著者
堀 善夫
出版者
千葉大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

CO_2を水溶液中で, Cu電極を用いて電気化学的に還元すると, 常温常圧でメタン, エチレンなどの炭化水素を生成することを, 本研究代表者は過去の研究で見いだした. 本研究課題では, この反応についてさらに詳細に研究し, 反応機構を明らかにし, 優れた電極触媒を探索することを目的とする.前年までの研究で, CO_2の電極還元において, COが, 中間種として生成することが予測されていた. この点について, ボルタンメトリー及びクーロメトリーの手法を用いて検討した. それによれば, CO_2はまずCOに還元される. 生じたCOはCu電極に吸着され, 平行反応である水素発生を著しく阻害する. と同時に吸着されたCOは, さらにCu電極上でメタンまたはエチレンに還元されることが分かった. ここで中間生成物であるCOのCu電極にたいする吸着力は, 比較的弱く, 容易に脱離することが明らかにされた.次に, Cu電極上での炭化水素の生成機構を解明する目的で, 生成条件と選択性について詳細に検討した. この検討において, 電極近傍のpHを規定するために, 回転リングディスク電極を用いた. また溶液中の生成物を定量するために, 紫外可視検出器をイオンクロマトグラフに組み合わせて用いた. その結果, COをCu電極上で電気化学的に還元すると, pHが高いときにエチレン, エタノール, プロパノールが多く生成することが分かった. またCO_2の電極還元を, 高濃度のKHCO_3やリン酸緩衝液中で行うと, メタンの生成が多く, 0.1M以下のKHCO_3や, 緩衝能のないKCl, KClO_4, K_2SO_4中ではエチレン, エタノール, プロパノールの選択性が高かった. 以上の実験事実から, 反応にともなって放出されるOH-イオンのために, pHが局部的に高くなっており, CO_2は電極近傍で非平衡的に存在すると考えられた. これは, CO_2の水に対する水和速度が遅いことによると結論された.
著者
中井 宏 吉田 春夫
出版者
国立天文台
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

冥王星の軌道は正のリアプノフ指数を持ちその意味でカオス的な軌道である。本研究では、過去・未来112億年間の外惑星系の数値シミュレーションを行い、海王星と冥王星の間の共鳴関係が冥王星軌道の安定性に果たす役割について調べた。1,従来から知られていた3個の共鳴関係の他に、"海王星と冥王星の昇交点経度の差の3倍と海王星と冥王星の近日点経度の差の和が180度の回り110度の振幅、5.9億年の周期で秤動する。"という新しい関係を見付けた。重力効果だけの働く保存系では、これらの4個の共鳴関係が少なくとも112億年正確に維持することを確かめた。また、これらの関係は冥王星が海王星に大接近するのを妨げるように働き、冥王星の軌道安定化機構として作用していることを確かめた。2,冥王星とその近傍に配置したテスト天体の相空間上での距離は時間と共に指数関数的に増加するが、共鳴関係の振幅以下で飽和し、それ以上には増加しかった。すなわち、冥王星近傍の軌道は海王星との共鳴間系により、運動領域が制限され、軌道要素は周期的変動幅以下でしか変化出来ないことになり、大局的な軌道は準周期運動となるが、軌道要素の差が飽和値以下の微小運動領域内では運動を制限する力が働かないため、軌道はカオス的で、リアプノフ指数は正となることを示した。3,重力効果だけの働く保存系では外惑星の軌道配置は112億年の間、現在と殆ど変わらなかった。これは、太陽系誕生期には非保存力が働いていたことを暗示している。現在の惑星配置及び惑星相互の共鳴関係がエネルギー散逸過程とどう結び付くのかは今後の重要な研究課題である。
著者
星 正治 澤田 昭三
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本研究の研究内容は、(1)原爆に被爆した岩石や瓦、煉瓦を集め、(2)原爆の中性子により生成された微量放射能を測定し、(3)計算コード(MCNP)をシュミレーション実験でチェックし、(4)放射能のデータとDS86(線量評価体系1986)の矛盾とその原因を考察することにあった。(1)-(3)は初めの2年間の研究でほぼ満足できる十分な結果を得ていることが分かった。最終年度は(4)の矛盾の原因を追求することに重点をおいた。DS86における実験データとの矛盾は本研究代表者らが初めて発見した。問題は広島原爆の中性子であり、1.5Kmの地点でDS86はデータの10-30%位にしかならないほど重大である。チェックを行った項目は以下の通りである。A.原爆の爆発の際発生した中性子のスペクトル。B.その中性子が空気中を透過して地表面に達するまでの計算。C.計算に使った中性子の計算コード(MCNP)ノベンチマークテスト。D.計算に使った空気の成分の(特に水蒸気)高度別の測定。E.地表面における岩石や鉄の放射化の実験結果の検証と計算。F.ガンマ線のデータと計算との比較による正さの検証。最終的な結論としてDS86の計算のうち一番初めの仮定に問題があることが判明した。即ち、(a)長崎においては上記AからFまで全て正しい。(b)広島においては上記BからFまでは正しい。(C)上記Aの広島の場合が誤りである。(C)に関しては原爆の爆発の過程であるので実験の検証はできない。そこでDS86の仮定を変えて計算し放射化のデータと最も合うのはどれかを考えた。その結果分かったことは、広島原爆本体には厚い鉄(約20cm)が使われているが、原爆は爆発の途中で上下ほぼ半分に割れ5%-15%の中性子が直接放出された。これでほぼデータが計算により再現できる。今後は新しい線量の計算が必要となる。
著者
原 敏夫
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

