著者
川平 浩二 岩坂 泰信
出版者
富山工業高等専門学校
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

オゾンホ-ルと温室効果の相互関連について、主としてデ-タ解析により研究を行ない,以下のような研究成果が得られた。南極域の春,10月を中心に生じるオゾンの急激な減少であるオゾンホ-ルは,1980頃に顕著になって以来年々減少し,1991年には史上最低値のオゾン量ガ観測されている。この減少の直接的要因は,フロンガスに含まれた塩素が,ー85・C以下の気温のとき生じる極成層圏雲の氷滴の表面上で不均一反応によって急激に増加し,オゾン消失反応の触媒作用を行なうことによる。したがって,オゾンホ-ルが何故1980年頃から顕著になり,今後どのように推移していくかを考えるとき,気温の長期変化がどうなっているか,それと合わせて大気の循環にどのような変化が見られるかを明らかにすることが必要である。本研究では,米国の国立気象センタ-(National Meteorological Center)が解析した,1979年から1988年の10年間の高度場より,気温と風を求めて解析を行なった。月平均値に関して,以下の点が明らかになった。1.オゾンの急激な減少の生じる高度(10ー20km)で,極夜期間に長期の1方的な気温低下がみられることから,温室効果による成層圏の冷却と考えた。この傾向は,10年間にわたり,かつ極夜期間はオゾンによる加熱が働かないため、気温低下は力学効果か温室効果によるが、力学効果は2ー5年の周期をもつことから,温室効果による。2.月平均の帯状風の1980年代の変化を求めた。意外なことに,オゾンホ-ルの発達と対応がみられなかった。年々振動はあるが、長期の一方的変化は,見いだせなかった。ところが,1970年代年期初期との比較を行なうと,冬から春にかけてのどの月についても,極域では近年風が弱まり,一方60・S付近の中緯度では逆に,風が強くなっている。さらに,大規模波動の振幅を比較すると,近年は著しく弱くなっている。このことは,オゾンホ-ルの発達を促す循環の変化が,1970年代の半ばごろに確立し,現在まで続いているという,新しい知見をもたらした。その他の解析と合わすと,温室効果に伴う循環奉の変化が起こっており,しかもその変様相は,徐々にではなく,ある期間に比較的急激に起こったといえる。この結果から,オゾンホ-ルの発達は,温度効果による成層圏の気温 低下と循環の変化が先行して生じ,その発達の基本条件を作ったとの,1987年に提起した筆者の独自見解を支持するものといえる。特に,温室効果による循環の変化は,この研究が初めて明らかにしたといえる。
著者
井澤 鉄也
出版者
電気通信大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

長期間の身体トレーニング(TR)は脂肪細胞の脂肪分解反応を増強させる.この現象は脂肪細胞のサイクリックAMP(cAMP)以降の酵素であるタンパクキナーゼ(PK)やホルモン感受性リパーゼ(HSL)の活性が増強するためであると考えられている.しかしながら,PKやHSL自身の活性はTRによって増強せず,未だその実体は捉えられていない.脂肪分解反応はcAMP以外にもCa^<2+>やカルモジュリン(CaM)によっても修飾されている.本研究においてはTRによる脂肪分解増強効果をCa^<2+>/CaM系とPKとの関係を検討した.TRによってラット脂肪細胞の脂肪分解反応は著明に増強した.TRラットおよびその対照群の脂肪分解反応はCaM阻害剤であるW-7で有意に抑制された.その抑制作用はTR群において有意に大きかった.このことからTRによる脂肪分解反応の増強機構にCa^<2+>/CaM系に大きく修飾されている可能性が示唆された.そこでさらにPK活性に及ぼすW-7の影響を検討した.細胞抽出液中のcAMPによるPK活性はTR群で低下する傾向にあった.このcAMPによるPK活性はW-7によって両群共に有意に抑制されたが,その抑制率はTR群(31.5%)で対照群(18.9%)に比較して有意に大きかった.このことから,TR群の脂肪細胞のcAMPによるPK活性の調節はCa^<2+>/CaM系に大きく依存していることが明らかになった.また,TRラットの脂肪細胞では細胞内Ca^<2+>濃度が有意に高く,これがCa^<2+>/CaMにより大きく修飾されているPK活性の調節に役だっている可能性も示唆された.
著者
坂野 登
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

