著者
橘 正芳
出版者
明治鍼灸大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

ラットを用いて不快ストレスとして尾に電撃ショックを、快ストレスとして頭頂部に温灸刺激を与えた場合の鼻粘膜の杯細胞の分泌機能を組織化学的に検討した。体重約200グラムのWistar系雄性ラットを3群に分けた。第一群には、拘束ゲ-ジ内に入れ尾に15ボルト(最大3.4アンペア)の直流を5秒間与え、30秒休止後再び与える周期を60分間続けた。第二群は麻酔下に両側耳介を結ぶ線と正中線との交点に、カマヤミニを用い5壮温灸刺激を与えた。第三群は無処置対照群とした。各群とも断頭後、鼻中隔を摘出し10%緩衝ホルマリンにて24時間浸漬固定したのち、30分水洗し実体顕微鏡下に鼻粘膜を剥離した。これを3%酢酸水に5分間、ついで1%アルシアン・ブル-(pH2.5)に10分間浸漬した。さらに3%酢酸水に5分間浸漬し、5分間水洗したのち実体顕微鏡下に鼻尖部から後方6〜8mm部の鼻粘膜上皮を剥離した。これをスライドグラス上で伸展しグリセリンに封入した。これを光学顕微鏡にて400倍で観察し、画像計測システムを用いてアルシアン・ブル-に染まった部分の面積率を産出した。その結果アルシアン・ブル-に染まった部分、すなわち杯細胞内の多糖類が、電撃ショックにより有意に増加し、温灸刺激群では逆に有意に低下することが明らかとなった。本研究によりストレスは上気道の分泌機能に影響を与える。しかもその種類、すなわち快ストレスであるか不快ストレスかにより、反対方向の影響を与えることが明らかとなった。これらは恐らく自律神経系や、内分泌を介して起こる現象であり基礎医学的に興味深いが、臨床的にも温灸刺激が不快ストレスの悪影響を取り除く可能性を示唆しており興味深い。
著者
武田 誠郎 田邉 修 有木 政博 碓井 裕史
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

ヒト赤血球に、当教室で新たに見い出したタイプ2Aプロテインホスファターゼはα_1β_1δ_1のサブユニット構造を持ち、α(34kDa)が触媒サブユニット、β(63kDa)とδ(74kDa)が調節サブユニットである。本年度は74kDaδサブユニットの機能解析のための基礎的実験を重点的に行った。純化したα_1β_1δ_1からδとα_1β_1をヘパリン・セファローズカラムを用いて分離した。δとα_1β_1を0.5M NaCl存在下で混合し、α_1β_1δ_1とα_1β_1を完全に分離し得る条件でスーパーデラックス200のゲル濾過を行うと、一部α_1β_1δ_1が再構成された。一方、δはA-キナーゼまたはC-キナーゼでリン酸化されることを当教室で明らかにしているので、δとα_1β_1の結合に及ぼすδのリン酸化の影響を見た。その結果、A-キナーゼによるδのリン酸化が、δのα_1β_1への結合を促進することを見い出した。現在、再構成されたα_1β_1δ_1の性質を詳細に調べている。他方、δの組織分布やcDNAクローニングのために、δに対する抗体を作製した。上述の方法で単離したδをリビ・アジュバンドシステムを用いてマウスの腹腔に投与し、δに特異的な抗体を得た。この抗体はラットの70〜72kDaのタンパク質と特異的に反応する。ウエスタンブロット法で、これらのタンパク質の組織、細胞内分布を解析中である。一方、この抗体を用いてヒト骨髄cDNAライブラリーからこの抗体と反応するタンパク部分に対応するDNA断片を含むクローンをスクリーニング中である。δのcDNAのクローニングによる一次構造の決定、δのcDNAをプローブとしたノーザンブロット法によるδのmRNAの組織分布、δとα_1β_1の解離、再構成によるδのリン酸化の意義を明らかにし、δの機能を解明する。
著者
竹井 瑤子 井奥 加奈
出版者
大阪教育大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

