著者
小川 康恭 圓藤 陽子 及川 伸二
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

平成7年より「化学物質の神経細胞毒性機構として、活性酸素が生成されアポトーシスもしくはプログラム細胞死を引き起こす」という仮説の基で研究を続けてきた。材料は、人間への影響をよりよく予測できるデータが得られることを期待して、株細胞ではなく初代培養細胞を用いることとした。平成7年度までに得られた成果は、(1)2,5-HexanedioneによりDNAの断片化が起こることを培養後恨神経節神経細胞により示したこと、(2)シスプラチンの場合、それだけではDNAに対する活性酵素の関与する毒性は発現しないこと等である。平成8年度においては(1)培養後恨神経節神経細胞に起こったDNAの断片化がアポトーシスそのものであること、(2)そのとき何らかの活性酸素種が発生していること、さらには(3)化学物質がアポトーシス進行過程のどの段階に作用しているのかを研究課題とした。平成8年度において以下の結果が得られた。(1)DNAラダー検出法を改善するために、神経細胞の収量を増大させ、鋭敏なDNA染色法の導入等を行ったとこと、ラダーの描出は可能となったが、依然として明確な像を得るには不十分な状態であるので更なる改善が必要である。(2)各種活性酸素消去剤により細胞死が抑制される結果が得られた。(3)DNAラダー検出系の感度及び安定性がまだ十分ではないためプロテアーゼが用いたアポトーシス進行過程での作用点解析はまだ進んでいない。このような結果に基づき、引き続きDNAラダー検出系の確立、発生している活性酸素種そのものの同定め、化学物質が働いているアポトーシスの進行段階の検討を進めている。
著者
丹羽 正武
出版者
名城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

3年間の研究を通じて,1)化学成分研究,2)生合成類似化学反応,3)生物活性探索の3本柱を立て,創薬種を求め,遂行した結果の概要を以下に記す。1)巨峰の栽培農家からゴミとして排出したコルクおよび枝の化学成分研究の結果,1:多量のルパン骨格を基本とするトリテルペン類を単離・同定,2:多種類・多量の既知スチルベンオリゴマーを単離・同定,3:現在構造決定を進行中のものを含めて,多種類の新規スチルベンオリゴマーを単離し,それらの絶対構造を含めて化学構造を決定した。進行中のものについては,スペクトルの解析だけでは不可能と思われるため,化学反応による誘導体を調製し,結晶化させた後,X線結晶解析を行うことを検討している。2)生物活性試験に供する微量成分の供給を考慮して,比較的多量に巨峰コルクから得られたスチルベンダイマーの(+)-ε-viniferinを用いて,スチルベンオリゴマーへの生合成類似化学反応を検討した。(+)-ε-Viniferinを種々の酸で処理すると,酸の強さによって,選択的に(+)-ampelopsin B,に(-)-ampelopsin D,および(+)-ampelopsin Fに変換することに成功した。また,酵素を用いる酸化反応で,スチルベンテトラマーの(-)-vitisin B,(+)-vitisin C,(+)-hopeaphenol等に変換することに成功した。3)単離したスチルベン化合物の生物活性を探索するために,各地の大学・企業に依頼したところ,興味深い生物活性が見つかった。スチルベンダイマーの肝細胞保護作用やスチルベンテトラマーの肝毒性作用は以前から明らかであったが,今回,(-)-vitisin Bおよび(+)-vitisin C等のスチルベンテトラマーは強力な貝付着阻害作用および大動脈平滑筋弛緩作用を有することが明らかとなった。前者は船舶の航行に関わるエネルギー問題および海水汚染・環境ホルモン問題解決に重要なヒントを与えるものと理解している。また,後者はNO合成酵素を活性化する結果と考えられ,循環器病の治療薬および予防薬の創成に重要なヒント(創薬種)を提供するものと理解している。
著者
坪井 良子 石川 ふみよ 平尾 真智子 奥宮 暁子 佐藤 公美子 村松 仁
出版者
山梨医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