・研究1では、左右の前頭葉機能の個人差を測定する目的で開発された「順序性の記憶」に関する神経心理学的パフォ-マンス・テストバッテリ-を、ブックレット方式とカ-ド式によるテストとして作成し両者の比較を行った。課題は線画の中にひらがなが埋め込まれている、かくし図形の系列の記憶テストである。ブックレット方式によって十分にその目的を達成できることが明らかになったので、集団実験と個別実験結果を合わせてテストの妥当性を検討した。前頭葉機能の個人差と関係すると考えられる腕組みを指標にしたところ、腕組みで右腕が上の左前頭葉優位のタイプは文字の順序性の成績、左腕が上の右前頭葉優位のタイプは絵の順序性の成績と関係し、いずれのタイプでも分析性・抽象性の低い認知スタイルの被験者の成績がよいことが明らかになった。・研究2では、研究1と同一のテストの回答方式を空間認知テストに変更しその変化を見たが、その結果腕組みではなく、知覚・認知的機能の個人差と関係していると考えられる指組みによって、文字と絵認知の速さの個人内変動を弁別できた。すなわち、左半球での知覚・認知的機能と関係する右指上のタイプでは文字認知の変動が相対的に大きく、逆に右半球優位の左指上のタイプでは絵認知の変動が相対的に大きかった。・研究3では、様々な神経心理学的テストを遂行時の脳波パタ-ンの因子分析的研究を行い、左半球課題と右半球課題および個人差を分離することができた。・研究4では、研究1で用いた順序性の記憶テストを研究3の課題に追加して分析し、半球優位性と個人差について検討したところ、全般的には左半球優位的な課題ではあるが、しかし個人によってはそれが右半球優位の課題として用いられているという個人差を見いだすことができた。
著者
田名部 雄一 岡林 寿人
出版者
麻布大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

1.インドネシアの在来件犬について調査した。バリ島で3ケ所から100頭、カリマンタン島で5ケ所から100頭を採血し,血液タンパク質の多型を主に電気泳動法により調査した。また外部形態についても調べた。インドネシア在来犬の外部形態は一定していない。赤、黒、白などの単色の他、赤虎、黒虎、黒ゴマなどが多い。全て立耳で殆ど差尾であった。吻は長く、ストップは極めて浅い。舌斑はカリマンタン島では61.6%と高く、バリ島では7.2%と少ない。小型で体高36〜41cm、体長39〜44cmであった。血球グルコースホスフェイトイソメラーゼ(GPI)に今までに知られていないGPI^C、GPI^Dの多型がかなり高い頻度で認められた。GPI^Dはモンゴル在来犬にも低い頻度で存在する。東北アジア犬に独特の遺伝子であるとみられていたヘモグロビンA(Hb^A)は、インドネシア在来犬ではHb^Aに固定されていた。もう1つ東北アジア犬に独特の遺伝子ガングリオシドモノオキシゲナーゼg(Gmo^g)インドネシア在来犬では極めて低く、カリマンタン島の犬では皆無であった。このようにインドネシア在来犬には、東北アジア犬の特色をも持っていた。主成分分析を行った所、インドネシア在来犬はモンゴル在来犬と近く、韓国在来犬とは遠い距離にあった。このことからインドネシア在来犬が直接琉球列島を経て日本列島に入った可能性は低い。インドネシア在来犬とモンゴル在来犬の間には、かつて相互に遺伝子の交流があった可能性がある。2.モンゴルに生息するオオカミのさらに追加して調べた所、Hb^Aの頻度は0.875、Gmo^gの頻度は0.293となった。この2つの遺伝子はアジア犬に高い頻度で見出される遺伝子であるが、ヨーロッパ犬では低い。また、インドオオカミやヨーロッパオオカミには見出されない。このことからアジア犬の成立には、東アジアにいるオオカミ(Canis lupus chanco)の遺伝子の流入の可能性が高い。
著者
浦山 益郎
出版者
三重大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

