著者
松田 裕之 矢原 徹一 竹門 康弘 波田 善夫 長谷川 眞理子 日鷹 一雅 ホーテス シュテファン 角野 康郎 鎌田 麿人 神田 房行 加藤 真 國井 秀伸 向井 宏 村上 興正 中越 信和 中村 太士 中根 周歩 西廣 美穂 西廣 淳 佐藤 利幸 嶋田 正和 塩坂 比奈子 高村 典子 田村 典子 立川 賢一 椿 宜高 津田 智 鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.63-75, 2005-06-30
被引用文献数
20

【自然再生事業の対象】自然再生事業にあたっては, 可能な限り, 生態系を構成する以下のすべての要素を対象にすべきである. 1生物種と生育, 生息場所 2群集構造と種間関係 3生態系の機能 4生態系の繋がり 5人と自然との持続的なかかわり 【基本認識の明確化】自然再生事業を計画するにあたっては, 具体的な事業に着手する前に, 以下の項目についてよく検討し, 基本認識を共有すべきである. 6生物相と生態系の現状を科学的に把握し, 事業の必要性を検討する 7放置したときの将来を予測し, 事業の根拠を吟味する 8時間的, 空間的な広がりや風土を考慮して, 保全, 再生すべき生態系の姿を明らかにする 9自然の遷移をどの程度止めるべきかを検討する 【自然再生事業を進めるうえでの原則】自然再生事業を進めるうえでは, 以下の諸原則を遵守すべきである. 10地域の生物を保全する(地域性保全の原則) 11種の多様性を保全する(種多様性保全の原則) 12種の遺伝的変異性の保全に十分に配慮する(変異性保全の原則) 13自然の回復力を活かし, 人為的改変は必要最小限にとどめる(回復力活用の原則) 14事業に関わる多分野の研究者が協働する(諸分野協働の原則) 15伝統的な技術や文化を尊重する(伝統尊重の原則) 16目標の実現可能性を重視する(実現可能性の原則) 【順応的管理の指針】自然再生事業においては, 不確実性に対処するため, 以下の順応的管理などの手法を活用すべきである. 17事業の透明性を確保し, 第3者による評価を行う 18不可逆的な影響に備えて予防原則を用いる 19将来成否が評価できる具体的な目標を定める 20将来予測の不確実性の程度を示す 21管理計画に用いた仮説をモニタリングで検証し, 状態変化に応じて方策を変える 22用いた仮説の誤りが判明した場合, 中止を含めて速やかに是正する 【合意形成と連携の指針】自然再生事業は, 以下のような手続きと体制によって進めるべきである. 23科学者が適切な役割を果たす 24自然再生事業を担う次世代を育てる 25地域の多様な主体の間で相互に信頼関係を築き, 合意をはかる 26より広範な環境を守る取り組みとの連携をはかる
著者
中坪 孝之
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.179-187, 1998-01-20
被引用文献数
22

広島県太田川中流の氾濫原では,イネ科帰化草本シナダレスズメガヤEragrostis curvula(ウィーピングラブグラス)が急速に優占しつつある.1991年の秋に砂州に1m×1mのコドラートを35ヶ設置し,6年間追跡調査した結果,本種が出現するコドラート数,本種の被度が50%を越えるコドラート数のいずれもが急激に増加した.1993年の長期にわたる増水は一時的な被度の低下をもたらしたが,その後の回復はすみやかで,1996年には半数以上のコドラートで本種の生育が認められた.他の帰化草本や在来種では,このような増加傾向は認められなかった.シナダレスズメガヤは多年生で大きな株になるため,増水時に水流を妨げ,結果として株の下流側にマウンド状に砂が堆積する.本種の優占度と堆積した砂の厚さの間には正の相関が認められ,分布の中心部では砂の厚さが30cm以上に達していた.また,コドラートにおける本種の優占度と出現種数の間には負の相関が認められた.本種は種間競争のみならず,立地環境そのものを改変することによって,河川氾濫原の遷移パターンを変えてしまう可能性が示唆される.
著者
一ノ瀬 友博 高橋 俊守 川池 芽美
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.123-142, 2002-01-30
被引用文献数
4

