著者
岡村 弘行
出版者
日本歯科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

チタンは融点が高く高温においての活性化エネルギーが非常に高いので石膏系埋没材やりん酸塩系埋没材が含有するシリカと非常に反応しやすい。その上,現在チタン系埋没材の主材として用いられているZnO_2,Al_2O_3,Mg等もシリカより反応が少ない骨材として良好な鋳造表面を得るために使用されているが鋳造した鋳造体の品質が均一でなく優れたチタンの特性が生かされていないようである。今回,高温で安定な高純度(100%)酸化イットリウム粒子の4μと20μとの2種を水,ジルコニアゾル溶液で練和し混液比の決定を行った。その結果,水での練和は埋没材の表面に30分後に割れが生じた。しかし,ジリコニアゾル液の場合粉末50gに対し液20mlの比が最もよく練和しやすく割れはなかった。また,硬化は時間がかかるため60℃の恒温槽に1時間入れ硬化させた。硬化膨脹はレバ-タイプ電気マイクロメーターを使用し水銀浴上で無荷重の状態で行った結果60分で収縮があることがわかった。また,粒子の大きい方が小さい方より収縮は小さかった。このため粒子の配合比を変えることにより改良されることがわかった。熱膨脹でも硬化膨脹と同じ傾向がみられるが,ジルコニアを5wt%添加することにより約1.2%の膨脹がが得られることがわかった。今回このように基礎的データーしか得られなかったがチタンを一部鋳造した結果,表面性状の非常に良好な鋳造体が得られた。さらにこれらの酸化物系列としてネオジウム,セリウムも高温埋没材として有望であることがわかった。
著者
大浦 律子 南後 守 徳田 順子
出版者
大阪薫英女子短期大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

〈研究の目的〉繊維や河川の汚れ除去に漂白剤の役割は重要である。しかし近年、塩素系漂白剤がダイオキシン生成の一因となることが指摘され、環境保全の面から酸素系漂白剤の利用が注目されている。本研究は繊維や環境にやさしい酸素系漂白剤の有効利用のために、できるだけマイルドな条件で活性化できる諸種のポルフィリンの金属錯体を合成し、触媒として使用することを試みた。〈実験方法〉過酸化系漂白剤には過酸化水素を、触媒にはポリエチレングリコールと結合したマンガンポルフィリン誘導体を、被漂白物質にはC.L.Acid Orange 7とBC-1(紅茶汚染布)を用いた。分光光度計(島津製作所UV-160)を用い、色素の吸光度変化から擬一次速度定数(K_<obs>)を算出し、色素溶液の退色速度について検討した。また、分光式色差計(日本電色工業SE-2000型)を用い、汚染布の反射率の変化から漂白率を算出し、汚染布の漂白効果について検討した。〈結果〉pH8.0という温和な条件で漂白を行った結果、過酸化水素のみではほとんどC.I.Acid Orange 7の退色が見られなかったが、ポリエチレングリコールと結合したマンガンポルフィリン誘導体存在下では色素の退色が促進された。ポルフィリンの骨格をフッ素化したマンガンポルフィリン誘導体よりも塩素化したマンガンポルフィリン誘導体のほうが大きな効果が認められた。また、ポリエチレングリコールと結合したマンガンポルフィリン誘導体を触媒とした過酸化水素による漂白が酵素類似の反応として取り扱えることがわかった。さらに、汚染布での漂白効果においては、本条件下では顕著な差が認めらなかった。
著者
今井 一雅 冨澤 一郎
出版者
高知工業高等専門学校
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

木星からのデカメートル波領域における自然電波放射は、惑星探査機ボイジャーによる直接観測にもかかわらず、その電波放射源の位置は未だにあきらかとなっていない。これは、デカメートル波領域という電波天文学においては極めて長い波長であるために、マイクロ波領域のように簡単にアンテナの指向特性をあげて電波源の位置を測定するという技術が使えないためである。地上観測の場合には、地球の電離層がこのデカメートル波領域の電波に対して非常に大きな影響を与えることになり、さらに状況が悪くなってしまう。一方、今までの観測・研究によると木星デカメートル波放射の右旋円偏波成分と左旋円偏波成分とは、異なった位置の電波源によるものであることがいわれているので、偏波という観点から見たVLBIによる電波源の位置変動の観測は木星電波の放射機構を解明する上で非常に重要である。本研究においては、従来行われなかった右旋・左旋円偏波の独立したVLBIを同時に行うことにより、偏波特性から見た木星デカメートル波放射源の位置変動を観測しようというものである。すなわち、今までに行われてきた木星電波のVLBIは、すべて直線偏波の成分のみを扱っており、得られる情報としては木星電波源の大きさの上限のみであった。ところが、右旋・左旋の両円偏波成分を同時に観測し干渉させれば、両円偏波成分の放射源の位置が同じであれば同じ干渉出力を得ることができるし、もし違えば異なった干渉出力を得ることができるわけである。実際に開発した観測システムにより観測されたデータを解析したところ、右旋・左旋円偏波の電波源の干渉パターンの位相角の差がほとんど同じ観測例を見いだすことができた。これは、右旋・左旋円偏波の電波源は同一の場所であることを示唆しており、非常に貴重な情報を得ることができた。
著者
沢島 政行 堀口 利之 新美 成二
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

