著者
佐藤 吉信
出版者
東京商船大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

自動車事故の抑制には、運転者のエラーをバックアップする危険回避系を備えた先進安全車の実現が必須である。本研究では、この危険回避系のフエール・セーフ/フエール・オペラブル構成問題と安全性評価について検討し、以下の研究成果を得た。1.自動車が対象物と衝突をするハザードに対して加速インタロッキング、非常停止および操舵制御バックアップを行う危険回避系のフエール・セーフ・フエール・オペラブル・システム構成の可否について検討した。2.ドライバーの居眠りやよそ見などのヒューマンエラーによる追突事故を防止するためにトラックやバスで実用化され始めている車間距離警報装置の事故抑制効果を評価するためにフォート・ツリー解析を実施した。これより追突事故が1/3から1/4に削減できると結論された。また、同様の解析により、警報出力を自動車の停止装置に連結していわゆる非常停止危険回避系を構成した場合、追突事故が1/5から1/8に低減されると評価された。3.大手のトラック運送業者では、交通災害保険をいわゆる自己保険としているため、自己の減少が利潤に直結している。このため車間距離警報装置の利用に積極性がみられる。しかし、個人ユーザでの導入をはかるためには、さらに装置製造コストの低廉化および保険料のディスカウントなどの措置が必要である。4.コンピュータを用いたプログラマブル危険回避系では、技術革新が激しいため故障率など信頼性データが入手できない場合が多々ある。そこで、そのような危険回避系のフェール・セーフ・フェール・オペラブル・システム構成に従って、コンポーネントに近似的な統計量を与えて危険回避系の自己抑制力を評価するA-Cモデル構造関数法を開発し、先進安全車等へ適用を試みた。
著者
松尾 信一
出版者
信州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

1.明治以前の日本での最大の西洋百科事典の和訳書であるショメ-ル『厚生新編』の中の家畜(馬、驢、山羊、水牛、猟犬、猫、駱駝、羊、ラム、馴鹿など)、家禽・飼鳥(アヒル、鵞、七面鳥、雉、孔雀、カナリヤなど)、畜産物等(乳、バタ-、チ-ズ、獣皮、膠、鮓答、肉料理)について詳細に調査し、更に、シヤルモ(Chalmot)のオランダ原本及び江戸時代の本草書などとの比較を行った。例えば『厚生新編』の福禄獣と天狗はオランダ原書ではzebra(シマウマ)とangelus(天使)であることが判明した。これらの成果は論文として、信州大学農学部紀要第27巻115ー132頁(1990)に掲載してある。2.我国では、七面鳥のことを吐綬鶏、ホロホロ鳥を珠鶏と記した書物や資料がある。江戸時代以降の百以上の古書や古資料について詳細に調査した。その結果、江戸時代には七面鳥のことをカラクン鳥、唐国鳥と記した文献もあった。これは七面鳥のオランダ語Kalkoenから来た言葉で、日本語の発音から唐国鳥という漢字まで作成されていることが判明した。又、七面鳥とホロホロ鳥が江戸時代に渡来していることを確認できた。これらの成果は論文として在来家畜研究会報告第13号133ー143頁(1990)に掲載してある。3.3月29日の日本畜産学会で、図書として、江戸時代の『毛詩品物攷』(1785)、『相馬略』(1867)、明治時代の『養豚説略』(1870)、『斯氏農業問答』(1875)、『斯氏農書』(1876)、『新撰農書』(1886)、『農用家畜論』(1882)(以上畜産学書):『泰西訓蒙図解』(1871)、『博物新編訳解』(1874)、『動物学初編』(1875)、『薬用動物篇』(1876)、『通常動物』(1882)、『小学動物教科書』(1882)、『応用動物学』(1883)、(以上動物学書):雑誌として「牧畜雑誌」(1889年創刊)と「東京家禽雑誌」(1903ー5)の中の家畜・家禽、特に図と表に注目して展示報告をした。
著者
李 景みん
出版者
札幌大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

