著者
上宮 健吉
出版者
久留米大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

世界のヨシノメバエ属の種分化、系統発生、配偶者認知システムに係わる雄の交尾信号と雌の受諾信号を日本産とヨーロッパ諸国、ソ連邦産について音響学的、行動学的に追求した。採録した音響データは既知種8種、未記載種3種の総計611個体、86地域集団、5万個余りの信号数に達した。さらに、本属に近縁の属の交尾信号を波形パターンの原始性の決定に比較検討した。交尾信号の音響学的特性をオシログラムや周波数スペクトルから測定し、異種間、異地域同種間について、多変量解析の諸法によって有意性の検定や非類似度、群別化を行った。同種の異地域集団では、信号の物理的性質が様々の程度で遺伝的に固有化し、これが過去のヨシ湿原の地理的連続性がもたらすジーンプールの共有性の程度や、湿原の歴史性やヨシノメバエの侵入の起源に由来する場合と、隔離の成立の古さによって、近接集団と類似性のないランダムな特性として固定化している場合とが認められた。ヨーロッパの種類の中には、信号の時間軸特性が地理的隔離の程度が大きいほど、特異性が顕著であり(例えばブルガリア、ラトビア、イギリス産)、一方、地史的に連続性の新しい東ドイツ、チェコ、ハンガリー間には有意な差は認められなかった。このことは、孤立した遺伝子集団において、信号発生に係わる遺伝子系の変異の累積的蓄積に起因すると思われた。国内の1種では、中国大陸要素と考えられる集団が対馬、北九州、吉野川産に認められた。本州や北海道産では多群の正判別率が九州産よりも12.7%高く、地理的障壁の豊富なことを示した。多変量解析によるとrufitarsisはヨーロッパ産と日本産で明瞭に異なる数値が得られ、妊性交雑によっても別種であった。また、この群に東北・北海道に分布する種と、長野県に分布する2新種の存在が信号特性から判明した。音響特性や雌の反応性、交尾成功率、妊性からソ連産の1種がシブリング種として確立された。
著者
藤永 徹 水野 信哉
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

感染病、炎症あるいは組織損傷の初期に生ずる一連の現象を急性相反応という。この時血漿中に増加する蛋白が急性相反応蛋白と呼ばれ、感染病などに対する抗体や細胞性免疫反応が発現するまでの間の初期における生体の防御反応を非特異的に担う重要な血漿蛋白群といわれている。本研究ではウマのC-反応性蛋白(CRP)、セルロプラスミン(CP)、α_<1->酸性糖蛋白(α_1AG)、酸可溶性蛋白(ASP)、ハプトグロビン(HG)、血清アミロイドA蛋白(SAA)およびα_<2->マクログロブリン(α_2MG)をとりあげ、それぞれの蛋白を分離・精製して性状を調べ、ウマ血清中の濃度測定法を確立した。次いで、正常馬の加齢性および周産期におけるそれら蛋白の血清中濃度変動を明らかにし、炎症性病態における急性相蛋白の診断法を確立し、その意義について検討した。その結果、α_2MGはウマでは急性相蛋白ではないと判断された。急性相蛋白としての血清濃度の変動は、炎症刺激に対する反応性が最も速い蛋白はSAAで、処置後2日目には処置前値の数十倍から数百倍にも上昇した。次はα_1AGとCRPで、α_1AGは処置後2,3日目に約1.5〜2倍の上昇を示し、CRPは処置後3、4日目に約4倍の上昇を示した。HGは処置後4、5日目に約1.5〜9倍の上昇を、ASPは処置後5日目に約1.8〜1.9の上昇を示した。CPは処置後6〜7日目に1.5〜2倍の上昇を示した。また、SAAとCRPはその血中濃度が良く相関したが、SAAがより鋭敏であった。この様な蛋白毎の反応性の違いは今のところ不明であるが、今後これら急性相蛋白の変動を詳細に検討することによって、急性相蛋白の血中濃度測定の臨床的意義がより明らかにされるものと考えられる。しかしながら、この様な蛋白の幾つかを組合わせて血中濃度を測定することによって、病期が推測できる可能性が示唆され、病勢の診断や治療指針に有力な情報となりうる可能性が示唆された。
著者
高橋 秀雄 江藤 盛治 芦沢 玖美 江藤 盛治 高橋 秀雄
出版者
独協医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

