著者
吉葉 繁雄
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

1.山蛭生息密度の定点調査の継続により,活動期間が寒季側に延長し,12月1月にも採集され,それらが2月に産卵したのは寒冷に対する馴化と見られ,大繁殖終息の兆しはなく,生見域は拡大しつつある。2.大繁殖の要因として(1)シカを主とする野獣の人里出現(源樓地からの伝搬と供血),(2)山蛭の天敵は不在に等しいこと,(3)1984年頃の天候が山蛭の定着繁殖に適したこと;(1)の原因として(a)山林事情(薪炭の需要減でマテバシイ葉繁茂→日射遮断→地表食草不生育),(b)保護獣指定による頭数過密,(c)食性変化,(d)野犬の追撃から逃亡,等が判明。3.水樓昆虫コオイムシの山蛭捕食能力を確認,天敵は4種となったが,双方の生息密度比,遭遇頻度から,駆除には実質上は役立たない。4.ヒトの吸血被害時の最著症状は吸血痕からの出血時間の延長と凝固性喪失による1時間に及ぶ出血で,その後創囲皮内出血,〓痒,人により硬結が生ずるが,1%タンニン酸綿清拭,抗ヒスタミン軟膏塗布,カット絆貼付が有効な簡易必要処置となる。5.山蛭に吸血された人獣の血中には抗山蛭抗体ができ,吸血回数と共に増量,出血を緩和,吸血した山蛭に致死作用を発揮する。外国産別亜種による抗体も共通で,17年前の被害でも抗体価は維持されていた。6.山蛭生息域のシカの第3・4趾間には有穴性炎性腫瘤が形成されてその穴腔内には山蛭が潜居するほか,四肢遠位部全体で数十匹の吸血とは無関数に付着し,シカの恰も山蛭の固有宿主にような関係にある。7.山蛭生息密度は抗体による免疫学的間引きで制御されてもいる。8.鳥類は山蛭に好まれ,吸血による抗体はでき難いので,地上歩行種はヤマビルにとって安全な供血および伝搬宿主となりうる。9.山蛭の野外駆除には煙草葉熱湯浸漬液や硫酸ニコチン液,皮膚面からの除去には食塩末や各種の灰が有効で,全て殺蛭作用を示した。
著者
有賀 豊彦 石井 謙二 桜井 英敏 熊谷 日登美 関 泰一郎
出版者
日本大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

ニンニクを摂取すると,血液凝固系および線溶系には変動はみられないが,血小板機能が特異的に抑制される。私どもは,このような作用をもたらすニンニク成分をその精油中より分離同定し,メチルアリルトリスルフィド(MATS)であることを確認した。MATSは,in vitroおよびin vivoにおいて抗血小板作用を示すが,その作用機構については不明であった。このたびの科研費補助金による3年間の研究プロジェクトは,主としてMATSの血小板内作用点を特定することを目的に計画され,以下のような成績を得ることができた。1.MATSは消化管より吸収され,血中に出現し,尿中に排泄される。血中出現時間は90〜180分で,その後の臓器分布は,肝と腎に多く認められた。血中では,血球成分に移行し,血小板内の存在も確認された。2.血小板に対するMATSの作用は,アラキドン酸代謝系について確認したところ,専らアラキドン酸からプロスタグランジンが生成されるところが阻害されることが確認された。この代謝系に関る諸酵素について,それぞれ活性測定系を確立して検討したところ,cyclooxygenaseとlipoxygenaseの両酵素活性が阻害されることが明かとなった。MATSがこれらの酵素分子とどのようにinteractするかは不明であるが,恐らく酸化反応にMATSの硫黄原子が何らかの影響を及ぼし反応を阻害する結果になっているものと推察している。3.以上の成績に加えて,無臭ニンニクと呼称されている数種のネギ属植物の分類を,それらの成分分析を行うことで試行した。興味ある結果が得られているので,今後その成績をまとめ報告したい。
著者
綾木 歳一
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

