著者
寺澤 幸枝 大島 英揮 成田 裕司 諫田 泰成 藤本 和朗 緒方 藍歌
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

広範囲心筋梗塞では、壊死心筋による激しい炎症の後、線維組織に置換され、時間とともにリモデリングが進行し、心腔拡大や収縮障害、最終的に重症心不全を引き起こす。近年、移植片対宿主病(GvHD)の臨床治験において、RNA や蛋白を含む50-200nm の細胞外微小胞「エクソソーム」の抗炎症作用による治療の有効性が報告されている。申請者らは、これまでに大動脈瘤に対して間葉系幹細胞(MSC)から産生されるエクソソーム投与療法を行い、瘤縮小効果が得られたことを明らかにしてきた。MSCや心筋塊前駆細胞由来のエクソソームによる心筋梗塞治療の有効性はすでに報告されているが、エクソソームの性質(膜表面タンパクや包括するmiRNA, mRNA, prtotein など)はホスト細胞に依存するため、細胞の種類によって治療効果が異なることが予想される。平成29年度では、すでに治療効果が明らかとなっているMSC に着目し、MSC由来エクソソームに含まれるタンパクとmiRNAを、各アレイを用いて網羅的解析を行った。タンパクアレイでは286種のタンパクが同定され、全体のうちサイトカイン20.3%、成長因子21%、ケモカイン14%が占めていた。miRNAアレイでは、526種のmiRNAの存在を確認し、In Silicoにて血管新生因子や炎症抑制に働くmiR-17, miR-24, miR-92, miR-126, miR-210などが同定された。In vivo検討に進むため、心筋梗塞モデル作成に着手した。
著者
根来 孝治 中野 泰子 清水 俊一
出版者
帝京平成大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015

申請者らは、これまでに制御性T細胞(Tregs)の主制御遺伝子であるFOXP3のsplicing variants発現量が喘息患者で対照に比べ変化していることを報告した。一方、T細胞受容体刺激によるTregsのカルシウム不応答性を利用し、Tregsの機能解析も行ってきた。喘息患者では、Tregsの機能異常を認め、そのため炎症の慢性化をきたしていることが推測されたため、FOXP3 variants発現量の変化がその機能異常と相関するかどうかを検討した。各variantsのHalo-tag constructsを作製し、細胞に最適なトランスフェクション条件を選定した。さらに、特徴的なターゲット遺伝子群の発現量をreal-time PCRにより解析し、カルシウム応答性についても検討した。抑制機能の一端を担うと考えられているcAMPの産生量を測定したところ、全長FOXP3(FL)とexson2欠損体(delta2)では、delta2の方が高産生量を示していた。Tregsの機能と相関があるカルシウム応答性に関しては、FLとdelta2との間に差異は認められなかった。Exson2が欠損していてもFOXP3の機能に問題は生じていないと考えられたが、Th17細胞の主制御遺伝子であるRORgtの発現量が亢進していた。喘息患者(成人)においてdelta2/FL比が高くなることより、TregsからTh17へのシフトがvariantsの発現量によりコントロールされているかもしれないことが示唆された。
著者
高井 真司 金 徳男
出版者
大阪医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

メタボリックシンドロームの臓器障害におけるキマーゼの役割を解明するため、高血圧ラットに高脂肪・高コレステロール食を負荷して高血圧と高脂血症を伴った新規非アルコール性脂肪肝炎(NASH)モデルを作製した。本NASHモデルの肝臓ではキマーゼが著明に増加し、キマーゼ阻害薬はNASHの発症および進行を予防し、生存率を有意に増加させた。ハムスターでも高脂肪・高コレステロール食を負荷して高血圧、高脂血症、糖尿病を伴う新規のNASHモデルを作製した。本モデルにおいても肝臓でキマーゼが増加した。メタボリックシンドロームによる合併症であるNASHの発症および進展にキマーゼが需要な役割を果たしていた。
著者
篠原 真毅
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究はマイクロ波によるワイヤレス給電技術を用い、バッテリーレス・電池レスセンサーの実現を目指した研究である。その成果として、1) バッテリーレス・電池レスセンサーに適したマイクロ波を受電・整流するレクテナ(Rectifying Circuit)の開発、特にワイヤレスセンサーの動作状態の変化によっても効率が変動しない反射波利用型RF-DC整流回路と、本広範囲・高効率で動作するRF-DC-DC整流回路の開発, 2) 間欠(パルス)送電による、センサー情報とワイヤレス給電の干渉低減の研究を行い、ワイヤレス給電によるバッテリーレス・電池レスセンサーの開発に成功した。
著者
松本 英実 吉村 朋代 溜箭 将之 葛西 康徳 イベトソン D. ケアンズ J. ベネット T. オズボーン R. テイト J. アヴラモーヴィチ S. ニコリッチ D. ラショヴィチ Z. ジヴァノヴィチ S. ヴコヴィチ K.
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