気流阻止法を用いて、正常者における発声時の呼気圧,呼気流率と声の強さの関係を検討した。対象は成人男子30名、女子36名であった。発声条件は、声の高さとして、各人の話声位、および5度高い地声とした。声の高さはピアノの音で与えた。声の強さは、中等度,弱い声,強い声の3種類とし、各人の主観的判断にまかせて発声させた。測定は、各発声時の声の基本振動数(Hz),声の強さ(dB SPL),呼気流率(ml/sec),呼気圧(mm【H_2】O)の4種の値の同時測定である。結果は以下の通り。1)声の強さは流量計開口部から20cmの距離で60〜90dB SPLの範囲に分布し、話声位、5度高い声の間に差はなかった。2)呼気圧は、上記の声の強さの範囲で男女共に水柱20mm〜150mmの範囲に分布し、話声位、5度高い声の間に差はなかった。声の強さの増加と共に呼気圧は上昇した。3)呼気流率は、男女共に毎秒70〜350ml/Secの間に分布し、声の高さによる差はなかった。また声の強さを増しても、呼気流率は必ずしも増加しなかった。4)声の強さと呼気圧,声の強さと呼気流率,それぞれの比を計算すると、この値は、声の強さと共に一定の増加を示していた。すなわち、呼気圧,呼気流率共に、声門における呼気-音源の変換の効率が、声の強さと共に変化することが示された。このような効率と強さの関係を考慮して、病的症例の検査結果の評価を行なうべきである。5)呼気圧と声門下圧との関係は、呼気流率が少ない時はその差が無視されるが、呼気流率が増加した場合は、適当な補正により、呼気圧から声門下圧を推定することが可能である。
著者
伊藤 栄明
出版者
統計数理研究所
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

幾何学的な対称性を群論をもちいて記述する方法はよく知られている. 3次元空間における周期的な構造について対称性を記述する230個の群があり, それらは空間群と呼ばれている. 結晶における原子の配列を解析する際に空間群はもちいられる. 結晶の対称性は230の空間群のいずれかによりあらわされる. 対称性の統計的分布について, 球の充填あるいは楕円球の充填等にもとづいたモデルが考えられる. 本研究ではこのような幾何学的構造を直接考えずに群とその表現にもとづいたモデルについて議論した. 個々の結晶の対称性が何になるかという問題は物理的, 化学的な議論にもとづいて行われるべきものであるが, 多数の結晶について対称性についての分布をしらべるには統計的モデルを考えうる. 群を値としてとる確率分布という見方が可能である. 群を値としてとる確率分布あるいは確率過程という見方でとらえることのできる現象は多くあると思われる. 群を値としてはる確率過程も興味ある今後の課題と思われるがこれについては別の機会に行いたい. 幾何学的対称性と平行移動の操作を考慮に入れずに記述する点群といわれている32個の群がある. それらは定点0を通る軸による回転及び定点0についての反転からなる有限群である. 点群は結晶の形態を記述する際にもちいられる. 点群における対称操作に平行移動の操作を組み合わせたものが空間群であり, 各空間群は32個の点群のいずれかにもとづいて構成されている. 本研究においては各空間群に対応する点群についての統計的分布を考えた. 多く存在している群は, 群として生成されやすいということと考え, 生成されやすさということについてのモデル化をこころみた. 計算機をもちいてこのモデルにより得られる結果とデータを比較した. さらにモデルについての確率論的性質をしらべた.
著者
丸、瑠璃子 谷島 一嘉 白石 信尚 伊藤 雅夫
出版者
日本大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

