著者
東 正彦
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

“C-N balance"アイデアに基づき、以下の成果をえた。1.シロアリ共生系(1)シロアリの“C-N balance"機構には「Nをinput側に加える」「Cを選択的にoutputする」の二通りがあることを示し、シロアリの共生生物との相互作用のうち、この二つの“C-N balance"法として機能するものをまとめた。(2)“C-N balance"の能力に見合う程度にしか食料資源を利用できないことを見い出し、ワンピース(巣をなした枯れ木を食糧源にする)タイプよりセパレーツ(巣と食糧源を分離する)タイプの方がより繁栄している現象、およびセパレーツ・タイプにしか真のワーカー(不妊の職蟻)が存在しない現象を説明した。2.生態系の栄養動態(1)水域生態系で、植物がとり込めるNに対応する以上に光合成によって作り出してしまう余剰のCを、EOC(細胞外排出炭素)として「垂れ流す」ことに着目することによって、通常のgrazing food chain、microbialgrazing food chain、detrital food chainの相対的な発達の度合いを左右する機構を示した。(2)生態系における“C-N balance"プロセスに着目することによって、森林、草原、水域の生態系機能における構造的差異を浮き彫りにできることを示した。3.生態系の発達機構に関して(1)植物生産者と分解者の間の「協同進化」によって生態系の発達過程が進むこと理論的に示した。(2)珊瑚礁生態系の発達機構を“C-N balance"のアイデアに基づいて説明する理論モデルを得た。以上の成果は、“C-N balance model"の一般的有効性、一つのパラダイムとして発展する可能性を示唆するものと言えよう。
著者
柳井 道夫
出版者
成蹊大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

1970年代のタイの新聞をみると、日本に対するよりもアメリカに対する関心が強いことがわかる。英字紙も含めて、日本についての記事よりもアメリカについての記事が件数・スペースともにはるかに多い。大規模な日本製品不買運動のあった1972年や、田中首相の訪タイに反対する激しい反日デモのあった1974年においてもそうである。また1975年以降、日本がタイに対する最大の援助国となってからもそうである。その中で、きわめて厳しい対日感情が示されている。じつはこの厳しい対日感情の示される時期が、日本に対する関心の呼び覚まされる時期でもあった。日本の商品がタイに溢れんばかりに氾濫しはじめたからである。その氾濫にいたるプロセスが、日本製品不買運動を生むことになるのである。この時期のタイの新聞には、日本の商社および日本のビジネスマンに対する批判が、社説にもコラムにも頻繁に現われる。ある程度の誤解やタイの法律の不備によるところもあるのだが、日本の商社および日本のビジネスマンが不公正な手段でタイの産業を圧迫し、タイ製品を駆逐し、タイの市場を支配しつつあると論じているのである。しかし1980年代になると、日本の商社やビジネスマンの対応の仕方も変わり、ビジネス以外のさまざまな領域での日本とタイとの交流も活発化し、日本の対外援助のあり方も少しずつ変化し、対日感情も好転しながら、新聞における日本関連の記事も増えてゆく。1980年代後半の集中豪雨的な日本企業のタイ進出やODAの増加は、潜在的な批判をくすぶらせながらも、タイ社会に雇用の機会をもたらし、日本人との接触の機会を増やし、文化面での交流とあいまって、次第に好意的な対日感情を生み出してきているようである。こうした中で、日本の新聞でもタイ関連の記事が増えてきている。
著者
辻野 智二 島 章
出版者
熊本大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

血管内に気泡が形成し、血管内腔が閉塞されるガス塞栓は、開心術、血管造影時等における合併症として発症するほか、潜水病等の成因ともなる。また、体外衝撃波結石破砕術時における副作用の要因として、衝撃波による血液中のキャビテーション発生が指摘されている。さらに、職業病の一つである振動性疾患(白ろう病等)についても、その発症機序には加振される血液中の生成気泡が関与する説が有力視されるなど、血液中における気泡形成の問題は、医工学上極めて重要な研究課題となっている。本研究では、液中における微細気泡の発生条件を検討するため、円板回転・減圧型気泡発生装置を試作し、気泡発生に及ぼす円板回転速度および減圧度の影響について実験を行った。また、キャビテイの様相の観察、気液二相流計測システムを用いたボイド率の計測を行い、次の結果を得た。1.高回転速度では、低減圧域で気泡が発生する。減圧度の増加と共に、低速度で気泡が生成しうる。例えば、減圧度を50mmHgとした場合、気泡発生時の速度は2.8m/sとなる。2.減圧度が大きくなるに従ってボイド率が増加する。山羊新鮮血(ヘマトクリット25%)中のボイド率は、減圧度80mmHg、速度1m/sで約1%である。3.低減圧度では、発生する気泡サイズは小さく、その成長も緩慢である。しかし、減圧度が300〜500mmHgでは直径1〜2.5mm程度の気泡が形成され、気泡間の合体も促進される。気泡力学に基づく血液中の気泡挙動に関する理論的研究を行うことにより、次の結果を得た。気泡の振動は、衝撃的な圧力の発生を伴い、その圧力の大きさは生体損傷の要因となり得る。また、発生圧力は、ヘマトクリットが大きいほど低下する。
著者
坂口 けさみ 中島 邦夫
出版者
三重県立看護短期大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

