著者
平石 優美子 小澤 宏之 若井 嘉人 山中 裕樹 丸山 敦
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.1914, (Released:2020-02-13)
参考文献数
20

沖縄周辺での地域絶滅が危惧される中型海棲哺乳類ジュゴン(Dugong dugon)の環境 DNA分析による分布調査を可能にすべく、ジュゴン由来の DNAを特異的に検出する PCRプライマーセットの開発を試みた。データベース上の DNA配列情報をもとにジュゴンに特異的な配列にプライマーセットを設計し(チトクロム b領域、増幅産物長: 138 bp)、プライマーセットの有効性と特異性を鳥羽水族館の展示水槽で飼育されているジュゴンの組織片(毛根)、糞、飼育水、および近縁種アフリカマナティーの飼育水を用いて確認した。SYBR-Green法を用いた定量 PCRの結果、ジュゴン飼育個体の毛根、糞、飼育水から抽出した DNAは、設計したプライマーセットによって増幅が確認された。ジュゴンの人工合成 DNAは、ウェルあたり 1コピーの条件でも検出可能であった。一方、アフリカマナティーの飼育水から抽出した DNAおよびアフリカマナティーの人工合成 DNAは、増幅が見られなかった。すなわち、このプライマーセットを用いたジュゴンの DNA検出系が、ジュゴンの糞や生息場所の水に対して有効である一方、近縁種が共存していることで生じうる偽陽性は否定できた。これらの結果より、試料保存や多地点同時調査が容易な環境 DNA分析を従来の目視調査と効果的に組み合わせて、ジュゴンの生活範囲をより詳細に確認することが望まれる。
著者
菊地 直樹
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2035, (Released:2022-08-03)
参考文献数
32

鳥の観察や撮影を目的とするバードウォッチングは、野生生物を「見せて守る」方法の一つである。バードウォッチングという自然の観光利用は地域収益につながり、保全にお金が回りやすくなるため、固有種等への保全の動機付けが地域で形成されやすいと報告されている。一方、営巣地への接近の増加による捕食率や巣の放棄の上昇といった様々な負の影響も報告されている。「見せて守る」ためには、対象生物、生態系への負の影響の抑制と地域の利益や貢献の創出の両立が必要である。現在、「見せて守る」ことが求められている事例として、北海道知床半島のある生息地のシマフクロウがある。 1984年から開始された国のシマフクロウ保護増殖事業では、生息地を非公開としてきたが、知床半島の一部の生息地において餌付けをして観察や撮影場所を提供している宿泊施設が存在するようになり、非公開である生息情報が拡散するなど、保全への影響が懸念されている。一方、保護関係者から「見せて守る」方針が示されている。第一に餌付けを段階的に中止し自然の状態で見せること、第二に知床地域の世界的価値と地域の価値を低めないこと、第三にシマフクロウの生態や保全に関する学習の場として機能すること、である。「見せて守る」ためには、研究者や行政に加え、地域住民、観光業者、観光客といった多様な人びとの協働と合意形成が不可欠である。本報告では、特に重要な役割を担う地域の関係者への聞き取り調査を実施し、その意見の把握を試みた。その結果、保護関係者が示す方針と地域の関係者の意見の間にはそれほど大きな相違点はなかった。しかし、地域の生活と自然のとらえ方、自然保護や利用に関するイニシアティブ、地域生活のとらえ方について、相違点があることも分かった。「見せて守る」ためには、意見が異なることを前提に、多様な人びとが互いの違いを認め合い、何らかのルールをつくるという創造的で柔軟なプロセスの創出が必要となる。その課題として、第一に価値の複数性を認めること、第二に異なる目的を相互に受容すること、第三に異なる目的の相互受容を可能とする合意形成を指摘した。
著者
大海 昌平 永井 弓子 岩井 紀子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.2044, 2021-10-31 (Released:2021-12-31)
参考文献数
16

