著者
松本 忠夫
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

野外調査:昭和62年6月15日から6月21にかけて, 沖縄県の西表島・石垣島・沖縄本島に出かけ, クチキゴキブリ及びオオゴキブリの生息状況調査を行った. 調査項目は, コロニー組成, 天敵相, 巣構造, 生息地の環境条件などであった. この調査には研究補助者として大学院生1名を同行させた. クチキゴキブリのコロニーについては約100ユニット, オオゴキブリのコロニーについては約20コロニーを採取し, その組成を詳細に調べることができた.飼育実験: 現地より採取して実験室に持ち帰った昆虫に関して下記のような行動実験を行った.(1)成虫と子虫の間の行動上の関係:クチキゴキブリの初齢幼虫は自分の親の回りに集まるが, オオゴキブリではそのような傾向を持たない事が分った.(2)成虫の防〓行動/捕食者のムカデに対拠させたところ, クチゴキブリの成虫は積極的に子虫をまもる行動に出るが, オオゴキブリにはそのような性質を持たない事が分った.(3)雌雄の配偶行動/クチキゴキブリ類の〓成虫の雌と雄がペアーを作ったところ, 相互に翅を食い合うという大変特異な行動様式が観察された.(4)子虫の成長/両種とも成虫に至るまで7齢を経る事が分った. また, クチキゴキブリの初齢幼虫は親より隔離すると充分成長できない事が分った
著者
神奈木 玲児
出版者
愛知県がんセンター
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究の目的は、細胞がアポプトーシスをおこす際に、細胞表層の糖鎖抗原がどのように変化するかを解析し、その変化の制御機構を明らかにすることにある。特に糖鎖抗原の中でも、シアリルLe^X抗原やシアリルLe^a抗原のように、すでに細胞接着のリガンドであることが判明している糖鎖の変化の検索に重点をおいた。ヒト大腸癌培養細胞株HT-29およびColo201を実験対象に選んだが、これらの細胞にアポプトーシスを引き起こすには、抗FAS抗体処理のみでは不十分であったので、抗FAS抗体とIFNγによる刺激を併用してアポトーシスを誘発した。これに伴う細胞表面糖鎖の変化を各種抗糖鎖モノクローナル抗体を用いたフローサイトメイトリ-で検索したところ、アポトーシス誘発後に両細胞でLe^XおよびLe^y糖鎖の発現の上昇が認められた。この変化は、IFNγによる単独刺激では観察されなかった。合成糖鎖を基質として、α1→2フコシルトランスフェラーゼ、α1→3 フコシルトランスフェラーゼ、α1→4 フコシルトランスフェラーゼおよびβ1→4 ガラクトシルトランスフェラーゼの酵素活性を測定したところ、アポトーシス誘発後の両細胞株において、α1→3 フコシルトランスフェラーゼの活性の増加が認められた。現在までにα1→3 フコシルトラスフェラーゼは5種類(Fuc-TIII,IV,V,VI,VII)の分子種が存在することが知られている。 Northern Blotting および RT-PCR法を用いてα1→3フコシルトランスフェラーゼmRNA発現を検討した結果、アポトーシス誘発後にFuc-TIV(Myeloid型)の発現上昇とFuc-TIII,VIの発現低下が認められた。Fuc-TV,VIIIは検出感度以下であった。以上の結果より、活性の増加が認められたα1→3 フコシルトランスフェラーゼ分子種は、ミエロイド型のFuc-TIVである可能性が高いと考えられた。
著者
吉田 武美 小黒 多希子 田中 佐知子
出版者
昭和大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