プロラクチンは、単に乳腺発育や乳汁分泌維持作用を示すのみでなく母性行動の誘起、維持にも重要な役割を有するホルモンであることが明らかになってきた。今年度私達は、乳仔接触刺激による非妊雌及び雄ラットの母性行動・父性行動を観察すると共に、脳内のプロラクチン受容体mRNAの発現について検討した。また同時に血中プロラクチン濃度の変化についても検討を加えた。雌及び雄ラットの母性行動については各ラットを収容したケージ内に生後3〜16日目の仔ラットを2匹入れ、crouching, licking, nest building, retrieval and groupingの5項目について毎日2時間、2週間仔に対する行動を観察記録した。脳内のプロラクチン受容体mRNAの発現についてはlong form及びshort formの2つの分子種を同時に特異的に検出できるように構築したRNAをプローブとするRNase Protection Assay法により行った。また血中プロラクチン濃度はEIA法により分析した。その結果、仔ラットに対する母性行動・父性行動の発現には性差なく仔ラットへの接触日数と共に、愛着行動の増加していくことが観察された。そこで乳仔に対する母性行動、父性行動が誘導された雌及び雄ラットの脳内プロラクチン受容体mRNAの発現をみると、プロラクチン受容体mRNAのlong formの発現が有意に増加していた。また母性行動、父性行動を示したラットでは明らかに血中プロラクチン濃度が上昇していた。以上、乳仔に対する母性行動・父性行動は性差を問わず、基本的に備わっている能力であり、プロラクチンは脳内プロラクチン受容体遺伝子の発現を誘導し、その結果仔への母性行動あるいは父性行動を促進することが示唆された。
著者
定本 朋子
出版者
奈良女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

【目的】日常生活における食事の中には、嗜好品としてコーヒーや紅茶のようにカフェインを含む食物がたくさんあり、スポーツ選手も容易にカフェインを摂取するこができる。しかし、カフェインは運動中の糖質および脂質代謝を変動させ、持久性種目の持続時間を延長させるというドーピング作用を持つことが知られてきている。さらに、カフェインが中枢神経を覚醒させることから、中枢神経の興奮水準の相違により大きくパフォーマンスが変わる、重量上げなどにおける力発揮にもドーピング作用を持つのではないのかと注目されてきている。本研究の第1の目的は、種々の強度の力を繰り返し発揮させた際におけるカフェイン摂取が力発揮に与える影響について検討し、力発揮に及ぼすカフェインの影響が交感神経活動を代表する心拍数及び動脈血圧にみられるカフェイン摂取に伴う変動とどのように対応するのかについて検討することである。さらに、筋交感神経活動を実際に計測し対応関係を明きらかにすることを第2の実験目的とした(しかし、数名の被験者について筋交感神経活動を記録したが、プリアンプの性能に問題があり、ノイズの混入を回避できなかった。このため、再現性のある信頼できるデータの収集ができなかったので、第2の実験結果については省略する)。【方法】健康な成人女子15名を被験者とし、静的握力発揮による随意最大筋力(MVC)を測定し、その25%、50%、75%、100%MVCに相当する握力を被験者の主観的感覚尺度により分けて出力させる。4段階の握力を5分間にわたり20秒間隔で8回繰り返し発揮させた。このような力発揮を同一被験者にたいし、体重あたり6mgのカフェインをコーヒーとして摂取した場合とカフェインを含まないコーヒーを摂取した場合とにおいて繰り返し実験を行った。【結果】(1)100%MVCのように高い張力の発揮時には、カフェインの摂取により発揮される握力が有意に増大することが示された。(2)繰り返し発揮される力の減衰を見てみると、カフェイン摂取時の握力が摂取しない時よりも高い(疲労し易い)にも拘らず、摂取しない条件よりも常に高い力が維持できることが示された。カフェインの摂取は疲労感を軽減するのではないかと推察された。(3)(1)の結果にみられる握力の増大と、カフェイン摂取にともなう心拍数と動脈血圧の上昇との間には正の相関が示された。
著者
小牧 元 小林 伸行 松林 直 玉井 一 野崎 剛弘 瀧井 正人
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

