著者
林 忠行
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

1)1977年に始まるチェコスロヴァキアでの人権運動、憲章77はそれ以降の信国における異論派の運動の中心となった。憲章77は、既存の政治体制に対し、他の政治的選択肢を提示するという意味での「政治活動」を避け、体制が承認した国際規範や宣言、言体的には世界人権宣言、ふたつの国際人権規約、ヘルシンキ宣言などを論拠に、それらの内容を国内で実施するよう求めた。この点に運動の最大の特色があった。2)当初、憲章77のヘルシンキ宣言とその後の全欧安全協力会議(CSCB)に対する期待は、必ずしも大きなものではなかった。しかし、その後、CSCEは憲章77の運動の基本的な支柱となる。CSCEは拘束力の弱いプロセスにすぎなかったが、憲章77の主張が西側諸国政府によってとりあげられることによって、国際的な場でその主張は政府の立場と対峙できた。また、その過程を通じて西側のNGOとの接触が深まった。こういった意味において、CSCEは憲章77の運動の「国際化」を可能にした。3)また、CSCEが人権だけでなく、平和や環境など広範な問題を扱っていたことから、その影響下で憲章77が「人権」をより広い文脈でとらえるようになった。少なくとも運動はCSCEとのかかわりの中で、全欧州的な視野を獲得したといってよいであろう。4)1989年の同国での政治変動において、憲章77が育てた人脈は大きな役割を果たし、また現在の政府にも多くの人材を送り込んだ。しかし、89年政変を単線的に憲章77の運動もしくはCSCEと結び次けることには慎重でなければならない。この政変は、国際的政治・経済環境の変容、国内体制の分裂と体制の自壊といった多様な結果生じたからである。とはいえ、政治変動初期において、「市民フォ-ラム」などが示した理念は多くの点で憲章77が積み上げてきた議論を引き継いでいる。少なくとも、理念的には、憲章77とCSCEは89年政変に深く結び付いている。
著者
島 善高
出版者
早稲田大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

近代皇室制度とくに明治皇室典範がどのような過程を経て制定されたのかを研究するため、宮内庁書陵部、国立国会図書館憲政資料室、国立公文書館、早稲田大学図書館それに國學院大学図書館に所蔵されている皇室制度関係史料を収拾し、それらのリストを作成しつつある。この作業はまだ継続中であるが、その間に得た新知見の要点を記すと、1、古くから使用されていると考えられていた「万世一系」の語は、公式文書では、岩倉具視を大使とする遣外使節団持参の国書に見えるのが最初である。2、明治憲法起草者の一人である井上毅は、主としてドイツのブルンチュリの唱える公法学説に依拠して、天皇の個人的意思を国政からできるかぎり排除しようとした。但し、西洋法原理をそのまま導入するといろいろの点でまづいので、国譲神話の「シラス」に注目して、わが国にも太古の昔から公法原理があったのだと主張した。3、しかし、このような井上説を継承した者は穂積八束や上杉慎吉らごく少数の者のみであって、美濃部達吉などの主流派は殆ど「シラス」論を顧慮しなかった。4、明治憲法制定以後の日本には、皇室典範と憲法との両者を共に最高法規とするいわゆる二元体制が続いたが、その淵源が明治十一年末の岩倉具視の奉儀局開設建議にあることを確かめた。5、近代の文書には「天佑を保有し」云々の語が多用されているが、明治初年に西欧のGottesgnadentumに倣って、わが国の国書に用いられるようになったことを明らかにした。6、明治初年の政府が皇族制度をどのような方向で改革しようとしていたのかは、史料の制約もあって不明な点が多いが、明治初年の法典編纂特に民法典編纂の流れの中で、皇族制度も西欧のような親族法や相続法の原理と整合性があるようにしなければならないとの意見が出され、それによって天皇の寝御に侍る女官の制の見直しや親王宣下という天皇の養子制度の改正が目指されたのであった。
著者
榎本 文雄
出版者
華頂短期大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