本研究は、薬毒物の投与により肝グルタチオン(GSH)の急激な減少(枯渇)が引き起こされると、肝臓内の様々な酵素やタンパク質が急速に合成されるという平成3、4年度の科学研究費助成で得られた成果を基に、その応答の多様性をさらに解明すると共に、遺伝子レベルでの機構解明を目的に進められたものである。本研究の結果、トランススチルベンオキシド(TSO)やファロンが、肝グルタチオンを減少させ、酸化的ストレスを引き起こすことにより、メタロチオネイン(MT)やヘムオキシゲナーゼ(HO) mRNAを急速に発現させることが明らかになった。この結果は、すでに明らかにしている同条件下におけるこれらタンパクの増加が遺伝子レベルでの応答の結果であることを支持している。これらの薬毒物によるHO mRNAの増加は、ヒト肝癌由来のHepG2細胞を用いる培養細胞系でも充分に観察され、今後の機構解明を進める上で有益な情報が得られた。興味深いことは、TSOの立体異性体であるシス体が培養細胞系でほとんど影響が認められなかった点である。この理由については、今後の検討課題として残された。これらの結果に加え、種々のジピリジル系化合物がHO誘導をはじめシトクロムP-450に対し多彩な影響を及ぼすことが明らかになり、とくに2、2'-ジピリジルの作用は、従来のGSH低下剤とほとんど同様であった。本化合物やフォロンは、ミトコンドリアや核内のGSH含量も顕著に低下させることが明らかになり、酸化的ストレスが細胞内各小器官に及んでいることが解明された。酸化的ストレス応答が細胞内のどの小器官のGSH低下と関連しているかについては今後の検討課題である。本研究と関連して、ピリジンやイミダゾール含有化合物の多彩なP-450誘導作用を明らかにし、1-ベンジルイミダゾールのP-450誘導がテストステロン依存性であることなど大きな成果も得られた。本研究課題の遂行により、薬毒物による肝GSH枯渇に伴い、様々なストレス応答が遺伝子レベルで発現していることを明らかにした。
著者
伊藤 壽啓 喜田 宏
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

インフルエンザウイルスは人の他に多くの鳥類および哺乳動物に感染する。ニワトリ、ウマ、ブタ、ミンク、アザラシ等に致死的な流行を起こし、その被害は甚大である。最近、これらのインフルエンザウイルスの遺伝子はすべて野生水禽のウイルスに由来することが明らかとなった。また、渡りガモのウイルスが中国南部でアヒルを介してブタに伝播し、ブタの呼吸器でヒトのウイルスと遺伝子再集合体を形成することによってヒトに導入されたという新型ウイルスの出現機構が明らかにされた。しかし、ウイルスが異なる動物種間を伝播するメカニズムが解明されていない。我々はインフルエンザウイルスの宿主域とレセプター特異性が関連する成績を得た。本研究はレセプター特異性を分子レベルで解析することにより、インフルエンザウイルスの異動物種間伝播のメカニズムを明らかにすることを目的として企画された。まずインフルエンザウイルスの代表的な宿主であるカモ、ウマおよびブタの標的細胞表面のレセプターの糖鎖構造をシアル酸の結合様式の違いを認識するレクチンを用いて解析した。これにより、ウイルスのレセプター結合特異性と宿主細胞表面の糖鎖構造が宿主域を決定する重要な要因であることを証明した。一方、シアル酸の分子種の違い(Neu5Ac,Neu5Gc等)を認識する特異抗体を用いて、N-グリコリル型シアル酸(Neu5Gc)の分布がカモのウイルスの腸管での増殖部位と相関する成績を得た。さらに、このNeu5Gcを認識するヒト由来ウイルス変異株のヘマグルチニンを持ち、他の遺伝子は全てカモのウイルス由来である遺伝子再集合体を得た。このウイルスがカモの腸管で増殖するか否かを現在検討中である。これによりインフルエンザウイルスのカモの腸管における増殖に関わる因子が明らかになるであろう。また、この研究過程で各種動物由来赤血球を用いた凝集試験により、インフルエンザウイルスのレセプター特異性を調べる簡便法を確立した。古くから知られるこのインフルエンザウイルスの血球凝集の機構をウイルスのレセプター結合特異性と血球表面に存在する糖鎖構造という観点から究明することが出来た。今後はヘマグルチニン以外のウイルス構成蛋白に関してインフルエンザウイルスの宿主域に関わる因子を明らかにし、インフルエンザウイルスの異動物種間伝播のメカニズムをさらに解明したい。
著者
鈴木 克美 西 源二郎 田中 彰 久保田 正
出版者
東海大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