本年度は主として、北朝鮮における大戦の終結について研究した。ソ連軍は一般に言われるほど、参戦当初において、破竹の勢いで北部朝鮮に進撃したのではなかった。日本軍の抵抗は根強く、日本が降伏した8月15日の時点で、ソ連軍は成鏡北道で足踏み状態であった。しかし、戦争が終結し各地において戦闘が停止すると、その先遣隊は順調に南下を始めた。そして、8月24日には平壤に進出した。8月30日までには北朝鮮のほぼ全域を制圧するに至った。ソ連軍の進駐と同時に日本軍の武装解除が行なわれ、北朝鮮の各地はソ連軍の占領状態に入った。日本の植民地行政機関はソ連軍によって接収され消滅したが、それに取って代わり、朝鮮民衆の自治機関が占領軍当局の力によって新たな権力機関として誕生した。確かに、ソ連軍は、米軍とは異なり、表面的には朝鮮民衆の自発的な行動を認め、間接的な占領統治体制を施いた。長年民族の独立を希求してきた朝鮮民衆は、こうしたソ連軍を解放軍として歓迎したのである。しかし、ソ連軍は社会主義者を中心に「人民政治委員会」を樹立し占領政策に臨んで行った。それは朝鮮民衆の反発をかうものとなった。
著者
小林 昌二
出版者
新潟大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

5月期に口頭発表をした原稿について7月期に補足・補強して「日本古代の集落形態を村落(共同体)」として発表した(『歴史学研究』、626号、1991年11月)。この要旨について簡単にふれ、以後の研究について記す。一.弥生後期の環濠集落の解体により、古墳時代の豪族居館跡と集落跡とに分化・分裂していく様子を跡づけようとした。豪族居館も6世紀半ばを境に度質し、環濠土塁などの防御施設をもたないものとなっていく実態を,これまでの発堀調査例から指摘した。二.古代史の文献からも7世紀初頭の小墾田宮に環濠土塁は知られず,最近の調査例からも確認されない。その点からも豪族居館跡の変質も類推された。その背景に,志紀県主が屋根に堅魚木を掲げて雄略大王に処断された古事記記事のように,大王様による規制・王法の存在を想定した。三.大王権・主法の関連するこの時期の問題としてミヤケの,とくに後期ミヤケの事例として播磨風土記の扱う揖保郡の開発問題と,上毛野の緑野・佐野屯倉の検討を行った。(そのためのフィ-ルドワ-クと更なる資料蒐集の必要から調査を以後において行った。)四.古代集落をいくつか集めた「村」(共同体)の史的前提の基本をミヤケにおいて理解することは,豪族居館の環濠形態の規制をした大王権・王法を媒介にして可態であると思われ,従って,日本古代の「村」ムラには同称に環濠や村門などがないという特質に結びつく。ミヤケと集落,豪族居館と集落など具体的に実証しなければならない課題を残しつつ,一応巨視的な見通しを確立できたように考えている。以後,こうした実証的課題のために資料蒐集とその分析・検討・フィ-ルドワ-クを重ねているので、成果がまとまり次第発表する予定である。
著者
肥田野 登 中川 大
出版者
東京工業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

本研究は大都市の都心部において郊外鉄道を直通運転した場合の効果を把握し, その効果の帰属について関連する主体別に明らかにすることを目的としている. 筆者らは郊外鉄道, 道路及び公園などのインフラストラクチャー整備に伴う効果を十全にかつ二重計算なく捉える方法として土地資産価値に注目して分析を進めてきた. 本研究はその一環として従来十分明らかにされてこかった都心部での交通プロジェクトをとりあげたものである.そのため, まず都心部での主体との関連性を明確にした. そのけっか, 既成市街地内においては土地利用変化や地代上昇に対しての既得権者の抵抗があり, 必ずしも便益が地価に転移しない可能性が示された.またこれらの効果を定量的に計測するために土地利用予測モデルを構築した. 都心部での鉄道サービス向上に伴う土地利用変化をきめ細かく把握する実用的なモデルは現在のところ存在しない. そこでここでは東京の新玉川線, 小田急線の半蔵門及び千代田線乗り入れを対象としてとりあげ, 新たに商業集積地区を単位とし, かつ地区間の複合条件をとり入れた集計型ロジットモデルを作成することとした. モデルは小売, サービスその他事業所(3次のみ)ごとに推定し, 概ね妥当な結果を得た. 説明要因の中では後背地のポテンシャルに係わるものが最も説明力が大きなものとなっている. 又モデルによる現況再現性も高い. 次にこのモデルを中心として関連する土地所有者, 事業所, 鉄道事業者, 自治体ごとの便益と費用を計測するための影響分析のサブモデル及び地価関数を推定した. 又事業者の地代についてはヒアリングから得られた値を用いた. その結果これらの郊外鉄道の都心部への乗り入れは土地資産価値で8700億円の上昇をもたらし, 又事業所, 港区にも便益が帰属することが判明した.
著者
大嶽 秀夫
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

