著者
鷲谷 徹 藤本 武 木下 武男 FUJIMOTO Takeshi
出版者
(財)労働科学研究所
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

初年度においては、労働=勤務時間と生活時間の内的連関構造を明らかにすることを目的として、電機産業の既婚男子労働者を対象とした生活時間調査データの解析を行ない、そこから、1.職業関連行動時間(勤務時間、通勤時間等)の延長が他の諸生活行動時間をいかに圧迫しているかを構造的に分析し、能動的「余暇」活動を行なうためには、まとまったある程度長い時間(「最小必要連続時間」)が必要であり、長時間労働による生活時間の圧迫は量的のみならず、生活の質に大きな影響を及ぼすこと、2.家庭生活の「良好度」、労働者の健康状態等の指標を労働=生活時間の状態と関連づけて分析すると、帰宅時刻との強い連関が認められ、帰宅時刻が21時を超えると、家族関係や労働者自身の健康状態に様々な障害が発生する可能性があることを明らかにした。さらに、第2年度には、異なる2種類の生活時間調査データの分析を行い、初年度の分析結果との比較検討を行なった。そこでは、3.地域や勤務先業種、職種等の違いにも拘らず、帰宅時刻をひとつの基準として、家庭生活の良好さを確保するという視点からの、労働時間の上限の一般的目安を見いだし得ることが明らかとなり、また、4.労働時間短縮の実現に関わる労使関係上の問題解明のための実態調査結果の分析を通じて、所定外労働を行なう理由として、労働者自身は「自己の仕事を消化するため」を挙げるものがとくに多く、見かけ上は、「自発的に」時間外労働を行なっていること。この限りで、時間外労働の削減の方向は、いったん、労働時間制度の枠組みを外部化し、それ自体の遵守を労使関係の基盤と化すべく論理の倒置が要求されていることが明らかとなった。
著者
大友 弘士 日置 敦巳
出版者
岐阜大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

ネズミマラリアを病態モデルとして用い、宿主における組織低酸素症の発現と主要臓器障害との関係を調べた。7周令、雄のBALB/cマウスにネズミマラリア原虫Plasmodium berghei NK65感染赤血球【10^7】個を腹腔内接種した場合、マウスは接種後7-8日で死亡した。宿主マウスの貧血は原虫接種6日後には血液中ヘモグロビン5.7g/dl(非感染対照群14.5g/dl)と著明となり、組織低酸素症はこの時期に急速に進行するものと考えられた。感染の進行に伴う重要臓器障害について検索を行った結果・肺水腫もしくは肝不全はマウスの死因としては重要ではないと考えられた。腎機能を調べるために感染マウスの血中尿素窒素,クレアチニン,尿量,尿中への尿素窒素排泄および尿中N-アセチルグレコミニダーゼ活性の変動を調べるとともに腎組織中アデニンヌクレオチドを測定した。血中尿素窒素は死亡前に増加したがマラリアで惹起される大量溶血から推定されるような血中尿素窒素の著増、もしくは尿中への尿素窒素大量排泄は認められなかった。また血中クレアチニン濃度も軽度上昇したのみであった。尿中N-アセチルグルコサミニダーゼは原虫接種4-6日後に高値となる傾向を示したが7日後には低値となった。腎組織中のアデニル酸エネルギーチャージには接種7日後に低下が認められた。これらの結果から、組織低酸素症が惹起されると考えられた接種6日後には腎機能がかなり低下し、尿細管上皮が傷害されてN-アセチルグルコサミニダーゼが逸脱した結果、7日後には低値となったものと示唆された。マラリア感染では腎障害は重要な病態であり、血中尿素窒素で腎不全を評価する場合には過小評価しないよう注意する必要があると考えられた。
著者
田代 眞人 小田切 孝人 田中 利典
出版者
自治医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

