著者
石井 正浩 木村 純人 中畑 弥生 牟田 広実 家村 素史
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

効果的治療法の開発 川崎病は、自己完結型の疾患であるため、重症度の層別化を行いそれぞれの患者に適した治療を行う必要がある。我々は256人の川崎病児を用いて重症度の層別化スコアを作成した。久留米スコア(診断病日4日以内1点、年齢6ケ月以内、血小板数30万以下、CRP8mg/dl以上1点、 AST 80IU以上2点)とし、3点以上を特異度78%鋭敏度76%で免疫グロブリン治療抵抗性を予測できる(J Pediatr 2006+)。久留米スコアにて層別化し重症の川崎病児に対しては、初期治療より免疫グロブリン単独治療と免疫グロブリン治療とステロイドパルス療法を併用した者とをランダムに振り分け治療効果の判定を行った。現在20例検討しているが、重症川崎病においては免疫グロブリン治療とステロイドパルス療法を併用した群が治療効果がよかった。病態、病因に関する研究 重症度の層別化を久留米スコアを用いて臨床的に行い、それをマイクロアレイを用いて遺伝子の解析を行った。66577個の遺伝子のうち1226個の遺伝子が久留米スコアによる重症群と軽症群で発現に差が認められた。Toll-like受容体遺伝子、サイトカイン受容体遺伝子などが、特に重症型で発現が増加していた。炎症に関連が深い遺伝子の発現が増加していることより病因に感染がかかわっていることが示唆された。免疫グロブリン治療単独では、254の遺伝子の発現が抑制され、免疫グロブリン治療とステロイドパルス療法を併用した群では5249個の遺伝子が抑制された。また、重症型で発現した遺伝子の多くは免疫グロブリン治療とステロイドパルス療法を併用治療で抑制された。結語川崎病の病因に感染がかかわっていることが遺伝子発現の研究より示唆された。重症型においては免疫グロブリン治療とステロイドパルス療法を併用療法は効果的であった。
著者
林 みどり
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

当該研究は、非ヨーロッパ世界にあってヨーロッパ移民によって大衆社会が構成されたラプラタ世界を対象に、早熟なモダニズムが出現しつつあった20世紀前半の社会文化現象を、「文化の翻訳」と「トランスカルチュレーション」の現象としてとらえなおし、そのメカニズムの基礎になる言説を明らかにすることを目的とした。世紀初頭のラプラタの都市空間では、移民大衆が土着主義的なものを模倣しつつ、従来とは異なる異種混淆の文化的表現を創りあげたり、新たな文化的領野が大衆的な読書空間をつうじて拓かれていくなど、19世紀型のものとはまったく異なる文化的表現を生みだそうとする、一種の文化的エントロピーとでもいうべきものが高まりつつあった。本論では、そうした文化的なダイナミズムの領域にあって進行していたプロセスを、トランスカルチュレーションの過程としてとらえなおし、そこにどのような文化的な<翻訳>のモメントが関わっているのかを、主に教養層の側からの変化への抵抗と反発の言説分析を中心に探り出すことを主眼においている。本論第I部では、異種混淆の文化的表現が創りあげられるに至る過程で生じた文化的抗争の諸相、とりわけ同時代にディシプリンとして成立しつつあった自然科学や人文科学の成立プロセスが、トランスカルチュレーションが生じつつあった社会状況とどのように関連していたかという点に重点をおきつつ、思想史的な観点から析出した。本論第II部では、第I部で扱ったような人文学上のパラダイム転換に、19世紀末から20世紀初めにかけての出版状況が深く関わっている点に注目。具体的にどのような出版文化状況が展開されていたか、そのいわば歴史的なトルソーを、書誌年鑑や大衆娯楽雑誌の分析を通じて彫塑した。今後は、同様の大衆娯楽雑誌の分析を他の雑誌についても行い、また文字メディアだけではなく映画その他の新たに出現しつつあったメディア分析にまで拡げていくことが課題となってくるだろう。
著者
五井 孝憲 山口 明夫
出版者
福井医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