行政改革は、「小さい政府」、「民間活力の応用」、「規制緩和」などをスロ-ガンとして行われたものである。ところが、その実施過程ならびに結果において、コ-ポラティスト的性格が強く現れるというパラドックスが見られた。例えば、電電公社の民営化を通じて、自由化や規制緩和が促進されたことは言うまでもないが、他方で、民営化の過程ならびにその結果において、コ-ポラティスト的特徴は一層強まった。第一に、全電通は、電電三法の国会審議に対し、総力を挙げて圧力行使を行ったが、その過程で従来からの社会党を介した影響力のチャネルばかりでなく、自民党との直接の接触のル-トを開拓、利用した。全電通が、単なる労働条件や雇用の問題を超えて、産業政策についての自らの主張を確立し、それを代表させるチャネルを確立していったという意味で、(メゾ)コ-ポラティズムへの一歩であるといってよい。また、自民党の側も、それまでの労働組合(特に総評系労組)の政治参加のアクセスを拒否する態度から、政治参加を容認、奨励するあり方へ転換した。転換した。この意味でも、日本政治が、行政改革を通じてコ-ポラティズムに一層近付いたと解することができる。他方、経営との関係でも、全電通は、民営化に関して経営者との利害を一致させ、むしろ積極的に民営化を推進したと言って過言ではない。全電通の主張は、経営側とほとんど同じものであり、いわば経営側の尖兵として政治活動を行ったのである。この(ミクロ)レベルでも、自由主義的改革は、コ-ポラティズム的労使協調を一層促進させたのである。また、電電公社の民営化は、一人の解雇者も出さずに実現された。実は、カッツェンシュテインの分析したスイスやオ-ストリアの例が示すように、(国際的)自由化は、国内のコ-ポラティズムを生み出す基礎たりうるのであり、この例と比較すれば、日本が特に特異な構造を示しているというわけではない。「国益」ないしは「企業の利益」という観点が貫徹すれば、国際市場、国内市場における競争のために労使が協力するのは当然のことであるからである。この観点に立てば、ミクロ・レベルのコ-ポラティズムが自由主義的改革によって一層進行したことは何等驚くべきことではない。
著者
大嶽 秀夫
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

本研究は, 戦後日本と西ドイツの防衛政策の展開を, アメリカ政府の軍事政策との関連を一つの焦点におきながら研究する計画の一環である. 二年度にわたる今回の研究では, 両国の再軍備とその展開過程を実証的に分析し, 相互に比較することが中心となった. とくに, 日本の再軍備に関しては, インタビューや資料発掘を通じて, これまで明きらかにされていなかった再軍備政策の様々な側面が解明できたと考える. 報告諸第一部では, その成果として, 一九五〇年七月のいわゆるマッカーサー指令の背景はなんであったか, それが日本政府にいかに受け取られたか, また, マッカーサーや吉田の長期的再軍備構想はいかなるものであったか, その構想が警察予備隊から保安庁へ改組にどう実現したか, などを明らかにした. さらに, 第二部では, これまで研究者に利用されたことのない山本善雄文書を主として使いながら, 旧海軍グループが海上自衛隊の再建にいかなる役割を演じたかを詳細に検討した. 続いて第三部では, 保守党政治家による積極的再軍備論の主張の登場の背景とその展開を分析した. ここでは, とくに芦田, 石橋, 鳩山などいわゆる「リベラリスト」がなぜ, 再軍備論を通じて日本政治の最右翼に位置することになったかを詳しく検討した. ついで, 野党, 即ち日本社会党とドツ社会民主党の再軍備政策の比較を研究成果としてとりまとめた. 即ち, 第四部では, 一九五〇年代におけるドイツ社会民主党の防衛, 経済政策上の「転換」を日本社会党との比較を通じて検討した. さらに, 第五部では, 日本の右派社会主義者の防衛論を検討し, 西ドイツと同様の「転換」に失敗したのはなぜかを分析した. 以上のことから明らかなように, 本研究は, もう一つの特色として, 再軍備を単なる防衛政策の問題としてではなく, 広い政治対立の一側面としてとらえ, その対立のイデオロギー的, 政治文化的背景を検討したところに特徴があろう.
著者
常木 和日子
出版者
島根大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1985

