著者
蜂谷 昌之 松岡 敬興
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

平成29年度は昨年度までの調査に引き続き、富山県高岡市の小学校に保管されている卒業記念図画作品を手掛かりとした図画教育の変遷に関する調査のほか、地域の教育動向に関する調査を行った。図画教育実践に関する調査においては、明治40年代に制作された約600点の図画作品を手掛かりに、一地方の学校における図画教育実践の検証を試みた。まず、明治後期の図画教育の状況をふまえ、学校関係資料等を参考に図画の指導体制や使用教科書、教育活動等に関する調査を行った。その上で、明治後期に制作された作品の画題や表現方法を分析し、当時の図画教育実践を考察した。調査の結果、高岡市では地域事情を反映して専科指導体制が構築されたこと、国定教科書『毛筆画手本』、『新定画帖』を手本とした臨画や考案画が残されていたことなどが明らかとなった。作品には図版をそのまま模写したものだけでなく、別の図版を合成したものや児童自らアレンジを加えたものがあり、表現の応用を許容するような実践が行われていたことがうかがえた。また、地域の教育動向に関する調査では、昨年に引き続き、自由画教育初期に北陸地方において開催された「世界児童自由画展覧会」に関する新聞報道を分析した。特に北陸三県の福井、石川、富山県における展覧会の開催状況や各地域の有識者の見解、作品評などを中心に分析を行った。この展覧会の新聞報道には、自由画教育運動として図画教育の転換が図られた当時の実情が克明に記録されており、新しい教育の波が北陸地方に伝播した状況を明らかにすることができた。
著者
望月 智之 関矢 一郎 二村 昭元 宗田 大
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

肩腱板断裂の修復部に関節のふくろを裏打ちする組織から採取した細胞を投与することにより、治癒を早めることができるかの研究を行った。ラットを使用し、まず膝と肩のどちらから採取した細胞を比較し、膝からの細胞のほうがすぐれていることを証明した。ラットの両肩に腱板断裂を作成し、片側には膝からの細胞を投与した後に修復を行い、反対側の肩関節は何も投与せず修復のみを行った。修復後2週、4週、8週の時点で修復部位の評価を行うと、細胞を移植したほうがしっかりとした構造をつくっていた。また修復した部位を引っ張ってみると、修復後2週の時点では細胞を移植した方が強く固着されていた。
著者
望月 仁志 中里 雅光 塩見 一剛 十枝内 厚次 石井 信之
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

慢性砒素中毒は多臓器にまたがる障害を生じ、近年多くの国において健康被害の脅威となっている。宮崎県土呂久地区では、1920年から1962年に高濃度慢性砒素中毒患者が生じた 。住民検診において、多くは温痛覚性末梢神経障害を呈し、重症例では深部感覚障害を併発した。体性感覚誘発電位では重症例において中枢伝導時間の遅延が認められた。低濃度の飲料水砒素汚染が広がっているミャンマー国における住民検診にて、神経学的評価を実施した。50ug/Lを越えた飲料水摂取群では振動覚性末梢神経障害と中枢神経障害を呈した。これらの結果は、初めての知見であり、世界に数千万人と言われる砒素中毒患者の診療に重要な情報となる。
著者
木村 範子 竹田 美知 正保 正惠 倉元 綾子 細江 容子 鈴木 真由子 永田 晴子 中間 美砂子 内藤 道子 山下 いづみ
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

今日の日本社会では、家族をめぐる問題は、虐待や暴力など複雑で多様となってきている。その打開のためには、人や物にかかわる「家族生活」のトータルな支援・教育と、地域のネットワークづくりが必要である。そのことは、日本のみならず、グローバル・ウェルビーイングの観点から,世界共通の家族問題の打開のために必要な視点である。本研究は、日本で生涯学習として「家族生活教育」を行うために「家族生活アドバイザー」の資格化を視野に、その養成のための研修講座のカリキュラム開発を行うことを目指して行われた基礎的研究である。
著者
清末 愛砂 梅澤 彩 松村 歌子 李 妍淑
出版者
室蘭工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-10-21

本研究を通じ、日本との比較対象としたニュージーランド、シンガポール、台湾においては、家族司法政策が民間に責務の一端を担わせる方向に動いていることが明らかとなった。民営化でコスト削減を図りながらも、家族紛争解決関連の支援活動を実施してきた民間団体に依拠することで、子の取決めを中心とする家族紛争問題に瀕している市民が、各種の支援にアクセスしやすい体制がとられてきた。一方、当該研究を通して、民営化が必ずしも当事者支援に結びつかないことも明らかとなった。今後の家族司法政策においては、民間団体の活動に依拠しすぎず、十分な予算を確保した上で適正な形での公的機関の関与が求められているといえよう。
著者
服部 文昭
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