1970年代にバイエルン州で初めて作製された生物空間地図は,その後ドイツの自然保護において,必要不可欠な資料として位置づけられ,ドイツ各地で作製されるようになった.地図作製手順には,当初から大きな変更がないものの,具体的な作業方法は大きな変化を遂げた.一般的だったカラー空中写真にかわり,最も重要な基礎資料として赤外カラー空中写真が利用されるようになった.地理情報システムの活用によって,情報はすべてデジタル化され,コンピュータ上で地図が作製されるようになった.本論では,最新の地図作製方法とその応用について紹介するとともに,我が国における生物空間地図を生かした生物多様性保全のあり方について検討した.
著者
小柳 知代 富松 裕
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.245-255, 2012-11-30

人間活動が引き起こす景観の変化と生物多様性の応答との間には、長いタイムラグが存在する場合がある。これは、種の絶滅や移入が、景観の変化に対して遅れて生じるためであり、このような多様性の応答のタイムラグは"extinction debt"や"colonization (immigration) credit"と呼ばれる。近年、欧米を中心とした研究事例から、絶滅や移入の遅れにともなう生物多様性の応答のタイムラグが、数十年から数百年にも及ぶことが明らかになってきた。タイムラグの長さは、種の生活史形質(移動分散能力や世代時間)によって、また、対象地の景観の履歴(変化速度や変化量)によって異なると考えられる。過去から現在にかけての生物多様性の動態を正しく理解し、将来の生物多様性変化を的確に予測していくためには、現在だけでなく過去の人間活動による影響を考慮する必要がある。景観変化と種の応答の間にある長いタイムラグの存在を認識することは、地域の生物多様性と生態系機能を長期的に維持していくために欠かせない視点であり、日本国内においても、多様な分類群を対象とした研究の蓄積が急務である。
著者
稲富 佳洋 宇野 裕之 高嶋 八千代 鬼丸 和幸 宮木 雅美 梶 光一
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.185-197, 2012-11-30
被引用文献数
1

北海道東部地域の阿寒国立公園においてメスジカ狩猟と個体数調整がエゾシカの生息密度に与えた影響を評価するために、1993年〜2009年に航空機調査を実施した。また、エゾシカの生息密度の変動に伴う林床植生の変化を明らかにするために、1995年〜2010年に囲い柵を用いたシカ排除区と対照区の林床に生育する植物の被度及び植物高を調査した。航空機調査の結果、生息密度は1993年の27.1±10.7頭/km^2から2009年の9.5±2.5頭/km^2へと減少した。1994年度のメスジカ狩猟の解禁後に生息密度が減少し始め、1998年度のメスジカ狩猟の規制緩和に伴って生息密度が急減し、1999年9月の個体数調整開始以降は、生息密度が低く維持されていることから、阿寒国立公園における生息密度の低下は、メスジカ狩猟の解禁と規制緩和並びに個体数調整による効果が大きいと考えた。林床植生調査の結果から、15種の嗜好性植物及び2種の不嗜好性植物について被度や植物高の変化を解析した。対照区では、嗜好性植物であるクマイザサやカラマツソウ属、エンレイソウ属の被度若しくは植物高が増加傾向を示し、不嗜好性植物であるハンゴンソウが消失した。阿寒湖周辺では、エゾシカの生息密度の低下によって、採食圧が低下したために林床植生が変化したことが示唆された。以上のことから、エゾシカを捕獲し、生息密度を低下させることは、高密度化によって衰退した林床植生を回復させるための有効な一手段であると考えた。
著者
松村 千鶴 雨宮 加奈 雨宮 さよ子 雨宮 昌子 雨宮 良樹 板垣 智之 市野沢 功 伊藤 拓馬 植原 彰 内野 陽一 大川 清人 大谷 雅人 角谷 拓 掃部 康宏 神戸 裕哉 北本 尚子 國武 陽子 久保川 恵里 小林 直樹 小林 美珠 斎藤 博 佐藤 友香 佐野 耕太 佐野 正昭 柴山 裕子 鈴木 としえ 辻沢 央 中 裕介 西口 有紀 服巻 洋介 吉屋 利雄 古屋 ナミ子 本城 正憲 牧野 崇司 松田 喬 松本 雅道 三村 直子 山田 修 山田 知佳 山田 三貴 山田 祥弘 山田 玲子 柚木 秀雄 若月 和道 鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.175-180, 2003-12-30
被引用文献数
2