1.通常は予後の良いインフルエンザは、ハイリスク群では肺炎死をもたらし、重要な疾患として認識されるべきである。そこで、インフルエンザ肺炎の発症機序として、混合感染細菌が産生するプロテア-ゼによるウイルス感染性の増強(活性化)という機序を考え、これをマウスのモデルで証明するとともに、プロテア-ゼ阻害剤の投与によって、このようなインフルエンザ肺炎を治療しうる可能性を示した。2.ブドウ球菌によるマウス肺混合感染モデルでの解析。(1)4株の黄色ブドウ球菌は、インフルエンザウイルスの赤血球凝集素(HA)を解裂活性化しうるプロテア-ゼを産生していた。(2)インフルエンザウイルスとこれらの細菌は、各々の単独感染では、マウス肺に対して病原性を示さない。しかし、マウスに混合経鼻感染すると、ウイルスの活性化が亢進して多段増殖が進行して、致死的肺炎へと進展した。(3)これらの細菌性プロテア-ゼに対する阻害剤ロイペプチンを、混合感染マウスに連続投与すると、ウイルスの活性化が抑えられ、ウイルス増殖の低下と肺病変が軽減し、マウスは致死的肺炎から回復した。3.その他の細菌性プロテア-ゼについての検討。(1)現在のところ、肺炎球菌のプロテア-ゼには、直接ウイルスのHAを解裂活性化するものは検出されていない。これらの中には、血清プラズミノ-ゲンを活性化しうるものがあり、間接的にウイルスの感染性を高めている可能性がある。(2)ヘモフイルスは、IgA抗体を分解するプロテア-ゼを産生している。これが、インフルエンザウイルスの表層感染に対する生体防御機構を障碍している可能性がある。
著者
三輪 敬之
出版者
早稲田大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

都市生活空間において人間が自然環境の様々な変化をイメージできるような環境心理情報を創出する試みの一方法として、遠隔地の樹木個体(葉、幹など)が示す生体電位変化をリアルタイムで視聴覚的に表現するディスプレイシステムを昨年度、考案開発した。本年度は交付申請書に従い、富士山麓における樹木群を対象とし、樹木間の関係性の有無とその挙動を試作した16chからなる計測システムにより調べた。結果として、樹木の生体電位変化(DC成分)は日周性が認められるものもあるが、全体的には複雑な様相を呈する。すなわち、樹木群の電位分布は同種間、異種間ともに一様ではなく、時々刻々と変化しており、動的なネットワークを形成する。これは樹木相互間における情報の生成に関係していると考えられ、コミュニケーション(情報場)の存在を示唆するものである。さらに、データ転送系を工夫することにより、数km先まで計測範囲の広域化を図り、離れた場所における樹木群の電位変化を1箇所にて収集、解析できるようにした。また、水中電極を開発し、西表島にてマングローブの生体電位変化(AC成分)を計測した。一方、デイスプレイ情報には主としてAC成分を採用したが、電位変化の周波数帯域が10Hz以下であるため、昨年度の音表現方式とは別に、本年度は0.1Hzまでの超低周波音を発生できる環境槽を製作し、生体電位変化を直接入力した時の人間の脳波を調べた。また、試作ディスプレイ装置についてSD法による心理学的評価を行った。さらに、葉群が示す多様な生体電位変化挙動をシミュレーションした光ディスプレイ装置の開発を試みた。以上、本研究では、生態系における樹木群の生体電位計測装置を試作するとともに、計測データを生活空間に伝送し、ディスプレイ装置を介して樹木と人間がコミュニケーションできるシステムの開発を行い、自然環境を導入した環境心理空間の設計指針を得た。
著者
大峰 巌 笹井 理生
出版者
岡崎国立共同研究機構
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

水は化学反応で用いられる最も一般的な溶媒であり、かつ電子的、動力学的に大きな溶媒効果を反応に及ぼす。従って水の動的性質を知ることは非常に重要である。また水自身幾つかの特異的性質を持ち、多くの研究によってその物理化学的性質が明かになってきている。しかしミクロレベルの水の動力学的性質についてはまだ未解決の部分が多い。特に水溶媒中での化学反応系とのダイナミカルな相互作用では、個別運動と集団運動との動力学的な結合を明らかにする必要がある。ここでは、水のもつ多体系としての力学が陽に現れる事が多い。水素結合によって結ばれたある集団的な運動が水の運動の基本となっており、この相関の強い運動の記述が重要である。この水の動力学を理解するためには、水の運動に係わるポテンシャル・エネルギ-面の特徴を調べ、反応経路に於ける山の高さ、曲率などを調べ、集団運動を引き起こすPhaseーSpaceの大きさを調べる。分子動力学法に基ずくトラジェクトリ-計算を行い、その解析により、集団運動の時間的、空間的スケ-ルを調べるなどを通じて水に於ける基本的構造の変化の性質を理解する必要がある。我々は水の多体的相互作用の様相を調べる為に、まず水の基本構造をQuenching法によって求め(定義し)その時系列の変化をしらべた。その結果、20ー40個の水分子のLocalな集団運動が、水の変化の基本単位となっている。基本的な構造変化には、変位の大きなものと小さなものがある。即ち水の系はある長さの時間(サブ・ピド秒間)小さな変位を繰り返した後、大きな変位を起こして変化して行く。大きな構造変化はどの様にして起こるのであろうか。この事を調べる為、我々は、まずTrajectoryに沿ったいわゆるReactionーcoordinate(反応座標)を決定した。また大きな変化に伴うエネルギ-の山は一般に小さく2ー3Kcal/mole程度である。この事は、一般に水の基本的構造変化は、PhaseーSpase上であるminimaの郡から次のminimaの郡への細いPathを見つける時間によて制限されている。この様な水の集団運動に依って生ずる大きな揺らぎはその中での化学反応のダイナミクスに大きな影響を及ぼすことが分かった。
著者
藤川 重雄
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