放射線DNA損傷の修復と突然変異生成の関係を明らかにするため,キイロショウジョウバエの複製後修復欠損株(meiー41^<D5>)に白眼座の2.9kbDNA片重複による象牙色眼色変異(W^i)の4重複変異株〔(W^i)_4〕を導入し,4重複したW^iのうちのどれか1つでの2.9kbDNA片の欠失によるW^i眼色から野生型赤色眼色への復帰突然変異を指標に,核分裂中性子およびγ線の遺伝子誘発作用をDNA修復能との関係で比較検討した。3令初期雄幼虫に広島大学原医研設置の ^<252>Cfおよび ^<60>Co線源からの放射線0〜1Gyを照射し,幼虫の眼成虫原基細胞におけるW^i遺伝子での2.9kbDNA片の欠失細胞のクロ-ンを成虫W^i眼中の赤色スポットとして検出した。使用したハエ株のDNA修復能,放射線の違いによらず得られた線量ー効果関係は直線的であった。単位線量(CGg)当り,個体当りのγ線誘発率は修復能正常株で5.7×10^<ー2>,欠損株で2.3×10^<ー2>, ^<252>Cf放射線中の中性子の混在比(67%)で補正した核分裂中性子の誘発率は同様に修復正常株6.1×10^<ー2>,欠損株3.1×10^<ー2>となり,両放射線で修復欠損株での誘発率は正常株のそれの約半分に低下した。検出した型の突然変異生成にはmeiー41に代表される複製後修復後が正常である事が重要である。またDNA修復正常株,複製後修復欠損meiー41^<D5>株共に中性子のγ線に対する相対的生物効果比(RBE値)はほゞ1と変らない事から,meiー41修復系依存性で2.9kbDNA欠失に結果するDNA損傷の量はLETに依存しない事を示している。高LET放射線は二重鎖切断を高密度かつ高頻度に誘発する事,二重鎖切断の修復がら染色体組換えが生ずる事はイ-ストで報告されている。今回検出した突然変異は二重鎖切断以外の損傷修復によると考えられる。今後さらに実験をくり返す事により今回の結果を確認すると共に,除去修復欠損株を含め種々のDNA修復欠損株を用いて研究を進めたい。
著者
道津 喜衛
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1985

フグ科魚類の中には天然交雑種と思われる個体がしばしば出現する。これ迄の研究から次の5つが天然交雑種と考えられている。マフグ×トラフグあるいはカラス,シマフグ×ナシフグ,シマフグ×コモンフグ,シマフグ×トラフグあるいはカラス,シロサバフグ×クロサバフグである。この中で最初のものゝの中には交雑種の後世代と考えられるフグも含まれている。これら天然交雑フグの起源解明のために、トラフグ属6種について、天然および凍結精子を用いて計20回の人為交雑実験を行った。供試フグは次の通りである。トラフグ,シマフグ,クサフグ,ヒガンフグ,コモンフグの雌雄およびカラス,マフグ,ナシフグの雄である。これら8種類の交雑フグの中でふ化仔魚を若魚ないしは成魚まで飼育できた7種類の体色,斑紋についてみると、トラフグ♀×カラス♂,トラフグ♀×シマフグ♂,ヒガンフグ♀×トラフグ♂,クサフグ♀×トラフグ♂はいずれも母親に似ている。一方、トラフグ♀Xマフグ♂,トラフグ♀×クサフグ♂は共に父親に似ている。さらに、トラフグ♀×コモンフグ♂では、母親に似るものと父親に似るものとの両方がみられた。これらの人為交雑フグの形質の検討結果からは、上記の天然交雑種とと思われるフグの両親を明確にできる資料は得られなかった。人為交雑フグの中には、体色,斑紋がトラフグに似たものが3種類あったがそれらの成長はいずれもトラフグより劣っていた。また、トラフグ養殖の障害となっている尾鰭の咬み合い行動がみられないものもあった。しかし、いずれも、外観,成長などの点でトラフグより優れた養殖適種と思われるフグは見出されなかった。
著者
渡辺 俊行 龍 有二 林 徹夫
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

本研究は、パッシブ住宅の室内熱環境を予測評価するための設計支援システムの開発を目的としている。パッシブ住宅とは、日射・風・気温・地温などの自然エネルギ-を利用して、建築の構造体や空間が持っている熱的環境調整機能をコントロ-ルすることにより、夏涼しくて冬暖かい快適な室内環境の形成を図るものである。最終的に得られた成果は以下の通りである。1.パッシブ住宅の熱環境計画基本フロ-を示し、住宅用熱負荷概算プログラム,単室定常熱環境予測プログラム,多数室非定常熱環境予測プログラムを作成した。2.単室定常熱環境予測モデルにおいては、新たに室内平均放射温度と室内相対湿度の計算を組み込み、体感温度SET^*による評価を可能にした。このモデルは設計途中で熱環境を予測する際に有効であり、どの程度の通風を期待したらよいかなどを決定することができる。3.多数室非定常熱環境予測モデルにおいては、居住者の在室スケジュ-ルと体感指標PMVを設定した予測シミュレ-ションが可能である。ブラインドを含む窓面の伝熱モデルを追加し、いわゆるニアサイクル型のパッシブ住宅も取り扱えるよう改良した。夏季の日射遮蔽,通風,夜間換気,地中冷熱、冬季の断熱,気密,集熱,蓄熱を考えて基準住宅モデルの仕様を変更し、PMV±0.5以内を目標値とした室温および負荷変動のシミュレ-ション結果を基に、各パッシブ要素の個別効果と複合効果、補助冷暖房の必要期間と所要エネルギ-を明らかにした。4.徳山市および福岡市の各実験住宅において、夏季および冬季の室内熱環境を実測調査し、多数室非定常熱環境予測モデルによる計算値と比較検証した。その結果、計算値は測定値とよく一致し、本予測評価システムの有効性が確認された。
著者
泉 幽香 森田 三郎 中田 睦子
出版者
国立民族学博物館
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