アマミイシカワガエルは奄美大島の固有種であり、鹿児島県の天然記念物に指定されている絶滅危惧種である。成体の生態調査は行われてきているものの、幼生の生態についての知見が不足している。本種の幼生期間における流下状況を明らかにするため、野外の沢において蛍光タグを用いた標識と追跡調査を行った。幼生 283個体を標識したのち渓流源頭部のプールに放流し、その後 2年間、 1-3か月に 1度の沢調査を計 13回行った。調査沢を 6mごとに区切って沢区間とし、沢の開始点から 303 m下流までを対象とした。のべ 9642個体の幼生をカウントした。標識個体は放流から 736日経過後まで発見された。放流したプールから標識個体が発見された最下流までの距離は、 29日後は 56-62 m、261日後は 62-68 m、320日後から 682日後までは 128-134 mであった。発見した標識個体の分布から推定した推定最長流下距離は、 29日後は 85.3 m、320日後は 89.9 mで 1年間に 85-95 mの間を示し、変化が小さかった。これらの結果から、調査沢における幼生は 2年間で最長 130 mほどの流下を行うが、 85-95 m付近までの流下が一般的であると考えられた。放流 29日後以降、流下した最下流までの距離に大きな変化はみられず、時間の経過と比例して距離が延びるわけではなかった。また、ある調査日に発見した標識個体の総数に占める、放流プールに残留していた標識個体の割合は、時間の経過とともに上昇した。このため、幼生の流下は主に個体サイズが小さい時期の豪雨といったイベントの際に起こり、それ以降は稀である可能性や、流下した幼生の生存率が低い可能性、下流のプールでは上流より流下が起こりやすい可能性が示唆された。本種幼生の生息環境を保全する際には、産卵場所付近のみではなく、流下先としての下流部の環境も対象とする必要性が示された。
著者
越水 麻子 荒木 佐智子 鷲谷 いづみ 日置 佳之 田中 隆 長田 光世
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.189-200, 1998-01-20
参考文献数
19
被引用文献数
17

国営ひたち海浜公園(茨城県ひたちなか市)内の谷戸の放棄水田跡地において土壌シードバンクを調査した.谷戸谷底面の植生を代表するヨシ群落,チゴザサ群落,およびハンノキ群落から土壌(各0.1m^3,総計0.3m^3)を採取し,水分を一定に保つことのできる実験槽にまきだし,出現する実生の種,量および発芽季節を調べた.出現した実生を定期的に同定して抜き取る出現実生調査法と,実生をそのまま生育させて成立する植生を調査する成立植生調査法とを併行して実施し,5月中旬から12月下旬までの間に,前者では25種,合計6824個体,後者では26種,合計2210個体の種子植物を確認した.出現種の大部分は低湿地に特有の種であり,特に多くの実生が得られたのは,ホタルイ,アゼガヤツリ(あるいはカワラスガナ),チゴザサ,タネツケバナであった.また成立植生調査法で確認された個体数は,出現実生調査法の半数に過ぎないものの,ほぼ全ての種を確認することができた.調査地の土壌シードバンクは,植生復元のための種子材料として有効であること,また,土壌水分を一定に保てば,土壌をまきだしてから数ヵ月後に成立した植生を調べるだけで土壌シードバンクの種組成を把握できることが明らかになった.
著者
島田 泰夫 松田 裕之
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.126-142, 2007-11-30
参考文献数
32
被引用文献数
1

風力発電事業を進める上で、鳥衝突(バードストライク)問題の解決が求められる。本稿では、順応的管理を取り入れた鳥衝突リスク管理モデル(AMUSE:Adaptive Management model for Uncertain Strike Estimate of birds)を提案する。このモデルは、個体群サイズと衝突数をモニタリングし、結果に応じて風力発電の稼動率を調整して衝突率を低減し、保護増殖施策を導入して個体群の成長率を増加させ、個体群の管理を目指すものである。オジロワシは、2004年2月〜2007年1月の間に7個体の衝突死が報告されており、本種を対象とし個体群パラメタを定めた。あらかじめ自然条件下での個体群計算を行い、エンドポイントを定めておく。その後、2通りの成長率シナリオと管理シナリオを用いて、管理モデルの計算機実験を行った。死骸は5日間で消失、死骸発見のための踏査間隔を30日間隔と仮定し、発見数を補正して推定衝突数とした。計算期間は、計画段階5ヶ年、稼働期間17ヶ年の合計22年間とし、3年毎に稼働管理計画を見直して、稼動率と保護増殖措置の有無、管理下における個体群サイズを得た。設備利用率は、北海道における2003〜2005年の実績値から推定し、計算機実験で得られた稼動率を乗じて管理対策による設備利用率とした。あらかじめ損益分岐点となる設備利用率の限界点を求めておき、これを割り込む程度を管理の事業破綻率とした。その結果、エンドポイント(個体群サイズ自然変動幅99.9%区間下限値)達成率を99%以上、なおかつ事業破綻率を10%以下とする条件は以下の通りであった。楽観的シナリオにおいては、2種類の管理シナリオと保護増殖措置の導入条件に左右されなかった。これに対して、悲観的シナリオにおいては、必要に応じて稼働率をゼロにし、なおかつ保護増殖措置の開始を稼働率90%もしくは99%の時点で導入する管理シナリオでのみ達成された。管理を実行していく上で残された課題は、死骸消失実験による消失日数の把握、発見率向上のための衝突自動監視装置等の開発、定期的な死骸踏査、個体群モニタリングによる成長率と個体群サイズ推定、道内営巣つがいによる繁殖成績の把握、事業破綻に備えたリスクヘッジである。
著者
門脇 浩明 山道 真人 深野 祐也 石塚 航 三村 真紀子 西廣 淳 横溝 裕行 内海 俊介
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.1933, 2020 (Released:2020-12-31)
参考文献数
100

