著者
船越 公威 久保 真吾 南雲 聡 塩谷 克典 岡田 滋
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.156-162, 2007-11-30 (Released:2018-02-09)
参考文献数
16
被引用文献数
1

奄美大島では大規模なマングースの駆除事業が展開されているが、その駆除を効果的に実施する上でも、マングースの詳細な生息状況と分布を把握することが不可欠である。今回、トラッキングトンネルを利用したマングースの生息状況の把握を試み、その有効性を検討した。予備実験後に、本種の放逐地点から島を縦断する林道を含む計4つの道路沿いで、夏季と冬季の2回にトラッキングトンネルを累計各556、347基設置した結果、マングースの足跡の採取率は各季16.9%、22.5%であった。特に、放逐地点から奄美中央林道沿いの14km地点までの採取率は41.4%、戸口林道沿いでも34.6%の高い値を示し、徹底的な駆除が行われながらも高密度にマングースが生息していることが確認された。この背景には、捕獲ワナを警戒したトラップ・シャイの個体の存在も考えられる。また、放逐地点から30km以上離れた奄美中央林道沿いや奄美北部でも足跡が得られ、分布の拡大が認められた。加えて、マングース以外のノイヌやノネコの足跡が24ヶ所、ネズミ類などの足跡が300ヶ所で採取され、これらによる在来希少種への影響が懸念された。これまでのマングースの駆除事業では大幅なマングース個体数の減少に成功しているが、一方で少数個体によると思われる分布拡大がみられる。極低密度域などでトラッキングトンネルを活用し、マングースの生息有無が確認できれば、駆除事業がより効率的に展開できるものと期待される。
著者
石田 真也 高野瀬 洋一郎 紙谷 智彦
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.119-138, 2014-11-30 (Released:2017-08-01)

低地水田地帯を水湿生植物のハビタットと位置付けた農地計画の検討のためには、耕作水田、休耕田、水路など複数の土地利用タイプの植生を全体的に評価する必要がある。そこで、新潟県越後平野の水田地帯に存在する4つの土地利用タイプ(耕作水田・休耕田・土水路・コンクリート三面張り水路)の全257ユニットを対象に植生調査を実施した。調査の結果、耕作水田では、ユニット間での種組成のばらつきが小さく、全体としての水湿生植物種数は休耕田や土水路と比較して少なかった。しかし、耕作水田ではユニットあたりの水湿生一・越年草種数は休耕田と並んで最も多く、マルバノサワトウガラシやミズマツバなどの絶滅危惧種が広汎に出現した。管理方法が圃場ごとに異なる休耕田では、ユニット間での種組成のばらつきが大きく、全体としての水湿生植物種数が最も多かった。一部の休耕田は、耕作水田のように頻繁な攪乱が起こる環境下では生活史を完了することが難しい種、特に多年草にとってのハビタットとして重要であることが示唆された。しかし、休耕田では外来種も多く確認された。土水路では、ユニットあたりの水湿生植物種数は耕作水田や休耕田よりも少ないものの、全体としての種数は休耕田に次いで多かった。浮葉植物や沈水植物の出現が確認されたのはほとんど土水路のみであったことから、土水路の存在は水田地帯全体としての水湿生植物の種多様性の維持に重要であることが示された。一方、コンクリート三面張り水路では、ユニットあたりの種数が極端に少なく、水湿生植物のハビタットとして位置付けることが難しい環境であることが示唆された。低地水田地帯における水湿生植物の保全のためには、耕作水田、休耕田、土水路など複数の土地利用タイプに特有の種群をそれぞれ保全し、相互に補い合うことで、水田地帯全体として種多様性向上を図ることが望ましいと考えられた。
著者
柚木 秀雄 高村 典子 西廣 淳 中村 圭吾
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.99-111, 2003
参考文献数
52
被引用文献数
4