駿河湾産の深海性軟骨魚類のうち、生物学的に最も貴重とされるカゲラザメ目のラブカの生態に関する知見を得ることを研究の主目的とした。1984年1月〜1988年12月に、湾内で操業されているサクラエビ中層曳網等の深海漁業を利用し、沼津から焼津にかけての沿岸水深60〜450mから、242個体(雌116個体、雄126個体)を得た。全体の90%の標本が水深200m以浅で得られた。雌の全長125.6〜181.0cm、体重3670〜17370g;雄の全長117.8〜155.9cm、体重2780〜6360gであった。成体70個体の水槽飼育において最長飼育日数は7日間であった。長期間飼育のためには、網にかかってから輸送終了までの体の損傷防止が必須と考えらた。一方、低比重の肝臓の浮力が水槽内での遊泳を著しく妨害げている様子が見られたので、タロウザメで再加圧試験を行ったところ、常圧から45気圧に加圧して17分後に、水面直下に浮く状態から中層付近への移動が見られた。食性調査に用いた139個体(雌77個体、雄62個体)の胃内容物は、イカ類23例、魚類4例、同定不能な飼料残査の見出された1例であった。一方、空胃率が73.4%と高く、他の大型中深層性魚類と同じく、ラブカが慢性的飢餓状態にあるもおとみなされた。生物学的最小形は雄全長約110cm以下、雌全長約140〜150cmで、特定の繁殖期は認めにくい。卵巣卵は径80〜90mm、卵重230〜250gで排卵され、卵殻腺内で受精し、卵殻に包まれ子宮内で発生する。胎仔は全長約80mmで卵殻から出て子宮内で育ち、全長約550mmで出生する。雌2個体から取り出した受精卵を、自然海水を満たした小水槽内でしいくし、水温8.3〜15.5°Cにおける最長生存期間は134日で、胚体は最初の全長約29mmから全長69.4mmに成長した。
著者
木村 武二 堂前 雅史
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

1.雄マウスの性誘引因子:雄の包皮腺の分泌物中、分泌後に変化を受けて生成される有効物質の候補として50種以上の揮発性物質を同定し、また、その多くが排出尿に混入して排出されることが確認された。これによって、性誘引因子の化学的解析への展望が開かれた。2.休止期(明期)における雌マウスの性的反応:休止期における、雄の匂いへの反応には、他の雌個体の存在と、自身の交尾経験とが必要であり、活動期(暗期)とは反応性が異なることが明かとなった。3.雄マウスの父性行動:雄マウスの育児行動の発現には交尾経験が最重要であり、妊娠雌との同居や雌の出産を目撃することは、雌や新生児との直接的接触を妨げた条件下では効果を持たないことが明かとなった。4.生育環境がマウスの行動発達にもたらす影響:段階的に複雑化した環境に単独または複数のマウスを離乳時から入れ、諸行動の発達を比較した。その結果、環境の複雑化(豊富化)は、複数で生育したマウスにおいては探索行動の発達を促進したが、単独飼育群では豊富化の影響が見られないことが分かり、物的環境と社会環境との相互作用の重要性が明かとなった。5.ヤマネの冬眠開始機構:ヤマネの冬眠開始には低温の他に食物の不足が重要な要因である事が確認された。さらに、高温下でも、餌の制限によって低体温状態が誘起されるという、興味ある事実が明かとなった。6.野生齧歯類のコミュニケ-ション:アカネズミ及びヒメネズミは共に尿マ-キングをコミュニケ-ションに利用しているが、利用の仕方に種差があり、それには生態的な違いが反映されていることを示唆する結果が得られた。
著者
鈴木 邦夫
出版者
電気通信大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

戦前日本の総合商社は、日本国内と世界各地に支店網を張り巡らし、商品相場、売れ行き、生産、金利、新製造法(特許)などに関する情報を収集していた。本研究では、この総合商社に焦点をあて、第1に、商社がどのような情報網を形成し、どのような情報を収集し、これを伝達したのか、第2に商社が形成した情報収集・伝達網が商品取引などをどのように変化させるに至ったかを分析した。そのさい、とくに三井物産に焦点をあてて分析をおこなった。具体的には、財団法人三井文庫で三井物産の内部資料を閲覧し、三井物産の情報網と情報の伝達について分析をおこなった。その結果、利用媒体、情報の機密保持と情報コスト削減の方法、情報収集の方法、情報の処理・分析組織の形成などに関して、かなりの程度まで実態を明らかにすることができた。また、収集された情報が商品取引や組織のあり方に与えた影響などについても、分析を深めることができた。上記の三井物産の分析を補強するため、三井物産を含む総合商社一般の資料に関して、名古屋、京都、大阪の大学図書館ないし公立図書館で資料調査をおこなった。また、情報に関連する図書を購入し、分析に役立てた。
著者
水谷 暢
出版者
新潟大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