本年度は魚類特有の脳室周囲器官である血管嚢の系統発生を調べた. 魚類のうちでも特に種数が多く多様化の著るしい真骨魚を主な対象とし, これらの脳の連続切片を作成した. 固定した真骨魚はアナワナ目からフグ目にいたる約2百種である. まだすべての種で組織標本の作成を完了したわけではないが, ほぼ全体像が明らかになった.真骨魚中, 最も原始的とされる淡水性のアロワナ目では, ほとんどの種で血管嚢が欠如または退化していた. ウナギ目, ニシン目, サケ目では調べたほとんどの種で血管嚢はよく発達していた. コイ目, カラシン目, ナマズ目, ジムノトス目の骨鰾類4目では, 血管嚢は全くないものからよく発達しているものまで様々であった. しかし, 概して発達の悪いものが多かった. 一方, サヨリ, サンマなどを含むキプリノドン目およびトウゴロウイワシ目では, 血管嚢は調べたすべての種で欠如していた. このグループは淡水魚, 汽水魚および二次的に外洋表層に進出した仲間を含んでいる. 棘魚類ではフサカサゴ目, スズキ目, カレイ目, フグ目などほとんどのグループで血管嚢はよく発達していた. ただし淡水魚, 汽水魚を含むハゼ科, グラミィ科の一部で血管嚢の退化傾向がみられた.以上の結果から, 真骨魚では血管嚢は淡水生活に伴って退化消失の傾向を示す器官であることがうかがわれる. しかし, 血管嚢は組織学的には浸透圧調節に関係した器官とは考えにくい. 古く, 血管嚢は水圧の感受に関係した器官と考えられたことがあったが, 淡水域は海に比べて浅いこと, また一部の外洋表層遊泳魚で血管嚢がないことなどを考え合わせ, この説の妥当性をさらに検討することが必要と思われる. 以上, 血管嚢の存否を適応の観点から考察したが, 適応は進化の一面であり, ここに真骨魚の系統発生史の一端をうかがうことができる.
著者
保田 孝一
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

1992年ペテルブルグのロシア海軍資料館で、1861年の対馬事件に関するロシア側の一次史料を発見した。それに基づいて、当時幕府の非公式の顧問だった有名なフォン・シ-ボルトが、この事件と東禅寺事件を解決するためにどのような役割を果たしたかを明らかにすることができた。その中心資料は、1861年にシ-ボルトが横浜と江戸から、ロシア東洋艦隊提督リハチヨフに宛てた5通の手紙である。これらの手紙を読むとシ-ボルトが、ロシア側からも、幕府からも尊敬されていたことが分かる。しかしシ-ボルトが親日的、親露的立場から事件を解決しようとして日露両国へ行った提言は、事件を解決するために直接の効果をもたらしはしなかった。明治時代の日露関係は、今想像するよりもずっと友好的であった。両国の皇室外交は、日露戦争の前にも後にも活発で、両国の皇族や重臣は相互に友好訪問をくり返していた。たとえば日露戦争の前に訪露した皇族には、有栖川宮熾仁・威仁両親王・小松宮彰仁親王・閑院宮載仁親王らがいる。ロシアからはアレクセイ大公、アレクサンドル・ミハイロヴィチ大公、キリル・ヴラディーミロヴィチ大公らが訪日している。訪露した最大の政治家は伊藤博文であった。かれは生涯に3回ロシアを訪れている。かれの持論は、日露戦争を避けるために満韓を交換するという提案である。つまり韓国は日本の、満州はロシアの影響下におくというのである。伊藤のこの提案は、日露戦争後に日露協商として実を結んだ。
著者
川本 重雄
出版者
北海道工業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

本研究は、大きく分けて三つの内容からなる。一つは、科学研究費補助金の助成を受ける以前から続けていた、『類聚雑要抄』および『類聚雑要抄指図巻』の写本の調査である。これまでに、『類聚雑要抄』については、京都大学菊亭家本・陽明文庫本・内閣文庫本(十三点)・国会図書館本(三点)・宮内庁書陵部本(六点)・群書類従来、『類聚雑要抄指図巻』については、サントリ-美術館本・東京国立博物館本(二点)・慶応大学図書館本・宮内庁書陵部本を調査することができた。二つめは、こうして集めた諸写本をもとにした校合作業である。『類聚雑要抄』は、京都大学菊亭家本を底本に、諸写本と校合した結果を、本年度作成した報告書にまとめた。また、『類聚雑要抄指図巻』については、平成八年度科学研究費出版助成補助金を申請中である図書『類聚雑要抄指図巻』において、その成果を報告する予定である。三つめは、『類聚雑要抄』・『類聚雑要抄指図巻』の成立やその内容についての研究である。従来、『類聚雑要抄』の作者を平知信とする説があったが、その誤りを指摘し、左大臣藤原頼長の家司藤原親隆がその編者であることを明らかにした。また、『類聚雑要抄』各巻の内容を詳細に検討することによって、いくつかの記事の誤りを指摘したり、各巻の成り立ちの差などを明確にすることができた。こうした『類聚雑要抄』についての検討内容は、報告書の中で詳しく述べられている。このほかに、記事の補正の多い群書類従本の『類聚雑要抄』がどのような史料によって補正したかといった問題を現在検討している。
著者
辻 彰 寺崎 哲也
出版者
金沢大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

