著者
原田 信之
出版者
新見公立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究の目標は、南西諸島各地に伝承されてきた事物起源伝説を、南西諸島各地で直接聞き取り調査して記録するとともに総合的に比較研究し、民間伝承の世界における事物起源伝説の特徴や意味を明らかにすることにある。そのために、平成23年度から平成26年度にかけて、奄美諸島・沖縄諸島・宮古諸島・八重山諸島それぞれに伝承されている文化叙事伝説をゆかりの地に行き直接聞き取り調査した。
著者
熊谷 正朗
出版者
東北学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では球面モータの動力評価、効率評価に必要な回転中のトルク計測手法を提案、実証した。従来のモータと異なり、球面モータは3自由度、すなわち三つの空間軸周りの回転の自由な組み合わせで回転でき、トルクも同様で、かつ両者の軸方向が同一とは限らない。そのため、従来は同時に測定する手法が見られず、開発中の球面誘導モータの性能評価、改良のために、6軸力覚センサと、機械的な球体の駆動装置の組み合わせにより実現した。
著者
金子 友美 芦川 智 菅井 さゆり 髙木 亜紀子
出版者
昭和女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

外周を道路で囲まれた都市の街区内には、通過交通の進入しない歩行者の空間が存在している場合がある。それは、外周道路に面して建築物が建てられていったとき、街区の中央部にできる閑地の利用であったり、あるいは街区をショートカットできる抜け道であったりする。本研究は、こうした都市の街区内に形成された歩行者の空間の役割と空間的効果について明らかにするためヨーロッパ都市を事例とし4回の現地調査を行い、224の事例について空間分析を行った。その結果、出入口の数、分岐数、吹抜の有無とその上空(天空・ガラス)が主要な要素として抽出された。
著者
川野 輝彦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

F-Theoryのコンパクト化において7ブレインのWorldvolume理論がGUT理論のゲージ場などを与えるが、7ブレインの交差しているところに局在しているクォークやレプトンなどの物質場の湯川相互作用はフレーバー構造を理解する上で根幹をなす。これまでの研究により、場の3点相互作用について理解が進んできたが、物理的な湯川結合定数を求めるためには、場の理論の解析方法を開発する必要がある。このため、主に6次元N=(2,0)理論と呼ばれる理論を「局所化」という手法を使って研究を進めた。
著者
水野 雅史
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

レンチナンによる抗炎症機構を明らかにすることを目的として研究を行った。レンチナン経口投与したDSS腸炎モデルにおいて、Dectin-1KOマウスでは抗炎症効果は認められなかった。さらに野生型マウス腸上皮細胞のTNFR1発現量は減少したのに対して、Dectin-1KO マウスでは減少は認められなかった。以上の結果から、レンチナンの炎症抑制効果は、Dectin-1を介して認識され、最終的にTNFR1 mRNA発現量を制御することによって抗炎症効果を誘導している可能性が示唆された。
著者
山元 隆春
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

児童・生徒の「読解力」育成のために、小学校から高等学校までの児童・生徒の読者反応を多角的に分析し、読者反応の個人的構成と社会的構成との関係性を解明し、「読むこと」の授業における足場づくりのための枠組みを構築することを目的とした。国内外の国語教育学及び読者反応研究関連の文献をもとにして研究を進めた。絵本などをもとにした「読解力」育成のための学習開発論を構築した。米国の理解方略指導論に学びながら「読解力」の足場づくりとしての理解方略指導のあり方を探り、さらに多様な学習ニーズに応じて「読解力」を育成するための支援策を提言し、「読むことの指導」をどのように教えるのかということについての見通しを示した。
著者
養老 真一
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

インターネット上で検索エンジンを利用すれば多くの法情報が得られるが、そこには多くの不要な情報(ノイズ)が含まれているのが現状である。これらから法情報のみを取り出し、さらに自動的にカテゴリーに分類し提供できれば、利用者の検索効率を上げることができるであろう。本研究では、Support Vector Machine(以下、SVM)と呼ばれる手法を使ってコンピュータによる法情報の自動分類を試み、これが効率的な法情報検索を支援する手段として利用できないか、検討した。まず、平成18年度において、研究に必要な実験を行うためのシステムの開発を行った。このシステムは分類さた、学習用のデータを用意しておけば、形態素解析、文書ベクトルの生成、SVMによる学習までを自動的に行う。学習結果に基づいて、文書が適切に分類されるかどうかについても、別途、判別用のデータを用意しておけば、学習結果に基づいて正解率を自動的に計算する。平成19年度は、実際に法情報の自動分類の実験を行なった。その結果は以下のとおりである。まず、一般の法情報以外の情報と法情報の分類実験をおこなった。具体的には一般の情報のサンプルとして新聞記事のデータを、法情報として判例や法令の情報を収集して実験をおこなった。その結果、かなりの精度で一般情報と法情報を分類することができた。この結果はインターネットから法情報のみを選択的に収集する可能性を開くものである。
著者
楢崎 洋子 阿部 正樹 橋本 遼平
出版者
武蔵野音楽大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