今年度は、昨年度に引き続いて長崎県五島列島の福江島に、八月十三〜一五日の盆の現行の行事の一環として各地区の青年団或は近年変貌の著しい保存会による"念仏踊り"を、"チャンココ"を執行する福江市内一〇地区のみでなく、一昨年訪れた富江町の"オネオンデ"の寺回り(狩立)と墓回り(山下)、玉の浦町の"カケ"の寺での練習後の直会と南北に別れての町回りに先立っての寺での踊り始め、三井楽町嵯峨島の観光で名高い千畳敷での"オーモンデ"等の諸行事のうち今迄臨場してビデオカメラに収録出来なかったものを対象とした。その際、各地区で異なる装束や踊りなどの視覚的なものからパーカッシブな鉦や太鼓或は大小の鉦どうしの呼応と掛け声や合いの手、斉唱や輪唱或は一声多声や掛け合いなどの唄い方や時と場所に応じた変化に注目してみた"チャンココ"の場合、特に八月七日に、1)町内会長宅や郷長宅を訪れたり(野々切)、2)ムラの地蔵等"神さん参り"をして村内の寺に行く(崎山では一〇日は上崎山、一一日は下崎山が寺で施餓鬼を行う際同様にする)、3)"七夕宿"と称して、順番に割り当てられたムラ内の当屋でムラ全戸から人を招きその家の祖先の祖霊になっていない霊をかしわ御飯を炊いて供し、僧にお経を挙げてもらい、チャンココにも庭で踊ってもらう、所謂祖先内の施食供養をする(現在は高田で。以前は大窄でも行なわれていた)。一四,一五日の昼念仏に先立っての"部落回り"に先立って、上記の行事は夜念仏の範ちゅうに分類され、祖霊に対する死霊或は餓鬼、家(の仏壇)に墓や辻・地蔵(ムラの境界或は結界)対すると言える。只、初盆の家の仏壇の脇の新仏の為の盆棚と精霊棚、七夕宿は、五島の祖先供養の両義性と家と村落の関係の多様性を象徴していると考える。
著者
西渕 光昭 山崎 伸二 竹田 美文
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

腸炎ビブリオの重要な病原因子である耐熱性溶血毒(TDH)をコ-ドする遺伝子(tdh)の発現を促進する調節因子(VpーToxR)を解析した。VpーToxRをコ-ドする遺伝子(VpーtoxR)はコレラ菌の病原因子発現調節因子(ToxR)の遺伝子と52%の相同性を有しており、推定アミノ酸配列も類似し、特に発現調節に関与すると推定される領域およびtransmembrane領域と考えられる部分では非常に強い売似性が認められた。大腸菌中で、クロ-ン化したtdh遺伝子とVpーtoxR遺伝子を共存させた系で、VpーToxRがtdh遺伝子(tdh1〜tdh4の中で特にtdh2およびtdh4)の発現を促進することを確認した。またtdh2遺伝子について、コ-ドン領域上流144bp付近の塩基配列がVpーToxRによる発現促進において重要な役割を果たしていることが明らかになった。ただし、ゲルシフト法によってVpーToxRの結合能を調べたところ、VpーToxRはコ-ドン領域のすぐ上流(68bpまで)に結合することを示唆する成績が得られ、さらに上流(144bp近付)の塩基配列は、結合したVpーToxRとの間の何らかの相互作用によってtdh2遺伝子の発現促進に関与しているのではないかと考えられた。VpーtoxR遺伝子プロ-ブを作製し、これを用いたハイブリダイゼ-ション試験により、この遺伝子はほとんどの腸炎ビブリオ菌株に存在することを明らかにした。AQ3815株を用いて、VpーtoxR遺伝子を特異的に不活化したisegenic変異株を作製した。この変異株と野生株との比較によって、VpーToxRによるtdh遺伝子の発現促進は、KPブロス中で菌を発育させた場合に特に顕著で、発現促進作用は転写レベル(mRNA)でおこっていることを聖らかにした。
著者
前田 辰昭 高木 省吾 中谷 敏邦 高橋 豊美
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