本研究成果報告書は,『雑阿含経』(『大正新脩大蔵経』第2巻,pp.1ff.)に対応するインド語テキストを収集したものである。『雑阿含経』のインド語テキスト(Samyuktagama)は失われ,その一部が断片的に現存するにすぎない。かつて,『雑阿含経』は説一切有部に所属すると考えられていたが,説一切有部は,インド仏教の最大部派の一つで,北インドのみならず,中央アジアにまで広がったため,その内部にカシュミール有部やガンダーラ有部などの幾つかの分派が生じた。最近の研究によって『雑阿含経』は根本説一切有部の伝承に最も近いことが明らかにされてきた。筆者は根本説一切有部を説一切有部内部の一分派と見なす。根本説一切有部は,しだいに説一切有部内部で最大の分派になっていったと考えられる。本研究成果報告書には,説一切有部ないし根本説一切有部の文献から,『雑阿含経』の各経に最も近いインド語テキストの箇所が収集されている。そのインド語テキストは以下の三種からなる。(1)インド語テキストの写本断片。(2)説一切有部の文献の中の引用箇所。(3)説一切有部の文献に所属ないし由来し,『雑阿含経』に部分的に対応する箇所。本報告書は,『雑阿含経』の最後の章である*Samgitanipata(『雑阿含経』巻4,22,36,38-40,42,44-46,48-50)を扱う。
著者
増田 勝彦 佐野 千絵 川野邊 渉
出版者
東京国立文化財研究所
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

紙の風邪引き現象は、水に対する挙動が斑点状に不均一になることである。その斑点部では、親水性が特異的に高くなっており、膠と明礬の混合液であるド-サ塗布を繰り返してもなかなか、水滲性を克服できない。風邪引き箇所は、通常光下では不可視であり、ド-サ塗布後乾燥して水を塗布した時に初めて、斑点状に水滲箇所が観察出来る状態となる。生物的な要因:風邪引き箇所と健全部の化学分析により比較したところ、アミノ酸の一部に有為な差が認められた試料と認められなかった試料が混在している。繊維表面の物理的変化:X線マイクロアナライザーにより塗布した硫酸銅の挙動は、風邪引き箇所に集中している。試料の示す分析結果が、同一でないので、単一な理由で風邪引き現象が生起されるのではないことが、予想される。風邪引き現象の発現率調査は、文化財修復工房、日本画家の協力を得て行っているが、必ずしも湿度環境だけが原因とは考えられない状況である。
著者
青木 務
出版者
神戸大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

木管楽器としてクラリネットとリコーダーを用い.音の「聞こえ」の心理量と周波数分析などにより得られる物理量を関係づけることを試みた。すなわち.いつも一定の条件で楽器音が得られるように.まず簡便な吹奏装置を作製した。次に音色の管能評価実験を行った。最後に両者より得た物理量と心理量を関係づけるとともに.良い音色をだすリードとはどのようなものかを.吸水実験などから検討した。得られた結果は以下の通りである。(1)クラリネットの音色においては.響きのある豊かな音が好ましいとされた。一方リコーダーでは.豊かな音が好ましいとはされたが.響きや柔らかさには適度の範囲があるようであった。(2)両者とも,残響時間が長いほど.減衰速度が遅いほど「よく響く」音と評価されていることを確認した。なお.プラスチック管は木管と比べて.響きすぎるきらいがあると言える。(3)音の豊かさは.倍音当りのdb低下量と関係し.この低下の割合が少ないと芯のある良い音になることが確認できた。ただ.豊かさは柔らかさにも影響されることも明らかとなった。すなわち.低次寄数倍音が多くても.高周波成分の多いかたい音であれば貧弱に聞こえる。(4)リードが吸水するに伴い.音色は一度好ましくない状態になるが.一定時間後には好ましい方向に変化する。しかしそれ以降.再び好ましくない音色へと緩やかに変化する。このような変化は.吸水による材の軟化を水分吸収による質量増加の効果が組み合わさつて生じると考えられる。(5)ティップへの吸水は.材の軟化を重量増加を生じさせ.音を低周波側に移動させる。ハートへの吸水は.高周波側に移動させるが.軟化によりリードがたわみ.リードの開きが狭くなることに起固する。
著者
宇佐美 雄司 大須賀 伸二
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

