著者
川上 憲司 望月 幸夫 森 豊
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

換気検査には従来より ^<133>Xeガス、 ^<81m>Krガスが使われているが、入手に予約を必要とし、緊急検査に間に合わない。 ^<99m>Tc-エロゾル吸入検査も換気検査の代用とされるが、エロゾルの粒子径が大きいため、疾患肺では換気分布を表さない。^<99m>Tc-テクネガスは、 ^<99m>Tcを炭素の微粒子に標識し、換気分布に近いガス分布を得る放射性医薬品として開発された。本研究では、テクネガスの粒子径、捕集効率、生体における挙動、および種々肺疾患における臨床応用などについて検討した。テクネガスの粒子径は、電顕で計測した結果、大部分が20〜30nmφであったが、一部これらの粒子が魂状となって、100〜200nmの粒子を形成していた。テクネガス発生装置内の炭素るつぼに、 ^<99m>Tc-パーテクネテート溶液(300MBq/0.1ml)を入れ「るつぼ」を高熱で昇華することにより、微細炭素粒子を作成、これに ^<99m>Tc-が標識される。テクネガス生成後、粒子は次第に沈澱するので10分以内に吸入することが望ましい。血液中放射能は吸入後2時間において、吸入量の0.2%/1血液、尿中放射能は、24時間後においても4.96%であった。肺におけるテクネガスの生物学的半減期は135時間で肺のイメージは、24時間後においても安定していた。肺の被曝量は0.04Gy/37MBqであった。肺疾患例におけるテクネガスの分布は ^<81m>Kr分布に類似していたが、閉塞性病変の強い症例では、中枢気道に過剰に沈着し、スポット形成がみられた。しかし、未梢気道にも分布しており、換気分布の評価は可能であった。
著者
佐々木 嘉三 田阪 茂樹
出版者
岐阜大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

岐阜県北部の跡津川断層直近の東京大学宇宙線研究所神岡地下観測所奥の坑道で、ボ-リング孔より噴出している地下水を導水し、水中ラドン濃度の測定をしてきた。1990年12月以降の予備的観測および本年度の観測からは次のような成果が得られている。震央距離(△)50km以内,マグニチュ-ド(M)3.5以上の地震活動とラドン濃度の変化を対比すると,東側の北アルプスに沿う地震活動,すなわち烏帽子岳,焼岳,乗鞍岳周辺に発生する群発地震の活動に対しては,△が小さいにもかかわらず,ラドン濃度の変化は明確ではない。跡津川断層,午首断層に沿う地震活動では,Mが3.0程度のものも含めて、ラドン濃度に変化が現われるものもあった。特に,1991年2月28日のM=3.9の地震に関連した変化は,2日前から減少し,地震後の振動変化と増大、そして5日後に通常のレベルにまでもどっていることが分かった。さらに多くのデ-タを得るため,観測は現在も継続している。又,根尾谷断層に近い岐阜大学の上水道(地下水)についても断続的であるがラドン濃度の観測を行い,人工的原因による変動を検出し、その影響を除外することが可能となった。火山噴火予知の基礎的デ-タを得るため,活動の活発な桜島周辺で,大気中ラドン濃度の測定を鹿児島市内(鹿児島大学),と有村(桜島)で行なってきた。鹿児島市内では,12月16の噴火と降灰にともない2日間に渡って20%のラドン濃度増大があった。有村では,噴煙の降下に伴い,2倍にまで濃度が増加することが知られた。白根火山での11月の約10日間の観測では,噴気の高温ガスの冷却および導引方法を考慮した観測容器を製作し、1日以下の大気圧の短期変動とラドン濃度が逆相関にあるという結果を得た。又,トリウム系列のThC'も高濃度で検出され,ウラン系列のもとの対比等で,火山深部の活動情報が得られることも分ってきた。
著者
櫛 泰典 六川 千秋
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