近年、ストレスに対する生態防御の観点から、免疫系と視床下部-下垂体-副腎系との関連が注目されてきた。特にサイトカインの一種であるインターロイキン‐1β(IL-1β)がこの免疫系と中枢神経系を仲介する、主要な免疫メディエーターの一つであることが明らかになっている。このIL-1βの同系に対する賦活作用には、視床下部の室傍核(PVN)におけるCRFニューロンの活動が促される必要があるが、血中のIL-1βがいかにして同ニューロンを刺激するのか未だ確定した結論には到っていない。我々は視床下部の終板器官(OVLT)が、その血中のIL-1βが作用する主なゲートの一つである可能性を、同部位にIL-1レセプター・アンタゴニストを前処置することにより確認したところ、血中IL-1β投与によるACTHの上昇は有意に抑制された。一方、一酸化窒素(NO)が脳内でニューロトランスミッターとして働いていることが判明し、特に、NOがアストロサイトからのPGE2産生やCRFやLHRH分泌調節に直接かかわっている可能性がある。そこで、マイクロダイアリシスを用いて、同部位のNO産生との関わりをさぐるために、L‐Arginineをチューブ内に流し、IL-1βによるPGE2産生の変化を見たところ、有意な抑制傾向は認めなかった。しかし、フローベの長さの問題、L‐Arginineの濃度の問題もあり、容量依存生の確認、他の部位との比較まで至っておらず、結論は現在まで至っていない。今後、容量、他のNO産生関連の薬物投与も試みて、確認して行く予定である。
著者
山中 美由紀
出版者
龍谷大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

韓国家族の世代間における位置関係の変化を把握するために、嫁と姑の関係に焦点をあて、韓国水原市において調査を実施した。1992年4月以後、京都韓国学校、韓国文化院資料室(東京)他において資料および情報の収集を行った。9月に訪韓し、韓国老人問題研究所に調査協力を依頼するとともに、水原市において下調べを実施した。調査は、10月ほぼ1カ月間にわたって実施したが、対象者は、嫁として、姑と同居した経験をもつ女性を対象とした。永福女子中学校、永信女子高等学校、老人大学4か所で調査票の配付と回収を行ったが、配付部数は1170部、回収率は80%であった。11月初旬に日本に返送された調査票を整理し780ケースを有効とした。コーデイングしたのち2月にコンピュータによる処理を行った。調査結果のうち主目的であった権威類型については、結婚年次別に分類した4段階の各世代間の変化として、旧世代から新世代に移るにしたがって姑優位型が減少し、嫁優位型が増加する傾向を捉えることができた。また、一致型の減少に対して自律型の増加がみられ、嫁の姑へ追従関係から、嫁、姑の生活領域の個別化の傾向を伺うことができた。こうした嫁・姑の位置関係の逆転現象は、本調査が依拠したところの、増田光吉が神戸市近郊で実施した20年前の調査結果と類似するものであった。
著者
美原 恒 杉木 雅彦 吉田 悦男 丸山 真杉 津島 弘文
出版者
宮崎医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

前年度の研究により、みみず(Lumbricus rubellus)の乾燥粉末中に線溶活性作用をもつ新しい酵素が存在すること、さらにラット、イヌにこの乾燥粉末を経口投与すると、血中線溶活性の亢進、血管内血栓の溶解がおこることから、本年度はヒトへのみみず乾燥粉末の経口投与実験を施行した。実験はVoiunteer7人に腸溶カプセルにみみず乾燥粉末200mgを封入し、1日3回食後1カプセルづつ、計3カプセルを17日間経口投与した。投与前、投与後、毎日一定時間に採血し、その線溶活性、フィブリン分解産物(FDP)、組織性プラスミノ-ゲン・アクチベ-タ-(tーPA)抗原量をそれぞれ測定した。その結果、血液性状の変化で最も著明であったことは、みみず粉末投与24時間後FDPが明らかに増加しており、このFDPがフィブリン分解産物であることを確認する目的で行なったDーD dimerの測定によっても、FDPの上昇とDーD dimerの上昇は平行していた。この結果は、明らかにみみず乾燥粉末の経口投与により、血管内フィブリンの溶解がおこっていることを示すものであると確信された。さらに、投与前には殆ど認められなかったtーPA抗原量が、投与後次第に増加し、実験終了時にはかなり高いtーPA抗原量が測定された。この事実は、このみみず乾燥粉末により生体内の内因性tーPAが放出されることを意味するものと思われた。さらに、みみず乾燥粉末中の血小板凝集抑制物質について追究した結果、血小板凝集抑制活性をもつ2つの分画が得られた。その物質の一つは既に血小板凝集作用をもつことが知られているアデノシンであったが、もう一方の分画は全く未知の物質であった。この未知物質につき種々の方法により物質の同定を行ない、分子量282、化学式C_<12>H_<19>O_4SNaであるフラン化合物と同定された。さらに、この物質は血管拡張作用をも有していた。以上の結果よりみみず乾燥粉末が血栓症治療剤として有用であることが明らかとなった。
著者
松村 英之 橋本 光靖 浪川 幸彦 向井 茂 大沢 健夫 四方 義啓
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

