著者
五十嵐 裕美 伊藤 博 一林 亮 坪田 貴也 吉原 克則 小泉 雅之 佐藤 秀之 山崎 純一 池田 隆徳
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.S2_5-S2_10, 2012

症例は60歳代の男性, 未治療の高血圧の既往があり, 国内線の飛行機内で心肺停止となった.客室乗務員が自動体外式除細動器(AED)を装着し1回作動後に心拍が再開し, 羽田着陸後, 当センターに緊急搬送された.AEDの記録では心室細動(VF)を呈していた.JCSII-10, GCS E4V2M4, 瞳孔3mm大で左右差なく, 血圧212/mmHg, 脈拍111/分であった.心電図は洞調律で, V<sub>4~6</sub>誘導でstrain T波が認められた.脳保護目的で低体温療法が3日間施行された.復温後に意識状態は回復し, 神経学的後遺症は認められなかった.ACh負荷冠動脈造影で4-AVが完全閉塞となり, 冠攣縮性狭心症と診断された.心臓電気生理学的検査(EPS)でVFが誘発されたこともあり, 植込み型除細動器(ICD)が植え込まれ退院となった.2010年1月より当センターは羽田空港の航空会社と救急医療連絡会を行っている.同年10月に新国際線旅客ターミナルが開設し, 旅客数の増加が見込まれる.迅速な応急処置と救急処置で救急の輪が成立し, 社会復帰が可能となった症例であったので報告する.
著者
太田 里美 菅野 紀明 青木 秀俊 二瓶 和喜 前田 喜晴 田辺 達三 杉江 三郎
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.280-287, 1980

左心および右心の弁の物性的要求条件,また生体弁,心血管補填graftとしての物性を検索するため,豚の大動脈弁,肺動脈弁,心膜,イヌの硬脳膜の新鮮組織およびBioprosthesis処理組織(0.2%GA,0.65%GA,1.3%DAS,98%Ethanol+DAS処理)の引張り強度,伸び率を測定した,また従来の生体弁処理法(4% Formalin,1%Betapropiolaction,70% Ethanol)の物性との比較も行つたその結果,新鮮大動脈弁に対する強度は肺動脈弁67%,心膜84%,硬脳膜52-72%,伸び率はおのおの134%,110~103%,114~86%であった.またBioprosthesis大動脈弁は強度は増すが,伸び率が低下してpliabilityに難のあること,Bioprosthesis肺動脈弁は左心弁への応用には疑問のあること,心膜では新鮮組織の右心の弁または補填材料としての利用は物性的に肯じられるが,Bioprothesisでは瘤形成の危険も考えられること,また従来の処理大動脈弁は物性的に弁破綻の可能性が大であり,Bioprosthesisとは物性的に有意の差のあることなどの知見をえた.
著者
小林 貴 久保 典史 坂倉 建一 高田 宗典 平原 大志 荒尾 憲司郎 宇賀田 祐介 森 将之 船山 大 菅原 養厚 阿古 潤哉 百村 伸一
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.42, no.11, pp.1438-1443, 2010

たこつぼ心筋症(transient left ventricular apical ballooning, takotsubo cardiomyopathy; TTC) では診断時, 冠動脈の有意狭窄を除外基準とすることが多い. しかしながら, 高齢者に多い病気であり, 最近, 冠動脈に有意狭窄のあるたこつぼ心筋症の存在もいわれるようになってきた. 症例は83歳, 女性. 普段から行っているわけではない, 緊張を伴った神社参拝, 豆まきという行事直後の食事, 飲酒をした際に著明な冷汗と意識が遠のく感覚を自覚したため, 救急要請となり当センターに救急搬送された. 急性冠症候群(acute coronary syndrome; ACS)が疑われ, 緊急心臓カテーテル施行. 左冠動脈前下行枝(left anterior descending artery; LAD)#7に90%狭窄を認めたため, 緊急経皮的冠動脈形成術(percutaneous coronary intervention; PCI)を行った. 直後の左室造影(left ventriculography; LVG)では, LADの支配領域に合致しない左心室基部の過収縮と心尖部の無収縮を認め, 高度冠動脈狭窄を合併したTTCと診断された. TTCとLAD病変の関与したACSは最も重要な鑑別点である. ACSとして判断されていた症例の中にも実際には詳細に検討すると, たこつぼ心筋症が潜んでいる可能性があることを示唆している. また, 診断方法の感度を考慮すると, 疾患概念による形体描写に基づかない命名の必要性が指摘されている. 病態解明の進歩が, 今後一層期待される.
著者
船田 桂子 永井 利幸 吉原 良浩 岸野 喜一 片山 隆晴 松村 圭祐 宮川 貴史 穂坂 春彦 鈴木 雅裕
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.45, no.11, pp.1413-1419, 2013 (Released:2014-11-21)
参考文献数
13