昭和59、60、61年度科学研究助成により作成した空気置換式人体体積計の精度向上を図りの体学学生を中心に、男性175名、女性22名の被検者について体容積および諸形態を計測した。計測データから、各種階層 (性別、身長別、体重別、年令別) の被検者郡について、体比重と体型との関連性について検討した。また、女性6名について、CT横断面像から大腿部および腹部3部位の皮下脂肪面積を求め、体比重との関連性について検討した。1) 高精度人体容積計の精度 (信頼測定範囲、最低50ml) に見合った体重測定を可能にするために、読取限度1gの高精度電子秤量計 (Sartorius F150g) を購入し測定精度の向上を図った。2) 男性170名、女性22名のを対象に実測した体比重は、男子1.0592±0.0157女性1.048±0.033であり男性において高値を示す。この時の皮脂厚 (腹部、背部、上腕部の合計) は、男子44.2±23.4、女性44.6±16.5であり、いずれも体比重との間に高い正の相関が認められた。3) 男子大学生170名の体比重を体重別に集計すると、体重の平均-1.5σ以下で1.0704±0.0041、- (0.5〜1.5) σで1.0692±0.0065、±0.5σで1.0593±0.0104+ (0.5〜1.5) σで1.0508±0.0196、+1.5σ以上で1.0381±0.0179となり、明らかに過体重群において低い値を示している。4) 中年 (45〜55才) 女性6名におけるの体比重は (1.0106 1.056) 、1.0379±0.0179であり、女子大学生の1.048±0.033に比べて、明らかに低い値を示している。また、皮脂厚も61.4mmと、女子大学生に比べて有意に厚くなっている。他の形態計測値からも、中年女性の肥満傾向は明らかである。5) CT画像から求めた皮下脂肪面積と体比重との相関係数は、大腿部及び下腹部 (臍点下部5cm) で高値を示した。
著者
伴野 潔
出版者
信州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

ニホンナシ3品種‘おさ二十世紀'、‘菊水'、‘幸水'とリンゴ3品種‘ふじ'、‘つがる'、‘王林'を供試して、それぞれ正逆交雑を行ない、胚培養を実生法と併用して、ニホンナシとリンゴの属間雑種固体を110系統余り育成した。また、胚培養法を用いてシュート形成が認められない雑種の子葉においても、不定芽誘導法を併用することで、効果的に雑種が獲得できることが明らかになった。得られた属間雑種について、新梢や葉の形態的特性、葉や枝のアントシアニン蓄積の有無、圃場での病虫害の発病程度等を調査するとともに雑種の光合成特性、接ぎ木親和性についても調査した。これらの結果から、得られた属間雑種個体の表現形質は母本に類似している反面、アントシアニンの発現性や父本の台木に対する接ぎ木親和性の向上等、父本の遺伝子もかなり導入されていることが明らかになった。また、これらの属間雑種の光合成活性は、自根樹では低いものの、接ぎ木によって母本と同程度に回復することも明らかになった。さらに、ナシ黒斑病、リンゴ斑点落病に対する検定を行ったところ、ナシを母本とした雑種では、両病に対する遺伝分離が様々に現れるが、リンゴを母本としたものでは、両病に対してほとんどすべて抵抗性を示した。また、リンゴ黒星病について検定したところ、ナシを母本とするものでは、すべて抵抗性を示し、リンゴを母本とするものでも28系統のうち7系統が抵抗性と判定された。これらの結果は、耐病性育種を進めるうえで、属間雑種の利用が新しい育種戦略となりうることを示唆した。一方、細胞融合による属間雑種を得るために、プロトプラストの単離と培養法、PEG法及び電気融合法による細胞融合法について検討した。その結果、プロトプラストからカルスまでの培養系については確立できたものの、カルスからの再分化率が極めて低く雑種育成が困難であった。
著者
斉尾 英行
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

本研究によって以下の結果を得た。(1) 自転の効果によって高速自転星の中に励起されることが予想される低い振動数を持つ振動が起こす星の表面での速度場および温度変動によって引き起こされるスペクトル線輪郭変動を計算し,早期型主系列星に観測されているスペクトル線輪郭変動との定性的一致を得た。このことにより,理論的にその発生が予想される振動が実際の星で起こっていることがかなり明らかとなった。(2) 自転する星に励起されることが数値計算によってたしかめられている低周波振動の励起機構を振動のエネルギ-という観点から考察した。その結果,自転する星の対流層には負のエネルギ-を持つ振動が存在し,それが通常の正のエネルギ-を持つ振動と共鳴を起こすと,エネルギ-が負のエネルギ-をもつ振動から正のエネルギ-を持つ振動へと流れ、全体としては断熱的であっても,振動の振幅が増大すると理解できることが明らかになった。(3) 上記の振動と同様のメカニズムによって励起される振動が木星の外層でも励起されることが可能であることを示し,この振動が最近木星に観測された非常に周期の長い振動に対応するものであることを提唱した。(4) 自転する星で非軸対称的な振動が起きると星の中の物質のもつ角運動量の輸送が起きる。このメカニズムによって星の内部から表面へと角運動量が輸送されると,星の赤道表面近くにある物質が強い遠心力によって放出され,星の周りの赤道面にガス円盤ができる。このような質量放出円盤の構造を星からの轄射の効果を考慮にいれて計算し,B型輝線星に周りに存在する円盤の性質との比較を行った。
著者
伏見 譲 鈴木 美穂 西垣 功一
出版者
埼玉大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