(1)インタラクション・プログラムを開発するツール(オーサーウエアー・プロフェッショナル)を使って、民事紛争アクション・プログラムを組む。これにより、これまでは、「あるべき手続」「あるべき解決」「あるべき行動」が紛争処理理論では、求められてきたところがあるが、それに対して、つぎつぎと、どのようなインタラクションの応酬がつづくか。その中で、どうすればベタ-かを考える。そういうことが重要であることを明らかにした。(2)そのための題材として、まず第一に、これまでは、「囚人のゲーム」が紛争シミュレーションの基本パターンと考えられてきたが、それをパソコン上で走らせることによって、そうではないことを明らかにし、「裏切り」を咎める「オフ攻撃」を加えたパターンを基本とした「三択複合反復囚人のゲーム」をプログラム化し、これこそが、ベースに置かれるべきプログラムだとした。(3)つぎに、それを、つぎのような、現実的・具体的な民事紛争に応用する。1 遺産分割紛争 2 詐欺の手口・訪問販売 3 貸金事件4 土地交換事件(4)紛争行動の選択肢として、コミュニケーション拒否・電話・手紙・弁護士利用・内容証明郵便・調停申立・裁判・仮差押仮処分などから、暴力団利用・自殺などまでも含み込む。(5)これらの選択肢をどう動員すれば、相手方はどう出るか。これを繰り返していくうちに、相手方パソコンは、ある程度はランダムに、ある程度は戦略的・計算的に出方を返してくる。そのようなゲーム的なやりとりの中に、「時間」「紛争コスト」も当然織り込まれる。それら全体を視野に置いてゲームを展開してゆくと、これまで考えられてきたような、パイのぶん取り合戦とか、足の引っ張り合い・双方破滅といった紛争行動の考え方ではなく、もっと別の「対抗計算」にもとづいて、紛争行動に撃って出ているかが実体験されてくる。
著者
大久保 明美
出版者
熊本大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

多分化能を持つ胚性腫瘍P19細胞を、1nMレチノイン酸存在下で浮遊培養すると、約10%の細胞塊に搏動を伴った心筋が出現する。これを長期培養後、細胞をクローン化し、通常培地では増殖し、1%ジメチルスルホン酸(DMSO)存在下で高頻度で搏動細胞に分化する細胞を選択し諸性質を検討した。CL6細胞と名付けたサブクローンは、親株のP19細胞と異なり坑SSEA-1抗体とほとんど反応しない。さらに分化は接着状態のままで誘導され、シートを形成し分化誘導後10日目に搏動が始まり、14日頃にはシート全体が搏動した。またDMSO添加後2日毎に全RNAを抽出しノーザンブロット分析を行なったところ、CL6細胞では胚性の心筋型ミオシン-α及び-βの発現が10日目から見られ、一方骨格筋特異的な分化制御因子であるMyoDやマイオジェニンの発現は検出されなかった。ウエスタンブロット分析でもミオシンの発現が10日目に始まり、これは搏動が観察される時期と一致した。この条件下ではほとんど搏動の見られないP19細胞では14日目にかすかなミオシンバンドが検出された。また搏動細胞を固定し、蛍光標識したMF20抗体、ファロイジン、坑デスミン抗体そして坑心筋型c-蛋白抗体で細胞が染色され、横紋構造が確認できた。リズミカルに搏動している細胞へのアセチルコリン及びアトロピンの添加実験では、分化細胞の搏動がムスカリン性アセチルコリン受容体によって影響を受けることを示した。また親株p19細胞の神経分化条件では、低頻度の神経分化能がみられたので、CL6細胞は心筋細胞分化にコミットメントはしていないが、p19細胞より心筋分化しやすいところに位置する細胞と考えられる。従ってCL6細胞は、心筋細胞へのコミットメントや分化のin vitroでの研究に有効と考えられ実験を進めている。
著者
北 恭昭
出版者
大阪外国語大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