TGF-βスーパーファミリーは細胞増殖、分化、細胞内輸送に関わる重要な細胞内シグナル伝達分子群と考えられている。そのなかの1つ、Smad分子はTGFレセプターからシグナルを受け、活性化された後、核内に移行して直接転写調節を司っている。近年この制御機構の破綻が様々な組織における腫瘍発生に関与することが注目されている。本研究ではTGF-βスーパーファミリー因子群の細胞伝達分子であるDPC4とMADR2遺伝子について、遺伝子異常および蛋白量の変化を大腸癌において検索し、発癌、浸潤および転移との関係を検討した。遺伝子異常についてRT-PCR,SSCPおよびDNA sequencingにて検討したところ、大腸癌29例中6例(20.7%)にDPC4遺伝子変異(5例point mutation,1例frame shift)が認められ、MADR2遺伝子では3例(10.3%)に遺伝子変異(point mutation)が確認された。さらに両遺伝子が位置する染色体18q21のLOH検索をMicrosatellite法にておこなったところDPC4遺伝子異常の認められた症例はすべてLOHが確認された。(informative症例)つぎにDPC4蛋白質に対するモノクローナル抗体を作成し、切除手術を施行した大腸癌64症例から原発巣および正常組織の蛋白を抽出し、Western blot法にてDPC4蛋白質の発現量を検討したところ、大腸癌組織におけるDPC4蛋白の発現量は、大腸正常粘膜と比較して有意に減少していることが認められた。DPC4蛋白量比(癌組織DPC4蛋白量/正常粘膜DPC4蛋白量)と臨床病理学的所見との検討では、肝転移陽性症例のDPC4蛋白量比は肝転移陰性症例の蛋白量比と比較して有意に減少していることが認められた。またDPC4遺伝子変異/欠損とDPC4蛋白発現量比の検討では遺伝子異常の認められた症例においてDPC4蛋白発現量比の減少は高度であった。以上よりTGF-β-DPC4シグナル経路は大腸癌の発生、転移などをはじめ、シグナル伝達解明に重要なpathwayであることが認められた。
著者
山岸 雅子
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究は、石川県に立地する戸建住宅、集合住宅の居住性及び地域性と住居観との関連性を探ることを目的とし、金沢市市街地立地の民間分譲集合住宅(以下『金沢』と表記)、金沢市郊外の計画的戸建住宅地(『松任』)、能登地方中都市既成市街地の戸建住宅(『羽咋』)の居住者を対象に調査を実施し、その結果を分析した。以下本研究で得られた特徴的な結果を示す。(1)平面構成…『金沢』は和室1室、洋室2室の3LDK、『松任』は洋室3〜4室と和室1室の4〜5LDKが典型的である。『羽咋』は洋室1〜2室で残りが全て和室とDKのタイプが多いが、住宅面積はばらつきがある。(2)住まい方…団らん、食事、夫婦・子どもの就寝、接客の部屋の取り方は、『金沢』『松任』『羽咋』それぞれの立地条件、平面構成、住宅形態により異なる傾向がみられる。『羽咋』はどの行為においても和室の使用が圧倒的に多いが、子供寝室に関しては洋室の割合も和室と同程度あり、子供室の洋室化は顕著であるといえる。(3)居住性評価…『金沢』は住宅各部の狭さが最大の問題点である。『松任』は住宅に関しては収納スペース不足程度であるが、交通の便の悪さや生活・文化施設の不足が大きな不満点である。『羽咋』は収納スペース不足と台所の不満が挙げられ、全体として生活上、自然環境上満足が得られているものの、多様な社会断層の居住者が混在しているためか、近所づきあいに不満が多い。(4)住居観…従来自宅内で行われていた冠婚葬祭は、『羽咋』の方が『松任』より自宅で行いたいとする世帯の割合が高いが、今後葬式や結婚披露宴は減少していくであろう。高齢期の住み方は『松任』は近居を理想とする世帯が『羽咋』より多いが、現実には完全同居か別居の割合が理想より高くなると感じている。
著者
南澤 汎美 渡辺 みどり
出版者
山梨医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究は新設の看護学科が将来付属病院を中心としてどのような看護を開発してゆく必要があるかについて考える資料にするために、当該病院を利用している入院患者の実態を知るとともに看護婦の独自な機能役割の一つとして将来とも重要な終末期の看護について大学病院という従来、先端医療を掲げてきた場所で殆ど重点が置かれて来なかった領域を実際にこれに携わってきた看護婦の意見を通じて考察することである。今年度はこの後半の目的のために、当該病院に3年以上勤務している看護婦を対象としてアンケート調査を行った。質問紙の内容構成は看護婦個人の臨床経験歴および終末期看護についての関心度、実際に自分が経験したターミナルケアの中で評価できると考える看護事例の内容とその理由、もしあれば逆に評価できない事例の内容とその理由を記述する、そして現実にターミナルケアを行う上で当院で困難があると考える問題は何か、それらを総合して大学の付属病院で終末期看護を進めることが望ましいと考えるか否かについて意見を求めた。約100名の看護婦から回答が得られた。半数以上の看護婦が5年以上当該病院での経験者であった。43名の看護婦が良い看護ができたと評価できる事例を記述しており、34名が良くなかったという事例を記述していた。回答した大部分の看護婦は終末期看護については積極的に取り組みたいとしているが、最終的に当該病院もその一つである大学付属病院で終末期看護を行うことについては意見があい半ばした。この理由を明らかにするために調査の記述についての分析をもう一歩深めることが必要と考えている。
著者
吉田 英人 寺澤 敏夫 中村 卓司 吉川 一朗 宮本 英明 臼居 隆志 矢口 徳之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、送信点と異なる場所に多数の受信点を配置し(多地点観測法)、流星が流れたときその飛跡に沿って生じるプラズマで反射した電波(流星エコーと呼ぶ)を、複数の地点で受信して、その到達時間差と送信点-反射点-受信点の距離を同時に測定することにより、精密な流星飛跡を求める観測装置を開発した。この教材は携帯性に優れ、流星の諸パラメータを求めることができ、超高層大気と極微小天体の関係を身近に感じることができる実習教材である。
著者
斉藤 和義 河野 公俊 田中 良哉
出版者
産業医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