1.進化分子工学において、ウイルス粒子は、遺伝子型と表現型が一つの結合体になっているので、表現型の評価が即遺伝子型の選択に結びつくため、クローニング操作なしに人為淘汰が行える。これを模擬する試験管無いプロセスとして、無細胞翻訳系でmRNAと新生タンパク分子が結合体となるような系(これを以下in vitroウイルスと呼ぶ)を開発しつつある。in vitroウイルスは、逆転写、PCR増幅、転写という、レトロウイルス様のライフサイクルで増殖する。mRNAと新生蛋白の結合法として、2つの方法を試みた。一つは、その蛋白に組み込まれたビオチン様ペプチドと、mRNAに付加されたアビジンとの結合による。もう一つは、mRNAをtRNAとみなすことができるように改変する方法である。このmRNAの3'末端CCAにシンテターゼを用いて、アミノ酸をチャージする事には成功した。2.進化分子工学は生命の起源のモデルと表裏一体をなす。われわれは、進化分子工学において、遺伝子型と表現型を対応づける戦略としてのウイルス型戦略が、細胞型戦略よりも進化速度の点で有利であることに着目した。RNAワールドから、蛋白質合成系が進化してくる機構として、in vitroウイルス様の生命体があったとするモデルを構築することに成功した。すなわち、RNAワールドに登場する最初のコード化された蛋白質はRNAレプリカーゼ(当然リボザイムである)の補因子に違いないが、その蛋白質補因子はそれがコードされているリボザイムRNAに結合していたとする。すると、RNA複製系と翻訳系が、速やかに安定に漸進的に共進化してくることが、コンピュータシミュレーションで明らかにされた。それは、ウイルス型メンバーを持つハイパーサイクルである。
著者
青山 弘
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

窒素上にエチル基,プロピル基またはイソブチル基を有するピペラジンテトラオンをアセトニトリル中で高圧水銀灯を用いて光照射するとγ水素引き抜きを経由して分子内酸化還元生成物および環化生成物が得られた。この結果より、この複素環化合物のカルボニル基はケトンやイミドのカルボニル基と同様の光反応性を示す事が明らかになった。また上記の環化反応は炭素と酸素の間の結合生成をともなう環化反応であり、これまでに例のない新しい型の環化反応である。窒素上に二個のアルキル基を持つイミダゾリジントリオンを種々のオレフィン存在下、ベンゼン中で光照射したところ、いずれの場合もオレフィンとの2+2付加物(オキセタン)が主生成物として得られた。イミダゾリジントリオンはスチルベンに対しても光付加してオキセタンを与えるが、この反応においては吸光係数から考えてイミダゾリジントリオンではなくスチルベンが光を吸収していると考えられる。このように、オレフィンの励起によるオキセタン生成はきわめて例が少なく、興味深い結果である。
著者
藤原 祺多夫
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

天然水等の試料を対象にして, ホウ酸やケイ酸を簡便に測定する方法を開発する目的で, ホウ酸及びケイ酸を気体状化合物に定量的に変化させる方法, 及び気体状ホウ素化合物とケイ素化合物の酸化反応にらる化学発光の測定を試みた. まずホウ素については, ホウ酸トリナチルをチッ素気流中に打込みこれを発光させる方法を検討した. まずオゾンとの混合を試みたが, パラジウム, パラジウム/炭素等の触媒を利用しても気相では発光を生じなかった. そこで内径2mmの毛細石英管の外壁をニクロム線で加熱するミクロファーネスを自作し, ここにチッ素気流に混合したホウ酸トリメチルを導入したところ, 500〜600mm付近の波長領域に見かけ上緑色の発光が, 毛細管末端で観測できた. これはBOに由来するものと思われるが, この発光を定量するため, シリコニットで外側を被覆したミクロファーネスをステンレスT字管(内径2cm程度)に入れ, 腕の部分に干渉フィルターを入れた後光電子増倍管に直結するシステムを作成した. この装置を用い, かつフィルターを500nmに変えて, ケイ素の誘導体(トリエチルシラン)も同様に測定できた.一方ホウ酸及びケイ酸から水素化物を含む気体状化合物への定量的変換法は現在まず確立することができなかった. まずホウ酸については, メチルアルコールとの還流によるメチル化を行ったが, これは一試料をメチル化するのに30分程度必要であり, かつ試料スケールを大きくしなければならずミクロ分析として不適当と考えた. 従って内径1.5cm長さ20〜30cmの石英管を100〜400°Cに加熱した反応管内での, ホウ酸のメチル化もしくは還元を検討した. 還元剤として, 水素化ジイソブチルアルミニウム, トリクロルシラン, トリエチルシラン等を検討したが, 現在固形ホウ酸塩を粉末状水素化リチウムアルミニウムとよく混合させた後300°Cに加熱した場合のみ, ホウ素に由来する気相化学発光が観測できた.
著者
藤田 彰典
出版者
京都文化短期大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

