著者
田崎 和江 沢田 順弘 鈴木 徳行 飯泉 滋 高須 晃 石賀 裕明
出版者
島根大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1989

ODPの伊豆・小笠原弧の深海底掘削が行なわれた後,昨年度は,船上での成果を“Proceedings of the Ocean Drilling Program(Vol.126)"にまとめ公表した。それに次いで,今年度は,各研究者が専門的な立場で,より詳細な陸上での成果を“Scientific Volume"にまとめた。さらに,日本人の研究成果は,地学雑誌,月刊「海洋」,月刊「地球」に特集号を組み,日本語でも成果を発表した。研究代表者の田崎は,これらの報告書,雑誌にすべて論文を投稿し,当補助金により購入した電子顕微鏡をフルに活用し,3年間で40編の成果を得ることができた。伊豆・小笠原弧の深海底堆積物のうち,特に,火山砂,軽石に注目しXRD,SEM,TEM,FTーIR,マイクロESCA等の機器類により,鉱物組成を検討した。その結果,火山性堆積物の中に,有機物の存在を認めた。スメクタイト,沸石などの熱水変質鉱物の中に,グロ-コナイトやセラドナイトが共存し,その化学組成は,CH,CO,CーCCooHの化学結合を持つことが明らかとなった。今まで,グロ-コナイトの生因の一つに有機物が関与するという説があったが,今回の研究結果で,それが証明された。さらに特筆することは,この火山性堆積物の中に,多量のバクテリア化石を,電子顕微鏡で明らかにしたことである。200℃前後の熱水の循環があり,火山ガラスや造岩鉱物が変質する中にバクテリアが存在し,化石化して保存されていた事実は,深海底にブラックスモ-カ-が存在していたことを示唆している。さらに,グロ-コナイトの生成に,バクテリアが関与していることも暗示している。深海底における物質循環において,有機と無機の境界は不明りょうであり,両者の相互作用により有機炭素からグラファイトが生成される過程も,電子顕微鏡により追跡することができた。これらの研究成果は,国際誌chemical Greologyに投稿した。
著者
百瀬 今朝雄 高島 正人 小山田 和夫 北村 行遠 坂詰 秀一 中尾 尭
出版者
立正大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1990

本年度は、研究成果の総まとめを目標に、実地調査を主体とする活動を展開した。その作業は次のとおりである。1)妙顕寺古文書の分類・整理についての基礎方針を確立すべく、京都周辺諸寺の宝物帳を検討することにより、これを定立した。2)上の基本方針に基いて、妙顕寺文書の分類・整理する作業を入念に行い、「妙顕寺文書」の体系化を仕上げた。3)文化庁の助力を得て、「妙顕寺文書」の全体を再確認するとともに、目録を作成して、国指定文化財の審議資料に提出した。4)妙顕寺文書の保存方針を立て、和紙製の封筒や包紙を用いて、これを厳重に包装することにより、古文書の保存テストを行い、好成果を得た。5)金石文の調査と研究を、本圀寺・妙顕寺・妙覚寺・頂妙寺等の墓地を対象として行い、中世の墓塔・碑などを数多く発見し、形態分類・銘文の分類・時代の変遷等の基本資料を得た。6)京都諸寺院の動向について、公家の日記等の記録における記事を集成し、これを古文書と対照しながら、京都の社会情況の中で再評価を試みた。7)典籍については、法華経典籍について検討を加え、『法華経験記』を中心として、その体系化に努め、また11世紀から13世紀における比叡山延暦寺においての僧伝編纂についても考察を加えた。以上のような作業を通して、京都におけるおおよその法華系文書・典籍等についての見通しをつけた。
著者
鈴木 和夫 福田 健二 井出 雄二 宝月 岱造 片桐 一正 佐々木 恵彦 斯波 義宏
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1989