研究期間を通して,国立国会図書館所蔵のGHQ/SCAP Recordsから公衆衛生福祉局(PHW),民間情報教育局(CIE),民間史料局(CHS)及び経済科学局(ESS)のSheetsから,看護改革に関連する英文書を検索・収集し,分析を行ってきた。平成13年度に翻訳したNursing Education Council(看護教育審議会)の第1回から第6回分(1946.3〜1946.6)の会議録,議事録を統合して,看護教育改革の経緯を明らかにした。さらには,Council on Medical Education(医学教育審議会)の翻訳も進め,両方の会議のあり方,審議内容,その経緯など,関連性を追究してきた。これら会議での決定方針を具現化した,看護のモデルスクールであるTokyo Demonstration school of Nursingにおける設立時の教育内容(カリキュラムを含む)を見出し,占領初期の看護教育改革の実施過程を明らかにした。また,占領当時GHQ/SCAPに関与した看護職や占領期研究者へのインタビューを行った。研究活動の主な成果は,医学・看護系学会の学術集会で発表してきた。そして,従来の日本側の看護改革研究にGHQ/SCAP文書からの視点を加えて,新たな知見を提言した。特に,看護教育の改革構想に影響を与えた参加者名及び発言内容を明らかにしたことで,GHQ/SCAP, PHWが遂行した看護改革の意図,目標及び目的,経緯が明らかになり,今後の研究発展のための基礎資料となった。
著者
趙 宏偉 下斗米 伸夫
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

日本国内での研究活動のほかに、中国、ロシア、台湾を訪問し、研究活動をこなし、主な成果物として『東アジア地域統合の歩み-文献・考察・年表』をまとめ上げた。東アジア地域は、狭義的には日本、中国、朝鮮半島、及び関連地域を指し、広義的にはそれに東南アジアのアセアン10力国を加える地域を指すが、2005年12月に開かれた第1回東アジア首脳会議に上記の諸国のほかに印度、オーストラリア、ニュージーランドも加わった。東アジア地域統合ないし東アジア共同体は、1990年12月にマハティールマレーシア首相が最初に呼びかけたとき、「夢物語」と思われるほどであったが、その15年後に前述したように現実のプロセスとなっている。東アジア地域統合のプロセスには、アセアン諸国が先頭に立ってきたが、日米中印露など大国の思惑も交錯してきた。例えば日本が米、豪、印との連携を作ろうとしてきたのに対して、中露は「新国際秩序」を唱えて印度を巻き込む中露印協調体制の構築を目指してきた。この研究は1990年12月〜2007年1月の東アジア地域統合のプロセスを詳しく調べ、文献・考察・年表という形に纏め上げた。趙宏偉は研究代表として指導、監修等を担当したほか、関連分野の論文及び発表等をも行った。趙ゼミの学部生8人は「現代中国と東アジア研究会」メンバーとして資料の収集、字習と研究、年表の作成を取り組んだ。上記のほか、ロシアで講演とロシア語の論文発表を行った。講演は中ロ印協調体制の始動とその後の紆余曲折について分析を行い、ロシア語論文は中国の外交理念という視点から上海協力機構、中ロ印協調体制、日中日ロ関係について論じた。
著者
野原 淳 小林 淳二 稲津 明広 八木 邦公 野口 徹
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

高比重リポ蛋白(HDL)コレステロールよりもHDLの組成変化が冠動脈疾患発症に係わる可能性がある.本研究はHDL組成異常としてHDLトリグリセライド(TG)/HDLリン脂質(PL)比の上昇が種々の動脈硬化リスクと有意の相関が見られることを明らかにした. 同比率は特に糖尿病や慢性腎疾患との相関が強くHDL機能低下と関連する可能性がある.本邦ではコレステリルエステル転送蛋白(CETP)欠損症が高頻度であるが,血中CETP蛋白量はHDL-TG/PLと正相関を示し,CETP欠損症ではHDL-TG/PL比は有意に低値であった.
著者
山西 輝也 大熊 一正 杉原 一臣
出版者
福井工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は,次世代を担うICT人材を育成するために,ロボカップサッカーの競技部門の一つであるMixed Realityシミュレーションリーグで用いられたマイクロロボットを小・中・高校生向けの教材として利用し,学校間の垣根を越えた協調学習を通じて協働作業の大切さを理解させるような体験授業の考案を目的として実施された。この結果,ロボットシステムの整備とサッカーエージェントの開発が行われ,小学生でもグラフィカル・ユーザ・インターフェースを利用することにより,ロボット動作のプログラムが生成できる環境が整備された。
著者
山本 盤男
出版者
九州産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