唾液によるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染の可能性を検証するために、HIV感染者から全唾液を採取しnested-PCR法を用いてHIVプロウイルスDNAの検出を試みた。さらに、感染性については唾液中の血液の混入を調べる必要があるが、ヘモグロビン量を測定することにより評価した。その結果、CD4陽性リンパ球数が500/μ1以上の患者の唾液中からはHIVプロウイルスDNAは検出されなかったが、ほぼAIDS関連症候群にあたるCD4陽性リンパ球数500/μ1未満の200/μ1以上の患者の唾液の57%からHIVプロウイルスDNAが検出された。AIDS状態に相当するCD4陽性リンパ球数が200/μ1未満の患者から採取した唾液からは検出されなかった。HIVプロウイルスDNAが検出された全ての唾液検体からは血液の混入が認められた。すなわち、唾液自体による感染の危険性は否定的であるが、微量ながら血液が混入している唾液によってはHIV感染が成立する可能性があると考えられた。さらに今後はより厳密な検討のために唾液中のHIV-RNAの測定も必要と思われた。次に唾液によるHIV感染の危険性を修飾すると考えられる口腔内の局所免疫能を検討するために、唾液中の分泌型免疫グロブリンAを定量した。その結果、CD4陽性リンパ球数が200/μ1未満の患者において唾液中の分泌型免疫グロブリンAの濃度が低下する傾向が示された。これはHIV関連口腔症状の発現にも関与していると推測された。
著者
日野 義之 二木 昭人 稲葉 高志 田川 正二郎 安田 正實
出版者
千葉大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

1.解析的研究実績いくつかの公理系をみたす相空間上の無限遅れをもつ関数微分方程式の研究はすでに多くなされている。しかしそれを実際にある種の積分微分方程式に応用しようとすると相空間の具体的選び方に難しさがある。この難しさをFavardのMini-Max理論を応用することにより、線形周期系に対しては有界な解が存在すれば周期解が存在することを示した。2.位相幾何的研究実績余次元1の【C^2】級葉層構造内の例外極小集合が区分的に線形なものに位相共役ならば、それに含まれる半真葉は、有限枚であることを示した。さらに例外極小集合の例をたくさん作ることに成功した。3.微分幾何的研究実績(1)compactな複素多様体Mの解析的自己同型群H(M)に対し、ある準同型f:H(M)→RがMの複素構造の特性類との関連、M上のk【a!¨】hler-Einsteinmetricの存在との関連を論じた。(2)Fano manifoldには標準的なmoment mapが存在することを証明し、次にこのmoment mapを使って作られるsymplectic quotientのRiui曲率を計算した。この計算の系として、sympletic quotientも再びFano manifoldとなることがわかった。
著者
森田 茂之 二木 昭人 藤原 大輔 藤田 隆夫 岡 睦雄 丹野 修吉
出版者
東京工業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

研究代表者、各研究分担者のそれぞれの分野における、当研究課題に関連する研究計画にもとづいて、研究を進めた。その結果、当初の目標を完全に遂行し、更にこれからの発展に関する展望を込めた、大きな成果をあげることができた。以下に3の概要を簡単に記述する。研究代表者(森田)は、ここ数年来研究している、向きづけ可能閉曲面をファイバ-とするファイバ-バンドル(曲面バンドル)の特性類の理論を更に発展させ、主要な応用として、リ-マン面のモジュライ空間のトポロジ-に関するいくつかの結果と、曲面の写像類群の構造と3次元多様体の不変量との深い関連を示す定理とを得た。特に写像類群の重要な部分群であるTorelli群と、ホモロジ-3球面のCasson不変量と関連を与える決定的結果を得た。次に、各研究分担者の成果のうちおもなものを列記する。丹野は三角関数の積を変数の巾ぐ割った形の関数の無限巳間での積分に関して新しい公式を求めた。またCR構造、接触構造についても、微分幾何的研究を発展させた。岡は非退化完全交差系に関する一連の研究を推し進め、自然な滑層分割の存在、生ゼ-タ関数を与える公式等を得た。藤田は弱異点のあるDel Pezzo多様体の分類をほぼ完成した。また一般ファイバ-がDel Pezzo多様体であるような偏極多様体の一次元変形栓に出現し得る特異ファイバ-の型を分類した。藤原はFeynmanの経路積分をソボレフ空間上の広義積分として収束を証明した。道具として停留位相法における誤差の大きさを、空間次元に無関係に評価出来るという新しい結果が使われる。また二木はKa^^¨hlerーEinstein計量の存在に関する二木不変量のeta不変量による解釈を与えた。
著者
小路田 泰直
出版者
奈良女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

