著者
藤原 正彦 小木曽 啓示 堀江 充子 浅本 紀子 榎本 陽子 小山 敏子
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

代数多様体上の小さな領域(box)に含まれる、有理点の個数を評価した。exponential sumとこの個数との橋渡しとして、“Fujiwaraの方法"と呼ばれるものがあるが、その方法に依り、これまでより弱い条件下での、整数点の個数の上限を与えた。diagonalなものへの応用もした。ただし、有限体上の評価から、整数点へ移行する際のロスについては、革新的アイデアを得たが、まだ証明を完了していない。引き続き研究してみる予定である。一方、堀江充子は、ハッセのノルム定理を、部分体との関係から研究し、榎本は、有限群のp-ブロックを惰性剰余群の視点から研究し、小木曽は、最止、物理学との接触で興味を呼んでいるCalabi-Yau多様体について、3次元の場合の精細な研究を行なった。
著者
芳原 達也 荻野 景規 小林 春男
出版者
山口大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

現在、地下水及び河川汚染で社会的問題となっているトリハロメタンジクロロホルム,)クロロブロモメタン,クロロジブロモメタン,ブロモホルム等)およびトリクロロエチレン,1,1,1ートリクロロエタンおよびテトラクロロエチレン等々の有機塩素系溶剤は、脱脂洗浄、樹脂溶解、塗脂溶解、塗料のシンナ-、リ-ムバ-、冷媒、ドライクリ-ニング等の目的で広範囲に使用されており、その使用量も非常に多い。毒性としては、中枢神経系に対する抑制作用、三叉神経、末梢神経障害、肝臓障害、腎臓障害、心臓血管系障害など多くが報告されている。また近年は環境汚染物質としてフロン等とともに、西暦2000年までに使用禁止物質として世界的に規制されつつある。しかし、これらの物質の生体内吸収、排泄、代謝などに関する生体内動態については解明されていない部分が非常に多い。そこでこれらの有機塩素系溶剤の中で、最も普遍的に用いられているトリクロロエチレンの着眼して、この溶剤の生体内動態および代謝について麻酔犬を使用し実験的に詳細に検討し、以下の結論を得た。まず、トリクロロエチレン(TRI)の腸管からの吸収を観察するために、私たちは麻酔犬での閉塞性腸管吸収システムを開発し、手術犬で腸管の3部位(空腸、回腸および大腸)に、それぞれ3濃度(0.1,0.25,0.5%)のTRIを投与し、TRIとその代謝産物である、遊離型トリクロロエタノ-ル、トリクロロ酢酸、抱合型トリクロロエタノ-ル血液、尿、胆汁および残留液で測定した。投与後2時間で、投与量の85〜90%のTRIが、すべての部位で吸収された。さらに、これらの部位間での吸収率には差は認められなかった。次に、尿および胆汁から投与後2時間で排泄された、未変化体およびその代謝産物の割合は、すべての群で吸収量に対し、非常に低い値であった。
著者
小松 正志 岩松 洋子 安倍 敏 兼平 正史 笹崎 弘己 奥田 礼一
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

水道水に0.04〜0.07%程度の微量のNaClを加え、特殊な隔膜を介して電気的に分解する事により陽極側から生成される酸化電位水は殺ウィルス、殺菌作用を有している。しかし、人体に為害性を有する成分であるCl^-を含有しており、問題があることが指摘されている。NaClに代わる電解促進剤を微量添加することにより、同様の効果を有し、しかも無害の酸化電位水を作成し、その殺ウィルス、殺菌メカニズムの解明をはかることを目的に本実験が行われた。NaClの代わりに各種酸を添加してその濃度と導電率の関係を調べ、1000μs/cm程度の導電率を示した酸の電気分解を行い、その酸化還元電位(ORP),pHを測定したが、ORPが1100mV以上でpHが2.7以下の条件を満たす酸化電位水を作成することはできなかった。酸化電位水の殺ウィルス、殺菌メカニズムを解明するために電解時間、ORP,pH,残留塩素濃度の相関を調べた。電解時間が長くなるにつれ、ORPは漸増し、pHは漸減した。残留塩素は8分までは時間の経過とともに増加し、9〜12分までは減少、その後再度時間の増加とともに増加した。残留塩素濃度が10〜40ppm程度含有されている場合は残留塩素濃度に応じて、ORPは急激に増加し、pHは急激に低下した。40ppm以上になると、濃度に応じてORPは緩やかに増加し、pHは緩やかに減少した。pHが2.14のHCl水溶液を12分間電気分解し、陰極側より得られたpH2.27,ORP-375mVの水(1液)および0.05%NaClを含むpH11.66のNaOH水溶液を同様に電気分解し、陽極より得られたpH11.50,ORP 303mVの水(2液)の連鎖球菌、ヘルペスウィルス、ポリオウィルスに対する殺ウィルス、殺菌効果を調べた。その結果、1液は原液でヘルペスウィルスにのみ効果がみられ、2倍、4倍稀釈したものは効果がみられなかった。2液は原液でヘルペスウィルス、連鎖球菌に効果がみられたが、2倍,4倍稀釈したものでは効果がみられなかった。さらに、NaOClを30ppm含む0.001 N HCl水溶液(10%ハイポライト0.03mlを0.001NHClに溶解し全量を100mlとする)がpH2.0,ORP 1147mVを示し、NaOClを20ppm含む0.0005N HCl水溶液がpH2.26,ORP 1126mVを示すことが判明しており、今後、各濃度とpH,ORPとの関係を詳細に調べると共に、その殺ウィルス、殺菌効果を検討してゆく予定である。
著者
平 智
出版者
山形大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