本研究は、都市近郊に存在する農業用ため池を居住環境資源として位置づけ、その整備・保全・管理の方向性を探るために、ため池の公園的整備が進められている愛知県東海市と農業用ため池として半自然的環境を形成している三重県津市を対象地域として、ため池が持つ居住環境資源としての可能性、住民の利用実態と評価を通してため池の利用効果・存在効果およびため池整備に対するニーズを調査分析したものである。東海市に55箇所、津市に81箇所のため池がある。市街化区域にはそれぞれ18箇所、10箇所であるが、都市公園のスキマに位置しており、都市空間における公園機能を補完する地理的条件を有している。また、市街化調整区域のため池は、周辺の農地や林地と共に都市空間を取り巻く半自然的環境を構成する要素となっている。ため池の整備形態の違いによる効果と問題点を明らかにするために、公園的整備の有無と周辺100mの範囲の土地利用構成からため池の類型化を行い、典型的なため池を10箇所選定し、周辺居住者にアンケート調査を行った。結果を要約すると、公園的整備されたため池は多くの住民に利用されているが、農地や林地に囲まれた未整備状態のため池はほとんど利用されない。周辺に宅地が多くなるほど利用するものが増える。利用されない第一の理由は利用できるように整備されていないことであるが、危険・汚い・アクセスしにくいことも周辺住民の足を遠ざける要因となっている。しかし、ため池の存在自体が否定されているのではなく、むしろため池を積極的に評価している住民が多い。それはため池が利用効果だけでなく、開放性・日照などのオープンスペース機能、生態系保全機能などを持っているためである。その場合、利用効果と同時に存在効果を高めるような整備のニーズが認められる。
著者
平藤 雅彦 篠田 壽
出版者
北海道医療大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本研究はエンドトキシンの全身投与が歯髄組織にどのような微小循環障害を引き起こすかを検討し、さらにその発生機序を生化学薬理学的および組織学的手法を用いて解析、検討する事であった。平成4年度はエンドトキシン投与後、歯髄組織中の組織障害のマーカーの一つである過酸化脂質をTBA法で測定し、組織障害の有無を検討した。エンドトキシン10mg/kgを静脈内投与して4時間後の歯髄祖組織内の過酸化脂質濃度を測定したところ、有意な過酸化脂質の増加が認められた。同様に肺および空腸組織についても検討したが、2及び10mg/kgエンドトキシンのいずれにおいても有意な影響は認められず、歯髄組織はエンドトキシンにより障害を受けやすいことが示唆された。そこで平成5年度は、エンドトキシン投与による歯髄組織内のアデニンヌクレオチド濃度の変化を検討して、循環障害の有無を検討し、またエンドトキシン投与後の歯髄組織および象牙質形成障害を組織学的に観察した。ラットにエンドトキシン2mg/kg静脈内投与を行い、4時間後の歯髄組織内アデニンヌクレオチド含量をHPCLで測定したところ、AMPの有意な上昇と、ADP、ATPの有意な減少が認められ、組織内のエネルギー状態を示す指標であるエネルギーチャージは著明に減少し、虚血性障害を起こしていることが示唆された。さらに、組織学的観察を行ったところ、エンドトキシン処理により歯髄組織細胞の核の変形、萎縮が認められた。しかし、炎症細胞浸潤や、血管拡張などの炎症性組織所見は認められなかった。以上のことより歯髄組織はエンドトキシンにより虚血性の組織障害を受けることが示唆された。本研究ではさらに、内皮細胞の機能障害機序についても培養ヒト内皮細胞を用いて検討し、好中球の活性化に依存して内皮細胞への血小板粘着が生じ、これは血小板のcGMPレベルの減少が伴っていることを明らかにした。
著者
平野 隆雄
出版者
順天堂大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