本研究は、「種々の栄養物質およびその構造類似薬物の小腸、腎臓、肝臓、脳組織における細胞膜輸送機構」を解明し、「担体輸送系の基質認識特性」を検討することによって「組織選択的ドラッグデリバリ-システムの確立」を目指すことを目的とした。小腸上皮細胞膜輸送にはラット、ウサギ刷子縁膜小胞を、腎尿細管上皮細胞膜輸送にはラット側底膜小胞および刷子縁膜小胞の他にラット腎、肝組織抽出法を、血液脳関門輸送には、ウシ単離脳毛細血管、脳毛細血管内皮培養細胞および脳組織抽出法を、それぞれの目的に応じて用い、以下に示すように薬物の担体介在輸送を明らかにした。1)リン酸系薬物:リン酸構造を有するfosfomycinは、既に報告したfoscarnetと同様に、細胞内に向けられたNa^+勾配を駆動力として小腸刷子縁膜リン酸輸送系を介して二次性能動輸送される。2)モノカルボン酸系薬物:本系薬物の消化管吸収や脳移行は従来よりpHー分配仮説に従って単純拡散で進行すると解釈されてきた。これに対して本研究では、酢酸が小腸刷子縁膜をH^+との共輸送系あるいはHCO_3ーとの交換輸送系を介して二次性能動輸送される。いずれの輸送においても酢酸の取り込みはpH依存的であり、管腔側酸性環境で促進される。血液脳関門においても酢酸はH_+と共輸送系を介してpH依存的に脳内に取り込まれる。これらのモノカルボン酸輸送系はnicotinic acid,salicylic acid,valproic acidなどのモノカルボン酸構造を有する薬物のみを立体選択的に認識し、輸送する。3)塩基性薬物:thiamine,scopolamine,eperizoneなどの塩基性薬物は脳毛細血管内皮細胞コリン輸送系を介して脳内に取り込まれる。βーラクタム系抗生物質:腎臓と肝臓の血液側細胞膜および肝胆管腔側膜をprobenecidと共通の有機アニオン輸送系を介して取り込まれる。以上の知見は、生体膜輸送系の構造認識輸送特性を利用することによって、薬物を特定の組織にタ-ゲッティングし、または逆に移行性を回避させるなど、創薬に貢献するものと期待される。
著者
清澤 毅光 安田 潤 金井 省二 勝田 雄吉 大田 春外 宮田 由雅
出版者
静岡大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本年度の研究目的に沿ってまず実数体や複素数体上のバナッハ空間について図書、論文等により現在どのようなことが研究されているかの理解を深めた。さらに非アルキメデス的付値体上のバナッハ空間についての文献も調べ、世界の現状を把握した。また、学会、シンポジウム等に参加したり、研究分担者等との討論等を通してこの分野に関連する種々の知識を得た。これらのことを通して本年度主に研究したことは、1.バナッハ空間上のある種の分解について。2.コンパクト作用素の拡張。3.位相空間上の非アルキメデス的付値体に値をとる有界な連続関数の空間や第2次共役空間等における補空間をもつ部分空間について、である。そして得られた結果は、Kを非アルキメデス的付値体、E,FをK上のバナッハ空間とするとき次の通りである。1.については、(1)E上のSchauder分解は強収束するが一様収束はしない。(2)Kが球完備でEがGrothendieck空間のとき、EはSchauder分解をもたない、ことを示した。この結果はThe Rocky Mountain J.of Mathで発表されることになっている(現在校正済みである)。2.については、(1)Kが球完備のときEの部分空間からFへのコンパクト写像Tは、そのノルムを変えないでE全体で定義されFへのコンパクト写像に拡張できる。(2)Kが球完備でないときEがstrongly polarでFがpolarならば、Tは任意のε>oに対して、E全体からFへのコンパクト写像でそのノルムが||T||と(1+ε)||T||の間にあるものに接続できる、ことを示した。3.については、(1)BC(cl^n)_1)がCo(] SY.encircled+. [)Xと線形同型となるバナッハ空間Xが存在する。(2)Kが球完備でないときBc((Co)_3)がl^m(] SY.sym. [)Yと線形同型となるバナッハ空間Yが存在する、ことを示した。ただし(l^m)_1、(Co)_1はl^m、Coの元でノルムが1以下である全体である。2.、3.については、現在投稿中である。
著者
野口 昌邦
出版者
金沢大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