近代国家において首都の役割は、世界市場の中にあって国民社会を枠づける国民文化を創造することであるが、後進国日本においては、東京がその役割を果たすことは容易なことではなかった。圧倒的な西洋文明の影響の中で、国民のアイデンティティーの核になる文化を創造することがいかに困難であったかは容易に想像できる。だから東京は単独で首都としての機能を果たすことはできなかった。京都という国枠文化の中心をもう一つつくりだし、京都との役割分担によって首都としての機能を果たそうとした。そこに東京と京都を二つの核とした、近代日本文化の構造が生まれた。その構造の中でいかなる近代日本文化が育まれていったのか、それを両都の象徴空間のあり方を手がかりに探ろうとしたのが、本年度の私の研究であった。廃仏〓釈の段階では、仏教伝来以後の日本文化はいったん否定されたが、その背景になった国学的文化観では、近代日本に必要な日本文化は生み出せなかった。伝来した外来文化を常に日本化して受け入れる、その文化受容の柔軟性にこそ日本文化の特質を見いだした、岡倉天心的文化観の確立が不可欠であった。そこで明治政府はその文化観を確立するために、帝国博物館をはじめ様々な象徴空間を造り上げていったが、その最大の象徴空間が、まさに長年にわたる外来文化の蓄積地京都であった。だから明治政府は、京都を日本文化の中心として演出することに全力をあげた。そしてその演出の帰結が、遷都1100年祭であった。以上が研究のおおよその結論である。
著者
塩見 一雄
出版者
東京水産大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

1.ヤツメウナギの体表粘液および卵巣中にタンパク毒を発見した。体表粘液および卵巣1gでそれぞれ体重20gのマウスを70匹、215-800匹殺し得ると見積られた。両毒は赤血球凝集活性、溶血活性を示さず、また卵巣毒には抗菌活性も認められなかった。2.体表粘液毒はきわめて不安定で精製には至らなかったが、50%グリセリンによる安定化効果が見いだされたので、今後の精製ならびに性状解明が期待される。3.卵巣毒はCM-celluloseクロマト、ヒドロキシアパタイトクロマトおよびFPLC(Mono S)により、natiive-PAGEで単一バンドを与える精製毒を得た。精製毒の毒性は強く、マウス静脈投与によるLD_<50>は33μg/kgと求められた。毒は低温貯蔵、pH変化に対して安定であるが加熱には不安定な塩基性タンパク質で、分子量は還元剤非存在下のSDS-PAGEにより40,000と測定された。還元剤存在下のSDS-PAGE分析により、毒はS-S結合を介した分子量30,000と10,000の2種類のサブユニットで構成されていることが判明した。アミノ酸組成では含硫アミノ酸の乏しいことが特徴であった。サブユニットの分離を達成できなかったためアミノ酸配列に関する知見は得られなかったが、今後に残された重要課題である。4.体表粘液毒は調べた54種魚類中9種に検出された。特に3種ウナギ目魚類(ウナギ、ヨーロッパウナギ、ハモ)の毒性が高かったが、クロマト挙動などから毒の性状はお互いに類似しており、いずれも分子量約400,000の酸性タンパク質と判断された。スフィンゴシンおよびガングリオシドにより毒性が阻害されることが注目された。5.卵巣毒は20種魚類について検索したが、すべて陰性であった。
著者
浪川 幸彦 土屋 昭博 砂田 利一 谷川 好男 北岡 良之 向井 茂
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

1.特別に意味にある双有理写像、有理写像の現われる空間として、代数曲線のモジュラス空間、および代数曲線上の主束のモジュラス空間の幾何学を展開した(浪川、向井)。これはその上のいわゆるヘッケ作用素の理論を展開する準備である。モジュラス空間はグラスマン多様体を用いて構成される。向井の方法はベクトル束のモジュラス空間を用い、浪川のそれは以下に述べるように量子力学的なものである。2.2次元場の量子論の方法を応用してモジュラス空間を作り、その構造を調べる理論を展開した(浪川、土屋、砂田)。これは微分幾何学でのドナルドソン理論に対応するものである。これからその上の保型式式の構造を調べる予定である(浪川、北岡、谷川)。またアフィン・リ-環の表現論、特にN=2の超共形場理論を用いることにより、脇本表現に関するフェイギン・フレンケルの理論を幾何学的に展開できることが分かり、目下その方向で研究を進めている(土屋)。3.森氏等との3次元特異点の研究そのものは、殆と進まなかったが、本年は国際数学者会議が京都であり、各国の数学者とその交流がてきた。特に他の研究グル-プの最新結果について直接情報を得ることができ、今後の展開のアイザアを得た。準備として、最近斎藤恭司氏(京都大学数理解析研究所)の原始積分の理論を同氏らと推進し始めている。これは同氏の理論を場の量子論的に見て、特異点は運動エネルギ-以外の高次ポテンシャルに由来するとみなすものである。
著者
伊東 弘文
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