1969年から1984年の間に,10年以上にわたって毎年1回左手および手根部をX線撮影することのできた東京都内の5歳から18歳までの女子65名について,TW2骨成熟と成長を調べた.1.骨成熟(1)イギリス基準との比較:RUS成熟は全般により速く進行し,1年早い15歳で完熟する.Carpal成熟はイギリス基準とかなりよく一致して進行し,13歳で完熟する.(2)日本人標準との比較:RUS成熟は全般により速く進行するが、完熟に達するのは同じ15歳である.Carpal成熟の完熟は1年早く,13歳である.20-Bone成熟は同じ15歳で完熟する.2.思春期成長42名の初経年月日,身長,体重,胸囲が毎年記録されている者の成長と骨成熟のスプライン平滑化速度を解析した.(1)成長速度の解析:平均して,身長増加のピークは11.1歳に出現し,その8か月後に体重と胸囲のピークが現われた.初経年齢は身長ピークの1年4か月後,12.4歳である.初経時は身長150.3cm,体重41.8kg,胸囲73.6cmであった.また最終身長は157.9cmであった.(2)骨成熟速度の解析:Carpal成熟のピークの出現は最も早く,9歳である.RUS成熟のピークは初経年齢に最も近く,11歳10-11か月に出現する.(3)成長と骨成熟の関連:1)平均初経年齢は12歳3,4か月,身長のピークは初経の1年3か月前,RUS成熟のピークは初経の4,5か月前である.2)初経の早い少女では,身長とRUS成熟のピーク年齢が低く,ピークの強さ(量)が大きい.そして初経時の身長とRUSスコアは低い.3)最終身長が高い少女はピーク時の身長と初経時の身長も高い.また最終身長は思春期の身長成長およびTUS成熟とは無相関である.
著者
千葉 恵
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

アリストテレスの哲学的思索の宝庫である生物学をめぐる近年の争点は目的因の存在論的身分である。或る人々は有機体の存在は質料因と始動因だけでは十分に説明できないと考え、他の人々はその本質の定義は目的因なしには不可能であるが、この両因による有機体の存在の十分な説明は可能であるとする。因果性(実在)と説明(言語)の関係をめぐるこの因難な問題接近の一基地を見定めたい。自然は複雑な構造を有し規則的で美しく無駄のない秩序を示す。人が人を生む複製機構の絶妙さこそ「最も自然なこと」であり、この自律的に形態発生する生物の秩序性の帰一的第一根拠が「実現さるべきもの」なる目的因である。目的は反省概念ではなく、理(設計図)の次元で資料に比と限界を与へ条件的に必然な質料を規定し(「理にも必然性はある」200b4)、時空特定可能な物理的次元で質料の自然的運動を引き起こす自然的原因である。熱冷等物理的必然運動なる自然学者の「自然的にある」は、理により形相づけられた質料の必然運動として、行為モデルに比され、解し直される。それ故質料の端的必然性は条件的必然性に「還元され」も「包摂され」(J.Cooper等)もせず、理上指定された質料が時空次元で一質料として独立した「自然的にある」必然運動を為すので、両者は同一事物の二次元の必然性である。(Phii8,9,PAil,De Anii4,GAiil,v8)生物の複製機構を範例とする「何故かくも自然は秩序正しいのか」という何故疑問に対する解が四原因論である。原因は実体の力の能動的・受動的発現と解される。始動因は場所上連続的な力の変動を生む物理的原因である。他方理にある善なる目的因は生成の完成状態なる形相因でもあり、受動的質料とそれに合着した始動因に秩序と方向性を賦与するその第一能動因、本質である。かくして目的因は質料・始動因と存在論的次元を異にしにそれらに還元されない。かく自然の帰一構造は原因論のそれとなる。(Phii3,7,Metv4)
著者
谷本 能文 藤原 好恒
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究の目的は、(1)先に見いだした有機光化学反応に対する10Tクラスの強磁場効果の機構の解明、(2)さらに強磁場による新しい化学反応制御の可能性を模索することにある。(1)では、フェナントレン(Phen)とジメチルアニリン(DMA)をメチレン鎖で連結した連結化合物(Phen-(CH_2)_<10>-DMA)のエキサイプレックスケイ光の強磁場効果をナノ秒レーザー分光法により研究し、2T以上の磁場ではΔg機構による磁場効果が起こることが解明された。またアントラキノン(AQ)にメチレン側鎖をもつ誘導体(AQ-CO_2-(CH_2)_<n-1>-CH_3)のミセル中の光半により生成するラジカル対の強磁場降下のメチレン鎖長依存性、ミセルの種類の依存性をレーザー閃光法により検討したところ、δg機構による磁場効果が強磁場中で起こることが解明された。(2)では、金属銅と硝酸銀水溶液などの金属と水溶液系の酸化還元反応により生成する金属樹に対する強磁場効果を検討した。銅棒(5Φ X 250mm)と硝酸銀水溶液からの銀樹の生成反応(Cu+2Ag^+→Cu^<2+>+2Ag↓)では、金属樹の生成が磁場勾配により顕著な影響を受ける。すなわち強磁場中では銀樹がほとんど生成せず磁場の弱い箇所で主に生成することが明らかになった。この新しい磁場効果は、常磁性イオンである銅のイオンが勾配磁場効果により磁場に引き寄せられるためであることが解明された。また、反磁性結晶の成長が磁場配向するという新しい現象を見いだした。以上の研究から、「強磁場反応化学」というべき新分野の開拓の端緒を得ることができた。
著者
馬場 由成
出版者
佐賀大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本研究の目的は、蟹や海老殻のバイオマス廃棄物に含まれるキチンから容易に得られるキトサンを原料とする安価で選択性の高い新規の吸着剤を合成し、これを用いて貴金属イオンの選択的分離を行い、これらの分離・精製プロセスの大幅な省エネルギーとコスト削減を実現すると共に、バイオマス廃棄物の有効利用を図ることである。本研究ではキトサンが分子内に反応性の高いアミノ基を有していることに着目し、このアミノ基を利用してキトサンの各種の化学修飾を行い、貴金属イオンの新しい高選択性の吸着剤の開発を行った。キトサンおよびその誘導体による金属イオンの吸着については多くの報告がなされているが、これらは酸・アルカリに不安定であり工業的な吸着剤としては利用できない。工業的な吸着剤として利用するためには架橋が必要であるが架橋すればキトサンの官能基である一級アミノ基が潰され、金属の吸着能を低下させる。そこで本報告ではキトサンにキレート形成能を有する官能基を導入する際にキトサンのアミノ基をシッフ塩基にし、アミノ基を保護した状態で架橋反応を行った。その結果、ここで提案した架橋法を利用すれば、酸、アルカリに安定な、しかも貴金属イオンに対して高選択性を有するキトサン誘導体が得られることが明らかとなった。すなわちこうして架橋された2種類キトサン誘導体であるビリジルキトサンおよびチエニルキトサンを用いて塩酸溶液からの貴金属イオンの吸着特性を調べた。その結果、両者とも鉄、銅、ニッケル、コバルト、カドミウムおよび亜鉛等のベースメタルはほとんど吸着せず、金、パラジウムおよび白金に対して高選択性を有する吸着剤であることが明らかとなった。さらに市販のキレート樹脂などと比較すると、2〜3倍の優れた吸着容量を有することが見い出され、本研究で提案したキトサン誘導体が貴金属イオンに対して優れた選択性を有する新しい工業的吸着剤として期待されることが明らかとなった。
著者
三浦 弘之 泉本 勝利 三上 正幸
出版者
帯広畜産大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