大黒屋杉浦は, 三郎兵衛を襲名し, 貞享年代(1684〜87)近江国高島郡から京都に出て呉服の仕入店を, 江戸には営業店をそれぞれ開店し, 江戸では「十組諸問屋」仲間に, 京都は「呉服店廿軒組」に所属するなど, 京都店・江戸店とも営業の発展をみて, 有数の呉服店(豪商)に成長していった.明治以降も, 呉服商大黒屋三郎兵衛店の営業は発展していくが, 大正12年(1923)には資本金20万円の株式会社杉浦商店を設立する. そして東京を本店に, 京都を出張所に変更したことから, 京都店は休業状態となって昭和31年(1956)に処分されたが, 東京店は大三株式会社の社名をもって今日に続いている.その大黒屋杉浦は, 4代の杉浦三郎兵衛利喬が, 石田梅岩の門に入って「心学」をきわめ, 石門心学を経営理念とした特色ある商家として注目される. 研究の成果としては, 1.大黒屋杉浦は江州の琵琶湖西岸を出身地とする武家に系譜を持つ近江商人であった. 2.杉浦家は代々子供に恵まれなかったことから, 分家による同族の拡大はみなかったものの, 同郷の坂江家一族との血縁的関係をもって同族団の成立をみた特徴がみられる. 3.そのためか, 店員のほとんどは江州高島郡の出身者でしめられ, 別家制度が充実をみていた. 4.ことに大正7年(1918)の店員規定は, 現代雇用制度の先駆的内容をうかがわせる. 5.それも, 大黒屋杉浦三郎兵衛店が, 江戸時代から石門心学を店の経営理念としてきたことによるものであって, 鴻池や小野組の豪商, 三井や住友などの財閥の経営とは趣を異にするものがある.以上, 大黒屋杉浦は, わが国商家経営の一つの特色を示しているが, 家憲及び石門心学の実践, 別家制度等については, 今後引続いて検討を深めていく必要がある.
著者
上柳 富美子 近 雅代
出版者
静岡県立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

抗酸化作用の一つと考えられる抗リポキシゲナーゼ活性は、豆類、茸類、にんにく以外の野菜類では、緑色の濃い野菜(ニラ、シソ、ホウレンソウ、ブロッコリーなど)に多く、キャベツ、キュウリのような淡色野菜に少ないことが観察された。このことより、カロテノイドが抗リポキシゲナーゼ活性を示すことが考えられた。そこで、トマトピューレーから抽出、分離、精製したリコペン、ほうれん草から抽出、分離、精製したβ-カロテン、ルテイン、ビオラキサンチン、ネオキサンチンを用いて大豆リポキシゲナーゼの抑制活性を測定した。その結果、同濃度における抑制活性はヒコペンが最も強く、ついでネオキサンチン、ビオラキサンチン、ルテイン、β-カロテンの順になった。以上のことから構造と活性の関係を考察するとリコペンの活性の強さはイオノン環が開いていること、二重結合の数が13以上あることが大きな影響をもっており、その他のカロテノイドでは極性が高い程活性が高くなる傾向がみられた。ゆで調理操作、揚げ調理操作過程におけるカロテノイド組成の変化を調べた。蒸留水と1%食塩水でコマツナをゆでた場合、ゆで時間が長くなるにつれてまずビオラキサンチンが分解、酸化され、次にネオキサンチン、ルテインと続き、β-カロテンは比較的安定であった。1%食塩を加えた方が、総色素量では変化量が少なかったが、各カロテノイド量では、蒸留水とは違いがみられなかった。160℃で揚げた場合は、ゆで操作と同様ビオラキサンチンの減少が大きく、ルテイン、β-カロテンの減少は少なかった。以上のことより、野菜類の加熱調理において、キサントフィル類は、β-カロテンより先に活性酸素の影響を受けやすく、自ら減少することで抗酸化作用を示し、その結果ビタミンA効力を持つβ-カロテンが比較的安定に保たれていることがわかった。
著者
田中 和子 亀田 温子
出版者
国学院大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