包装による食品の劣化防止法は、近年の工業技術の進展による多機能を有する包装資材の開発により利点が多い重要なものとなった。反面、これらプラスチック類のごみ問題も放置できないものとなった。そこで、食品に求められる包装材の機能を食品学の立場から見直し、食品の品質低下を抑制できる最小限の機能を持ち再生しやすい包装資材を検討する基礎的データを得る事を目的とした。包装により遮断可能な劣化要因のうち透明プラスチックフィルムが遮断しにくい光に着目し、劣化作用が大きい紫外線が食品の品質に及ぼす影響を検討した。脂質モデルとしてリノール酸メチルを用い、3種の波長の紫外線を照射し生成した過酸化物を高速液体クロマトグラフィーで分離、定量した。その結果、波長が短い程、過酸化物の生成も分解も速いことが分かった。次に、β-カロチン、ヘモグロビン、クルクミン、インジゴカ-ミンに対し脂質と同様の紫外線照射実験を行い退色度を測定したところ、カレ-粉の色素クルクミンは365nmの紫外線でも退色がみられ、波長が短い程退色が激しかった。そこで、クルクミンの退色に対し、365nmの紫外線をカットする機能があるフィルムの防止効果を検討した。その結果、365nmの紫外線に対する退色防止効果が明かとなったが、蛍光灯のもとでは、効果が見られなかった。更に、実際の食品として匂いが大切なすりごまを取り上げ、4種のフィルムで包装して1カ月間保存し、ガスクロマトグラフィーにより香気成分を分析し、含有脂質を超音波をかけて抽出後その過酸化物価を測定した。アルミラミネートフィルムでは品質保持効果が最も高く、365nmの紫外線カットフィルムでは異臭成分の生成防止効果が見られ、酸素遮断フィルムでは脂質酸化防止効果が見られた。
著者
大道 等
出版者
国際武道大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

1:歩行という系統発生的な運動学習を経る動作様式においても、技術差のあることた示唆された。それは「歩行指導」の存在することから傍証される。これは歩行の運動失調症への機能回復訓練に示唆となる。2:近年のフィットネス・スポーツブームの背景もあって、「ウォーキングなるフィットネス運動」が成立した。ジョッギングよりもブームの期間が長く、そこではエステ志向も散見する。前項1の意味においても、ウォーキング動作は体力科学的に正しい歩き方の存在が意識化されている。運動の量と動作の質、つまり生理強度と力学的機序が明らかにされねばならず、本研究はその両面から明らかにし得た。3:歩行を健康科学の観点からみるにせよ、教育的接近法によって解釈するにせよ、そこでは「フォーム」の経時的変化をパターンとしてみる必要がある。そのためには、ビデオレコーダー、使い捨てフィルム、デジタル・カメラ等が有効であり、さらにOA機器の普及によるファクシミリの広い普及により、指導者と歩行者の伝達が極めて容易になった。これらの映像器械の民主化はバイオメカニクス研究の営みを大きく変えた。そして現に変えつつある。連続分解写真に源がある。4:当初、筆者らが考察し、ソニーKKから開発販売された、動点検出システムは15年を経て、その科学的社会的役割が終焉したことが明らかになった。それは、ビデオプリンターとファックスの価格低下が、当システムの原理性を安価性と物量において敗北したのである。5:ビデオプリンター等を用いて、歩行・走行・投・打・蹴・舞・落などのスキル向上のカルテを作成した。これらは医学でいうところのカルテとその存在価値は全く同じである。この映像のデータバンクの整備を志向するさきがけとなる役割を本研究は担った。6:体育指導法における動作フィードバックの必要性が強調された。
著者
加藤 茂明
出版者
東京農業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

ステロイド・甲状腺ホルモン、ビタミンA・D核内受容体群は、一つの遺伝子スーパーファミリーを形成するため、互いに構造・機能が類似している。これら核内受容体群は、そのリガンドの知られたものの他に、リガンド不明のいわゆるオ-ファン受容体の存在が知られている。オ-ファン受容体の中には、未だ同定されていない脂溶性生理活性物質がリガンドとして働く可能性が考えられており、これら新規脂溶性生理活性物質が同定されると、オ-ファン受容体を介する新たな情報伝達機構が明らかにされるばかりでなく、既存の情報伝達系への関与が明確になると考えられている。本研究では、特に生理活性体の他、代謝誘導体の多いビタミンA、Dに着目し、これら既知の核内受容体cDNAを用い、関連受容体の検索を、ラット各臓器由来のcDNAライブラリーより検索した。その結果、数種のオ-ファン受容体を見出したほか、新たなビタミンD受容体アイソフォーム(VDR1)を見出した。VDR1は野性型(VDR0)に対し、その機能を負に制御するdominat negative型のアイソフォームであることが明らかになった。更にラットVDR遺伝子構造を解析した結果VDR1は、イントロン8がalternative splicingの際、残された(intron retentin)結果生じるアイソフォームであることが証明できた。現在までに、VDRにはアイソフォームの報告はなく、ビタミンDに多くの活性体が存在する事を考えあわせると、VDR1は、これらの一つをリガンドとする可能性が予想された。また同様の手法を用い、今回取得されたオ-ファン受容体の性状を解析している。
著者
加藤 茂明
出版者
東京農業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