第1に,統一後のドイツの財政・租税制度がどうなるかという点である。これはさしあたり,三つの局面に分けられる。ひとつは,ドイツ統合は制度面からみれば東ドイツの5州が西ドイツ11州からなる連邦共和国に加入する形をとったので,西ドイツの財政・租税制度が東ドイツに拡大して適用されるという局面である。西ドイツの財政・租税制度はドイツ特有の連邦主義の国家構造を支えるものであることが明らかにされた。ふたつめの局面は,それにもかかわらず,1990年8月31日の第2国家条約(統一条約)において東ドイツの5州に対して各種の例外措置が認められたことである。州相互間の水平均財政調整への不参加等がその例である。これらの例外措置は1994年をもって廃止されることになっている。三つ目の局面は,1991予算年度からどのような手直しが財政・租税面からおこなわれたかということである。これは現在進行中であるから今後も追う必要がある。第2に,地方財政・地方税制の次元でドイツ統合はいかに進行しているかを分析する点である。地方税制が安定し,これに支えられて地方財政(具体的には,毎年度の予算循環)が順調に経過するようになった時,東西ドイツ統合に伴う財政・租税問題が絡結する。なぜなら,財政の資源配分に係わる機能は,地方財政において主として実行されているからである。この見地から,東西ドイツの市町村を対比した財政構造と各種の財政指標の推移が分析された。さらに,地方税の基幹である営業税の改革の進行状況がサーウェイされた。
著者
青木 健一
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

遺伝子と文化の共進化の事例研究を3つ行った。1.成人乳糖分解者が多い人類集団で家畜の乳を飲む習慣が普及していることを説明するため、3つの仮説が提唱されている。乳糖分解者と飲乳者の共進化を集団遺伝学のモデルに基づいて理論的に研究し、それぞれの仮説の妥当性を検討した。まず、文化歴史的仮説あるいはカルシウム吸収仮説が成り立つためには、従来言われているよりはるかに強い自然淘汰が要求されることを示した。また、乳に対する好みの効果を検討し、逆原因仮説が成り立つためには乳糖分解者と分解不良者の間で好みに違いがあることが必要で、しかも文化伝達係数がある不等式を満足しなければならないことを示した。逆に、好みの違いが大きすぎると、前者2仮説が成り立ちにくいことも分かった。2.手話とは聾者の自然言語であり、文化伝達によって維持されている。一方、重度の幼児期失聴の約1/2が遺伝性であり、その約2/3が複数の単純劣性遺伝子によって引き起こされている。劣性遺伝の特徴として聾者が世代を隔てて出現する傾向にあるため、親から子への手話の伝達が阻害される。遺伝子と文化の相互作用の観点からこの問題を解析し、劣性遺伝子が2つ存在する場合、手話が失われないためには聾者同士の同類結婚が重要であることを示した。実際、日本や欧米で約90%の同類結婚率が報告されており、手話という特殊な文化現象の存続が聾に関する同類結婚によって可能になっていることが暗示された。さらに、聾学校などで家族以外の者から手話を学習する機会がある場合について検討を加えた。3.文化伝達能力と父親による子育てが共進化する可能性を理論的に検討した。有性一倍体モデルを完全に記述し、平衡点の同定と安定性解析を行った。その結果、母親からの文化伝達の効率がよく、父親からの文化伝達に補助的な意義しかない場合、文化伝達能力と父親による子育てがほぼ独立に進化することが分かった。一方、父親からの文化伝達が特に重要である場合には強い相互作用が見られ、文化伝達能力と父親による子育ての共進化が促進される。また、より現実的な二倍体モデルを部分的に解析したが、本質的な結果において一倍体モデルと一致した。さらに、父性信頼度の低下による効果も検討した。
著者
内藤 芳篤 加藤 克知 六反田 篤 中谷 昭二 分部 哲秋 松下 孝幸
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