平成6、7年度分人ABO血液型を司るのはO型糖鎖を前駆体としてA型の人ではA型糖鎖を作るα1-3ガラクトサミン転移酵素、B型の人ではB型糖鎖を作るα1-3ガラクトース転移酵素の存在が知られ、その存在の有無が大きく関連している。この研究は人の赤血球のAB型の人の型活性糖脂質を詳細に調べたことによって得られた結論を基にして細胞表面のA型糖鎖、B型糖鎖発現をAB型の人ではどのように調節されているのか解明するためのアプローチで、以下の点を平成7年度に解明することを目的として研究を行った。1。AB型の人ではA型合成酵素とB型合成酵素の両方が存在し、O型糖鎖を基質として糖鎖の伸長を行うが分岐したO型糖鎖にA型糖鎖とB型糖鎖が結合したハイブリッド型の糖鎖が存在しないのか?2。しないとすればA型合成酵素とB型合成酵素は基質に対して親和性が異なるのか?あるいはA型合成酵素の局在とB型合成酵素の局在がGolgiで異なるのか?3。また、基質となる分岐型のO型糖鎖がGolgiでどのように存在するのか?を中心に研究を行い、以下の結果を得た。1、AB型の人の赤血球を個別に集め、これより糖脂質を抽出し、型活性を調べ、既に200例を増やしても糖脂質としては各々分子上に型活性糖鎖が結合していることが確認された。より簡便にするためにα1-3ガラクトサミン特異的レクチン(HP)を用いて酵素分解との組み合せも上記の結果を支持した。また、ハイブリッド型の糖鎖が存在しないか確認するためにいくつかの特異的糖鎖分解酵素とその後の薄層クロマトグラフィーでの免疫染色を行った結果、その様なハイブリッド構造を持つ分子は存在しないことが明かにされた。血液型物質が多量に含まれる小腸や大腸についても同様の結果を示した。4、A型赤血球膜より抗A抗体に反応するガングリオシド構造を明かにするために大量のA型赤血球膜を集め、これを出発材料としてガングリオシドを抽出、精製を行った。イオン交換クロマトグラフィーによってモノシアロ、ジシアロ画分に分離を行い、更に、モノシアロ画分を分離し、抗A抗体により、免疫染色を行うS-Iの下に数本の陽性バンドが検出され、その完全構造を解析した結果、新規のA型エビトープを一方に持ち、もう一方にはシアル酸が有する構造と思われる。現在その完全構造を検討している。
著者
局 博一 林 良博 菅野 茂
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

本研究課題では,モルモットおよびラットを実験材料にして,それぞれの動物の鼻粘膜および喉頭粘膜に対する機械的刺激および化学的刺激によって誘発される呼吸反射の様式と,末梢求心性経路における感覚受容機構を明らかにした。結果は以下の通り要約される。(1)モルモットおよびラットの鼻粘膜,とくに鼻前庭を含む鼻腔前方域に機械的触刺激と圧刺激を加えると,いずれの動物からもくしゃみ反射が誘発された.1回の刺激で2〜3回連続する反射が現れることが多かった。三叉神経篩骨神経中にこれらの刺激に対して応答する受容器が見い出され,それらの応答様式を明らかにした。(2)モルモットの喉頭部に機械的触刺激を与えると明瞭な咳反射が誘発された。上喉頭神経中に存在するirritant受容器がこの刺激に対して鋭敏に応答した。さらに反回喉頭神経の中にも咳反射に関与する受容器の存在が確認された。カプサイシン溶液を用いて喉頭粘膜のCーfiberを選択的に刺激したところ,咳反射は現れず,無呼吸反射のみが強く出現した。このことから咳反射にはCーfiberよりもirritant受容器が関与することがわかった。(3)ラットの喉頭部に機械的刺激を与えると燕下反射が常に出現した。同様の結果は上喉頭神経の電気的刺激でも得られた.ラットの上喉頭神経求心性活動を記録したところ,呼吸性活動を示すdrive受容器(58%)や喉頭内の圧変動に応じるpressure受容器(28%)は数多く見い出されたが,irritant受容器(11%)は少なかった.これらの成績から,鼻粘膜刺激によるくしゃみ反射に関しては,両動物とも類似した発生機構を有すると考えられるが,喉頭粘膜からの咳反射に関しては,感受性の差,受容器構成の差,さらには中枢におけるパタ-ンジェネレ-ションに関して明瞭な動物種差が存在するものと考えられた.
著者
河野 一郎 赤間 高雄
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

運動が健康の増進・維持に効果があるという考えが広く受け入れられるようになり、健康スポーツがますます盛んとなっている。本研究では健康の維持・増進に有効とされている有酸素運動が免疫機能とくに細胞性免疫機能に与える影響を検討した。有酸素運動の習慣をもつ成人では細胞性免疫機能とくにナチュラルキラー細胞(NK細胞)の活性が運動習慣のないものと比較すると男女とも高いことが明らかとなった。また、経時的にNK細胞活性の変動をみると、日々の運動量が増すに従い活性が高値を示していくことも明らかとなった。つぎに、このような有酸素運動がNK細胞活性へ与える影響の機序を探る目的でNK細胞にレセプターを持つカテコラミンなどのホルモンとの関係を検討した。急性の有酸素運動負荷により、各種ホルモンがNK細胞活性の変動の平行して変動することが明らかとなった。また、マウスを用いた実験系ではカテコラミンの共存下ではその濃度によりNK細胞の活性が影響を受けることも示唆された。かかる成績から有酸素運動が免疫に与える影響の機序には複数の因子が関与していると考えられた。また、情報伝達物質であるサイトカインの関与についても検討したが、運動により変動するという結果を得たのみで機序への関与については今後の課題となった。今後運動と免疫に関する研究をさらに進めるためには情報伝達物質の関与を含め様々な視点からのアプローチが必要と考えられた。
著者
佐伯 清美 西堀 正洋
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