霞ケ浦では沈水植物群落がほぼ完全に消失しているものの, 胡底の底泥中には沈水植物を含む散布体バンク(propagule bank)が残されていることが確認されている. 本研究では, 散布体バンクを活用して湖岸植生帯を再生する自然再生事業の実施箇所の一つである高浜入り「石川地区」において4基の隔離水界を設置し魚を排除するバイオマニピュレーションを行うことにより隔離水界内に散布体バンクから沈水植物が再生するかどうかを調べた. 隔離水界内では設置して2週間後に枝角類動物プランクトンの密度が11あたり500個体以上に増加し, クロロフィルa量が減少した. そして光の透適量が増加した. 隔離水界を設置して1.5ケ月後に枝角類動物プランクトン密度は減少しバイオマニピュレーションの効果はなくなったが, 隔離水界内には沈水植物のササバモ, クロモ, コカナダモ, オオカナダモと浮葉植物のビシが出現した. 沈水植物が消失した湖沼における小規模な再生の方法として, 散布体バンクの活用と魚類を排除する隔離水界の設置が有効であることが示唆された.
著者
工藤 岳 横須賀 邦子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.49-62, 2012-05-30 (Released:2018-01-01)
参考文献数
23

高山生態系は地球温暖化の影響を最も受けやすい生態系であり、気候変動は高山植物群落の生物季節(フェノロジー)を変化させると予測される。北海道大雪山国立公園では、市民ボランティアによる高山植物群落の開花状況調査が長期間行われている。風衝地2カ所と雪田2カ所の計4群落で6年間に渡って記録された開花日のデータを解析し、群落構成種の開花に要する温度要求性(有効積算温度)、開花日の群落間変動、年変動を解析した。高山植物の開花は、種や個体群に特有の有効積算温度で表すことができた。風衝地群落の開花は気温の季節的推移によって規定されており、温暖気候であった2010年にはほとんどの種で開花開始日の早期化と群落レベルの開花期間の短縮が生じていた。一方で、雪田群落の開花は局所的な雪解け時期とその後の温度変化の双方で規定されていた。すなわち、気温の季節推移と雪解けパターンから植物群落の開花構造が予測できることが示された。しかし、生育期の気温と雪解け開始時期に明確な対応関係は認められず、雪田の雪解け時期は場所や年によって変動した。寒冷な夏は雪田プロット内の雪解け進行速度を緩やかにし、その結果、種間の開花重複が高くなる傾向があった。一部の種では開花に要する温度有効性に個体群間変異が認められ、開花特性の分化が起きていることが示唆された。以上の結果より、気候変動が高山植物群落のフェノロジー構造に及ぼす影響を予測するには、気温の季節推移、雪解けパターンの地域性、個体群特有の温度要求性を考慮することの重要性が示唆された。
著者
佐々木 宏展 大西 亘 大澤 剛士
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.243-248, 2016

近年の保全生態学において、研究者が非専門家である一般市民と共同で調査等を行う「市民科学」(Citizen Science)は、有効な研究アプローチとして受け入れられつつある。しかし、市民科学は本来、市民が主体の活動であり、成果を研究者らが論文としてまとめることを目的とした活動は、市民科学が持つ意味のごく一部にすぎない。市民科学という言葉が定着しつつある今日、これを短期的な流行で終わらせないために、市民科学における研究者、市民それぞれの役割やあるべき姿について再考することは有意義である。筆者らは、中学校教諭、博物館学芸員、国立研究開発法人研究員という異なった立場から市民科学について議論し、研究論文につながる、つながらないに関係なく、全ての市民科学には意義があり、成功、失敗は存在しないという結論に達した。本稿では、上記の結論に達するまでの議論内容を通し、筆者らの意見を述べたい。
著者
宮本 康 福本 一彦 畠山 恵介 森 明寛 前田 晃宏 近藤 高貴
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.59-69, 2015

鳥取県ではカラスガイの絶滅が危惧されているが、本種の個体群構造や繁殖の実態が明らかにされていない。そこで本研究では、本種の分布が確認されている3つの水域を対象に、サイズ組成、母貝の妊卵状況、本種の生息域における魚類相、およびグロキディウム幼生の宿主適合性を明らかにするための野外調査と室内実験を行った。多鯰ヶ池ではカラスガイのサイズ組成が大型個体に偏っていたことから、稚貝の加入が近年行われていないことが示唆された。しかし、母貝が幼生を保有していたこと、当池でブルーギルとオオクチバスが優占していたことから、これらの外来魚による幼生の宿主魚類の駆逐が本種の新規加入の阻害要因になっていることが併せて示唆された。一方で、他の2つのため池では大型個体に加えて若齢の小型個体も少数ながら発見された。これらの池ではブルーギルとオオクチバスが確認されない反面、室内実験より幼生の宿主と判定されたフナ属魚類が優占することが明らかになったことから、新規加入が生じる条件が揃っていることが示唆された。以上の結果より、現在の鳥取県ではカラスガイの個体群動態が魚類群集に強く依存していること、そしてブルーギルとオオクチバスが優占する多鯰ヶ池は本種個体群の存続が危ういことが示唆された。以上の結果を踏まえ、最後に当県におけるカラスガイ保全のための提言を行った。
著者
野副 健司 西廣 淳 ホーテス シュテファン 鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.281-290, 2010-11-30
参考文献数
27
被引用文献数
3