ステロイド、甲状腺、ビタミンA,Dなどの脂溶性生理活性物質をリガントとする核内レセプターは、ひとつの遺伝子スーパーファミリーを形成する。核内レセプターはリガンド依存性転写制御因子であることから、リガンドの信号を遺伝子情報に伝達する最も重要な分子である。したがって、新たな核内レセプターの同定や、未知リガンドの同定は、直ちに新しい情報伝達系の発見につながるため、新規核内レセプターやそのリガンドの検索は極めて有意義であると考えられる。我々は核内レセプタースーパーファミリー内で最も相同性の高い領域をプローブとして新規核内レセプターを種々の臓器由来のcDNAライブラリーを検索し、未だに報告のないタイプのビタミンDレセプターの同定に成功した。特に、ビタミンDレセプターの異なる分子種(VDRアイソフォーム)を同定した。そこで本研究では、VDRアイソフォームのビタミンD情報伝達機構における機能およびそのリガンドの同定に焦点を絞り、研究を進めた。このVDRアイソフォームは今まで知られていたVDR遺伝子のエキソン8と9の間のイントロンがそのままエキソンとして用いられているものであることを、既にVDRcDNA,VDRゲノム構造の解析から明らかにしている。また、このイントロンの挿入によりVDRアイソフォームタンパクは既知VDRのC末端側が欠落することを明らかにした。さらに、このVDRアイソフォームを動物細胞内発現ベクターに組み込み、既に我々が報告しているようなin vitro解析により、転写促進能を調べたところ、dominant negative typeのアイソフォームであることを明らかにした。また、大腸菌内発現にも組み込み、大量合成を行ない、各種ビタミンD類縁体との結合能を調べている。また、このアイソフォーム特異的なcDNAを用い、Northern blot解析を行ない。このアイソフォームmRNAの発現が数多くのビタミンD標的器官でみられた。
著者
堀 忠雄 山上 精次
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

事務的で魅力のある課題の遂行にも、ウルトラディアン・リズムの影響が表われるかを実験的に検討した。課題は言語情報処理に関して、ワープロ入力(邦文研究論文原稿の入力)を、空間情報処理に関しては、ファミコン(ゲーム名:ゼビウス)ゲームを採用した。男子大学生及び大学院生20名を、ワープロ課題10名、ファミコン課題10名割付け、朝の8時から夕方の18時まで10時間、15分毎に5分間の課題遂行とその前後に各1分ずつ閉眼安静を課した。残る8分間は被験者は食事・用便・休憩・ジクソウゲーム等の自由行動が許された。実験期間は恒常環境室を閉鎖し、孤立条件で実施した。行動観察とともに脳波・眼球運動・心電図をポリグラフィ記録し、脳波については課題中とその前後の安静期について、1分間の記録をスペクトル分析し、脳波の左右差指数とコヒーレンスを計算した。ウルトラディアン周期変動成分の同定は、最大エントロピー法(MEM)によった。ワープロ入力課題では、作業速度と誤りを指標として時系列分析した。成績曲線には'ゆらぎ'は認められるが、MEMスペクトルは平坦なパタンを示し、ランダム変動であることがわかった。しかし、原稿内容に自動変換で正しく入力できる部分と自動変換が誤りの発生因となる部分もあり、作業成績の適正評価という点に問題がある。従って、実務作業にはウルトラディアン変動はないと言い切るのは早計のようである。この点については、今後、指標の洗練化を試みる。ファミコンの成績は得点数とクリア場面数、使用機数を重み関数として時系列を作った。最も明確にMEMスペクトルにピークがみられたのは、単純なゲーム得点で約90分周期のウルトラディアン変動が認められた。脳波はゲーム中に右半球活性の状態を示しながらも、約100分周期の変動を示した。コヒーレンスに全く周期変動がみられないのは、単純作業と著しく異なる。
著者
高橋 政代 本田 孔士 柏井 聡
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