症例は手術歴や外傷歴のない49歳, 男性. 以前から時折下腿浮腫を自覚していたが, 自然軽快していたため放置していた. 2011年 7月に右下腿浮腫, 歩行時痛で受診. 右下腿深部静脈の拡張と血栓像を認め, 深部静脈血栓症と診断. 臨床症状, 心電図および経胸壁心臓超音波検査断層法からは肺塞栓症を疑わせなかったが, スクリーニングで施行した胸部造影CTで両肺動脈に血栓像を認めた. 抗核抗体, 凝固因子, プロテインS, プロテインCなどの血栓素因は正常範囲内であったが, 血中ホモシステイン値が67.7μmol/Lと著増しており高ホモシステイン血症を伴った深部静脈血栓症および肺血栓塞栓症と診断した. 抗凝固療法およびビタミン補充療法を開始し, 自覚症状と画像所見の改善を認め, 血中ホモシステイン値は 1カ月後には正常化し, 現在静脈血栓症の再発を認めていない. 高ホモシステイン血症を伴った静脈血栓塞栓症の報告は比較的稀であり, 文献的考察を含め報告する.
著者
折目 由紀彦 塩野 元美 瀬在 明 瀬在 幸安
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.64-67, 2001-01-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
5

待機的冠動脈バイパス術の施行症例に対しhANPを体外循環開始時から低用量投与し,術中・術後の循環動態,体液代謝に及ぼす影響について検討した.hANP投与群は0.03-0.05μg/kg/時を20時間投与し,その後0.02μg/kg/時に減量して24時間で中止した.循環動態については,hANP群はnonhANP群(hANP無投与)と比較して収縮期大動脈圧,平均大動脈圧,収縮期肺動脈圧,肺動脈楔入圧,全身血管抵抗,肺血管抵抗などの低下,心係数の上昇など血行動態の改善が認められた.体液代謝については,hANP群は血中ANP,サイクリックGMPの上昇,血漿レニン活性,血漿アンジオテンシン-IIおよびアルドステロン濃度の抑制などの効果が得られ,腎機能の低下も認めなかった.
著者
仲田 かおり 清水 雅俊 島 尚司 田中 将貴 堀 啓一郎
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.38, no.11, pp.1110-1114, 2006
被引用文献数
5

症例は73歳,男性.急性舌腫脹による咽頭腔の閉塞で呼吸困難をきたし救急搬送された.ただちに経鼻エアウェイ挿入で気道確保のうえ,同チューブから酸素投与がなされた.内視鏡検査では鼻咽腔および喉頭には浮腫がおよんでいないことが確認された.舌腫脹は強力ネオミノファーゲンCとマレイン酸クロルフェニラミンの投与により,しだいに軽快して約5時間後には会話可能となった.発症10時間後に施行されたMRI検査では,咽頭腔を塞ぐように舌が腫脹していたが舌内に膿瘍や出血は認められなかった.上記の投薬を続けることにより舌腫脹は4日後には完全消失した.急性舌腫脹の原因は,66歳時から80カ月間投与されていたアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬リシノプリルによる血管浮腫と考えられた.また,発症時の検査で腎機能障害が増悪しており,感冒に対して前日まで内服していた消炎鎮痛剤が原因と考えられ,さらに,リシノプリルの尿中排泄低下により血中濃度上昇を助長したものと考えられた.わが国におけるACE阻害薬が原因の血管浮腫は比較的稀であり,とくに舌腫脹の報告は本例を含めて計11例に過ぎない.しかしながら,死亡例も報告されており,気道確保を含めた適切な対応が重要である.また,ACE阻害薬内服者に顔面や口唇の浮腫や舌の違和感などの訴えがあれば,ただちに投与は中止されるべきである.
著者
中山 尚貴 尾崎 弘幸 海老名 俊明 小菅 雅美 日比 潔 塚原 健吾 奥田 純 岩橋 徳明 矢野 英人 仲地 達哉 遠藤 光明 三橋 孝之 大塚 文之 草間 郁好 小村 直弘 木村 一雄 羽柴 克孝 田原 良雄 小菅 宇之 杉山 貢
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.54-57, 2007