植物種の多様性が高く19種の絶滅危惧植物の生育地でもある「妙岐の鼻湿原」(茨城県霞ヶ浦湖岸)では、1990年代後半からカモノハシが優占する植生域の縮小がめだつ。株立ちに伴い他の植物の生育適地となりうる微高地を形成する性質を持つカモノハシは、植物種多様性の指標として有効であるという仮説のもと、植生と環境条件の調査を行った。約52haの湿原内を相観によりカサスゲ優占域、地表面に蘚類を伴うカモノハシ優占域(以下、カモノハシ優占域[蘚類あり])、地表面に蘚類を欠くカモノハシ優占域(以下、カモノハシ優占域[蘚類なし])に分け、それぞれに1m^2のコドラートを32〜39個設置して植生を比較した。在来植物種密度は、カモノハシ優占域[蘚類あり]、カモノハシ優占域[蘚類なし]、カサスゲ優占域の順に有意に高かった。また絶滅危惧種密度も、カモノハシ優占域[蘚類あり]において他の植生域よりも有意に高かった。踏査により絶滅危惧植物の分布を調べたところ、4種の絶滅危惧植物の分布がカモノハシ優占域[蘚類あり]に有意に偏っていることが判明した。カモノハシ優占域[蘚類あり]内において、ミクロサイトスケール(0.2×0.2m^2)でのカモノハシ株元に発達する微高地の有無と植物種の分布の関係を解析したところ、微高地を含むミクロサイトではそうでないミクロサイトに比べて有意に種密度が高いことが示された。カモノハシ優占域は、他の植生域と比べ、植生上層の優占種であるヨシの被度と草丈は有意に低く、植生下層部および地表面付近の光利用性が高く、過去11年間における草刈りあるいは火入れによる人為攪乱の頻度が高いという特徴を有していた。以上のことから、妙岐の鼻湿原における植物の種多様性の指標としてのカモノハシの有効性が示唆された。カモノハシ優占域の縮小化は、妙岐の鼻湿原における植物種多様性の低下や一部の絶滅危惧種の消失につながることが危惧される。
著者
富田 瑞樹 平吹 喜彦 菅野 洋 原 慶太郎
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.163-176, 2014-11-30 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
3

低頻度大規模攪乱である2011年3月の巨大津波の生態学的意味を議論するうえで、海岸林攪乱跡地における倒木や生残木などの生物的遺産の組成と構造を明らかにすることは重要である。本研究ではこれらを記載したうえで、攪乱前の標高、攪乱前後の標高差、汀線からの距離、マツ植栽時期の違いに起因するサイズ構成の差異などの環境条件が、攪乱後の海岸林の樹木群集の生残と損傷に与えた影響について解析した。2011年6月、仙台市の海岸林に設置した540m×40mの帯状区において胸高直径(DBH)が5cmを超える全ての樹木の生死・DBH・損傷様式を記録し、主な損傷様式を次の4つに区分した:傾倒(根系を地中に張ったまま地上部が物理的に傾いた状態)、曲げ折れ(根系を地中に張ったまま、幹基部が物理的に折れた状態)、根返り(根系が地表に現れて樹体全体が倒伏した状態)、流木(根系ごと引きぬかれた樹体全体が漂着したと推察される状態)。実生や稚樹の生存状況を明らかにするために、DBH5cm以下の樹木の種名と数を記録した。また、航空レーザー測量で求めた数値標高モデルを用いて津波前と津波後の標高を表した。海岸林は帯状区のほぼ中央で運河によって海側と陸側に区分され、海側には高標高の砂丘上に若齢クロマツ林が、陸側には一部に湿地を介在する低標高域にマツ・広葉樹混交壮齢林が成立していた。攪乱後の海側には生存幹が少なく、損傷様式は傾倒と曲げ折れが卓越した一方、陸側には多数の生存幹の他に多様な損傷様式が確認された。海側には広葉樹の実生や稚樹は出現しなかったが、陸側ではサクラ属やハンノキ、コナラなどの実生や稚樹が確認された。クロマツの実生や稚樹は両方に出現した。帯状区の海側と陸側の別をランダム効果、帯状区を10mに区分した方形区ごとの環境条件を説明変数、生存や損傷を応答変数とした一般化線形混合モデルによる解析の結果、マツの生存や各損傷様式の発生率は、汀線からの距離やサイズ構成、標高などに依存するが、その傾向は生存・損傷様式ごとに大きく異なること、若齢林が卓越する海側で傾倒率が、壮齢林が卓越する陸側で生存率が高いことが示された。また、マツや広葉樹の実生・稚樹が多数確認され、これらの生物的遺産を詳細に調査することで、減災・防災機能と生物多様性が共存する海岸林創出に向けて有用な知見が得られることが示唆された。
著者
中田 政司 伊藤 隆之
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.169-174, 2003-12-30
参考文献数
14
被引用文献数
1