カキの香気成分の分析法として,果実から揮発する成分をポーラスポリマービーズに吸着させたのちにキャピラリガスクロマトグラフに加熱導入する方法,吸着物質をエーテルで再抽出してガスクロで分析する方法,果肉を直接アセトン中で磨砕して得た抽出液をガスクロに導入する方法などを種々検討したが,カキ果実の揮発性成分は種類,量ともにほかの果実に比べてきわめて少なく,分析が困難であった。しかながら,果肉切片を水蒸気蒸留して得たサンプルからは十数種類の揮発性成分が分離・同定された。しかもそれらの物質は,品種によっても,また,脱渋処理の前後でも量的あるいは質的に異なっていた。ただし,これらの成分の量的・質的変化とカキ果実自身の香りの品種間差異あるいは香りの変化との関連は明らかではなかった。果実の形質および成分の調査・測定,ならびに官能検査による果実の食味評価によって,同一品種の果実でも脱渋の方法や脱渋後の貯蔵日数が異なると,果実の品質や食味の評価がかなり異なってくることがわかった。すなわち,‘平核無'果実では「果肉が適度にやわらかい」果実が高い評価を得ることが明らかとなった。さらに,渋ガキ10品種,甘ガキ8品種を対象として食味検査を行った結果,渋ガキでは「甘味が強く,好ましくない香りが少ない」ことが,甘ガキでは「カキ特有のうま味が強く,好ましくない香りが少ない」ことが高い評価を得るために重要であることがわかった。以上の結果から,カキ果実の良食味には総じて,甘味の強さが最も大切な重要であると考えられた。また,カキのような香りの弱い果実でも香りのよしあしは果実の食味の評価を左右する重要な要因のひとつであるものと考えられた。
著者
藤田 敏郎
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

含硫アミノ酸タウリンは, 生体内に広く分布するアミノ酸であり, また魚貝類などに豊富に含まれているが, タウリンは神経組織内でneuromodulatorとして働き, 神経末端からのノルエピネフリン遊出を抑制することが, in vitroの実験にて証明されている. そこで高血圧症における食事療法の一つとして含硫アミノ酸タウリンに着目し, タウリン摂取の降圧効果を明らかにするために, その降圧作用機序における交感神経系の役割について基礎的検討を行った. その結果, deoxycorticosterone acete(DOCA)-食塩高血圧ラットにおいて, タウリンの投与が高血圧の発症を抑制するとともに血圧上昇後にも降圧をもたらし, その機序に交感神経系の抑制が重要な役割を果していることを報告した. さらに, タウリン投与ラットの視床下部ではタウリン含量の著明な増加が認められた.近年タウリンは, 中枢神経系において神経機能調節因子として働いている可能性が示唆されていることから, タウリンの降圧作用ならびに交感神経抑制作用は中枢神経系の変化を介する可能性が考えられる. さらに最近, クロニジンなどの中枢性交感神経抑制剤の降圧作用機序に, 内因性オピオイドペプチドの賦活化が関与するとの報告がなされ注目されている. 本研究はDOCA-食塩高血圧ラットにおけるタウリンの降圧作用機序における内因性オピオイドの役割を検討した.その結果, taurine投与群ではopiate receptor antagonistのnaloxone投与により有意な昇圧が認められたことから, taurineの降圧作用ならびに, 交感神経抑制作用は, 一部脳内opioid活性の賦活化を介する可能性が推察された.
著者
赤木 正明
出版者
徳島文理大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