本報告は上記研究課題について, 主として, キャビテーションクラウドを構成する気泡群の2個の気泡の力学に関する基礎的研究成果を述べたものである. まず, 非圧縮性液体中で膨張, 収縮, 並進運動する大きさの異なる2個の気泡に対し, 気泡同志の相互作用, 気泡壁の変形を考慮して運動方程式を導びいた. さらに, これを圧縮性液体の場合に拡張した. 得たる成果は以下の通りである. 1 本理論を固体境界壁近傍での単一蒸気泡崩壊問題に通用し, 結果を液体衝撃波管による実験により検証した. さらに, 境界要素法に基づく直接数値計算結果と比較て本理論の適用限界を明らかにした.2. 本理論を最初大きさの異なる2個の気泡の崩壊問題に適用した. その結果, 初期半径の小さな気泡は, 大きな気泡との相互作用により変形しつつ並進運動を行ない, 収縮, 膨張をくり返すごとにますます変形していく. このような気泡の変形は, 気泡の収縮, 膨張運動に加えて, 相互作用による並進加速度運動によって引き起こされる. また, 2個の気泡の適当な初期半径比及び気泡内気体初期圧力の下では, 同一条件下の単一気泡の場合よりも高い衝撃圧力を発生すること等を明らかにした.3. 本研究の成果を音場中における2個の球形気泡の非線形振動に応用した. 一つの気泡がm周期運動をすると. 他の気泡もm周期運動し, 2個の気泡が同時に音場の振動数の1/(m〜)倍の振動数を有するキャビテーションノイズの原因となることを明らかにした.以上の成果は, キャビテーションクラウドの力学が従来の単一気泡の力学とは全く異なったものであることを示しており, 本研究を通して初めて明らかにされてきたものである. 今後, 更に引き続き多数個の気泡の力学を研究する計画である.
著者
大庭 昇 山本 温彦 富田 克利
出版者
鹿児島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

桜島火山灰は,黒灰,すなわち通常の火山灰,3価の鉄酸化物が多いこととクリストバル石・石コウ・無水石コウの存在で特徴づけられる赤灰,および発泡状火山ガラス粒子の多いことで特徴づけられる白灰の主に3グル-プに分けられる。通常の火山灰における発泡状火山ガラス粒子の存在および含水硫酸カルシウム結晶の存在は,火山灰の噴出時,断熱膨張や火山ガスによるある種の化学反応を経験したという意味で重要である。自然環境および社会環境は,火山灰と随伴火山ガスに起因する主な2要因,すなわち火山灰構成物の質と粒度による物理的要因および火山ガスによる化学的要因によって影響をこうむっている。農園芸作物,人体健康および土石流が,火山灰および随伴火山ガスに起因する物理的化学的要因によって影響されるメカニズムについて考察した。農園芸作物は,火山灰微粒子が気孔をふさぎ,呼吸機能を止め,機能不全を起こすという物理的要因と,火山ガスが水と結合し,酸として働くという化学的要因の双方からなる複合要因で,枯死落果する。一方,人間が毎日相当量の火山灰を吸入し続けていくとすれば,そう遠くない将来に,珪肺症または塵肺症あるいはそれらの類似症の呼吸器疾患を示す人が間違いなく出てくるであろう。火山灰はまた,土石流発生に関与している。桜島火山には18の枯れ川があるが,これらの枯れ川は,少量の雨が降っても,火山灰の物理的化学的特性に起因して、大規模な土石流を頻繁に発生させる。
著者
山口 博史 大久保 克己
出版者
滋賀大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1985