1.橋本は局所環の重複度の研究,ことに交差の重複度が零にならないというセール予想の研究に取り組んだが,大問題なのでまだ結果が出ていない.2.岡田はフィボナッチ半順序集合に関係した半単純代数の増大列とその既約表現などについて研究したが,平成5年9月からM.I.T.に留学中である.3.吉田はlinear maximal Buchsbaum modulesを定義してその性質を研究した.局所環(A,m)上の有限生成加群Mが,e(M)+l(M)個の元で生成されるとき,Mをlinear maximal Buchsbaum moduleと呼ぶ.ただしl(M)=sup(length(M/qM)-e(q,M):q is a parameter ideal of M)Aがmaximal embedding dimensionをもつとき,剰余体A/mのsyzygyがすべてlinear maximal Buchsbaum moduleになるなど,多くの興味ある結果が得られた.この研究は38ページの論文にまとめられたが,なお推敲中である.4.松村は局所環の合成によって非ネーター環を簡単に作る方法を考案した外,留学生鄭相朝の博士論文(一般化された分数の加群とクザン複体),修士2年生の志田晶の修士論文(局所環の準同型のDGファイバーに関するもの)を指導した.
著者
大野 曜吉 仁平 信
出版者
日本医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究では、毒性の極めて強いアルカロイドであるアコニチンに注目し、体内での薬物動態を動物を用いて検討することを目的として課題申請した。従来このような報告が見られなかったのは、中毒レベルでの血液や体液からのアコニチンの定量が極めて困難であったためである。そこで、我々はGC-MSを用いたSelected lon Monitoring法によって微量定量分析を試みた。水柿らの報告した方法に則り、一連の抽出段階ごとに慎重に検討し、更にヒパコニチンを内部標準物質とすることでアコニチンの微量定量が可能となった。ICR雄性マウスの血液試料についてアコニチンの定量を行った結果、腹腔内0.30mg/kg投与群では、投与15分後で17.2ng/mlと最高血中濃度となり、以後ほぼ指数関数的に低下し、120分後で5.93ng/mlとなった。また、0.35mg/kg投与群では同様に投与15分後で32.1ng/mlと最高血中濃度となり、120分後で10.7ng/mlとなった。片対数グラフ上でほぼ直線となる投与後30分以降の血中濃度から薬物除去速度定数(K_<el>)を求めると、0.3mg/kg投与群で0.00718min、0.35mg/kg投与群で0.00835/minと計算され、半減期はそれぞれ、96.5min、83.0minと算出された。以上より、アコニチンの生体内における除去速度は、その血中濃度と比例することが明らかとなった。更に、同様投与量のアコニチンに対し、その非競合的拮抗物質であるテトロドトキシン0.01mg/kgを同時投与した動物実験を実施し、アコニチンの定量を行い、最終段階の検討を進めている。現在までの結果では、アコニチン0.3mg/kg群、0.35mg/kg群のいずれにおいても、死亡時間の延長効果はみられず、投与後15分前後で半数以上が死亡し、充分数の生存例から血中濃度曲線を得ることはできていない。アコニチンとテトロドトキシンとの混合投与では、予期しない効果が発現した可能性があり、それぞれの投与量を段階的に組合せた実験がなお必要であることが示唆された。
著者
常石 敬一
出版者
神奈川大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