症例は30歳,男性.2006年6月,スポーツジムのランニングマシンで運動中に突然,心窩部不快感が出現し,運動を中止したが痙攣を伴う意識消失をきたし倒れた.スポーツジムのトレーナーがただちに心肺停止を確認し,施設内の自動体外式除細動器(AED)を装着した.AEDの音声に従い除細動ボタンを1回押し,すみやかに自己心拍が再開したが,AED使用後にリセットボタンを押したため,メモリーが消去され,心肺停止の原因として致死性不整脈の関与は確認できなかった.<BR>入院後,トレッドミル運動負荷心電図検査で広範囲の誘導でST低下を認め,冠動脈造影検査を施行し冠動脈瘤を伴う重症多枝病変を認めた.心肺停止の原因は心筋虚血による心室細動もしくは無脈性心室頻拍と推定し,冠動脈バイパス術を施行した.<BR>AEDの普及に伴い非医療従事者によるAEDを使用した救命例が本邦でも徐々に報告されており,本症例は現場にあったAEDをただちに使用したことが社会復帰に大きく貢献したと考えられる.ただし,本症例で使用したAEDのように,一部機種ではリセットボタンを押すことによりメモリーが消去され,事後検証が困難になることは注意すべき点であり改善を要する.
著者
富田 斉 今野 武津子 石川 信義
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.19, no.12, pp.1391-1391, 1987-12-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
27

先天性左心室憩室は極めてまれな心奇形であり,しばしば正中線上の異常を合併する.症例は,18歳男児で心不全から肺炎を併発し死亡した.剖検にて心房中隔欠損,両大血管右室起始,左心室憩室,dextroversionの心内奇形と胸骨下1/3の欠損,心膜・横隔膜の部分欠損,腹直筋離開の正中線上の異常を伴い,Cantrell症候群と診断した.本邦における先天性左心室憩室の13例を集計し,文献的考察を加えて報告した.
著者
中村 隆 香取 瞭
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.1, no.6, pp.575-580, 1969-06-01 (Released:2013-05-24)
参考文献数
18
著者
狩野 実希 浅野 充寿 松村 穣 村松 賢一 佐藤 明 大和 恒博 武居 一康 新田 順一 淺川 喜裕 牛木 真理子 高橋 雅弥 木村 知恵里
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.329-335, 2013 (Released:2014-09-13)
参考文献数
18

症例は, 67歳, 男性. 数カ月前より繰り返す失神発作を認めていた. 2010年9月, 意識消失を主訴に救急要請し, ショック状態で当院に搬送された. 心臓超音波検査で全周性の心嚢液貯留と右心系の虚脱所見を認めたため, 心タンポナーデと診断し入院した. 数日後には自然吸収されたが, その後も心嚢液の再貯留と消失を繰り返した. 心嚢穿刺により心嚢液の性状は血性であったが, 出血源の同定は困難であった. 出血源同定ならびに心タンポナーデ解除目的に試験開胸を行った. 右室前面の心筋表面より断続的に静脈性の出血がみられ, 縫合止血した. 術後, 心嚢液の再貯留なく経過した. 急激な心嚢内出血により心タンポナーデを呈することは決して稀ではないが, 本症例のように心嚢への出血と吸収が数日単位で起こり, 繰り返し心タンポナーデを引き起こす病態は今まで報告がなく, 病態機序がはっきりしなかった. 非常に稀な経過をたどった特発性心嚢内出血の症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
著者
水野 篤 西 裕太郎 山添 正博 小松 一貴 浅野 拓 増田 慶太 新沼 廣幸 丹羽 公一郎
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.46, no.8, pp.1083-1089, 2014