混合法(ミクスト・リーガル・システム、mixed legal system)の方法論に立脚して、信託及び信託類似の制度について、比較法制史的考察を行った。混合法における信託を考察するためには、ローマ法の考察が不可欠であることを基本として、一方では古代ローマ法、古代ギリシア法を、他方では狭義混合法(特に南アフリカ法)、広義混合法(バルカン法)を比較対象として、混合法としての日本法との比較を試みた。特に、信託の公的コントロールにの多様なあり方を抽出し、ローマ法と信託法の伝播diffusionという視点から長期にわたる法の展開の全体像と日本法の位置づけを得ることが出来た。
著者
高橋 晋一
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究を通して、全国に500あまりの船だんじりが出る祭りの存在を確認できた。海、川(生業や交易)との結びつきが強いが、長野県安曇野地方の「お船」のように水と関わりを持たないのものも見られる。船だんじりの形態は大きく御座船型、廻船型、鯨船型、その他に分類でき、藩主の海路による参勤交代、廻船による交易、捕鯨の拠点に関連しているものが多い。歴史的には京都祇園祭の船鉾などを除きほとんどが近世以降に始められたもので、主に江戸時代に、御座船や廻船といった当時の権力を象徴する豪壮な船が、地域の文化・経済・政治的アイデンティティの象徴として取り入れられ、各地に船だんじりの文化が開花したと考えられる。
著者
春原 則子 宇野 彰
出版者
目白大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

日本で初めて、発達性dyslexia(DD)のある成人例を評価するための検査法と基準値を作成した。日本語話者のDD成人例では既報告の小児例と同様、音韻情報処理や視覚認知、自動化の問題が背景にあることが示唆された。また,聞き取り調査の結果、日本でのDD例の社会参加における困難さが示された。英語で初めてDDとの診断評価を受けた日本人留学生を調査したところ、6名中2名では日本語でもDDの症状がみられ日本におけるDD検出の不十分さが伺われた。英国ではDDに特化した小中学校があり大学における支援も充実しているなど、日本でのDDに対する支援への示唆が得られた。
著者
橋本 雅仁
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

プロバイオテック細菌のように経口で外部から摂取される細菌およびその成分が、腸管内で作用することで宿主の恒常性を維持し、免疫機能を改善することが知られている。またこれまでの我々の研究から、鹿児島特産の醸造酢である黒酢には酢酸菌由来の成分であるリポタンパク質とリポ多糖が含まれており、免疫調節に関与していることが示唆されている。本研究では、このうちのリポ多糖の化学構造を明らかにするとともに、リポ多糖が小胞として黒酢中に存在することを明らかにした。
著者
堂前 亮平
出版者
久留米大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