和玉篇の古写本・古版本は約三十種に及ぶ、この三十種を川瀬一馬氏は、成立並びに伝流の関係から、八類に類別されている。その類別されたものの中から、第二類本の篇目次第、第五類本の慶長十年刊夢梅本、第八類本の慶長十五年刊本の三種について和訓の索引を作成して、これを公刊した。今回は第一類本の玉篇要略集、第二類本の弘治二年写本、第三類本の拾篇目集、第四類本の米沢図書館蔵本・玉篇略の五種を選び、この五本のすべての和訓を採取し、これを同一見出し漢字と同一和訓を集合させて、五種対照の索引を作成した。さらに既刊の篇目次第、夢梅本、慶長十五年刊本(以上この研究代表者の作成)と音訓篇立(他者の作成)を加えて、同一見出漢字と、同一和訓の有無を照合し、この結果を符号によって五種対照索引の末尾に示した。この結果九種の和玉篇の和訓の総合が得られた。これによって和玉篇和訓の諸問題の解明をはじめとして、他の古辞書の和訓との比較研究は当然の事のほか、語彙研究の全体に大いに貢献しうるものと考えている。次年度にはこの対照索引を公刊する予定であるので、この準備を継続的に行なう。今回取り上げた五種の本文編のうち拾篇目集(国立国会図書館蔵本)と米沢文庫蔵本は特別の許可のもと写真撮影を行なう。玉篇略と弘治二年本と玉篇要略集(大東急記念文庫蔵)の三種は複製本が公刊されてはいるが、極めて高価であることと、入手が容易でないことから、この三種については、手写本を作成した。これを影印して本文編とする。
著者
中村 廣治郎 東長 靖 飯塚 正人 鎌田 繁
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

1.補助金交付の連絡を受けて6月に研究方針を話し合う会合を持ち、これまで主として国家論的見地からイスラム共同体思想を研究してきた飯塚が基調報告を行った。その上で、秋まで各自が個別研究を行い、10月以降報告と共同討議を行うこととした。2.6月の基調報告を受けて、10月からは以下のような研究発表が順次行われた。まず中村は、政府要人をイスラム共同体の外にある「不信仰者」と見なすことでテロをイスラム的に正当化しようとする現代のイスラム過激派運動に言及しつつ、「信仰者」とは誰かをめぐる神学論争史の検討を行った。ついで鎌田は、スンナ派とシーア派の権威のあり方の違い、とりわけシーア派の共同体論に特長的な隠れイマーム思想の意義を論じ、イラン革命に至る歴史の流れの中に位置づけた。東長は神秘主義者による教団設立を共同体思想のひとつの発露と見る立場から、特に18世紀以降大改革運動を繰り広げたネオ・スーフィズム教団の発生について分析した。また飯塚は現代イスラム国家論の系譜が大きくふたつの潮流に分類されることを示し、その根幹にはイスラム法の定義をめぐる中世以来の思想対立が存在することを指摘した。3.以上のように多様な観点から共同体思想が論じられたが、そこで常に意識されていたのは現代イスラムの動向を思想史的発展の中でとらえようとする共通の立場であった。イスラムが政治化する原因は何よりもその共同体思想にある。本研究を通じて、その個別局面の理解はかなり深まり、比較の作業も相当進んだと言えよう。しかし、一年間ではそれぞれの思想の相互連関および相互影響の理解が不十分でもあり、今後は私的研究会により研究を続けたい。その成果は2〜3年後をめどに公表するつもりである。
著者
野村 俊明
出版者
信州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

1 銅(11)などと錯体を形成するジフェニルカルバゾンやジフェニルカルバジドを水晶発振子上に塗布した場合、pH緩衝液によりわずかずつ溶出し、繰返し実験に耐えない。銅(11)錯体としての塗布は、溶出がほとんどなく、EDTA溶液などの溶離剤を用いれば、銅(11)と反応して重量を変化させるが、付着した銅(11)が次第に溶出するので、感度が悪い上に再現性も悪い。サリチリデンジアミノベンゾフランをアセトン溶液にして水晶発振子上に塗布した場合、pH緩衝液による溶出は認められず、亜鉛(11)と反応して非常に大きな振動数変化を与えるる。しかし、付着した亜鉛(11)に対する適当な溶離剤がないので、定量には用いられない。酢酸セルロースとの等量混合溶液として塗布し、溶離剤として0.01M硝酸溶液を用いれば、試薬のみの時よりも感度は悪くなるが再現性よく亜鉛(11)を定量できる。2 サリチリデンジアミノベンゾフラン-酢酸セルロースを塗布した水晶発振子をフローセル装着し、0.01Mベロナールナトリウム-塩酸緩衝液(pH8.4、試薬ブランク液)を流速4.4ml.【min^(-1)】で流し、振動数を一定(【F_1】)にする。つぎに亜鉛(11)試料溶液(pH8.4)を5分間流したのち、再び試薬ブランク液を流して振動数を一定(【F_2】)にする。亜鉛(11)による振動数変化量(【F_1】-【F_2】)と、あらかじめ求めた検量線とから亜鉛(11)量を求める。付着した亜鉛(11)は0.01M硝酸溶液を約10分間流して除去し、つぎの実験に備える。3 この定量法によりμΜ濃度の亜鉛(11)が簡単迅速にしかも再現性よく定量できる。本法の確立により、水に不溶でしかも金属イオンと特異的に反応する有機試薬は、酢酸セルロースなどの樹脂との混合物として塗布することにより、水中の微量金属イオンを特異的に定量するための塗布剤として利用できることがわかった。
著者
岩井 善太 川崎 義則 日野 満司
出版者
熊本大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

