著者
田中 嘉雄 上野 正樹 濱本 有祐 木暮 鉄邦
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

Tissue engineering chamber(以下、TEC)を再生の場として、動脈血管束,人工真皮, FGF-2、多血小板血漿(PRP)を併用して、独自の栄養血管を有した軟組織を再生する方法を検討した。実験群は、コントロール群、非活性化PRP群、活性化PRP群、活性化PRP群+ FGF-2群、非活性化PRP+ FGF-2群の6群(n=5)に分け、再生組織の量、器質化の成熟度、血管新生について検討した。結果:血管付軟組織の再生組織量はcontrol群1. 13±0. 33cm^3、非活性化PRP群1. 79±0. 35cm^3、活性化PRP群1. 48±0. 22cm^3で、非活性化PRP群がcontrol群に比し有意差を認めた(p<0. 05)。人工真皮の器質化も非活性化PRP群で進んでいた。TECを用いた血管柄付き軟組織再生において、活性化PRPよりも非活性化PRPが有用であることが判明した。
著者
岩淵 邦芳 福徳 雅章
出版者
金沢医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

p53は発癌の抑制に関与する転写因子であり、p53の遺伝子の異常が各種のヒト癌の発症に関係することが明らかになってきている。我々はyeast two hybrid systemを用いて、p53のDNA結合ドメインを介して野性型p53とのみ結合する2種の細胞性蛋白質53BP1,53BP2を見い出し報告してきた。本研究機間に53BP1,53BP2の機能に関して以下のような結果を得た。1.1972残基から成る53BP1の全アミノ酸配列を明らかにした。p53との結合領域であるC末270残基は、酵母蛋白質RAD9および乳癌抑制遺伝子産物BRCA1のC末に見られるBRCTdomainと呼ばれるモチーフと相同性を示した。2.53BP1、53BP2のゲノム遺伝子はそれぞれ染色体上の15q15-21、1q41-42に位置した。3.動物細胞内で53BP1、53BP2の^cDNAからそれぞれ22kD以上、150kDの大きさの蛋白質が産生された。抗53BP1抗血清によるウェスタンブロッテイング法で、肺癌細胞株H358細胞に^cDNAからのものと同じサイズの内因性53BP1を検出した。4.53BP1は1)細胞質と核内 2)核内に均一 3)核内にドット状と3つの局在パターンを示したが、53BP2は常に細胞質に局在した。5.53BP1、53BP2はp53の転写活性化因子としての機能を増強させた。BRCTdomainは細胞周期のチェックポイントに関与する蛋白質に広く見い出されており、又、両蛋白がp53による転写を活性化する事から、両蛋白はp53のシグナル伝達経路のなかでp53の上流に位置する可能性がある。今後、両蛋白によるp53活性化の機序を検討する予定である。
著者
長谷 隆
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

歩行者や避難者の大規模集団である群集の巨視的挙動を予測する微視的モデルの構築とシミュレーションプログラムの開発を目的としていた。群集集団の微視的モデル構築の基礎となる実験を行い、その実験結果に基づいてモデリングを行った。そのモデルの計算機シミュレーションプログラムを構築し、実際の群集集団の挙動を予測した。以下の四つの場合の群集挙動を明らかにした。(1)教室からの脱出緊急時における教室からの脱出実験に基づいたモデリングによって避難学生の避難時間、避難軌跡、避難時間の位置依存性を計算し、実験結果を再現することを示した。(2)歩道橋や地下道で発生する群集移動停滞現象通勤ラッシュやイベントでの混雑回避を目的として、単純化したチャンネル対向流の実験観察を行い、その実験結果をもとにモデリングを行い、実験結果をシミュレートする計算機プログラムを開発した。(3)火災・地震等による停電時における暗闇での避難群集挙動上記の状況をモデリングするために、アイマスクを着用した避難群集の実験観察を行い、その結果に基づいて暗闇下での避難過程のシミュレーションを行った。(4)立って歩けない状況下での四つん這い移動避難群集挙動狭い空間や地震等で立って歩けない状況下での避難群集の実験観察を行い、その実験結果に基づいたモデルを構築し、計算機シミュレーションを行った。これら四つの典型的な避難群集挙動を微視的モデルでシミュレーションできることを明らかにし、開発した計算プログラムが有効であることを示した。
著者
近藤 勝直
出版者
流通科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究は、道路審議会(旧)の答申をふまえ,高度情報化時代に対応した都市高速道路における料金体系の再構築をめざして研究したものである。利用者の負担の公平に配慮しつつ、利用者の便をはかり、かつ料金収入の確保のため、料金体系の弾力的運用方法について提案する。現行の料金体系は2車種・均一料金制(入路前払い)であり、これは、料金ブースでの料金収受時間の短縮と出路ブース建設費の節約がその背景にある。しかし、実行段階に入ったETCを前提とすると、車種判別の自動化はもちろん、入口出口はノンストップであり、料金収受の必要はなく、後納方式なり前納方式なりで、走行距離、利用区間、時間帯、交通量(需要)などに応じた課金が可能となる。今回検討したのは、とくに対距離料金制の導入であり、短距離では現行より値下げし、長距離では値上げとなる。この新しい料金体系が交通量におよぼす効果をシミュレートし、渋滞や環境、そして料金収入などに与える影響を評価した。考え方としては、新制度で料金収入が増加することは利用者の理解を得にくいので、料金収入一定の条件下でのありうべき料金水準について検討することがねらいとなった。現在までの試算では、短距離の値下げは短距離トリップを増加させる。これによって、容量的に問題となる路線・区間ができる。一方、長距離の値上げによっては広域的な高速道路を必要とするトリップ(とくに物流トラック)に影響し、これが一般道路に転換するようだと環境上は好ましくない。かように、現行制度を改変すると、課金の合理性は確保できるが、一方で各種の新しい問題も発生する。また、現在試行されている「環境ロードプライシング」についても検討を加えた。これも、なかなか悩ましい問題であり、具体的には、阪神高速道路神戸線(環境問題あり)と同湾岸線(環境問題なし)の2路線間で料金格差によって、問題の神戸線から湾岸線に交通量を誘導しようとするものである。これも計算上も実績上も神戸線の料金弾性値が低く、したがって期待通りの転換がすすまない。神戸線の利用者が値上げについて来る。かえって増収にもなってしまうのである。この原因は上記2路線が真に代替ルートを形成していないことと、環境問題地域前後での車両の入退出が多く、トリップのODを再度精査する必要がある。これらを明らかにした上で、実行のある環境政策としての料金政策による交通誘導をはかる必要があるとの結論を得た。(詳細は印刷した報告書を参照のこと)今後は、さらに車種区分についても考察を加えたい。これは車種ごとに行動パターンやルート選択行動が異なるためである。環境問題が大型車のPM排出にあるとするならば、これに限定した施策が展開されなければならない。そのためには車種ごとの検討が必要である。
著者
豊原 憲子 山本 聡 長谷 範子 土居 悟 岡田 正幸
出版者
大阪府環境農林水産総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