近年、微生物由来バイオポリマーがその易分解性あるいは機能性から脚光を浴びている。γ-ポリグルタミン酸(γ-PGA)はグルタミン酸のみから構成されるホモポリマーで、納豆菌が生産するγ-PGAはD型とL型のグルタミン酸からなる。本課題で、納豆菌の粘質物の主体であるγ-PGAの生成は納豆菌が保持するプラスミド上にコードされている蛋白質の正の支配を受けることを明らかにした。納豆菌をクエン酸で培養すると、細胞内に生成するグルタミン酸の大部分はD型で、細胞膜ペプチドグリカンの構成アミノ酸であるD型グルタミン酸合成系とγ-PGA合成系の連関が強く示唆された。一方、γ-PGA分解菌の探索を行う過程で、糸状菌が生産するγ-PGA分解酵素がL型のγ-PGAのみ分解し、反応残液中にD型のγ-PGAが高分子状で残存することを認めた。これまで2種類のγ-PGA分解酵素を単離、精製したが、いずれもエキソ型で、L型のγ-PGAのみを分解し、D型のγ-PGAは分解しなかった。したがって、γ-PGAはD型とL型の二つの独立したPGAポリマーからなる共重合構造を有し、D型とL型のグルタミン酸を基質とする二種類のγ-PGA合成酵素の存在が示唆される。本課題によりγ-PGA生合成系が解明され、酵素法により生分解性プラスチックの原料としてγ-PGAが供給されるようになれば、現在、緊務の課題である地球環境問題にも大きく貢献できるものと信ずる。
著者
山中 英明
出版者
東京水産大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

ペル-およびメキシコ沖で漁獲後凍結保存されたアメリカオオアカイカの胴肉を試料とし,異味異臭の強いもの及び正常なものをそれぞれ用いた。まず,生肉及び加熱について官能検査を行った。その結果,異味とは強い塩から味,酸味,苦味,生ぐさ味であることが明らかとなった。異味のために生肉の嗜好性は低かった。70℃および100℃加熱によっても改善されなかった。アメリカオオアカイカの呈味は漁獲場所,魚体の大きさによって異なることがわかった。とくに魚体が大きくなると異味の発現が大きかった。揮発性塩基窒素(VBN),NH_3-Nは異常肉で極めて高かった。しかし,トリメチルアミンやポリアミンは低く,腐敗ではなかった。遊離アミノ酸は異味のあるアメリカオオアカイカでは,正常のイカあるいはスルメイカに比較して総量が50%以下と極めて低かった。甘味に関与するグリシン,プロリン,アラニンも異味のある肉で低含量であった。ATP関連化合物についてはアメカリオオアカイカではいずれの試料もヒポキサンチン(Hx)量が最も高く,次いでADPであった。Hxは苦味物質として知られているが,スルメイカ中のHx量と同程度であり,アメリカオオアカイカの苦味には関与しないと考えられた。また,旨味がスルメイカより弱いのはIMPとAMPが少ないことに起因すると考えられた。無機成分を測定したところ,陽イオンとしてK^+,Na^+が多く含まれた。陰イオンとしてはPO_4^<3->が低く,一方,Cl^-が高かった。従って,異味のあるアメリカオオアカイカに多量含まれるアンモニアは肉のpHが低いことから塩素イオンと結合して塩化アンモニウム(NH_4Cl)として存在し,塩から味,苦味を呈するNH_4Clがアメリカオオアカイカの異味の原因と結論した。これは官能検査の結果ともよく一致していた。さらに,上述の異常肉で遊離アミノ酸が極めて低いことも異味発現に関与すると考えられた。
著者
田村 貞雄
出版者
静岡大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

