著者
加藤 剛平 田宮 菜奈子 柏木 聖代 赤坂 清和
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.17-26, 2011-02-20

【目的】地域在住要介護者等の外出頻度に関連する環境因子を横断研究により検討する。【方法】通所リハビリテーション利用者(77名)を対象にした。多重ロジスティック回帰分析を用いて,外出頻度が低い状態に関連する利用者の基本属性および環境因子を探索した。一週間の外出頻度を従属変数とし,性別,年齢,疾病の種類,日常生活活動能力,利用施設,一週間の通所リハビリテーション利用日数,環境因子を独立変数とした。環境因子は,Home And Community Environment(HACE)日本語版を用いて評価した。【結果】地域の障害の多さを示すHACE日本語版の地域移動性得点が高いことは,一週間の外出頻度が通所リハビリテーションの利用を除くと「まったく外出しなかった(調整オッズ比[95%信頼区間]:8.84[1.80-67.02])」と独立に関連した。また,通所リハビリテーションを外出頻度に含めた二次的分析でも同様の結果が得られた。【結論】地域の物的障害が多いことは,地域在住要介護者等の低い外出頻度に関連する環境要因として重要である。
著者
島田 裕之 内山 靖
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.38-46, 2001-03-31
被引用文献数
17

高齢者に対する運動介入を行い, 姿勢バランス機能が向上するかを検討し, 運動の種類の違いによって改善する機能に特異的な反応が生じるか明らかにすることを目的とした。対象は施設を利用する後期高齢者34名(平均年齢80.8±6.6歳)で, これらの対象を無作為にコントロール群, 静的バランス練習群, 動的バランス練習群に分類した。運動による介入は週2から3回の頻度で12週間継続して行った。バランス検査は全被検者に対し運動開始前, 終了時, 終了から12週間後に行った。介入群では静的・動的バランス検査, 歩行検査, 応用動作検査の全ての要素に関して機能の改善が認められ, それらの多くの機能が運動終了後にも保持されていた。コントロール群では, 最初の12週間で機能変化は認められなかったが, 24週後には姿勢バランス機能の低下が認められた。また, 介入の方法によって改善する機能は変化し, 静的バランス練習では片足立ち保持時間の延長やFunctional Reach Testの向上が認められた。一方, 動的バランス練習ではTimed Up and Go Testにおける歩行時間の短縮と, 階段を降りる所要時間が短縮した。本研究の結果から, 維持期高齢者に対する運動介入は効果的であり, 改善する機能は運動の種類に対応することから, 総合的な評価を行うことで効率的な運動処方の作成が可能であると考えられた。また, 両群に共通してFunctional Balance Scaleが改善し, 介入の効果判定に有益な指標となる可能性が示唆された。
著者
吉田 英樹 松崎 隆幸
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.29, no.7, pp.266-269, 2002-12-20
被引用文献数
1

筆者らは,麻痺側下肢を降ろす際に同下肢が内転してしまうために,従来法では階段を降りることのできなかった片麻痺例に対して,前向きで非麻痺側下肢を先に降ろし,麻痺側下肢を揃えることで階段を降りる方法(以下,非麻痺側先行前方アプローチ)を試みた。対象は,入院片麻痺例3例(脳内出血慢性期例2例,脳腫瘍例1例)であり,非麻痺側先行前方アプローチの練習開始時点での機能的状態としては,全例で麻痺側下肢の中等度の運動麻痺(Brunnstrom StageIII)と表在感覚及び深部感覚の軽度から中等度の鈍麻を認め,階段を降りる動作と入浴動作を除く全ての日常生活動作(以下,ADL)が自立していた。非麻痺側先行前方アプローチの練習開始後l週間以内に全例で,手すりを用いた非麻痺側先行前方アプローチが自立した。また,非麻痺側先行前方アプローチに起因すると考えられる副作用(麻痺側下肢の関節痛,痙縮増悪等)や転倒事故の発生は,練習開始から退院後の外来でのPT実施期間(約2年間)を含めて皆無であった。以上の結果は,非麻痺側先行前方アプローチが,従来法では階段を降りることのできない片麻痺例のADL改善のための一手段となり得る可能性を示唆していると考えられる。
著者
坂本 浩樹 平島 俊弘 遊佐 隆 黒田 重史 森石 丈二
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.20, no.6, pp.407-410, 1993-11-01
被引用文献数
1