1.研究方法および資料九州から出土した縄文人骨について、マルチンの方法により人類学的計測および観察を行い、時代差とともに、同じ時代でも遺跡の立地条件による差異について比較検討した。資料は、長崎大学に保管されている人骨の他に、九州大学,久留米大学,鹿児島大学および京都大学所蔵の人骨で、縄文時代早期21体,前期56体,後期71体,晩期3体,合計151体である。2.人骨の形質(1)脳頭蓋では、洞穴出土の早期人は長頭(頭長幅示数74.74),前期人は中頭(77.29),後期人は短頭(82.24)であるが、貝塚出土の人骨は、いずれも中頭(76.82)に属し、全般に長頭に傾いていた。(2)顔面頭蓋では、洞穴出土の前期人(上顔示数59.13),後期人(59.83)ともに低顔性が強く、貝塚出土の前期人(64.00),後期人(63.38)はやや高顔であった。すなわち顔面については、時代差よりも山間部の洞穴人と海岸部の貝塚人との差が認められた。(3)四肢骨については、早期・前期人は後期・晩期人に比して、細くて,周径や長厚示数が小さく、また洞穴人は貝塚人に比して時代差と同じように細く、きゃしゃであった。しかし長径については、必ずしも周径にみられたような傾向は認め得なかった。(4)推定身長をピアソンの方法式で算出すると、洞穴人は、早期(男性167.22cm),前期(162.82cm),後期(157.95cm),貝塚人は前期(162.48cm),後期(161.17cm)で、縄文人としてはやや高身長であった。3.今後の研究方針九州縄文人骨の収集につとめ、時代差,洞穴人と貝塚人との差の他に、地域差の有無について検討したい。
著者
岩佐 峰雄 大谷 勲
出版者
名古屋市立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

各種動物唾液および植物抽出液のアミラーゼ活性を測定すると、サルおよび噛歯類動物唾液でヒト唾液に匹敵する活性が、植物抽出液ではわずかな活性が認められた。動物唾液斑および植物抽出液斑について、従来からのアミラーゼ活性検出法であるヨウ素-デンプン反応およびブルースターチ法を実施してみると、ヒト、サル、噛歯類唾液斑は両検査法で陽性を呈し、植物抽出液は、ヨウ素-デンプン反応のみで陽性を呈した。ヒト顎下腺から精製したアミラーゼを家兎に免疫して得た抗アミラーゼ血清をヒト血清と精漿で吸収すると、唾液とのみ反応する唾液特異的抗アミラーゼ血清が得られた。この抗血清はヒト、ニホンザル、カニクイザル唾液と反応し、他の動物唾液や植物抽出液とは反応しなかった。この抗血清をニホンザル唾液で吸収すると、ヒト唾液特異的抗アミラーゼ血清が得られた。唾液特異的抗アミラーゼ血清(ヒト、ニホンザル、カニクイザル唾液と反応するもの)を用いて、希釈唾液および陳旧唾液斑の抽出液を対向流免疫電気泳動法で検査すると、128倍希釈唾液、3週間経過した唾液斑の抽出液で沈降線が認められた。一方、ヒト唾液特異的抗アミラーゼ血清(ヒト唾液と反応し、ニホンザル、カニクイザル唾液と反応しないもの)を用いて同様に検査すると、8倍希釈唾液、1週間経過した唾液斑で沈降線が認められた。以上の成績から、アミラーゼはヒト唾液のみならず動物唾液や植物にも広く分布し、従来からのアミラーゼ活性検出法によってヒト唾液を特異的に検出することは困難である。一方、ヒト唾液特異的抗アミラーゼ血清はヒト唾液とよく反応し、サルも含めた動物唾液や植物抽出液とは反応しないことから、唾液検査において極めて有用であると考えられた。
著者
加瀬 友喜 近藤 康生
出版者
国立科学博物館
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