脳のモノアミン類の神経性取り込みに及ぼす抗ヒスタミン薬(H_1受容体拮抗薬)の影響を脳内モノアミン代謝脳変化を指標にして検討した。モノアミン類とその代謝産物は、脳ホモジネ-トの遠心上清を直接あるいは精製操作後に高速液体クロマトグラフィ-(HPLC)・電気化学検出法で分析することにより測定した。クロルフェニラミンは1mg/kg(i.p.)以上の用量で脳内5ーHIAA量を、5mg/kg以上でDOPAC量を減少させ、ジフェンヒドラミンは10mg/kg以上でDOPAC量を、20mg/kg以上で5ーHIAA量を減少させた。メピラミンは20mg/kg以上で5ーHIAA量減少させたがDOPAC量に影響しなかった。プロメタジンは20mg/kgでMHPG量を増加させた。メピラミン以外の薬物は10mg/kgでαーメチルーpーチロシンによるドパミン減少を抑制したが、ノルアドレナリン減少はプロメタジンにより逆に促進され、他の薬物では影響されなかった。パ-ジリンによる5ーHT蓄積はH_1拮抗薬により影響されなかった。以上の結果から、(1)ジフェンヒドラミン、クロルフェラミンおよびメピラミンは脳内ノルアドレナリン系に対してその伝達物質再取り込みにほとんど作用を示さない、(2)メピラミンはドパミン系に対してもほとんど作用を示さない、(3)ドパミンの神経性再取り込みはジフェンヒドラミン、クロルフェニラミンによって阻害され、その代謝回転も抑制される、(4)ジフェンヒドラミンとクロルフェニラミン(特にクロルフェニラミン)ならびにメピラミンは5ーHTの再取り込みを阻害するがその代謝回転には影響しない、(5)プロメタジンはドパミンの代謝回転を抑制するがノルアドレナリンの代謝回転を促進すると結論した。
著者
吉葉 繁雄
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

1.1985年,房総半島南部の外洋に面する天津小湊町(小湊と略記)に勃発したニホンヤマビル(ヒルと略記)の大繁殖はバイオハザードとして地域住民や旅行者に被害を与えつつ永続する気配を見せたので,1987年より小湊に観察調査用の定点(No.1〜9)を設定,年平均15.7(14〜18)回の頻度で生息密度調査を継続したところ,1992年まで増加したのち漸減に転じ,1995年には終息の兆しを見せ始めた。定点を拠点としての調査・実験により明らかにしたヒルの環境医動物学的諸特性および11年間の概要を総括すると次の通りである。2.ヒルの源棲地:小湊北部を占める内浦山県民の森や清澄山(大風沢川・神明川の上流域)と推定。3.異常大発生の要因:小湊の山林事情の変化(薪炭の需要激減で伐採されなくなったマテバシイの葉が繁茂,日光を遮り,餌となる下草が生えなくなる)により、野生のシカがヒルを伴って里へ降り,市街地を俳徊,ヒルを伝搬。ヒルを捕殺する天敵動物の不在も大発生を助長。4.シカとヒルとの特異関係:シカは,ヒルの諸種供血宿主中で伝搬の主役[免疫組織化学的に証明]で,寄生するヒルの固有宿主的役割を演じた。即ち,ヒルは通常の宿主には吸血時のみ付着するが,ヒルの繁殖旺盛の頃の小湊のシカにには,吸血せずに四肢遠位部特に第III・IV趾間や後面に数匹のヒルが付着し,蹄間には,有穴腫瘤が高頻度に存在して穴腔内にヒルが潜居し,ヒルはあたかもシカ固有の体表寄生虫的であった。蹄間有穴腫瘤とヒルの腫瘤内寄生は,小湊のシカに特有の現象で,春日山原始林,金華山などシカの群生地域にも見られなかった。5.厳寒期静居個体〔ヒルの地中越冬期間中の12月後半〜3月前半頃,地表の転石や落板の裏に付着・静居する大型個体〕の正体:シカに運ばれてきて満腹吸血して離脱したものと判明。6.抗山蛭抗体と免疫学的間引き:ヒルに反復吸血されたヒトと哺乳類には,吸血後の創痕からの出血時間延長と凝固阻害とが回復するとともに,殺蛭的に作用する抗体が血中に生じたが,鳥類では不明確[ELISA法]。この抗体は,野性ジカでは幼獣には検体されずに老成獣に顕著[Ouchterlony法]で,ヒルにとって幼獣は安全な食源でも老成獣吸血による免疫学的間引き由来の生息度調節が実在する筈。7.生息密度の低下の原因は未特定であるが,1993年以後のシカの生息頭数の減少,ヒル孵化時期の遅延,当年孵化仔数の減少;1994年以後の厳寒期シカ寄生ヒル・蹄間腫瘤の激減〜消失,ヒルの吸血(食餌ありつき)頻度の低下;1995年頭年末の厳寒期静居個体の消失が随伴した。免疫学的間引き,今冬の寒冷・乾燥気候も大発生の終息化を助長したと推定されるが,雨水の酸性傾向〔pH6.58(5.8〜8.4)海塩混入〔NaCl濃度67.99(10.51〜458.84)mg/l)は無影響と考えられた。8.今後の見込み:大発生は終息し,被害は殆どなくなるが,通常の生息域(分布地)となって時折姿が発見されたり,希に吸血される可能性もありうると予想される。9.対比のために踏査した遠隔のヒル生息域の動向:秋田県(1市2町)では激減,栃木県今市市では緩和,神奈川県丹沢,静岡県千頭・宮城県,金華山では依然活発である。
著者
古屋 哲夫 安冨 歩 山室 信一 山本 有造
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