1988年度はアメリカ国立公文書館およびイギリスのパブリック・レコ-ド・オフィスにおいて収集した資料の分析、および旧日本軍の生物兵器部隊関係者の面接調査を主に行った。アメリカの資料によって、朝鮮戦争開始の数年前から、生物兵器の使用に積極的な集団が存在したことが明らかとなった。彼らはたとえ試験的であっても生物兵器を使用したい、すなわち屋外実験的なことだけでも是非行いたいと考えていたことが後づけられた。旧日本軍の生物兵器部隊関係者の面接調査においては、旧日本軍関係者に対するアメリカ占領軍の調査の状況を聞くことができ、それによってアメリカ側の関心が穀物・植物への生物・化学・毒素兵器の使用にあったことが推測できた。1989年度は、アメリカ国立公文書館において収集した資料の分析および旧日本軍の生物兵器部隊関係者の面接調査を主に行った。1989年夏に入手した資料を通じ、アメリカ軍が1944年から45年にかけて、報復のための化学兵器使用のシナリオを持っていたことが分かった。この時の準備状況を明確に把握することで、アメリカ軍がどんな準備の下で生物化学兵器を使用しようとするかが分かる。現在この時の準備状況と、アメリカ軍が朝鮮戦争時に生物兵器を使用したという非難前後の状況とを比較検討している。1947年のアメリカ軍の文書によれば、金沢で旧日本軍の人体実験標本を多数入手している。この真偽を確認するため、石井部隊から1944年に金沢医大に転任した医学者に関して面接調査を行い、確認した。
著者
宮内 輝幸 奥村 康 平野 隆雄 片山 仁
出版者
順天堂大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

近年、医療の分野における診断器機はめざましい発展をとげており、とりわけX線CTやDSAなどの開発・改良は著しく、もはやこれらなくしては高度医療が成り立たなくなっているといっても過言ではない。その結果として必然的に水溶性ヨード造影剤の使用頻度が増し、それにつれて多彩な副作用の発生が臨床上重視されている。しかしながらその発生機序についてはすべてが解明されているわけではなく、一部の症状では明らかに何らかのアレルギー反応の関与が疑われるものの、良好な実験モデルが作成できないことなどの理由から、とくに免疫学的機序の研究が遅れている。そこで我々は、今後の研究の展開の一助となることを期待して、実験系の確立すなわち動物(マウス)の免疫方法、抗体産生系の確立および免疫学的検出法の確立をめざし、以下の実験方法を試みた。抗マウス抗体であるDNP-KLHをBALB/cマウスに免疫し、血清中のIgEを増加させる抗体産生系を確立させ本研究に応用した。DNP-KLHを免疫した群と水溶性ヨード造影剤だけで免疫した群、さらに両者を同時に免疫した群にわけて、各群のIgE抗体産生の程度を比較した。抗体検出方法としてはELISA、PCA、FACSを用いた。その結果、1.水溶性ヨード造影剤は免疫反応に直接的には関与しない。少なくとも抗造影剤抗体の存在は否定的であると考えられた。2.しかしながら、水溶性ヨード造影剤の存在下で本来のIgE抗体産生が増強する可能性がある。3.この反応・変化にはインターロイキン(IL-4)が関与していると考えられた。4.現在までのところ造影剤の種類(イオン系と非イオン系、モノマー型とダイマー型)によって免疫反応への影響の仕方に有意差があるかどうかについては断定的な結論は出せない。遅発アレルギーの検討とあわせて今後に残された研究課題と考える。
著者
小野 秀樹 太田 茂
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

我々は覚醒剤の構造関連化合物である4-フェニルテトラヒドロイソキノリン(4-PTIQ)が覚醒剤のアミン放出作用を選択的に抑制することを示してきた。本研究においてはまず覚醒剤のドパミン放出作用の作用部位と考えられるドパミントランスポータに対する4-PTIQの直接的な作用について検討した。ラット由来のドパミントランスポータをCOS-7細胞に発現させ、^3H-4-PTIQのドパミントランスポータに対する作用を研究した。^3H-ドパミンの取込実験からNa^+および温度依存性の取込が観察され、COS-7細胞にドパミントランスポータが発現していることが確認された。また、^3H-4-PTIQにおいてもNa^+および温度依存性の取込が観察された。^3H-4-PTIQのドパミントランスポータに対する結合実験をおこなったところ、kd=727nMの特異的結合が明らかになった。以上から4-PTIQはドパミントランスポータに結合して覚醒剤と同様にアミン神経終末に取り込まれるが、覚醒剤が持つアミン放出作用は弱いため、なんらかの機序で覚醒剤のアミン放出作用を抑制するのではないかと考えられた。次に4-PTIQの臨床応用をめざし、覚醒剤慢性中毒のモデルである逆耐性動物を用いた研究を行った。メタンフェタミンを3-4日おきに4回皮下投与すると移所行動増加作用が強くなった。5回目投与前に側坐核にプロプラノロールを投与すると移所行動の増加が抑制されたが、プロプラノロールは覚醒剤の1回目投与では抑制しなかった。4-PTIQは覚醒剤の1回目の投与時でもこれを抑制するため、4-PTIQは逆耐性に選択的とは言えなかった。以上から4-PTIQは覚醒剤慢性中毒モデルには有効ではないと思われ、今後、急性モデルを用いる研究が必要であると考えられた。
著者
原田 達
出版者
追手門学院大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