近代期の奄美・沖縄の主要な島の中心地において、寄留商人と呼ばれる他県および同県の他地域からの外来商人が、商店や事業所を構えて街を形成していた。本研究は、寄留商人という社会集団が形成する商業空間の形成と特質を考察するものである。沖縄諸島において寄留商人町がみられたのは、沖縄本島の那覇、久米島の儀間、宮古島の平良、石垣島の4箇であり、奄美諸島では奄美大島の名瀬、古仁屋、喜界島の湾、早町、徳之島の亀津、平土野、沖永良部島の和泊、知名、与論島の茶花であった。奄美・沖縄に多くの寄留商人が本格的に移住してくるのは、廃藩置県後のことである。寄留商人の出身地をみると、圧倒的に鹿児島県出身者が多い。これは、地理的距離に加え、歴史的関係によるものである。奄美諸島や沖縄諸島に寄留商人が入ってくる理由は、藩政時代か盛んに行なわれていた砂糖や織物などの取引に商業活動の旨味を目論んだからである。また砂糖や織物の取引のみならず、呉服や雑貨などのさまざまな商品の卸小売りにおいても、奄美・沖縄は商業の空白地域であったことである。例えば、奄美諸島最大の商業地区は名瀬であり、当時259の商店・事業所のうち、経営者の出身地で最も多いのが、鹿児島県出身者で84人、次いで地元名瀬出身者が64人となっている。また沖縄県で最大の都市である那覇においては、335人の寄留商人が商業を営んでいたが、その中で鹿児島県出身者205人で、寄留商人全体の3分の1近くを占めている。寄留商人はいずれの島でも、島の中心地で寄留商人経営の店が集まって街を形成していた。このような寄留商人町も第二次世界大戦の末期には、県外からの寄留商人は引き上げていき消滅した。
著者
姜 銀来 横井 浩史
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

障碍者にも容易に使えて安定的なsEMG(表面筋電図)信号を計測できる計測法は、sEMGを制御信号とする福祉機器の実用化のための重要な課題である.本研究は、材料科学と電子工学と情報工学との複合領域的なアプローチで実用性の高いsEMG計測・解析法を開発する.H29年度は,電極の材料において,導電性カーボンブラックを混入したシリコンゴムを用いた、柔軟な筋電電極を開発と基本性能の評価を行った.カーボンブラックの濃度を変えることで、筋電電極の導電性を調整し、導電性と計測された信号のSN比との関係を調べた.電極の導電性が高いほど良いことではなく、最適濃度が2~3%の間になることが分かった.また,金メッキ線と導電性シリコンをハイブリッドした電極を開発し,より安定的な筋電信号計測を実現した.筋電信号計測回路において,信号源インピーダンスの影響を調べるために、小型インピーダンス計測装置を開発し、筋電とインピーダンスとの同時計測を実現した.信号源インピーダンスに基づいた電極配置の探索、及び筋電信号の評価が可能となった.また,インピーダンスと筋電信号との両方を利用したマルチモーダルな識別方法の構築も可能となった.筋電信号の解析において,筋電信号の経時的変化に対応するために群知能を利用した新しい筋電識別法を構築した.筋電義手の制御に想定される7動作(安静,握り,開き,掌屈,背屈,手首の回内,回外)を用いた評価実験を行た結果,パラメータの最適化により,筋電義手を制御するための筋電信号を高精度で識別できることが確認された.
著者
伊藤 弘 埴岡 隆 王 宝禮 山本 龍生 両角 俊哉 藤井 健男 森田 学 稲垣 幸司 沼部 幸博
出版者
日本歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

歯周治療の一環として禁煙治療が歯科保険に導入されるためには、禁煙治療の介入による歯周治療の成果が極めて良好となることが重要である。そこで、禁煙外来受診による改善を、一般的に行われている臨床パラメータと歯肉溝滲出液と血漿成分の生化学的成分解析、さらには禁煙達成マーカーである血漿中コチニンと呼気CO濃度の変化を検索した。その結果、禁煙外来受診により、禁煙達成マーカーが減少し、さらには自己申告による禁煙の達成から、禁煙外来受診は禁煙に対し有効な戦略である。しかしながら、生化学的変化は認められなかった。今後長期的な追跡が必要であると考えている。
著者
和田 哲
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ホンヤドカリ属を対象として、オスとメスの成長と繁殖の資源配分様式を調べた。本属の一部の種では、交尾直前にメスが脱皮することがあり、繁殖期中にも成長する。本研究の結果、脱皮する個体は、とくに産卵間隔が長い傾向が強く、抱卵数も変異が大きかった。オスも配偶行動によって摂餌行動が抑制されるため、繁殖に費やす時間の増加が成長を低下させることが示唆されたが、実験ではそれを強く支持する結果は得られなかった。
著者
冨田 幸雄
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