と殺後の家畜の枝肉を早期に冷却することによって食肉の品質劣化を防ぐいわゆるコールドチェーンは流通上のメリットとして一応は定着したが、一方においては急速に冷却されることによって食肉の熟成に関与する様々な酵素系が抑制され、例えばATPの分解が遅れるために死後硬直の最中に食肉を流通させるところから肉が"かたい"とか"うまみに欠けている"とかの評価を受ける様になって来た。本研究ではと殺後の家畜に低電圧電気刺激を行って種々の酵素系を活性化させ、いわゆる熟成を人為的にコントロールしようというものである。昭和61年度においては羊を供試動物とし、直接電圧で3.2〜3.8Vの低電圧で30秒、60秒、90秒、180秒の電気刺激を行って生化学的変化を調べることで肉質変換の機構を明らかにした。昭和62年度においては同様のことを3.2〜3.8V、13.8Hzで30秒、60秒、90秒、電気刺激を加えたホルスタイン肥育牛について生化学変化的変化を調べることで肉質変換の機構を明らかにした。昭和63年度においては最終まとめの年にあたるため研究もれの事項をホルスタイン肥育牛とホルスタイン経産牛をつかって精査し、特に電気刺激によって変換する肉質のうちタンパク質画分、ペプチド画分、アミノ産画分の変化について明らかにした。この3年間の研究成果によって、低電圧電気刺激によって起こる生化学的変化は、食肉色調の鮮明化、肉の軟化、トロポニンTの早期消失、3万、3.2万、3.3万ダルトンバンの出現による食肉の熟成などがみられ、肉質の変換が起こることを明らかにし、低電圧電気刺激は60秒間の刺激時間が最適であることを証明した。
著者
大平 充宣
出版者
鹿屋体育大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