1.材線虫病感染後の光合成・蒸散などのマツの生理的変化と萎凋・枯死機構との関連について検討を加えた結果、これらの生理的変化はキャビテーションが或る程度以上進行した後に、水ストレスの発現と同時に、あるいは、それ以降に生ずる現象であることが明らかにされた。2.材線虫の病原性と電解質の漏出現象との関連について細胞レベルで検討した結果、病原力の強弱に応じてマツ組織への影響が異なり、その強さに応じて電解質の異常な漏出が生じることが明らかにされた。3.材線虫病感染組織で産生されるセルラーゼについて検討した結果、このセルラーゼは真核生物起源であり、生きた細胞からの電解質の漏出を高めることが明らかにされた一方、抵抗性マツでは、この電解質の漏出は殆ど見られない。4.強・弱病原線虫を用いて、マツ組織細胞の応答について組織化学的に検討を加えた結果、DAPI染色によって組織細胞の生死の判定が容易となり、この方法を用いて病原性の差異を判別することが可能となった。5.誘導抵抗性の発現について検討した結果、誘導抵抗性はマツ樹体にストレスがかからない条件下、すなわち気象環境によるストレスと弱病原線虫によるストレスが、あるバランスを保った時にのみ誘導される現象であると考えられた。
著者
内田 隆 村上 千景 里田 隆博 高橋 理 深江 允
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1993

ブタ歯胚のエナメル蛋白に関して、分子生物学的、生化学的、光顕および電顕免疫組織化学的に検索し、以下の結果を得た。1. 小柱鞘蛋白のクローニングを行い、全アミノ酸配列を決定した、それをシースリンと名付けた。シースリンは380または395のアミノ酸残基よりなり、そのN端側に26アミノ酸残基よりなるシグナルペプチドを持っている。シースリンはラットのアメロブラスチンと塩基配列で77パーセント、アミノ酸配列で66%の相同性を持っていた。シースリンのC端部付近にはリン酸化された糖鎖がついていると考えられるが、その部位は推定できなかった。2. シースリンは分泌後速やかに分解され、そのN端側約100〜150アミノ酸残基を含むフラグメントは13-17kDaの小柱鞘蛋白となって、小柱鞘に局在する。C端側95アミノ酸残基は29kDaカルシウム結合蛋白となり、このC端部約20アミノ酸が切断されると27kDaカルシウム結合蛋白となる。両者はリン酸化された糖蛋白であり、幼若エナメル質表層のみに局在する。シースリンの分子中央部は特定の構造に局在せず、速やかに分解される。3. エナメリンのクローニングを行い、全アミノ酸配列を決定した。エナメリンは1104のアミノ酸残基よりなり、エナメル芽細胞より分泌されたエナメリンは、分子量約150kDaでエナメル質最表層に位置し、ヒドロキシアパタイトに親和性を持たないと考えられる.エナメリンの分解産物のうち、N端側631アミノ酸残基よりなるプラグメントがヒドロキシアパタイトに親和性を持つ分子量89kDaエナメリンとなる。この89kDaエナメリンがさらに分解して、136番目から238番目のアミノ酸残基よりなる部分が32kDaエナメリンとなる。4. エナメル質形成において、アメロゲニンはエナメル質の形態を作り、エナメリンは石灰化開始とアパタイト結晶の成長に関係し、シースリンは小柱鞘の形成に関与していると考えられた。
著者
安井 勉 森田 潤一郎 鮫島 邦彦
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1986