乳癌の発生率や死亡率は、欧米と日本では大きく異なっており、その原因の一つとして脂肪摂取の違いが上げられる。すなわち、前者ではn-6系の多価不飽和脂肪酸(主にリノール酸)、後者ではn-3系の多価不飽和脂肪酸(主にEPAあるいはDHA)を多く摂取することが知られている。実験的にもリノール酸は乳癌の発生、増殖、転移に促進的に働き、EPAあるいはDHAはそれらに抑制的に働くことが知られている。そのため、乳癌の多い欧米のみならず、増加しつつある日本でも、EPAあるいはDHAは乳癌の予防および治療の点から注目を浴びている。そこで、In vivoおよびIn vitroの研究でリノール酸、EPAおよびDHAの作用機序について研究し、次の結果を得た。(1)リノール酸は、マウスに移植したホルモン非依存性乳癌(MM48)の増殖および転移を促進し、EPAおよびDHAはそれらを抑制した。(2)リノール酸は、In vitroでヒト乳癌細胞(MDA-MB-231)のProstagland in EやLeukotriene Bの分泌、および細胞増殖を促進した。しかし、EPAおよびDHAはそれらを抑制し、EPAの抑制はn-3/n-6比が1:0.69、DHAのそれはn-3/n-6比が1:2.08以上で認められ、更にそれらの抑制は培地中のLeukotriene BよりもProstaglandin Eの濃度と相関することが明かとなった。(3)リノール酸は、In vitroでヒト乳癌細胞(MDA-MB-231およびMCF-7)の増殖を促進し、更にMCF-7乳癌細胞ではc-mycの発現を促進することが明かとなった。以上、リノール酸、EPAおよびDHAの乳癌に対する作用機序はアラキドン酸代謝産物やc-mycなど癌遺伝子が関与していることが示唆されたが、依然、不明な点が多い。しかし、EPAあるいはDHAは乳癌の予防および治療において重要な役割を果たすと思われる。
著者
山本 経之
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

3-panel runway装置ならびに2-または3-lever operant装置を用いて、短期記憶における大脳辺縁系諸核の機能局在性を脳の局所破壊ならびに脳内微量注入法を用いて明らかにした。1)嗅球摘出によって3-panel runway taskでの参照記憶ならびに作業記憶は共に著しく障害された。また3-lever operant装置を用いての遅延見本合わせ課題(DMTS)および2-lever operant装置を用いての逆転学習は共に障害された。2)背側海馬(DH)破壊によって作業記憶及びDMTSは著しく障害されたが参照記憶には影響なかった。またmuscarinic antagonistスコポラミン、nicotinic antagonistメカミラミン、BZD/GABA_A agonistムシモールおよびクロルジアゼポキサイド、5-HT_<1A> agonist 8-OH DPAT、NMDA antagonist CGS 19755およびCPP、NO合成阻害剤L-NAMEのDH内微量注入によって、作業記憶は障害された。DH破壊による記憶障害はcholinesterase阻害剤フィゾスチグミンおよびテトラヒドロアミノアクリジン(THA)によって改善された。3)乳頭体(MB)破壊によって作業記憶・参照記憶は共に障害されたが、DMTSや逆転学習には影響なかった。一方、視床背内側核(DMT)破壊によってDMTSだけが著しく障害された。MBまたはDMT破壊によって惹起される記憶障害はTHAによって改善されなかった。4)扁桃体基底外側部(BLA)破壊によって作業記憶は著しく障害されたが、参照記憶は変化なかった。この障害は扁桃体皮質腹側部破壊では認められなかった。スコポラミンおよびCPPのBLA内微量注入により、参照記憶には影響なかったが作業記憶は障害された。5)大脳基底部破壊により作業記憶・参照記憶及びDMTSは著しく障害された。また逆転学習も障害された。このように脳の局所破壊によって、破壊部位に依存した特徴的な記憶障害が惹起された。これらの成果は脳における記憶の機能的局在性を理解する上において有用な糸口を与えてくれた。
著者
橘 治国
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