オーケストラ作品や器楽作品にオリジナルな作風が認められるとともに、声楽作品やオペラ作品も書いている日本の作曲家の作品を対象に考察すると、たとえばオペラ作品において言葉に声、オーケストラが重なって、複数のメディアの複合的というよりも一元的な関係が認められるため、その関係を表す適切なジャンル名称の必要性を示唆する。
著者
田川 佳代子
出版者
愛知県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

市民をサービス利用者、消費者、顧客と捉え、市場としてサービスの供給を進め、経営管理主義の台頭があるなかで、ソーシャルワークにおける社会正義への責任や平等主義への志向は後退した。主流のソーシャルワークは、システムの変革よりも秩序の維持・適応を目標に据え、社会構造の歪から生じる諸問題を解消する観点は乏しい。そうした脈絡において、次の観点からクリティカル・ソーシャルワークの構想を試みた。(1)抑圧の個人的経験を広範な政治的理解と関連づける構造分析、(2)抑圧や支配を除去し、搾取や社会的不正義を克服するのにふさわしい社会正義への志向、(3)批判理論、ポストモダニズム、ポスト構造主義の思考。
著者
水島 郁子 山下 眞弘 原 弘明 地神 亮佑
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は、労働法と会社法の総合的理論的検討を行うことにより、両者の間隙を埋め、労働法と会社法の連携調和を図ることを目的とする。労働法も会社法も実務に近い学問であり、理論的検討の際には法実務と乖離しないことが必要である。大企業実務では法務、人事労務、経営管理を、それぞれ別のセクションが取り扱うのに対し、中小企業では経営者や幹部役員がそれらすべてを担うことが少なくない。労働法と会社法の連携調和を図り、法理論と法実務の連携を模索するには、中小企業法実務に着目することが有用である。本研究は学界の成果とするだけでなく、実務家や経営者に役立つ情報を提供し、ひいては中小企業労働者を守ることをねらいとする。「比較法を含めた理論的検討」は、主として文献調査の方法で行った。後述の研究会で、研究分担者が「労働保険における労働者の「従前業務」に対する法的評価-アメリカ法を参考に」の題目で報告を行った。「実務との対話」は、研究会を6回開催した(5月13日、8月5日、9月30日、11月11日、12月23日、2月3日)。研究分担者および研究代表者が報告したほか、研究者(教員)や実務家に報告を依頼し、それぞれの立場から検討を行い、多角的に意見交換をした。研究分担者および研究代表者の報告タイトルは、前述のほか、以下のとおり:「企業再編と労働者の処遇-会社法と労働法の交錯」「障害に対する配慮の合意と会社分割による承継」「障害者雇用-障害労働者に対する合理的配慮をめぐる最近の事例」。
著者
福田 眞人
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究においては、性病、とりわけ梅毒とエイズの文化史的研究を目的として、それらの全体史の外観から入った。問題の項目を明確にするために、まず梅毒に限定して、その歴史的・社会史的および文化史的観点の整理につとめ、その問題点の洗い出しに務めた。実はまだ未解決の問題が山積していることがその過程で明らかになったのであるが、たとえば梅毒の起源、その感染ルートさえ定説があるわけではない。一応、従来から定説とされてきたアメリカ大陸起源、コロンブスのアメリカ大陸到達時での旧大陸ヨーロッパへの伝播節を取りつつ、他の可能性についても完全には排除していない。それは、たとえば小アジア(トルコ)での風土病であるといった可能性である。文化史的問題として、性病の社会的意味付けがある。忌むべき病気として完全に社会から差別を受け、隔離され、忌避されたのかどうか。そこに現代では考えられない性病に対する肯定的意味付けがあった可能性を否定できない。さらに日本という地区を限定して語るとき、16世紀に輸入された梅毒が、そのまま19世紀まで特段の対策も取られないまま放置されたのはなぜか、という問題が残る。それが、外国の駐留軍の安全のために検毒が開始されたことも、当時の日本における性病の認識のあり方を示していよう。19世紀以降、西洋諸国で取られた性病対策は、まず売春婦の検査から始まったが、その検査がもたらした社会的影響の問題も未解決である。そこにあらたに始まった衛生運動と共に、政府官憲による道徳の管理という問題もあろう。しかし、生殖・性に関する問題は個人の秘密に属する部分であり、隠蔽される可能性が高い。それゆえに性病も潜在化することが多く、その罹患者数、死亡者数の実数を把握するのは困難であろう。こうした諸々の問題を通して、性病の実態とその対策に供する文化的資料を提供するのが最終的な目的であり意義である。
著者
祐成 保志
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