本研究は食肉の機能特性として重要なゲル形成反応の発現因子である収縮性蛋白質、ミオシン及びアクチンを中心にゲル形成メカニズムを分子論的に解明することを目的として行なわれた。3ケ年間にえられた結果は以下の通りである。1.食肉の利用加工条件下でのFーアクチンの熱変性機構が示差熱分析を含む物理化学的手法により研究され、アクチンの熱変性は30°〜40℃における凝集反応、45°〜50℃域の生物学的活性喪失の反応をへて、吸熱的な分子構造の崩壊にいたる三段階の変化過程をたどることが確認された。2.ミオシンを化学修飾しFーアクチンとの結合を完全に阻害すると、アクトミオシン複合体による加熱ゲル強度増強効果はみられなくなる。上記の結果はミオシンモノマーの熱ゲル化反応に及ぼすアクチンの影響を考える上で重要な鍵となる。3.ミオシンの熱ゲル化反応は材料となるミオシン分子種によって異なった挙動を示すことが明らかにされた。白色筋、心筋ミオシンはpH5.4付近で著しい加熱ゲル強度の増加を示すが、赤色筋ミオシンはこれを示さない。4.同様な現象は従来のモノマーミオシンをミオシンフィラメントに変換することによって惹起され、10^4dyn/cm^2以上の剛性率を示すゲル化反応はすべて、アクチンやCー蛋白質により阻害される。SH試薬はこのゲル形成に影響しない。5.以上3.、4.、の結果は加熱前のミオシンの形態変化と加熱ゲル強度との間に密接な関連があるらしいことを示唆している。各ミオシン分子種の頭部及び尾部断片を用いた研究により、分子種の異なるミオシンが示す熱ゲル化反応中の挙動は各ミオシンがそれぞれの条件下で示すフィラメント形成能の差異の反映であることが明らかにされた。6.環境pHを5.0以下にゆっくり下げると、被験ミオシン分子種はすべて強固な不可逆的ゲルを形成する。この現象も前記フィラメント形成とそれに対応して起こる変性反応を考えることによって統一的な解釈が可能となる。
著者
丹羽 雅子 中西 正恵
出版者
奈良女子大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1993

衣服の外観の美しさ、着やすさを含む人間の感性と適合した高品質衣服を設計するに当って、衣服の形成能、仕立て映え等に関する布の客観的性能評価法の確立が重要である。しかし、これまで、衣服設計は主としてデザイナ-の感性に基づき、その経験と勘によってなされてきている。衣服が工業生産される今日、特に婦人服は、従来からの天然、人造繊維による多岐にわたる素材に加えて、高度な繊維集合体製造技術を駆使した合成繊維織物"新合繊"や新世代ウ-ル等が開発され、これまでの衣服素材とは異なる全く新規な素材の出現をみるに至っている。しかし、これらの新しい素材の衣服の最適なシルエットデザイン、ならびに可縫性を見きわめた縫製システム制御に関しては、従来の経験を適用することが不可能で、多くのリスクのもとに衣服生産がなされ、そのリスクを背負った消費生活が強いられている。本研究は、より快適な衣生活の実現を目指し、高品質衣服の生産と消費のサイクルを資することを目標として、布の基本力学特性から衣服の最適シルエットをデザインする方法を開発し、その実用性については国内外のこれらに関連する研究分野の技術者の協力を得てフィールドワークによって確認した。他方、高品質衣服を構成するに際して、布の基本力学特性に基づいて最適な縫製の工程設計ならびに工程制御が必要とされることから、シームパッカリング、縫目破損、縫目滑脱の生じない最適な縫目を形成するための縫糸、縫針、ミシンの調整などを選定し、制御する方法等について以下の基礎的知見を得た。(1)布の基本力学特性に基づく高品質衣服のための最適シルエットデザインとそれぞれの最適シルエットの得られる高品質布地の持つ力学的性質の範囲を明確化。(2)高品質衣服生産のための縫製システム制御の基礎的研究として、レーザ光を利用した試作パッカリング検出装置によるパッカリングの客観的評価法の開発と、最適縫目を得るためのミシンの動的上下糸張力の測定法の開発と理論的解析に基づく縫製条件の設定、制御のための基礎的資料の整備。(3)布の基本力学特性に基づく高品質衣服生産のための縫製工程のシステム化とフィールドワークによるその妥当性の検証。
著者
八田 一郎 高橋 浩 加藤 知 大木 和夫 松岡 審爾
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1990