Flower visitations by both native and exotic bumblebee species were investigated at 21 monitoring sites in various regions of Japan in the spring and summer of 2002. The investigation was part of a long-term program that has been in progress since 1997 to monitor the invasion of an alien bumblebee, Bombus terrestris L. (Hymenoptera: Apidae). Flower visitation by B. terrestris was ascertained at two monitoring sites, one in Shizuoka and one in Hokkaido, where a large number of colonies of this species have been commercially introduced for agricultural pollination.
著者
北本 尚子 上野 真義 津村 義彦 鷲谷 いづみ 大澤 良
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.47-51, 2005-06-30
被引用文献数
1 1

絶滅危惧植物であるサクラソウの自然個体群内における遺伝的多様性と花粉流動の実態を明らかにするために, 私たちは3組のマイクロサテライトマーカーを開発した.これらのマーカーを用いて, 八ヶ岳演習林内に自生するサクラソウ52個体の遺伝子型を決定したところ, いずれのマーカーも多型性が高く, 1遺伝子座あたりの対立遺伝子数は8〜12, ヘテロ接合度の観察値は0.77〜0.94であった.開発した3組のマーカーとIsagi et al. (2001)によってすでに開発されている7組のマーカーを組み合わせたときの父性排除率は, 0.997と推定され, 偽の花粉親候補を偶然選ぶ確率が84%から7%へと大幅に改善した.したがって, 今回開発したマイクロサテライトマーカーを併用すれば, 自然個体群内の花粉流動を把握することができると考えられる.
著者
石川 哲郎 高田 未来美 徳永 圭史 立原 一憲
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.5-18, 2013-05-30

1996〜2011年に、沖縄島の266河川において、外来魚類の定着状況と分布パターンを詳細に調査した結果、13科に属する30種1雑種の外来魚類を確認した。このうち、温帯域から熱帯域を含む様々な地域を原産とする合計22種(国外外来種19種、国内外来種4種)が沖縄島の陸水域で繁殖していると判断され、外来魚類の種数は在来魚類(7種)の3倍以上に達していた。繁殖している外来魚類の種数は、20年前のデータと比較して2倍以上に増加していたが、これは1985年以降に18種もの観賞用魚類が相次いで野外へ遺棄され、うち10種が繁殖に成功したことが原因であると考えられた。外来魚類の分布は、各種の出現パターンから4グループに分けられた:極めて分布が広範な種(カワスズメOreochromis mossambicusおよびグッピーPoecilia reticulata)、分布が広範な種(カダヤシGambusia affinisなど4種)、分布が中程度の広さの種(マダラロリカリアPterygoplichthys disjunctivusなど5種)および分布が狭い種(ウォーキングキャットフィッシュClarias batrachusなど20種)。外来魚類の出現頻度と人口密度との間には正の相関が認められ、外来魚類の出現パターンと人間活動との間に密接な関係があることが示唆された。外来魚類は、導入から時間が経過するほど分布を拡大する傾向があったが、その速度は種ごとに異なっていた。特に、日本本土やヨーロッパにおいて極めて侵略的な外来魚類であると考えられているモツゴPseudorasbora parva、オオクチバスMicropterus salmoidesおよびブルーギルLepomis macrochirusの分布拡大が遅く、外来魚類の侵略性が導入された環境により異なることが示唆された。沖縄島の陸水域において新たな外来魚類の導入を阻止するためには、観賞用魚類の野外への遺棄を禁ずる法規制の整備と共に、生物多様性に対する外来生物の脅威について地域住民に啓発していくことが重要である。
著者
村中 孝司 鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.111-122, 2002-01-30
参考文献数
29
被引用文献数
23