腱板断裂の手術後の固定肢位として stockinette-Velpeau固定を用い, 理学療法をおこなった30例31肩に対し術前, 術後の成績を日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準に基づいて比較検討した。総合点は術前平均68.3点から術後平均95.4点と良好な成績が得られた。術前に高度な痛みを訴えていた者, 長時間上肢挙上作業に従事している者, 筋力の回復が遅い者に術後痛みが残存する傾向を認めた。術後患側を下にして寝る事のみ不能なものが 5肩に認められた。術後自動挙上はすべて15点, 自動外旋は平均 7.8点と良好な成績を示した。
著者
藤本 昌央 山本 悟 森岡 周
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, 2008-04-20
被引用文献数
2

【目的】運動イメージ時の脳活動に関連した先行研究において,運動イメージが運動実行の際と共通の神経基盤を有することが明らかにされている。運動イメージの際に活動する主たる領域は,第二次体性感覚野,頭頂間溝,補足運動野,一次運動野,背側運動前野,小脳であると報告されている(Naito 2001)。なかでも,運動前野,補足運動野,小脳,頭頂間溝はあたかも自分自身が運動をしているようにイメージする一人称的運動イメージに関連する脳領域であることが判明している(Naito 2002)。近年,歩行イメージ中において前補足運動野の活動が増加することが報告された(Malouin 2003)が,高次運動領野は活性化しないといった報告(Jahn 2004)もあることから,その根拠は依然として不十分である。その理由の一つとして,歩行イメージは空間的にも時間的にも感覚情報処理の多さから明確なイメージを生成することが難しいことが考えられる。言語が上肢の運動生成に影響することは知られている(Gentilucci 2003)が,最近になって,メタファー言語が巧緻的な上肢運動の視覚運動感覚イメージに影響するといった仮説が述べられている(McGeoch 2007)。そこで本研究は,歩行イメージを鮮明化させるためにメタファー言語が有効であるかを脳イメージング装置によって明らかにすることを目的とする。<BR><BR>【方法】20代の健常成人12名が実験に参加した。なお,すべての参加者に本研究の主旨を説明し,参加の同意を得た。椅坐位の対象者に閉眼を求めた後,条件1では「歩いているイメージをしてください」,条件2では「踵が地面に着く感触を意識しながら歩いているイメージをしてください」,条件3では「踵が柔らかい砂浜に沈み込むのを意識しながら歩いているイメージをしてください」と言語教示を与えた。言語教示後に,安静5秒間-イメージ30秒間-安静5秒間の脳血流量を測定した。脳血流量の測定には(株)島津製作所製機能的近赤外分光装置(fNIRS,FOIRE-3000)を用い,酸素化ヘモグロビン(oxyHb)値を抽出した。光ファイバフォルダは前頭葉から頭頂葉,後頭葉にかけ覆った。統計処理にはKruskal-Wallis検定およびPost hoc testとしてScheffe検定を用いた。測定後,Fusion imagingソフト(島津製作所)を用いてMRI画像への重ね合わせを行い,脳マッピングを行った。<BR><BR>【結果】条件1および2に対して,条件3において左一次運動野,左運動前野領域のoxyHBが有意に増加した(p<0.05)。<BR><BR>【考察】条件3において一次運動野および運動前野領域の有意な血流量の増加は,先行研究から,メタファー言語の教示によって,運動イメージが鮮明化されたことが考えられる。歩行といった下肢の周期運動においてもメタファー言語の付与が運動イメージ生成に有効に作用することが示唆された。<BR>
著者
村山 尊司 沼田 憲治 高杉 潤 宮本 晴見
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.182-188, 2004-06-20