研究実施計画に従い次の様な研究活動を行なった。(1)基礎資料の収集整理(イ)法制関係文献については、満洲国六法をはじめとする諸法制についての法令集のほか、コンメンタールや司法官会議について会議録および旧慣調査についての史料を収集した。(ロ)経済関係文献については、日本銀行所蔵満洲・中国金融関係資料のマイクロフィルム化を重点的に行なった。(ハ)東アジア全体における満洲国の位置づけを明らかにするために、朝鮮や台湾、南洋庁さらに中国内に作られた傀儡政権の人事的リクルートの問題、あるいは物資動員の実態などを明らかにするための史料ないし回顧録などの収集を行なった。(2)研究会活動上記の収集資料の整理・解読を中心にほぼ月1度の共同研究会を開催し、日本の東アジア進出過程における「満洲国」の政治・法制・経済・金融的位置について討論を行なった。(3)その他当初予定した「聞取り調査」は都合により実施しえなかったが、専門研究者をゲストとしてまねき、報告・討論会を開いた。
著者
内山 吉隆
出版者
金沢大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

0℃付近における氷上のゴムの摩擦係数は著しく低い。そのため、実用の自動車用タイヤにおいては重大な問題である。この0℃付近での摩擦係数を増大させるために、摩擦の掘り起こしの頃を利用したスパイクタイヤが実用化されている。しかし、このスパイクタイヤは路面の摩耗を生じさせるため、その改善が望まれている。スパイクピンの作用力が0℃よりも高い温度で弱まり、0℃以下の温度では通常の作用力を示す温度順応性スパイクタイヤの基礎実験を行い、すべり摩擦時の路面損傷を軽減できることがわかった。現在ではスパイクタイヤの製造禁止が行われるため、スタッドレスタイヤの基礎研究として氷とゴムとの摩擦が重要となってきた。そしてゴムと氷との摩擦係数に及ぼす温度、接触圧力、摩擦速度及びゴム材質の影響について研究を行い、以下の結果を得た。1.氷とゴムとの摩擦係数に及ぼす温度及び接触圧力の影響各ゴム試料とも-20℃及び-15℃では比較的高い摩擦係数を示すが、-10℃においては摩擦係数は著しく低下し、-5℃から0℃においては0.2以下という低い値を示した。さらに接触圧力の増大とともに摩擦係数は減少し、天然ゴム試料では0.8MPaのときの値は0.2MPaのときの約半分の摩擦係数である。2.氷とゴムとの摩擦係数に及ぼすゴム材質の影響天然ゴム及びブタジエンゴムと氷との摩擦を行ったところ、ブダジエンゴムに比べ天然ゴムの方が-20℃から-15℃にかけて摩擦係数は約2倍高い値を示したが、-5℃から0℃にかけてはあまり大きな差はみられず低い値を示した。この摩擦係数の違いは接触面におけるせん断強さの違いによるものと考えられる。
著者
一ノ瀬 篤
出版者
愛媛大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

1987年度(継続研究第二年目)研究計画に従って, 1932年から1945年に至るイギリスの貨幣・金融史年表を, 次のような手順で作成した.(1)主要な出来事について, その生起年月日と内容を複数文献について確認する.(2)これに基いて年表を作成し, かなり詳細な解説を付ける.(3)冒頭に概観のための小論文を付ける.今回取り上げた主要内容は下記の通り.5%戦争公債借換え発表(1932年6月), 為替平衡勘定設置(1932年7月), 英米戦債最終支払い(1933年12月), アメリカ金本位制法成立(1934年1月), 米英仏三国通貨協定宣言(1936年9月), 1939年「通貨及び銀行券法」(1939年2月), 外国為替管理令制定(1939年9月), 大蔵省預金受取証書導入(1940年7月), 公債利率の最高限度引下げ(1941年7月), ケインズ案公表(1943年7月), 大蔵省による証券上場規制(1944年6月), 工業金融会社, 商工金融会社の設立発表(1945年1月), 金買上げ価格引上げ(1945年6月), 米英金融協定成立(1945年12月), ブレトン・ウッズ協定(1945年12月)
著者
伊藤 敞敏 菅原 弘 北澤 春樹
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