難治性小児気管支喘息による入院児童に対し、種まき-栽培-収穫-摂食の行程を中心とした園芸プログラムを実施した結果、活動による呼吸機能の低下は認められず、栽培体験と児童個人への管理責任の設定と栽培した植物を自宅家族に持ち帰ることが植物へのこだわりを高めて自主的行動を誘導した。このプログラムにより一症例で顕著なストレス軽減が認められ、病棟内での行動の改善と退院につながるなど、プログラムによる精神的安定と退院の時期に関連性があった。プログラムを提供する庭園内での児童の行動解析から、下草が繁茂して見通しの悪い植生が行動の制限要因となった。
著者
K・H Feuerherd 中野 加都子
出版者
神戸山手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

人間が何を重視するか、何を好むかといった問題は、それぞれの国の文化や自然的な条件、歴史によるものである。日独のライフスタイルを比較した結果、日本では便利さを追いかけることが目立つ。例えば、日本にある自動販売機の総数は世界一であり、自動販売機による消費電力は、出力110万キロワットの原発1基の年間発電量の8割に相当する。日独が比較される場合に必ず引き合いに出される例が容器包装ごみの問題である。ドイツでは、デュアルシステムという民間が主体となって行う容器包装ゴミのリサイクルシステムを整備したため、ゴミ問題は解決できたということが非難されている。しかし、日本では、家庭の主婦は夕食のために毎日のように買い物に行き、主食以外に何種類もの料理を準備する。内容も和食、洋食、中華など様々なものが取り入れられる。食材の調達方法も街の市場、スーパーマーケット、24時間営業のコンビニエンスストアから通信販売まで多様である。おまけに翌日配達の宅配便の普及や冷凍技術、真空包装の急速な進展のおかげで、日本のすみずみから産地直送の食材を手に入れることもできる。したがって、日々の消耗品に関わるごみが多く排出され、そのことが日本の環境問題を特徴づけている。ドイツでは消耗品が大量に排出されるようなライフスタイルを受け入れておらず、そのことがドイツの環境との接し方を特徴づけている。故に、日本とドイツとの決定的な違いは「出口」ではなく、「入口」である。しかし、一度獲得した便利さを失った時の不自由さは耐えがたい。ドイツから学ぶことは、「出口」対策としてのリサイクル方法や法律より、「入口」で一人一人が自分にとって必要かどうかを冷静に判断し、不必要なことを拒否できる主体性である。これは、日本での循環型社会形成推進基本法で明確にされたリデュースを最も優先する基本的考え方と非常にマッチすることが、この研究で明らかになった。
著者
福間 眞澄
出版者
松江工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