連邦国家インドで財政赤字削減と消費課税改革を目的に導入が目指されている財・サービス税(GST)の課税形態について、中央GSTと州GSTの詳細な制度設計を提示できたが、導入は中央と州政府間の同意が成立していないため遅れている。中央と州政府間の財源配分を中心とする連邦財政システムの改革は、第13次財政委員会の勧告が現状維持的であったため、第14次財政委員会が担うことになった。財政整理での公共支出改革の重要性が増した。
著者
鈴木 雅明
出版者
東京芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

この研究は、J.S.バッハの教会カンタータについて、資料批判、作品研究、対訳作成などの準備段階から実際の演奏に至るプロセスを吟味し、公開演奏とCD録音において統合する目的で始めたものである。当初18曲のカンタータを3つの群に分けて3年にわたる研究の対象としたが、第1群として分類した8曲のうち7曲(BWV45,102,17,19,36,27,47)について実際に公開演奏とCD録音が終了した現段階で、この研究は個人的な事情により終了せざるを得なくなった。ここまでの研究において、特筆するべき内容としては、BWV102の自筆総譜に書き込まれた演奏上の指示が作曲者によるものかどうか、という点について小林義武氏(研究協力者)に資料調査を委嘱し、その結果を演奏に反映させた。またBWV36について作品成立の複雑な経緯については、江端伸昭氏の助力を得て整理した。またRWV102、27、47のアリアにおけるオブリガート楽器の撰択については、その複雑な事情に鑑み、資料の検討および可能性のある楽器の試奏を経て、複数の可能性を録音して、音楽上の表現を比較できるようにした。また聖書の引照つき対訳は、藤原一弘氏の協力を得て作成した。批判的パート譜の作成については、ウェブ上で公開して同時にオリジナル資料を直ちに参照できるようなシステムを構築するには至らなかったが、原資料に見られる不統一な指示を既成のパート譜に書き入れて演奏に供した。将来的な出版については、演奏上の指示がかえって自由な演奏の妨げとなり得ることから、理想的な形態については今後の研究に待たざるを得ない。しかし、ここまでの研究を通じて、上記のカンタータの実際の演奏結果をCDで公表することができ、それによって、演奏上の問題点と表現の一例を示すことができた。そのことによって、我が国のJ.S.バッハ作品の受容に微力ながら貢献できたと考えている。
著者
戸谷 陽子
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本年度は、演劇・舞台芸術の書物に加え、過去10年間ほどに加速した政治経済的・文化的基盤と文化システムの変化について論じる基本的な研究書、学術雑誌等の書誌を収集・通読し理論化する作業は引き続き行ったが、研究最終年度であることを意識し、これまでに収集した資料や研究成果を「グローバル化した文化システムにおけるアメリカ舞台芸術」(仮題)というテーマのもとに集約すべく、概観しつつ整理する作業に重点をおいた。その実績として、演劇史の流れに深く関わる総括的な論文を発表した。また、過去10年間に加速した、演劇における知識や情報のグローバル化が、実際の演劇作品制作の現場にどのような影響をもたらしているか、また、伝統と現代、国境を越えたコラボレーションなどの試みがグローバリゼーションにより、どのような変化を遂げたかなどについての調査を開始した。そこで、具体的には、まず、国際演劇祭で流通する規格化されたプロダクションの詳細について、製作の過程、マーケティング戦略の実情などを丹念に調べ、これと芸術という概念の関わりを考察した。また、近年活発化している、国境を越えた、複数の民族や文化の担い手のコラボレーションによる伝統へのアプローチと、それらを巡る学術的な言説の変遷について考察を進めた。このため、来日している国際演劇祭のプロデューサや芸術監督にインタヴューを行い、また積極的に演劇祭や学会などについての情報を収集した。この成果は来年度に米国で開かれる学会で発表するべく準備中である。
著者
斎藤 彰一
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究において,匿名通信における匿名性の向上と,携帯端末などの性能の低い計算機や家庭や移動端末等のネットワーク環境における匿名通信利用について研究を行った.さらに,新しい通信方式である送信者追跡困難通信を開発した.この新方式は,追跡困難性による利用者個人情報の保護と,匿名性の悪用を防止することが可能である.これらの研究成果は,個人情報を保護するネットワークを備えたネットワークインフラの構築に貢献できると考える.
著者
古屋 秀隆
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