(1)超酸化カリウムは1-10mMの濃度範囲で、濃度に依存して肥満細胞からのヒスタミン遊離を誘発した。その遊離は温度およびエネルギー依存的であり、細胞破壊的でない脱顆粒によるものであった。細胞内の遊離Ca^<2+>濃度の上昇を伴い、細胞膜においてlysophosphatidylcholineの生合成が促進された。細胞内cyclic AMP濃度を上昇させる薬物や細胞内Ca^<2+>貯蔵部位からのCa^<2+>遊離を抑制する薬物によってはヒスタミン遊離は抑制されなかった。以上のことより、超酸化カリウムによるヒスタミン遊離には、細胞膜の透過性亢進によるCa^<2+>の流入が関与していることが明らかになった。超酸化カリウムによるヒスタミン遊離に対して、酸性抗アレルギー薬は抑制作用を示さなかったが、膜安定化効果を有している塩基性抗アレルギー薬は抑制効果を示した。(2)ラット門脈結紮一再潅流による血圧および心拍数の変動に液性因子が関与することがparabiosis実験により明らかになった。その液性因子は、血圧および心拍数の変動が抗酸化剤であるアスコルビン酸や鉄キレート剤であるdeferoxamineにより抑制されたことより、活性酸素種であることが強く示唆された。また、門脈結紮により血中ヒスタミン量が増加し、空腸粘膜のヒスタミン含量の有意な減少が明らかになった。さらに、再潅流により肝臓、心臓、空腸の組織ヒスタミン含量の有意な増加も明らかになった。以上の結果より、門脈結紮により血流低下が誘発された肝臓よりも、うっ血が生じている腸組織からヒスタミンが遊離されること、また、活性酸素種によりヒスタミン生合成系が賦活されることが示唆された。
著者
田中 久雄 落合 清茂
出版者
山形大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

平成元年度〜3年度の3ケ年において、主に福島県鮫川村から塙町東部にわたる地域と、郡山市東部の宇津峰周辺の地域に分布する深成岩類と変成岩類の地質調査を行い、地質図を作成すると共に岩石の記載を行った。鮫川村から塙町東部にわたる地域には片状黒雲母角閃石ト-ナル岩、黒雲母花崗閃緑岩類、竹貫変成岩類が錯綜して分布する。それらの岩石は棚倉構造線に近づく従い、石英の細粒化・波動消光・伸長、斜長石の変形双晶・波動消光、黒雲母のキンクバンド・波動消光などの変形組織を呈する。この変形組織は棚倉構造線東縁部に近接した岩石で最も著しく、構造線から離れるに従い無変形組織の岩石に漸移しており、後者の岩石が生成した約1億年前には棚倉構造線がすでに活動したことを示している。塙町湯船の、石川深成岩体の閃緑岩と竹貫変成岩類の角閃岩が接する露頭において、角閃岩の部分融解により多数の細脈が生成した現象を見いだし、この露頭の岩石の詳細な記載を行った。角閃岩中の細脈は組織・鉱物組合せ・化学組成において、はんれい岩質から閃緑岩質・ト-ナル岩質・トロニエム岩質へと連続して変化しており、角閃岩の部分融解により生成した溶液が種々の程度に分泌・分化したと推定される。郡山市東部の宇津峰付近にはユ-クセン石、モナズ石、ゼノタイム等の希元素鉱物を含むペグマタイト脈が分布する。このペグマタイト脈をもたらした深成岩類について調査・研究を行い、深成岩類のモ-ド組成、主要・微量化学組成、造岩鉱物の化学組成を明らかにした。含希元素鉱物ペグマタイトをもたらしたと推定されている新期斑状両雲母花崗岩類は、阿武隈山地の深成岩類の中では最もSiO_2に富み、Sタイプに類似した岩石学的性質を示す。
著者
竹本 幹夫
出版者
早稲田大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