北海道西岸沖合に産卵のため来遊するスケトウダラの魚群構造と回遊の研究は、当初計画通り実施された。昭和62年度から平成元年度の4月と10月に、後志沖合から青森県沖合の日本海で水温、塩分、餌料プランクトン等の外、航走中24KHzの魚探を作動させて、スケトウダラの分布と密度を観察した。また、中層トロ-ルによる漁獲試験と標本採集をした。この外2月には檜山沖合で本種の標識放流を実施した。1.4月の魚群は沿岸の産卵場付近では150〜300m層に、沖合では200〜400m層と、沖合ほど深い。分布域は日本海の中央部にまで達し、対馬暖流水と亜寒帯水との境界域に当る前線域に高密度群が出現した。2.10月の魚群は産卵期の接近に伴い、次第に接岸し、沿岸域で最も密度が高い。この時期は高水温のため、400〜500m層と分布層が深い。3.魚群の年齢組成は3〜8才で、それらの中心は卓越年級群の1984年生れである。3ケ年間では1989年10月が最高密度を示した。4.標識放流は昭和62年度から平成元年度までの2月に、檜山沖合で約4500尾について実施した。本研究期間内の再捕結果は、従来の知見とされた定説の北上回遊と異なり、索餌期の夏期には南下して津軽海峡に出現し、さらに新潟県沖合から富山湾沖合にまで回遊して再捕されている。しかし、産卵期には放流地点の檜山沖合でのみ再捕され、本種の回帰性の強さが示唆された。5.本種の回遊は従来、北部の武蔵堆周辺から陸棚沿に南下し、産卵後は再び北上するとされていた。しかし、本研究では、成魚は南西部沖合から接岸し、産卵後は再び南西海域に回遊することが明らかになった。今後は不明であった幼稚魚の移送先や未成魚期の生活域の把握が必要である。それは来遊量予測や資源変動の解明に不可欠なためである。
著者
渡部 宗助
出版者
国立教育研究所
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

1.戦後改革期の児童観と児童文化概念の検討は、戦前・戦中のそれを抜きには考えられない。戦前・戦中の支配的児童観・児童文化概念は日本少国民文化協会(昭和16年12月創立)とその機関紙『少国民文化』に集約される。それは、資本主義的俗悪「児童読物」に対する官民一体の「改善・浄化」運動(昭和13年)と「大東亜戦争」遂行のための児童政策の結合体として形成された。それは明らかに「大人が子どものために与える文化財諸領域の総和」と表現すべきものであり、且つ暗黙裡に「学校文化」を含めないものとするところに特徴があった。2.戦後改革期の児童観と児童文化概念も基本的には、政策的にも、運動の面でもそれを継受するものであった。そこに見られる新しい「変化」は、スローガンが「大東亜戦争」遂行から「文化国家・平和国家」建設へとかわったこと・もう一つは子どもを人格・人権の主体として把える自覚的方法意識が社会化したことであった。それは、新憲法を基底として教育基本法や児童福祉法等で法的表現を与えられた。子どもを主体として見る児童観から、「児童文化」に子ども自身の創造・制作を含める考えが一般化した。3.戦後における「児童憲章」の制定は画期的なことであったが、児童観や児童文化概念の変革はその後の国民的実践に委ねられたものと解すべきであった。新旧の児童観・児童文化概念の相克をよ具体的に示したのは、「こどもの日」の制定であった。それは厚生省児童局設置(昭和21年3月)に見られる「児童保護」の系譜と「こどもの人格」の社会的認知の折衷であった。「こどもの日」制定を主導した国会の衆参両院文化委員会にける「国民の祝日に関する法律」審議に反映された。4.本研究では、戦前・戦中と戦後の児童文化関係雑誌5種(『少国民文化』『新児童文化』、同復刊版、『児童文化』『児童』)を用いた。
著者
猿田 佳那子
出版者
広島女学院大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究の主たる調査対象は、日本占領時に収集された瀬川幸吉コレクションと、台湾総督府が中心となって残した記録類である。台湾では、17世紀以来支配勢力の興亡がくりかえされたが、1895年にはじまる日本占領期間中は、山岳地域や離島に住む先住民をも統治下においた。現時点では本研究の概要をまとめるには至っていないが、外界との接触による影響のうち、特筆すべきものをつぎにあげる。1.素材の移入:交易が開放的である民族ほど、織技の衰退が著しい。首狩の風習を残していたタイヤル族や離島に住むヤミ族では、自生の繊維を用いた剛直な織物がもちいられた。パイワン族やアミ族では交易によって木綿、モスリンなどがもたらされたことがわかる。これは肌触りがなめらかで発色もよいという理由から、日本でも同様な経過をたどったことと対比できる。また、独自の染色技術の発達がみられず、一枚の布のうち、赤は毛、青は綿、白は麻を交織している物が少なくない。これらは、毛布、藍木綿を交易によって入手し、解して自生の麻に混ぜて織った物とみられる。2.衣服の受容:家族や地域住民の集合写真をみると、子供は日本のキモノらしいものを着用している例が散見する。浴衣が支給されたり、日本から派遣された公務員の妻たちが、手縫いやミシン縫いを教えたという記録もある。男性は立襟の軍服風のものや帽子を着用している。当時の彼らが持っていた日本服観、漢満族服観、洋服観はどのようなものであったろうか。3.身体変工:満族の習慣であるところの弁髪を採用している肖像写真が目を引く。入れ墨の習慣もあったが、入れ墨が一時的な加工であるのに対して、頭髪は自然にまかせれば弁髪状態を保ち得ないのであるから、継続的にこうした理髪を続けていたことになる。
著者
横尾 武夫 福江 純
出版者
大阪教育大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