米国におけるハウジングの社会学において,L. ワースらによって提示された「政治経済学」と,R. K. マートンらによって探求された「社会心理学」の系譜が,H. ガンズに至って「エスノグラフィ」を介して接続され,「いかにして実効的環境を記述・分析するのか」という理論的・方法的な基本問題にたどり着いた。このプロセスを追跡できたことが本研究課題の第一の成果である。こうした方法史的な検討を経て,複合的な行為・状態としての「住むこと」をいかに保障するかという,社会政策としての住宅政策における基本問題を明確にできたことは,本研究課題のもう一つの成果である。
著者
野田 幸裕 毛利 彰宏 鍋島 俊隆 尾崎 紀夫
出版者
名城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

統合失調症の発症要因(周産期ウイルス感染、出産時低酸素脳症や育児放棄)の共通因子として、プロスタグランジンE2(PGE2)が関与するどうか検討した。発症要因を模したモデルマウスの脳内PGE2量は増加していた。周産期ウイルス感染モデルマウスに認められる統合失調症様の認知・情動行動障害にEP1受容体が関与していた。新生仔期PGE2暴露は、神経発達障害に伴う成体期ドパミン神経機能低下や認知行動障害を惹起させ、乱用薬物に対して脆弱性を示した。一方、統合失調症の発症・病態にPGE2関連遺伝子の関連性は認められなかった。PGE2は統合失調症の環境要因の共通因子および、発症脆弱性に関わることが示唆された。
著者
大谷 奨
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、高等専門学校制度発足時に展開された各地方の誘致運動を検討することで、設置場所が確定してゆく過程と地域住民が誘致に奔走するメンタリティを明らかにしようとするものである。その際、国立学校設置に際し地域住民がその費用を支払うという地元負担の問題も合わせて検討した。誘致運動には、高等教育機関の設立という単純な要望に加え、自分たちの地域が国家的に重要な場所であることを国立高専の設置によってオーソライズさせようとする傾向を確認することができる。その競争が地域間で激しくなれば、それだけ国立機関設立に地元負担が伴うという問題は潜在化していったといえる。
著者
内田 毅
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

鉄はすべての生物において必須の元素である。本研究課題では、病原菌の鉄の獲得を阻害することで、新規な抗菌剤の開発につながることを期待する。病原菌の主な鉄源はヘムであり、ヘムを取り込み、分解し、鉄を取り出す。そこで、これらに関するタンパク質の機能について検討した。ゲノム配列からコレラ菌のヘム獲得に関するタンパク質 (Hut:Heme utilization) と推定されていたが、実験的証拠はなかった。そこで、Hutの一つであるHutBの発現系を構築し、発現・精製した。HutBの全長タンパク質は多量体を形成したが、N末端の22残基を削除すると単量体として精製されたことから、N末端はシグナル配列であり、ペリプラズムへの移行シグナルとして、使用されていることが示唆された。また、吸収スペクトルと変異体の解析から、TyrとHisがヘムの配位に関係していることがわかった。これは、緑膿菌のヘム輸送タンパク質であるHasAと同じ構造であることから、HutBがペリプラズムでヘムの輸送に関連していることがわかった。次に、ヘム分解酵素であるHutZの酵素機構について、検討した。HutZのヘム分解機構はヒトのヘム分解酵素であるHOと同一であることは初年度に明らかにしていたが、ヘムの配位子であるHis170とその近傍にあるAsp132との水素結合がHutZに特有であることから、この役割について検討した。この水素結合により、His170は負電荷を帯びるため、ヘムの分解過程には不利に働くと考えられたが、この水素結合はヘムの取り込みに関与しており、切断するとヘム分解活性が消失することがわかった。His170とAsp132は酸化酵素と異なり、異なるサブユニットに存在しており、サブユニット間の相互作用を変化させることにより、水素結合の強度を変化させ、酵素活性を調節するという新規なヘム分解機構を見出した。
著者
内田 毅
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は病原菌の一つであるコレラ菌が増殖に必要とする鉄を獲得する機構を明らかにすることを目的とした研究である。主要な鉄源は血液中のヘモグロビンに存在するヘムがであることから、ヘモグロビンからのヘムを獲得とそれを分解し、鉄を取り出す一連のタンパク質を網羅的に解析した。その結果、VCA0907がヘム分解酵素であり、その酵素活性は活性中心に存在する水素結合の強度により、制御されることがわかった。また、基質であるヘムはVCA0908から受け取ることがわかった。ヘムを分解し、鉄を取り出す過程は病原菌の増殖に必須の過程であることから、新たな病原菌増殖剤の開発につながら可能性を見いだすことができた。
著者
大高 保二郎
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