自己免疫、SLE、ベ-チェット病には、多彩な神経症状をともなうことが知られている。神経症状を合併するかどうかは、その患者の予後に重要な意味を持っている。近年、抗糖脂質抗体と自己免疫病患者の神経症状との関連性が注目されている。そこで、われわれは、自己免疫病とくに神経症状をともなうSLE、ベ-チェット病患者血清、髄液について抗糖脂質抗体の検出法を開発し、定量をおこないこれと実態・原因の解析を目的として研究を試みた。62年度に抗糖脂質抗体、特に抗asialo GM_1抗体のELISA法、TLCイムノスティンニング法による検出法を開発し、各種自己免疫症患者血清、髄液を定量した結果、CNSーSLE、ニュ-ロベ-チェット病患者血清中に高率に、抗asialo GM_1抗体の存在することが判明した。髄液中には、抗asialo GM_1抗体の存在はほとんど認めなかった。さらにモノクロ-ナル抗asialo GM_1抗体を作成し、患者血清及び髄液中に糖脂質抗原の存在の有無を検討したが、検出できなかった。これは、この検出法の感度や免疫複合体の存在等まだ十分に検討すべき点が残っている。いずれにせよ、神経症状をともなう自己免疫病患者血清中に、高頻度に抗糖脂質抗体の存在することが明らかになった。このアッセイ法を用いてさらに臨床的検討を進めていく次第である。我々の共同研究者が、最近新らたにCNSーSLE血清中に存在する抗糖脂質抗体がリンパ球減少、低補体価、臨床活動性と相関することを見い出した。我々は、シアリダ-ゼ処理したB細胞表面の糖脂質に対する自己抗体がNZBマウスに存在することを明らかにした。これらの研究は全て、糖脂質に対する自己抗体が、自己免疫病の病因、病態に密接に関連することを意味している。今後の研究の発展に期待したい。
著者
新藤 武弘
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

カリフォルニア大学バークレー校美術史学部制作の『明代絵画と絵画作品デ-ダベース』の提供を受け、データの補充に協力、それをもとに明清画に止まらず、宋元に遡る広範な研究を行なった。平成4年10月、上海で開催された四王国際学術研討会で「四王与黄公望」、無錫で開催された倪〓之生平与藝術国際学会で「関干倪〓像」を発表し、平成5年5月、美術史学会全国大会で研究発表「書斎図考-元代文人の理想郷-」を行ない、平成6年12月には同学会東支部会例会で「石涛についての新知見」を発表。メトロポリタン美術館前東洋部長アルフリダ・マーク女史(台湾在住)を招き、所属機関(跡見学園女子大学)と美術史学会支部例会で講演を行なった。これらの研究交流の成果はワープロ版『明清画研究ノート』に掲載し、現在、7号に至っている(添付資料参照)。平成4年春、ネルソン美術館の特別展『薫其昌の世紀』を見学、同東洋部長何恵鑑の論文「薫其昌の藝術における卓越性」、またメトロポリタン美術館東洋部研究員張子寧の「石涛《白描十六尊者》巻と《黄山図》冊」を翻訳、『研究ノート』II,V号に掲載した。平成6年末、北京の中央美術学院・故宮博物院における明清画透析研討会、平成7年3月、上海と湖州で開催された趙孟地〓国際学術研討会に出席、その成果は、現在準備中である。「石涛与《廬山観瀑図》」(『研究ノート』V)は米国美術史家協会年次大会(ニューヨーク大、1994年2月)におけるシンポジウム「石涛《廬山観瀑図》」の関係者に送付したものである。
著者
長内 剛 丸山 清
出版者
松本歯科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