愛媛県上浮穴郡小田町地内において, 緑化が施された大規模ノリ面下部に最近, シマカンギクルDendranthemaindicum 個体群(染色体数2n = 36および2n = 36+1 B,黄色舌状花)が見出された. 緑化現場に出現し周囲に在来シマカンギクの自生地がないことや, 倒伏した茎から不定根を出す性質が中国中南部に広く分布するシマカンギク(細分する見解では変種ハイシマカンギクvar. procumbens)に一致し在来のシマカンギクにはみられない特徴であることから, このシマカンギクは外来のものと推定された. 頭花の変異が大きい別の個体群では, 白色舌状花で頭花の大きい個体の多くが2n = 45の五倍体であったことから, 外来シマカンギクと周囲に自生するノジギクD. occidentalijaponense(2n = 54,白色舌状花)との間で自然交雑が起こり,雑種個体群が形成されていることが推察された. また2n = 38などの高四倍体が観察されることから, 五倍体雑種とシマカンギクとの間で戻し交雑が起こっていることも推察された.さ らに別の個体群では, 白色舌状花を持つ2n = 63の七倍体雑種が1個体見られたが, この個体はシマカンギクの非減数(または倍加)配偶子(n = 36)とノジギクの正常配偶子(n = 27)から生じたものと解釈できる. これにはシマカンギクが花粉親の場合と, ノジギクが花粉親の場合の二通りが考えられ, 前者であるとすれば, 外来種から在来種への遺伝的干渉が起きたことになる. 今回の報告は外来キク属と在来キク属との自然交雑が初めて確認された例と考えられ, 在来ノジギクの遺伝的汚染が懸念される.
著者
村中 孝司 大谷 雅人
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 = Japanese journal of conservation ecology (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.131-135, 2009-05-30
参考文献数
27

Recently, local governments in Japan have published Red Data Books as a baseline for regional biodiversity management. However, these books often lack explicit criteria for selecting endangered species and the detailed information required for implementation of effective conservation programs. Considering these problems, we compiled a Red Data Book of endangered vascular plant species for Ushiku City, Ibaraki Prefecture, based on an objective approach. We also tried to infer practical measures required for conservation of each species described in the new book.
著者
兼子 伸吾 太田 陽子 白川 勝信 井上 雅仁 堤 道生 渡邊 園子 佐久間 智子 高橋 佳孝
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 = Japanese journal of conservation ecology (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.119-123, 2009-05-30
参考文献数
34
被引用文献数
1

The aim of this study was to evaluate the comparative importance of habitat types for the conservation of biodiversity. We determined the number of endangered vascular plant species for each habitat type using the regional Red Data Book that contains information for five prefectures in the Chugoku region, western Japan, together with data on the area covered by each habitat type obtained from the fifth national vegetation survey. The habitat types were classified as "forest", "agricultural field," "wetland," "rocky ground," "grassland," or "seaside." Although many of the listed endangered species belonged to forest habitats, at the regional level, the species/area ratios were higher in the grassland, wetland, and seaside habitats than in the forest and agricultural field habitats. However, the conservation priorities for the endangered plant species in relation to habitat type showed only a slight variation among the prefectures examined.
著者
早川 友康 遠藤 千尋 関島 恒夫
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.15-32, 2016 (Released:2016-10-03)
参考文献数
71