北国においては、降雪や積雪の汚染とその自然環境への影響が深刻な社会問題となりつつある。雨と同様に、大気を降下する雪(降雪)にも大気中の微量な有害物質が混入し、さらに地上に積もった雪(積雪)には人間活動によって廃棄されるゴミをはじめさまざまな有害物質が混入し、汚染はさらに進行する。このような汚染した雪は、春先に一度に溶けて、水や土壌環境に影響を及ぼすことになる。実際、雪の汚染による山地湖沼・小河川の富栄養化や都市近郊水域での有機汚濁や微量金属汚染が観察されている。本研究は、上記の認識のもと、水域環境の汚染制御あるいは水資源としての降雪利用という立場から、降雪と積雪の汚染の実態と汚染機構、そして汚染物質の融雪水への輸送(流出)機構を明らかにすることを目的とした。さらに、積雪の汚染制御方法についても検討を試みたものである。結果として、積雪は、大気経由のほか、道路粉塵や生活関連の廃棄物が多量に混入して著しく汚染していること、これらの汚染物質は主に固形物質からなり、これには有機物質、栄養塩そして重金属元素がかなりの濃度で含まれ、環境への影響を無視できない範囲にあることがわかった。汚染機構の特徴として、積雪はそのトラップ機能によって汚染物質が高濃度になること、局所的には道路粉塵の飛散の影響が大きいが、広域的な微細粉塵の拡散による影響も大きいことがわかった。また家庭系の廃棄物の積雪への投棄を無視できないことがわかった。このような汚染した降雪や積雪の融解による水系汚染制御に関しては、汚染物質発生源での発生量削減の努力のほか、除雪対策が密接に関連していることがわかった。汚染雪の分別除雪と処理、雪捨て場での汚染物質の流出防止対策などが望まれる。研究はまだ緒についたばかりである。個々の汚染物質の挙動と環境影響、発生源防止対策の具体化、除雪の効果的な方法などをについて継続して調査する必要がある。
著者
新 隆志 村尾 澤夫
出版者
熊本工業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

診断用酵素として現在実用化されているアスコルビン酸オキシダーゼはキュウリ等の高等植物由来のものであるが.これら酵素は保存安定性が極めて悪いという分析酵素として致命的な欠点がある。そこで.研究代表者らは.より安定な酵素を微生物に求めてスクリーニングし.カビH1-25株の分離に成功した。本研究課題では.微生物で始めて得られた新規なアスコルビン酸オキシダーゼを研究材料にして.酵素の諸性質の解明.分析酵素としての実用性の検討などを目的にした。酵素生産菌株の分類学上の位置について調べた結果.Acremonium Sp.と同定した。本菌の培養上漬から酵素の分取を行い.各種クロマト操査によって.本酵素を電気泳動的.HPLC的に均一なものとして得た(収率8.8%.比活性上昇850倍)。この精製標品を用いて諸性質を調べた。本酵素の至適pHは4.至適温度は45℃.安定pH6〜10.熱安定性60℃であり.植物由来のものに比べて.極めて安定な酵素であることを明らかにした。また分子量8.0万(SDS-PAGE).7.6万(ゲルロ過).等電点4.0.銅約4グラム原子/モルを含み.糖を14.1%含むことなどの性質を明らかにした。L-アスコルビン酸に対するKmは0.19mM.分子状酸素を電子受容体として反応産物デヒドロアスコルビン酸を生成することからEC1.10.3.3に分類できる酵素であることを明らかにした。次いで応用面について検討を進め.アスコルビン酸の酸化に伴う溶存酸素消費速度を測定することによってアスコルビン酸の定量ができることを明確にした。臨床分析酵素としての実用性について検討し、コレステロール測定糸などで、本酵素の実用性が高い事を明確にした。
著者
田代 真 加藤 幹郎
出版者
帯広畜産大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