すでに計画調書に明記したように, 本研究は「性差別意識」の構造的解明への第一歩を踏み出す試みであった. 昭和61年度には, 女性社会学, 帰属理論, 情緒社会学, 世代論等, 性差別意識や性別役割分業にかかわる理論的・実証的文献研究の成果をふまえて, アンケート調査およびインタヴュー調査を実施した. これを受けて昭和62年度には, 補足アンケート調査およびインタヴュー調査を遂行するとともに, 収集した調査資料の分析を行なった. ここで得られた知見の主要なものは, 以下のとおりである.1.国際的規模での性役割の流動化を背景に, 日本の大学生のあいだでは, 古典的な意味での性差別意識を持つ層は, もはや少数派となっており, 女性の社会進出も, 少くとも一般論の事柄にとどまる限りにおいては肯定的に受けとめられている.2.しかし, 性別役割分業意識は依然として根強く, しかも性役割の不均等配分が性差別としては意識されにくいという状況が現出している.3.上述の不均等な性役割の配分は, 旧来の男尊女卑思想やストレートな生物学的決定論に依拠することによってではなく, 能力や効率性, 好き・きらいといった選好など, 性別以外の要因に帰属させることによって合理化・正当化され, 結果的に性差別が容認されていく.4.社会一般の事象という水準では着々と進みつつあるかにみえる性役割の流動化も, 問題設定が被調査者にとってより身近なレベルに及ぶにしたがってその度合が減じる. 今回の調査結果から, 両性の日常的関係性にまでおよぶ性別役割分業の変容には, さらにかなりの時間がかかることが予測される.
著者
藤島 岳 森田 明美 杉山 憲司 天野 マキ
出版者
東洋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

本研究プロジェクトにおいては、精神薄弱者の社会的自立尺度の作成を最終目的とした調査研究を行なった。調査研究に先立ち、教育、社会福祉の各分野の社会的自立概念に関する文献研究行なった。政策・研究レベルにおいて多様な解釈のある社会的自立概念の整理は調査研究の設計にも不可欠なものであった。次に精神薄弱者の自立度と関連要因を把握する調査票を作成した。各項目のクロス分析、及びそれらの自立生活形態別の比較から自立の要因を析出することによって自立の尺度の枠組を構築することができると考えた。調査実施にあたって今回は対象を在宅及び、グル-プホ-ムに居住する一般企業勤務者を絞り(但し1名は家事専業)各調査項目についてより掘り下げた回答を得ることができる面接聞き取り調査を実施した。養護学校高等部曽業生とグル-プホ-ム居住者の調査結果とその比較分析により、【○!a】自立生活の要素である経済的自立(職業的自立)、生活能力の自立がそれぞれ公的、私的に支援されている実態、【○!b】自立にとって重要なファクタ-は何かが「できる」という能力というよりも他者(対社会)とのコミュニケ-ション能力や精神的安定であり、障害が軽度であってもそれらへの援助が不可欠であること、【○!c】結婚が自立を促進し、生活の安定を図る要素となりうること、【○!d】識字・計算能力と社会生活能力の関連性の低さ等が改めて明確にされた。また自立能力の開発機能としての教育のあり方についてもいくつか課題があげられた。調査期間、調査規模(予算)の限界から、今回は面接聞き取り調査結果を元にした調査票の修正によるあらたな調査票(尺度)に作成、自立尺度作成の方法論の提起に留まった。クロス分析、多変量解析による自立の要因分析を通した自立尺度の作成には調査対象の拡大、統計的調査が不可決であり、次回の研究として継続する。
著者
速水 敏彦
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