複素コークッド空間【C^n】の領域D(t)が複素助変数t(∈B)と共に、函数論的に自然に歪曲しながら、変化しているとしよう。今、各D(t)は原点0を常に含んでいると仮定しよう。このとき、D(t)の0に極をもつグリーン関数G(t,z)が、一意的に定まる。0のちかくではG(t,z)=1/(||Z||)+λ(t)+H(t,z)但し、λ(t)は定数項、H(t,z)はZの調和函数でH(t,0)=0と表わせる。このλ(t)はD(t)はロバン定数とよばれて、電磁気学での容量に対応するもので、重要な量である。我々は次の主定理を得た。直積空間B×【C^n】の領域{(t,z)∈B×【C^n】1t∈B,z∈D(t)}が擬凸状域ならば、λ(t)はtについてBでの優調和函数である。これを用いて、任意の滑らかな境界を有する擬凸状領域D(⊆【C^n】)に、函数論的なケーラー計量を具体的に作った。その応用は今後の課題である。次に、【C^n】を複素多様体Mに拡張した場合に、同様の考察を行った。そして、Mのケーラー計量【dλ^2】については、同様の結果が成立することを見た。このことは大きな展望を広げたように思える。例えば、一例として、等質空間でのレビの問題(ミッシェルの定理)に新たな視点を与えた。また、【C^n】での領域のロバン定数が古典電磁気学に関係した如く、Mでの領域のロバン定数は、電磁気学を量子論的に見たときのものに関係しているのではないかと思える。新しい研究問題を提供したように思う。
著者
宮澤 康人
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

(1)予想していたとおり, 青年期教育における教師・生徒関係に焦点をあわせた歴史的研究はいたってとぼしい. 研究著書・論文ばかりでなく, この主題に迫るための便利な刊行史料の類もあまり期待できない. このことは, メァリーランド大学のバーバラ・フィンケルシュタイン教授との文通その他を通じてほぼ確認できた. とくに史料については, 現地へ行って個別学校レベルや, 地方公共図書館などを調査しなくてはならない. (2)先行研究と史料状況が上記のとおりであるから, 多様な文書等のなかに断片的に埋れている事実を効果的に掘りおこすことができるように, 方法論を工夫し, しっかりとした枠組を考案しなければならない. その点で, 少し古いが, デーヴィッド・リースマンの『孤独な群衆』はたいへん示唆的であった. これは歴史的研究ではないが, 巨視的な時系列に沿った変化をとりあつかっている. そのなかで, 「伝統指向」, 「内部指向」, 「他人指向」のそれぞれの時代における両親の役割, 教師の役割の特徴が描かれている. とりわけ「内部指向」の時代の教師と生徒の関係はインパースナルであることが特徴であったという指摘は興味ぶかい. 内面性を重視するがゆえに教師はそこへ介入することを控え, 知的な教育にとどまり, 価値の教育は両親の役割とみなされた, というのである. このほかリースマンは, 各時代ごとの仲間関係やメディアの影響にも目を配っている. これはもちろんおおまかなシェーマである. しかしこれを史実によって肉づけしたり精密にする仕事ですらあまり着手されていないが, 十分に啓発的であるように思う. (3)時代と領域を限った個別研究ではあるが, David F.Allmendinger Jr.のPaupers and Scholars(1975)は19世紀の中葉のカレッジにおける学生のライフスタイルの変化が教授の権威の変質を伴うことを描いていて参考になる.
著者
冨田 恭彦
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本年度は以下の手順で研究を進めた。1.デイヴィドソンの言語哲学の基本的枠組を、クワインのそれとの比較において捉え直した上で、デイヴィドソン・ロ-ティ的反表象主義の要点を明確にした。この作業において、デイヴィドソンの師であるクワインから、私見に関する様々なコメントや資料の提供を受けた。また、その反表象主義が17・18世紀の観念説・表象説に一様にあてはまるわけではないという私見をめぐって、ロ-ティ自身とも意見を交換した。2.拙書『ロック哲学の隠された論理』およびその英語版“Ides and Thing"で指摘したロックの観念説の本質について、再度検討を行った。この過程で、前オックスフォード大学出版局ロック著作集編集主幹のヨルトン教授から、私見の細部に関する質問が数度にわたって寄せられ、その書評において私見を基本的に評価する旨が表明された。また、ロックを徹底した心像論者とするマイケル・エア-ズに対する批判についても、基本的に支持する旨の見解が寄せられた。3.以上の結果を踏まえて、ロック以降の観念説の検討に入った。ここではリ-ドの反観念説の論理が特に問題となった。つまり、リ-ドはわれわれの知覚の対象は「観念」ではなくて、「物」やその「性質」・「関係」であるとしたわけではあるが、これは、心の志向的性格を考えたとき、当然の結論ではある。しかし、この志向性を支える「内容」とか「質料」とか言われるものが、17・18世紀には「観念」や「表象」と呼ばれていたという可能性を考えるなら、このリ-ドの批判は、「観念」の背後にあった問題構制を単に回避するものと言わざるをえない。この点を明確にするには、デカルト以後の「観念」の用法を「志向性」の観点からもう一度洗い直す必要があり、現在、「近代観念説における自然学的論理とその変貌に関する研究」という研究課題の下に、平成8年度の科学研究費補助金を申請中である。
著者
黒川 信重 中村 博昭 斎藤 毅 大島 利雄 砂田 利一
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

