著者
庄司 順三 廣野 里美 宮腰 正純 村山 哲也
出版者
昭和大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

日本に自生するハリブキ(Oplopanax japonicus N_<AKAI>=Echinopanax japonicus N_<AKAI>)と中国産刺人参(Oplopanax elatus N_<AKAI>=Echinopanax elatum N_<AKAI>)はともにウコギ科(Araliaceae)植物であり、刺人参は解熱、鎮咳作用を有するとされ、中国の文献では薬用人参と作用が近似していることが記載されている。今回の研究では両者の成分を化学的に比較し、両植物の医薬品としての新たな応用・開発をはかることを目的として行った。日本産ハリブキ葉からは既知成分のフラボノイド配糖体2種、トリテルペン配糖体1種を単離・同定した。更に3種の新規トリテルペン配糖体を単離し構造を決定した。中国産刺人参葉を日本産ハリブキ葉同様に分離し構造決定を行ったところ、両者に共通する2種の既知フラボノイド配糖体、1種のトリテルペン配糖体を単離・同定したほか、新規トリテルペン配糖体8種を分離しその化学構造を決定した。さらに日本産ハリブキの葉以外の部分について検討を進めているが、根皮より2種の既知化合物を単離・同定するとともにダイイン化合物1種と、これとアグリコン部の構造が異なるダイイン化合物の配糖体1種を単離し化学構造を決定した。中国産の試料については入手が限定されているが、日本産ハリブキについては10種の化合物を単離し、5種類が新規化合物であるので、今後、十分な量を確保し生物活性を検討することにより本研究の目的が達成されるものと思われる。
著者
長峯 岳司 永瀬 守 鈴木 一郎 中島 民雄 長峯 岳司
出版者
新潟大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

α型の燐酸三カルシウム(α-TCP)粉末は水との反応により、ハイドロキシアパタイト(HA)に転化し、常温で凝結硬化する事が知られている。この反応は酸の存在により促進するが、この凝結硬化のみでは硬化物は脆弱で人工骨としては利用し難い。私達は、この反応系に多糖体(デキストラン)を加える事により人工骨として十分な強度の硬化物を得るのに成功した。本材料はこの硬化の過程で形態付与が可能となり、付形成に優れているため、組織親和性も優れていれば臨床的な応用範囲はかなり広いものと考えられる。本研究では、この硬化物の組織反応について観察するとともにHA顆粒との複合剤としての利用も検討した。蒸留水とグルタール酸とデキストランを14:6:25の比率で混合し、これを多糖溶液とする。α-TCP粉末とこの多糖溶液を7:5の比率で混合し練和すると、2〜5分で硬く硬化する。この硬化の過程で形成を行う(TCPインプラント)。これを家兎の下顎骨外側の骨膜下に移植し1、2、4、12、24週後に屠殺し下顎骨を摘出、HE染色にて組織学的に生体反応を観察した。さらにこの材料とHA顆粒の複合材を家兎に同様に移植し、同様に組織反応を観察した(TCP-HAインプラント)。両者で活発な骨新生が観察され、グルタールや酸やデキストランによる阻害は殆ど観察されなかった。この材料は、人工骨として十分な強度を持ち、硬化の過程で形態付与が可能となり付形成に優れ、また本実験にて生体親和性も優れていることが観察され、いままで再建術等で用いられていたHA顆粒の欠点を補うものとして有用である事が確認された。
著者
森田 真史 糸満 盛憲
出版者
北里大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

1.αーTCPとDCPDの配合比と練和液の粉液比と圧縮強度および硬化時間ここで用いた燐酸カルシウムセメントは三菱マテリアル(株)によって開発されたαーTCP・DCPD系水硬性セメントである.DCPD10%,粉液比P/L=2.6で効果時間6分,最大圧縮強度は練和後,3日目で57.0MPaに達し,その後徐々に強度は低下することが平野らによって明らかにされている.2.練和セメントの粘度人工関節の固定または骨欠損部への充填材として本骨セメントを用いる場合,セメントの操作性のうち特に練和時における粘性と硬化時間が重要である.そこで,DCPD10%セメント粉末に対する粉液比を1,2,3の割合で練和し,硬化前の粘度を測定した.粉液比2程度が最も操作性がよいことが分かった.3.TCP顆粒混入によるセメント強度の改善効果ハイドロオキシアパタイト粉末((1)粒度1.0ー0.5mm,(2)粒度0.5ー0.3mm,(3)粒度0.3ー0.15mm,1200℃焼結)をセメント粉に5,10,20%それぞれ混入し,同セメント粉末をポリエチレングルコ-ス(PEG)30%を含む水2gに対して3.2gの割合で練和し,直径6mm,深さ12mmの圧縮強度測定試験片を作成した.強度はいずれもアパタイト不含のセメントの強度の50%以下であり,強度の改善は観られなかった.その原因として,アパタイト粉末とαーTCPの界面接着性に乏しいことが強度改善に結び付かなかった原因と思われた.4.家兎によるセメントの生体適合性評価大腿骨遠位端から2cm骨腿空を掻爬し,セメントを注入し,親和性を経時的に観察した.長期経過は現在観察中であるが短期の組織像では特に拒絶反応は認められない.
著者
竹中 修 相見 満 竹中 修
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