3週齢のWistar系雄ラットをコントロール、beta-GPA(beta-guanidinopropionicacid)、及びクレアチンの3群に分け、それぞれ粉末飼料、1%濃度でbeta-GPA又はクレアチンを混入した餌をpair feedingした。約9週間の飼育後、各実験を実施した。その結果、特別なトレーニングは実施せず、しかも、安静時のアデノシン・3・リン酸(ATP)及びクレアチンリン酸(PCr)含有は低下したにもかかわらず、beta-GPA投与により水泳及びトレッドミル走運動の持久力が改善された。しかし、トレッドミル走で測つた最大酸素摂取量(VO_2max)は、他群と変わらなかった。もともと持久性の高いヒラメ筋では変わらなかったが、速筋である長指伸筋の持久性は大きく向上した。しかも、収縮及び弛緩時間が延長し、遅筋化が顕著であった。筋の解糖系酵素活性は正常以下であったが、ミトコンドリア酵素活性は顕著に高まっていた。筋線維タイプも遅筋化していた。しかし、血中ヘモグロビン濃度などはむしろ低い傾向があり、しかも心容積は有意に小さいにもかかわらず、持久力が向上したのは、このように筋の有酸素性代謝能の改善や遅筋化に大きく影響されていることが示唆される。筋中グリコーゲン含有量の増加も認められたが、運動及び食餌療法によりグリコーゲンレベルを一定にしても、持久性は変わらず、グリコーゲン量の影響ではないこともわかった。VO_2maxが変わらなかったのは、心容積の縮小などにより示されるように、心拍出量や酵素運搬能の改善が起きなかったためであると思われる。クレアチンの長期投与は、運動能力には顕著な影響を及ぼさなかったが、筋の速筋化、ミトコンドリア酵素活性の抑制、グリコーゲン量の低下などが起き、beta-GPA投与とほぼ逆の効果が得られた。
著者
塩見 浩人 田村 豊 中村 明弘
出版者
福山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本助成金を用いたモルヒネ耐性形成機序解明について、既に掲出した本年度の研究計画に基づき研究を遂行し、以下の成果を得た。1)急性実験において、アデノシンはモルヒネ誘発鎮痛作用を抑制するがこの抑制作用はアデノシンA1受容体を介して発現することを明らかにした。2)脳実質内微量投与法を用いて、モルヒネ誘発鎮痛作用を抑制するアデノシンの脳内作用部位として延髄巨大細胞網様核(NRGC)、延髄傍巨大細胞網様核(NRPG)、中脳水道周囲灰蛋白(PAG)を同定した。3)モルヒネ耐性形成ラットにおいて、NRGC、NRPGあるいはPAGにアデノシンA1受容体拮抗薬を微量投与することによりモルヒネの鎮痛効果が有意に回復することを明らかにした。この結果は、耐性形成時、脳内アデノシン系の活性化が起こっており、遊離アデノシンがA1受容体を介してモルヒネの鎮痛作用を抑制していることを強く示唆している。4)N-アセチル-β-エンドルフィン(NABE)もNRGC、NRPGあるいはPAGの部位においてモルヒネ誘発鎮痛作用を抑制したがこの抑制作用は、アデノシンA1受容体薬を微量併用投与により拮抗され、NABEの作用はアデノシンを介するものと考えられた。5)本助成金で購入したプッシュプルポンプユニットとプッシュプルサンプリングユニットを用いて、脳実質内からアデノシン遊離量を測定した。脳内アデノシンの遊離は、NABEの適用によって増加した。さらに、モルヒネ耐性形成と共に増加した。これらの成果より、モルヒネの耐性形成機序は、モルヒネによりオピオイドペプチドの代謝が促進し、その代謝産物(特にNABE)が脳内に増加するが、このNABEがアデノシンの遊離を促進し、遊離アデノシンがアデノシンA1受容体を介してモルヒネの鎮痛作用を抑制することによることが強く示唆された。
著者
小川 修
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

本研究は、還元拡散法による希土類機能性材料として希土類磁石を選び、拡散に関する実験を行なったものである。当初はCo中へのSmの拡散、及びFe中へのNdの拡散の両方を取り上げたが、後者の場合NdはFe中には容易には拡散せず、長時間の熱処理によっても進展が見られなかったので、研究の後半では前者のCo-Sm系に的を絞った。Co中へのSmの拡散は、「研究成果報告書」に詳述した理由から、溶融Sm-Co合金とCoブロックで拡散対を構成したが、拡散が起きる前にCoブロックの表面が不均一に溶け出す現象を抑えることができず、このため拡散層厚が非常に不均一になった。そこで、Coブロックを溶融Sm-Co合金の蒸気と接触させる方法に切り換えたところCoの溶出が抑えられ、かなり均一な厚さの拡散層が得られたので、以後はこの方法によった。最も成長の速い相はSmCo_5で、その内側にSm_2Co_<17>の相がわずかに成長した。最も外側に現れているSm_2Co_7の相は試料断面の研磨中に失われることが多く、層厚の測定ができなかった。結果として1050、1100及び1150℃の各温度で、SmCo_<17>相におけるSmの拡散系数が求められた。本研究で採用した方法をヒントに、Sm_2O_3-Caチップの混合物をCo粉末と直接には触れないようにして還元拡散プロセスを行なわせたところ、カルシウム分による汚染の少ないCo-Sm合金が得られた。これは言わば「還元・揮発・拡散法」と呼ぶべきもので、比較的蒸気圧の高いSm等には有用な方法であろう。また、一旦SmCo_5の層を大きく成長させた後、Sm蒸気の無い条件で1100〜1200℃に保持すると、SmCo_5相をSm源とする拡散が進行してSm_2Co_<17>相が大きく成長することを確認した。この二つの結果は、工業的に未完成な還元拡散法によるSm_2Co_<17>素磁石材料の製造につながる有望なものとして、今後も検討を加える予定である。
著者
藤原 宏志 宇田津 徹朗
出版者
宮崎大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