今日、さまざまな学問分野で 「知の資本」 概念が多用されている。しかしいまだ統一されたイメージは確定されていない。この概念はおおきく分けて二つの意味で用いられている。ひとつは 「知」 の経済機能に注目したもの (A.シュルツ) 、もうひとつが 「知」 の政治機能に注目したもの (バクーニン以降のアナーキズムの系譜) 。しかし両者は十分な架橋がなされているのではない。その試みは、しかし、いくつか存在している。たとえばA.グールドナーの仕事、さらにI.セレニーの仕事はその例である。ただし、かれらの試みは十分に成功したとはいいがたい。ところで最近注目されているネオ・ヴェーバー主義者 (F.パーキン、R.コリンズ、R.マーフィーら) の 「閉鎖理論」 は 「知」 が一方では経済的機能をもちながらも、他方それを可能にする 「知」 の政治機能を重視して、両者の架橋にかなり成功している。しかも、かれらの理論はバクーニンの影響下にあるW.マハイスキーによって先導されているように思われる。 「知」 を 「権力」 と 「収益」 をめぐる 「閉鎖」 のメルクマールと把握することによってバクーニンからネオ・コンサーヴァティヴまでの 「知の資本 (論) 」 の系譜をたどることができるだろう。以上の研究成果は裏面に記した追手門学院大学文学部紀要 (これは研究成果報告書をかねる) において論じた。
著者
藤井 富美子
出版者
大阪市立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

トリグリセリドを主成分とする皮脂よごれの洗浄に脂質分解酵素リパーゼを応用すると, リパーゼはトリグリセリドをより極性の高いジグリセリド, モノグリセリド, および, 遊離脂肪酸に加水分解し, 界面活性剤による除去を容易にすることが明らかにされている. しかし, 一方において, リパーゼに界面活性剤が共存すると, リパーゼ活性は著しく阻害されることも知られている. そこで, 本研究ではリパーゼを実用洗浄系に応用するために, リパーゼ・界面活性剤複合系での油性よごれの洗浄に及ぼすリパーゼの洗浄効果を検討した. 得られた研究成果の概要はつぎのとおりである.各種のリパーゼ・界面活性剤複合系について, 電気伝導度, 表面張力, 可溶化, ならびに, 吸着等温線などの溶液物性を測定した結果, リパーゼは界面活性剤と結合して複合体クラスターを形成し, そのクラスターはリパーゼの加水分解作用の関与しないスクアランのような炭化水素よごれを可溶化することによって洗浄に寄与することが明らかになった. 一方, リパーゼの加水分解作用をうけるトリオレインのようなトリグリセリドよごれではリパーゼ・界面活性剤複合系において, リパーゼ活性が存在する界面活性剤の低濃度領域では, トリグリセリドはリパーゼの加水分解作用により除去される. しかし, リパーゼ活性がほとんど失なわれる界面活性剤の高濃度領域では, トリグリセリドはリパーゼ, 界面活性剤複合体クラスターベの可溶化によって除去される. ここで, トリグリセリドの洗浄ではリパーゼの加水分解作用は可溶化よりもより効果的である. したがって, リパーゼ, 界面活性剤複合系によるトリグリセリドの洗浄では, リパーゼの活性阻害作用の小さい界面活性剤を選択することが重要であり, AOS, AES系のほうが, SDS, LAS系にくらべて適しているという結論を得た.
著者
松木 民雄
出版者
北海道東海大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