この研究は、リン脂質膜を中心として形成される分子集合体に対する詳細な構造解析を行うことによって、生体膜がとる基本構造を明らかにすることを目標に進められた。その1つとして、リン脂質で現われるリップル構造についての研究が進められた。これはリン脂質が自発的にとるメゾスコピックな構造で、リン脂質の形態形成機構を考察する上で重要な構造であると位置付けられる。ジパルミトイルホスファチジルコリン膜において、正常周期のリップル構造に対して2倍周期のリップル構造が出現することがあるが、それが準安定相の構造であることを示し、また、それが出現する条件を明らかにした。リン脂質・コレステロール系においては、変調されたリップル構造をとるが、その温度依存性をリン脂質膜の正常周期のリップル構造の温度変化と関連において理解できることを示した。不飽和炭化水素鎖をもつリン脂質とコレステロールの系において、その相図に着目して実験を行った結果、飽和炭化水素鎖の場合とよく似ており、この相図はリン脂質とコレステロールの間で普遍的に現われるものであることが判った。リン脂質・アルコール系で現われるインターディジテイテッド構造について、各種のリン脂質とアルコールの組合せに対して系統的にX線回折実験を行うことによって、膜中のアルコール分子の存在様式を明らかにした。ジラウロイルホスファチジルコリンにおいて、2つの液晶相があることを発見し、新しい相は従来報告されている液晶相の低温側にあり、より炭化水素鎖の乱れの少ない液晶相であることが判った。リン脂質とタンパク質の相互作用のモデルとして、酸性リン脂質とポリリジン重合体より成る系の構造解析を行い、それが静電相互作用によって理解できることを示した。ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンの主転移での2相共存状態の振舞から、これは単純な1次相転移における共存としては理解できなく、この系独持の逐次構造遷移機構によっていることを指摘した。その他、脂質系の表面X線回折実験、X線回折・熱量同時測定などを行った。
著者
石川 順三 後藤 康仁 辻 博司
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1993

1.半導体プロセス用大電流負イオン源と中電流負イオン注入装置の開発:半導体への負イオン注入に必要な硼素、燐、珪素、炭素など種々の負イオンを連続して数mA得供給できるRFプラズマスパッタ型負重イオン源(RFNIS)を開発した。また、小型の負イオン源を搭載した最大加速電圧140kVの中電流負イオン注入装置を開発した。本装置はクリーンブ-ズを有しており、実プロセスと同じ清浄な条件で負イオン注入が可能である。2.負イオン注入に伴う帯電現象の解明:負イオン注入時の絶縁電極の帯電は数Vであることを理論的に解明し、これを二次電子放出比とエネルギー分布測定から証明した。また、絶縁物の表面帯電電位の計測法として二次電子エネルギー分析による方法を考案し、これで半導体製造に用いられる絶縁物の負イオン注入による帯電電位は負の10V程度で有ることが判明した。更に、絶縁物の帯電機構として電気二重層モデルを提案した。3.負イオン注入デバイスの評価:ゲート酸化膜の劣化試験用デバイスに負イオン注入を行って評価して、負イオン注入が実際の半導体製造や次世代ULSI製造工程に利用できることを証明し、実用化の見通しを得た。4.極低エネルギー負イオンビーム蒸着の研究:大電流負イオンビーム減速蒸着装置を製作した。極低エネルギーにおけるビームのエネルギー幅は10eVと小さく、30eV程度に減速してもエネルギー制御性が有ることが判明した。更に、炭素負イオンを50eV〜400eVの極低エネルギーで蒸着し、その評価を行った。特性測定の結果、蒸着したカーボン膜は非晶質ダイヤモンドライクカーボン薄膜であることが判った。5.粉末への無飛散イオン注入法の開発:微粒子粉末へのイオン注入での粒子飛散問題に関して、飛散機構を理論的に解明し、理論や実験から負イオンによる無飛散イオン注入法を開発し、実用化の見通しを得た。
著者
井街 宏 鎮西 恒雄 満渕 邦彦 藤正 巖 今西 薫 阿部 裕輔
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1992