利根川水系鬼怒川の中流域で1996年に植生調査を行った砂礫質河原のうち,丸石河原代表種が多く生育していた4ヵ所において,1999年および2000年にベルトトランセクト法により植物種の出現頻度と基質タイプを調べ,1996年のデータと比較した.4ヵ所のうち2ヵ所の河原の半安定帯において,カワラノギクやカワラニガナの丸石河原固有種の出現頻度の著しい減少が認められた.3ヵ所の河原においては,砂質の基質の顕著な増加が認められた.シナダレスズメガヤは砂質だけでなく中間および礫質の基質でも増加していた.1996年には100株以上からなるカワラノギクの局所個体群が4ヵ所確認されていたが,2001年には3ヵ所となり,そのうちの一ヵ所では,株数もほぼ10万株から110株へと著しく減少した.基質の変化とシナダレスズメガヤの侵入がカワラノギクやカワラニガナなどの河原固有植物の生育適地を減少させ,すぐにでも保全のための応急的対策が必要なほどに個体群の急激な衰退が起こっていることが示唆された.
著者
佐藤 宏明 神田 奈美 古澤 仁美 横田 岳人 柴田 叡弌
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.185-194, 2005
参考文献数
31
被引用文献数
6

糞粒法によってニホンジカの生息密度を推定するためには,単位面積当たりの糞粒数を測定する他に,1頭1日当たりの排糞回数と排糞粒数,および糞粒消失速度を知る必要がある.しかし,これらの値は地域や植生,季節で異なるにもかかわらず,労力上の問題から他地域で得られた値で代用されている.そこで本研究では奈良県大台ヶ原にて糞粒法による信頼度の高い生息密度推定値を得ることを目指し,2001年5月から11月までの月1回,1頭1回当たりの排糞粒数を調査するとともに,原生林,ササ草地,移行帯の三植生で糞粒消失速度を測定した.原生林とササ草地では固定区画を設定し,月毎の加入糞粒数を数えた.以上の測定値と既存の1頭1日当たりの排糞回数を用いて原生林とササ草地における生息密度を推定した.さらに,糞粒消失速度と気温,降水量,糞虫量との関係も調べた.その結果,糞粒消失速度は植生と季節で大きく異なり,気温,降水量,糞虫量とは無関係であった.これまで報告されている視認にもとづく区画法による生息密度推定値と比較したところ,糞粒法による推定値は過大であり,また植生と季節によっても大きく変動していた.これらの結果をもとに糞粒法による生息密度推定の問題点を検討し,大台ヶ原におけるシカの個体数管理のための望ましい生息数調査法を提案した.
著者
中井 克樹
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 = Japanese journal of conservation ecology (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.171-180, 2000-01-15
参考文献数
26
被引用文献数
3

わが国で問題とされている外来生物のなかで,全国的規模で野生化しその状況を歓迎する人々が数多く存在する点で,ブラックバス類は特異である.ここでは,ブラックバス類を含めた外来魚の管理法の検討に資するため,魚の放流にかかわる日本人の文化的・精神的土壌についての考察をもとに,観賞魚の輸入や内水面漁業における放流の現状を概観したうえで,外来魚をめぐる問題の所在と対処の方策を考察する.
著者
高槻 成紀
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.45-54, 2001-07-20
被引用文献数
11