春秋時代の城郭国家では、社会分業は士・農・工・商の摩四民によって構成されるのが一般であった。その中の商業について『春秋左氏伝』を中心として考察を進めた。商に関する用例を分析するにあたっては、商と同様に商業関係の概念を有する賈についても並行して対照的に検討を加え、その用法を明らかにした。『左伝』において商と賈の用例を分析すると、国名・地名・氏・名の用例のほか、商業関係を示す事例が多見され、これを比較した場合、幾つかの特徴が見られる。即ち、商業人や商業身分を示すには商が多用され、僅かではあるが、春秋後期には賈も同意義で互用されることがある。他方、売買行為や価格を示するには専ら賈が使われ、殊に商には売買に関する動詞的用法は見られない。このことは、商と賈は本来的には異なる意味を有していたものであるが、『左伝』では商業人と商業者身分を示す点に於ては次第に融合しあい、互用されるようになる状況を示している。従って春秋中期にあたる宣公十二年に「商農工賈」とあるのは、商と賈が異なる性格を有していた段階の相違点が意識されて記載されてものであり、商は有力な商業者層を含む商業身分を示し、賈は販売を扱う広義の一般商人であって、前者の商は賈と比べて相対的に大商人を含んでいたと察せられる。のち次第に商と賈は接近し、『左伝』に散見する互用事例しとなり、戦国秦漢以降は、商賈が一体化して熟語となって、商人一般の総称としての用法が現われるようになる。『左伝』では、商と賈の別義から、やがて互用され、後には一語(商賈)になるまでの過渡的状況が示されていることが判明された。当該年度の作成にかかる小論「左伝における商と賈」の概要は上記の如きであります。
著者
遊磨 正秀 長田 芳和
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究では、琵琶湖に侵入した生物としてヌマチチブ、ブルーギルをとりあげ、琵琶湖における生態について水中観察を行った。ヌマチチブは、湖底の石礫上に成育する糸状藻類を主要な餌として利用していた。糸状藻類は、琵琶湖沿岸部ではここ10数年ほどの間に急増したものであり、現在、ヌマチチブ以外はこれを餌資源として利用していなかった。このことから、餌資源の分割様式の点では、ヌマチチブは最近に生じた新たな餌資源を利用しており、琵琶湖の在来種と競合することなく、その生態的地位を確立したものと考えられた。またブルーギルでは、琵琶湖に生息するものの中に、体型や微生息場所が異なるものが混在しており、それぞれに摂食様式や繁殖様式も異なると予想されるため、さらに詳しく調査をすすめる必要性が生じた。一方、琵琶湖在来の魚類では、ほぼすべての種が沿岸部で産卵を行い、稚仔魚期も産卵場所付近で生活することがわかっている。そこで在来種のコイ・フナ類に焦点をあて、その産卵様式の詳細について調査を行った。その結果、コイ・フナ類では、繁殖をひかえた成魚は数日先の降雨を予想し、降雨による沿岸部への栄養塩の流入によって引き起こされる動物プランクトンの増大を見込んで産卵していることが推察された。また、そこでは外来種のブルーギルやオオクチバスの稚仔魚はほとんどみられなかった。このことは、在来種と外来種では、初期生活史における餌、空間資源の利用様式に違いがあることを示唆している。このように、ヌマチチブやブルーギルなどの侵入種と琵琶湖の在来種の間では、餌資源などの利用様式に違いが見られ、このことによって侵入種がすでに多様な群集を形成していたと言われてきた琵琶湖に定着できた要因の一つであると考えられる。
著者
吉川 圭二
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

過去3年にわたって、量子宇宙における相転移とゲージ対称性の起源を追求する目的で始めた本研究は、後者の問題に関して物理的および数学的な基本問題を解決することができたこと(以下の項目1)、前者に関しては2次元宇宙模型に於てではあるが4次元問題にも共通して現れると考えられる極めて興味深い結果が得られた(項目2)。1.素粒子の相互作用のゲージ対称性は、一般には理論構成の原理として最初に仮定されるもので、高エネルギーではその全対称性が観測されるが、低エネルギーでは対称性の自発的破れによって、より低い対称性が観測されるのが一般である。しかしこの研究では、逆に高エネルギー領域の対称性よりも低エネルギーの対称性が高くなる例があることを発見し、そのゲージ対称性の発生機構を解明した。それはBerry位相機構で、従来はこの機構ではゲージ場の運動エネルギー項が生成されないとされていた。ここでは、その運動エネルギー項の誘発機構を例示し一般の条件を示した。具体的には、6次元時空におけるU(1)ゲージ理論がKaluza-Klein機構によって4次元時空と2次元のgenusがgのRiemann面の積にコンパクト化した場合、4次元空間におけるゲージ対称性はU(1)のg個の直積になる。これはKaluza-Klein機構とは別のもので、運動エネルギー項はRiemann面のソレノイド・ポテンシャルの自由度が転化する。この新機構は他の位相的に単純でない空間にも適用できるので、現在の標準理論の持つゲージ対称性が全てこの機構で誘発されている可能性も考えられ、今後の研究に大きな示唆を得ることができた。2.一方絃理論に関しては、従来非臨界次元の絃理論が2次元の量子宇宙論の模型として研究されていたのに対して、ここでは臨界次元の絃模型を2次元量子宇宙模型として解釈することで、宇宙の生成消滅や分離された一つの宇宙の持つ自由度などを求めた。とくに、1つの宇宙に棲む知的生物が観測し得る物理量を特定した点は重要な成果である。3.量子宇宙に関しては、3次元のChern-Simons重力理論において、トーラス、de Sitter及びanti-de Sitter宇宙解の古典的及び量子論的発展問題を論じた。
著者
宝来 聰
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