中生動物ニハイチュウについて、分類、系統、およびニハイチュウと宿主との関係(共進化)について調べた。(1)分類 カリフォルニア湾産Octpus hubbsorum、オーストラリア沿岸産Sepioteuthis australis とSepioloidea lineolata、および日本沿岸産クモダコとウスベニコウイカの腎嚢を検索し、10種の未記載種のニハイチュウ類を発見した。そのうち3種のニハイチュウ類を記載した。(2) ニハイチュウの細胞分化:細胞の分化が起きているかどうか16遺伝子の遺伝子の発現パターンよって調べた。(3)ミトコンドリアゲノムの解析ニハイチュウとプラコゾアのミトコンドリアゲノムの構造を調べた。ニハイチュウ類では、一般にミトコンドリア遺伝子がそれぞれミニサークルを形成していることを明らかにした。(4)共進化ニハイチュウと頭足類について、ミトコンドリアCOI遺伝子と18SrDNAの塩基配列を用い、それぞれの種間の系統関係を調べた。その結果、共進化している種もみられる一方、ホストスイッチングした種もみられ、厳密な共進化はみられなかった。
著者
秋永 優子 中村 修 下村 久美子 阿曽沼 樹 キ須海 圭子
出版者
福岡教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

高齢者訪問給食サービスの献立の改善を目的とし、まず、13自治体の担当者に聞取り調査を実施した。栄養基準については、設定している自治体の場合、エネルギーのみ、さらに数種の栄養素についてなど様々で、数値を示していない自治体の場合、高齢者福祉施設の食事を利用するなど3通りがみられた。福岡県内全自治体を対象に基礎調査を実施したところ、サービス実施上のねらいとして、ほとんどが栄養バランスのとれた食事提供をあげたが、献立や実物のチェックはほぼされていなかった。そこで、献立評価方法を検討し、「栄養・食品構成」「食材・生産」「料理の味」の観点からなる、日常的に手軽に実施可能なチェックシートを提案した。
著者
古屋 秀隆
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

(1)分類 イイダコ、スナダコ、コブシメ、テナガコウイカ、メンダコから10新種のニハイチュウを記載した他、ボウズイカとミズダコのニハイチュウの再記載を行なった。(2)系統関係ギャップ結合タンパクのイネキシンによるニハイチュウの系統解析を行なった結果、以前から考えられていた扁形動物との関連性はなく、軟体動物や環形動物との関連が深いことが明らかになった。(3)共進化 ニハイチュウと頭足類について、それぞれの種間の系統関係を調べた結果、共進化している種もみられる一方で、宿主を変えた種もみられ、いわゆる共進化はみられなかった。
著者
落合 哲行
出版者
独立行政法人物質・材料研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

電子系における量子ホール系やトポロジカル絶縁体における特異な輸送特性を光の系に移植し,これまでにない光輸送特性を実現するのが本研究の目的である。そのため、磁気光学効果や電気磁気光学効果をもつ物質からなるフォトニック結晶をターゲットとし、電磁場の第一原理計算などにより、系のもつトポロジカルな構造を明らかにした。その結果、様々な特性をもった、光カイラルエッジ状態や光ヘリカルエッジ状態を理論的に実現した。また、なぜそのような結果が得られるのかを系のもつ対称性や自由度の解析と、有効ハミルトニアンを用いて明らかにした。
著者
大津 起夫 宮埜 壽夫
出版者
独立行政法人大学入試センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