本研究は各地の博物館に保存されている骨格標本や毛皮標本を形態学的に詳細に検討比較すると共に、皮革標本の一部の供与を受けDNAを抽出しミトコンドリアの一部の塩基配列を決定比較することを目的とした。まず、ライデン博物館に保管されているヤマイヌの毛皮標本と形態試料を入手することが出来た。ニホンオオカミについても大英博物館、北海道大学農学部附属博物館、和歌山大学教育学部、国立科学博物館のものを入手し、さらに石川県立七尾高校と愛媛県立博物館にも標本のあることが新たに判明した。後二者の資料は今回初めて明らかになったもので資料収集の面では当初予期した以上の成果を上げることが出来た。現在までに収集した資料はニホンオオカミ、エゾオオカミ、タイリクオオカミ、イヌの資料は、毛皮試料がそれぞれ、3点、3点、2点、1点で、計測資料それぞれ、10点、2点、16点、10点にのぼった。計測資料を多変量解析法の一種である正準相関分析法により検討したところ、タイリクオオカミとエゾオオカミがよく似ていること、イヌがそれらの近くに位置し、ニホンオオカミが離れたところに位置することが分かった。さらにヤマイヌとされているライデン博物館の3点の標本の内、b標本を除くaとc標本がニホンオオカミではなく、イヌではないかとの疑いが出てきた。毛皮を出発試料としたPCR法によりミトコンドリアのチトクロームb遺伝子を増幅し、直接塩基配列を決定することを試みた。最初約360塩基対の増幅では一試料を除き増幅できなかった。タンパク質のアミノ基が求核試薬として還元糖のカルボニル基を攻撃してシッフ塩基を経由してアマドリ転移生成物にいたるメイラード反応が試料の保存中に起こっている可能性があるが、DNAがさらに断片化している可能性も考えられるので、PCR法のプライマーを合成し直して現在増幅を試みている。
著者
岩崎 宏之
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

霞ケ浦湖岸に位置する茨城県土浦市は、江戸時代以来度々水害に悩まされてきた。土浦市に水害をもたらせた原因を考察すると、土浦市の中央を貫通して霞ケ浦に流入する桜川が氾濫して堤防を決壊させたことによって引き起こされた洪水と、霞ケ浦の水位の上昇による逆水とによる洪水との二つの原因によることが明かとなる。これを歴史的に検討すると、天明6年(1876)、文化9年(1812)、明治43年(1910)、昭和13年の洪水は前者に、また弘化3年の場合は後者によるものと目されているが、史料をさらに子細に検討すると、原因は複数の因子の相乗作用によることが明らかとなる。すなわち、長雨や利根川の増水によって圧迫された霞ケ浦の水位が上昇して長期にわたる溢水となった状況のときに、台風が襲来すると、その風の方向によって異常な高潮現象が発生し、霞ケ浦への出口を塞がれた桜川は急激に増水して氾濫を引き起こしている。この現象を「津波」と称して恐れていたことが、近世の土浦の町に住んだ人々の日記史料等から窺えるのである。この異常な水面上昇は、茨城県下に記録的な強風をもたらした明治35年(1902)9月28日の台風の際には六尺に達したと記録されている。「津波」を起こす強風は、台風の通過コースによるところが大であるが、水位の上昇と強風との相乗作用は今後も起きる可能性があるわけで、このような観点から歴史的災害にかかわる各種歴史資料の分析が必要となる。本研究は、古文書史料や日記など、土浦市とその周辺地域に残る近世以降の史料の中から気象と洪水に関する情報を抽出し、霞ケ浦の水位の上昇が洪水を引き起こす現象を検討した。また色川三中と弟美年によって記録された「家事誌」(文政9年〜安政6年、26冊が現存)には毎日の天候の変化や台風など異常な気象状況が克明に書き留められており、本研究ではこの記述をもとに当該期間の土浦の毎日の気象状況をデータベースに作成した。さらに三中の次弟御蔭の著述になる「逆水防議」には、霞ケ浦の逆水から町を守る方策が述べられており、本研究では、彼等が体験した天保4年や弘化3年の風水害の記事をはじめとして、その他地域に残る古文書史料に散見する関係記事を収集することができた。これら各種歴史資料に記録された関係記事を統合することによって、近世城下町土浦の洪水災害時の状況を明らかにするだけでなく、今後の防災に資するものである。
著者
野家 啓一
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