近年、生物の進化が集団サイズの変化と同じ時間スケールで生じ、遺伝子頻度と個体数が相互作用しながら変動することが明らかになってきた。生物多様性の損失の多くは、生物の進化速度が環境変化の速度に追いつけないことにより引き起こされるため、生物の絶滅リスクを評価する上で進化の理解は必須となる。特に近年では、気候変動・生息地断片化・外来種などの人間活動に関連する環境変化が一層深刻さを増しており、それらの変化に伴う進化を理解・予測する必要性が高まっている。しかし、進化生態学と保全生態学のきわめて深い関係性は十分に認識されていないように感じられる。本稿では、進化の基本となるプロセスについて述べた後、気候変動・生息地断片化・外来種という問題に直面した際に、保全生態学において進化的視点を考慮することの重要性を提示する。さらに、進化を考慮した具体的な生物多様性保全や生態系管理の方法をまとめ、今後の展望を議論する。
著者
三浦 一輝 石山 信雄 川尻 啓太 渥美 圭佑 長坂 有 折戸 聖 町田 善康 臼井 平 Gao Yiyang 能瀬 晴菜 根岸 淳二郎 中村 太士
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.39-48, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
38

北海道における希少淡水二枚貝カワシンジュガイ属2種(カワシンジュガイMargaritifera laevis、コガタカワシンジュガイM. togakushiensis)が同河川区間(<100 m区間内)に生息する潜在性の高い地域を広く示すために、北海道内の計31水系53河川から本属を採集し、mtDNAの16S rRNA領域におけるPCR増幅断片長を比較する手法を用いて種同定を行った。種同定結果を元に10 × 10 kmメッシュ地図に地図化した。結果、カワシンジュガイが23水系39河川、コガタカワシンジュガイが25水系40河川から確認された。全調査河川のうち、49%の17水系26河川から2種が同河川区間から確認され、各地域の全調査河川に対する確認調査河川の割合が道東地域で68%と最も高かった。また、全38調査メッシュのうち、50%の19メッシュから2種が同河川区間から確認された。地域別に見ると、各地域の全調査メッシュに対する確認調査メッシュの割合が道東地域で67%と最も高かった。本研究では、カワシンジュガイ属2種の遺伝分析を行い、本属2種が同河川区間に生息する河川およびその潜在性が高い地域を示すことができた。本結果は、今後、北海道に生息するカワシンジュガイ属の調査や保全策立案に重要な情報を提供できると考えられる。
著者
内藤 馨 鶴田 哲也 綾 史郎 高田 昌彦 岡崎 慎一 上原 一彦
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.307-319, 2018 (Released:2018-12-27)
参考文献数
39

淀川は全国有数の淡水魚類相の豊かな河川である。とりわけ、天然記念物のイタセンパラは淀川のシンボル的存在となっている。本種は各生息地で絶滅が危惧されているが、淀川でも外来魚等の大量繁殖により一時生息確認が途絶えた。この状況を打開するため、外来魚のオオクチバスやブルーギルを駆除し、イタセンパラを含めた多様な在来種が生息できる環境を回復させることが必要となった。水生生物センターでは様々な外来魚駆除技術の現地実証に取り組み、淀川に適した駆除方法を明らかにした。それらの方法を使って外来魚を駆除し、イタセンパラの生息する環境を取り戻すため、2011年に市民団体、企業、大学と行政機関など筆者らが所属する多くの団体からなる「淀川水系イタセンパラ保全市民ネットワーク」が設立された。これまで、淀川城北ワンド群でイタセンネットを中心とした多様な主体の活動等によって、オオクチバス、ブルーギルが減少し、イタセンパラをはじめとする在来魚が復活した事例について報告する。
著者
片桐 浩司 大寄 真弓 萱場 祐一
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.181-196, 2015-11-30 (Released:2017-10-01)
参考文献数
51