本年度は主として史料所蔵者・所蔵機関を訪ね、史料の収集を行なった。まず「ええじゃないか」発生地域の県立図書館等を訪れ、市町村史・郷土研究誌の閲読と重要部分の複写を行ない、それらを手がかりとして原史料の収集を一部行なった。とくに1867(慶応3)年に焦点をしぼり、その前年以後の地域の情勢に関する史料、江戸・京都の政治動向についての情報の伝播に関する史料を収集した。収集箇所は東京・神奈川・愛知・三重・岐阜・京都・大阪・和歌山・兵庫・岡山・広島・香川・徳島の13都府県立図書館およびその他の史料所蔵機関(京都府丹後資料館、三原市立図書館、岐阜市歴史博物館など)、また重要資料所蔵者である兵庫県三田市の朝野家、三重県一志郡美杉村の向田家を訪ねた。また幕末期の政治・経済情勢を把握するために、上記機関のほか鹿児島・山口・佐賀・山形の県立図書館およびその他の史料所蔵機関(山口県文書館・酒田市立図書館)などで資料収集を行なった。以上の資料収集は、また十分なものとは云えず、膨大な推別史料のごく一部を散見したに過ぎない。しかし以上の史料の中間的分析では、「ええじゃないか」は1867年(慶応3)5月末の第2次長州征代中止決定の公示がきっかけとなった物価の下落と「にわか踊り」の自然発生のもとで、その情報伝播が広がり、7月中旬に三河地方で発生した。その狂乱が逆に京阪地方に達するのは、10月14日の大政奉還の直後でありこれを封膜派が十二分に利用した形跡がある。今後さらに広範囲に史料収集を行ない、従来の狭い政治史や民族学プロパ-の分析を脱し、政治史、経済史、社会史、民族学を総合した分析を志したい。
著者
中島 誠
出版者
佛教大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

平成元年度、幼稚園の3歳児数名を選び、8ミリビデオを用いて、自由遊びの場面や先生とのやりとりの場面などを録画・録音。3歳児は、家庭生活を離れて、始めて集団生活を始めるときである。担任は、ひとりひとりの子どもと、1人対1人の場をつくり、子どもの好きな遊びをいっしょにしてあげることが大切である。子どもは先生と仲よしになると、遊びの中で先生とのことばのやりとりを発展させる。先生と自分に対する情動的認知の発達が言語発達の基盤となる。平成2年度、前年度につつぎ、同じ子ども(4歳児)について、8ミリビデオで記録。1学期には、同じ団地からの子どものリ-ダ-格となって元気に遊んでいた子どもが、2期期中ごろから、ひとりしょんぼりしていることが多くなった。これは、それまで親や家族とのかかわりで作ってきた小さい自分の世界を、友だちとのかかわりをきっかけに、多くの友だちとのかかわりを可能にするように、大きい自分の世界へと作り変える時であり、この時に生じる一種の退行現象と考えられる。担任には、1日に1回、その子どもと1人対1人の場をつくり、子どもの気持をよく関してと、家庭では母親が1日に1回その子どものお相手をすること、をお願いした。父親も協力的で、正月休にかるた取りなどをして、家族全員で楽しく遊んでくれた。親、先生、友だち、自分に対する情動的認知の発達が言語発達の基盤になる。平成3年度、ひきつづき、同じ子ども(5歳児)について、8ミリビデオで記録。4歳児のときには、どの子どもも、何らかの退行現象をおこしていたが、また、仲よしの友だちとつきあうこともみられ始めていた。5歳児になると、サッカ-の時には誰と、ブロック遊びのときには誰となど、遊びの種類によって友だちを選んでグル-プを作り、ことばのやりとりで遊びを展開した。友だち、自分への認知が言語の基礎。
著者
田中 隆 河野 功
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

タンニンの不溶化が植物の生理現象に深く関わっていることは以前から指摘されており,渋柿の渋味が消失する現象もタンニンが不溶化するためと言われている。この現象に果実の嫌気的呼吸により生成するアセトアルデヒドが関与することが推測されていた。しかし,不溶化したタンニンを化学的に扱った研究は全く無く,化学的証拠は得られていなかった。我々は緩和な条件下で高分子量の縮合型タンニンをメルカプトエタノールで効率よくフラグメントに分解する方法を開発し,カキタンニンの構造を明らかにすると共に,エタノールや温湯で渋抜きした柿,干し柿,熟柿ではタンニンは無くなるのではなく,溶けなくなっているにすぎないことを確認した。また,不溶性タンニンから得られるフラグメントにはアセトアルデヒド由来の置換基を有するユニットが存在することを初めて明らかにし,重エタノールの取込み実験などによってそれがアセトアルデヒド由来であることを確認した。これによりタンニン不溶化へのアセトアルデヒドの直接関与を初めて化学的に証明することが出来た。さらに,モデル実験によりタンニン分子はアセトアルデヒドにより緩やかに架橋されてゲル状になり不溶性となっていることを証明した。同様の機構によりタンニンの不溶化はバナナやブドウでも起こっている可能性が示唆された。一方,甘柿では不溶化は重要ではなく,タンニン細胞の生長が早い時期に停止し,果実の肥大によりタンニンが希釈されて渋味が消えることを確認した。本研究については投稿中である。木材でもタンニン不溶化が起こっていると推測されており,ノグルミ樹皮及び栗の材部のタンニンについて研究を展開し,栗については心材特有のタンニン成分を単離した。その一部については構造をすでに明らかにしており投稿準備中である。
著者
中西 友子
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