我々が、過去にin vivoで報告した角膜上皮の細胞骨格蛋白fodrinの創傷治癒過程における分布変化をin vitroにおいて再現し、さらに培養細胞を用いてfodrinの分布変化の機構を検討した。牛眼の角膜上皮初代培養細胞を使って以下の結果を得た。confluentな状態になり細胞間の結合装置も完成した状態の角膜上皮初代培養細胞において、一部にabrationを行うとその周囲数層の細胞で受傷10分後にはfodrinの分布変化を認めた。すなわち受傷10分後には細胞膜裏打ち蛋白であるfodirnが細胞壁より離れて細胞質中にび慢性に分布するようになった。また、細胞内のプロテインキナーゼCを活性化するphorbol esterを培養液中に添加すると10分後にはやはりfodrinは分布変化をおこす。一方、細胞内カルシウム濃度を上昇させるカルシウムイオノフォアを添加した場合は分布変化が起こらなかった。以上の結果より、in vivoにおいて創傷治癒過程でおこる細胞骨格蛋白の分布変化がin vitroにおいても起こること、またその変化は細胞内カルシウムの上昇を介したものではなく、細胞内プロテインキナーゼCの活性化によって起こる可能性が示唆された。今後、細胞骨格蛋白の分布変化が細胞間及び細胞基質間の接着にどのように影響しているのか検討を進める。また、網膜の機能を保つために重要な役割を果たしている網膜色素上皮細胞等においても同様の変化が起こるか検索していく。
著者
西本 豊弘
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

1989年に大分県下郡桑苗遺跡出土の資料を分析して、弥生時代にブタが飼育されていたことを明らかにした。その後、唐津市菜畑遺跡・奈良県唐古遺跡・愛知県朝日遺跡などで、ブタが多量に出土していることが分かった。イノシシかブタかの区別は、骨格の家畜化現象を把握することによって行う。ブタはイノシシよりも頭部が短くなるが、その結果として吻部は短くまた幅が広くなる。後頭部も短く丸く高くなる。歯も、頭部の短縮化による影響で、丸みを持つものが現れる。そして、上・下顎骨に歯周症(歯槽濃漏)の疾患を持つものが現れる。さらに、年齢構成では、若い個体が多くなる。このような家畜化に伴う変化の把握は、肉眼的観察によるものであった。これは、主観的要素が入るので、計測値や他の分析で家畜化を証明する必要があった。そこで本研究で、計測値によるブタとイノシシの違いを明らかにすることを試みた。主に愛知県朝日遺跡の動物遺体を用いて、現在分析中である。多くの部位で検討しているが、現在の段階では、第1頸推の形状でイノシシとブタを区分できることが明らかとなった。
著者
松尾 秀邦 高橋 治郎 鹿島 愛彦
出版者
愛媛大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

本研究によって新知見とすべき事項は下記の五項目である.1.岩湧寺植物群(Iwakiji Flora):伊藤大一(1986)により発見された. この化石植物群は白亜紀後期の植物群としては珍しい落葉樹林相を示す.2.Archaeojostera属について:郡場・三木(1931, 1958)によって新属とされた被子植物化石である. 一部の人々によって生痕化石説が唱えられているが, この化石の大半は植物化石である. しかし, 一部には生痕化石の疑いの残る部分もあって今後の研究が望まれる化石の一つである.3.鮮新世火成活動による変質:この現象は和泉砂岩層群の分布域の西端部で観察される. 鮮新世火成活動(主に含黒雲母安土岩, 石英安山岩など)によって, この地層の基部に近かい礫岩及び砂岩層が侵され, その硬度を増し, 割栗石その他の石材として採石されている.4.和泉砂岩層群の西端域について:この層群の地層の分布の西端部は愛媛県長浜町青島とされているが, その分布は対岸の大分県臼杵市近効大野川流域まで拡がる可能性がある. 化石こそ少ないが, 岩相の酷似が極め手となる. 今後の研究が望まれる.5.和泉砂岩層群の堆積構造について:これらの地層が堆積した後, 中央構造線を形成した地殻運動によって, 東西の曳きずりが働き, 南北性断層が発達している. これらの断層に区切られた6区の地域では, それぞれ東に落ちる向斜構造が認められる. この構造については, 和泉山脈西端部において松尾(1949)が始めて提唱し, それ以来幾多の研究者によって解明が試みられているが, 未だに説明できない構造の一つである.
著者
稙田 太郎 江口 洋子
出版者
東京女子医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