流域や集水域などをふくめた広域的な分布情報の把握は、種の分布箇所の保全を考えるうえで重要である。水生植物を扱ったこれまでの湖沼研究では、湖内のみを対象にした例がほとんどで、周辺域の分布・生育状況は調べられた例は少ない。本研究では、霞ケ浦とその流域に残存する水生植物を保全するための基礎情報を得ることを目的として、水生植物が残存していると想定される堤脚水路において、水生植物の分布の変遷と、分布を規定する環境条件に関する調査をおこなった。堤脚水路には、エビモをはじめとする在来の沈水植物が残存していた。すでに在来の沈水植物は湖本体から消失しているため、堤脚水路はこれらの数少ない生育地のひとつとして機能していた。一方で堤脚水路は、オオフサモ、ミズヒマワリなど侵略的な外来種の生育環境になっており、これらの供給源となりうることも示された。環境条件との対応から、在来沈水植物であるエビモは、水田周辺で灌漑期の水深が深く流速が速く、低窒素で特徴づけられた。最近4年間でエビモの生育区間数は大幅に減少しており、生育地が富栄養、還元的な環境へと変化した可能性がある。トチカガミ、Azolla spp.、ウキクサ類といった浮遊植物は、ハス田周辺で、高T-P・PO_4-Pによって特徴づけられた。アマゾントチカガミ、コカナダモなどの外来種とヒシは、高いNO_3-N、少ない泥厚と、民家、公園などが周辺にある土地利用条件によって特徴づけられた。これらの結果から、生育地周辺の水田、ハス田、民家などの土地利用が水生植物の分布に影響を及ぼしていることが示唆された。本研究から、堤脚水路における水生植物の保全にあたっては、環境条件だけでなく周辺の土地利用に着目することの重要性が示唆された。今後の湖沼の水生植物研究においては、広域的な視点から種や群落の保全方針を検討していくことが必要である。
著者
海老原 健吾 安川 雅紀 永井 美穂子 喜連川 優 鷲谷 いづみ
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.1929, (Released:2020-08-31)
参考文献数
71

ヒトが優占する年代であるアンスロポセン( Anthropocene)の複合的環境改変がもたらす生物多様性・生態系変化の監視においては、共生的生物間相互作用ネットワーク(共生ネットワーク)のモニタリングが重要であると考えられる。本研究では、市民科学プログラムによって東京のチョウと植物の共生ネットワークをモニタリングする可能性を、すでに収集されたデータの分析によって検討した。用いたデータは、生活協同組合「パルシステム東京」および保全生態学(中央大学理工学部)ならびに情報工学(東京大学生産技術研究所)の研究室が協働で進めている市民科学プログラム「市民参加の生き物モニタリング調査」により公開されているものである。 2015-2017年に報告された利用可能なチョウの写真データのうち、訪花もしくは樹液吸汁の対象植物の同定が可能なデータ( 4,401件)を用いて、チョウと植物の共生ネットワークを階層型クラスタリングとネットワーク図化によって分析した。チョウは利用植物群の類似性から 6グループに分けられ、そのうち 4グループは特定の植物グループ利用のギルド、残りの 2つのうち一方はジェネラリストの範疇に入る植物利用を特徴とするグループであり、他はそれらに含まれない植物との関係がいっそう多様な種を含むグループであると解釈できた。市民科学プログラムによるモニタリングの可能性が確認され、今後のモニタリングのベースラインとなるネットワーク情報が整理された。
著者
高橋 純一 山崎 和久 光畑 雅宏 Martin Stephen J. 小野 正人 椿 宜高
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.101-110, 2010-05-30
被引用文献数
1