1、江戸時代の能は、幕府で行われた四座の能、地方諸藩の大名の下で行われた四座の弟子筋に指導された能、地方在住の町衆や農民による神事能、諸国を巡業する群小猿楽役者の辻能の四種に大別される。2、その担い手は、幕府直属の役者である四座の役者及びその弟子筋と、四座以外の系統の役者とに分かれる。四座の系統の役者がいわゆる玄人猿楽であり、それ以外の役者は手猿楽と呼ばれていた。3、四座の役者がそれ以外の系統の役者を圧倒し、能に志す者が四座の家元の印可を得るようになり、幕府直属の能役者、その弟子筋のお抱え役者や雇い役者、さらにその弟子の町役者という一枚岩の構造へと、江戸時代を通じて徐々に整えられていくのであるが、その過程がすなわち家元制度の完成過程でもあった。4、将軍の四座の能愛好に迎合して多くの大名がその弟子の能役者を育成・雇用したため、武士本来の職務から能方に転じる者もあり、また浪人していた武士階級の多くが役者に転身して仕官の道を求めるようになった。5、このようにして誕生した武家役者は武士とも役者ともつかぬ中途半端な身分であったが、多くは次第に役者として専門化した。養子を迎えて役者の家業を継がせ、自分の嫡子には武士の道を歩ませる者もあった。6、藩の方でも、神事能大夫に扶持や名字帯刀の格式を与えて藩の制度に取り込んだり(熊本藩の場合など)、辻能の興行を藩当局の権威を背景として藩の役者が妨害・弾圧したり(加賀藩の場合など複数の例がある)、ということが行われた。そうした動きが全国的な傾向かどうか、またいつごろから具体化しはじめるかを解明するのが今後の課題であろう。
著者
小寺 悦子 武田 義明 青木 務
出版者
神戸大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

研究の目的を,1.年齢計数可能な樹種の範囲の拡大 2.立木の年齢計数の実施に設定し,その基礎としての木材(樹木)の弾性的性質(音速,減衰定数など)の測定,年齢計数の実行を目標とした。1)青木は,各種木材の打音の周波数,時間特性測定と官能評価の相関性および材質評価との関連性を調べ,木材の吸湿度,表面加工(ラッカー塗装)が周波数分布,減衰特性に影響すること,樹種による違いを明らかにした。2)武田は,西宮市の標高300m付近における森林の生態解析の際,95〜130年の6本のアカマツの年齢計測を従来の方法で行い,成長特性を(年輪半径)^2で表現できることを示した。3)小寺は,ベイマツ材からの超音波パルスエコーの波形解析を行い,ノイズ部分が1MHz成分を多く含むのに対し,木を伝播した後受信される反射波の周波数分布では,1MHzよりずっと低い位置にピークを持つことを明らかにし,より内部の年輪からの反射波をノイズから分離して計測できるようにした。しかし,ベイマツ材の場合では1年輪からの反射ごとに超音波の音圧は約1/3に減衰するので,13年輪を透過した超音波は(1/3)^<13>(124dB)に減衰し,市販の超音波探傷器の最大増幅度程度となる。超音波探傷器のパルスエコー検出限界の改善を行ったとしても,百年輪の検出には不十分であると予想されるが,1MHz程度の超音波の減衰定数の文献値には大きなばらつきがあるので今後は更に樹種の検討を必要とする。また,研究の方向の変更も考え,1本の木について各所で年輪を検出し,そのデータの総合の結果として樹齢を求めること,これまでの超音波による年齢計測で得られた蓄積を利用して木材(樹木)の物性研究に利用する方向を積極的に模索することを予定している。
著者
坂本 正裕 有田 秀穂
出版者
東邦大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

本年度は、ネコの脳幹を免疫組織化学的方法で染め出し、特定の表情筋を支配する顔面神経核内の細胞群とそこに投射する伝達物質を含有する神経終末の分布様式を化学顕微鏡で調べた。1)セロトニン含有終末は、顔面神経核内のいずれの亜核においても細胞体や近位の樹状突起に対して付着している様に見えた。その中で特に腹内側核と腹外側核には強い投射が観察された。このセロトニン入力の起始細胞は脳幹の縫線核にあると考えられる、縫線核の細胞の活動は日中増大し、夜間には減少する。したがってセロトニン入力の役割が覚醒時の口唇部の緊張維持に関係していることが示唆された。2)「痛み」に関係している伝達物質とされているエンケファリンは、主に眼輪筋を支配する運動神経細胞の樹状突起の遠心部に付着しているが、セロトニンにはそのような付着がみられなかった。このことは眼の周囲の表情形成にはエンケファリンの影響が強いと考えられる。3)p物質は主に近位の樹状突起に付着しており、鼻の周囲以外の表情筋の緊張(特に口唇部において)に関与している可能性があった。上記の研究成果は、情動表出における表情筋の動きが顔面神経核レベルでの神経伝達物質含有終末の分布差に影響されていることを示唆している。しかし、表情表出パターンの生成は、より上位の中枢で行われているらしい。そこで表情パターンの発生機構を探るために、予備実験をラットを用いて行った。顔面神経核に投射を持つ扁桃核を電気刺激した結果、中心核より深い部位の刺激は、血圧の上昇とともに刺激と同側の眼球突出や耳、口唇の動きを誘発した。また、顔面神経核に逆行性標識物質を微量注入して、扁桃核の吻側部の中心核付近に標識細胞を見いだした。これらのことは扁桃核が表情表出パターンの生成に直接に関与していることを示唆した。
著者
加藤 祐三 新城 竜一
出版者
琉球大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