土器胎土に含まれるプラント・オパールは当該土器が製作される際用いられたた材料土に含まれていたものと考えられる。イネは外来植物であり、もともと日本には存在しない植物である。したがって、イネのプラント・オパールが土器胎土から検出されれば、少なくとも、その土器が製作される以前にイネが導入されていた証拠になる。本研究では、日本、朝鮮半島および中国における先史時代の土器胎土に含まれるイネのプラント・オパールを検出することにより、それぞれの地域における稲作開始期を明らかにしようとするものである。日本:縄文時代岡山:津島遺跡および南溝手遺跡(縄文時代後期:B,C1500)から発掘された同時代の土器胎土からイネが検出された。少なくとも、この時代には日本へイネが伝えられていたと考えられる。朝鮮半島:新石器時代釜山:農所里遺跡(新石器時代後期:B,C1500)で発掘された土器胎土からイネが検出された。朝鮮半島でも日本列島とはぼ同時期にイネが伝えられていた事実は興味深い。中国:新石器時代蘇州:草鞋山遺跡で発掘された馬家浜時代中期(B,C4400)の土器胎土および紅焼土からイネが検出された。長江デルタでは、この時代すでにイネがあったことがわかる。ただし、この時代は地球温暖期にあたり、この地域に野性イネが存在(少なくとも、現在は存在しないが)していた可能性をも考慮しておく必要があろう。
著者
谷川 恵一
出版者
高知大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

1.河津が死去した直後の新聞記事を調査し、その官暦についての詳細な記録を得た。また、国立公文書館に所蔵されている文部省関係の書類の中から、河津のフランス留学に関する文書を検索し、そのいきさつをほぼ明らかにしえた。2.河津が関係した日本立憲政党新聞の全紙面を調査し、河津の執筆した記事、および河津に関する記事を検索し、この時期における河津の言論活動を俯瞰するための基礎的な資料を得た。現在そのデータベースの作成にとりかっている。3.河津が翻訳した最初期の歴史書である『西洋易知録』(明治2年刊行)とその原典であるW.F.CollierのThe Great Events of History(1867)とを対照させ、河津の翻訳作法をうかがうための基礎的なデータを得た。これによって原文にきわめて忠実でありながら、平易な平仮名文の歴史叙述を達成していることを明らかにしえたが、ひき続いて、その平仮名文の文体的な位相を明らかにするために、同時代の物語的な歴史叙述の文体との比較・分析を行なっている。4.文明開化期を中心とした明治初期に出版された主要な歴史書をほぼ網羅的に収集し、それらを扱っている地域によって万国史・西洋史・中国史・日本史に分けた上で、さらに文体面から漢文・片仮名文・平仮名文に区分して、おのおのの歴史叙述にあらわれる特徴についてのデータを蓄積し、あわせて、同時期に文部省から刊行された片仮名文の歴史書の文体についての分析を行なった。これらの作業を通じて、文部省の歴史叙述によって物語的な歴史叙述が駆逐され、文体において歴史と文学とに言説が分割されたことをほぼ明らかにしえた。
著者
中村 朗
出版者
東海大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