要旨 トキの採餌エネルギー効率および水田の生物多様性と生物量に対する秋耕起の影響を明らかにするため、トキの行動観察と秋耕起処理実験を行った。行動観察では、耕起後の経過日数が20日、40日、および120日の3つの時点において、トキの採餌エネルギー効率を算出するとともに、行動観察を行った水田において、観察後に水田生物量および物理環境を測定した。その後、一般化線形混合モデルにより、トキの採餌エネルギー効率を説明する統計モデルを構築し、パス解析により、秋耕起がトキの採餌エネルギー効率に及ぼす影響の経路と、その時系列的な変化を解析した。耕起処理実験では、「無処理区」、耕起の程度の細かい「ロータリ耕区」、耕起の程度の粗い「サブソイラ耕区」の3つの処理区を設け、耕起処理前後における生物量、出現種数、およびトキの採餌エネルギー効率の変化を明らかにした。一般化線形混合モデルによる解析の結果、トキの採餌効率は、主に水田の物理環境特性により規定されており、生物量の効果は検出できなかった。また、パス解析の結果、耕起がトキの採餌効率を高める効果があるのは耕起後20日までであり、耕起後40日および120日では、耕起による効果が急激に低下したことが示された。耕起処理実験の結果、耕起処理前後において、生物の出現種数に有意な差異は見られなかった。一方、生物量に関しては、ロータリ耕区とサブソイラ耕区において、耕起処理後、生物量が水田内で減少したのに対し、畦際では増加した。本研究で得られた一般化線形混合モデルにより耕起処理前後の採餌エネルギー効率の変化を推定したところ、トキの採餌エネルギー効率は、耕起処理後に無処理区で約0.6倍に減少する一方、ロータリ耕区で約1.7倍、サブソイラ耕区で約3.9倍に増加することが予測された。以上の結果から、秋耕起は短期的にトキの採餌効率を高める効果はあるものの、その効果は40日以上にわたり持続しないこと、加えて、採餌環境の改善策として秋耕起を導入する場合、水田生物への負の影響が少なく、かつトキの採餌エネルギー効率を向上させる効果が高い耕起法として、サブソイラ耕の導入が有効であることが示唆された。
著者
片野 修 坂野 博之
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.183-191, 2010-11-30
被引用文献数
1

オオクチバスを駆除する方法の一つとして、生き魚を用いた釣りの方法を開発した。障害物がない場所では8〜9mの振出し竿を用い、小型の浮きと45cmのハリスの付いた小型の釣針をラインに装着した。餌魚として標準体長が5〜9cmのウグイを用い、釣針が餌魚の背の前部に掛かり、しかもその針先が背から突き出るようにした。餌魚がバスに攻撃され飲みこまれてから、30〜40秒待ちその後強く合わせた。ある溜池での調査から、この釣法はルアーフィッシングより効果的にバスを釣ることができること、大型のバスを効果的に減少させられることが示された。長野県の9ヶ所の溜池や湖でウグイ、生きエビ、ミミズの3種の餌による釣れ方を比べると、大型のバスはもっぱらウグイによって釣られること、小型のバスはミミズやウグイより生きエビによって多く釣られることが明らかになった。
著者
石井 禎基 角野 康郎
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.25-32, 2003-08-30
被引用文献数
6