背景 : 過去に抗凝固薬における内服薬種類変更に伴うアドヒアランスの変化をみた研究はない. 今回心房細動患者における抗凝固薬のアドヒアランスを薬剤変更前後でアンケート調査にて確認した.  方法 : 心房細動において, 抗凝固薬を内服している患者のうち, リバーロキサバンに変更した患者全例を対象とした. リバーロキサバン開始時と次回約3カ月後の外来時にアドヒアランスに関するアンケートを行った.  結果 : 対象患者は40人 (平均年齢70.1歳, 男性7割). 変更前の抗凝固薬はアスピリン1人 (2.5%), ダビガトラン30人 (75%), ワルファリンが9人 (22.5%) であった. アンケート結果では, 開始前にも32.5%の患者が内服し忘れたことがあり, 3カ月の間に2.47±4.0回内服忘れることがあるということであった. 変更後のアンケート結果では3カ月間での薬を飲まなかった回数/日数のみ1.1±2.2回と有意に低下していた (p=0.008). アスピリン・ワルファリン群では有意に変化せず (p=0.285), ダビガトランからの変更群でのみ有意に3カ月間での薬を飲まなかった回数は改善した (p=0.018). 内服回数が2回以上の群では2.1回±3.6回から1.0±1.6回まで減少傾向を認めるものの, 有意差はなく (p=0.066), 内服回数が1回の群2.9±4.5回から1.2±2.6回に有意に減少した (p=0.046).  結論 : リバーロキサバン変更により内服を忘れる回数は有意に減少し, アドヒアランスによい影響を及ぼすと考えられた. さらにその効果は特にすべての内服薬を含めた服用回数が1回のものに顕著であると考えられる.
著者
山辺 高司 永田 正毅 石蔵 文信 安田 聡 木村 晃二 宮武 邦夫
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.12-17, 1991-01-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
12

経皮経静脈的僧帽弁交連裂開術(PTMC)を施行するにあたりバルーン径設定が開大弁口面積,僧帽弁逆流に及ぼす影響について検討した.対象は僧帽弁狭窄症患者46例.旧型28mm仕様の井上バルーンカテーテルを用いてPTMCを施行した.設定バルーン径を<26mm,26mm,26mm<の3群に分けて開大弁口面積,僧帽弁逆流を比較した.設定バルーン径26mmの14例,26mm末満の5例について最大開大時の中央径をシネフィルム上で計測,検討した.また,バルーンの特性を知るため狭窄弁ロモデルとして設定径よりも小さな穴の中で開大し,内圧を測定した.開大弁口面積は,設定バルーン径が小さい場合に小さい傾向にあった.僧帽弁逆流は設定26mm未満の場合は認められなかった.設定バルーン径と実測バルーン径の比をとると,設定26mmでは平均0.94,設定26mm未満では平均O.83と有意な差を認めた.バルーン内圧は中央径の増大に伴い上昇した.バルーン中央部に抵抗がかからない状態では26mm設定と24mm設定の間の内圧の差は0.3kg/cm2程度であったが,抵抗が加わった場合その差は0.9~1.Okg/cm2になった.以上より,バルーン内圧の高い26mm設定の場合,より設定径に近く開大することが判明した.バルーン径を大きくすると僧帽弁逆流の増悪の頻度が増し,小さくすると内圧が下がり十分な開大の効果が得られなかった.目標とするバルーン径で十分な圧が得られるバルーンの開発が望まれる.
著者
山口 朋禎 雪吹 周生 原 文男 櫛方 美文 上田 征夫 川並 汪一 黒木 伸一
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.30, no.Supplement4, pp.69-73, 1998-12-05 (Released:2013-05-24)
参考文献数
9