古ロシア語の動詞に関しては、文章語誕生以前に古代教会スラヴ語をそのままなぞっていた時期、また、その後の文章語としての古代ロシア文語が確立された時期について、それぞれしかるべく研究が行われている。たとえば、1995年にはロシア科学アカデミー編の『古ロシア語文法:XII-XIII世紀』が出版されている。しかしながら、その萌芽期にかかわる研究、とりわけ動詞時制、アスペクトに関しては十分に研究されているとは言えないのが現状である。平成10年度には、1092年に成立した『アルハンゲリスク福音書』を資料として文献学的な作業を行った。現存するロシア最古の福音書『オストロミール福音書』(1056年〜1057年)が古代教会スラヴ語に極めて忠実であるのに対し、わずか40年足らず遅れて成立した『アルハンゲリスク福音書』はロシア語化の度合いがはるかに高く、注目に値する文献である。平成11年度には、『ムスチスラフ福音書』(1117年までには成立)といった文献も加えて、前年同様の作業を行う一方で、最近の言語学的研究の検討も行った。古ロシア語の過去時制のうち未完了過去については、今世紀初頭のソボレフスキー以来、古代教会スラヴ語からロシア語にもたらされた外来の要素であるとの学説があり、それをめぐる議論は今日もなお決着をみていない。そのような現状を踏まえて、ゴルシュコワ、ハブルガーエフやB.ウスペンスキーらの最近の研究をたどった。平成12年度では、前年度までの作業を継続するとともに、アスペクトの問題にも取り組んだ。また、古ロシア語ならびにその文章語である古代ロシア文語の概念やその研究史についても考察を加えた。以上のような研究をとおして、「古代ロシア文語とは」、「古代ロシア文語萌芽期における動詞のアスペクトと時制について」の二論文を含む研究成果報告書を平成13年3月に纏め上げた。
著者
粟崎 健
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

完全変態昆虫であるショウジョウバエの脳神経系では、変態期において神経細胞は死なずにその神経回路のみをダイナミックに再編成していることが知られている。本研究では、こうした神経回路の再編成と一酸化酸素シグナルの関係に注目して、その関連の解明をめざした。本年度実施した研究により、以下のことが明らかになった。1)変態期6時間目より幼虫シナプスの崩壊がはじまり、変態期24時間目までに脳全体のほとんどのシナプスが失われる。2)ショウジョウバエ脳には4つの一酸化窒素を産生する神経分泌細胞が存在しており、これらの細胞は神経線維を脳本体のニューロピル全体、ならびに胸腹部神経節に沿って伸長させている。3)一酸化窒素産生神経細胞の神経線維上には一酸化窒素産生酵素を集積したこぶ上の構造体が散在している。4)変態期に入ると一酸化窒素産生神経細胞の神経線維上にある、一酸化窒素産生酵素を集積したこぶ上構造体が著しく減少する。5)変態期に入っても、脳中枢神経系の細胞は一酸化窒素に対する応答性を維持し続ける。以上は、一酸化窒素産生能の低下と幼虫神経回路の崩壊が関連していることを示唆した。さらに、この関連を薬理的に調べるために、培養により幼虫キノコ体神経回路の崩壊を解析できる系を構築した。また、一酸化窒素産生酵素をコードする遺伝子を細胞特異的にノックダウンする系ならびに、一酸化窒素産生神経細胞を除去する系を構築した。
著者
布田 博敏 平松 尚志 神 繁樹 神 繁樹
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

マガキ由来の新規の抗酸化物質(DHMBA)において、肝培養細胞を用いた抗酸化能の観察、及び非アルコール性脂肪肝炎(NASH)モデルマウスを用いた肝病変の改善効果を検証した。肝培養細胞を用いた実験では、DHMBAは酸化剤に対する細胞保護作用や酸化誘導性のアポトーシスに対する抑制効果が観察された。NASHモデルマウスを用いた実験では、DHMBA を高濃度含むマガキ抽出物によりNASHの肝臓特有に見られる病理組織学的症状の改善、及び抗肥満、インスリン抵抗性の改善が見られた。これらのことから、DHMBAは酸化ストレスが発生原因と考えられているNASHの予防や治療に有効と考えられた。
著者
三浦 勉 寺田 宙 太田 智子
出版者
国立研究開発法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

海産物中のPb-210/Po-210測定の信頼性向上を目指した。金属鉛から調製したPo-210標準液、海産魚乾燥粉末を用いて既開発(Miura et al)のPb-210/Po-210分析法を評価した結果、全分離操作で90%以上のPo回収率が得られ、高い信頼性をもつことが実証できた。よって本分析法を基に標準分析作業手順書を作成した。予備実験で選定したかつお粉末といりこ粉末から調製した共同実験用試料を用いて、3機関が参加する共同実験を実施した。その結果、国内分析機関によるPb-210/Po-210測定値に有意な差は見られず、標準分析手順書の妥当性と国内分析機関の技術レベルが高いことが実証できた。
著者
石井 一夫 大森 哲郎
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

次世代シーケンサーやマイクロアレイなど、多次元データを用いた大規模データ産生システムの医療への応用が進んでいる。これらの多次元データから数理モデルを作成し、臨床診断への応用が期待されている。本研究では、これらの多次元データから、複数のマーカーを選択し、これらを組み合わせた数理モデルを作成する方法を確立することを目的とした。本研究では、精神神経系疾患を対象とし、それらの患者からの血液検体からのDNA、RNA試料を用いて分析を行い、そのデータをもとに、変数選択、モデル作成および最適化などを行い、高精度な数理モデル作成法を確立した。
著者
安元 剛 坂田 剛 安元 純 廣瀬 美奈 飯島 真理子 篠塚 翔太 窪田 梓
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

全ての生物の細胞内に高濃度で含まれているポリアミンという生体物質が,空気中の二酸化炭素と高い親和性を有し,二酸化炭素を水溶液中に取り込むという新たな化学的知見から光合成および石灰化への寄与を検証した。その結果,二酸化炭素を吸収させたポリアミン溶液は,光合成で炭素固定を担う酵素であるルビスコの炭素源となりうることを明らかにした。また,シアノバクテリアの増殖をポリアミン輸送体阻害剤が有意に阻害し,ポリアミンの光合成への寄与の可能性が示された。ミドリイシサンゴの稚ポリプの骨格形成の場である石灰化母液内のpHが周りの海水と比較して高いことが分かり,生体塩基であるポリアミンの関与の可能性を示した。