土壌の砂漠化は世界的規模で進行しており、大きな環境問題となってきている。土壌を回復させ緑化を行うための一つの手段として、土壌へ水分保持剤としての吸水性ポリマーを添加することが着目されているが、化学合成されたポリマーは土壌中に蓄積され新たなる環境問題へと発展する恐れがある。本研究では、吸水性ポリマーを植物を素材として作製することを試み、その評価を中性子ラジオグラフィで行った。材料として混合針葉樹材パルプを用い、カルボキシメチル(CM)化することにより得られたポリマーを使用した。ポリマーは、パルプ材の微細繊維を除去し、イロプロパノール中に懸濁した後、モノクロル酢酸を添加しCM化することにより得た。ダイズを用いたポット試験では、土壌中に0.3%このポリマーを添加して植物体の生育状況を検討した。植物体の乾燥重量は、コントロールと同等であり、ポリマーは植物育成に影響を与えないことが確認された。次に、アルミニウム薄箱中でダイズを育成させ、中性子ラジオグラフィにより土壌中の根の生育状況を非破壊状態で調べた。照射は日本原子力研究所原子炉JRR3を用いた。根の片側にポリマーを添加した場合には、側根はポリマーが添加されていない側のみ生育した。また根の真下にポリマーを添加した場合には主根の生育深度がポリマーの上部で止まり、側根が上部で発達した。しかし、根および植物体の乾燥重量はコントロールと同等であり、地上部の生育状況も良かった。これらの実験を通して、本ポリマーは土壌中の水分保持機能のみならず、植物の生育に影響を与えずに植物を浅い土壌で生育させることが可能であることが判った。植物由来の吸水性ポリマーは、根の生育をデザイン出来るばかりでなく、土壌中で分解した後も環境に影響を与えないと予想されることから、砂漠の緑化剤として将来期待されると思われる。
著者
野村 崇
出版者
北海道開拓記念館
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

1.樺太・千島出土考古資料の集成国内の研究機関(同志社大学・国立民族学博物館・明治大学・日本大学・東北大学・市立函館博物館・北海道大学農学部博物館・北海道開拓記念館・帯広百年記念館等)に所蔵する樺太・千島出土の考古資料の写真、実測図による集成をおこない、それらの形態、寸法、出土状況、時代等を付記した集成資料を作成した。2.樺太・千島関係考古学文献目録の作成明治以降、現在までの日本語文献約300点、ロシア語文献約50点を収録した文献目録を作成した。3.北海道東北部の先史文化と樺太・千島の先史文化との比較研究北海道と樺太の関係においては、旧石器時代には共通性が多く、北海道産の黒曜石が樺太に持込まれている。縄文期においては、北海道からの影響は少ないが、続縄文期、オホ-ツク文化期においては相互の交流があり、同一文化圏を構成していた。また、樺太に従来ないとされていた擦文土器をクズネッオボI遺跡において確認した。千島との関係では、国後、選択両島以南において、縄文中期以降、北海道とほぼ同じ文化が展開したことがわかった。5.樺太出土黒曜石の年代および産地の同定樺太のド-リンクスI遺跡(旧落合)およびポロナイスク(旧敷香)地方ザパドナセV遺跡で出土した黒曜石を、フィッション・トラック法による年代測定・産地同定をおこなった。前者は北海道白滝産で、現在より13.900年前という測定値、後者は白滝および置戸産と判明した。5.樺太中部におけるサルゴリ文化の確認アム-ル河下流域の新石器時代末〜青銅器時代初頭にかけてのサルゴリ文化が、樺太中部ポロナイスク地方まで南下したことを確認した。
著者
大島 直行 木田 雅彦 石田 肇 百々 幸雄
出版者
札幌医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