外来種セイヨウオオマルハナバチBombus terrestrisの野生化は、日本の在来マルハナバチの減少を引き起こしている。北海道の根室半島は、在来マルハナバチ15種のうち10種が分布し、北海道の希少種ノサップマルハナバチB.florilegusも生息しているため、重要な生息地の1つである。我々は2009年5月から9月に根室半島において在来マルハナバチ10種と外来種セイヨウオオマルハナバチの生息状況を調査した。その結果、訪花植物上で累計1000個体以上の在来マルハナバチ10種と外来種セイヨウオオマルハナバチを観察することができた。セイヨウオオマルハナバチは根室半島全域で見つかったが、根室市街地でのみ優占種となっていた。ノサップマルハナバチは女王蜂2頭と働き蜂14頭を沿岸部でのみ観察することができた。本種は根室半島において生息地の縮小及び分断化が進んでいるが、特にセイヨウオオマルハナバチが多い地域では、希少種ノサップマルハナバチと近縁種エゾオオマルハナバチBombus hyporita sapporoensisの減少が示唆された。これらの結果は、根室半島における在来マルハナバチの保護に早急な保全対策が必要であることを示している。
著者
鵜野-小野寺 レイナ 山田 孝樹 大井 徹 玉手 英利
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.61-69, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
33

絶滅が危惧される四国のツキノワグマの繁殖状況を把握するため、2005年から2017年までに捕獲された13頭の血縁解析を行った。19種類のマイクロサテライト遺伝子座を用いて親子判定を行った結果、4組の母子ペア、5組の父子ペアが確認された。繁殖が確認された個体はメス4頭、オス2頭で、少数のオスの繁殖への参加が確認された。血縁解析の結果から、繁殖オスは同胞兄弟である可能性が高いと考えられる。アリル多様度は他の地域個体群よりも低い傾向がある一方で、ヘテロ接合度の観察値が期待値よりも有意に高いことから、繁殖個体数が極めて少ない可能性が考えられる。血縁解析の結果に基づきCreel and Rosenblattの方法で算出した推定個体数は約16-24頭となった。
著者
岡本 八寿祐 中村 雅彦
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.193-202, 2009-11-30
参考文献数
21

毎年、大量の外国産クワガタムシ・カブトムシが日本に輸入されている。このような現状の中、在来種との競合、交雑など様々な問題点が指摘され、それに関わる検証実験等が報告されている。しかし、その報告の多くは外国産クワガタムシの例であり、外国産カブトムシの例はほとんどない。外国産カブトムシも外国産クワガタムシと同様、定着、競合など生態系や在来種への影響等のリスク評価を行なう必要がある。本研究では、コーカサスオオカブトムシが、成虫期・幼虫期で日本の野外で定着することができるのか、また、日本本土産カブトムシと競合し、その採餌行動等に影響を与えるのかを調べた。野外観察と飼育実験の結果、コーカサスオオカブトムシの成虫は、日本本土産カブトムシと同等に生存し、産卵した。また、野外でコナラの樹液を吸った。しかし、幼虫は、冬に野外で生存できなかった。これらのことから、コーカサスオオカブトムシの日本への定着は、困難であることが示唆された。成虫の活動に関しては、コーカサスオオカブトムシの雄の活動時間帯は、日本本土産カブトムシの雄と重なる時間帯があり、餌場で闘争した場合、コーカサスオオカブトムシが勝つことが多かった。これらのことから、コーカサスオオカブトムシは、逃げ出したり放虫された成虫が、野外で活動する際、日本本土産カブトムシと競合し、その採餌行動に影響を及ぼす可能性が高いと考えられた。
著者
大熊 勳 吉松 大基 高田 まゆら 赤坂 卓美 柳川 久
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.63, 2016 (Released:2018-04-01)
参考文献数
42