ゼータ関数の研究を数論的側面と幾何学的側面から行った。数論的側面では,ゼータ関数や三角関数を拡張した多重ゼータ関数や多重三角関数を構成し,ゼータ関数やエル関数の特殊値の表示を得,セルバーグ・ゼータ関数のガンマ因子を決定した。さらに代数多様体のゼータ関数の関数等式を明確にするために,代数多様体のエル進コホモロジーの研究を行った。とくに行列式表現を研究し,定数係数の場合には,それがド・ラム・コホモロジーの判別式で表せることがわかった。また,層係数の場合には相対標準類とヤコビ和の定める代数的ヘッケ指標を使って表す公式を得た。類似の問題として局所体上の代数多様体のコホモロジーのイプシロン因子について研究し,ド・ラム・コホモロジーの判別式で表せることを示した。これらにより,代数多様体のゼータ関数の関数等式の構造が明確になった。また,関連する研究として,代数的基本群に関して幅有限群としての研究を行った。一方,幾何学的側面からは非コンパクトなリーマン多様体のゼータ関数の零点および極の研究を行った。これはスペクトルの問題に言いかえられる。今までに知られていたことはほとんどがコンパクトなリーマン多様体に帰着されることであったが本研究においては,非コンパクトなリーマン多様体の場合に古典的な周期的シュレジンガー作用素をモデルとして無限次元ユニタリ表現の構造と磁場から定まる群環の構造との関連を明らかにし,スペクトルの幾何学的構造への反映の仕組みを明確にした。このようにして,ゼータ関数の数論的側面および幾何学的側面からの相補的成果を得た。
著者
上野 直樹 茂呂 雄二
出版者
国立教育研究所
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

平成2年度からの3年間の科研費による研究において、学校における算数に関する"言語ゲーム"のあり方の調査、実験を行った。その結果、多くの小学生が、意味のない算数の問題を何ら疑問なくといてしまうこと、あるいは、非現実的な問題に「これは算数の問題だから変ではない、解ける。」と答えることなどが示された。以上の調査から、小学生は、与えられた問題の現実性・意味についてモニターしないこと、算数理解のあり方が手続き指向的であること、算数の問題は「算数」である以上、現実的である必要はないと積極的に判断していること、などが明らかになった。こうした諸事実は、学校の算数が何を指向しているか、つまり算数という「ゲーム」が学校においてどの様な運営のされ方をしているかを示している。さらに申請者がトヨタ財団研究助成によって行っているネパールにおける日常生活における算数の調査によれば、商人や農民の算数という「ゲーム」のあり方は、以上に示される様な学校算数と対照的である。例えば、「水牛1頭18円で3頭でいくら」というような非現実的な問題に皆笑いだす。また、ネパールの商人や農民の算数の問題解決は、協同的である。例えば、個人に、問題を与えてみても、自然と人が集まり、互いにいろいろ教えあったり、計算に関してコメントすることが頻繁にあった。つまり、ネパールの人々にとっては、個人的に算数の問題を解くこと自体がむしろ不自然な事態であると考えられる。さらに、そのストリート算数の背景に、歴史的に構築されてきた様々な手続き、道具があり、そうした算数の道具が学校とは異なった形で発展し、又洗練されていることが明らかにされた。以上の事実から、算数認知は、特定の活動のコミュニティ(学校・バザール等)に参加し、メンバーとして文化・歴史的状況との相互交渉を行うことを通して社会的に構成されるものであることが明らかにされた。
著者
神鳥 武彦
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