1.“生きている化石"モクレンタマガイの解剖学的研究を行った結果、この巻貝は原始的な神経系をもち、多くの点で淡水性のリンゴガイ科の巻貝に近縁であることが明らかとなった。また、モクレンタマガイは肉食性ではなく、植物食であったことが明らかとなった。この発見により、タマガイ類は白亜紀中頃に出現し、従来三畳紀から知られているモクレンタマガイ類とは類縁が薄く、しかもそれらは他の貝類に穿孔して捕食しなかったと考えられる。その結果、タマガイ類とその捕食痕の化石記録は調和的となり、従来のタマガイ類の捕食の起源についての2説のうち、白亜紀中期起源説が正しいことがわかった。2.タマガイ類の捕食痕を調査した結果、それらの中には他の原因で似たような穴ができることがわかった。1つはカサガイ類による棲い痕で、白亜紀のアンモナイトの殼表面に多く見つかった。これらは小型のカサガイ類が殼表面の1ヶ所に定住する為、その部分が殼形と同じ形に凹むためにできたと思われる。穴はタマガイ類の不完全な捕食痕のようにパラボラ形で中央がやや凸となるが、形は大きくやや不規則な点などで区別ができる。従来、モササウルスの噛み痕といわれているプラセンチセラス属アンモナイトの穴も同じ起源と考えられる。その他、無生物的にタマガイ類の捕食痕に似た穴ができることもわかった。3.巻貝各種のタマガイ類の捕食痕を調査した結果、殼形により捕食の様式が異なる1例を見出した。これは巻貝の殼形態が長く伸長することが捕食から身を守る適応形態となっていることである。つまり、殼の伸長度と捕食痕の数の頻度を調べた結果、殼形が長くなると捕食痕数も増加することがわかった。従来捕食痕をもつ個体の頻度で捕食圧を推定した研究例は再評価する必要がでてきた。
著者
大木 新造 松村 敏
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

近年ようやく国内における近代都市比較研究が行なわれるようになったが, その成果はとぼしい. よって本研究は, 近代都市比較研究の基盤整備を目的として, 東京・大阪・京都の三都比較に関する文献の収集と検討を行なった. 本年度研究の実施計画:近代都市研究及び都市に関する新聞記事・雑誌記事を中心に渉猟し, 三都に関するものを収集し, その内容にしたがって分類した.本年度研究の内容:収集した文献は, 東京・大阪・京都の三都を比較したものを中心に, 東京・大阪・京都, 京都・東京の二都を比較したものにおよび, 全部で約350件に及んだ. これらについて分類し, 内容の分析を行なった. それによれば, 近代に入ってからの三都比較は, 大正期前・中半にピークを迎え, 以後, 京都が比較の対象となることは少なくなり, もっぱら東京・大阪の二都比較が行なわれることとなる. 近世においては, 江戸・京都の二都比較が中心で, それも京都に対する江戸からの批判がもっぱらであったが, 近代, それも大正期をすぎたあたりから, 大阪から東京への批判が多くなる. 戦後は, 東京に対する批判は次第に高まる傾向をみせ, 高度成長期をすぎたころには, 東京を「敵視」するものまで登場するようになっている. この背景には, 近世, 近代, 現代(戦後)へと三都の, 国内での位置・関係の変化があったことを指摘できる. つまり, 近世における江戸の成長, 戦後における東京の突出という現象が, それを端的に示していよう.また, 三都の比較は, 政治, 経済, 風俗, 生活等の各分野におよび, 日本分化・社会の多様性を示すものとなっている.本年度の研究は新聞・雑誌・週刊誌の記事までも視野に入れ, 厳密な意味で比較とは言えないものまで広く収集した.
著者
湊 耕一 小倉 直美
出版者
日本大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

