徴について解説する.
著者
髙橋 徹也 近江 晃樹 豊島 拓 齋藤 博樹 桐林 伸幸 金子 一善 菅原 重生 久保田 功
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.734-740, 2014 (Released:2015-07-12)
参考文献数
8

患者は30歳代女性. 神経性食思不振症に伴うるい痩のため, 当院精神科に栄養管理目的に入院中であった. 入院後, 血圧の低下と肺野のうっ血を認めたため当科紹介となった. BNP値が3045pg/mLと上昇し, 低リン血症をはじめとした高度な電解質異常を認めた. 心電図では陰性T波が出現し, 心エコーではたこつぼ心筋症様の左室壁運動異常を認めた. うっ血性心不全として少量のカテコラミンおよび利尿薬を投与し, 致死性不整脈に注意しながら全身管理に努めた. また, 電解質を補正しながら緩徐に投与カロリーの増量を行った. その後, 電解質は補正され, 左室壁運動および心不全の改善を認めた. 低栄養状態にある患者の精神的ストレスや低血糖・疼痛による身体的ストレス, 低リン血症などの電解質異常が, たこつぼ心筋症とRefeeding症候群に伴う心不全の発症に関与している可能性が示唆された.