続縄文時代恵山文化の形成と展開に際しての、本州弥生文化の影響の実態と把えるため,北海道豊浦町礼文華貝塚の発掘調査を実施した。調査の結果,次の点が明らかになった。1.貝塚の規模は,約500m^2であった。貝層の堆積は、最も厚いところで1mを計。形成時期については,縄文時代晩期終末に始まり,続縄文時代恵山期と比較的長期にわたることが明らかとなった。2.遺構は,残念ながら墓の発見はなかった。ただし、立地条件や過去の調査結果などから、本遺跡の墓地としての可能性は大きく,埋葬遺構の発見も,将来的に期待される。本調査においては,イルカの埋納土壙の発見があった。全国的にも、きわめて珍らしい検出例である。土壙は、直径約100cmの円形を呈する。埋土を10cm程掘り下げた段階で,頭骨を中心とする大量のイルカの骨があらわれた。その数は12個体分だが,調査は土壙の約半分にすぎないことから、全体ではさらにその数が増すものと思われる。おそらく、「送り場」的な性格を持つ遺構と考えられ、たいへん興味深い。3.出土遺物の中で,特に注目されたものに土製紡錘車の出土がある。恵山文化期の包含層中より出土したもので,北海道出土の紡錘車としては,最も古い例となった。おそらく、本州の弥生前期〜中期段階の資料と深く関係するものと思われ、有珠10遺跡より出土した南海産貝輪とともに,北海道への弥生文化の波及を示す、興味深い資料の追加となった。
著者
阿瀬 雄治
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

骨導刺激による聴性誘発反応で中耳疾患に病態によりI波の出現が異なる。骨振動音の内耳への伝達特性は頭蓋振動、合気蜂巣、鼓膜の振動ならびに外耳道内に生ずる音波の振幅や位相特性が振動周波数による変化として捕らえた。測定方法は骨導受話器を一側の乳突部に圧抵し、その近くに加速度計を装着、両側外耳道にミニュチュアマイクロホンを内臓したプローブを装着した。それぞれの出力波形を4チャンネル記録計に記録しFFTアナライザおよびマイコンにて解析した。鼓膜のインピーダンスの測定成績より外耳道側より見た鼓膜インピーダンスは伝音機能正常においては共鳴周波数は1200Hz付近にあり、耳小骨連鎖離断の場合は耳小骨の残存状態にもよるがほぼ700Hz付近にある。連離固着の場合は1700Hz以上にある。頭蓋の固有振動数は1700Hz-1800Hzにある。乳突蜂巣のなす共鳴周波数は800Hz付近にある。以上の固有振動数に応じた総合的振動特性が伝達関数の特異性として外耳道内の音波として捕らえられた。この骨伝導の様相が中耳伝音障害によりどのような変化が生じるかを観測した。鼓膜に穿孔の無い一側が正常な伝音障害耳について測定した。耳小骨連鎖離断症では1000Hzでは患側の振幅は増大し位相も進む。2000Hzになると振幅は減少し位相も遅れる。連鎖固着の場合は1000Hzの振幅は減少し位相は正常耳と変化ない。真珠腫性中耳炎においては乳突蜂巣の抑制されている程度にもよるが、振幅特性は高周波数域に移行し、位相特性には特徴を見いだせない。これらの種々の病態と伝達特性に合わせ周波数毎の骨振動の周波数特異性をシミュレイションした。骨振動にて生じた外耳道内音波を一旦メモリーに格納し、再度同期させて出力したものと骨振動とを合成することで骨振動の直接に聴覚に関与する成分と間接的に関与する成分による機能差を解析することを今後の課題とする。
著者
清水 正義
出版者
東京女学館短期大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

ニュルンベルク国際軍事裁判の管轄とされた「人道に対する罪」概念の形成過程を研究文献を通じて明らかにすること、「人道に対する罪」が包含する罪の内容を判決その他の資料を通じて具体的に検証すること、ニュルンベルク裁判と東京裁判における「人道に対する罪」の適用の相違の意義について明らかにすること、以上三点を今年度研究の重点目標とした。その結論は以下の通りである。1.「人道に対する罪」はすでに第一次世界大戦後のヴェルサイユ講和会議の際に用語として用いられているが、「民間人に対する非人道的迫害行為」という意味でこの罪が成立したのは、第二次世界大戦中の連合国間の合意、とくに中東欧の諸小国間の合意に発するものであり、その際、この罪概念が射程とした犯罪行為はナチス・ドイツによる連合国国民及びドイツ国民に対する迫害行為であった。2.「人道に対する罪」は、本来、戦時国際法規違反の範疇を越える人類普遍の原理に対する侵害として成立したものであったが、国際軍事法延の管轄の限界から、戦争犯罪に類似した罪と概念されてきた。しかし、この罪の本来の概念は戦争犯罪にとどまるものではなく、従って戦後、国際社会の合意により、ジェノサイド条約などの形で普遍的法規範のひとつに高められたのであり、また西ドイツにおいて「人道に対する罪」が刑法殺人罪の一種として認定され、断罪される余地が残されたのである。3.以上のような状況と比較して、東京裁判においては「人道に対する罪」に該当する犯罪行為が存在したと見做されていたかどうかきわめて不分明であり、結果的にこの罪の適用は回避されている。このことが、戦後、戦争犯罪について日本で法的断罪が行われなかった根拠であると考えることができる。
著者
嶋武 博之 青木 継稔
出版者
東邦大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