能動的振動制御システムを最も効果的かつ一般的であると思われるロバスト適応制御手法を利用して構成する研究を、申請した研究計画に沿って実施し、以下に示す結果を得た。1.能動的振動制御とそのオンラインロバスト適応制御系構成に関する研究。適応制御手法を振動系制御に適用する場合、オンライン制御計算時間の短縮、振動の周期性の利用、適応アルゴリズムのロバスト化等が問題となる。これらについて考察し、離散時間適応極配置、適応繰返し制御、適応オブザーバ使用等について成果を得た。なお、成果の一部は既に公表した。2.サーボ機構を利用した振動制御装置の試作と実験。実験室レベルでの制振実験装置を試作し、通常のサーボ機構を用いて上記1.の理論が実際に有効に働くことの基本的な確認をおこなった。その結果、固定壁面が利用できる振動制御方式では適応制御方式が非常に有効であることを確認した。また、より応用範囲が広いと思われる動吸振器構造の振動制御装置においても、同様の結果が得られることが確認できた。これらの成果の一部はすでに公表したが、その他についても現在論文として投稿中である。3.スライディングオブザーバー使用によるロバスト振動抑制適応制御手法利用時におけるオンライン計算時間短縮のため、スライディングオブザーバを利用する振動抑制手法を考え、理論的考察をおこなった。特に、スライディングオブザーバを含む閉ループ振動制御系の安定性を一般的に考察し、外乱ロバスト性を含む安定条件を導き、制御系設計時におけるパラメータ設定条件を得た。
著者
稲垣 良典
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

(1)オッカムの認識理論に関しては, まず感覚と知性との関係, および人間的認識の生成ないし展開における両者の役割をあきらかにすることを研究目標とした. 13・14世紀において感覚的認識の生成を説明するために広く援用されたスペキエス理論(species sensibilis可感的形象)をオッカムが斥けた理由をあきらかにするため, ロバート・グローステスト, ロージャー・ベイコンなどにおけるスペキエス理論を原典について考察した. その結果, スペキエス理論は当時, 物理的因果作用の一般理論にまでたかめられる傾向があったことをつきとめたが, すでにJ.ドゥンス・スコートウスにおいてこのような物理的(自然学的)因果作用の理論によっては認識の生成は解明できないことが洞察されており, オッカムも基本的にスコートウスのスペキエス否定の立場を継承しつつ, それを更に徹底せしめているとの見通しをえた. しかし, オッカム自身が認識の生成を説明するために導入している因果性の概念については, それをいかに理解すべきかは今後の課題として残っている.(2)感覚的認識と知性的認識との関係については, オッカムにおいては感覚的認識から出発しつつ, いかにして知性的認識が形成されるかという問題, すなわち知性認識の可能性もしくは成立根拠の問題は問題として提起されていないことが注目される. このため, たとえばトマス・アクィナスにおいて見出されるような抽象理論はオッカムにおいては不在であり, いわゆる能動知性による抽象は明確に斥けられている. 認識理論における中世から近世への大きなパラダイム変換は, おそらくトマスとオッカムの間に起っているのではないかと想定される.(3)学問論においてはトマスにおける中心概念である形相的対象(objectum formale)の概念はオッカムにおいて完全に排除されており, ここにもパラダイム変換が推定される.
著者
杉山 武敏 濱崎 周次 逢坂 光彦 羽賀 博典 杉山 武敏 嶋田 俊秀
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