現代社会は、人の移動、移住の盛んな時期を迎えている。人は移動・移住を余儀なくされつつある。こういう時に、人はどのようにして、新居住地に適応しつつあるのであろうかと考えることは、ひじょうに大切な課題となろう。この研究は、人の移動、移住に伴って生ずる諸問題を解明する一方法として、言語を対象にして迫ろうとするものである。対象地として取り上げた東広島市は、近年、都市化の著しい町である。広島大学の移転、マツダ株式会社の社宅設置などによって、当東広島市には急激な社会変動が生じつつある。他地方から東広島市に移住した人人、あるいは在来の東広島市の市民たちに、どのような言語変化が生じつつあるであろうか、これを明らかにするのが、この研究の目的である。大量の人々の状況を明らかにするため、アンケ-ト法を用いて調査した。人々の方言意識や方言使用の実態を数量的に捉えようとしたのである。その結果、次のような諸点が明らかになった。箇条書きにしてまとめてみると、次の通りである。1 自然発生的集落と社宅との、いずれの場合にも、女性はほぼ同一程度の比率をもって回答している。すなわち、一つの語詞に対する用いない、用いるという比率は、ほぼ等しい。2 男女差は、自然発生的集落居住者のほうに、明確に示される。社会体制の差が言語に反映していると見られる。3 移住者は、自然発生的集落においてもまた社宅においても、その居住地の県内出身者の方言使用の比率に正の相関をもっている。すなわち県内出身者の方言使用に習得の機会をえていると見られる。4 それぞれの居住地区に、10年以上居住している人々は、広島泡言に対して親近感をもつようになるとともに、広島方言を使用する比率も急角度に上昇するようになる。
著者
杉原 一昭 渡辺 弥生 新井 邦二郎
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

本研究の目的は,子どもの認識形成に直接経験・実体験がどの様な効果を及ぼしているかを探り、子どもの健全な発達をもたらす方略を見つけ出すことにあった。具体的には、(1)現在の子どもたちは、動植物についてどれくらい見聞、接触、飼育、栽培などの実体験をしているか、その実態を調査し、実体験の種類と量を規定している要因を探る(2)小動物に関するビデオによる認識形成と実体験による認識形成の差異を明らかにする(3)実際の動物(鶏)飼育経験が認識形成に及ぼす効果について検討することが目的であった。その結果、以下のことが明らかにされた。(1)園児は動植物にかなりの興味・関心を持っているが、実際に家庭で飼育しているのは金魚が多く、単に「見ている」か、せいぜい、「時々餌をやる」程度の接触である。動物との接触は、大都市の子どもほど、年少児ほど希薄である。(2)園児が積極的に飼育にかかわることが、認識形成に影響を及ぼす。(3)ビデオ視聴前(プレテスト)と視聴後(ポストテスト)の変化を見てみると、ビデオ視聴は、動物に関しての認識形成・知識の向上において、有効な手段である。(4)ただ漠然と動物を飼育しているだけでは教育的効果は薄い。動物飼育から幼児が何等かの学習をするためには、観察や接触を促すような働き掛けが必要である。(5)動物(鶏)の動作についての知識に関しては、その正確さにおいて、実体験前後で顕著な差が認められた。実際に体験することによって、動物の動作について、しっかり理解することができる。(6)絵や言葉だけではなく、実体験に裏打ちされた知識によって、しっかりとした認識の土台が形成される。
著者
梶本 雅俊 葛木 みどり 山本 照子 鈴木 妙子 佐藤 加代子
出版者
国立公衆衛生院
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

昨年度行った基礎的検討として液クロによる金属パタン分析法を用い、尿中のNa・K・Ca等の陽イオンの分析を、同じくF・SO4、SO2、C1、N03等の陰イオンの分析をして金属栄養の指標とした。無機質代謝のうち、従来公衆栄養的見地からはカルシウム不足がいわれているので。今回は日本人の日常生活の中での真の吸収率を求めようとして、カルシウムについての吸収率を求めた。厳密な二回の実験を用い、実験は男子8名、女子8名の厳重な管理のもとに血液成分、カルシウム、ホルモンについてデータを得て分析した。その結果牛乳食、野菜食、小魚食、炭酸カルシウム食のうち、牛乳群の便Ca吸収率が最も高く、牛乳群、小魚食の尿中にカルシウム排泄が多かった。介入疫学の手始めとして神奈川県、津久井郡の城山町を始め保健所管内の4町における健診時において住民検診時に血液性状や食習慣調査データを用いて、地域別集計と比較を行った。一部は歯科健診も行い健康状態との関連を分析した。食習慣調査を行い、また健康に役立つ心構えの調査で、腹八分や塩分控え目等の食行動調査20項目間の関連分析を行った。過去の栄養調査し食習慣の結果を総合して、多変量解析を用い、そのうち主成分分析では、身体的測定項目は相互に強く関連し、アンケートでもビタミンの摂取を除く他の項目について互いに強く関連したことが分ったので今後は数項目の調査で他の項目が推定できることが分った。中国東北部吉林省において都市・農村部の約1000名の健康と栄養状態の日中比較では健康状態は都市部ではあまり違いが無かったが農村部では日本よりカルシウム、ビタミン栄養状態も含め悪く地域差が大きかった。
著者
林田 和也 中尾 慎太郎 石本 浩康 藤本 坦孝 一瀬 孝 小俣 正朗
出版者
金沢大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