左頭頂栗皮質下出血後,起居動作や立ち上がり動作が拙劣となり,垂直位での立位保持に障害を来した症例について,病巣および臨床所見を検討し,その要因について考察した。頭部画像所見では左上・下頭頂小栗の皮質下に出血巣を認め,臨床所見は視覚性運動失調,関節定位覚障害などの頭頂連合領域の損傷に関わる所見を呈していた。動作や姿勢保持では自己の姿勢や身体状況を的確に定位できず曖昧な内観を示していた。頭頂連今野は高次の体性感覚情報,運動に関連した視覚や体性感覚,平衡機能を統合する機能を有し,姿勢の識別や自己運動の知覚に関わると考えられていることから,動作場面での曖昧な内観及び拙劣な行為は頭頂連合野の機能障害に起因したものと推察された。立位保持では,視覚的な垂直軸判断に問題はなく,自己の主観的な判断(姿勢及び内観)で誤りが認められたが,左頭頂栗皮質下損傷により,姿勢制御に必要な身体情報入力の頭頂連合野での統合過程でdisconnection(離断)が生じたためと推察された。本症例が示した所見は,基本的な動作や立位保持など,半ば自動的に実行される全身的運動における頭頂連今野の役割を示唆するもので,その障害は体性知覚,視覚,前庭系など,多感覚の統合過程の障害に起因したものと考えられた。
著者
望月 久
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.192-196, 2005-06-20
被引用文献数
4 4

バランスは理学療法に関連の深い用語であるが, 姿勢の変化や外乱に対する立ち直り反応や平衡反応といった姿勢反応としてのバランス, 生体力学的分析に適した身体重心線と支持基底面の関連性としてのバランス, 特定の検査方法を通してみた結果としてのバランスなど, バランスに対しては様々な捉え方があり, その意味内容は理学療法士によって, また同じ理学療法士でも使用する文脈によって異なっているように思われる。本論では, バランスについての考え方を整理し, バランスの評価およびバランス改善へのアプローチについて検討したい。バランスの概念的整理 1. バランスをみる視点 一般的な意味におけるバランスは, 姿勢保持や動作時に転倒せず安定してその動作が遂行できること, または遂行していることを指していると思われる。Shumway-Cookらは, 姿勢調節には身体(姿勢)の方向付け(postural orientation)と安定性(postural stability)の2側面があり, バランスは後者に関する概念と捉えている。理学療法士は対象者のパフォーマンスを観察し, その状況から対象者が実施している動作の自立度や安定性, パフォーマンスを実現させている身体能力, 調節機構としての感覚, 運動神経系の機能を推測している。それら全てを漠然とバランスという用語で表していることもあり, 姿勢調節に関連する身体能力や神経機構を指していることもある。
著者
村田 伸 津田 彰 稲谷 ふみ枝 田中 芳幸
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.88-95, 2005-04-20
被引用文献数
24 29

本研究は, 在宅障害高齢者110名(平均年齢83.1歳, 男性17名, 女性93名)を対象に, 転倒歴と注意力及び身体機能を評価し, 転倒に影響を及ぼす要因を検討した。転倒経験群28名, ニアミス(転倒しそうになった)体験群33名, 非経験群49名の3群間の比較において, 転倒経験群とニアミス体験群のTrail making test-Part A(TMT-A)は, 非経験群より有意に小さく, 身体機能の自己認識の逸脱は有意に大きかった。また, 転倒経験群の最大一歩幅, 歩行速度, 足把持力, 足関節背屈角度の4項目は, ニアミス体験群と非経験群より有意に低値を示した。さらに, 転倒歴の有無を目的変数としたロジスティック回帰分析の結果, 注意の指標としたTMT-A, 足把持力, 足関節背屈角度のオッズ比が有意であった。本結果は, 立位姿勢保持が不安定な在宅障害高齢者では, 身体機能の低下, とくに足把持力や足部可動性などの足部機能の低下が転倒の危険因子であることのみならず, 注意力の低下も転倒を引き起こす重大な要因であることを明らかにした。
著者
中山 彰一
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.100-104, 1988-03-10
被引用文献数
3 2