甲幅約210mm、甲長約180mmのタカアシガニ(雄ガニ2尾、雌ガニ3尾)5尾を用い、バイオテレメトリによって、前年度までの行動調査結果の確認と長時間の追跡による生態行動の解明と製作した機器類の性能検証を目的とした。実験は、通算30日にわたって行われた。前年度までの結果を含めて今年度についてまとめると1.移動は、絶え間無く続けられ移動方向は、沿岸に沿って沿岸線と平行しており、移動速度、移動方向はほぼ一定である。2.移動途中にタカアシガニが存在した水深は、70mから430mの範囲にあり、その大部分は、水深200mが中心であった。3.環境温度は、6℃から13℃の範囲であり、水温の変化が行動の変化に影響を与える関係は、見られなかった。4.移動中の環境照度は、0.1から0.01ルクスオーダーであり、水中照度の変化と行動と間に相関は認められなかった。5.移動速度に注目すると、雌雄ともに夕刻6時から朝6時にかけての移動速度が朝6時から夕刻6時までの移動速度に比較して大きく夜行性であることが示唆された。一方、雌雄で比較すると雌の移動速度が、雄の移動速度に比較して1.5から2倍程度大きく雌の移動速度の平均は、おおむね時速5-60mであった。6.タカアシガニを放流してからバイオテレメトリで位置を特定し、その後2週間経過してから移動速度ならびに移動方向を推定して探索すると再度推定位置付近で発見できることが多い。これらの結果は、漁業者の漁獲の際にカニ籠漁が行われると一方向に移動するタカアシガニが籠に捕獲されてしまい、移動方向の後方で操業される一方の底引き漁での漁獲がほとんど無くなる事実と符合する。さらに、漁業者の話によれば底引き漁では、海域によらず親ガニの漁獲の際に小ガニ、稚ガニが混獲される。一方、過去に調査に供したカニの中に抱卵した親ガニも数個体あったことから推定して移動が索餌と産卵を兼ねたものであると考えられた。
著者
益田 重明 小尾 晋之介
出版者
慶応義塾大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

回転座標系における境界層では、凹面上の境界層におけるゲルトラ-渦と類似の縦渦の形成から乱流遷移が始まることが知られており、コリオリカ不安定による三次元微小撹乱の線形成長として説明されている。本研究ではこれに続く撹乱の非線形成長の過程、すなわち二次不安定について実験的に調べた。先ず、波長の異なる撹乱を人工的に与えてゲルトラ-渦に発生状況を観察し、波長選択の機構について検討した。その結果、撹乱波長が過大の場合には発生した縦渦の分裂(splitting)が、また過少の場合には合体(merging)が起こり、最終的に特定の波長に漸近する傾向を示すこと、この特定の波長は人工撹乱を加えない自然の状態で観察されやすい波長に近いことを見出した。さらに、このスパン方向二次不安定に続いて流れ方向に周期性を持つ別の二次不安定(流れ方向二次不安定)が発生すること、これには馬蹄渦モードと正弦波モードがあること、モード選択には一次不安定(ゲルトラ-渦)の波長のほかに、二次撹乱の対称性が関わっていること、流れ方向二次不安定の発生と同時に壁面近傍に強い速度変動が新たに生ずることを明らかにした。さらに、上記の二次不安定は縦渦によってもたらされる速度分布の空間変化の振幅が主流速の40%程度、境界層厚さを基準としたゲルトラ-数が約130に達した段階で発生すること、これらは凹面境界層における従来の結果とほぼ一致することを明らかにした。さらに線形撹乱方程式の形から、遷移初期の縦渦形成段階は少なくとも遠心力とコリオリカに関する限り外力の種類によらないこと、非線形段階に達して二次不安定が発生する状況に至っても、外力型不安定から変曲点型不安定に切り替わることによって、やはり外力の有無や種類に関係しない、縦渦を伴う遷移に共通の現象であることを示唆した。一般の乱流遷移の終期段階における縦渦の重要な役割が知られており、本研究の成果はその解明にとって新たな知見を与えた。
著者
竹村 暘 白木原 国雄
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