これまで、動機づけの研究分野では外発的動機づけと内発的動機づけは対立する概念として扱われることが多かった。また、両者の関係に注目したいくつかの研究も認知的評価理論にみられるように外発動機づけの内発的動機づけへの妨害的効果が強調されてきた。しかし、子どもたちについての日常的観察からもわかるように先生や両親からの賞賛や賞品の授与、あるいはきびしい競争に勝ち抜くといった類の外発的動機づけは子どもたちのコンピテンスを高場させる面もあわせもっているように思われる。すなわち、外発的動機づけ→コンピランスあるいは自信の高まり→内発的動機づけの形成というル-トも考えられる。教育的視点からはこの過程にもっと注目して、どのような場合に内発的動機づけが生起するのか明らかにする必要がある。そこで、次のような研究が実施され、一定の結果をえた。(1)技能学習(ピアノ,習字,珠算,水泳などの学習)過程の検討:技能学習の初期、中期、終期での内発的動機づけや外発的動機づけについて大学生を対象にして回顧させるやり方で質問紙法により検討した。結果としては練習初期の外発的動機づけとその後の内発的動機づけとの間に正の関係が認められた。(2)幼児の課題遂行における外的報酬の効果の検討:個別実験的方法により検討した。この結果、幼児が課題遂行に成功した場合、言語的賞賛だけでなく、外的報酬も与えることが内発的動機づけの高さの指標である課題へのPersistenceを高め挑戦的な課題選択に関係することが明らかにされた。(3)教室場面での教師の子どもに対する動機づけ:小学校教師を対象にして1時間程度の面接を実施し、子どもに対する動機づけの実態や信念を尋ねた。教師の大半は小学校の低学年では賞賛競争,賞品といった外発的動機づけが子どもの内発的動機づけを形成するのに意味があるとみていた。
著者
若林 久嗣
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

滑走細菌群のFlexibacter columnarisは、種々の淡水魚類の皮膚、鰭、鰓などの体表面に感染病巣を形成し、病害をもたらす。本研究では、環境水中あるいは魚体表面に存在する他種の細菌との水中あるいは体表での競合関係について検討した。1. F.columnarisの生存性のすぐれた「調合水」は、蒸留水にNaCl、KCl、CaCl_2・2H_2O、MgCl_2・6H_2Oをそれぞれ、0.03%、0.01%、0.002%、0.004%溶かしたものであった。2. 調合水にF.columnarisを約10^6CFU/mlとA.hydrophilaまたはC.freundiiを約10^6、10^7、10^8CFU/ml加え、この中にドジョウを入れて一定時間毎に実験魚の一部をとりあげ、体表粘液をサンプリングし、間接蛍光抗体法でF.columnarisの菌数を、またDAPIで総菌数を測定した。競合菌濃度が10^8CFU/ml、すなわちF.columnarisの100倍存在する場合には、F.columnaris菌数が増加せず発病しなかった。3.競合菌を混入する時期と感染妨害との関係について検討した。C.freundiiをF.columnarisと同時に加えた区と30分後に加えた区では発病も斃死も見られなかったが、1時間以後に加えた区では、発病・斃死が認められた。また、C.freundiiをF.columnarisと同時に加えた区と30分後に加えた区における体表粘液中のF.columnaris菌数は、前者で8時間後まで若干増加したほかは増加せず、やがて減少して行った。一方、1時間以後に加えた区での体表粘液中の菌数は、24時間後まではC.freundiiも増加したもののF.columnarisの増加に及ばず、48時間後にはF.columnarisがさらに増加したのに対し、C.freundiiは減少した。これらのことから、競合菌C.freundiiによるF.columnaris感染妨害は、ドジョウ体表面への付着時ないしは付着直後の増殖開始時に起こることが推察された。
著者
森下 忠
出版者
駿河台大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

平成2年度には,犯罪人引渡法の基礎理論の研究をすることに心がけた。その成果の一部として,「犯罪人引渡法における相互主義」と「犯扱人引渡法における政治犯罪の概念」とを雑誌で公表した。前者は,わが国では未開拓の研究テ-マであったと思われる。後者は,最近における立法例や条約に現れた政治犯罪の概念について考究したものであって,従来,主として国際法学者が研究してきたものを大きく修正するものである。両論文とも,わが国の学界と実務界に寄与するところは大きい思われる。平成3年度には,「犯罪人引渡法における仮逮捕」と「自国民不引渡しの原則」という二つの論文を書いた。前者は,これまでわが国に全く知られていなかった問題点を扱ったものであって,わが国の逃亡犯罪人引渡法の改正に役立つであろう。外国では,「仮逮捕」が活発に行われている。国際犯罪の国際的防止のためには,わが国も先進諸外国と歩調をそろえる必要がある。後者は,これまで伝統的に支持されてきた自国民不引渡しの原則につき、その合理的理由のないことを論述し,あわせて近時の条約や立法例が不引渡しの原則を修正していることを指摘したものである。このほかにも,犯罪人引渡法については,考究すべき問題点は,実に多い。比較法的な基礎研究が欠如しているわが国では,このような地味な研究を進展させることは,困難である。わが国における外国人犯罪が急激に増加し,また,国際犯罪防止のために国際的連帯性の強化の必要性が叫ばれている現在,より多くの研究者がこの分野の研究につき力をあわせることが強く要請される。
著者
北山 滋雄 土肥 敏博
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