発酵乳用乳酸菌のもつ免疫賦活化能を調べる目的で実験を行った。まず、乳酸菌細胞壁の特徴を明らかにするため、L.bulgaricusとL.acidophilusの細胞壁成分を酵素的に可溶化させ、分画し、構成成分を調べることにより、両菌株の細胞壁の特徴を明らかにしました。次に、L.acidophilus グループ乳酸菌は、腸内で生育し、種々の生理的効果を示すことが知られているので、その生理的効果を追求する目的で、L.acidophilusとL.gasseriについて、マクロファージの腫瘍細胞障害活性に対する高揚効果およびインターフェロン誘起能について調べた。L.acidophilus9菌株の全菌体で刺激した場合、細胞障害活性は2菌株において高い値を示し、さらに4菌株に有意の活性がみられた。インターフェロン誘起能は、細胞障害活性の高かった2菌株を含む4菌株で高い値を示した。一方、L.gasseri13菌株のインターフェロン誘起能を調べたところ、5菌株が比較的高い値を示した。L.acidophilus9菌株については、有効成分を明らかにする目的で、菌体および細胞壁成分の免疫賦活化能を、マウス脾臓リンパ球に対する幼若化作用を指標として調べた。菌体全体を用いた場合は、有効性のみられたのは1菌株のみであったが、細胞壁成分では6菌株に有効性が認められた。そこで、特に活性の高かった1菌株の細胞壁成分をイオン交換クロマトグラフィーで分画し、各成分のリンパ球幼若化活性と組成の特性を調べた。有効成分はグルコース、N-アセチルグルコサミン、グリセロール、リンおよびムラミン酸を含んでおり、グルコースに対するN-アセチルグルコサミンの割合の高い画分の活性が高かった。これらの結果、L.acidophilusグループ乳酸菌の中には、腸内において免疫賦活やインターフェロン誘起などの生理活性を示すもののあることが示唆された。
著者
大谷 元
出版者
信州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

1.牛乳k-カゼインのグリコマクロペプチド(106-169域)は単球/マクロファージに結合し,インターロイキン-1レセプターアンタゴニストの生産を誘導することによりBリンパ球やヘルパーTリンパ球の増殖・分化を抑制する。また、グリコマクロペプチドの単球/マクロファージへの結合は,グリコマクロペプチド分子内のシアル酸を末端にもつ糖鎖やホスホセリン残基のような強い負の荷電などの複数の負の荷電を介して起こる。2.牛乳k-カゼインのラクトフェリンは肥満細胞からの化学情報伝達物質の遊離を抑制することにより,抗アナフィラキシ-活性を有する。また、ラクトフェリンはペプシン消化することにより,未消化ラクトフェリンの場合とは異なった機構で作用する抗アナフィラキシ-成分を生じる。3.牛乳αS_1カゼインとk-カゼインはマクロファージの活性化に対して抑制的に,β-カゼインは促進的に働き、抑制的に働くαS_1カゼイン,k-カゼインおよびカゼイン由来の抑制ペプチドはすべてマクロファージに結合し,促進的に作用するβ-カゼインやそれ由来の促進ペプチドはマクロファージに結合しない。4.鶏卵アビジンはサプレッサーTリンパ球に結合し,サプレッサーTリンパ球上への1L-2レセプターの発現を抑制することにより,サプレッサーTリンパ球の増殖を抑制する。また,ウズラ卵オボアルブミン,オボトランスフェリン,オボインヒビターおよびリゾチームもTリンパ球やBリンパ球の増殖抑制作用を有しており,ウズラ卵オボトランスフェリンの抑制作用はリンパ球に特異的な細胞障害性とリンパ球増殖抑制成分の誘導による。さらに,ウズラ卵オボインヒビターのリンパ球増殖抑制作用はリンパ球増殖抑制因子の誘導による。
著者
田中 彰
出版者
東海大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