北海道十勝地域の森林は農地開発に伴って大きく減少しており、残存する河畔林が森林棲の動物の限られた生息地として機能している。本地域の河畔林は農業被害を引き起こすニホンジカCervus nippon(以下、シカ)やエキノコックス症を媒介するアカギツネVulpes vulpes(以下、キツネ)にも利用されており、これらの種がどのような河畔林を頻繁に利用するかわかっていない。本研究では北海道十勝地域においてシカおよびキツネによる河畔林利用頻度を測定し、頻度が高くなる地点の条件と影響要因が最も強く作用する空間スケールを特定した。2011年5月?2012年12月に十勝川水系の河川に5km間隔で計37台の自動撮影カメラを設置し、シカおよびキツネによる河畔林利用頻度を測定した。各季節(春:3?5月、夏:6?8月、秋:9?11月、冬:12?2月)の両種の撮影頻度を目的変数とした一般化線形混合モデルを構築し、これに影響する要因を調べた。考慮した影響要因は、カメラ設置地点の胸高断面積合計と下層植生被度および河畔林の幅、餌資源となりうる小型鳥類および小型哺乳類の100カメラ日あたりの撮影頻度(キツネのモデルのみ)、カメラ設置地点を中心とした半径100?800 mバッファ内の森林、農地、市街地の面積率および河川総延長、カメラ設置地点から山間部までの距離(シカのモデルのみ)である。解析の結果、シカの夏の河畔林利用頻度は河畔林地点の周辺400 mに農地、森林および河川が多く分布するほど高くなり、秋ではこれらの要因に加えて下層植生被度が高いほど高くなった。キツネの河畔林利用頻度は春では周辺200 mに森林が多いほど低くなり、夏では小型鳥類の撮影頻度が高いほど高くなり、冬では周辺200 mに市街地が多いほど高くなった。秋の利用頻度に影響した要因は不明だった。本研究により、十勝の農地景観におけるシカおよびキツネの河畔林利用頻度に影響する環境要因とそれらが強く作用する空間スケールが明らかになった。本研究で用いたアプローチによりシカやキツネの利用頻度が高い河畔林地点を特定しそれらの地点やその周辺を適切に管理することで、軋轢をもたらしうる種による河畔林利用を制限し、軋轢の発生地への両種の進出を抑えられる可能性がある。
著者
藤木 大介 岸本 康誉 坂田 宏志
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.55-67, 2011-05-30 (Released:2018-01-01)
参考文献数
43
被引用文献数
5

近年、氷ノ山ではニホンジカCervus nippon(以下、シカと呼ぶ)が頻繁に目撃されるようになってきている。一部の広葉樹林ではシカの採食により下層植生の急激な衰退も観察されている。シカの採食の影響は周辺山系(北山系、東山系、南山系)の広範囲にわたって深刻化している恐れがあるが、現状では断片的な情報しかなく、山系スケールでの状況把握はなされていない。氷ノ山の貴重な植物相と植物群落を保全するためには、氷ノ山とその周辺域におけるシカの動向と植生変化の状況について早急な現状把握を行い、地域植生に対してシカが及ぼす生態リスクについて評価する必要がある。そこで本報告では氷ノ山とその周辺山系を対象に、シカによる落葉広葉樹林の下層植生の衰退状況、周辺山系におけるシカの分布動向、地域植物相への食害状況の把握に関する調査を行った。その結果、調査を行った2007年時点において、氷ノ山では山頂から東と南に伸びる山系において下層植生が著しく衰退した落葉広葉樹林が面的に広がっていることが明らかとなった。下層植生が衰退した理由としては、1999年以降、これらの山系においてシカの高密度化が進んだためと思われた。また、両山系でシカの高密度化が進んだ理由としては、隣接地域のシカ高密度個体群が両山系へ進出したことが考えられた。さらに、その背景には、1990年代以降の寡雪化が影響していることが示唆された。一方、最深積雪が3m以上に達する氷ノ山の高標高域では2007年時点でも目立った植生の衰退は認められなかった。しかし、春季から秋季にかけて高標高域へシカが季節移動してくる結果、高標高域でも夏季を中心にシカの強い採食圧にさらされている。山系では13種のレッドデータブック種(RDB種)を含む230種もの植物種にシカの食痕が認められ、一部のRDB種では採食による群落の衰退も認められた。山頂の東部から南部にかけては、すぐ山麓までシカの高密度地域がせまっていることから、高標高域の積雪が多くても、継続的にシカの採食圧にさらされる状況となっている。このため近い将来、高標高域においても植生が大きく衰退するとともに、多くの貴重な植物種や植物群落が消失する可能性がある。
著者
藤井 伸二
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.3-15, 2010-05-30 (Released:2018-02-01)
参考文献数
32
被引用文献数
4