1993年8月、沖縄島中部西海岸読谷村の海岸でハンマーの打撃で発火する物質の存在が確認され、これが天然の白リンであることが明らかになった。このリンの分布を明らかにすることと、実験にたえる量の試料を採集する目的で、第1発見地点付近を中心に、50m×36mの範囲を2m間隔のメッシュで切り、潮溜まりであるために採集できない場所を除いて系401個の試料採集を行った。採集した試料は水に漬けて実験室に持ち帰った。試料は白色の物が多いが、リンを含む地点の周辺では不規則に黒色に着色している。この黒色物質は不安定で、保管するうちに次第に消失し、試料全体が白色に変化していく。全岩分析をしてP_2O_5%を定量・比較すると、黒色部では明瞭に多く、0.15%以上、最大0.82%含有しているのに対して、白色部では平均0.10%である。これらの値は今回沖縄島各地で採集した琉球石灰岩の平均値0.05%より明らかに多い。リンを主成分とする唯一の造岩鉱物であるアパタイトの含有を、黒色部を粉末にし重液分離して調べたところ、極めて僅かであるが共生鉱物としての存在が確認できた。一方、白リンについてX線粉末回折実験を行った結果、人工合成したリンと、産状から見て人工物と判断されるフィリピンで発見されたリンの2試料には、リンのピークには一致しない不明のブロードピークが同じ位置に存在するのに対して、読谷村産のリンにはこのピークが認められない。このことは、このリンが前2者とは成因が異なり天然産であることの傍証となる。
著者
大島 章子 伊藤 宗之
出版者
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

てんかんの遺伝性モデル動物スナネズミの発作は、ヒトにみられるような年齢依存的な発作形成過程を持つ。われわれは、スナネズミの発作形成初期に、発作誘因である床換えにより耳介のリズミカルな運動が出現し、その後、発作部位が拡大することを見出し、遺伝素因の上に加えられた外部刺激、前庭刺激後の後発射による耳介の動きの出現が、全身発作に至る発作形成の初期過程であるという仮説をたて、以下の実験を行った。耳介のリズミカルな運動の原因部位として、電気刺激により耳介の運動を誘発しうる大脳皮質部位を調べたところ、冠状縫合の側後方に存在した。一方、前庭刺激に応答する大脳皮質部位、前庭皮質の存在およびその位置を調べるため、前庭装置の解剖学的特徴を調べ、前庭刺激としての電気刺激を行うための手術手技を開発した。見出された前庭皮質の位置は、耳介の運動を誘発する大脳皮質部位と位置的に重なった。また、耳介の運動を誘発しうる大脳皮質部位の刺激条件を検討したところ、特定範囲内の刺激間隔で最低3発の低電流の矩形波で運動が誘発された。これらの結果は、上に述べたわれわれの仮説の可能性を空間的な、また電気生理学的な意味で支持する結果と考えられる。また、耳介の動きを誘発しうる大脳皮質部位へ投射している可能性のある細胞群が視床に見出されたが、その部位が、他の動物種で前庭皮質へ投射していると報告されている部位に対応していたことから、前庭反応と耳介運動誘発の二つの現象が、視床内で関連している可能性も考えられた。さらに、遺伝素因の可能性のある物質として、実験的なてんかん発作形成に関与しているP70蛋白について調べた結果、抗P70抗体と反応し、P70と等電点と分子量の似た蛋白が、神経細胞の主として核、およびゴルジ装置に存在することがわかった。これらの結果をもとに、スナネズミの発作の初期過程から抵闘値部位の拡大に至る発作形成機序、また、ヒトにみられる闘値の固体差についてさらに検討を進めうると考えられる。
著者
佐藤 理史
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究では、電子ニュースにおける、いわゆる「掲示型」と呼ばれるニュースグループ(例えば、fj. wantedやfj. forsale等)のダイジェストを自動作成する方法について検討し、fj. wantedのダイジェストの自動生成システムを実現した。本システムの中心技術は、ニュース記事からその記事のカテゴリを判定し、その記事の内容を端的に表すサマリ文を抽出する技術である。本研究で開発した方法は,言わば「斜め読みを模擬した処理」であり、まず、表層的な表現を手がかりとして、42の特徴を抽出する。次に、それらの特徴を利用したルールによって、記事のカテゴリとサマリ文を抽出する。ブラインドデータに対する実験において、本方法は、カテゴリ判定正解率81%、サマリ文抽出正解率76%という値を示した。抽出されたサマリ文はカテゴリ毎に整理され、HTML形式のダイジェストとして出力される。このとき、元の記事へのポインタは、ハイパーテキストのリンクとして埋め込まれる。作成されたダイジェストは、WWWのクライアントプログラムによって読むことができる。本研究で開発した方法は、fj. wantedを対象としたものであるが、他の掲示情報型ニュースグループや質問応答型のニュースグループのダイジェスト作成にも、同様な手法が適用できると考えられる。また、本方法をさらに発展させることによって、FAQの自動作成も可能になると考えられる。
著者
太田口 和久
出版者
東京工業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