心理学をはじめとする行動諸科学の研究においては,多変量統計データの統計的分析が,研究を進める上で重要であり,適用領域の拡大とともに分析対象となるデータの規模も急速に大型化してきている。本研究においては,近年進展の著しいコンピュータの並列処理機能(マルチコア化)を前提に,これまで心理統計および心理測定分野で開発されてきた統計モデル(特に,大規模な非線形の潜在変数モデル)の推定法の高速化をおこなった。また,大規模なテストデータを対象としてモデルの推定を行い,特に試験問題の潜在構造と難易度比較についての分析例をした。非線形因子分析モデルの推定においては,6コアPC上で,3倍超の高速化を実現した。
著者
時岡 晴美
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

育児支援型住宅の使い方には、緩い関係で繋がろうとする現代家族のライフスタイルと家族関係が現れており、共有空間は家族の貴重なコミュニケーション機会を保持する効果がある。近隣や地域との関係は、従来の地縁ではなく、家族をサポートする制度の利用や自発的な参加による諸活動を契機として生じている。このような21世紀型市民のライフスタイルを支援するための取り組みや制度を、複合的・多面的に整備する必要がある。
著者
宮本 紀男 平間 淳司
出版者
金沢工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

1.植物葉面で観測される対傷害防御または応答シグナルの観測系(下記)を本研究に駆使できるように構築・整備完了した。(1)葉面極微弱生物フォトン発光計数システム(2)葉面微弱クロロフィル発光計測システム(3)自発性微弱AE(超音波放出)信号計測系(4)葉面電位信号計測系統 並びに(5)2室分離型カプセル状シャッタ/遮光暗室を製作した。2.上記(1)と(2)について、フォトン発光、クロロフィル発光の葉面2次元分布(イメージング)画像構成プログラムの立ち上げ調整を完了した。これにより、同一個体の任意の葉に加えた冷熱刺激が、冷熱刺激を加えていない同一個体の別の葉に伝達している兆候をクロロフィル蛍光強度変化により検出できることを突き止めた。3.植物個体内部の対傷害防御指令に対応するmRNAの発現を検知するための遺伝子解析システムの導入と同システムの立ち上げ、調整を完了した。このシステムを用いて害虫の加害を受けた稲と受けていない稲のそれぞれのmRNAの検出手法を確立した。この手法により、加害を受けた稲と受けていない稲のそれぞれのmRNAに有意差が確認された。上記2.3の結果から、植物個体内部の情報伝達機構や情報の内容を探知できる可能性が裏付けられた。植物同士の情報交換機構についても把握できる見通しが得られた。
著者
野村 孝徳 沼田 卓久 似内 映之
出版者
和歌山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

コヒーレントディジタルホログラフィを用いた形状および反射特性の計測手法を提案した.低コヒーレントディジタルホログラム群から試料の形状および反射特性を求める手法を提案し実験的に実証した.さらに計測精度向上のため,精度低下の要因となるスペックル雑音の影響を低減する信号処理的アプローチを提案した.いずれもディジタルホログラム群から得られた再生画像群に対し信号処理を施した.局所統計量に基づく(1)局所平均法,(2)局所分散法と,光源のスペクトル分布に基づく(3)曲線近似法の3種類を提案した.(1)は他の再生画素と比較してスペックル雑音の輝度が極めて大きいまたは小さいことを利用したもの,(2)はフォーカス位置ではスペックルのコントラストが最大となることを利用したもの,(3)はある画素に着目した場合,再生画像群内でその画素の輝度の変化は光源のスペクトル分布に従うことを利用したものである.(3)に関しては光源のスペクトル分布をガウス分布とし非線形最小自乗法により曲線近似をおこなった.これらの手法を適用した結果,適用前と比較して形状計測の精度が向上した.特に(3)の手法が有効であり,適用前は30%程度あった,レーザー変位計による形状計測結果との差を数%以下にすることに成功した.ワンショット位相シフト法を実現する手法として波面分割法を2種類(検光子アレイを用いるものと位相子アレイを用いるもの)を提案した.前者は光学実験データを用いた模擬実験により,後者は偏光イメージングカメラ用いた実験的により,それぞれの有用性を示した.
著者
林 文男
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