一般にすれ違いと必然性を欠いた安易な結末に特徴づけられるメロドラマという物語形態は、各時代の支配的表象メディアにのって、各物語媒体(小説,演劇,映画)を横断してきた。とりわけ今世紀には、映画という物語媒体をつうじて、新しい物語ジャンルの生成と大衆文化の想像力の形成の原動力として、この物語媒体にとどまらない支配的、普遍的な世界認識方法として機能するに至っている。本研究では、従来の悲劇を規範とした文学研究からはともすれば取りこぼされてしまいがちであったこのメロドラマに着目し、この物語形態の構造と歴史を、文化史的、社会史的な文脈のなかで明らかにすることをめざした。具体的には、1.この物語形態の集約たる20年代〜50年代のハリウッド映画という物語媒体におけるメロドラマの生成と構造を、(1)個別ジャンルにおけるメロドラマ的要素、(2)ジャンル間の混淆とメロドラマの横断性、(3)映画産業のイデオロギーと観客の受容の歴史的形態の心理社会学的調査の分析によって明らかにし、翻って2.メロドラマ映画とその歴史的先行形態としてのオペラの比較分析を媒介として系譜学的に遡行し、3.(1)19世紀英国ヴィクトリア朝演劇におけるメロドラマ構造と観客に対する舞台効果の関連性および(2)18世紀イギリス感傷小説の発展過程におけるメロドラマ構造と語りの多元性におけるジャンルのカ-ニバレスクの関連性を探った。上述の分析によって、メロドラマの横断性とは、神学と非民主的イデオロギーを背景に発達した悲劇のジャンル的な固定性に対して、封建体制の終焉とブルジョワ階級の台頭という社会的道徳的価値的変動に対応する神なき時代の民主的イデオロギーとして、この物語形態に特有のジャンル混淆の原理に基づいて、各時代の多様な民衆的想像力の要請に答えつつ同時にそれを形成した、流動性(可塑性)のあらわれにほかならないことが明らかになった。
著者
山口 一郎 齋藤 康
出版者
山形大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

1.当院の通常検査にてHDLコレステロール(HDL-C)100mg/dL以上の対象のうち62名(男17、女45、年齢平均52±14歳、HDL-C 100〜173、平均109±12mg/dL)で白血球からDNAを抽出した。2.イントロン14変異ヘテロ接合体4名(女のみ、HDL-C 114±9mg/dL)、エクソン15ヘトロ接合体16名(男3、女13、HDL-C 110±12mg/dL)が検出され、複合ヘテロ接合体とホモ接合体はなかった。両変異を持たない42例(男14、女28、HDL-C 109±113mg/dL)と前2群のHDL-C平均値には差がなかった。3.イントロン14変異頻度は3.2%で一般人口の約5倍、エクソン15変異頻度は12.9%で一般人口よりも約2倍高値であった。両者併せた頻度は16.1%で、HDL-C 100mg/dL以上の対象の約1/6であった。4.イントロン14変異群のCETP蛋白量は0.8±0.2ng/mLで、無変異群1.6±0.4ng/mLの1/2であった。一方エクソン15変異群のCETP蛋白量は1.7±0.4ng/mLで、無変異群と差がなかった。5.結論(1)100mg/dL以上の高HDLコレステロール血症の1/6にCETP遺伝子変異が関与する。(2)イントロン14変異ではCETD発現が低下するが、エクソン15ヘテロ変異では低下しない。(3)高HDLコレステロール血症にはCETP遺伝子変異以外の要因の関与が想定される。
著者
平松 緑
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

放り上げ刺激により痙攣が誘発可能になったElマウスの安静時〔El(+)〕,放り上げ刺激をしていないElマウス,すなわち痙攣誘発のないELマウス〔El(-)〕,及びElマウスの母系であり痙攣素因のないddYマウスの大脳皮質切片を作成し、放射性タウリンとアスパラギン酸を用いてuptakeとreleaseについて検討した。その結果、(1)El(+)のタウリンのuptakeはddY及びEl(-)に比べて低下していること、(2)El(-)のタウリンのreleaseはddYに比べて増加していたが、El(+)のreleaseはEl(-)に比べて低下していること、(3)El(-)のタウリン量はddYに比べて高いが、El(+)とは有意差のないこと、(4)El(-)のアスパラギン酸のuptakeはddYに比べて低いが、El(+)のuptakeはEl(-)に比べて高いこと、(5)El(-)のアスパラギン酸のreleaseはddYに比べて低下しているが、El(+)のreleaseはEl(-)に比べて増加していること、(6)El(-)のアスパラギン酸の量はddYに比ベて高いが、El(+)のアスパラギン酸の量はEl(-)に比べて低下していること、が明らかとなった。タウリンは抑制性神経伝達物質、アスパラギン酸は興奮性神経伝達物質と想定されている。けいれん準備性を獲得したElマウス〔El(+)〕の大脳皮質においては、El(-)に比べてタウリンのuptakeとreleaseは低下しているが、アスパラギン酸のuptakeとreleaseは亢進していることが明らかとなった。又、Elマウスの痙攣を阻止するdiphenylhydantoin及びdipropylacetateは、El(+)のタウリンのreleaseを亢進させることが認められた。これらのことは、興奮性神経伝達物質の機能亢進と抑制性神経伝達物質の機能低下が、Elマウスの痙攣準備性に密接に関与していることを示唆している。