大規模プラント排ガス中のCO_2を除去する技術のうちモノエタノ-ルアミン化学吸収法は、吸収能力および経済性および経済性などの点で高く評価されている。この方法では、CO_2吸収後のモノエタノ-ルアミンは水蒸気の作用によりCO_2を分離し再生される。しかし、長期間に亘る反復使用の後に劣化物を含んだ吸収液のCO_2吸収能力は低下し、吸収液は廃棄されている。本研究では、そのような使用済みモノエタノ-ルアミンを大腸菌Escherichia coli K12株を用いて生分解し、有価物の酢酸へと変換するバイオリアクタ-を考案し、培養条件が生物反応に及ぼす効果について検討した。培地成分について吟味した結果、モノエタノ-ルアミンはE.coliの生育のための窒素源となるが、効率良い増殖を望むためにはグリセロ-ルまたはグルコ-スなどの炭素源が不可欠であることがわかった。モノエタノ-ルアミンを分解するエタノ-ルアミンアンモニアリア-ゼは、その生合成および機能発現のためにビタミンB_<12>を必要とした。この酵素は、反応生成物のアセトアルデヒドにより不活性化したが、培養液中のアセトアルデヒドの蓄積を抑えるためにはアセトアルデヒドを酢酸へと変換するアルデヒドデヒドロゲナ-ゼの活性を高めることが大切であることがわかった。酢液は、これらの酵素の活性を低下させ、また細胞の増殖を抑制したためpH制御が生分解反応を促すことを演繹した。モノエタノ-ルアミン自身をpH制御用のアルカリ溶液とする新しい培養方法を考案し最適pH値を求めた。モノエタノ-ルアミンの処理産および酢液の生成量はpHが7.5の時に最大となり、処理量1g/(l・h)および酢液生産性0.9g/(l.h)が得られた。
著者
高 哲男
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

『国富論』第1・2編を「経済発展の理論」として統一的かつ内在的に再構成するという当初の目的は、第2編第2章の長大な信用制度論の実証的・理論再検討に十分手が届かなかった点で、完全には遂行できなっかた。経済発展の理論における「貨幣」の位置や意義の解明については、今後の課題として残ったという事である。しかし、そのほかの目標はほぼ満足しうるほどに達成したと言ってよく、予期していなかった新事実の発見も含めてその要点を箇条書きすれば、以下のとおりである。(1)『法学講義A』でもすでに、『国富論』と同様に、市場社会には必ず「自然的均衡」があるという考え方はあったが、「価格」はまだ財の数量と単純に反比例すると捉えられており、労働価値説は未確立であった。(2)スミス労働価値説は、その基礎にある価値尺度論が「時と所」の異同の組み合わせにおうじてことなる4つの理論次元をもつものとして構想されていた。すなわち「安楽と自由の犠牲」である「労働」は「時と所」を問わずつねに「等しい価値」をもつが、貨幣が正確な価値尺度でありうるのは「時と所」が同じ場合だけであり、異なるときには「穀物」が「近似的な」それであるから、経済成長の理論的解明は労働と穀物を基準に組み立てらるべきであると。(3)スミスは経済成長の推進力を分業の発展にみたが、発展のためのファンドの大きさは「維持しうる労働量」と「維持しえた労働量」との差にあるから、したがって労働の投入産出のエネルギー転換効率がもっとも高い穀物生産の効率性が、経済発展=分業の進展の程度を究極的に規定していると説くことになった。換言すれば、「維持しうる労働量」を実物的に表す「総需要」は、市場での交換・取引をつうじて「維持しえた労働量」内部の社会的配分替え(=分業構造の変化)を引き起こすが、この配分替えの基準が、いわゆる生産3要素の自然率つまり「自然的均衡」に他ならないという主張である。
著者
神木 哲男
出版者
神戸大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