成人片麻痺の治療で圧倒的支持のもとに普及したBobath法に対して, 近年その有効性についての懐疑的見解が示されてきている。Bobath法の有効性については学問的側面, 治療者と患者側面, 教育的側面などから再検討を計ると共に困難性はあろうが, 他法との比較対照試験による有効性の実証も要しよう。また, 欧米においては, 本邦とは医療・経済・社会システムの相違もあろうが以前より, さまざまな議論がなされている。以上の観点より文献的考察を中心にBobath法の見解について総括する。
著者
新田 収 中原 留美子 岡田 節子 中嶋 和夫
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.27-34, 1991-01-10
被引用文献数
1

本研究においては, 痙直型の四肢麻痺を主徴候とする脳性麻痺児・者269名(痙直型178名, 痙直アテトイド型91名)を対象に, 垂直移動(起立・起座行動)の規定条件について, 知的および姿勢反射条件との関連で整理し, あわせてこれら要因の経年的変化について分析した。結果の概要は下記に示す通りである。1)起座行動は, 知的発達年齢5〜7か月以下の場合は全例不能となっていた。ただし知的発達年齢8〜9か月以上で側方パラシュート反応が陽性の場合は背臥位から腹臥位になり四つ這い肢位から座ることが可能, また後方パラシュートが陽性の場合は背臥位から片肘をついて起き上がることが可能となっていた。2)起立行動は, 知的発達年齢8〜9か月以下の場合は全例不能となっていた。しかしながら, 知的発達年齢10〜11か月以上で立位の平衡反応が陽性となると, 獲得されているパラシュート反応によって異なるが, 起立行動が可能となっていた。すなわち上記の条件に加えて側方パラシュート反応が陽性の場合は物につかまって立ち上がることが可能となっていた。ただし知的発達年齢が12〜14か月以上で, 後方パラシュート反応が陽性でなければ, 物につかまらず立ち上がることは不能となっていた 3)痙直型の脳性麻痺者においては, 生活年齢が2歳0か月を越えると姿勢反射の獲得状況が向上的に変化することが無かった。したがって, 姿勢反射に注目するなら, この時点を境に起立・起座行動に関しては精度の高い予測が可能となることが明らかにされた。
著者
原田 和宏 佐藤 ゆかり 齋藤 圭介 小林 正人 香川 幸次郎
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.263-271, 2006
参考文献数
36
被引用文献数
12 13

本研究は,在宅で生活を続ける自立高齢者における機能低下の実態を地域ベースで把握することをねらいに,ADL(歩行,入浴,トイレ動作,食事,着替え)および活動能力(老研式活動能力指標)の自立者を1年半後に追跡し,ADLまたは活動能力障害の新規出現に対する転倒既往と閉じこもりの関与を縦断的に検討することを目的とした。調査は中国地方の某町の在宅高齢者全員を対象に2002年12月と2004年6月に行い,ADL障害の出現では1,085名,活動能力障害の出現では525名のデータを分析した。その結果,在宅で生活を続ける自立高齢者のうち1年半でADL障害は4.7%に生じ,手段的自立の障害は9.0%,知的能動性は13.3%,社会的役割は15.4%,後者3指標いずれかの活動能力障害は25.9%に生じた。また,障害の新規出現は高年齢と併せて転倒既往や閉じこもりによってその割合が高まることが認められた。自立高齢者から機能低下のハイリスク者を選定するにあたり,転倒経験や外出しようとしない閉じこもり状況を考慮することは意義があると推察される。