人工心臓は心臓手術後の循環補助や心臓移植への繁ぎとして多くの臨床例に用いられ患者の救済に役立っている。しかし、現在の人工心臓は形態的にも機能的にも生体心臓の模倣を目標に開発されてきたため、健康を維持する能力はあっても病気に陥った臓器を積極的に治療・回復させたり目的に応じて特定の臓器や組織の機能を昴進させる能力がないなどの限界を有している。本研究はいままでの人工心臓と180度発想を転換した場合、10-20年後を指向した次世代型人工心臓としてどのような人工心臓を開発すべきかについてその基本構想を述べ、それに対する基礎的実験を行なうことを目的とした。3年間の研究成果は以下の通りである。1 次世代型人工心臓として分散型人工心臓を提唱してその開発の意義や可能性について考察した。2 システムの小形化の研究を行ない、(1)人工心臓用Jellyfish弁の小形化、(2)新しい方式の人工心臓の開発とその小形化の研究、(3)新しい方式の補助循環装置の開発、(4)マイクロマシンの技術による人工筋肉の開発とその理論解析などで新しい知見を得た。3 新しい計測法の研究として、(1)材料表面に吸着するタンパクの動的挙動の測定、(2)血中カテコラミン測定センサの開発、(3)微小循環の長期間実時間観察法の開発などこれまで不可能であった計測法の研究開発を行なった。4 新しい制御方法の研究の結果、人工心臓を装着した生体自身に自己の人工心臓を制御させるという全く新しい制御方法(1/R 制御方法)を考案し、ヤギを360日間生存させることに成功した。
著者
比屋根 照夫 前門 晃 赤嶺 守 渡名喜 明 仲地 博 森田 孟進 HIYANE Teruo 小那覇 洋子
出版者
琉球大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1992

本研究は、復帰後20年を迎えた沖縄の政治・社会変動と文化変容の実態を総括的、構造的に把握することを試みたものである。その結果、明らかとなった成果の概要は次の通りである。政治・社会(1)復帰後もなお基地が沖縄社会を特徴づけるものであり、今なお米国の東アジア戦略に規定されるという点が、復帰20年を含む沖縄の戦後の変わらない実態であることが明らかとなった。(2)復帰前沖縄の社会制度はさまざまな面で「本土」と異なっていた。本土化は画一化を意味するが、沖縄の歴史、文化との葛藤がさまざまな矛盾を生み、そこに新しい可能性も見出されうることが明らかとなった。(3)復帰の結果、沖縄への公共投資は急激に増加し、自然環境が大きく変化した。文化(1)米軍基地の存在は、沖縄の文化にも強い影響を残した。それは、住民の心理のありようにまで及んだ。米軍人と住民のコミニュケーションは、米国文化の受容をもたらし、復帰後もそれは沖縄の中に定着した文化となっている。(2)復帰後の急激な「近代化」のなかで、もっとも基礎的な土着信仰も変容しつつ、なお根強く生き残っている状況が明らかとなった。総体として言えることは、伝統的な文化と社会構造が、米軍占領によって大きな影響を受け、さらに復帰によって急激に変動したこと、それらを含み沖縄の特質は、本土を照射する地位を占めていることを本研究は明らかにしている。
著者
石田 祐三郎 田中 克 坂口 守彦 吉永 郁生 左子 芳彦 内田 有恒 深見 公雄
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1988

有用魚類の稚仔魚の成育、変態、着定などの生理およびそれらを促進する細菌および微細藻の生理活性物質を究明し、さらにそれら有用因子の遺伝子導入技術を応用し、魚類生産に貢献するとともに、魚類生理態学や水産微生物学の発展に資することを目的とした。得られた成果は下記の通り。1.ヒラメの変態期には、胃や幽門垂の分化・甲状腺の顕著な増加・胸腺組織の成熟など消化系・内分泌系・リンパ系諸器官に顕著な変化が観察された。変態後期コルチゾルの濃度上昇に続いて甲状腺ホルモン(T_4)濃度が著しく上昇した。これらの器官の発達やホルモンレベルには顕著な水温依存性が確認された。以上の知見より、ヒラメの変態期には多くの器官の分化や体の仕組みの変化とホルモンレベルの一過性の急上昇が集中して生じることが明らかとなった。2.ヒラメ稚仔魚の着定を促進する微生物をPVAに固定して探索し、微細藻としてChattonella antiquaを、細菌としてAcinetobacter sp.SS6ー2株を得た。それぞれを分画し、着定促進が認められたのは、C.antiquaのエタノ-ル不溶画分とSS6ー2株のアセトン不溶性画分であった。3.稚魚の摂餌誘引や成長促進をする微細藻の探索を行い、渦鞭毛藻類、とりわけCrypthecodinium cohniiが有効であり、その成分がジメチル・スルフォプロピオン酸(DMSP)であることを見出した。DMSPはメチオニンから脱炭酸酵素によりメチルチオプロピオン酸(MTP)を経て生合成されることを明らかにし、現在本酵素の精製を行っている。4.C.cohniiに、PEG法によってカナマイシンの耐性遺伝子とGUS遺伝子をもつプラスミドpUC19の導入を試み、耐性株にGUS活性の上昇がみられた。5.緑藻アナアオサのプロトプラストを調整し、それを再生し、葉状体形成型と仮根葉状体形成型の2タイプを得た。それらプロトプラストに遺伝子導入を試みているがまだ成功していない。
著者
山田 作衛 徳宿 克夫 石井 孝信 浜津 良輔 二宮 正夫 奥野 英城 今西 章
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1987