1.《ラス・イランデーラス》解釈の歴史はそのままベラスケス批評史に重なる一方、欧米諸国のスペイン発見やその美術の受容を考察するためのモデル・ケースを提供してくれる。2.ベラスケスの出自は、長い間そう信じられてきたような「下級貴族(hidalgo)」ではなく、16世紀後半ポルトガルからセビーリャに移住した改宗ユダヤ教徒(judeo-converso)の家系で平民出身、公証人や不動産業を営む裕福な家柄であった事実を明らかにした。同時に、スペイン的なバロック絵画の新地平を切り開くためのベラスケス特有の現実主義とヒューマニズムの精神はそのような環境にあって初めて育まれた。3.ベラスケス筆《彫刻家マルティネス・モンタニェースの肖像》は、その図像からして制作動悸の一端を16世紀イタリアの「パラゴーネ」論の延長上に位置付けられようが、それは絵画・彫刻の優劣論争を超えた次元で考察されねばならない。また「五感の寓意」中、視覚、触覚との関連で解釈しうる可能性が残されている。4.国王フェリペ4世のブロンズ製騎馬像の制作が1630年代、フィレンツェの彫刻家ピエトロ・タッカに委嘱されるが、後脚のみで立つ、バロック的動勢の大騎馬像の構想には、当時マドリードの宮廷にあって話題となったレオナルドの通称「マドリード手稿」が関与していたと推察される。5.ベラスケスの宮廷肖像は、16世紀以降のスペイン宮廷肖像の伝統となったフランドル系とヴェネチア系の2系譜を総合しようとするものであった。
著者
千森 幹子 Scott Clive Harvey John
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、エコクリティシズムから、1850~1930年代に至る日英文学図像におけるanthropomorphic表象、特に植物や物など人間以外の存在である自然に、人間的な感覚や感情・意味を読み取り、擬人化あるいは生命を付与する表象、を文学・美術・社会・子ども観等から考察する学際研究であり、カルチュラルスタディーズである。本研究では、植物や物が、日英の子どもの挿絵と邦訳で、どのように擬人化され、変遷したのか、そこに埋め込まれたエコロジーに対する文化的意味を、創作の過程、日英の擬人化の歴史、技法から探り、西洋的価値体系における自然観と日本の自然観の位相、人間と自然の対立融合共生の位相を、検証した。
著者
小澤 朝江
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、近代初の一工事専従の国家的組織である皇居造営事務局について、建築技術者の人員編成における近世大工組織との関係を検討するものである。特に、製図等の実務を担当した図工に注目し、宮内庁書陵部所蔵史料により、明治21年の残務掛廃止までに在籍した62名の採用・就業状況、出自、退職後の異動先を検討し、同時期に進捗した東本願寺造営の関係者や、大工家出身の専任技師の兄弟・子弟の採用が目立つこと、退職後は半数以上が省庁等の専任技術者に着任し、図工の経歴が設計職としての足掛かりになったことを指摘した。また、宮大工出身の手中千代太郎を例に、日記から採用経緯や職務の具体像を明らかにした。
著者
籠 義樹
出版者
麗澤大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、権利行使価格変動型プット・オプションを用いて、嫌悪施設立地による資産価値低下リスクを補償する手法を考案した。このオプションは、嫌悪施設周辺の住民が将来その資産を、他の条件が同じで嫌悪施設の無い地域と同じ価格で売る権利を付与するものである。こうしたオプションの価値を評価するモデルを構築するとともに、その価値を首都圏において試算した。その結果、オプション価値は立地時点の地価の5.03%であり、これは嫌悪施設の立地した地域と無い地域の地価の、将来の期待値の差額とほぼ等しかった。差額を補償する場合と比べてこのオプションによる補償の利点は、嫌悪施設立地後においても、オプションが権利行使されることによる損失を避けるため、施設立地主体が施設の適切な運営や環境管理に努めるインセンティブがもたらされる点にある。