1 0 0 0 OA 下肢のROMとADL

著者
吉元 洋一
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.247-250, 1988-05-10
被引用文献数
13

三次元電気角度計を使用し, 股・膝関節可動域が和式ADLにどのように関連しているかについて検討し, 以下の結論を得た。和式ADLにおける股関節使用可動域は, 屈曲120度, 回旋20度及び内外反26度を有すればほぼ可能であるが動作によっては, 最終肢位よりも運動中に最大可動域となる動作があるので注意することが必要である。膝関節については屈曲130-150度, 内旋10~39度及び内外反20-30度が必要である。特に膝最大屈曲が要求される動作においては, 内旋及び内反方向の動きが重要となり, 和式ADLにおける特徴を示唆している。
著者
平井 達也 島田 裕之 牧 公子 梅木 将史 関谷 真紀子 壹岐 英正 岩田 容子
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.134-135, 2013-04-20

【目的】施設入所高齢者の移乗による転倒に関連する評価項目を検討する目的で,多施設問共同研究を行った。【方法】愛知県内の9つの介護老人保健施設の協力を得て,101名の施設入所高齢者を対象とした。過去1年間の転倒の有無,移乗による転倒の有無別に後向き調査を行った。測定項目はADL評価,認知機能および運動機能評価,島田ら(2004)の転倒関連行動指標,さらに我々が考案した移乗動作の際の危険行動を観察する転倒回避能力(Fan Avoidance Ability:以下,FAA)評価を行った。【結果】60.4%の対象者が転倒しており,その内,移乗による転倒は70.5%であった。各測定項目を移乗による転倒の有無で比較したところ,FIMとPOMAに有意差があった。移乗による転倒の有無を目的変数とした多重ロジスティック回帰分析の結果,FAA総得点のみが有意な因子として検出された。FAA総得点とFIM,認知機能項目,FAA各項目,転倒関連行動指標の危険行動の項目数が有意な相関を示した。【結語】転倒回避能力評価は基準関連妥当性を有し,移乗動作による転倒と関連する有用な評価方法であることが示唆された。
著者
阿部 恭子 沼田 憲治 大野 範夫 小笹 佳史
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.30, no.7, pp.415-420, 2003-12-20

脳卒中片麻痺患者のいわゆるプッシャー現象が損傷半球側や特定領域, 視空間失語の有無に無関係に出現し体幹の非麻痺側傾斜に対し強い恐怖心を持つとする報告がある。このことは, プッシャー現象の発現要因の一つに心理的要因が影響していることを示唆している。このような心理的傾向は, 明らかに本現象を認めずとも, 立ち直り・平衡反応に左右非対称性が認められる片麻痺患者にも内在している可能性が推察される。本研究は, 明らかなプッシャー現象を認めない脳卒中片麻痺患者の体幹傾斜時における内省報告から, 立ち直り・平衡反応の非対称性と心理的要因との関連性を検討することを目的とした。対象は脳卒中片麻痺患者30例, 座位で体幹を左右に傾斜させた時の内省報告の結果, 麻痺側, 非麻痺側傾斜に対する「怖さ」を示す内容から5群に分類された。そのなかで麻痺側に比べ非麻疹側の傾斜に対しより恐怖心を示した症例が30例中15例と高い割合で存在した。さらにこれら15症例の中で非麻痺側傾斜時に体幹の抵抗を示す症例が10例であった。これらのことからプッシャー現象の有無に関わらず, 非麻疹側傾斜に対する「怖さ」は片麻疹患者に共通する一つの病態であることが推察される。今回の結果は, 片麻痺患者の体幹機能を評価する場合, 左右体幹筋活動のみならず, 左右への傾斜に対する心理的な側面も踏まえることの重要性が示唆される。