試魚として卵生種のヤモリザメ64個体、ニホンヤモリザメ47個体、卵黄依存型胎生種のラプカ90個体、ユメザメ31個体、ヘラツノザメ16個体、サガミザメ56個体、ヨロイザメ7個体を用いた。これらの標本は全て成熟しており、卵生種の2種は卵発達中、排卵直前、卵殻形成中、卵殻保持、卵殻産出後の各発達段階にあり、また胎生種の5種の卵発達中、排卵直前、排卵中、排卵終了、妊娠前期、妊娠後期、出産後の各段階をほぼ網羅した標本である。卵生種2種とラブカでは卵殻腺のアルブミン分泌域と卵殻分泌域の境界部分に精子が観察されたが、他の4種では同じ部位に精子は観察されなかった。また、これら4種の生殖輸管を詳細に調べ、精子の貯蔵部位を検査したが、精子は確認できなかった。卵生種2種における精子の発見率は排卵直前の段階で最も高く卵殻形成中の段階で最も低かった。これら2種はほぼ周年にわたり数週間に1回の割合で産卵を行っており、精子の貯蔵期間はある程度長いと考えられるが、その精子量の減少状態から自然界では2〜3ヶ月に1回ぐらいの割合で交尾を行っていると考えられる。卵黄依存型胎生種で唯一精子が確認できたラブカでは排卵直前と排卵中の段階の個体はすべて精子を持っており、精子量は排卵直前、卵発達中、排卵中の順で多かった。また、妊娠前期の個体の60%は精子を持っていたが、妊娠後期では35%の個体で精子を確認できた。ラプカの出生全長は約550mmであるが、全長356mmの胎仔を持つ個体でも精子が確認できたことから、精子の貯蔵期間はかなり長いと考えられた。電子顕微鏡での観察では精子と管状腺を形成する細胞との結び付きは見られなかった。繁殖様式が同じの卵黄依存型胎生種5種のうち、ツメザメ目に属する4種において排卵直前、排卵中の段階にある標本でさえ精子が確認できなかった。このことが精子を貯蔵しないことを意味しているのか今後解明する必要がある。
著者
山本 正治 渡辺 厳一 遠藤 和男
出版者
新潟大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

新潟県に多発する胆道癌(特に胆嚢癌)の原因として「複合要因説」を仮説にとり研究を進めてきた。即ち、「胆石症や胆嚢炎等を有する者がハイリスク・グループを形成し、彼らが地域特有の環境因子に暴露されることで胆嚢癌が発生する」という仮説である。地域特有の環境因子としては、種々因子を検討したなかで、ジフェニルエーテル系農薬(特にクロルニトロフェン、CNP)が残っている。この度の研究は、この仮説検証を動物モデルを用いて行うことにある。実験には雌ゴールデン・ハムスターを用い、次の5群を設定した。1群は胆石(ビーズ・ワックス)埋め込み手術+普通食、2群は胆石埋め込み手術+CNP(5000ppm)含有食、3群は発癌物質3-メチルコラントレン(3-MC)を含む胆石+普通食、4群は3-MC入り胆石+CNP、5群は胆嚢切開・縫合+普通食である。動物数はそれぞれ20匹とした。胆石埋め込み手術は、動物(9〜10週令)搬入1週間後に行い、その後2週間回復を待ち、投与実験を開始した。実験期間は、第22週までとした。なお、2群のCNP投与は第17週までとし、以後は普通食に切り換えた。CNP投与群(2群と4群)の体重増加は対照群(5群)及びCNP非投与群(1群と3群)に比べ、抑制されていたが、第17週の中止後は、1群、2群と5群で差を認めなかった。摂餌量も同様の傾向を示した。実験期間中の死亡例は、1群及び2群で、72週間中それぞれ3例(15.0%)であった。また、対照群(5群)でも3例(15.0%)であった。3群と4群で、17週間中死亡例はなかった。1群では肝臓の腫瘍1例、2群で肝臓の腫瘍を2例認めた。また、2群の胆嚢の緑色拡大を認めている。病理組織学的検索は、現在実施中である。3群と4群との間には、格別の差はなかった。
著者
小林 忠雄
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

本年度は前年度にひき続いて、伝統都市を中心としたフィ-ルドにおける色彩に関する民俗伝承の聞き書きと、文献資料および実物の写真撮影等の調査を実施した。本年度予定した調査地は熊本市・松江市・金沢市・岐阜市・津市の計5か所であったが、実施したのは熊本県人吉市・鹿児島県知覧町・松江市・金沢市・弘前市の5か所である。これらはいずれも中世ならびに近世以降より始まった城下町であって、前年度の伝統都市における色彩表徴の事例研究を補足し、また深めるに足る対象地であった。ちなみに、調査結果をまだ充分に検討していないので、早急に明確な結論を導き出すことは出来ないが、中世鎌倉期より城下町として発達した人吉市の場合、中世的な歴史遺物が少ないながらも、青井阿蘇神社の社殿に残る建築彩色には注目され、赤・青・黒の色彩表徴にひとつの歴史的意味を見つけだすことが出来た。しかし、その他民俗事象としては近世末期の事象の伝承より遡ることができず、また衣裳の染色などの技術も地方的な稚拙なものにとどまり、いわゆる京・大坂との物流関係に規制されることが多く、そこにはこの地方独自の色彩伝統を見出せなかった。このことは前年度の調査研究による都市(マチ)とその周辺農村との対比といった次元での差異でしか、その色の民俗の特色を見出し得ない結果とほぼ同一の傾向にある。しかし、一方で従来からフィ-ルドとしている金沢においては、その後の調査によって五行思想に基づく五色のシンボリズム、すなわち日月山海里を意味する赤・白・黄・青・黒(紫)の儀礼的展開例を見出し、都市の民俗社会が色彩を重視する原理を新たに確認することが出来た。現在、その他の文献資料との照合が出来ていないので、調査終了とともに、さらに分析を行い結果報告をまとめる予定である。
著者
黒川 信重 染川 睦郎 水本 信一郎 盛田 健彦 加藤 和也
出版者
東京工業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