マッハの「物理学的現象学」は、物理学の体系からあらゆる形而上学的カテゴリー(実体、因果、絶対運動など)を排除し、世界を形作る原的所与である感性的要素の複合体を思考経済の法則に則って記述することを通じて物理法則を探究しようとする試みである。この構想を支えているのは、19世紀の科学研究を領導したヘルムホルツ流の「力学的自然観」への根本的批判であり、マッハのニュートン力学に対する概念批判は、アインシュタインの相対性理論に道を開くと同時に、科学哲学の分野においてはウィーン学団による論理実証主義の成立を促し、後の分析哲学の展開に先鞭をつけた。他方でマッハの「現象学」概念はフッサールに影響を及ぼし、彼の超越論的現象学の形成に寄与した。両者に共通するのは、根源的所与である「現象」の純粋記述に徹するという方法的態度である。しかし、マッハの物理学的現象学は、あくまでも自然的態度を基盤とした「世界内在的」現象学にすぎなかった。フッサールはマッハの立場を生物学主義として批判し、「現象学的還元」の手続きを導入することによって,超越論的現象学の確立を至った。以上のことから、マッハの物理学的現象学は、一方では「言語論的転回」を通じて分析哲学へと変貌し、他方では「超越論的転回」を経てフッサールに始まる現象学運動に道を開いたと言うことができる。その意味で、マッハの業績は今世紀の哲学を代表する二大潮流の原点に位置するものであり、20世紀哲学史はこのような観点からマッハを軸にして書き換えられる必要がある。
著者
天木 嘉清 小山 直四 池内 旬子
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

筋弛緩薬ブロックからの離脱には弛緩薬濃度、アセチルコリン濃度が関与する。このアセチルコリンの濃度を高める為に、神経にテタヌス刺激を与え神経の末端からのアセチルコリンの放出を促す方法がある。全身の神経に刺激を与えるのは不可能に近いが呼吸筋のみ限定するなら、respiratory driveという、生体には持って生まれた現象がある。高炭酸ガス血症群(炭酸ガス分圧45〜55mmHg)では100HZ前後のテタヌス刺激が中枢より横隔神経に伝達されているのが観察された。この研究はこの点に光を当ててみた。高炭酸ガス血症では換気を引き起こす為に、中枢からの横隔神経などを介して遠心性の発射活動がある。これは正にテタヌス刺激であり、アセチルコリンの放出が起こる。今までに、この現象と非脱分極性筋弛緩薬ブロック拮抗現象とを結び付けた研究は見あたらないが、理論的には生体が有するアセチルコリン放出促進現象であり、非脱分極性筋弛緩薬ブロックからの離脱に関して大きな役目を果たしている可能性が高い。我々の研究では左右の横隔膜から、別々にtwitch responcesを取ることに成功し、respiratory driveがブロック離脱に関与していることが実証された。従来ブロック離脱には抗コリンエステラーゼの作用に依存していたが、生体に有する中枢からのrespiratory driveもまたブロック離脱におおいに関与していること証明され、臨床的にもこの研究は有用の情報を与えてくれた研究である。
著者
松下 敏夫 青山 公治
出版者
鹿児島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

農作物栽培起因性の皮膚障害をオクラ栽培作物を例に、1.その発症の様態を現地疫学的に解明する。2.原因物質の究明を農薬の関与を含めて実験的に検討する。3.予防対策の樹立を目的として本研究を行なった。その結果:1.鹿児島県南薩地方のオクラ栽培者について、2年度にわたり行った現地調査によると、オクラ栽培に伴う皮膚障害の発生はかなり高率であり、適切な予防措置を講じない場合にはほぼ全員に発症する。症状は掻痒・発赤を主とし発症部位は、袋詰作業ではほぼ指先に限局されるのに対し、収穫作業や管理作業では手指のほか手腕、顔面など皮膚の露出部位に生じやすい。この皮膚障害の発生は気象条件とも密接な関係があり、雨天、朝露がある時、あるいは発汗の多い時におこりやすい。同時に実施したアレルギー学的検査では、約1割り程度の者にオクラ成分に対する皮膚過敏症の存することが明らかになった。またオクラによる即時型アレルギー発症の可能性も否定できないことがわかった。2.オクラ成分および使用農薬の向皮膚作用を、モルモットを用いて実験的に検討した結果、オクラ成分には一次刺激性が認められたものの、感作性、光毒性を認めるには至らなかった。また、DDVP、Chlorothalonilに、中程度の光感作性が認められた。これらの結果は、疫学調査結果や文献との不一致の部分もあり、実験方法も含めさらに検討が必要である。3.以上より、オクラによる皮膚障害は発症機序からみると主として(1)オクラとの大量接触による機械的刺激作用、(2)オクラ成分などによる一次刺激作用、(3)オクラ成分によるアレルギー性に大別できる。その予防対策として、オクラとの接触を防ぎかつ作業性を考慮した保護具の検討、および作業中の樹葉との接触を最少限に保つ適正な畔幅の検討などについて考慮した。
著者
竹野 一 斎藤 俊之
出版者
鳥取大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