我々は昭和63年以来、X線CTに組み込まれた3D(3次元画像)ソフトを用いて顎口腔領域疾患の3D像を構成し、観察を行ってきた。平成2年度においては、顎口腔領域特に顎関節部の撮影補助装置の改良と、その性能の検定に力点を置き、実験代用骨・顎骨疾患の摘出物・臨床検査例を被写体として、3D像の処理条件を検討した。平成3年度に入り、3Dソフトに「カッティング」という機能が加わり、一旦構成された3D像から、観察に不用な部分を切り取ることが可能になった。我々はこの手法を用いて、顎骨内襄胞性疾患を対像に、3D画像上で手術のシミュレーションを試み、成功した。今年度に入ってからCT値の選択によって、下顎骨の輪廓をかろうじて示す程度の、極めて疎造な3D像(輪廓像と仮称)を構造することに成功した。この画像と、病巣の3D像を同一画面内に併せて描出した結果、病巣の顎骨内に占める位置、形、大きさ、方向が一目瞭然となり、同時に病巣の体積も表示される様になった。病巣体積に比し、輪廓像の体積が占める割合は極めてわずかで、病巣体積測定の成績に殆ど影響を与えなかった。これを開窓手術症例に適用して、手術後病巣の縮少して行く過程を、3D像の上で観察し、その術式と臨床応用例について学会に報告した。術式が定着してから日数が浅いため、未だ多数症例の成績は得られていないが、顎骨疾患のX線診断に、新手法を来たしたと考えている。
著者
村山 康男
出版者
多摩美術大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

写真の発明(1839年)から1870年代に至るフランスの美学、写真理論、美術批判、文科史関連文献資料の収集と整理、研究を中心として進めて来た。ドラクロワの美術論、日記、ボードレールの美術批評、クールベ、シャンフルーリらの美術論、テーヌの美学等の読解を進め、それと平行して、当時の代表的な写真家の写真美学との比較を行なった。その結果、ロマン派から写実主義にいたる美術理論は、「犠牲の理論」(無用な細部を犠牲(省略、選択)にし、全体的効果を高めるという主張)として捉えられるが、この理論が当時の写真美学にとっても基本的な骨格となっていることが明らかになった。この理論は伝統的な美学(選択的模倣の理論)の枠の中にある。それに制約されていたためにこそ、当時の画家、写真家、美術批評家等は、写真の新しいメディアとしての特性(新しい構図法、偶然性の強調等)を積極的に認めることができなかったことを我々の研究は明らかにした。我々が画家の個別研究では、ドラクロワやモネが写真の新しい特性に対して否定的であったことを明らかにしたが、このことは上記の制約からして当然といえる。画家の個別研究では、特にモネに関して研究を進めた。我々はテーヌ著『知性について』の研究によって、彼の知覚心理学が、モネの筆致の使用法を理論的に裏づけていることを明らかにした。モネの画業が、当時の写真よりもテーヌに多くを負っていることは、19世紀中葉のフランス美術における写真の位置を象徴的に示しており、我々の研究にとって大きな成果と言える。
著者
中原 精一
出版者
朝日大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

1994年4月下旬に、世界注視の中で、南アフリカの総選挙が行われた。直前まで、白人右脈やイニカタ自由党の厳しい抵抗があって、多くの死者が出た。一時は投票が危ぶまれたが、蓋を開けてみると、整然としかも熱気溢れ選挙風景が、南アフリカ全土で展開された、南アフリカが1909年にイギリスの自治国として憲法を成定して以来、85年間この国では白人が政治、経済、社会を支配してきた。アフリカ人には議会に代表者を送る権利もなく、法律によって、生活の細かいところまで厳しい制限を受けていた。いわゆるアパルトヘイトである。今回の選挙はこのアパルトヘイト体制を解消して、人種協調社会の確立をめざす、新しい憲法の制定のための議会を発足させるためのものであった。しかも、アフリカ人にとっては初めての投票であったから、整然と熱気溢れた選挙風景であったのは、当然のことであった。この研究は、アパルトヘイト体制が崩壊を始めた.1990年以降の憲法政治の推移を観察しながら、総選挙後の政治、社会の状況を展望する研究であった。選挙の結果はは、白人政党の国民党の善戦で、ANCが憲法制定の主導権を取る3分の2の議席を確保できなかった。しかしこれは人種協調社会をめざす南アフリカにとっては、穏当な結果であったと思う。それでも実際政治では、ANCが責任を負うのであるから、初代アフリカ人大統領マンデラを中心に推進されることになる。政策としては、復興開発計画(RDP)によって行われるが、問題はその財政的な保障である。さらに、アパルトヘイト時代の後遺症として、土地の再配分と賠償問題、低所得層のアフリカ人の住宅建設、それにアパルトヘイト時代の解放運動家たちに対する犯罪の摘発など、難問が山積しているこれらは、これらはの研究の対象である。
著者
若松 謙一 西田 実継
出版者
岐阜大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