各研究分担者は次のような研究を行った。黒川はゼータ関数の行列式表示しを研究し、絶対数論の見地に達した。加藤はモチーフの数論的ゼータ関数の特殊値の研究を行い普遍行列式の考えに至った。盛田はセルバーグ型ゼータ関数の研究を行った。水本はゼータ関数の中心零点の研究を行った。染川は数論的代数幾何学の研究を行った。これらを総合するとゼータ関数の全体像がより一層はっきりしてきた。とくに、すべてのゼータ関数の統一理論の鍵となる絶対数字の考え方を注意しておきたい。これはセルバーグ型ゼータ関数はもちろん,数論的ゼータ関数の研究において絶対なる力を発揮する。理論ができつつある段階であるが,たとえば,加藤による対数スキームの理論やトーリック多様体論はその例と見なすことができる。零点の絶対テンソル構造を経由するとリーマン予想にも到達する。このようにして,ゼータ関数が実体に一歩近づいた。
著者
江藤 一洋 土田 信夫
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

組織切片上でmRNAの発現を観察できるin situ hybridization(以下ISH)法を確立し, 顎顔面の形態形成におけるoncogeneの発現と細胞の増殖, 文化, 細胞死との関連について解析することを目的とし実験を行ってきた.61年度は, 各種V-onc及びC-oncのDNA断片を分離精製し, このうち, H-ras, fas, masについて32P標識DNA断片をプローブとして, ラット胎仔, 胎盤組織切片に対しISHを行った. その結果すでに報告されている胎盤でのfasの発現が観察されたが, 各プローブに共通して胎仔膜等への非特異的吸着が見られた. この軽減のためmRNA(正鎖)と相補的RNA(逆鎖)を合成しプローブとすることにした. この利点として(1)mRNAとhybridizeしないプローブをRNA分解酵素で除去でき, 非特異的吸着が軽減されること, (2)正鎖をプローブとすればhybridizeしないので, negative controlとして特異的結合を検証できること, 等が挙げられる. そこで各種oncogene DNA断片について標識RNAをin vitroで合成可能なベクター(PGEM3,4)へ組み込み, 保存した.62年度は, このベクターより合成した35S標識RNAのうち細胞増殖期に発現の高いC-mycをプローブとしてマウス胎仔組織切片に対してISHを行ったが, 満足な結果が得られなかった. そこで技法の確立に重点を置き, 系を簡略化するためにmycを導入した腫瘍細胞に対してISHを実施した. 種々の条件を検討した結果, mycの発現をconstantに観察できるようになったが, 検出効率の上昇, 組織切片との相異などの問題が残されている. 今後顎顔面領域の発生過程をこのISH法を用いて観察し, ひいては唇裂, 口蓋裂の原因解明へのアプローチとして役立てる方向で進めていく予定で, 現在マウス胎仔組織, 特に顎顔面領域での各種oncogeneの発現を解析中である.
著者
和田 仁 小林 俊光 高坂 知節
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

我々はこれまで、主に耳小骨連鎖離断・固着の診断を目的とする診断装置MIDDLE EAR ANALYSER(MEA)の開発を行ってきた。しかし、従来型インピーダンスメータ同様外耳道に挿入したプローブで測定するため、測定結果に及ぼす鼓膜の影響が大きく、アテレクタシスや鼓膜が薄い場合にはMEAによる耳小骨連鎖異常の診断は難しい。そこで本研究では、超音波を利用した、鼓膜物性値および厚さの測定手法を開発し、鼓膜物性値および厚さを定量的に測定することを試みる。これまでに1.外耳道に挿入できる超小型センサを試作し、内視鏡付きのマニピュレータ、カメラおよびモニタを組み合わせることにより、外耳道内を観察しながらセンサを自在に動かし、測定が行えるシステムを構築した。2.物性の異なる境界面での、超音波の反射と透過の割合を求めることができる、インピーダンス理論を適用し、システムの出力に対する式の導出を試みた。その結果、鼓膜密度を既知とすることで、鼓膜の厚さおよびヤング率を求めることが理論上可能であることが明かとなった。今後の計画1.構築したシステムを用いて、人工中耳モデル、側頭骨標本、正常者および鼓膜疾患例を測定する。2.測定および数値計算結果より、鼓膜物性値および厚さの定量的測定可能性について検討する。
著者
坂輪 宣敬 伊藤 瑞叡 三友 健容 久留宮 圓秀 佐々木 孝憲
出版者
立正大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