(1)ワラビ地下茎よりの有毒成分の単離。前報において、家畜のワラビ中毒の原因物質としてワラビ地下茎メタノ-ル抽出物より二種類の活性配糖体を単離し、それらをBraxinA1、A2と命名した。本研究では、さらにワラビ地下茎抽出物の液滴向流クロマトグラフィ-、Toyopearl、HW-40Sのカラムクロマトグラフィ-、Wakosil 10C18 HPLCを順次行い、モルモットに対する催血尿性を指標として,前述のBraxinA1、A2の他に、より活性の強い二つの画分が得られ、これらをBraxinB、Cと命名した。原ワラビ地下茎粉末よりの各画分の収量は、BraxinA1、A2では共におおよそ0.15%であるが、BとCではそれぞれ0.008%,0.007%と僅少であった。しかし、催血尿性においては、A1とA2は共に300-700mg/Kg(ip,一回投与)であるのに、BとCではそれぞれ36mg/Kg、28mg/Kgの少量で毒性を発現した。これらの成績より、ワラビ地下茎には少なくとも四種類の毒性分の存在が示唆された。なお本研究のBraxinCは、広野らのptoqiulosideと同一物質であることが示唆された。(2)ワラビの短期毒性、ワラビ地下茎粗毒性画分をモルモット腹腔内へ約60日間、連続投与した。一般病状としては、著しい体重の減少と脱毛がみられたが、赤血球、血小板数には著減がなく、白血球はむしろ増加の傾向を示した。剖検所見としては、腹腔臓器の癒着と出血、膀胱壁の浮腫と肥厚が顕著であった。しかし骨髄には異常はみられなかった。これらの成績からワラビ地下茎粗毒画分の短期毒性はその適用部位および膀胱への障害作用が主なものと考えられる。(3)ワラビ毒・BraxinCはラット腹腔肥満細胞に対してヒスタミン遊離作用を持たない。BraxinA1は肥満細胞に対して細胞膨化作用とヒスタミン遊離作用を示すが、BraxinCはいずれの作用も示さなかった。これらの成績は、BraxinA1とCとは作用発現機序のうえでも両者が異なることを示唆している。
著者
入佐 俊幸 川畑 秋馬
出版者
鹿児島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

火山降灰地域でこれまでに,火山灰汚損によるがいしの漏れ電流の増大が原因と思われる配電線路事故が発生している。本研究では,火山降灰による配電線路事故を軽減させる為に,火山灰汚損がいしの漏れ電流の増加並びにその変動を減少させる為の知見を得ることを試みた。その為にまず火山灰の成分および比電導度,イオン濃度,pHなどの電気的性質を詳細に測定した。次にこの基礎データをもとに,火山灰による種々の汚損条件下において,がいし及び高圧カットアウト、アレスタの汚損状態と漏れ電流の関係について実験的に調べた。その結果,1.漏れ電流はがいし内側のひだ部分にたまった火山灰が湿潤したときのみ増大し,さらにコロナの発生を伴い,その変動は増大する。2.耐張がいしに耐塩用がいしを組合せることにより、火山灰汚損時でもコロナの発生を抑さえられる。これにより、零相電圧の変動を小さくでき、遮断器の動作による停電事故を軽減できる。3.火山降灰により耐張がいしや高圧カットアウト、アレスタの漏れ電流は増大するが、中実ピンがいしの漏れ電流はほとんど増加しない。4.コロナ観測から、耐張がいしの内側ひだ部分の電位傾度が大きいことが予測される。よって、漏れ電流を減少させるために、高圧耐張がいしの形状は耐塩耐張がいしと同様に内側の内筒長を長くしてがいしの沿面距離を長くすることが適している。ことなどが明らかになった。また,漏れ電流を小さくするための最適ながいしの取り付け方向や連結長など事故軽減の為の対策指針が得られた。
著者
太田 雅己 堀江 邦明 土井 誠 田中 実 草場 公邦
出版者
東海大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