近年ニホンジカ(シカ)が増加し,農林業被害を発生させるだけでなく,自然植生への影響も出ている.一方,外来牧草が牧場だけでなく道路沿いの緑化に用いられ,それが逸出している.このような牧草がシカの個体数増加や分布拡大に及ぼす影響は今のところ不明だが,保全生態学的には重要な問題なので,既存のデータを再検討した.その結果,岩手県五葉山ではシカはミヤコザサをよく採食しているが,牧場周辺のシカは秋と晩冬に牧草をよく採食していることがわかった.シカはまた,牛の放牧が終わる秋以降牧場をよく利用していた.文献により牧草と野草の栄養価と消化率を比較したところ,牧草が栄養価の高い飼料であることがわかった.五葉山の牧場周辺には牧場に依存的なシカがおり,牧場を金網の柵で囲った年の翌春には多くのシカが餓死し,それ以降死亡数が少なくなった.また東京都の奥多摩のシカは冬に非常に栄養価の低い,枯葉や樹枝,樹皮などを多く採食していたが,若干例の胃内容物サンプルには多くの牧草が含まれていた.これらの事例や観察例をもとにシカにとっての牧草の意義を考察し,外来牧草は自然植生に悪影響を及ぼすだけでなく,シカの個体数増加や分布にプラスになっており,そのことを通じてさらに自然植生に悪影響を及ぼす可能性があることを指摘した.
著者
門脇 正史
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1-8, 2002-09-30
被引用文献数
1

ニホンアカガエルは,早春に水田の止水で繁殖する.しかし,近年多くの水田が圃場整備により乾田化し,ニホンアカガエルの繁殖場所である湿田は減少している.また,ニホンアカガエルは,止水であるにしても,ヨシのような植生に被われた湿地ではほとんど繁殖しないことが観察されている.すなわち,ニホンアカガエルとその繁殖場所を保全するためには,繁殖場所の環境条件(例えば,水温,植生被度,pH等)について明らかにしなければならない.水田と植生に被われた湿地の縁のような開けた水域の1日の平均水温は,植生に密に被われた湿地の水温よりも有意に高かった.一方,それらの調査地点間でPHおよびECにはほとんど違いはなかった.開けた浅い水域では,1日中水温が高いことにより,ニホンアカガエルの胚の発生が促進され,夜間や夜明けの低温を回避することが可能となる.湿田の存在はニホンアカガエルやその繁殖場所の保全のためには不可欠であることが示唆される.
著者
大道 暢之 角野 康郎
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.113-118, 2005
参考文献数
20
被引用文献数
2

近年,日本各地において急速に分布を拡大している南米原産の外来水生植物ミズヒマワリ(Gymnocoronis spilanthoides DC.)の結実は今まで未確認であったが,筆者らが調査した結果,群馬県藤岡市,千葉県東金市・松戸市,愛知県豊橋市・田原市,大阪府高槻市,福岡県筑後市において種子形成を確認することができた.大阪府高槻市芥川では開花期が6-12月で結実は7-10月であった.段階温度法による発芽実験より,種子は休眠性を持たず,発芽適温は15-35℃であった.明条件で発芽が促進されるが,暗条件下においてもある程度の発芽が認められた.さらに水中での発芽も認められた.種子は越冬可能であるため,植物体が越冬不可能な寒冷な地方にも,今後,分布を拡大する可能性がある.
著者
江口 佳澄 佐々木 晶子 中坪 孝之
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 = Japanese journal of conservation ecology (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.119-128, 2005-12-25
参考文献数
24
被引用文献数
6

クマツヅラ科の多年生草本,アレチハナガサVerbena brasiliensis Vell.は南アメリカ原産の外来種で,近年全国的に増加傾向にある.河畔域の生態系に対する本種の影響を予測するための基礎として,広島県太田川中流域の氾濫原に成立した群落を対象に,フェノロジー,成長・繁殖様式,種子発芽特性,他の植物に村する影響について,2004年に調査を行った.本種の前年に花をつけた枝の先端部分は春までに枯死したが,春期に株もとから新たな茎葉を伸長させると同時に,前年から残る枝の節から新しい枝を伸長させ,前年の主茎が倒伏すると,新枝が新たな主茎となって開花した.また,接地して砂に被われた節から不定根を伸ばして定着する様子も観察された.秋期の洪水は調査地内の植生に大きな影響を与えたが,本種は,洪水によって倒伏した茎からすみやかに枝葉を伸長させ,短期間に開花に至ることが可能であった.種子発芽には光要求性が認められ,群落内の土壌シードバンク中には多数のアレチハナガサ種子が含まれていた.秋期の増水後には一斉発芽した実生が多数観察された.本種の被度と他の植物の被度との間には負の相関が認められ,またレタス種子を用いた検定により,弱いながら他感物質の存在が示唆された.これらの性質を総合すると,今後,河川流域においてアレチハナガサの勢力が拡大する可能性があり,早期の実態調査と対策が必要と考えられる.
著者
池田 透
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 = Japanese journal of conservation ecology (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.159-170, 2000-01-15
参考文献数
23
被引用文献数
5

