- 著者
-
高阪 一治
- 出版者
- 鳥取大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1997
本研究は原田直次郎と青木繁という明治期を代表する洋画家の絵画作品を取り上げ,当時のドイツ絵画,すなわち19世紀末のベックリーンやライブル,ハンス・フォン・マレー(マレースとも表記)との関連を指摘して,原田や青木の絵画の特質の解明のみならず,これを通じて,わが国の近代美術の特質解明に資するものである。原田については,これまでも彼の《騎龍観音》においてベックリーンとの関連が指摘され,また滞欧作《靴屋の阿爺》においてライブルとの関連が語られてきたが,《靴屋の阿爺》研究ではいまだ具体性に欠けるきらいがあった。他方,青木の《海の幸》研究では,研究者の一部にマレー(ス)の名を挙げる者がいたが,これまた具体性に欠ける指摘であった。本研究で得られた知見としては,次の点が挙げられる。1.原田直次郎について。《靴屋の阿爺》の研究において,ドイツ19世紀末絵画との関連を掘り下げ,具体的に比較作品を挙げてライブル,メンツェル等との比較を試み,その上で,《靴屋の阿爺》の独自の特質を明らかにしたこと。またこれに関連して,原田の師であるG・マックスについても,その理解を進めたこと。2.青木繁について。《海の幸》とマレーの《ナポリのフレスコ画》(1873)との比較検討を通して,モティーフと画面構成での両者の類似点を確認するとともに,当時のマレーの評価の高まりを指摘して,青木繁がマレーを見た可能性に関する傍証を強化したこと。また,《海の幸》の他にも,マレーとのつながりが認められる可能性について,作品名を挙げて言及したこと。今後の課題は,青木繁がマレー作品(おそらくは図版)を見た可能性を検討するにあたって必要な調査,例えば,当時,ドイツ19世紀末絵画の情報がどの程度わが国にもたらされていたか,そして,青木の周辺にはどのようなものがあった可能性があるか,に関する調査を続行することである。