代数曲線,特に楕円モジュラー曲線の塔に付随する"大きな"p-進エタール・コモホロジー群の研究を行った.素数pと正整数N(pXN)を固定し,モジュラー曲線の塔{X^1(Np^γ)}(γ=1、2、……)を考える.昨年迄の研究により、これに付随するパラボリック・コモホロジー群の通常部分が良いp-進ホッジ構造をもつ事がわかっていた.即ち,この群に自然なp-進ホッジfiltrationが入り,それをA-進カスプ形式の言葉で記述することができ,"特殊化社塑像による個々のレヴェル,重さをもつコモホロジ群のp-進ホッジ構造が取り出せる事を示した。この研究の自然な継続,発展として開曲線の族{X_11(Np^γ)-{cusps}(γ=1,2,……)のエタノール・コノホロジー群の通常部分のp-進ホッジ構造の研究を開始した.これは上記結果をアイゼンシュタイン級数のp-進族を含む形に拡張する事を目標にしており、応用としてはアーベル対上のアーベル体上のアーベル拡大の具体的構成が見込まれている。未だ理論の全体が構築された訳ではないが,今年度の研究により次の諸点が明らかになった:・上記コホモロジー群が∧-加群としてうまくcontrolできる事;・モジュラー形式に関する,異なった重さに対応する"大きな"p-進ヘッケ環の通常部分が重さによらない事:・モジュラー形式の射影系と∧-進モジュラー形式の間に,カスプ形式の場合と同様の対応がある事;・一般ヤコビ多様体を用いて,上記コホモロジー群を記述するp-divisible群が構成できる事;等である.この研究は来年以降も継続して行う.尚,A. WKilesによりフェルマ-の最終定理が証明されたが,それについての解説的仕事も行った.
著者
日野林 俊彦 南 徹弘
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

思春期から青年期にかけての発達においては、性に関わる発達が重要な役割を果たすと考えられる。日本における女子の性的発達は、発達加速現象の進行により平均初潮年齢が世界的に見ても著しい低年齢の12歳3.7ヶ月まで低下したように、時代的に大きく変化してきている。本研究においては、この初潮に代表される性成熟が、思春期における性的同一性の発達に影響を及ぼしていることが確認された。なお、この初潮や性的同一性の発達には、47都道府県別の資料で著しい国内地域差が確認された。特に沖縄県においては、平均初潮年齢12歳0.1ヶ月と最も低い一方、性的同一性の発達においても否定的傾向の発達が最も早く顕著な傾向が確認された。他にも、誕生の月と初潮の月の相関や、早生まれのものの相対的な早熟傾向等、女子思春期発達における顕著な心身相関を示唆する傾向が確認されている。一方、大学生・短期大学生等の調査結果から、青年期中期以降の発達には、思春期変化の直接的な影響は見られなくなる傾向が示唆された。しかし、性的同一性の発達が、大学入学時の満足度や自己評価に影響することに見られるように、各個人の同一性の発達が、女性性の発達や進学決定過程に影響を及ぼすことが分析された。女子の発達において、思春期変化の時期にあっては性成熟における早遅が性意識の発達に影響を及ぼす形で心身相関が顕著に見られる。しかし、青年期中期以降には、思春期変化の直接的な影響は減少し、性役割への心理的適応が青年期発達全般と関連することが示唆された。今後は各ライフ・サイクルにおける女性の性的発達と性差の問題の解明が必要である。
著者
小笠原 信夫
出版者
東京国立博物館
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