膠原病の組織リモデリングにおける上皮間葉および血管内皮間葉転換の病態形成への関与を検討した。膠原病リウマチ性疾患の組織においては、線維化・血管リモデリングの進行を認めている部位にはmyofibroblastの増生が認められ、これらのmyofibroblastおよび血管内皮細胞上にはWnt10Aが強く発現しており、組織における線維化病態に関与している可能性が示唆された。また、腎間質由来線維芽細胞へのWnt10A強制発現は、ファイブロネクチン産生を増強し、腎障害に関与することが示唆された。以上から、Wnt10Aを介する間葉転換の制御が膠原病における組織リモデリングの治療標的となることが示唆された。
著者
星野 卓二 高橋 英樹 池田 博 勝山 輝夫
出版者
岡山理科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

カヤツリグサ科スゲ属植物213種の核および葉緑体遺伝子を解析し、現在広く採用されている形態に基づく分類体系と比較した。日本から韓国および中国東北部に分布するタガネソウ節が祖先型であり、属または亜属に分類できることが明らかになった。スゲ属植物の染色体は、異数的に染色体数が増加する方向に進化したことが明らかになった。また、節の分類が分子系統から強く支持されたものと、分類体系を見直す必要がある節が明らかになり、新しい分類体系が提案された。
著者
井上 芳保
出版者
札幌学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