銀河間衝突が銀河中心核の核活動、特にセイファ-ト現象やクエサ-と深く係わっているのではないかとの仮説は1985年に出され、最近大きな関心を呼んでいる。衝突に依って相棒銀河から剥ぎ取られたガスが銀河中心核へと隆り積もり、爆発的星の形成を引き起こし、ブラック・ホ-ルへガスを供給して中心核を活性化する、と言うのである。銀河間衝突で形成されたことがはっきりしているリング状銀河について、セロトロロ天文台で得たCCD撮像分光デ-タを本研究費で購入したワ-クステ-ションを用いて解析を行い、現在までに以下の結果を得た。1.約40個のリング状銀河の中心核は輝線や強いバルマ-吸収線を示しており,星形成等の激しい核活動が起こっている事を見いだした。2.輝線を示す銀河の大部分はライナ-(LINER)やスタ-・バ-スト型であり,セイファ-ト2型はわずか3個、1型は新たには1個も発見出来なかった。3.また、多くのリング状銀河がIRAS赤外線源であることもつきとめた。4.以上の事より、リング状銀河では予想通りの形成は極めて活発ではあるが、セイファ-ト1型が少なかったことより、銀河間衝突がブラック・ホ-ルへガスを供給して銀河中心核を活性化する、とのシナリオを検証するには至らなかった。5.その理由として、リング状銀河を形成する衝突は銀河ディスクを垂直につっきるタイプなので、ガナを中心核へ落し難しくなっているとも考えられるが、その割にはスタ-・バ-スト型が多いことからそう単純でもなさそうである。6.リングを持った楕円銀河であるHoagーtype銀河ではバルマ-吸収線が強く、10億年以内に激しい星の形成があったと思われる。なお、平成4年7月にもう一度セロトロロ天文台で観測できる事となったため、この問題をより一層突き詰めたいものである。
著者
舟橋 和夫
出版者
京都女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

本研究の成果は以下の通りである。まず、第1は移民個人のデ-タベ-スをはじめてコンピュ-タ上に形成したことである。これにより移民デ-タの処理と分析が自在に行えるようになった。しかも、移民デ-タベ-スは公開するので、他の移民研究者も自在に研究分析が可能になった。従来の移民研究では、明治元年から明治18年までの間に集団的な移民はないという見解であったが、今回明治4年にハワイへの集団移民が新たに見つかった。現時点ではこの移民がどのような移民であったのか詳しいことは不明であるため、今後の研究課題である。日本からの出移民122年間の地域的特徴を簡単に述べると以下の通りである。明治元年から明治18年頃までは、当時開港されていた神奈川県と長崎を中心として、その周辺から多く出ている。行き先はアジアである。明治18年から明治末までは広島、山口、和歌山、熊本、沖縄などからのハワイ行きと、長崎からのアジア行きの2つの移民の流れが見られる。大正年間から第2次世界大戦前までは広島の出移民がもっとも多く、北海道、福島、新潟、静岡、滋賀、和歌山、岡山、山口、福岡、熊本、沖縄など各県に広がった。戦後の出移民を多い順に指摘すれば、沖縄、東京、福岡、北海道、熊本、長崎の順である。戦前の出移民県である広島と山口はそれほど上位にはランクされていないのが特徴である。このように、移民現象はそれぞれ地域の特徴が鮮明に出ている。生活史研究においては、既に移民経験者が非常に少なくなっており、インタビュ-することが極めて困難であったが、今回は夫婦の移民経験者にインタビュ-できた。2人の生活史を掲載し、移民研究の基視資料としたい。
著者
川村 道彦 中村 佳正 畑田 一幸 岩田 恵司 竹内 茂 中馬 悟朗
出版者
岐阜大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