研究材料としてカワトンボとミヤマカワトンボを用い、精子の量と質の比較を行った。2種ともに,メスの体内には,交尾嚢と受精嚢と呼ばれる2つの精子貯蔵器官を有している.一方,オスの交尾器の先端には,交尾嚢の中の精子を掻き出す器官(耳掻き状の反転部)と受精嚢の中の精子を掻き出す器官(ブラシ状の側突起)が備わっている.ミヤマカワトンボでは,交尾嚢,受精嚢ともに多くの精子が貯えられており,精子の生存率は交尾嚢,受精嚢ともに高く維持されていた.これに対し,カワトンボでは,受精嚢が著しく小さく,ここに精子を貯えているメスの割合は少なかった.また,受精嚢内に精子が貯えられている場合でも,精子の生存率は交尾嚢に貯えられている精子よりも低い傾向があった.つまり、カワトンボでは,受精嚢は精子の貯蔵器官として利用されていないと考えられた.それにもかかわらず,カワトンボのオスの交尾器には,ミヤマカワトンボと同様ブラシ状の側突起が発達していた.従来,オスの側突起は受精嚢の中の精子を掻き出すための器官としてのみ考えられてきたが,他の機能(交尾嚢内で交尾器の位置を確保したり,支持したりする機能など)を有する可能性があり,今後の検討が必要である.ミヤマカワトンボでは,交尾中および交尾直後の精子の挙動を明らかにするために,ハンドペアリング法によって交尾を行わせ,途中で交尾を中断させる実験も行った.その結果,交尾嚢内の精子については,オスによってほぼ全てが掻き出されることがわかった.しかし,受精嚢内の精子については掻き出しは不充分であった.受精嚢は左右の細長い袋からなるが,多くの場合,オスは片方の袋の精子しか掻き出せなかった.つまり,メスの生殖器のうちの受精嚢は,オスによる精子の掻き出しを防ぐ機能を有していると考えられた.
著者
渡辺 学 高田 博行
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

日独両言語における若者語および若者語研究の最新状況を文献調査や国際レベルでの情報収集を通してつねに把握しながら、とりわけ携帯メールのテクストに現れた若者語の特性と相違点を明らかにすることを試みた。具体的には、アンケート調査に基づく日独携帯メールテクストコーパスの作成と対照比較分析により、まず共通点として話し言葉の特性が書き言葉に浸透していく様子が観察された。他方、ドイツ語においては、文字(言語記号)中心のいわば「単線的コミュニケーション」につながる表現形態が目立つのに対して、関西方言の関東方言との偏差をも視野に入れて収集を進めた日本語の文例を分析した結果、顔文字・絵文字が頻繁に出現するほか、(疑似)方言語法、古語語法、幼児語法(ベビートーク)も現れることが分かった。これらの語法に限定するかぎり、日本語ではメールテクストにおいて日常語の「話し言葉性」からの意識的シフトが行われることがあり、ドイツ語ではそれがないものと暫定的に推論することができる。これらの特徴はひとり言語現象としてとらえることができるのみならず、言語行動のあり方の特性として把握可能であるばかりか、全角入力が基本となる日本の携帯メールで顔文字・絵文字が頻出するなど、メディアや(メディア)テクノロジーのあり方とも関連していること、それらの規制を受けていることも明らかとなった。メディアジャンルとしては、研究分担者が電子掲示板に注目して、その言語的特徴を調査したことが研究の裾野を広げるのに大いに役立った。さらに、資料として「日独若者語対照基礎語彙表」をまとめることができた。この語彙表は、日常語にまでおよぶ日独の若者語語彙の意味機能的な対応づけの試みであるとともに、収集した携帯メールテクストのコーパスとも合わせて今後の日独若者語対照研究の基礎資料として裨益するものと思われる。