新自由主義的な経済政策の下で健康不安意識が煽られており、過剰な医療行為が多々発生していることが確認された。日本では医師をはじめとする医療の専門家集団の中からこの構造を批判する声はなかなか出てこない。というのは専門家集団自体が一つのムラ社会となっているからである。この構造を変えていかねばならない。不要な検査、薬の出し過ぎなどを吟味し、批判できるよう、普通の市民の医療に関するリテラシーを高める必要がある。
著者
亀田 貴雄 川村 彰 高橋 修平 本山 秀明 古川 晶雄
出版者
北見工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

南極氷床の沿岸域から内陸 1000kmに位置するドームふじ基地までの雪面の起伏状況を雪上車および橇に搭載した3次元加速度計を用いて定量化し,その分布の特徴を明らかにした。ドームふじ基地では雪尺を用いた積雪堆積量観測を継続し, 2008年以,年間積雪堆積量は 1995~2006年と比べると変動が大きくなったことを見いだした。また, 2003年 11月 14日未明にドームふじ基地で起こった皆既日食中の気象観測データの解析を進め,急変する日射量の変動による気温と雪温の変化の状況を明らかにした。
著者
橋本 創一 伊藤 良子 菅野 敦 大伴 潔 林 安紀子 池田 一成
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

発達障害児の就学を支援するためのシステム化されたプログラムはまだ少ない。この研究では、発達障害児の就学における支援ニーズを明らかにするために、発達障害児の親と発達障害児への支援の専門家たちに対して調査をおこなった.さらに、調査によって得られた知見と文献研究から発達障害児の就学のための支援プログラムを作成した。そして、子どもたちに対してそのプログラムを実施し、効果を調べた。その結果、コミュニケーション支援を中心としたグループ指導の必要性が示唆された。一方で、一人一人のニーズに応じた個別支援の必要性が明らかになった。加えて、発達障害児の個別の支援ニーズを評価するための支援ツールを活用する必要がある。それにより、個別の発達段階や特性に応じた就学支援が可能になると考えられる。
著者
岩田 茂樹 武永 康彦 笠井 琢美 伊藤 大雄
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、ゲーム情報学全般にわたる研究のうち、(1) And-Or 木のコンピュータによる探索、と (2) ゲームやパズルの複雑さに関する研究を行う、ことを目的とする。And-Or 木(ゲーム木)のコンピュータによる探索では通常、評価関数が用いられる。ゲーム木の自然なモデルを定め、ゲーム木のある深さにおいて深さ優先探索により探索する局面数を考える。完全な評価関数に確率 p(0<p<1) で近い評価関数を用いたときは、完全な評価関数と比べて、ゲーム木の深さの多項式倍の数の局面数を探索することを示した。ゲームやパズルの複雑さの研究では、いくつかのゲーム・パズルの計算複雑さを明らかにした。
著者
川嶋 かほる
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

さまざまな調理済み食品、半調理済み食品が、外食や中食などのかたちで日常食の一端として広く使われるようになっている。これらの家庭外で調理された食品については、栄養バランスの悪さや添加物の多使用とともに、呈味の画一化と濃厚化が問題点として指摘されている。本研究は、家庭外で調理された食品の呈味の実態を化学分析を通して明らかにする一方、これら食品の利用の実態と意識を調査紙調査により、また嗜好・味覚を官能検査によって調査し、これらの実態を把握するとともに、食生活のありかたと味覚・嗜好の現状の関連をみることを目的とするものである。1:調理ずみ食品の呈味市販調理ずみ食品のうち、主食類、主菜、副菜、汁ものについて、手作り品と対比しながら、その呈味の特徴をみるために、塩分、糖、グルタミン酸、有機酸の分析を行なった。一般に市販の調理済み食品および半調理済み食品では、手つくり品に比べてはるかに高い塩分含量を示し、グルタミン酸含量も高かった。糖は、含量の変動が大きかったが、市販品で高い傾向を示した。2:利用意識市販調理ずみ食品は、その利便性で多く利用されていた。味に対しては濃いと考える人が多く、手作りのもののほうを好むとする回答が多かった。3:人々の嗜好一般にうす味より濃い味を嗜好する者が多かった。手つくり品との対比の官能検査では、調理ずみ食品より手つくり品の塩分を高く感じる者が多かった。意識調査の結果とはことなり、圧倒的に調理ずみ食品が好まれた。
著者
今井 悦子
出版者
聖徳大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