敦煌莫高窟の壁画、出土文書は、発見以来多くの学問領域から注目され研究が為されてきたが、なお未解決の問題も多く残っている。本研究は対象を法華経にしぼり、壁画、彫刻、出土古写本類を素材に法華経鑚仰の様子の一端を解明した。美術の分野では法華経変を考察対象とし、その規模別分類を試み、大規模な経変画が時代を経て形式面、内容面ともに変化が生じたことを明し、更に描かれる品に注目して、その出現頻度を図示した。描かれる頻度によって製作年代における鑚仰の様相が推定されるが、見宝塔品、普門品の両品は特に盛んに造られた。これらの品に就ては単独に描かれる例も多く、前者は盛唐期に多く、西壁に描かれる例が大部分であった。後者はそれ程の傾向は窺知できなかったが、宋代まで、盛んに製作された。古写本ではスタイン本・ペリオ本を総合的に研究し、調巻・奥書に就て考察した。調巻では現行の七巻本、八巻本の他に十巻本という敦煌独自の遺例があり、その製作にあたり、竺法護訳「正法華経」の影響が看取された。また奥書の検討によって、近親者等の供養のために写経を行った例が極めて多いこと、長安で大規模な書写が行われ、それが多数敦煌に送られていたことなどを指摘した。北京本に就ては、未だ殆ど研究されていなかったが、「妙法蓮華経」を抽出し、写本点数が諸経典中第一であることを明し、また遺例の品数、長さ等を調査し、七巻本、八巻本、十巻本混在の様相を発見した。最後に、派生的テ-マである敦煌菩薩竺法護の訳経に就ての考察を試み、訳経の年代、訳経地、没年等の未解決の諸問題にスポットをあてた。特に訳経地に就ては、筆受などの訳経補助者の名を手掛りに「須真天子経」「正法華経」等が長安訳出であることを示した。また竺法護の訳経の特徴として校勘の不十分さなどに論及し、その原因として戦乱の時代であったこと、国家の保護がなかったことなどを指摘した。
著者
中村 康則 青木 茂治
出版者
日本歯科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

口腔カンジダ症患者から分離したC.albicans K株の1×10^7〜4×10^7cellsを4週齢の雌雄SDラットに1回静脈接種することにより四肢に関節炎を発症せしめ、外観症状(腫脹,発赤,歩行異常)の経過を観察すると共に関節部骨の形態変化について検討した。1.経過観察:(1)発症率には性差はなく、接種菌量の増量にほぼ依存して発症頻度も高くなった。(2)発症の時期は菌接種後2〜4週に集中したが、2ケ月以降に遅発する例や再発例もあった。(3)発症部位は諸々の関節に及ぶが、中でも足根部,膝,助骨,肘の頻度が高かった。また、一個体で複数部位に発症する例が約4割あり、接種菌量が増量すると発症部位の総数も増加した。(4)外観症状の回復には平均2週間位を要したが、数日間の軽症例や長期間持続するものもいた。 2.骨形態変化:(1)関節炎部位の軟X線写真からは骨の膨隆,骨吸収斑の他、関節面の凹凸もみられた。骨吸収斑は未発症の骨にも同様にみられた。(2)それら部位のCMR写真からは軟X線所見を裏付ける骨造生像や骨吸収窩像の他、皮貭骨の菲薄化、骨梁の減少も観察された。この造生骨の形成過程を踵骨の例でみると、外観症状の出現から4日位で針状の未熟骨が部分形成され、その数日後には桿状骨となり骨辺縁を取巻いていた。この間に投与した硬組織時刻描記剤テトラサイクリンの骨蛍光分布は造生骨が顕著であり、石灰化が活発であることが示された。そして、この骨変化は外観症状が顕著なもの程、高度でかつ永続した。(3)病理組織標本からは旺盛な骨芽細胞が造骨している一方で、破骨細胞の出現による骨吸収窩像がみられたが、これらの所見は関節周囲の強裂な炎症に起因すると思われた。以上の成績から、本真菌によるラット関節炎は多発性であること、遅発や再発も起こること、骨に対しては新生骨の造生と骨吸収斑の変化が主であり、これらの骨病変は自然治癒しにくいことが示唆された。