大和鍛冶は奈良時代の中央集権の頃より存続していたはずであるが、この期の直刀から湾刀へ移り、荘園・武士の起りなと時代の推移に鍛冶がどのような状況にあったかという事は皆目判っていない。文献及び現存作品から大和鍛冶の存在が明らかとなるのは鎌倉時代後期である。これは大和五派と称される千手院、当麻、保昌、手掻、尻懸の各派であるのだが、その中で手掻派が美濃へ、別に千手院派が美濃赤坂へ移ったことは古くから伝えられているところであり、他に越中国宇多派が大和国宇陀郡から、薩摩国波平派、備後国国分寺助国など大和鍛冶の影響をうけたという旧説は肯定すべきところである。今回の研究で明らかとなったところは、大和にはこの五派以外にもいくつかの流派が存在したことであり、奥州鍛冶宝寿も大和鍛冶と直結するものであり、吉光と称する鍛冶で有名なものは京粟田口派の藤四郎吉光であり、これと銘振りの異なるものを土佐吉光、藤四郎吉光の偽物とみなされていたが、大和吉光を名乗る鍛冶が数代にわたって存在したことが確認され、文献から土佐吉光との関連が窺われるところである。また室町中期でほぼ手掻派が断え、代って金房派が出現するのであるが、金房派がとのようにして出現したか全く明らかにされていなかったものが、作品資料からある程度手掻派との関連が明らかとなった。また金房正真、勢州正真、三河文殊正真など正真を名乗る鍛冶が無縁でないことも今回の調査の成果であきらかとなったことである。結論として、旧説を覆すような大きな成果はなかったものの、こまかい空白を埋めるいくつかの成果を得たところである。
著者
矢野 牧夫 小田島 和平 丹治 輝一
出版者
北海道開拓記念館
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

北海道開拓記念館に保存されている第2次世界大戦時の朝鮮人強制連行関係資料の整理分類と労働実態の調査を目的として研究を進めた。この研究によって得た新たな知見は、次のとおりである。1.連行者名簿の整理分類ーとくに住友金属鉱山,北海道炭鉱汽船(北炭)関係資料、日曹天塩炭鉱関係資料の整理分類を行い、強制連行された朝鮮人1,200名の連行者リストを作成した。これにより連行者氏名,年令,職業,本籍,連行時の居住地などを詳細に明らかにすることができた。2.強制連行関係資料の整理分類ー連行にあたっての現地における労務者の割当と募集状況,輸送計画および渡航状況,受入先での稼動状況,管理対策,稼動中の騒擾事件,逃亡状況,就業中の災害被災状況,慰安事業および馴化のための協和会組織などに関する資料の整理分類を行うとともに、それらの具体的事項を調査し,一連の強制連行,強制労働の経過を明らかにすることができた。3.強制労働が行われた現地の状況調査ー各鉱山は閉山後、かなりの年数を経過し、連行者が就労した事業所,収容された施設などはすでに存在していないが,各地に死亡者の墓碑,慰霊碑などが残存しており13箇所においてそれらの調査を行った。4.強制連行関係者からの聴取調査ーとくに、金属鉱山関係者から強制労働の実情を聴取することができた。それらは労働形態,就労内容,労務災害などに関する具体的内容であり,上記2の内容を補充するものであった.5.研究成果の公表ー研究成果の公表については,平成5年度の北海道開拓記念館研究年報および北海道開拓記念館調査報告に登載し一般への公表を行う。
著者
塩見 浩人 井上 和恵 中村 明弘
出版者
福山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

Komodaらによってラット脳より内因性睡眠促進物質として同定された物質が酸化型グルタチオンであったことから、中枢神経系におけるグルタチオンの新たな生理作用が注目される。本研究においては、睡眠誘発作用と抗侵害作用が密接に関連していることに着目し、グルタチオン(酸化型グルタチオン:GSH、還元型グルタチオン:GSSG)の抗侵害作用の作用機序解明を中心に研究を遂行した。【結果】(1)側脳室内に投与したGSSG、GSHは、釣り鐘型の用量依存性を持つ抗侵害作用を発現させた。最大の抗侵害作用を示す至適用量はGSSGでは0.41nmol/mouse、GSHでは0.82nmol/mouseであった。(2)GSSG、GSHの抗侵害作用はモルヒネ同様ネピオイド拮抗薬ナロキソン(0.5mg/kg s.c.)の前処置で完全に抑制された。(3)GSSG、GSHの抗侵害作用はNMDA受容体拮抗薬MK-801(0.3nmol/mouse i.c.v)の併用投与でも完全に抑制されたが、モルヒネの抗侵害作用全く影響を受けなかった。(4)GSSG、GSHの抗侵害作用はアスピリン(555nmol/mouse i.c.v.)、あるいはプロスタグランジンD2の選択的な合成阻害薬であるSeCl_4(9nmol/mouse i.c.v.)の前処置で優位に抑制されたが、モルヒネの抗侵害作用はこれらの薬物の前処置では全く影響を受けなかった。(5)GSSG、GSHは自発睡眠を優位に増加させたが、ネピオイド拮抗薬ナロキソンを処置することによりその効果が抑制された。以上、本研究において、中枢適用されたGSSG、GSHが、NMDA受容体に働き、プロスタグランジン系(プロスタグランジンD2)→オピオイド系を介して抗侵害作用を発現させることを明かにした。GSSG、GSHの睡眠促進作用もネピオイド拮抗薬で抑制されたことから、GSSG、GSHの睡眠作用にも抗侵害作用機序と同様のプロセスが関与している可能性を強く示唆することができた。
著者
清水 幸丸
出版者
三重大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