嚥下補助食品は、高齢者施設では介護職員等が経験と勘によって使用していた。嚥下補助食品を添加した食べ物の嚥下しやすさを客観的に評価するために、嚥下過程を測定することのできる生体計測法(嚥下筋の表面筋電図、咽頭部の超音波エコー)を用いて検討したところ、食べ物の嚥下しやすさを評価するのは難しいことが示唆された。嚥下補助食品の利便性を高めるために、食べ物の嚥下しやすさを客観的に評価することのできる測定法のさらなる検討が必要と考える。
著者
後藤 和彦
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、19世紀中葉における後発近代化を共有するアメリカ南部と近代日本において、「敗北の文化」に惹起され産出された公的文化言説、「ナショナル・ナラティヴ」が、その後に出現してきた私的言説としての文学にとってどのような意義をもったか、さまざまな文化テクストの実証的な分析によって歴史的に跡づけ、今後の両文学の本格的比較研究への新しい視座を切り開いた。
著者
深尾 昌一郎 橋口 浩之
出版者
福井工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

熱や物質の鉛直輸送に重要な寄与をするとされる大気乱流とその主要因であるケルビン・ヘルムホルツ(KH)不安定はそのスケールが小さいことから直接観測はこれまで困難であった。これをMUレーダーのイメージングモードによる超高分解能観測に加えて、多周波数帯レーダーとライダー観測を援用して、総合的に解析した。自由大気中におけるKH不安定の構造をかつてない高分解能映像観測で解析し、KHIと風速シアとの関係が明らかとなった。
著者
長瀬 美子 小谷 卓也 田中 伸
出版者
大阪大谷大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