兵庫県東播磨地方の109ケ所のため池の水生植物相の変化を約20年間にわたって追跡調査した.1回目(1979-1983), 2回目(1990), 3回目(1998-1999)の3回の調査を通じて,個々の池では新たに記録される種も少なくなかったが,全体として,大半の水生植物は出現するため池数が大きく滅少していた.ヒシTrapa japonica,オニビシTrapanatans var.japonica,マツモCeratophyllum demersum,ウキクサSpirodela polyrhizaのように水質の富栄養化に耐えられる種の残存率は高かったが,ジュンサイBrasenia schreberiやヒツジグサNymphaea tetragonaのように主に貧栄養水域に生育する種や多くの沈水植物では過去約20年間の残存率は10-35%になっていた.ヒメコウホネNuphar subintegerrimum,フトヒルムシロPotamogeton fryeri,コバノヒルムシロPotamogeton cristatus,ホッスモNajas gramineaは3回目の調査時には確認されなかった.また個々の池における優占度の経年変化をみると,多くの種で低下傾向にあり,消滅への道をたどっている実態が浮かび上がった.各ため池における種の多様度の指標として,浮葉植物・沈水植物・浮遊植物のひとつの池あたりの生育種数を比較した.3回の調査を通じて水生植物の全く見られない池は5ケ所から27ヶ所に増えた.水生植物が見られたとしても1-2種しか見られないため池が多くなり,種の多様度に富んだ池は激減した.水生植物の消滅は,水質悪化とともにため池の埋め立てや改修工事などによってもたらされていた.この結果は,ため池の水生植物のみならず,他の生物部も含む生物多様性全体の危機的状況を示しており,ため池の環境保全が急務であることが明らかになった.
著者
佐伯 いく代 横川 昌史 指村 奈穂子 芦澤 和也 大谷 雅人 河野 円樹 明石 浩司 古本 良
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.187-201, 2013-11-30

我が国ではこれまで、主に個体数の少ない種(希少種)に着目した保全施策が展開されてきた。これは貴重な自然を守る上で大きな成果をあげてきたが、いくつかの問題点も指摘されている。例えば、(1)「種」を単位として施策を展開するため、現時点で認識されていない未知の生物種についての対応が困難である、(2)人々の保全意識が一部の種に集中しやすく、種を支える生態系の特徴やプロセスを守ることへの関心が薄れやすい、(3)種の現状をカテゴリーで表すことに困難が生じる場合がある、などである。これらの問題の克服に向け、本総説では絶滅危惧生態系という概念を紹介する。絶滅危惧生態系とは、絶滅が危惧される生態系のことであり、これを保全することが、より包括的に自然を保護することにつながると考える。生態系、植物群落、および地形を対象としたレッドリストの整備が国内外で進められている。22の事例の選定基準を調べたところ、(1)面積が減少している、(2)希少である、(3)機能やプロセスが劣化している、(4)分断化が進行している、(5)開発などの脅威に強くさらされている、(6)自然性が高い、(7)種の多様性が高い、(8)希少種の生息地となっている、(9)地域を代表する自然である、(10)文化的・景観的な価値がある、などが用いられていた。これらのリストは、保護区の設定や環境アセスメントの現場において活用が進められている。その一方で、生態系の定義、絶滅危惧生態系の抽出手法とスケール設定、機能とプロセスの評価、社会における成果の反映手法などに課題が残されていると考えられたため、具体の対応策についても議論した。日本全域を対象とした生態系レッドリストは策定されていない。しかし、筆者らの行った試行的なアンケート調査では、河川、湿地、里山、半自然草地を含む様々なタイプの生態系が絶滅危惧生態系としてあげられた。絶滅危惧生態系の概念に基づく保全アプローチは、種の保全の限界を補完し、これまで開発規制の対象となりにくかった身近な自然を守ることなどに寄与できると考えられる。さらに、地域主体の多様な取組を支えるプラットフォーム(共通基盤)として、活用の場が広がることを期待したい。
著者
山田 健四 真坂 一彦
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.94-102, 2007-11-30
被引用文献数
2

旧産炭地である北海道美唄市近郊の100km^2(10×10km)を対象に、侵略的外来種ニセアカシアの分布域と分布の歴史的背景について調査した。人工衛星画像および現地踏査により、対象地域のニセアカシアの分布面積は0.989km^2(98.9ha)と計算された。1962、73、82、93年の空中写真を判読して土地利用を分類した結果、ニセアカシア分布域は過去に伐採を受けたか、農耕地や炭鉱関連施設等に利用された経歴を持つ場所が多かった。伐採跡地では1962〜73年の間で急速に、農耕地や炭鉱関連施設跡地では1962〜93年の間で徐々に森林化が進んだ。ニセアカシア分布域に隣接する非分布域の森林では、過去に伐採や土地利用の形跡のない森林が25.0%を占め、分布域における11.7%より有意に高かったことから、攪乱を受けない森林ではニセアカシアが進入しづらいと考えられた。これらのことから、森林伐採後の不成績造林地や耕作放棄地、炭鉱跡の空き地など、管理放棄された土地の発生がニセアカシアの分布拡大の誘因となっていることが示唆された。
著者
石田 弘明 服部 保 小舘 誓治 黒田 有寿茂 澤田 佳宏 松村 俊和 藤木 大介
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.137-150, 2008-11-30
被引用文献数
2