本研究の目的は,理科教育特に天文学分野に関する教育用ソフトの改善と開発であり,その具体的な研究内容は(1)天文学を教材とする新しい教育用ソフトの開発(2)天文学教育用データベースの構築(3)教育現場で使用されている天文学関係の教育用ソフトの調査と分析である。この3年間の研究において,(1)については,地球や宇宙における現象をコンピュータ・シミュレーションで再現して,児童や生徒の学習と理解を助けることを目指している。この研究で開発したソフトの中に,コレオリカのシミュレーションがある。これは,シミュレーションを教具として位置付け,理解を難しい力学との問題について新しい観点にもとづいて開発したソフトであり,特に高等学級での活用を期待している。(2)については,特に,画像データベースの構築と,学術用データベースの教育的利用に重点をおいた。前者については,天体画像のデータベースの構築と検索システムの開発を行った。また本学における天体観測設備を用いた天体画像のア-カイブの構築を始めた。後者については,天文学のコミュニティーで流通している膨大なデータベースが,現在ではCD-ROMで利用できるので,これを教育の場で活用する先進的な実践的研究を行った。(3)についは,現段階では充分な成果を得ていない。なぜならば,この数年間で,マルティメディア等,コンピュータをとりまく環境が大きく変動し,教育用ソフトの改訂が急がれている状況が生まれた為であり今後,特にインターネットの発達と普及を教育の場でどのように位置づけるかが,大きな課題となっている。
著者
田中 愛治
出版者
東洋英和女学院大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

平成4年度には、同年7月の参議院選挙の前後に横浜市において有権者1,000名に対し郵送法による世論調査を行い、横浜市における一般有権者の政治不信と政党離れ意識について調査した。平成5年度は、前年の郵送調査における「政党支持なし」の回答者を深層面接法により追跡調査する予定であった。しかし平成5年の政治状況は、国民の政治不信、特に既成政党に対する不信感が更に高まり、政党離れがいっそう進行した。平成5年6月の宮沢内閣不信任案の成立後、自民党から新生党、新党さきがけが分裂し、同年7月18日の衆議院総選挙の結果、昭和30年の自民党結党以来初めて政権交代が起こった。この新党(新生党、新党さきがけ、日本新党)の出現と政界再編の状況下では、少数の「政党支持なし」の有権者の深層面接よりも、一般有権者を対象に従来と異なった投票行動をとる心理的メカニズムを広範に探ることの方が重要性が高いと判断し、研究計画を変更して、総選挙の前後にパネル方式の電話世論調査を実施した。有権者の政治不信、政党離れが急激に進む状況の中で、「政党支持なし」層の役割はかつてなかったほど重要になり、それに呼応するように3新党が総選挙では躍進して、政権交代が起こった。上述の電話調査の結果からは、3新党の支持者はどの新党に対しても好意的な感情を持っており、相互に支持する傾向が見られるが、逆に既存の伝統的な自民党と社会党に対しては冷淡な態度が見られ、既存の政党離れが進んだことが明らかになった。さらに、「政党支持なし」層の存在が、92年の参議院選挙に続いて、93年の総選挙の際にも確認されたが、この積極的な「政党支持なし」層が必ずしも新党の支持に回ったとは言い切れず、単純な構造ではないことが分かった。今後、本調査のデータ分析を更に進めていく所存である。
著者
木下 泉 青海 忠久 田中 克
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