日本各地で野生化しているアライグマの現状とその管理課題について考察を試みた.アライグマは雑食性で多様な環境で生息可能であり,逃亡・遺棄によって野生化が生じると,人間を怖れないために人間の生活圏内でも条件にさえ恵まれれば急激に増加する可能性を持っている.また,日本には天敵も存在しないためにアライグマが野山に拡散するに連れて在来の生物へも影響が及び,生態系の撹乱が危惧される.生物多様性条約への批准を機に日本でもようやく移入種問題が取り上げられるようになったが動きは遅く,現在のアライグマ対策は地方自治体が主体となって展開している.農業被害に端を発した北海道の対策は,生態系の保全を念頭においた科学的対策構築へと展開してきたが,法的規制に関連する予防措置や対策継続のための長期的予算確保など問題も多く残されている.今後は移入種問題を危機管理の問題としてとらえ,移入種に対する管理指針の確立とガイドラインの制定とを含めて国家的対策としての体制を整え,自治体との連携作業で事態に対処することが望まれる.
著者
村中 孝司 鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 = Japanese journal of conservation ecology (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.51-62, 2003-08-30
参考文献数
24
被引用文献数
13

鬼怒川中流域の河原における侵略的外来牧草シナダレスズメガヤ(Eragrosis curvula)の分布拡大を,野外調査および発芽実験によって把握した生態的特性にもとづき,モデルシミュレーションによって予測した.発芽実験からは,成熟種子は特別の休眠を持たず,永続的土壌シードバンクをつくらないことが示唆された.実際に河原においては,種子分散直後の8-9月に多くの発芽した実生が認められた.それらのデータにもとづき,格子内の個体群動態を推移行列で記述し,格子間での種子分散パターンについても実測データをもとに記述したモデルによって経年的な分布拡大を予測した.まだ空地の多い侵入初期には,毎年シナダレスズメガヤの占有面積はおよそ3.31-4.14倍に増加することが予測され,およそ10年で全体の50%を占有し,12年で河原一帯を占有することが予測された.河原の固有の植物と生態系に及ぼすシナダレスズメガヤの影響を回避するためには,侵入初期のうちにシナダレスズメガヤを機械的に除去し,礫質の河原を回復させる対策が緊急に必要である.
著者
松村 千鶴 中島 真紀 横山 潤 鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 = Japanese journal of conservation ecology (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.93-101, 2004-06-30
参考文献数
25
被引用文献数
10

北海道勇払郡鵡川町・厚真町と沙流郡門別町のほぼ7.75km^2の範囲にある水田や畑地,河川敷,山林において,2003年6月から9月の間にマルハナバチ類(Bombus spp.)の巣を探索し,地中のネズミ類の廃巣に作られたセイヨウオオマルハナバチ(Bombus terrestris L.)の自然巣8つを含む27の巣を発見した.そのうち9巣を採集して分解し,卵,幼虫,マユ,成虫の数をできるだけ雌雄とカースト(働きバチか女王バチか)を区別して計数するとともに,蜜の保存や排泄場所の有無などの営巣特性についての情報を収集した.新女王バチの生産に至った巣の比率には,外来と在来のマルハナバチ間で有意差はなかったが,セイヨウオオマルハナバチの1巣あたりの新女王バチ生産数は在来マルハナバチ類と比較して4.4倍の平均110頭であり,当該地域の野外でのセイヨウオオマルハナバチの増殖率の高さが示唆された.