PCR法(ポリメラ-ゼ連鎖反応法)の開発によって、極少量の鋳型DNAから標的とするDNA領域を増幅できるようになった。我々は、様々な民族からなる現代人128人のミトコンドリアDNAの、Dル-プ領域の塩基配列を決定している。このデ-タを基に、考古学的試料の解析に適当な233塩基対の多型性の高い領域を選び、2種類のプライマ-を作成した。本年度は、縄文時代の人骨を4個体、北海道の近世アイヌの骨を6個体の合計10検体の塩基配列を決定した。これら考古学的試料からの塩基配列のデ-タと現代人128人のデ-タをあわせた計139人について、相同な190塩基対についての解析を行った。各々の配列間に起きた塩基置換数を推定し、この領域の塩基多様性の度合を求めたところ、2.26%という値になった。次に、推定した塩基置換数を基に、UPG法で遺伝子系統樹を作成した。縄文人4人と近世アイヌ人2人の6人の系統が、系統樹上の最後のクラスタ-に入った。このクラスタ-には、他に15人の現代日本人とマレ-シアとインドネシアからの3人の東南アジア人が含まれる。このことは、日本の原住民である、縄文人と近世アイヌの一部が、現代日本人と東南アジア人の一部と系統的に近い関係にあることを示している。さらに、全ての縄文人と近世アイヌの系統は、より大きなクラスタ-に含まれる。これは、縄文人や近世アイヌが、系統樹の上で早くに分岐した現代日本人とは、系統的に異なることを示している。この観点からみると、縄文人とアイヌで代表される日本の原住民は、現代日本人のグル-プIIに相当することになる。これら原住民では、グル-プIに含まれる日本人と比べて190塩基対の領域の中に、3から8カ所の塩基の違いがある。したがって弥生時代以降に大陸から移住してきた人たちは、現代日本人のグル-プIの一部に該当するかもしれない。
著者
和田 正平
出版者
国立民族学博物館
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

東北地方においてイタコ、カミサマ、ゴミソなどと呼ばれる民間巫者を介して施行されている冥婚習俗の実態調査を行なった。まず金木町川倉地蔵堂、木造町弘法寺では、夭折した不幸な男女を供養する目的で、1955年頃から死霊結婚を具象する花嫁花婿人形の奉納が始まり、1970年代後半からその数が急増していることが判明した。これは、一般に言われているように冥界結婚が日本列島から消滅したのではなく、東北地方の一部では、むしろ新しい習俗として蘇生したことを意味している。おそらく、巫者の口寄せが人形製作者の商業主義とむすびついたと推察されるが、中牧弘允(民博助教授)の指摘するとおり、東北地方における深刻な農村の嫁不足に対応して、こうした冥婚習俗の施行が盛んになったと解釈されるのである。同様に、山形県山寺立石寺でも掲額されている死後結婚の絵、写真、肖像画、肖像写真は、現代風俗に合せた花嫁花婿人形に変りつつある。また、天童市鈴立山若松寺では、死者の彼岸での幸福な結婚を祈願して、婚礼場面を描いた絵馬が奉納されている。この種の絵馬は、この地方では「むかさり絵馬」と呼ばれ、古い風習として存続していた、「むかさり絵馬」の奉納者は山形県北部と宮城県の在住者が圧倒的に多いが、東京方面から奉納された絵馬も散見され、裾野の広いことが分る。通常、冥界結婚は民間巫者の口寄せ、すなわち、死者の結婚したいという烈しく切ない声を伝えることによって親兄弟等が死霊の怨念を除去するために施行されるが、最近では、病や事故で早世した未婚の子どもを不憫におもう親心から自主的に行なう事例が多くなってきた。東北地方の冥婚習俗はまだ調査を開始したばかりで、資料の整理も不十分であるが、民間巫者によって奉納物に変化があらわれても決して消滅しないものと考えられる。