myc系がん遺伝子としてC-myc遺伝子が多くの腫瘍や正常組織で発現しているのに対し、N-myc遺伝子は、特定の小児がんのみ発現しており、その発現の有無を調べることにより、がんの診断が可能になる。そこで本研究は、小児がん診断に役立てるためN-mycタンパクの定量測定法を可能にし、更に、早期発見のための方法を確立しようとするものである。神経芽腫においては、N-mycの遺伝子増幅について数多く調べられており、遺伝子増幅と神経芽腫の予後との関係が明らになっている。しかし、遺伝子増幅を伴わない予後不良例も報告されており、遺伝子レベルでの解析だけでは不十分であることが最近、指摘されている。また、網膜芽腫では、調べられた殆ど全症例においてN-myc遺伝子が増幅していないにもかかわらずN-mycタンパクの発現が見られるため、これらのがんの診断・予後の判定のためには、N-mycタンパクを検出し定量測定することが望まれる。この目的のために、N-mycタンパクの免疫学的定量法に必須の道具となる六種類の人工タンパクを、大腸菌発現ベクターを用い遺伝子工学的に作成し大量精製した。《1)N-myc特異抗原 2)pan-myc特異抗原 3)N-pan-myc特異抗原 4)抗ヒトN-mycタンパク特異抗体 5)抗pan-mycタンパク特異抗体 6)抗体吸収用cII-Nタンパク》 これらのタンパクはいずれも、N-mycタンパクの免疫学的定量を行うにあたり、特異性・力価が充分であることを確かめた。N-mycタンパクのサンドイッチ型ELISA法による免疫学的定量には、抗N-mycタンパク抗体を第一抗体とし、抗pan-mycタンパク抗体を第二抗体とした方が、その逆の場合よりも反応の特異性および効率の点で優れていることが明かとなった。この方法により、現在、培養細胞株および臨床材料を用いてN-mycタンパク量の定量測定を行いつつある。
著者
近藤 孝晴 成瀬 達
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

身体運動が消化吸収に及ぼす影響について検討した。1)イヌを用いた実験では、イヌに慢性胃・大腸瘻を造設し、運動が食物の消化管通過時間,胃、小腸、大腸運動機能などに与える影響を検討した。牛乳は運動の有無に関係なく小腸ですべて吸収され、消化管通過時間の測定が不能であった。固型食(肉)の消化吸収は血中脂質を測定して検討した。固型食の消化吸収は運動により遅延した。運動によって固型食の胃排出が遅延するためと推定された。胃、小腸、大腸運動は身体運動により亢進した。これは空腹時でも食後でも同様であった。2)ヒトを対象とした実験は、運動によって食物の通過時間が変化するか否かを、消化管機能が低下していると考えられる高齢者9名(平均年齢71歳)を被験者として行った。一日平均3700歩の安静と、12800歩の運動をそれぞれ2週間続け、小腸、大腸、全消化管通過時間を測定した。小腸通過時間はラクツロ-スによる呼気中水素の測定(クイントロン社マイクロライザ-,新規購入)によった。大腸通過時間はX線非透過性のマ-カ-を服用させ,一定時間後に腹部のX線写真を撮影して、残存するマ-カ-の数から推定した。全消化管通過時間はカルミン服用後、便が着色するまでの時間とした。小腸通過時間は安静時、運動時とも差がなかった。大腸通過時間は、安静時19.5時間であったが運動により11時間と短縮した。全消化管通過時間は安静時26時間に対し、運動時22時間と短縮した。 3)運動が微量元素の吸収に与える影響を、血中亜鉛を測定して検討した。血中亜鉛は身体運動によって変動しなかったが、断眠下の身体運動という強いストレスでは低下した。以上、身体運動は消化管機能を変化させるとともに、種々の食物の消化吸収に影響を与えることがわかった。
著者
中園 明信
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1984