1988年にJ.L.Kazdanは彼の論文(Comm.Pure-Appl.Math.vol31)で次の問題を提起した:変分量J_i(v)=∫_Πr|∇u|pdx(p>1)のcritical pointsについて一意接続性がなりたつか?我々はJ_i(v)については出来なかったが,J_i(v)を同等な次の変分量:J_2(v)=Σ^^n__<i=1>∫_Π|∂_iv|pdxについて条件付き乍ら,彼の問題が肯定的であることを示した(J.Math.Soc.Japan.vol,46)。yamabeの問題から派生した楕円型方程式の問題:単位球内正値で、球面上で0になる半線型楕円型方程式の解の存在と非存在について,我々はこの問題を双曲空間で考察し,ある結果を得た(with M.Nakatani,Mathematica Joponica vol,40)。研究分担者一瀬孝によって,負のスカラーポテンシャルをもつ相対論的ハミルトニアンに対して,本質的自己共役性が証明された。又,研究分担者藤本担孝によって,Nevalinna理論が放物型Riemann面をパラメータ空間とする極小曲面の場合に拡張された。
著者
宮林 重明 萩野谷 和裕 黒羽根 郁夫
出版者
TOHOKU UNIVERSITY
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

先天性高乳酸血症110例の患者の検討を行い、電子伝達系酵素(ETP)欠損症は約3割を占めた。ETP欠損症の組織特異性の検討のため、培養線維芽細胞(Fibro.)でのETP活性測定包をミトコンドリア(mt.)を分離することなく、digitonin処理する事により確立した。見いだされたETP欠損症は、複合体I(CO I)欠損症11例、複合体IV(CCO)欠損症11例、複数のETP欠損症5例であった。筋組織でCOI欠損が証明された7例全例が臨床的にMELASの症状をとり、筋mt.の免疫ブロットでは特定なサブユニット(SU)の欠損ではなく全体のSUの減少を認めた。特に高分子と低分子のSUの低下が著明であった。11例のうち6例のFibro.でも検討をおこなったがCOI活性は正常であった。Fibro.でCOIの欠損している4例は全身型で、臨床的に、MELASと違い、早期死亡する重症例が多かった。全身型のCCO欠損症3例は臨床的にはLeigh脳症の経過をとり、CCO蛋白の全SUの均一な低下が全組織にみられたが、COI及びCOIIIに対するCRMの低下は認めなかった。重症致死型CCO欠損症の筋mt.ではCCO蛋白のみではなく特にCOIに対するCRMの著明な低下、cyt.hの低下を認め、肝・腎でも同様であった。COIIIの免疫ブロットは筋でのみ低下し、他の組織では正常であった。さらに同患者のFibro.でmt.を電顕的に検索したところ細胞内及び細胞間でCCO活性染色陽性と陰性の混在を認め、細胞内モザイクを示した。同所見は筋組織でも認められた。筋部分CCO欠損症では、3例でCCOのみならずCOIの低下を認めたが、Fibro.では正常であった。これらの例は活性の低下に比例して免疫ブロットでのCRMの低下も認めた。さらに臨床的にMBRRF像をとった2例で、電顕CCO活性染色において活性陽性線維と陰性線維の筋線維毎のモザイクを示した。以上の結果によりCCO活性に細胞毎のモザイクを示す例や、COI欠損症でcyt.b欠損を合併する例などは、mt.DNAの異常が想定された。
著者
佐々木 保行 八木 成和
出版者
鳴門教育大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究は子どもが様々な局面をのりこえることを通して、子どもに独立心や自主性を獲得させるための方策を検討することである。具体的には性被害から自らのからだと心を守ることのできる確かな態度と行動を学習できるスキルとそのプログラムの開発を行った。この研究を具体化するため、主にアメリカでの研究を参照しながら、幼児が自己の存在と人間性が否定されるような事態に遭遇した場合にとるべき態度と行動の実践的技法は、自己尊重の感情を表現する能力の育成である。そのため自己の感情を識別する学習が重要な課題となる。この感情識別学習は、学校教育でもまた家庭教育の中でも、わが国で取りあげられることが少なく、人権感覚や人権意識の育成の基礎的プロセスとして重要視されなければならない課題である。本研究では、幼児に対し絵本を使用して、“たのしい"“きもちいい"“おもしろい"“うれしい"などの快的・肯定的感情言語と“つまらない"“きもちわるい"“いやな"“かなしい"などの不快・否定的感情言語を、自己の言葉として表現できるプログラムを作成して実験した。その結果、幼児でも自己の感情を適切な感情言語を使用して、表現することが可能となった。一方、この感情識別学習の目的は肯定的自己イメージを育成することであるが、この課題と密接な関連をもつ側面に、性被害から自己を守る方法としての適切な判断のもとに対応できるスキルの獲得という課題がある。本年度はとくに、幼稚園の保育カリキュラムの中に“ロール・プレイ"を取り入れ、実践的な研究を行った。その結果、不快な感情を引き起こすような困難な事態の場合でも、明確な感情言語を発してその場から離れ、しかも“いやだ"という意志決定言語を使用することが可能となった。今後は小学生以上の子どもを対象とした具体的プログラムの開発を目的とする研究を展開する。
著者
若杉 準治
出版者
京都国立博物館
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