魚と水力発電用水車の関係は我が国においてはあまり関心がなく、これまでほとんど研究されていない。河川にダムを建設し、既存の水車発電装置を設置すると河川は寸断され、河川魚の生息条件が著しく破壊されることは既に知られている。ダムが低い場合にはしばしば魚道が作られるが、通常建設費がかかるので設置しない。また、魚道を通過する流量は発電に利用できない。しかだって、もし魚が運転中の水車内に自由に通過することができれば河川に棲む魚族の生態系を破壊することなく、河川のいたるところに低落差の水車を設置することができる。現在の高性能反動型水車ランナーはキャビテーション寸前の高負圧下で運転され、ランナー内流速も速い。負圧は魚の内蔵破裂を引き起こし、高速では魚がさかのぼれない。このような条件を考慮して、著者らの研究目的は、落差が1〜2mで、ランナー内流速が遅く、負圧にならない水車ランナーを開発することである。上記の目的に沿って次のような研究を行った。1.水車ランナーを通過する魚の挙動をビデオカメラおよび写真撮影により観察した。(1)、上流から下流へ移動する場合、(2)、下流から上流へさかのぼる場合。2.水車ランナーを通過する魚にランナーが与える損傷、その他生物学的打撃を検討した。3.水車ケーシングの圧力分布を測定し、水車内圧力分布と魚生存の関係を検討した。4.水車ランナー入口および出口直後の速度分布を測定し、魚が水車ランナーを下流から上流へさかのぼりうる流速の条件を明らかにした。5.魚と水車の関係を研究する研究用水車設備を開発した。
著者
喜多村 和之 大膳 司 河野 員博
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

本研究は、戦後日本の4年制大学・短期大学における学部・学科の新設(増設)、改組、廃止の状況を時系列に展望し、学部・学科の変革を促進する背景と要因は何か、について比較社会学的に分析することを目的として進められた。その目的を達成するために、文部省監修『全国大学一覧』と『全国短期大学・高等専門学校一覧』を用いて、1989年、1980年、1971年、1963年、1954年の5期について、大学・短大における学部・学科の新設(増設)、改組、廃止の状況を時系列にデ-タ・ベ-ス化した。さらに、情報を補うために、各大学・短大の学校案内等の文書資料を収集するとともに、学校関係者への面接調査を行った。その結果、現時点で、以下3点の知見を得ることができた。1.時を経るにしたがって、大学、短大ともに、学科の種類が増加している。例えば、大学における学科の種類数は、1954年の360種類、1963年の418種類、1971年の539種類、1980年の667種類、1989年においては796種類となっている。また、短大においては、1954年の174種類、1963年の214種類、1971年の274種類、1980年の296種類、1989年においては333種類となっている。2.学科の新設(増設)は、大学や短大を取り巻く社会・経済的変動に反応した結果であるものと考えられる。例えば、そのことは、近年、社会の情報化や国際化の進展にともなって、大学や短大において、情報学科や国際学科等の学科が急増しているという事実に示されている。3.私立の大学や短大は、国立や公立に比べて、学科の新設(増設)、改組、廃止が活発である。これは、社会の変化に対する設置者間の感応性の相違を反映しているものと思われる。詳細な分析を継続中で、さらなる知見が得られるものと期待される。
著者
喜多村 和之 大膳 司 小林 雅之
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

本年度は、4年制大学と短期大学の入学定員割れおよび統廃合の要因を分析するための理論作りおよび実証データの作成・分析を行った。さらに、大学・短大の設置者である学校法人の新設統廃合の分析も行った。そのために以下の3種類のデータ・ベースを作成した。第1に、各大学に関して昭和61年度の定員充足率、社会的評価(偏差値等)、構成員の特性(研究状況、年齢分布、学歴等)、就職状況などの属性的情報を収集した。第2に、昭和24年度以降新設統廃合された大学および短大の学部別の入学定員数と在籍者数を調べた。第3に、昭和25年以降の学校法人の許可と廃止の状況について調べた。さらに、以上の数量的情報を補うため、各大学の学校案内の収集や関係者へのインタビュー調査を行なった。その結果、以下の新たな知見が得られた。1.定員割れしている大学は27校ある。2.定員割れの要因を、経営戦略、内部組織特性、外部環境特性の3つの観点から検討した結果、地方所在で小規模で偏差値ランクが低いという傾向がみられた。3.さらに、伝統的な女子教育を支えた学部で定員割れが目立っている。4.廃止となった45校の短大の平均存続年数は、14.2年であった。国立私立別では、それぞれ26.7年、17.4年、12.7年で私立の短大が設置されてから最も早く廃止される比率が高い。5.昭和50年当時の学校数で廃校数を割った廃校率をみると、短大のそれは2.9%で、幼稚園の4.2%、小学校の4.9%、中学校の4.5%、高等学校の5.9%についで高い値となっている。しかし、大学の廃校率は0.2%で、相対的にみてかなりひくい。6.高等教育への参入以前、それらの学校法人の約8割は各種学校や高等学校などなんらかの学校経営していた。これは特に短期大学に参入した学校法人に著しい。
著者
中井 三留 足立 俊明 岩下 弘一 上野 一男 山本 和広 戸田 暢茂
出版者
名古屋工業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