1.分布・行動(1)大村湾当海域での発見例が極めて低いが、目視調査への協力者が増えた結果、湾内でスナメリが季節的に移動していることが伺がえるだけのデ-タの蓄積が出来た。即ち、冬期の湾奥にあたる南東部への集中と夏期における分散が伺えた。ただし発見数が極めて少ないため、正確に回遊を把握することはできなかった。(2)有明海・橘湾本海域では3年近いデ-タの蓄積から、各調査コ-ス毎に独特な季節変動が繰り返されていることが明らかになった。即ち、有明海奥部と橘湾との間を季節的に移動し、冬期には有明海奥部に集中する傾向がみられた。この移動は主に岸から2マイル以内を使って行なわれている。2.漁業との関連性本種は小型の魚類や軟体動物,甲殻類など多様な生物を餌としている。大村湾ではこれら餌となる生物の漁獲量が年々減少しており、発見数の減少と合わせて心配されている。有明海、橘湾ではさほどの減少は見られていない。また、餌生物への選択性に乏しく、、漁業との競合は少ない。3.生活史新生仔及び胎仔の状況から、本種の出生時期は秋から冬にかけてのかなり長い期間であることが推察された。冬期の集中行動と出生時期からこれらの間には深い関係があることが伺がわれた。雄は雌に比べて早く成熟する。今回の最高会の個体は雌で255才であった。4.資源量資源量を絞り込むことは出来なかったが、大村湾では数十から百といった危桟的な状態と考えられるし、他でも決して多くはない。
著者
井上 昌次郎
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本研究者らが睡眠促進物質(SPS)の一成分として同定した酸化型グルタチオン(GSSG)は、還元型グルタチオン(GSH)とともに生体内に広く分布し、活性酸素の中和などによって解毒をおこない、生体防御にかかわることが知られている。また、中枢神経系では両物質がグルタミン酸作動性神経伝達を阻害することが知られている。一方、グルタミン酸は興奮性アミノ酸として重要な神経伝達物質であるが、その過剰は酸化窒素の生成を促進し、これが神経毒として作用すると理解されている。これらの事実から論理的に推論すると、睡眠促進物質としてのグルタチオンはグルタミン酸作動性神経伝達を阻害することによって睡眠を増強するが、このさいの睡眠には覚醒時の神経興奮によって生じたグルタミン酸過剰ないしは神経毒産生を解消する能動的な生理機能が賦与されているのではないか、という仮説に到達する。本研究は睡眠促進物質グルタチオンを通して生体防御に果たす睡眠機能について、このような革新的な発想を実験的に解析しようとするものである。実験動物に若い成体の雄ラットを用い、無拘束・無麻酔状態で、自発行動・脳波・筋電図・脳温を連続的にモニターした。第3脳室には微小量の睡眠物質溶波を連続注入するためのカニューレを慢性的に挿入した。これらの実験動物にGSSGまたはGSHを夜間の活動期に投与すると睡眠が有意に増加することがわかった。また、GSSGを明期に投与したのちに部分断眠または強制運動を負荷すると、体温上昇や睡眠潜時が有意に軽減されることがわかった。これらの結果は上の仮説に符合するものであり、さらなる解析により確証できるものと考えられる。
著者
菱田 繁 谷口 忠昭
出版者
兵庫医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

ラットの自発的にアルコール (以下 「ア」 と記す) を選択し得る装置を用いて、ラットの 「ア」 嗜好性を調べ、その遺伝的背景を調べるための基礎的な実験を行った。ラットの 「ア」 嗜好性を調べるために使用した装置は、スキナーボックスを、Dne-lever,two-liquid方式に改良したものである。すなわし、ラットがスキナーボックス内で壁面のレバーを押すと水または、10% 「ア」 水溶液が交互に、壁面中央のノズルから出て来るように設計してある。この装置にはNEC社製パーソナルコンピューター (9800uM) を用いて、簡単に操作、制覇でき、かつ、データー処理が行なえるようにソフトウェアを組込んである。(1) ラットの系統別にみた 「ア」 嗜好性の差を調べるために、Wister系ラット、Long-Evans系ラット、Levis系ラットならびにFiscker系ラットを選び、各々のラットにおける 「ア」 嗜好性を調べ、各系統別に高い 「ア」 嗜好性を示すラットの出現頻度を求めた。その結果、Lewis系およびWister系ラットで 「ア」 嗜好性ラットの出現頻度が他の系統に比べて高く、Long-Evans系ラットで最もその出現頻度が低かった。(2) 同一系統内で、より高い 「ア」 嗜好性を有する雄ラットと雌ラットを選び、それらを近親交配させると、その子供に高い 「ア」 嗜好性を持つラットが高頻度で発生することがわかった。(3) また、ラットをAlcohol diet ( 「ア」 含有の液体飼料) で長期間飼育すると、そのラットの 「ア」 嗜好性が上昇することもわかった。以上の基礎的なデーターを基にして、今後はラット肝の 「ア」 ならびにアセトアルデヒド脱水素酵素の多形等からラットの 「ア」 嗜好性の遺伝的背景を追求して行きたい。
著者
大槻 耕三 田口 邦子
出版者
京都府立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

ビタミンUは別名Sーメチルメチオニンといいアミノ酸誘導体であって、抗消化器カイヨウ因子であり食物では野菜に遊離状で含まれている。本研究では、従来のガスクロマトグラフィーによる間接的定量法とは異っていて、野菜抽出液をLi系アミノ酸分析機に直接インジェクトしビタミンUを直接分離定量することに成功し分析方法を確立した。この方法を用いて各種食品に含まれるビタミンUをスクリーニングしたところセリ科やナス科やユリ科の野菜には湿潤量あたり1〜4mg%、緑茶は乾物量あたり1〜9mg%、アブラナ科の野菜には湿潤量あたり4〜20mg%含有されていた。アブラナ科野菜中でもクレソン、白菜、キャベツは2〜4mg%と比較的少なく、カリフラワー、ブロッコリー、コールラビ、菜の花は10〜20mg%と多く含有されていた。野菜以外では青のり、ほしのりについて分析したところ乾物量あたりそれぞれ7mg%、3mg%であった。その他「あまちゃづる」については乾物量あたり4.5mg%であったがクロマトグラム上で溶出時間が標準ビタミンUからわずかに異なり、他の分析法によるクロスチェックが必要と思われる。次にビタミンUは溶液状でpH1〜6では24時間は安定であったが食品分析表の総アミノ酸分析条件(6NHCl、110℃、24時間)では40%がメチオニンになることが判明した。また逆にペクチンの存在下では約4%のメチオニンがビタミンUに変化することを見い出した。栄養的効果を知るためビタミンUのD型L型の分離をHPLCで試みたところ、市販のビタミンV製剤はDL型であることをクロマトグラム上で明らかにした。天然のビタミンUはこのHPLCにかけたところ、ピークがL型のみが検出された。以上の方法を用いて、市販ビタミンU製剤を実験動物に投与し、尿を採取してD型L型の分析定量を行う予定である。
著者
横井 功
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