四万十川河口内で浅所と流心部の仔稚魚と魚卵の出現状況から,アユ,ハゼ科等の河川内で孵化し,成長した後,河口内浅所に接岸するグループ,カサゴ,ネズッポ科等の河口付近で孵化するが,その後他の水域へ移動するグループ,ボラ科,ヘダイ亜科等の沖合で孵化し,成長した後,河口内浅所に接岸するグループの3つに分けることができる.河口内浅所のアマモ場,非アマモ域と河口周辺の砕波帯を比べると,アマモ場と砕波帯には各々特徴的な種がみられた.本河口内には海産魚類の仔稚魚が多く出現し,砕波帯にも共通している.しかし主分布域は種独特の塩分選好性により河口内浅所と砕波帯に分かれ,河口内浅所はプロラクチン産生等で低塩分適応を獲得した特定の仔稚魚が成育場としていると考えられる.河口内浅所と砕波帯との共通種の加入サイズは一致し,これら仔魚は砕波帯を経由せず沖合から直接河口内に移入し,浅所に接岸すると考えられる.本河口内と沖合との間には著しい塩分勾配がみられ,河口内への仔稚魚の移入に塩分の水平的傾斜が関与している可能性が高い.成育場での仔稚魚郡集は滞在の長短によりresidentグループとmigrantグループに大別されるが,本河口内浅所の仔稚魚の多くは前者に属する.この点で殆どがmigrantグループである砕波帯の仔稚魚相とは大きく異なる.しかし河口内浅所におけるresidentグループには成長に伴ってアマモ場に移住する種が多い.一方,アマモ場は本河口内浅所が仔魚から若魚期に至る成育場として重要な環境要素となっている.本河口内で生活する仔稚魚は枝角類・橈脚類に加え,流心部に多く分布するハゼ科・アユ仔魚を多く摂餌している.浮遊期仔魚は浮遊甲殻類に比べて,はるかに質的に重要な餌生物であろう.以上のように,本河口域浅所は豊富で独特な餌料環境を形成するとともに,逃避場所や定着場所として利用されるアマモ場が周年存在することにより,低塩分環境に適応した特定の魚類にとって,初期生活の大部分を過ごすことができる重要な成育場となっていることが分かった.
著者
斎藤 功 佐々木 博
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

近年, 山菜は自然食品の最たるものとして需要が増大している. 本研究は落葉広葉樹林帯(ブナ帯)で広範にみられる山菜の採取および山菜の促成栽培の実態を解明し, それに風土論的考察を加えることを目的としたものである.山菜の採取は, 伝統的にブナ帯の山村, とくに多雪地の山村で行われてきたが, 山菜の促成栽培はブナ帯の少雪地で多い. 山菜の促成栽培は, フキ, ワラビ, タラノメ, コゴミ等が行われるが, タラノメの促成栽培が典型であろう.本来, タラノメは春にとるものであるが, 促成栽培はそれを夏冬の12〜3月に採取するものをいう. 当初, 山からタラノキを切り, それを植木として温室内で栽培したものであるが, 促成栽培の普及につれて, タラノキを桑のように栽培するのがみられるようになった. 現在, タラノメのキの落葉後, 台木を切り, 一芽ごとに10〜15cmに切ったものを温室内のオガクズ床に伏せこみ, 12月下旬〜3月下旬にタラノメが7〜8cmに仲が〓ように栽培している.このタラノメの促成栽培は, ブナ帯で冬季出稼を止めさせるまでになったが, 栽培技術が容易なこと, ビニールハウスを転用できることなどで普及した. 当初, 〓境期の山菜としてタラノメは高価に販売されたが, その栽培の普及とともに価格が低下した.結論的にいえば, タラノメの促成栽培は, 生産基盤の脱弱性をもった風土産業といえよう.なお, 研究結果の詳細については, 別さつの研究成果報告書を参照されたい.
著者
大倉 元宏
出版者
成蹊大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