シカが高密度に生息する地域の森林伐採跡地では、伐採後に再生した植生がシカの採食によって退行し、その結果伐採跡地が裸地化するという問題が発生している。一方、シカの不嗜好性植物の中には、イワヒメワラビのようにシカの強度採食下にある森林伐採跡地で大規模な群落を形成するものがある。このような不嗜好性植物群落は伐採跡地の土壌流亡や植物種多様性の減少を抑制している可能性がある。不嗜好性植物を伐採跡地の緑化に利用することができれば、シカの高密度生息地域における伐採跡地の土壌保全と種多様性保全を同時に進めることができるかもしれない。本研究では、イワヒメワラビによる緑化の有効性を評価するために、兵庫県淡路島の最南部に位置する諭鶴羽山系においてイワヒメワラビ群落の土壌保全効果と種多様性保全効果を調査した。イワヒメワラビ群落(伐採跡地および牧場跡地)、裸地群落(伐採跡地および牧場跡地)、二次林(ウバメガシ林、ヤブニッケイ林)のそれぞれに5m×5mの調査区を複数設置し(合計93区)、調査区ごとに植生調査と土壌調査を行った。その結果、イワヒメワラビ群落では二次林と同様の土壌が維持されていたが、裸地群落では明らかな土壌流亡が観察された。また、イワヒメワラビ群落では、イワヒメワラビの地下茎の作用によって表層土壌が柔らかくなる傾向がみられた。これらのことは、イワヒメワラビ群落の土壌保全効果が高いことを示している。伐採跡地のイワヒメワラビ群落では調査区あたりの森林生種数の割合が最も大きく、その種数は二次林の種数を上回っていた。また、種組成を群落間で比較したところ、伐採跡地のイワヒメワラビ群落には二次林の構成種の大半が出現していた。これらのことから、イワヒメワラビ群落の種多様性保全効果、特に森林生種の多様性を保全する効果は高いと考えられる。従って、イワヒメワラビを用いた伐採跡地の緑化は有効であるといえる。ただし、場合によっては柵工や枠工などの緑化補助工を併用する必要がある。また、伐採跡地の森林再生を図るためにはシカの個体数管理や防鹿柵の設置が必要である。
著者
稲留 陽尉 山本 智子
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.63-71, 2012-05-30

タナゴ類は、コイ科タナゴ亜科に属する魚類で、繁殖を行う際に二枚貝を産卵床として利用することが最大の特徴である。鹿児島県には、アブラボテTanakia limbata、ヤリタナゴT. lanceolata、タイリクバラタナゴRhodeus ocellatus ocellatus 3種のタナゴ類が生息し、北薩地域は、アブラボテの国内分布の南限となっている。アブラボテなど在来タナゴ類は、外来タナゴ類との競合や種間交雑が危惧されているが、鹿児島県内ではこれらのタナゴ類の詳細な分布の記録が残っておらず、在来種と外来種が同所的に生息する状況についても調べられていない。そこで本研究では、北薩地域を中心にタナゴ類とその産卵床であるイシガイ類の分布を調べ、同時にタナゴ類各種によるイシガイ類の利用状況を明らかにすることを目的とした。調査は、2007年4月から2008年10月まで、鹿児島県薩摩半島北部の16河川で行った。タナゴ類はモンドリワナを用いて採集し、イシガイ類は目視や鋤簾による採集で分布を確認した。採集したイシガイ類の鯉を開口器やスパチュラを使って観察し、タナゴ類の産卵の有無を確認した。アブラボテとタイリクバラタナゴが各5河川で確認され、ヤリタナゴは1河川でのみ採集された。このうち2河川ではアブラボテが初めて確認され、アブラボテとタイリクバラタナゴの2種が生息していた江内川では、両種の交雑種と見られる個体が採集された。イシガイ類については、マッカサガイPronodularia japanensis、ニセマツカサガイInversiunio reinianus yanagawensis、ドブガイAnodonta woodianaの3種の分布が確認された。それぞれのタナゴ類は、産卵床として特定のイシガイを選択する傾向が見られたが、交雑種と思われる個体も採集された。このことから、それぞれの好む二枚貝の種類や個体数が限られた場合、この選択性は弱くなるものと考えられる。