水滴の大きさと落下高さを広範囲に変えて水面に衝突させ、その後の水面変形と空気泡の取り込みパターンを検討した。特に、「水琴窟」の音発生条件と密接に関わっているものの、これまで知見が少ない「気泡のイレギュラー取り込み」領域について詳細な実験を行った。その結果、次の事柄が明らかとなった:(1)イレギュラー領域には少なくとも3種類の空気泡形成のパターンがある。一つ目は収縮する変形水面に衛星滴が衝突して空気泡が分離する場合。二つ目は発達した水柱が沈降して水中に完全に沈み込む直前、水柱底部の空気層が閉鎖する際の不安定によって微細な気泡群が発生し、これらが合体してより大きな複数の空気泡になる場合。三つ目は最初の原因で発生した空気泡が水柱の中に取り込まれ、それが再び水中に戻る場合である。第三の原因で発生する空気泡は微弱な圧力変動にさらされるだけであるため強い音響は発生しない。これに対して最初の二つの原因で生じる空気泡は、その際の圧力変動(表面張力+水圧ヘッド)によって適度な振動を練り返して水中に過渡音響を放射する。(2)従来、安定的に音が発生しないとされてきた「イレギュラー領域」の中にも、衛星滴の衝突に起因して非常に再現性良く気泡音が発生する条件があることを明らかにした。これに対して第二の原因による空気泡の形成は極めてランダムであり、その結果発生する音域の範囲は広い。この第二の空気泡の生成機構については更に高い時間分解能による光学観察が必要であり、今後の課題となった。
著者
山田 智之
出版者
上越教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

1年目に予定していた職場体験やキャリア教育の教育課程上の位置づけや関連する取り組みに関する中学校の教員を対象とした調査については、北越地域、関東地域の26校の中学校の校長、副校長、教員等を対象に面接調査を行った。このうち、北越地域のデータの分析を行った結果については、多くの中学校が、仕事や職業、進路や将来を生徒が主体的に考えることを目的としており、ほとんどの学校が総合的な学習の時間を活用し,学習内容を系統的に構成していることが明らかとなった。この結果については、日本キャリア教育学会第39回研究大会(上越教育大学)において、「シンポジウム:上越市における5日間の中学校職場体験に関する研究」を企画し、教育現場における職場体験やキャリア教育の教育課程上の位置づけについて研究を深めた。また、1・2年目に予定していた、中学校時代の職場体験やキャリア教育が成人期の進路選択・職業生活やセルフマネジメント等に与えた影響に関する大学生や職業人を対象としたアンケート調査については、全国の大学生1000名、北越地域の職業人100名のデータを収集した。このうち北越地域の職業人データをもとに分析をすすめ、職場体験の体験日数(1~2日間, 3~4日間, 5日間以上)が長いほど職業選択や職業生活に影響を与えたと自認する傾向があることが確認された。また, 地元での生活や仕事への満足感が高いほど成人職業キャリア成熟にプラスの影響を与え, 理想の自分イメージにも影響を与えることが明らかになった。この結果については、上越教育大学研究紀要37巻に、調査協力者とともに共同執筆を行い「中学校における職場体験が職業選択や職業生活に与える影響-新潟県上越市における社会人への調査からー」として発表した。
著者
宮本 昌子 仲本 なつ恵 安井 宏 寺田 容子 滝口 圭子 松為 信雄
出版者
目白大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

発達障害のある者の就労の困難さや離職率の高さなどの問題に注目し、彼らの就労に必要な学びを教育段階から少しずつ体系的に積み上げられる機会を提供するイベント体験型のキャリア教育プログラムを開発した。就労準備に必要な学習内容について調査した結果をプログラムに反映させ、小学生~高校生に実施した結果、コミュニケーションに関するスキルは向上するが、「自己理解(障害理解)」が向上しにくいことが明らかにされた。
著者
黒木 玄 長谷川 浩司 黒木 玄
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