インスリン自己免疫症候群におけるインスリン自己抗体の産生機序は現在なお不明である。我々はこの一端を明らかにするために、先ず本症候群の患者血中に抗原となりうる異常インスリンが存在するか否かについて、高速液体クロマトグラフィ-(HPLC)を用いて分析した。本症候群6人と対照としてインスリン治療により高抗体を獲得した糖尿病患者4人および高インスリン血症患者2人の各血中インスリンを分析した結果、インスリン自己免疫症候群に特異的といえる異常インスリンの存在は証明しえなかった。ただし、この研究の副所見として検出されたインスリン様免疫活性物質の同定が新たな課題となった。次に、本症候群の発症誘因として注目されるSH基薬剤のインスリンに対する影響を検討した。高濃度(88×10^<-3>M)methimazoleとヒトインスリンを孵置した後HPLCにて検討すると、インスリンの溶出特性には全く変化を認めなかった。またSH化合物(methimazole,D-penicillamine,tiopron:n,capto-pril--各1mM)中D-penicillamineを除いては^<125>I-insulinの受容体結合能に障害を与えなかった。一方、治療レベルの上記SH化合物はインスリン受容体の側に対しても明らかな影響を与えなかった。したがって従来推論された如く、SH基薬剤によるインスリン構造の変化に基づく抗体産生機序は否定的であると考えられる。さらに、患者個体の疾患感受性素因に関して、HLA抗原タイプを分析した。これまでHLAタイプが判明している本邦本症候群26症例において、A_<11>、Bw62、Cw4、DR4の出現頻度が一般人口のそれより有意に高率であることが明らかになった。したがって、本邦におけるインスリン自己免疫症候群は特定の疾患感受性を有する個体に発症することが強く示唆される。
著者
黒崎 直 岩本 正二
出版者
奈良国立文化財研究所
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

1.宮殿・宮衛遺跡や寺院跡の発掘調査で確認できる「造営尺」には、高麗尺(1尺=約35.6cm)と唐尺(1尺=約29.8cm)がある。前者は飛鳥寺や法隆寺の造営に使われ、後者は7世紀中ごろの前期難波宮の造営に使われている。高麗尺は後に「大尺」、唐尺は「小尺」と整理され、「大尺」は主として「測地尺」として使われている。藤原・平城京の条坊は、この「大尺」による。ただし7世紀前半に、再び「尺」の整理が行なわれ、地割り・建築遺構とも、1尺=約29.8cmが基準となっていく。2.出土品としての「物差」は、平城宮跡出土のそれは1寸が2.95cm、平安京跡では5寸が15.3cmで、1尺に換算するとそれぞれ29.5と30.6cmとなる。時代が下がるほど、基準尺が伸びる傾向がここでも裏ずけられる。3.木製容器(主として曲げ物)や土器から当時の基準の容量を復原しようとした。曲げ物の場合、直径15cm前後、高さ6cmのものが主流であることが判明したが、これをもって、基準容量とすることはできない。「令制」にみえる銅製升の実物が発掘調査で発見されることを期待したい。4.鉄製釘の寸法と重量を計測して、「鉄」についての実際の重量を考察し、あわせて鉄釘の名称を復原した。この作業に関連して、『延喜木工寮式』にみえる「打合釘・平釘」の鉄使用料の記載に齟齬を認めた。5.なお、重量復原の手がかりとして、「分銅」や「おもり」が出土しているが、最近平城京跡で発掘された「分銅型銅製品」は重さ329gで、ほぼ8両=半両に相当する。貴重な考古資料として注目できる。
著者
大宮 東生 古田 一徳 泉家 久直 高橋 毅 吉田 宗紀 柿田 章
出版者
北里大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

[目的・対象・方法]肝・胆道癌の根治性を高めるために肝膵同時切除の必要性が唱えられ、臨床例も報告されているが、特に術後早期の病態に対する研究は少ない。今回我々は、種雑成犬を用い、70%肝切除に種々の割合で膵切除を加える実験を行い、肝膵同時大量切除時の手術侵襲の評価と肝再生における肝膵相関を知る事を目的として術後早期からの種々の検討を行った。[結果](1)70%肝切除のみ(I群)では生存率は100%であったが、66.7%膵切除を加える(II群)と66.7%、約80%膵切除を加える(III群)と75%と生存率が低下した。死亡原因としては肝不全が重要で、肝膵同時切除後に肝不全への移行を知るデータとしては、術後早期の血小板減少や、プロトロンビン時間・ヘパプラスチンテスト値の延長と回復遷延が参考となると思われた。また術後早期の血清インスリン値の低下・回復遅延や、血清グルカゴン値の増加・回復遅延及び血糖値の異常上昇も肝不全移行を示唆すると思われる。(2)生存例の肝再生率は、I群:82.3%、II群:96.3%、III群:65.2%であった。再生肝の肝機能を見てみると3群間に有意な差は認められず、また4週経過後の膵内分泌能も3群間に差は認められなかった。膵内分泌機能に関しては4週以上の経過観察が必要と思われる。[考察]今後、さらに下記の点を早急に検討し、肝膵同時大量切除時の病態生理を明らかにし、臨床応用できるよう研鑚努力する予定である。(1)手術侵襲をより正確に把握するために、侵襲度の指標化を行いたい。(例えばTNFや、osmolality gapなど)(2)切除肝、切除膵及び再生肝・再生膵の形態学的検討と、膵ホルモンを含む肝再生因子の分析から、肝膵同時切除が肝再生・膵再生にたいして及ぼす影響と、術後早期に手術侵襲として及ぼす影響を検討する。
著者
冨永 典子 島田 淳子
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