電子・陽子衝突装置による素粒子実験は、いわばレプトン・クォーク衝突実験であり、レプトンやクォークの内部構造、近距離における両者の相互作用を探る上で新しい情報をもたらす。従来試みられた例はなくHERAが最初の装置であり、加速器技術とともに、実験遂行上も測定器とデータ取得用エレクトロニクスに新しい課題がある。例えば、荷電流弱反応に際して終状態では電子がニュートリノになるため、現象再構成のために高精度のハドロンカロリーメーターが必要になる。また、ビーム電流を大きくするために、パンチ数が多く、間隔が96ナノ秒しかない。このためトリガーやデータ取得に並列処理の手法が取られた。本研究は電子・陽子衝突の研究を進めるためZEUS測定器の設計に伴う開発研究、量産試験と建設を主目的とした。具体的研究テーマは次のとおりである。1)ハドロンカロリーメーター用シンチレーター材料の対放射線試験2)吸収材によるe/h比のコンペンセーションの検討3)直流変換タイプの高電圧電源の開発による省エネルギー化4)新しい磁場遮蔽用材の試験と量産5)多数の光電子増倍管の性能試験と較正6)半導体検出器による電子識別系開発と製作7)並列処理型初段トリガー回路の開発と製作、同ソフトウェアの開発以上の研究に基づき建設された測定器は予定通り完成した。HERAがビーム衝突を開始して以来正常に稼動し、予想された性能を示している順次物理結果が得られている。
著者
小林 和男 飯山 敏道 藤本 博巳 酒井 均 平 朝彦 瀬川 爾朗 古田 俊夫
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1988

本補助金による2年度にわたる集中的な研究によって西南日本沖(南海トラフ陸側斜面)の海底湧水帯の位置が精密に同定され、その実態がはじめて詳しく解明された。シロウリ貝群集が湧水帯上に集中して生息することは1985年のKAIKO計画においてすでに推定され、世界の他海域(バルバドスやオレゴン沖)でも証拠が挙がっていたが、今回現場での海底下鉛直温度勾配測定によって1年数mに及ぶ湧出水がシロウリ貝群集直下の径1m程度の範囲に集中して存在することが明瞭に示された。この湧出水はやや、深部からもたらされたメタン、硫黄等を含み貝の生育を助ける共生バクテリアの餌となると共に、酸素に富んだ表層間隙水により酸化されて炭酸カルシウムをつくり、周囲の堆積物の間隙を埋めて堆積物を固結させる働きをすることがわかった。湧水帯が集中する海溝付加帯の変動前面(水深3800〜3600m)でも1m弱の軟い堆積物の下に固化した砂泥の存在が推定され、海底にもいくつかの堆積物チムニ-が顔を出していることが曳航テレビと潜水船で観察されて試料採取にも成功した。この地点では3ケ月にわたる地殻熱流量と海底電位差の連続測定が行われ、有意な時間変動を検出している。一方、変動前面の上方に当るバックスラスト域(水深2000m)では小さなシロウリ貝群集が発見されスラストに沿う小規模の湧水が推定されるが、それ以外の海底には貝殻を含む固結した堆積物が露出し侵食を受けていることが判った。前面域で堆積し固化したものがしだいに上方に押し上げられて一部が露出するがほとんど地層内にとり込まれて行く一連の過程が1地域で観察されたことになり、プレ-ト沈み込みに伴う海溝付加帯の生成と成長についてこれまで古い地質時代の地層について推定されていたできごとが、現に海底で起こっているようすをありのまゝにとらえることができた点で日仏協力KAIKO-NANKAI計画の一環としても価値の高い成果である。