理想境界の一般理論の構成を目指す本研究の第一段階として,本年度の研究目的とした,固有境界と空間及びその上の諸種の調和構造が特定の理想境界とどの様に係わるかを明らかにする間題に於て,特に理想境界をロイデン境界に取った場合に以下のような成果を得た.n次元ユークリッド空間R^n内の単位球B^nのpロイデン調和境界Δ_p(B^n)(1<p≦n)の連結性が,B^n上非定数のpディリクレ積分有限なp調和測度,或は更に一般の指数をpとするA調和測度,が存在しないと言うコンデンサー問題の否定的解決と同等となることを示した.ついでΔ_p(B^n)が連結となる必要十分条件は2≦p≦nであると言う決定的な結論を得た.1くp〈2の時Δ_p(B^n)の非連結の度合を,B^n上に常にpディリクレ積分無限なA調和測度が存在すると言う形で,最初はn=2に対し,ついで一般のn≧2について明らかにした.B^nを一般化してリーマン多様体Mをとるとき,その上の(n-1)次のドラムコホモロジーが0で,更にMがビルタネン性を持つならば、2≦p≦nのときΔ_pp(M)が連結となると言う形の一般化も行った.特にビルタネン性を詳しく調べ,B^nnの幾何学的形状の一般化を考察した、その結果,B^nを特別な場合として含むものとして,R^nの部分領域Gで,星型であるか,又はGの境界∂Gが連結で局所的にみてグラフ状曲面からなる場台にも,2≦p≦nであるならば,Δ_p(G)がまた連結となることが分かった.更に別の見地からの進展として,MをC^∞級の完閉境界∂Mを持つC^∞級のり-マン多様体とするとき,2≦p≦nの時かつその時に限り,M上の全ての指数pのA調和測度はMの閉包==MU∂M迄連続に拡張できて,∂Mの各連結成分の上で1又は0となると言う結果も得た.
著者
田辺 裕
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

本研究は,昭和63年3月に開通した青函トンネルの行政境界(津軽海峡に横たわる公海と領海との境界,海底地下における日本の管轄権の妥当性,北海道と青森県の境界,関係市町村界)の基礎となる地理学的境界を政治地理学の観点から導きだし,昭和63年2月24日に自治大臣から告示された現実の境界決定とどのような対応関係にあるのかを明らかにすることを目的としておこなわれた。とくに告示の基礎となった自治省の青函トンネル境界決定研究委員会の研究結果報告書自体も研究の対象とすることとした。先ず従来の政治境界は,一般に自然境界あるいは人為的境界など形態的類型区分による場合が多く,研究の武器としては不十分であったので近年の政治地理学の考え方に従い,先行境界・追認境界・上置境界・残滓境界などの概念によって問題点を整理した。第一に,津軽海峡には公海が,我が国の外交・防衛上の配慮によって設定されていることによって,先行境界が存在せず,我が国で通常境界論争で用いられる論理,先行境界の確認によって境界を画定することが不可能であることをあきらかにした。第二に,追認すべき社会経済的境界の存在について調査したが,漁業権の圏域に関しても,すべて公海を越えておらず,北海道と青森県の直接的接触は見られなかった。してがって未開の地にあらたに先行境界として地図学的な境界画定を試みると,とくに津軽海峡のごとき「向かい線」の画定には,いわゆる等距離線がもっとも妥当であるとの結論に達した。この画定原理は,江戸時代以来,わが国の水上境界画定の原理でもある。すでに利害が錯綜し,多様な社会経済的境界が存在する場合と異なり,津軽海峡は公海の存在が政治地理学的原理と現実の政治行政上の結果とが見事に一致する希有な事例であったと理解してよいであろうとの結論に達した。