本研究は、15世紀なかば兵庫津に入津した船の一年間にわたる関税納入帳簿である「兵庫北関入舩納帳」(以下「納帳」と略称)の各項目をコンピュ-タ-入力してデ-タベ-スを作成し、これをもとにして当該時期の瀬戸内海地域における商品輸送・廻船の実態をデ-タベ-スからえられた各種統計を分析して多方面・総合的に明らかにしようとしたものである。「納帳」には、文安2年1月から文安3年1月にいたる期間の兵庫津への船の、入港年月日・船籍地・積載品目・数量・船頭名・問丸名・関銭額・納入日の基本情報に加えて、使用枡の注記、関銭納入に関する注記などが詳細に記録されている。入港総船数1964、延べ積載商品数2645にのぼり、各項目の情報量は約20,000項目に達している。初年度は(平成2年)、これらの記載事項の確定(史料解釈)、コンピュ-タ-入力のための統一と調整、確定事項のコンピュ-タ-への入力に重点をおいて作業を進めた。平成3年度において、ほぼコンピュ-タ-入力を終え、デ-タベ-スとして利用可能な状態にすることができた。さらに、これをもとに時期別・商品別・船籍別等各種統計表を作成し、兵庫津への入津量の月別変化や集荷先の移動について具体的に明らかにすることができた。平成3年度においては、「米」について検討したが、今後「塩」をじめとする積載品目すべてにわたって検討を加え、瀬戸内海における商品輸送の実態を明らかにすることにつとめたい。
著者
岡野 雅子
出版者
群馬女子短期大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

今日、社会機構の分化は極めて進み金銭を媒介として必要なモノ・情報・サ-ビスなどを手に入れて我々の生活は運営されている。このような中で育つ子どもたちは、金銭について及びそれに代表される社会機構についての認識をどのように発達させていくのだろうか。それを明らかにして、消費者教育のための基礎的資料としたい。研究I・「お金」に対する感じ方・捉え方については、幼稚園年長児・小学2年生・小学5年生・中学2年生・高校2年生の計1105名を対象に質問紙調査(幼児には面接調査)を行った。その結果、『お金』や『お金持ち』の刺激語に対して「欲しい」「いいな」などの羨望を伴うプラスの情緒反応が多く、小学生及び郡部でその傾向が強い。中・高生になると、「けち」「欲張り」などのマイナスの情緒反応も示し始める。『お金で買えないもの』に対しては「いのち・人間」の回答も最も多く、中2で「友人」高2で「愛・こころ」も多い。幼児は具体的なモノの回答が多い。職業選択の理由は「もうかるから」はどの発達段階にも見られ差がないが、男子に多い。研究II・子どもの消費者意識については、小2・小5・中2・高2の計971名を対象に調査を行った。「お金を得るためには働くことが必要」「自分のやりたい仕事につきたい」「コマ-シャルで視たものを買う」「無駄使いをしてはいけない」「人が持っているものが気になる」は小学生ほど多い。研究III・学庭教育の関連については、幼児とその母親の102組及び小学3年生とその母親の122組を対象に調査を行った。概して子どもと母親の間にはかなりの認識のズレがあり、「お金は働いて得たものと話してくれる」「お母さんは『もったいない』と言う」では、母親はそうしていると思っていても子どもは必ずしも受信していないようである。それぞれの母ー子をペアにして回答の相関を見ると、ほとんど有意な相関は見い出せない。
著者
寺岡 隆 真弓 麻実子 中川 正宣 瀧川 哲夫
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1985