本研究では、水産上重要魚種であるにもかかわらず、その雌雄同体性についてまったく研究の行われていない、マダイ,チダイ,キダイの3種について、性転換が行われるか否かを検討した。【I】マダイマダイは1才前後は卵巣様の生殖腺を持ち、明瞭な精巣組織は認められない。しかしながら、2才になるころに1部の個体で精巣組織が卵巣の腹側で顕著になり両性生殖腺となる。両性生殖腺が見られるのは主として2才魚で3才以上の個体ではほとんど見られなかった。しかし、3才以上の個体でも精巣には元の卵巣腔に相当する空所が認められ、精巣は両性生殖腺をへて分化してくると判断された。以上の結果から、マダイは幼時雌雄同体性で、機能的雌雄同体ではないと判断した。【II】チダイチダイの生殖腺の転換過程もマダイと良く類似していた。すなわち、卵巣から精巣への転換は、未成魚においてのみ観察され、満1才以上の成魚の生殖腺には両性のものは出現せず、精巣には卵巣腔に相当する空所のみが見られた。以上の結果より、チダイも幼時雌雄同体で、機能的な雌雄同体ではないと判断した。【III】キダイキダイは機能的な雌雄同体で、雌から雄への性転換を行うことが知られている。しかし、性成熟に達する満3才で、約20%の雌が存在することが知られている。そこで、本研究では性成熟時に出現する精巣の由来について調べた。その結果、これらの精巣は未熟な卵巣が精巣へと転換することによって生じることが分かった。すなわち、機能的な雌雄同体とされるキダイにおいても幼時雌雄同体性が見られる。
著者
氏家 等 村上 孝一 出利葉 浩司 小林 考二 矢島 睿
出版者
北海道開拓記念館
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

積雪地帯における伝統的有形民俗資料の比較研究調査は, カンジキと除雪具を対象に青森県, 岩手県, 福島県, 秋田県, 山形県, 富山県, 石川県, 福井県, 長野県, 北海道を中心に調査を行った.カンジキは, いわゆる竹を曲げた単輪型が本州における共通した形態であった. 中でも新潟県山間部, 北陸地方を中心に分布するスカリとその類似型は最も大型のカンジキであり, スカリの上にさらに小型のカンジキをはくといった重複型は, 豪雪地帯における最も大きな特色であった.これに対し, 北海道では前輪と後輪で構成するいわゆる複輪型のカンジキが主流であった. また, 新潟県山間部から移住した人々の場合も, 単輪型のカンジキよりも複輪型カンジキを使用している. このことは, 両地域における雪質の相異が最も大きな要因と考えられる.北海道アイヌが使用したヒョウタン型カンジキは, 岩手県北部, 青森県南部にも分布していた. しかし, この関連性については, 今回の調査でも解明できなかった. また, 八戸市是川遺跡出土のカンジキは, カンジキであるかどうかが問題であり, これらの問題を解明するてがかりにはならなかった. 本州における除雪具は, 一枚板で製作する雪ベラ, コスキ(木鋤)が主流であった. 柄が2m前後ある長いものは, 岩手県から北陸地方の山間部にみられ, 屋根の雪おろしに使用するものであった. また, 日本海沿岸部, 山間部の雪ベラは, ブナ材を使用することも大きな特色であった.これに対し, 北海道では, 箱型状の雪ベラが主流であった. また, 1枚板のコスキを使用していた人々も移住後は箱状の除雪具を使用している. これらの要因もやはり雪質の相異によるものと考えられる.
著者
進藤 宗洋 西間 三馨 田中 守 田中 宏暁
出版者
福岡大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

運動誘発性喘息(EIB)は、喘息児の身体活動を制限する大きな障害である。このため、喘息児のEIBを軽減してやることは、発育発達途上にある児の身体的・社会的な成熟を促すと思われる。この一連の研究では、喘息児を対象にし、いくつかの有酸素性運動の強度に対する生理的反応に基づいてEIBの重症度に関係する、危険因子と運動条件とを明確にし運動療法の至適運動強度を決定した。そして、持久的トレーニングがEIBに及ぼす影響を検討した。初年度には、EIBに及ぼす運動強度の影響について観察し、喘息児の運動療法における至適運動強度の検討を行った。その結果EIBの程度は運動強度に依存して増加することが確認され、乳酸闘値の125%に相当する強度は、有酸素性作業能の向上が期待でき、尚かつ、重症なEIBを起こすことなく安全に行える運動強度として上限であると考えられた。そこで次年度には、自転車エルゴメーターを用い、125%LT強度で1回30分、週6回、4週間のトレーニングを施行したところ、有酸素性作業能の向上、トレーニング前と同一強度でのEIBの改善が認められ、EIBの改善は有酸素性作業能の向上によるものであることが示唆された。また、トレーニング期間を延長し、2ケ月間行ったところ、同一強度だけでなく、相対強度においてもEIBが改善され、何らかの病理的変化が起こったと思われた。最終年度には、3週間の脱トレーニングが、有酸素性作業能とEIBや気道過敏性などの6週間のトレーニング効果に及ぼす影響を検討した。その結果、脱トレーニングによるトレーニング効果の消失は、EIBや気道過敏性における力が有酸素性作業能におけるより遅く、トレーニングは、EIBに及ぼす何等かの病理的改善にも関与することが示唆された。以上の結果から、持久的トレーニングは、喘息児の体力を向上させるだけでなく、EIB、気道過敏性を改善させ、臨床症状の改善にも十分期待できる治療法の一つであると考えられた。
著者
熊谷 エツ子
出版者
熊本大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