平成4年度から5年度にわたって,当該研究テーマに関して,駅プラットホームからの転落事故を中心として研究を実施した。2カ年の間に6件の転落事例が寄せられ,調査の結果,うち2例に関しては詳細な分析ができ,その結果は学会等で報告した。この2例はいずれもわずかに視覚が残っている障害者(弱視)の事例である。視覚を利用できることはその分,移動に関して安全性が高いと考えられがちであるが,不十分な照明条件や時間的に切迫した状況では事故が起こりうることが明らかとなった。弱視の事故に関しては今後も注意を払っておく必要がある。この2カ年において,事故の事例研究と並行して,これまでに収集された十数例の事故例について再整理し,視覚障害者の基本的な歩行特性(オリエンテーションとモビリティ,OM)との関連で事故原因を吟味した。視覚障害者のOM特性に関しては,音源定位,エコー定位,偏軌傾向,square-off effectと慣性力の影響,不確定性の高い聴覚情報に基づく判断,記憶依存性,強い心理的ストレスなどが指摘されているが,事故例を分析すると,事故原因にこれらの特性が深く関与していることが明らかとなった。事故防止に関しては,これらの特性を十分考慮して対策を立てる必要がある。また,視覚障害者の安全移動を支援する設備として,最も普及している点字ブロックに関して,新しい形状や素材に関して実験的検討も実施した。形状に関しては線状ブロックについて従来のものより突起部の幅が狭いものを試作し,評価した。また,道路横断を支援するための横断歩道上に敷くブロックの素材について検討し,実験的に敷設して,その効果を確かめた。さらに,ゴムチップを利用した第三の点字ブロックというべきものを試作し,評価した。いずれの試作品も良好な結果が得られた。
著者
森 源治郎
出版者
大阪府立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

ヒガンバナ科球根植物の種間及び属間雑種を育成することを最終目的とし、交配の機会を多くするための開花調節の方法および花粉の貯臓法を検討したうえで、種々の組合せの種間及び属間交配を試みた。1.これまでに明らかにされていないCrinum powellii cv.Album及びZephyranthes candidaについて、開花特性を調べたところ、前者は花芽が雌ずい形成期に達した後に6〜15/12℃で45日間処理することによって開花期を調節できること、また後者では冬期も加温して栽培すると周年にわたって開花を続けることが分かった。2.花粉の貯臓条件を調べたところ、硝酸マグネシュウム飽和溶液を用いて湿度を58.8%に保ち、ー18℃で貯蔵すると、6か月後においても高い発芽能力を維持していた。3.自然開花あるいは開花調節によって開花した母株に開葯直後の花粉あるいは貯蔵花粉を用い、21組合せの種間交配、63組合せの属間交配を行った。種子形成が認められたのは種間交配の11組合せ、属間交配の22組合せであり、バ-ミキュライトに播種して発芽が認められたのは種間交配の5組合せ、属間交配の10組合せであった。4.種子を形成しながら発芽に至らなかったものには、胚がほとんど確認できないものと未発達の状態でとどまっているものがあった。後者では胚珠培養によって発芽が可能になるのではないかと考え、バ-ミキュライト播種で発芽の見られなかったCyrtanthus mackenii X Clivia miniataおよびLycoris属の種間交配によって得られた未熟胚珠を1/2MS培地で培養すると、発芽が認められた。5.種間および属間交配で発芽の認められた個体は現在発育中であるが、初期形態から明らかに両親の中間タイプを示すものを確認している。
著者
川端 正久
出版者
龍谷大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

第1に、中国におけるコミンテルン研究の成果を重点的に検討してきた。昭和62年2-3月、日本学術振興会特定国派遣研究者として中国を訪問し、中国におけるコミンテルン研究者との交流をもつことができた。そのなかで、コミンテルンと日本の政治関係史についての中国における研究の状況を知るに至った。同時に、中国で出されているコミンテルン関係研究文献資料を入手することができた。コミンテルンと日本を結ぶルートは、第1に、ヨーロッパ・アメリカを通じたもので、第2にアジア・中国を通じたものがあった。中国におけるコミンテルン研究文献を調査することにより、後者のルートについて研究を進める手がかりを得ることができた。主要文献資料のなかで、コミンテルンと中国・日本の国際政治関係史に関する部分のリストを作成し、重要箇所(たとえば『一大前後』(一)(三)、『上海地区建党活動研究資料』、黄修#『共産国際和第一次国共合作的形式』、朱成甲『中共党史研究論文誌』、『馬林在中国的有#資料』など)の翻訳を中国人研究者に依頼した。前年の翻訳文献とあわせて、現在分析作業を進めている。第2に、『インプレコール』(ドイツ語版、1921-26年)のマイクロフィシュ覆刻版を購入した。前年に購入した『共産主義インターナショナル』を含めて、とくにコミンテルン・中国・日本の関係史についての材料を中心に、資料の検索・読解を行っている。第3に、コミンテルンと日本の政治関係史年表を作成作業を進めている。これまで、コミンテルンと日本の出来事を中心に歴史年表を作成してきたが、これに中国の出来事を加え、全体としてコミンテルン・中国・日本の関係史年表を作成する必要がでてきた。第4に、全体としてコミンテルンと日本の政治関係史についての論文の作成にとりかかっている。ただし、中国語文献資料の読解が必須なことが、それなりの時間が必要とされている。
著者
古瀬 清秀 藤野 次史 中越 利夫 佐竹 昭
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