科研費の補助のおかげで、今年度は多数の研究者と何回か研究討論ができました。また、情報交換や資料収集ができ、今後の研究の推進の基礎が得られました。これらをもとに今年中にその成果を発表するつもりで頑張ってきましたが代表者自身の結果を発表するには今、少し時間を必要としている状況です。私はマルチンの理想境界、特にピカール原理について研究を続けて来ました。他の研究者から得たいくつかの情報のうち、特に、中井三留,多田俊正両先先生による結果として、ピカール原理の非斉次性に関してきわめて特異な状況が起ることが知られ、従来の考え方を一変して新しい観点から研究を進める必要性を感じ鋭意研究中です。一方、研究分担者、中村佳正氏によるものとして、次の二つの結果を上げます。1.定常軸対称な重力場を記述するアインシュタイン方程式について、ある線型方程式系の解を成分とする行列の行列式で特徴づけられる(アインシュタイン方程式の)解の系列の具体的表示を得たこと。次に、アインシュタイン方程式のある境界値問題が、指数型の無限階微分作用素を用いて、局所的に解けることを示した。2.ある形式的ループ群に値をとる行列のリーマン・ヒルベルトの意味での分解可能性を示した。さらに、この結果をある定常確率過程のスペクトル密度行列の分解に応用して、線形予測問題の解、すなわち予測子と予測誤差の存在を明らかにした。
著者
垣本 直人
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

本研究では、超高圧電力系統に停電事故が発生した場合の復旧操作を支援するエキスパ-トシステムの開発を行った。以下に成果をまとめる。1。電力会社の超高圧系統給電操作細則を分析し、電気所が全停電と自断の各々について復旧操作の基本となるル-ルを抽出した。そしてこれらのル-ルに基づいてエキスパ-トシステムの知識ベ-スを構築した。これにより、常時の系統の運用形態に沿った復旧操作が可能となり、その復旧手順は実際の系統復旧操作に近いものとなった。また、細則の自断の場合のル-ルを新たにシステムに組み込んだため、系統全停電だけでなく、さまざまな部分停電にも対応でき、初期電源の種々のパタ-ンや、故障機器がある場合でも対応する事が可能になった。2。細則中の給電指令を整理、分類した。これに優先順位を定めることにより、給電指令の自動選択を可能にした。この自動選択は機能としては非常に限られたものであるに関らず、人間が考えるのとはほぼ同様な選択を行うことができる。機能が単事であるため、系統設備の変更などに伴う給電指令の追加、削除などの変更が容易である。事故状態によって優先順位が変化するような優先順位をはっきりと定めることができないタイプの給電指令については、復旧方針決定モ-ドにおいて操作員が復旧過程の各時点で優先順位を決定することができる。また、操作員の給電指令選択の支援を行うだけでなく、給電指令の変更、復旧方針の選択など、操作員の思考も柔軟に取り入れることができる。3。細則の復旧操作だけでは復旧できない停電範囲を、細則の復旧の流れにできるだけ沿うような給電指令による復旧操作を追加することで復旧可能にした。この方法での成功は、本システムの今後の更なる機能拡張へ向けての有用な指針を与えるものと考える。今後の課題として、潮流状態のチェック、過電圧の抑制等の機能追加を行う予定である。