頭部外傷後に発症するけいれん発作やてんかんの成因には活性酸素種が関与していることが示唆されている。すなわち、頭部外傷の際に脳内に出血した赤血球より遊離したヘモグロビン及び鉄イオンを会して発生した活性酸素種が神経細胞膜の脂質を過酸化させるために神経細胞は機能障害を起し、外傷性てんかん発症の重要なリスクファクターとされる早期けいれんが発現し、外傷性てんかん焦点が形成されるものと考えられている。このために、発生した活性酸素を抗酸化剤により消去することにより早期けいれん発現を抑えると、外傷性てんかん発症は予防され得ることが示唆される。本研究においてはラット大脳皮質感覚運動領のに塩化第二鉄を投与して作成した外傷性てんかんの実験モデルを使用して下記の成果をあげた。(1)エピガロカテキン類やEPCなどの抗酸化剤を鉄イオン投与後に投与すると、鉄イオンにより誘発される発作脳波や尾状核内でのドーパミン放出量の増加、あるいはメチルグアニジンなどの内因性けいれん誘発物質量の増加、などの変化を予防できる。(2)活性酸素を消去するアデノシンやその構造類似物質は鉄イオンの誘発する発作脳波の発現を予防する。(3)一酸化窒素(NO)及びその合成酵素(NOS)活性の測定法を開発し、ラット脳に鉄イオンを注入するとNOS活性が低下することを明らかにした。けいれん発現にNOは抑制性に働くことにより、NOS活性低下が外傷性てんかん発症に関与している可能性が示唆された。以上のごとく、頭部外傷部位で発生する活性酸素種を抗酸化剤により消去すれば、外傷性てんかん発症は抑えうることを明らかにした。活性酸素種は頭部外傷のみならず、脳内血腫や脳梗塞時などにも脳内で生成され、脳浮腫やてんかん焦点などの形成に関与している。このため、本研究は外傷性てんかん発症予防の道を明らかにしたばかりでなく、脳内血腫や脳梗塞時などの脳浮腫の予防や治療を考える一助ともなる。
著者
宇野 隆夫 前川 要 櫛木 謙周
出版者
富山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

日本で唯一確認されている古代塩田遺跡(石川県羽咋市滝・柴垣海岸E・F遺跡)の発掘調査を実施した。その結果,土器製塩炉6基に加えて,鉄釜製塩炉1基を発見した。鉄釜製塩炉は,日本ではじめて確認されたものであり,8世紀初めの頃に塩田築造と同時に設置されたものであった。土器製塩炉も,周縁を石と粘土で固めたものと,石敷炉とがあり,石敷炉若狭より東でははじめての発見である。塩を煮る製塩土器も層位的に調査できたため,その年代的な変化が明らかとなった。海水を濃縮する塩田部分と,塩を煮つめてとる釜場の位置関係からも興味深いことがらが判明した。民俗調査例では,塩田と釜場は相接していることが普通であるが,調査結度では,塩田面より5m以上高い,標高約9mの地点に釜場があったのである。またその土木量が1万m^3を越えるように,あらゆる点において,古代塩田式製塩は大規模なものであることが判明した。以上は考古学調査の成果であるが,文献資料の調査から,古代塩田式製塩が,国府機構を軸に成立することがあることが明らかとなり,本事例も,西暦718年に立国された能登国の国家的な手工業政策との関係で理解できるようになった。東アジアの資料では,中国において戦国時代中期に塩鉄政策が,前漢代に国家的な生産体制の編成が,唐代に大土木工事をともなう塩田の築造がなされ専売制度も整うことが判明した。以上から,古代塩田式製塩という先端技術の成立は,東アジア古代世界における,日本律令国家の成立の中で可能となった重要な出来事であり,現在の塩専売制度の源流となったと位置づけた。