仙草は台湾に自生するシソ科の一年生草本で、乾燥品を加熱抽出した液にデンプンを加えて冷却すると独特の風味とテクスチャ-を持つゼリ-となる。台湾では夏期のデザ-トとしてシロップをかけて食され、夏バテ、睡眠不足や腎臓疾患に有効であると民間で云われている。しかし、その調製法は口伝えによっており、調製条件とゲル化特性との関連は明確にはとらえられていない。そこで、ゲル化の条件を検討し、ゼリ-の粘弾性的特徴を明かにすることを目的とした。仙草は乾燥品を台湾から直接入手し、20℃と60%RHで貯蔵し、ゲル化能力がほとんどみられなかった茎を取り除き、一般成分(水分,粗蛋白質粗脂肪、粗灰分,炭水化物)を測定した。葉1,5,10%,K_2CO_30.1,0.3,0.5,0.7%、抽出時間3,6,9時間の条件で加熱 溶出固形分量を経時的に求め検討し、また葉1.5%、K_2CO_30.1,0.5%、3時間抽出液に1.5%サツマイモデンプン,トウモロコシデンプン,バレイショデンプンを添加し、4℃24時間放置後のゲルの状態を観察した。ゼリ-の物性(離水量,クリ-プ測定、みかけの弾性率)を測定、組織構造を走査型電子顕微鏡により観察、以下の結果を得た。(1)一般成分は水分7.9%,粗蛋白質15.7%,粗脂肪1.1%,粗灰分10.0%炭水化物65.3%であった。(2)仙草抽出物がゲル化するには、0.3%以上の抽出固形分と1%以上のデンプンが必要であり、抽出固形分が0.7%以上になると1%デンプンで凝固するためにはpHを9.0以上にする必要があった。(3)仙草抽出物のゼリ-はフック体歪が大きく、ニュ-トン粘性が小さいという特徴を有した。(4)仙草抽出物のゼリ-は網状構造をしており、抽出固形分濃度、デンプン濃度を高めると、骨格が太くなると同時に網状構造が密であった。
著者
後藤 直正 辻元 秀人 西野 武志 大槻 雅子
出版者
京都薬科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

セパシア菌(Pseudomonas cepacia)の外膜に存在する透過孔は,2つの異なるサブユニット(OpcP1およびOpcP2)により形成されているヘテロオリゴマー(OpcP0)であることを既に明らかにした。本年度の研究として,【.encircled1.】このサブユニットをコードする遺伝子のDNA塩基配列を明らかにすること,【.encircled2.】2つのサブユニットを精製し,それから元のオリゴマーを再構成すること,さらに【.encircled3.】それらを透過孔形成能を調べることを計画した。その結果,【.encircled1.】精製したOpcP1の部分アミノ酸配列から作成したDNAプローブを用いて,セパシア菌の染色体クローンバンクから,PCR法によりOpcP1断片を得た。このDNA配列は,数種のポーリンとの類似性を示した。また,OpcP2遺伝子についも同じ方法で研究を進めている。【.encircled2.】精製したサブユニットから,もとのオリゴマーを再構成することが出来た。また,精製したサブユニットの透過孔形成能を測定したところ,【.encircled3.】OpcP2では活性は観察されなかった。一方,OpcP1の活性は,もとのオリゴマーであるOpcP0の活性よりも高いことが分かった。これらの結果は,OpcP1によって形成された透過孔が,OprD2の結合により阻害されていること,さらに,緑脳菌(P.aeruginosa)のOprD2のゲート領域(孔の開閉を司る領域)とOpcP2の機能が類似していることを示している。遺伝子レベルでの研究は,その遂行のために克服すべき問題が幾つかあったために,本研究ではその解決に終始した。しかし,これは,今後の研究に大いに役立つものである。蛋白質レベルでの研究過程で明らかにしたOpcP0とOpcP2との類似性は,今後得られるであろう遺伝子レベルでの研究成果と相俟って,ポーリン研究に大きな情報を提供するものと期待される。
著者
福嶋 祐介 中村 由行 早川 典生
出版者
長岡技術科学大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