神経伝達物質トランスポーターは神経終末より遊離された伝達物質を再取込みし、その作用を速やかに終結させる役割を果たす重要な膜機能蛋白である。多様な中枢作用を有し麻酔であるコカインにこれらトランスポーターのうちモノアミントランスポーターに特異的に作用するが、また強力な局所麻酔作用も有していることが知られている。末梢神経系におけるこの作用は血管収縮をもたらし、その結果持続的な局所麻酔作用を示すが、一方合成局所麻酔薬はこの様な性質を持たないとされてきた。我々はコカインの中枢作用、特に強化作用に深く関連すると考えられているドーパミントランスポーターをクローニングし、このトランスポーターに対するコカインの作用様式を分子レベルで研究してきた。本研究では合成局所麻酔薬とコカインの作用の相違に着目し、ドーパミン、GABA両トランスポーターに対する効果の比較より構造活性相関を解析した。ラットドーパミントランスポーター発現COS細胞において、合成局所麻酔薬はコカイン同様いづれも濃度依存的に|3H|dopamine(DA)の取込みを抑制し、その作用強度はcocaine>dibucaine>tetracaine>benzocaine>procaine>lidocaineの順であった。コカイン誘導体|3H|CFT結合もこれら局所麻酔薬により抑制された。これら両抑制効果の作用強度は良く一致していたが、局所麻酔作用強度とは必ずしも一致しなかった。外液Na^+濃度を減少させても|3H|CFT結合に対する局所麻酔薬の抑制効果は変わらなかった。一方マウスGABAトランスポーター発現COS細胞において|3H|GABA取込みはこれら局所麻酔薬によって抑制されたが、|3H|DA取込み抑制に比べると弱く、|C50は約10倍高かった。また|3H|GABA取込み抑制の作用強度は局所麻酔作用強度と良く一致していた。以上の結果より合成局所麻酔薬もまたコカイン同様ドーパミントランスポーターに選択的に作用することを明らかにした。その作用機序としてはトランスポーター上でコカイン作用部位と一部競合する作用部位を有することを示唆された。
著者
勾坂 馨
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

血痕を抗Aまたは抗Mで感染後, 種々の温度で熱処理した後, この血痕に感作抗体と対応する血球(A型またはM型)を加え, 二重結合反応を起こさせたところ, 抗M, 抗Aとも140°C・20分処理では抗体活性に変化がなく, 150°C・30分処理では抗体活性がやや低下し, 160°C・20分処理により抗体活性はほとんど失活した. 一方, 熱処理した感作血痕を熱解離し, 解離液の凝集素活性を調べたところ加熱温度上昇ともに解離液の凝集素活性は低下し, 140°C・10分の熱処理によって解離液の凝集活性は0となった. これらの検査でIgGとIgMとの間に著差は認められなかった. 感作血痕を種々の濃度のホルマリン(ホ)またはメルカプトエタノール(メ)で処理した後, 前出の二法により抗体活性を検討した. IgM抗A抗体感作血痕をホで処理した場合濃度25%まで抗体活性の維持が認められ, メ処理では2%まで活性維持が認められた. また, ホまたはメ処理後の血痕を熱解離し, 解離液の凝集素活性を検討すると, 二重結合法と同様な成績が得られた. 一方, ウサギIgG抗M抗体感作血痕では, IgGのホに対する耐性はIgMと同様であるが, メに対しては25%処理まで抗体活性を維持し, IgMと著しい差異を認めた. 一般に免疫グロブリンは高熱やある種の薬物の処理によって活性を失うことが知られている. 熱抵抗性に関しては, 本実験では70°Cの加熱によってIgG抗体活性は失活したが, 抗体抗原複合物の状態のIgG・IgMとも150°C・20分まで抗体活性を維持するのが認められた. この事実は抗体は抗原と結合することによって構造上の変化が生じ, それが抗体の熱抵抗性を発揮させるものと推測される. 薬物処理では, とくにメ処理した場合, 抗原結合状態のIgG・IgMはfreeな状態の抗体に比較すると著しく高い薬物耐性を呈した. これも熱抵抗性の場合と同様に, 抗原と結合した抗体に構造上の変化が生じたものと推測される.