肥大型心筋症の臨床像の増悪に心筋梗塞発症が関与することが指摘されている.今回我々は急性心筋梗塞様心電図を呈し,剖検により病理学的検討を行いえた肥大型心筋症を経験したので,文献的考察を加えて報告する.【症例】41歳男性.以前より高血圧,心肥大を指摘されるも放置.歩行中失神発作をきたし近医へ搬送さる.心電図肢誘導およびV5~6に異常Q波ないしST上昇あり,急性心筋梗塞と診断され経静脈的血栓溶解療法施行さる.しかしその後心電図変化なく心筋逸脱酵素上昇せず,心室性不整脈出現のため当院CCUへ転送.入室後,持続性心室頻拍が頻発し,直流通電による停止を必要とした.心室頻拍の予防にはIb群,IV群抗不整脈薬は無効で,β-遮断薬静注のみ著効を示した.心エコーでは著明な左室肥大およびび漫性の左室低収縮が見られた.冠動脈造影は正常,左室腔内に圧較差なく,心筋生検で肥大型心筋症が疑われた.メトプロロールの内服を開始.ホルター心電図,運動負荷試験にて心室頻拍認めないため一旦退院.7日後に歩行中突然意識消失し当院に搬送さる.到着時心電図は心室細動を示し,電気的除細動無効で死亡.剖検にて著明な心肥大(880g),び漫性の線維化を認めた.組織学的には心筋の錯綜配列,高度の細胞間線維化,リンパ球浸潤の散在あり.心外膜側,筋層内冠動脈に有意狭窄なし.過去の健診時心電図は,4年前より今回と同様の所見を呈していた.
著者
笠原 秀範 田中 康史 柴田 敦 久松 恵理子 山中 あすか 冨澤 宗樹 米田 直人 北川 泰生 栗本 泰行 高橋 英樹 莇 隆
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.694-699, 2011 (Released:2012-11-07)
参考文献数
8

症例は36歳, 男性. 2008年11月ごろより, 両膝関節, 右環指関節痛が出現した. 2009年2月に起床後の右足底部痛および左上肢挙上時の疼痛があり, 当院救急外来を受診したが症状の改善はなく, 後日, 近医を受診し痛風の疑いがあると指摘され当院整形外科を受診したが, 37.5ºCの発熱, 胸痛, 左肩部痛もあり, また, 心雑音を聴取するため循環器内科を受診した. 経胸壁心エコー図検査上, 僧帽弁に疣腫を認めるため, 感染性心内膜炎の診断で入院となった. 2005年ごろから覚醒剤を使用していたが2008年10月からは使用していない. まわし打ちや, 再使用針での静注歴もある. 入院日より, セフトリアキソン(Ceftriaxone; CTRX) 2g×1回/日とゲンタマイシン(Gentamicin; GM) 60mg×3回/日の点滴投与を開始した. 入院日に施行した頭部MRIで塞栓像を認めたため, 翌日に準緊急手術を施行した. 前尖切除, 後尖温存による置換術を施行した. 術後, 僧帽弁逆流はなく, 感染は治癒した. 現在は症状の再現はなく, 覚醒剤中毒からも脱し, 社会復帰している. 近年, 覚醒剤使用がわが国でも社会的問題となっており, 覚醒剤常用者の感染症の鑑別診断として重要と考え, 症例報告をする.
著者
小船 雅義 渡辺 一郎 芦野 園子 奥村 恭男 高木 康博 山田 健史 小船 達也 大久保 公恵 進藤 敦史 中井 俊子 國本 聡 平山 篤志
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.41, no.SUPPL.3, pp.S3_114-S3_117, 2009 (Released:2015-01-23)
参考文献数
4