本研究の目的は下層密度流先端部の流動特性を乱流モデルにより解析し明らかにしようとすることである。下層密度流先端部の乱流構造、連行機構を明らかにするため、室内実験を行った。実験は淡水で満たされた水槽内に塩水を流入させて、下層密度流を形成させる。測定は密度流先端部に注目して行い、導電率計を用いて塩分濃度を測定した。また、流速の測定には水素気泡法を用いた。水路床勾配を変化させてこのような測定を行い、先端部の諸特性と水路床勾配、流入密度フラックスとの関係を調べた。このような室内実験により、代表的な密度フロントの一つである下層密度流先端部の流速分布特性と密度分布特性の変化を水理条件の変化と対応させて把握した。次に代表的な二方程式乱流モデルであるkーε乱流モデルを用いて下層密度流の非定常数値解析手法の開発を行った。数値解析手法としては、差分法、有限要素法等があるが、本研究ではこれらの手法に比べて数値的に安定であるとされ有限体積法を用い、基礎方程式である微分方程式を離散化する。数値解析はかなり複雑であり、その妥当性を検討するため、予備計算を行った。対象としたのは、下層密度流定常部である。この計算結果を下層密度流定常部の実験結果、及びkーε乱流モデルを用いた定常部の相似解と比較し、本解析手法の妥当性を確認した。この解析手法により、下層密度流先端部の数値解析を行い、その流動特性を調べた。計算結果として得られるものに流速分布と密度分布、先端部の形状が得られ、これらを実験値と比較し、解析結果が下層密度流先端部の流動特性をうまく説明できることがわかった。
著者
平山 信夫 桜本 和美 山田 作太郎 松田 皎 小池 篤
出版者
東京水産大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

漁業管理方策を立てる際、漁具の漁獲機構を予め知っておく必要がある。本研究は刺網の漁獲機構について、漁獲量を決定する因子(漁獲制卸操作因子)による数理モデル式によって表現し、漁獲性能決定パラメータとしての漁獲効率の諸性質と、その推定方法を研究した。さらに漁獲と魚群行動、および網目の漁獲選択と漁獲効率との関係をニジマスを用いて、野外水槽において実験的に調べた。また暗闇時の魚群行動の計測法、明暗変化と漁獲との関係も同時に行った。得られた結果は次のとおりである。(1)漁獲モデル式:漁獲式を既往の研究結果に基づいて次のように決定された。すなわち、単位漁具がt日浸漬した時の漁獲量C(t)はC(t)=k_1/(k_1-k_2)NoX(e^<-k2t>-e^<-k1t>)・で示される。ここでk_1は羅網係数、k_2は脱落係数、Noは漁獲可能魚群量である。異体類ではk_1=5.00、k_2=0.229、No=1.203kgと推定された。(2)漁獲効率の定義式と操業管理パラメータ:漁獲効率K(t)はK(t)=C(t)/Noと定義される。従って前項の式を変形して得られる。この式を用いて、管理のパラメータ、最大漁獲効率K_<max>=(k_1/k_2)k_2/(k_1ーk_2)温、最適浸漬日数t_m=1/(k_1-k_2)×lnk_2/k_1、脱落率δ(t)等が得られた。(3)漁獲効率と網目選択率:両者の関係を理論的に調べるとともにニジマスを用いて実験を行い、両者の関係を実際的に確めた。さらに選択率(絶対・相対)の吟味を行った。(4)魚群行動と漁獲効率の関係:野外水槽において、ニジマスによる暗闇水中における魚群行動計測法を赤外線エリアセンサおよびケミカルライトを用いて、その実用性を確めた。またこの実験と同時に、明暗時の照度匂配と漁獲効率の関係を統計的実験計画法に基づいて実施し、照度匂配の急激な時に漁獲効率の高いことを確めた。
著者
水本 洋
出版者
鳥取大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

初年度においては無限剛性エア-スピンドルの構成要素となる静圧式自動調整絞り付き空気静圧スラスト軸受と排気制御絞り付き空気静圧スラスト軸受とを設計,製作した.スラスト軸受はスラストプレ-トの直径が65mmであり,自動調整絞りの特性を容易に変更できる構造となっている.また,ラジアル軸受は軸径40mmの複列であり,絞り開度の調節には圧電素子が使用される.ラジアル軸受単独の負荷特性の測定結果より,空気の供給圧0.49MPaの状態で約70Nの荷重範囲にわたって無限大のラジアル剛性が得られた.次年度においてはまず,初年度に製作された静圧式自動調整絞り付き空気静圧スラスト軸受の負荷特性を解析した.特性解析の結果,空気の供給圧が0.49MPaの状態で約240Nの荷重範囲にわたってスラスト剛性を無限大とすることができたほか,正剛性および負剛性の特性を持たせられることを確認した.つぎのこのスラスト軸受と,初年度に製作された排気制御絞り付き複列空気静圧ラジアル軸受とを組み合わせて無限剛性エア-スピンドルを構成し,その特性を解析した.排気制御絞りを複列のxy方向の合計4カ所に取り付け,軸位置を制御した.解析の結果,軸受からオ-バハングしたスピンドル先端においてもスラスト,ラジアル方向とも剛性を無限大とすることができた.回転精度に関しては,数10rpm程度の回転数範囲において,スラスト方向で20nm以内の回転精度が得られた.一方,ラジラル方向に関しては排気制御絞りを作動させない状態での回転精度が0.3μmであるのに対し,排気制御絞りを作動させることで50nm以内の回転精度を得ることができた.以上のように,自動調整絞りを使用することで空気静圧軸受の剛性を無限大にするとともに,回転精度も向上させることができ,本研究の所期の目的を達成することができた.
著者
難波 精一郎 EDWARD Costi 桑野 園子 COSTIGAN Edward COSTIGAN Edw
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