黒木玄は,楕円曲線上の共形場理論と楕円函数係数の量子可積分系の研究を行なった.一つ目の仕事は,楕円古典γ行列が現われる楕円曲線上の捻れヴェス・ズミノ・ウィッテン(WZW)模型と楕円ゴーダン模型の代数幾何的構成である.ここで,楕円曲線上の捻れWZW模型とは,楕円曲線上のある種のリー環束から自然に構成される共形場理論のことである.その共形ブロックの満たす楕円函数版のクニツィニク・ザモロドチコフ(KZ)方程式の係数として,楕円古典γ行列が自然に現われる.楕円ゴーダン模型は,ハミルトニアンが楕円古典γ行列を用いて定義されるある種の量子可積分系のことである.臨界レベルの捻れWZW模型から楕円ゴーダン模型が導出される.これによって,楕円ゴーダン模型のハミルトニアンの母函数が,捻れWZW模型の方の菅原構成によって得られたエネルギー運動量テンソルに関するウォード恒等式から得られることがわかる.二つ目の仕事は,クニツィニク・ザモロドチコフ・ベルナール(KZB)方程式の解の積分表示式をアフィン・リー環の脇本表現を用いた構成である.KZB方程式は力学変数を含む古典γ作用素を用いて書き下される線形微分方程式系である.楕円曲線上のリー環束の変形も含めたWZW模型を適切に定式化すると,その共形ブロックの満たす方程式として,KZB方程式が現われる.そのことを利用すれば,脇本表現に付随したWZW模型の共形ブロックの積分表示式から,KZB方程式の解の積分表示式が得られる.
著者
黒木 玄 長谷川 浩司 菊地 哲也
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目標の一つはBerenstein-Kazhdanの幾何結晶含む離散古典系の量子化であった。その重要な例として梶原・野海・山田が構成したm×n行列全体の空間への2つのA型拡大アフィンWeyl群双有理作用がある。平成17年度までに黒木はm, nの片方が2でもう一方が奇数の場合の量子化を構成していた。黒木はその結果を平成18年度にm, nが互いに素な場合にA型アフィン量子群を用いて拡張した。これによって幾何結晶の重要な例の一つと量子群が関係付けられたことになる。しかし幾何結晶と柏原結晶のLanglands双対性の存在は謎のままであり、課題として残されたままになっている。さらにその研究の副産物として量子群とWeyl群の双有理作用の量子化の関係を明確にすることができた。量子群のChevalley生成元の複素べきの作用によって任意の一般Cartan行列(GCM)に付随するWeyl群双有理作用のq差分版量子化を構成することができる。Weyl群双有理作用はPainleve系の現代的解釈において基本的なので、これによってPainleve系と量子群が関係付けられたことになる。(この構成は本質的に後述する長谷川のq差分量子版のWeyl群双有理作用も含んでいる。)さらにそれに関連してALBL=LCLD型の関係式によって特徴付けられるL作用素の重要性も明らかになった。通常の量子群のL作用素はRLL=LLR型の関係式によって特徴付けられる(FRT構成)。しかしWeyl群双有理作用を持つような量子系のL作用素を扱うためにはより一般的なALBL=LCLD型の関係式が必要になる。ALBL=LCLD型の関係式を満たすL作用素から構成される互いに可換なHamilton作用素たちはWeyl群双有理作用で不変であると予想しているが、まだ証明は付けられていない。量子版のWeyl群双有理作用で不変な作用素の構成は残された基本的問題のひとつである。以上の結果は部分的に研究集会「数理物理における新たな構造と自然な構成の探求」(名古屋大学多元数理、2007年3月5-8日)で発表された。長谷川はGCMに付随するq差分量子版のWeyl群双有理作用の構成と量子Painleve VI系の構成の2つの結果を2007年のプレプリントで発表した。菊地は通常の微分版およびq差分版のPainleve VI系を無限化積分系(ソリトン系)の相似簡約によって構成することができることを示した。
著者
宇城 輝人
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、「個人という生活形式」の集団的基盤としての「社会的所有」を、その起源から跡づけ、「賃労働社会」をどのように規定してきたか知識社会学的に検討した。そのさい以下の3点に焦点をおいた。(1)19世紀フランスにおける所有をめぐる議論を社会的所有の概念史として再構成すること。(2)プルードンの所有論の意義を考察し、個人主義、社会的所有、そして社会立法との関連性を分析すること。(3)「個人という生活形式」が社会的所有との連関で展開される歴史的諸相を分析すること。