実験ゲーム研究における「因人のジレンマ」とよばれている心理学的事態は、いわゆる個人合理性と集団合理性に関する社会動機間の葛藤を示す典型的事態である。こ事態が何回も繰り返される場面では、この事態に参加するふたりのプレイヤーの選択は、しばしば最適解でない共貧状態に陥ってしまうことが多いが、この状態から共栄状態へ脱出するにはどうしたらよいかという問題がこの領域におけるひとつの主題になっている。本研究は、この主題を統制者が選択する反応系列によって相手側に協力反応を選択せざるを得ないようにする方略に関する視点と相手側に事態を規定している利得構造をいかに把握させるかという事態認知と情報統制とに関する視点に焦点をあてたものである。前者は「TITーFORーTAT」とよばれる方略,後者は申請者によって提起された「合成的分解型ゲーム」というパラダイムを基盤とする。本研究の目的は、これらのパラダイムが共栄状熊の実現に有効になり得るかということを実験的に検討することにある。本報告書は2部から成り、第1部はTIT-FOR-TAT方略に関する3系列の実験的研究,第2部は合成的分解型ゲームに関する2系列の実験的研究の成果を述べたものである。第1部における実験研究では、1)TIT-FOR-TAT方略には種々の型があり目的によって最適方略が異なること、2)利得和最大化のためには、可能ならば同時TIT-FOR-TAT方略が最適であること、3)利得差最大化にためには、当実験条件下では倍返しTIT-FOR-TATが最適であったこと、4)報復の遅延は効果を減ずること、などの結果が得られた。第2部における実験研究では、1)合成的分解型ゲームは理論的に標準的分解ゲームより効果があるにしても、そのままでは大きな効果を示さなかったこと、2)情報の統制効果は大で、相手に統制者の利得条件を示さない場合や相互の利得を示さない場合はとくに顕著であることなどの結果を得た。
著者
外村 泰子 上口 勇次郎
出版者
東京女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

マイクロ波の生体への障害を究明する実験は、1)上口がin vitroのヒト精子懸濁液にマイクロ波を照射し、染色体異常の出現を調査した。2)外村はマイクロ波の熱作用を、ショウジョウバエの唾腺染色体上のパフ誘発から調査した。3)マイクロ波照射対象をショウジョウバエの卵母細胞として、X-染色体不分離がF_1バエで検出されるかを調査した。1)〜3)までの実験は、電子レンジ周波数2.45GHz、出力500Wで5秒、10秒、出力200Wで60秒被爆させる処理方法ですすめた。1)の結果:in vitroのヒト精子では(1)被爆後照射時間による差は認められるが、精子懸濁液の温度の上昇がみられ、精子運動率も低下した。(2)生存した精子は、ハムスター卵に異種間受精をさせ染色体分析を行なった。マイクロ波による特定な染色体異常の増加の傾向はなく、このことはDNA損傷を生ぜめしないとして上口の実験は終了した。2)の結果:(1)マイクロ波被爆ではAshburner(1972)の記載による熱ショックパフと、新しいパフ誘発も観察された。(2)37℃、40分間湯煎器内で幼虫を飼育した時、唾腺染色体上のパフは逆に消滅する減少を示した。上述のことからマイクロ波特有な熱作用については1996年に、分子生物学的分野からの実験により追求したい。(3)の結果:(1)ある遺伝子系の雌株にマイクロ波を照射し、直ちに+雄株と交配させて羽化したF_1バエを数えた。性染色体異数体バエの検出からは対象群との間には差がなかった。この事実は上口の実験同様、マイクロ波による影響は陰性である。結果を明白にするため1996年は、対象郡にX線照射(400r)処理実験を計画する。(2)再度の実験時で、翅の奇形バエの発生、致死変異誘発による蛹から成虫バエへの羽化妨害などが見られた。1996年にはマイクロ波の特有な作用の決め手を電気泳動法から掴みたい。
著者
堀口 純子
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

1.データベース作成について(1)日本語の話しことばおよび中級日本語ビデオ教材のシナリオのデータベースを作成した。(2)日本語教科書の会話部分および日本語学習者の対話と聴き取りのデータベースを作成した。2.データベースの作成について(1)上記のデータベースを利用して、次のような分析を進めた。(1)縮約形のデータベースを作成し、それを分析して縮約形の練習のためのCAI教材を作成した。(2)相づちと予測のデータベースを作成し、聞き手のコミュニケーションストラテジーを明らかにした。(3)方言桃太郎の「ドンブラコ・ドンブラコト」の部分のデータベースを作成し、それをデータとして方言における清音と濁音および促音、撥音、長音の日本語学習者による聴き取りについて分析した。(4)方言桃太郎における文末のデータベースを作成し、日本語学習者による文末の聴き取りについて分析した。(2)上記のデータベースを利用して、次のような分析が進行中である。(1)話の切り出し、話順獲得、話順促し、言い淀み、などを分析することによって、会話のストラテジーを明らかにしようとする。(2)「ああ」「ええ」「まあ」「いや」「だから」「だって」「なんか」「ちょっと」「けど」「〜て」「〜し」「〜じゃない」などを分析することによって、言語形態の会話におけるストラテジーとしての機能を明らかにする。(3)初級日本語教科書に見られる縮約形のデータベースを作成し、それの類似型と数量的分析が進行中である。