絵巻の中で、独立した詞書とは別に画面の中に書き入れられた文字を画中詞と呼ぶ。もともと画中詞は、長い画面に数場面を連続して描く絵巻の場面説明の「……するところ」という書き入れ文字から始まったと考えられるが、その後の画中詞は形式の上から三つに分類できる。第一形式は、連続画面の絵巻に用いられた場面説明や画中人物の会話を記すもので、鎌倉時代中期に華厳宗祖師絵伝や矢田地蔵縁起などに典型的にみられる。そして鎌倉時代後期の天狗草紙においては、場面説明より会話が主体となっている。第二形式は、鎌倉時代末期の尹大納言絵巻等の白描物語絵にみられるもので、一段の絵が短く、時間経過を持たないものであるが、詞書には簡単な状況説明を記して、画中に登場人物の会話を画面の余白がなくなるまで、画中詞として記している。この会話のみの画中詞では「一」「二」……の番号を付してその順が示されるが、こうした方法はすでに華厳宗祖師絵伝で用いられているところから、第二形式は第一形式から派生したと考えられる。そして、第三形式は、室町時代の御伽草紙に典型的にみられ、上の二つの画中詞の形式を受け継いで成立したと考えられるもので、独立した詞書を持たず、というか本来詞書であるべき部分が画面のなかに書き込まれたものである。画中詞が、この順に派生したと考えることには無理がないが、絵巻全体の中で遺品の割合が低く、画中詞が一般的な形式にならなかった理由の一つは、絵画としての純粋さを保とうとしたことにあると考えられる。そして逆に、画中詞が用いられたものは、強いリーダーシップを持って絵巻制作に当たった人物の存在が想定される。すなわち、絵師以上に絵巻の画面に支配力を持つ人物の存在である。このことは、個々の作品の制作事情についての史料的裏付けを要する問題であり、今後研究を続けることにしたい。
著者
垣本 直人
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本研究では、超高圧電力系統の事故時復旧操作を、エキスパートシステムにより自動化する研究を行っている。復旧操作は、初期電源の確保、送電系統の充電、発電機の起動・並列、負荷への電力供給などの各段階から成っている。本年度は、負荷への供給が進むにつれ、送電設備に発生する過負荷について検討を行った。以下に研究結果をまとめる。まず、検討の対象としている超高圧系統について、送電線および変圧器の具体的な送電容量を調ベ、オブジェクト形式で記述した系統データに追加した。そして潮流計算により送電線および変圧器に流れる電力量を算出し、これを該当設備の容量と比較することにより過負荷の有無を検出できるよう機能拡張を行った。つぎに文献調査により、過負荷の解消法について調ベた。解消法には系統切替、発電調整、負荷切替、負荷制限などがあり、これらをメソッドとしてシステムに組み込んだ。また、設備過負荷時に適用する具体的な方法は設備ごとに異なるので、設備ごとにルールを設けて個別に対応するものとした。例えば、ある送電線の過負荷を負荷切替えにより解消するには、下立系統の変電所負荷をどのように切替えるかの知識が必要であり、これは送電線によって異なる。最後に対象系統が全停電となった状態からの復旧操作をシミュレーションにより検討した。その結果、送電線1回線や変圧器1台が使用できないような状況下では、過負荷が発生することは稀であることが判明した。また、仮に過負荷が発生したとしても、本エキスパートシステムに組み込んだ機能により解消することができ、さらに負荷制限にまで追い込まれることは検討の範囲内では起こらなかった。以上により過負荷の解消については所期の目的を果たしたと考えている。今後は、潮流計算だけでなく、安定度計算プログラムなどもシステムに組み込み、平常時操作についても検討を行っていく計画である。