京都府に位置する芦生研究林の枕谷において、シカ摂食圧の顕在化にともなう開花植物相と開花株数の変化を調査した。その結果、開花植物の種数は84種から56種に減少していた。開花株数の増減評価を行った77種の内訳は、顕著に増加したものが8種、顕著に減少したものが47種であった。22種は地域絶滅した可能性がある。大形の植物種において減少種数の割合が高く、小形の植物種については増減変化の顕著でない種数の割合が高かった。開花時期を検討した結果、春咲き種群に比べて初夏・夏咲き種群と秋咲き種群での減少種数の割合が高かった。したがってシカ摂食の影響評価のためには植物体サイズと開花時期の両方の形質が重要と考えられる。推定開花株数とシンプソンの多様度指数の季節変化パターンは大きく変化したことが明らかになり、開花植物を利用する訪花昆虫や植食昆虫に対する植物の季節的群集機能の変化が示唆された。
著者
藤井 伸二 上杉 龍士 山室 真澄
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.71-85, 2015-05-30 (Released:2017-11-01)
参考文献数
37

アサザの生育環境、開花に関する形質、逸出に関する情報について、現地調査、栽培観察、標本調査、聞き取り調査、文献調査を行った。また、遺伝的多様性についてマイクロサテライト多型を用いた再検討を行った。遺伝的多型については、波形ピークの読み取りが困難な遺伝子座が多くて十分な成果を得ることができなかったが、猪苗代湖と琵琶湖において多型が検出された。また、非開花個体群は広範囲に散在して分布し、遺伝的な多型を有することが明らかになった。生育環境の情報について整理した結果、琵琶湖においてはおもに周辺の内湖や接続水路および河川から記録されていることが明らかになった。逸出については、その疑いのある個体群が各地に存在することが明らかになった。
著者
橋本 佳延 服部 保 岩切 康二 田村 和也 黒田 有寿茂 澤田 佳宏
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.151-160, 2008
参考文献数
40
被引用文献数
4

タケ類天狗巣病は、麦角菌科の一種Aciculosporium take Miyakeの感染によって生じるタケ類を枯死に至らしめる病気で、日本国内では野外においてマダケおよびモウソウチクを含む6属19種8変種8品種2園芸品種のタケ類、ササ類で感染することが確認されており、近年では国内各地で本病による竹林の枯損被害が報告されている。本研究は、兵庫県以西の西日本一帯を中心とした地域において、マダケ群落およびモウソウチク群落のタケ類天狗巣病による枯損の現状を明らかにし、天狗巣病の影響による今後の竹林の動態を考察することを目的とした。西日本の17県および新潟県、宮城県、静岡県の3県において、本病によるマダケ群落およびモウソウチク群落の枯損状況を調査した結果、西日本におけるマダケ群落における本病発症率は全体では93.2%、各県では75%以上と高い水準であったほか、本病による重度枯損林分は10県で確認された。一方、モウソウチク群落における本病発症率は、西日本全体では3.9%、発症率10%未満の県が15県(うち6県が0%)と極めて低い水準で、重度枯損林分も島根県で1ヵ所確認されたのみと被害の程度は低かったが、参考調査地の静岡県においては発症率が50%と高かった。これらのことから、本病は、(1)西日本各地でマダケ群落を枯損に至らしめる可能性のある病気であり、ほとんどのマダケ群落で発症していること、(2)西日本ではモウソウチク群落を枯死させることはまれな病気であり発症率も低いが、局所的に発症率の高い地域もみられることが明らかとなった。また、今後はマダケ群落の発症林分における病徴が進行し国内の広い範囲でマダケ群落の枯損林分が増加すると予想されたが、モウソウチク群落については発症林分や枯死林分の事例が少ないことから今後の動向についての予測は難しくモニタリングにより明らかにする必要があると考えられた。
著者
鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.145-166, 1998-11-20
被引用文献数
14
著者
河村 功一
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.239-242, 2013-11-30

Rhodeus atremius, an endemic bitterling fish from Japan, comprises two endangered subspecies: R. a. atremius and R. a. suigensis. The latter subspecies, designated as a Nationally Endangered Species of Wild Fauna and Flora by the Ministry of Environment of Japan, is noted for drastic declines and the extinction of local populations through habitat deterioration. Despite their strong phenotypic resemblance, these two subspecies are much diverged in DNA, each forming a distinct evolutionary lineage. Nevertheless, these two subspecies were clumped into a single subspecies, R. smithii smithii, in a newly published fish encyclopedia, which will lead to R. a. suigensis being dropped from the list of Nationally Endangered Species. This paper critically reviews the validity of this new taxonomic arrangement of R. atremius, including R. a. suigensis, based on phylogenetic systematics. Its potential risk against the conservation management of R. a. suigensis is specifically discussed.