近年、高齢者医療に対する関心が高まり、老化に伴う生理的変化や老化機構の研究が進展している。一方、マクロファージは、免疫系において重要な細胞であると共に、collagenase等も産生することから細胞外基質代謝にも重要な働きをしている。歯科領域でも高齢者の炎症の慢性化や免疫能の低下、創傷治癒遅延が問題となっており、老化に伴うマクロファージの機能的変化の解明が求められている。本研究では、老化促進マウス(SAM)を実験モデルに、腹腔マクロファージ(Mφ)にPorphyromonas gingivalis(P. g. )LPSを作用させて炎症性因子の産生を測定した。〈方法〉腹腔に誘導物質を接種後、腹腔浸出細胞を回収してplate中に蒔き、2時間培養後付着した細胞をMφとした。このMφにP. g. LPSを作用させて24時間後、培養液中のPGE_2をRIA kitにて、IL-1β及びIL-6をELISA法にて測定した。〈結果及び考察〉Mφの回収率は誘導物質投与後4日目が最も高く、誘導物質にスターチ、グリコーゲン、プロテオースペプトンを用いたところ、Mφ回収率はプロテオースペプトンが高値を示した。SAMP1(老化促進)及びSAMR1(control)の3ヶ月齢、6ヶ月齢間でMφ回収率に顕著な差はみられなかった。次に、Mφ培養液中のPGE2、IL-1β及びIL-6を測定したとこと、LPSを作用した系、作用しない系とも、SAMP1とR1間で、また各月齢群間で有意な差は認められなかった。これは、老化モデルには6ヶ月齢では十分でないこと、各因子産生量の個体差が大きく各群の例数が少ないことなどが考えられる。今後、各群の例数を増やすこと、12ヶ月齢までの動物群について実験する必要がある。また、Mφのcytokine産生には細胞外基質に接着することが重要であるとが報告されたことから、collagenやfibronectinなど細胞外基質をcoatingしたplateにMφを蒔き、各炎症性因子の産生量を測定することも必要であろう。
著者
丸山 文裕 馬越 徹 (1985) 馬越 徹 竹花 誠児 JOE Hicks 山崎 博敏 山下 彰一 HICKS JOE E.
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1985

本研究は、ドーア(Ronald P.Dore)教授の「学歴病(Diploma Disease)」仮説を、アジアの現状に即して検討することであった。すなわち、学歴獲得競争は後発工業国ほど激しく、それゆえに学校教育は本来の教育機能よりも選抜機能を強め、一種の病的症状を呈するという考え方である。われわれは東アジア(中国,韓国),東南アジア(フィリピン,インドネシア,マレーシア,タイ)の各国を対象に検討を重ね、次のような結論を得た。1.アジア各国では、教育機会は拡大しているにもかかわらず、なおそれを上回る上級学校進学要求が根強く存在している。特に大学への進学要求はますます高まっており、競争は激しさを増している。このため、学校教育のすべての段階で「試験」のための教育という圧力にさらされている。」2,国家・社会は、その経済発展政策において、大学卒のマンパワーをますます必要としており、高等教育の拡大に力を入れているが、雇用市場の方は、大卒者を十分に吸収できる条件が必ずしも整っているとはいえない。そのため、大卒失業者が出ている国もある。また、大学教育の内容(カリキュラム)が、社会の要求に合わず、大学と社会の間に不適合現象がみられることが多い。3.いわゆる「学歴病」の克服に、明確な処方箋を発見した国は今のところ見当らないが、上記のような問題を改善するために、各国とも、1)高等教育制度の多様化、2)教育内容・教授法の改革、3)教員のスタッフ・デベロップメントの強化、4)入試制度の改善、5)高等教育財源の増大、などに懸命に取組んでいる。
著者
湯沢 質幸
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

1 日本漢字音資料, 取り分け中近世漢字音資料として有用なものを追求すべく, 京都泉涌寺を初めとして東北大学, 京都大学, 国立国会図書館等を巡り, 漢字音文献の調査を行った.2 各調査箇所において, 本研究に寄与する文献のリストアップ及び一部収集をした. 泉涌寺では特に執筆から,宋音(資料)に係わる実際の読経音や経文に付された各種記号の指示内容についての貴重な情報を直接得ることができた.3 本研究開始以前に収集したものも含め, 資料の分析を日本漢字音史の展開を脳裏に置きながら進めた. それとともに, 分析結果のコンピュータ処理を図るため付属部品を購入し, 必要な情報の入力を行いつつ所期の目的に沿って従来の研究を踏まえながら中近世漢字音, そしてその一構成要素であるところの泉涌寺宋音について考察を試みた.4 考察の過程で, 中近世漢字音なかんずく泉涌寺宋音の特徴の把握や歴史的な位置づけをし, さらにそれを通じて中近世日本語の音韻状態を明らかにするためには, 上代以降の日本漢字音史の解明が必要であることが明白となった. そこで, 中近世漢字音・宋音の研究を旨としながらも, 上代中古の漢字音すなわち呉音漢音の研究も行った.5 上記4までの研究の結果, 当初の目的を達成することができた. その成果の一部は, 62年度中に発刊予定の筑波大学の紀要で発表する. なお, 現在, その他の成果の発表を行うべく準備を進めている.