「心情」「意欲」「態度」にかかわるわが国の幼稚園教育の目標は、その総合性のため、明確な到達目標が描きにくく、幼児教育・保育に携わる者の共通認識になりにくいという課題がある。本研究では、乳幼児期に、あそびを通して形成した力を、小学校以降の学校教育での科学教育につなぐためには、形成すべき力を明確にし、それを体系化することが必要であると考え、現在の幼児教育の基本である5領域について、「観察」「コミュニケーション」能力が年齢にそってどのように発達するかを体系化した。このことで、発達の筋道が明確になり、保幼小連携型カリキュラムを作成するためのモデルが提供できた。
著者
佐々木 寛 藤井 聡
出版者
玉川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究課題は、睡眠中の記憶の固定および消去を司る神経基盤の解明を目的とする。研究に用いた記憶課題は漢字二文字からなる単語の記銘課題と再認課題からなり、再認課題は記銘課題直後と24時間後に実施した。被験者は記銘課題と24時間後再認課題の間に7時間の睡眠をとった。記銘課題では、100個の単語を被験者は記憶した。再認課題では、記銘課題中に提示された単語のほかに新たな単語50個が提示され、被験者は単語が記銘課題中に提示されたものかどうかをボタンで回答した。記銘課題および再認課題時の脳活動を機能的MRIにより計測した。記銘課題遂行中の脳活動について、再認できた単語の記銘に関わる脳活動を、直後再認によるものと24時間後再認によるものとで解析し比較した。その結果、直後再認でも24時間後再認でも再認できた単語に有意な活動が認められた領域として、右海馬、背側の下前頭回が同定された。また、直後再認で再認できた単語に有意な活動が認められず、24時間後再認で再認できた単語に有意な活動が認められた領域として左上前頭回、左中前頭回、腹側の下前頭回、左中側頭回、左右中後頭回、左舌上回、右海馬傍回が同定された。これらの結果から、「弱い記憶」の記銘には海馬および背側の下前頭回を含む領域の活動が本質的であるのに対し、それを「強い記憶」として固定するためには、それらの領域ほかに左上前頭回、左中前頭回、腹側下前頭回ほかの領域の活動が重要であると考えられた。24時間後再認時に正しく再認できたときの脳活動部位として両側海馬が同定された。この領域の活動の強さの解析から、活動の強さと睡眠の構造とに関係があることが示唆された。この結果から、睡眠により記憶の固定が起こり、その状態を再認時の脳活動として検出できることを示唆すると共に、Squireによる記憶の固定に関わる海馬-皮質系記憶システムの説を支持するものと考えられた。
著者
高阪 一治
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究は原田直次郎と青木繁という明治期を代表する洋画家の絵画作品を取り上げ,当時のドイツ絵画,すなわち19世紀末のベックリーンやライブル,ハンス・フォン・マレー(マレースとも表記)との関連を指摘して,原田や青木の絵画の特質の解明のみならず,これを通じて,わが国の近代美術の特質解明に資するものである。原田については,これまでも彼の《騎龍観音》においてベックリーンとの関連が指摘され,また滞欧作《靴屋の阿爺》においてライブルとの関連が語られてきたが,《靴屋の阿爺》研究ではいまだ具体性に欠けるきらいがあった。他方,青木の《海の幸》研究では,研究者の一部にマレー(ス)の名を挙げる者がいたが,これまた具体性に欠ける指摘であった。本研究で得られた知見としては,次の点が挙げられる。1.原田直次郎について。《靴屋の阿爺》の研究において,ドイツ19世紀末絵画との関連を掘り下げ,具体的に比較作品を挙げてライブル,メンツェル等との比較を試み,その上で,《靴屋の阿爺》の独自の特質を明らかにしたこと。またこれに関連して,原田の師であるG・マックスについても,その理解を進めたこと。2.青木繁について。《海の幸》とマレーの《ナポリのフレスコ画》(1873)との比較検討を通して,モティーフと画面構成での両者の類似点を確認するとともに,当時のマレーの評価の高まりを指摘して,青木繁がマレーを見た可能性に関する傍証を強化したこと。また,《海の幸》の他にも,マレーとのつながりが認められる可能性について,作品名を挙げて言及したこと。今後の課題は,青木繁がマレー作品(おそらくは図版)を見た可能性を検討するにあたって必要な調査,例えば,当時,ドイツ19世紀末絵画の情報がどの程度わが国にもたらされていたか,そして,青木の周辺にはどのようなものがあった可能性があるか,に関する調査を続行することである。
著者
龍田 真 照井 一成
出版者
国立情報学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究の目的は、構成的集合と余帰納的定義をもつ構成的論理を構築し、この論理体系を用いて、余帰納型を用いたプログラムの性質を明らかにし、また、構成的集合と余帰納的定義を用いたプログラム合成システムを試作することであった。次のような3つの研究成果を得た。(1)論理式Aが長D-正規証明をもつならば、Aの長正規証明が唯一であることを証明した。(2)古典二階自然演繹の強正規化可能性の証明に関して、CPS変換を用いた従来の証明が本質的誤っていることを主補題に対する反例をあげて示し、この原因が継続消滅の現象によることを指摘し、オグメンテーションの概念を用いてこの証明を完成させた。例外処理ラムダ計算や値呼びラムダミュー計算など他の類似の体系のCPS変換を用いた強正規化可能性の従来の証明が、継続証明により同様にして本質的に誤っていることを指摘した。(3)構成的二階自然演繹に置換簡約を追加した論理体系の強正規化可能性の簡明な証明を与えた。従来知られている証明は、Prawitzによる証明だけであり、これは記述が不完全であり、また複雑な帰納法を必要とした。原子選言論理のアイデアを用い、構成的二階自然演繹に置換簡約を追加した論理体系が原子選言論理に簡約を保存して翻訳できること、原子選言論理は飽和集合が定義でき飽和集合を用いた強正規化可能性の証明方法が使えることの2つから、新しい簡明な証明を得た。