ラムダ・ファージDNA(λDNA)を10%ホルマリンで固定するとDNAは小分子量化を来す.このホルマリンによるλDNAの小分子量化は,固定時の温度,固定液のpH,塩濃度等の影響を受けることが明かとなった.塩を含む中性緩衝ホルマリン固定で,λDNAの小分子量化を完全に防ぐことが出来た.マウス肝臓組織を用い,ホルマリン固定の組織DNAへの影響を検討したところ,10%ホルマリン,12時間室温固定した組織より抽出したDNAでは小分子量化が見られた.この小分子量化には固定時の温度,固定液のpH等が影響を及ぼした.中性緩衝ホルマリン,4℃固定で組織DNAの分解をある程度抑制することができた.室温で中性緩衝ホルマリン固定したλDNAを制限酵素で消化すると,不完全消化を示すバンドが電気泳動上認められた.この制限酵素処理の際の不消化現象は,制限酵素の種類,酵素量や消化時間に依存せず,また不消化を起こす特定の塩基配列も認められなかった.4℃,中性緩衝ホルマリン固定では不消化を示すバンドは認められず,不消化現象は固定時の温度に依存していると考えられた.一方,固定液の塩濃度は制限酵素不消化現象に対して影響を及ぼさなかった.ホルマリン固定したλDNAを鋳型としてpolymerase chain reaction(PCR)を行い,固定のPCR増幅への影響を検討した.10%ホルマリンでは固定後14日以降でPCR効率の低下が見られた.一方,中性緩衝ホルマリンでは,28日間固定したものでもPCR効率は低下せず,PCR産物の塩基配列にも影響は見られなかった.ヒト剖検例の肝(10%ホルマリン,室温固定)からDNAを抽出しPCRでK-rasコドン61を含む128bpを増幅したところ,固定期間が6ケ月を過ぎるとDNAの増幅は困難であった.以上から中性緩衝ホルマリン,4℃固定がDNA保存及び解析に望ましい固定法であると考えられた.本研究は成果をあげ修了した.
著者
野村 正雄
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

角運動量理論、即ち、ウィグナー・ラカー代数としての回転群について一大拡張をした。発展させた数学的技法は量子群代数に関するものである。物理空間は、通常の可換な空間を拡張したもので、量子空間と呼ばれている非可換空間を採った。著しい成果は、全ての物理量と関係式が擬共変性を満足するよう理論を構成できたことである。これは、全ての観測量(遷移確率)は量子空間での或種の一次変換(擬一次変換)に不変という要請に沿うものである。擬共変性により、全ての量を一般化された意味のスカラー、ベクトル、あるいはテンソルとして規定することができる。ウイグナーとエッカートによる基本的定理を、一般化されたウイグナー・エッカート定理として捉えた。また、一般化単位テンソルという概念にも到着した。回転群表現論で重要である種々の関数、例えばクレブシュ・ゴルドン係数 ラカー係数(一般的にn-jシンボル)の拡張形を研究し、その拡張形相互の関係式を確立した。これらの関数がフエイス型とヴァテックス型のYang-Baxter関係式を構成する一基本関数系をなすことを指摘した。ついで、この共変形式のもとで、フェルミオン・ボソンの生成消滅演算子の自然な拡張を見いだしそれらの交換関係を規定した。一般化スピノールと生成消滅演算子を対応させるのに何通りもある。その一つとしてBCS・ボゴリューボフの定式化の量子群的拡張をした。この拡張を用いて、Symplecton代数で知られる角運動量代数を、量子論的拡張した。さらに、この共変理論をSU_q(n)の理論に拡張した。ヤング図表についての新しい拡張も見いだしている。
著者
柳原 正治
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究においては、18世紀後半から20世紀初頭にかけての、さまざまな国際法学者の「国家」論、「国家結合」論、さらには「国際社会」論の検討を行った。とりわけ、ヴァッテルの「主権国」概念、及び、1770年代から19世紀のごく初頭にかけて唱えられた「ドイツ国際法論」の綿密な研究を行った。その中で、この時期、「(完全)独立国」、「(完全)自由国」、「現実の国家」、「主権国」、「半主権国」など、さまざまな国家概念が用いられていること、しかもそれらはいずれも、いわゆる「近代国際法」のキ-概念としての、「最高独立の権力ないし意思」としての「主権国」と異なること、などを明らかにできた。現代のわれわれが考えるような、国際法と国内法の截然たる区別、対内主権と対外主権の明確な区別を前提とする「主権国」概念についての理論化は、実は19世紀のごく末か、20世紀のごく初頭まで待たなければならない。そうした中で初めて、伝統的な「国家結合論」も成熟していったのである。また、この研究の延長線にあるものとして、グロティウスの「国家間の社会」概念をめぐる、その後の多くの学者たちの論争も研究対象とした。その中で、ときに「国際連盟」のモデルといわれるヴォルフの「世界国家(civitas maxima)概念も、この論争を踏まえたものであったこと、もっともその内実は、ヴォルフ固有の考えに基づくものであったこと、を明らかにできた。そして、その基礎にある「国家」理念は、現代の「主権国」概念とはかけ離れているのであって、そのことを十分理解しないかぎり、ヴォルフの世界国家概念と国際連盟の混同という誤解が生じることになることをも論証した。
著者
竹尾 治一郎
出版者
関西大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