鉄滓に関する研究は、これまで自然科学的分析によって、鉄滓と鉄及び鉄器の生産との関連が論じられてきた。考古学の立場からは、人工遺物、遺構が研究の対象となり、いわば廃棄物としての鉄滓はおろそかにされがちであったことは事実である。今回、この鉄滓を考古学的立場で検討することが可能かどうかについて、研究を推進した。この結果、鉄滓の外観的特徴、出土状況の分析を考古学的研究法によっても分類でき、鉄及び鉄器生産の諸工程を復元することも可能との結論を得た。方法としては、実験的鉄、鉄器生産及び現代の刀鍛治など伝統鍛治技術によって生成される鉄滓を入手して、それぞれの工程ごとの鉄滓の特徴を理解し、それらと古代遺跡で出土した鉄滓を比較検討することとした。特に、鍛治鉄滓に興味深い結果が得られた。鍛治滓は、i)ギザギザとした表面を呈するものが多い。ii)木炭片をかみこむ。iii)典型的な椀形滓が多く、小破片ももとは椀形を呈するものが破断していることが多い。iv)軟質のガラス滓がある。ということが主要な判断要素となるようである。実際に遺跡から出土するものには、(1)直径20cm前後・重量1kg前後、(2)直径10cm前後・重量200g前後、(3)(1)、(2)より小さく軽いガラス滓の3種に分類できる。そして、実験的に得られた滓をみると、(1)・(2)が精錬鍛治、(2)・(3)が鍛錬鍛治、(3)が火造り鍛治に対応できると考えられる。本研究の成果の大きな意義は、これまで考古学的には軽視されがちであった産業廃棄物としての鉄滓を考古学的方法論によって、重要な考古学資料として利用できることを明らかにしたことにあるといっても過信ではなく、鉄滓の研究が鉄及び鉄器の生産研究に大きな、しかも新たな研究の方向性を与えたといえる。
著者
木村 聰城郎
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

大腸粘膜のバリアー能について、透過し得る分子サイズの小腸粘膜との差を明らかにするため、水溶性化合物で分子量の異なるpolyethylene glycol(PEG)300,600及び1000を用いて、in situループ法によりラット小腸及び大腸からの吸収を検討した。用いたPEGはそれぞれ分子量300,600及び1000を中心に、重合度の異なる各種分子量のPEGの混合物である。その結果、小腸では分子量600付近まで吸収が認められるのに対して、大腸では分子量300以上では吸収は困難であった。これらのPEGについては細胞間隙を通るいわゆる経細胞側路が考えられるが、両部位での透過可能な分子量すなわち分子サイズの差は細胞間隙の大きさの違いに基づくものと思われる。この点については電気生理学的解析によっても裏付けられた。また、細胞間隙の帯電状態の違いも示唆されたが、細胞間隙に作用する吸収促進剤EDTAの作用はその帯電状態への影響も含むことが明らかとなった。一方、経細胞路の透過性は薬物の親油性に左右されるが、小腸と大腸では吸収の親油性との関係に違いが見られた。3種のアシルサリチル酸を用いて吸収実験を行った結果、小腸部の方が大腸部より極めて吸収がよく、大腸の中では結腸の方が直腸より吸収が良好であった。これは大腸よりも小腸、特に小腸上部では吸収表面積が大きいことが寄与していると考えられる。また、どの部位でもアシル鎖が長くなるに従って吸収が良好になっているが、小腸部では親油性が増しても、吸収が頭打ちになった。そこで、親油性の異なる2種類の薬物acetaminophen とindomethacinの吸収を評価したところ、高親油性薬物の場合には小腸と大腸で吸収速度に差がなくなることが分かった。これらの現象は粘膜表面近傍に存在する非攪拌水層の抵抗の部位差で説明することができた。