われわれは、これまでに経験年数の長い診療放射線技師の中に放射線の影響と考えられる染色体異常やEBウイルス(EBV)に対する液性免疫応答異常の疑われる人が存在することを明らかにしてきた。本研究では、熊本県が成人T細胞白血病(ATL)の好発地域であることに着目して、診療放射線技師におけるhuman T cell lymphotropic virus typeー1(HTLVー1)と放射線被曝との関係を、ATL細胞、HTLVー1抗体、および染色体異常を指標として調べた。また、転座染色体と癌遺伝子存在部位との関連を調べるとともに、EBVと同じヘルペス科ウイルスであるサイトメガロウイルス(CMV)抗体の動態から低線量放射線の長期複曝の影響を追求した。その結果、1.HTLVー1抗体陽性例は診療放射線技師(経験年数が1年以上)99名中3例(3.0%)、対照群96例中4例(4.2%)みられた。その中の技師1例の末梢血にATL細胞が50%観察された。この技師の白血球数は8500/mm^3、Ca値は9.2mg/dlであり、当大学病院で慢性型ATLと診断された。しかし、残りのHTLVー1抗体陽性例にはATL細胞は見いだせなかった。2.構造異常を有する染色体が放射線技師(53名)には2.5%、対照群(36名)には1.6%の頻度で観察された。構造異常では転座染色体が最も多く検出され、その頻度は技師群が対照群に比べて有意に高かった。相互転座染色体の中ではt(7;14)の頻度が最も高かったが、技師群と対照群との間には有意差はみられなかった。7番染色体と14番染色体間の相互転座例の大多数が7q32ー36、14q11ー12の部位で部分交換をしていた。ATLでは14q11ー12に切断点を有する異常が報告されているが、今回対象としたHTLVー1抗体陽性例にはクロ-ンとしての異常はみられなかった。また、ski、abl、myb、mos、myc、Nーmycなどの癌遺伝子存在部位での転座例も若干みられたが、クロ-ンとしての異常は観察されなかった。3.CMV抗体量と低線量放射線被曝量との間には特定の関連はみられなかったが、CMV抗体異常陽性(ELISA OD値≧0.4)の放射線技師ではCMV抗体陰性の技師に比べて、EBVーVCA/IgGおよびEA/IgG抗体異常陽性例が高率にみられた。
著者
坂口 英
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

本研究ではまずはじめに,後腸発酵動物(モルモット,デグー,オオミミマウス,マーラ,ヌートリア,ハムスター,ハタネズミ,ラット,ウサギ)のADF消化率と消化管内容物滞留時間との関係を検討した.その結果,繊維の消化能力は微生物発酵槽である大腸の内容物貯留能に支配されるが,それぞれの動物の消化管によって異なる貯留機能が備わっており,繊維消化能はその機能に応じて異なることが示された.また,ウサギの消化管機能は飼料の物理性,特に粒子サイズに大きく影響され,飼料繊維の消化率の変動は他の後腸発酵動物とは異なった要因によってもたらされることが明らかになった.次に,異なる大腸内容物貯留機能と繊維消化能力を備えた動物種間で,消化管内微生物活性にどのような違いがあるかを検討するために,同一飼料を与えたラット,モルモット,オオミミマウスの大腸内容物中の繊維分解菌数,有機酸組成,大腸内微生物の繊維分解活性等を調べた.繊維分解菌数は繊維消化能力の高いモルモットが必ずしも多くなく,短鎖脂肪酸組成,短鎖脂肪酸総量,セルロース分解活性にも動物種間差が認められ,これら3動物種の盲腸内セルロース分解菌の種類と性質に差異があることが示された.しかしながら繊維の消化能力とこれらの微生物に関わる測定結果との一定の関係はつかめなかった.以上のように本研究で調べた齧歯類間の繊維消化能力の違いは,動物の持つ盲腸内セルロース分解菌数と活性からだけでは説明することはできないことが示唆された.繊維分解の動物種間差は,セルロース分解菌群が存在する発酵槽(盲腸)へ流入する内容物(基質)の質的な違い,セルロース分解菌を効率よく保持できる消化管構造と機能の有無などによってもたらされるものと考えられる.