1.フランツ・ブレンターノおよびブレンターノ学派の哲学の一般的特徴は、客観主義的実在論である。これとは対照的に、時代を同じくするもう一人の重要なオーストリアの哲学者であるエルンスト・マッハの科学哲学における実証主義は主観主義的傾向を代表する。これらの思想の間の緊張関係を、バートランド・ラッセルの1910年代の現象論から同20年代の中性的一元論への移行に注意を払ひながら、これとの関連において研究した。2.ブレンターノにおける、「志向的内在」の概念による心的現象の特徴づけ、および彼自身によるこの見解の否認に到る経過を跡づけた。更にブレンターノによる心的現象の分類と、これに基づく哲学の諸領域の区分を明瞭にした。また一方、心的現象についてのブレンターノのもとの見解が、マイノングの対象論においてどのやうに発展せしめられたかを、その主要な論点について追求した。その上で、ブレンターノとマイノングの存在論,認識論,倫理学の思想を比較研究した。3.マイノングとラッセルの論争をふり返り、それを通じてマイノングの対象論を、現代のたいていの論理学者によって受け容れられてゐる存在論に照らして検討した。その際、クワインやフリー・ロジックの研究者達の存在論的立場とマイノングのそれとの相違を明らかにした。われわれはなぜマイノングが彼の対象論において非有の対象を認めざるをえないと考へたか、またさうした(非有の)対象がわれわれの観点からどのやうに評価されるかを考察した。われわれはまた、ブレンターノ,G・E,ムーア,ラッセル,新実在論者といったオーストリアと英米の哲学者達が、いはゆる「主観主義の論証」を構成する各命題にどのやうに反応したかを考察し、観念論的認識論に対する彼等の個別的な反論がいかなる主張を含むかを明らかにした。
著者
佐藤 武義
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

すでに収集した、崎門派の新発田藩儒臣渡辺予斎の資料を分析するとともに、本年度も予斎関係の資料の収集に努めた。新発田市立図書館には、新発田藩校の資料が纒めて収められているため、館長に依頼して予斎関係資料の他の情報を得られるようにした。その結果、予斎についての情報を持っている当地の郷土史家を知ることができ、『国書総目録』掲載以外の資料が他にあることを確かめることができた。氏所蔵のコピー(以下、コピー本と略称)とこれまで収集した同じ資料を比較すると、筆跡が同一であることが判明した。東北大学本には「速水義行録」と記されているため、いずれも速水義行の書写と考えられる。重複本として『予斎先生鞭策録会読箚記』の例を見ると、コピー本は、丁寧な書体で書写されている点から、清書本と考えられ、東北大学本は、草稿本に当たる。一方、『予斎先生訓門人会読箚記』もコピー本は、丁寧な書体で書写されて、清書体の体裁をとっているが、それは、途中までで、後は下書きの形態になって完成を見ていない。この点でコピー本だけでは不安が残るので、原本によって調査しなければならないが、原本所蔵者との連絡が取れていないので、この比較は今後に回すしかない。同一本が二本ある場合、正本と副本との関係で後に遺されたのではなかろうかと考えられる。『予斎先生鞭策録会読箚記』をコピー本と東北大学本とで比較すると、いずれにも脱文、脱字、清濁の有無等があって方言資料としての優劣は、いまだ決めかねている。資料調査の過程で、講義録は講義者の出身地の言葉で纒められているため、当時の講義録の調査が大々的に行なわれるべきことを痛感した。