植込み型除細動器 (ICD) は心室頻拍/細動 (VT/VF) に基づく突然死の1次/2次予防に有効な治療法であることが示されている. しかしながら, ICDの植え込みを施行したにもかかわらず救命困難な症例も存在する. 今回, VFに対しICDが作動したにもかかわらず死亡した2症例を経験したので報告する.  症例1 : 56歳, 男性. 陳旧性心筋梗塞後の低心機能症例で, VTに対しICD植え込みを施行したが, 約1年後, 心肺停止 (CPA) にて搬送され死亡した. ICDの記録にてVFによる作動が確認された.  症例2 : 69歳, 男性. 2004年4月にCPAで当院搬送され救命され, 冠攣縮性狭心症に伴うVFに対しICD植え込みを施行した. 心機能は良好であり狭心症治療薬の服用も励行していたが, 再びCPAとなり死亡した. ICDの記録にてVFによる作動が確認された.  結語 : 冠動脈攣縮に伴うVF症例および虚血性心疾患に基づく重度の低心機能例ではICDが作動してもVT/VFが停止しない場合もあり, 冠攣縮の薬物コントロール, あるいはアブレーションなどの心室性不整脈に対する対策が望まれる.
著者
益岡 弘司 世古 哲哉 森木 宣行 山中 猛成 常岡 克伸 上田 国彦 中沢 茂雄 小野 直見 二神 康夫 須川 正宏 井坂 直樹 中野 赳
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.295-299, 1996

Tissue plasminogen activator(t-PA)による冠動脈内血栓溶解療法(PTCR)後の再閉塞が,以前より問題となっている.短時聞でのt-PA投与に伴う反応性の線溶能の変動が,再閉塞に関与することを既に我々は報告した.今回我々は,現時点で一般臨床上使用可能な投与量でも再閉塞の予防に寄与する投与方法がないかを検討するために,2つの異なったt-PAの投与方法を試み比較検討した.〔方法〕急性心筋梗塞患者20例を無作為にA群10例とB群10例に分けた.A群にはt-PA640万単位でPTCRを施行した.B群は480万単位で施行後,160万単位を6時間かけて末梢静脈より持続点滴した.PTCR開始前と開始の24時間後に採血し,t-PA,PAI-1,PIC,TAT,AT III,α2-PI,fibrino-gen,D-dimerおよび血小板数を測定した.〔結果〕PTCRはA群の1例で再灌流しなかった.4週後の確認造影では,PTCR不成功の1例に加え別にA群で1例が完全閉塞であったが,B群に再閉塞例はなかった.PTCR開始前の各因子に両群間で有意差は認めなかった.24時間後の値では,TATがA群15.4ng/ml,B群3.2ng/mlと有意にB群で低値であったが,他の因子に両群間で有意差は認めなかった.〔結論〕PTCR後のt-PA持続点滴を試みた.点滴例に慢性期再閉塞はなかった. t - P A 持続点滴例はPTCR単独例に比し,24時間後のPICに差はないがTATは有意に低く,線溶療法後の線溶活性は変わらないが反応性の凝固亢進状態の持続は弱いと考えられ,再閉塞の予防に有用である可能性がある.
著者
榎本 善成 野呂 眞人 伊藤 尚志 久次米 真吾 森山 明義 熊谷 賢太 酒井 毅 坂田 隆夫 杉 薫
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.44, no.SUPPL.2, pp.S2_111-S2_116, 2012 (Released:2013-09-18)
参考文献数
12

症例は29歳,男性.17歳時に不整脈原性右室心筋症(ARVC)による心室頻拍(VT)から心肺停止となり,植込み型除細動器(ICD)を植え込み経過観察していた.2011年3月11日の東日本大震災以降,動悸の訴えあり3月14日ICD作働を認めたため,当院緊急入院となった.入院時心電図は,左脚ブロック型,右軸偏位のHR100台の心室頻拍(VT)であり,over-drive pacing,各種抗不整脈投与でも停止しないため鎮静下でVTコントロールを開始した.約1週間の鎮静でコントロール後,持続するVTは消失したため,第48病日に独歩退院となった.しかし,その後も心不全悪化のために短期間で再入院を繰り返し,6月4日に再入院となった.心臓超音波検査(UCG)では,右心系の著明な拡大のみならず左室駆出率10%程度の両心不全の状態であり,入院後再度VT storm状態となった.鎮静下でのコントロールも無効であったため,補助循環装置(PCPS)導入したが,VT stormが鎮静化することなく,死亡した.震災を契機にVT storm状態となり心機能悪化が助長されたARVCの1例を経験した.