わが国の国際化に伴い,留学生の数が次第に増加する傾向にあるが,多くの問題もまた増加する傾向にある。本研究では講義のような1方向的になりがちな情報伝達場面における非母国語の聴取能力を測定し,聴取に影響を与える要因を検討し,留学生が受講している場合の講義の留意点について提案を行った。実験には日本人学生17名と留学生32名が参加した。刺激として,テレビおよびラジオ番組から選択し編集した10個の短文を用い,妨害信号(バブルノイズ)と音声信号のS/Nを系統的に変化させ,文章了解度を測定した。実験の結果:(1)文章中に既知でない単語が含まれたり,発音が不明瞭,あるいは騒音下など,聴取条件が悪い場合,文章の逐次的理解は困難となり,文脈から不明な箇所を推定する作業が行われる。(2)この文脈の利用には,その言語に対する知識量が貢献する。言語(音声)が未知の場合,音響学的手がかりのみによって,単語の同定をせねばならず,きわめて困難な作業となる。(3)留学生はかなり高度な日本語の能力を保持しているが,日本語の聴取条件が悪い場合,nativeと比較して上記(2)の困難を生じるようである。(4)キ-ワ-ドが認知されていると,留学生の場合も文章の了解は容易となる。以上の結果から,留学生を対象に講義を行う際の留意点として次のことが有効と考えられる。(1)視聴覚教材を活用し,耳のみならず目からの情報によって理解を助ける。(2)少なくとも,キ-ワ-ドは必ず板書する。(3)ゆっくり明瞭に話す。(4)大切な部分は反復する。(5)やさしい文章構造を用い,また付加情報を与えることで,文脈からの推定が容易になるようにする。(6)バブルノイズが重畳すると留学生の場合、聴取能力が急激に低下するので,バブルノイズの典型である教室における学生の私語を禁止する。
著者
桂 紹隆 稲見 正浩 小川 英世
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

本研究の目的は、ディグナーガの主著『集量論自注』(Pramanasamuccaya-vrtti)の第5章「アポーハ論」の詳細な和訳研究にあった。そのため、上記の研究組織に、原田和宗・本田義央の両氏をくわえて、同書の読書会を定期的に開催した。その際、従来十分に利用されてきたとは言いがたいジネーンドラブディの『復注』(Tika)の重要性に着目し、その和訳研究にも並行して取り組んできた。その結果、次の様な重要な方法論的問題を自覚するようになった。すなわち、大変不完全な2種のチベット語訳しか存在しない『自注』の解釈にあたっては、従来の研究者が試みてきたように、出来るかぎりのサンスクリット断片テキストを収集して、原型としてのサンスクリット・テキストを想定した上で理解するのが最も有効な方法である。我々の研究グループにおいても、既に原田氏によって、ジャンブヴィジャヤ師の梵文還元の試みに基づく、貴重な還元サンスクリット・テキストが完成されている。また、それに基づく和訳も原田氏のものと、研究代表取者桂のものが、準備されつつある。いずれ近い将来に公刊の機会を得たいと願っている。他方、比較的良好なチベット訳が1本存在する『復注』の場合は、必ずしも『自注』と同じ方法論が適用できないことが判明した。勿論、ジャンブヴィジャヤ師は、常に還梵テキストの提示を試み、成功してきたのであるが、以下の我々の和訳研究が示唆するように、『量評釈自注』(Pramanavarttika-Svavrtti)などの引用を除いて、サンスクリット断片が極端に少ない『復注』の場合還梵テキストの提示は必ずしも容易ではないし、また、あまり実りの多いものとは言えない。むしろ、かつてシュタイケルナ-が提案した、断片テキストの階層的処理というプラマーナ・テキスト研究の方法論を積極的に適用すべきである。