パルス静電応力(PEA:Pulsed Electro-Acoustic)法は,誘電体中の電荷分布を測定する技術であり絶縁材料の信頼性評価等に広く利用されている。高分子絶縁材料中の空間電荷は三次元に分布し,かつ過渡的に変化するため多次元かつ短時間間隔で測定可能な測定装置の開発も望まれている。これまで複数の圧電素子(センサ)を用いた短時間間隔で測定可能な2次元空間電荷分布装置が開発されている。しかしながら,従来の装置は複数のセンサ信号を同時に測定記録するためにセンサ数のA/D変換器(ADC)が必要で装置コストが掛るなどの問題があった。本研究ではこの問題点を改善するために短時間で複数のセンサ信号を切替え平均化し記録する空間電荷分布測定装置を試作した。
著者
桑原 規子
出版者
聖徳大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、昭和初期から占領期にかけて行われた日本近代版画の海外紹介の実態を把握するとともに、日本の近代版画が国際的にどのような評価を得たのかを明らかにするという目的のもと、次の二つのテーマに沿って調査研究を行った。以下、得られた成果についてテーマ別に記述する。1.「昭和戦前期の海外日本版画展覧会に関する研究」については、1934年から1937年にかけて欧米各地で開催された日本現代版画農覧会について調査し、出品目録-覧を作成するとともに、展覧会の詳細な内容とその反響についで研究した。その結果、展覧会の全体像が明らかになると同時に、海外へと進出する際に日本の創作版画が、浮世絵版画との歴史的連続性を打ち出すことによって国際的評価を獲得しようとしたことが判明した。実際、1934年のパリ展では大きな注目を集めた。とはいえ、国内的には創作版画がマイナー・アートと見なされていたことに変わりはなく、依然として高い評価を得ることはできなかった。2,「占領期におけるアメリカ人コレクターの研究」については、占領期日本に駐留したアメリカ人コレクターと創作版画家との交流を考察することにより、終戦後、日本の創作版画が急激に国際的評価を得ていった背景に、アメリカ人コレクター(ハートネットやスタットラーなど)の果たした役割が大きいことを明らかにした。彼らが出版や展覧会を通して行った海外における啓蒙普及活動が、日本近代版画の国際的評価向上に寄与すると同時に、国内的評価をも押し上げたと結論付けられる。本研究で得たこれらの成果は今後、日本近代版画史を構築する上で重要な視点となると同時に、日本版画が国際社会の中で果たした文化的役割、日本版画が内包する芸術的、文化的特質を再考する上で稗益するものと考える。
著者
三井 和男
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

種々の形態創生の問題を数学的に整理し,セルオートマトンをこれらの問題に対する最適化の数理モデルとして提案することができた。その結果として非線型最適化問題の解析法としてのセルオートマトンの近傍則の開発と幾つかの問題への応用を行うことができた。さらにここで開発された「ニューロンモデル」と呼ぶ近傍則を拡張し,周期外力のような時間的に変動する外力下の形状決定問題に有効性も明らかとなった。また,固有振動数あるいは固有振動モードを制御する問題の形状決定問題,さらには特別な機能を有する構造形態の設計問題等さまざまな問題への可能性を検討できた。以上を箇条書きにまとめると以下に示すとおりである。1)形態創生問題の数理モデル発見的手法によって解析することを前提として最小重量問題,最大剛性問題,固有振動数制御問題などを整理し,数理モデルを確立した。2)形態創生問題のセルオートマトンセルオートマトンの持つ自己組織化の性質を用いて,効率的に解析する手法を開発した。3)動的外力下の形態創生問題への適用ニューロンモデルによる近傍即を用いて動的外力下の形態創生問題を解析し,その適用性と有効性を示すことができた。4)動的境界条件下の形態創生問題への適用ニューロンモデルによる近傍即を用いて動的境界条件下の形態創生問題を解析し,その適用性と有効性を示すことができた。5)慣性を考慮する形態創生問題への適用加速度運動を伴う構造物の最適形状を求める問題への適用が可能であるあることがわかった。6)振動問題への応用固有振動数制御問題への近傍側の拡張を検討し,これらの問題へ適用可能性を検討した。
著者
大堀 淳
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

直観主義的論理学の自然演繹証明システムとラムダ計算との同型関係を拡張・一般化し, 機械語コードの証明論を完成し, コードの最適化やコードの検証をより体系的に行う基礎を構築した。この証明論では, 機械語コードは, 左規則のみからなるある種のシーケント計算として表現され, その操作的意味, すなわち, コードを実行する機械の状態遷移規則は, シーケント計算のカット除去定理の証明から系統的に抽出することができる。さらに, この証明システムは, 低レベルコードのアクセス権限の検証や制御フロー遷移の最適化などの基礎となることが示された。
著者
鈴木 一郎
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

ヒドラジン、ヒドラジド型不斉有機触媒を用いた不斉Biginelli反応に関して検討を行った。ピラゾリジン塩酸塩が高活性を示したことから、これを元にアザプロリン型不斉触媒を合成し、Biginelli反応に応用した。しかしながら、ピラゾリジンに比べ、触媒活性が大きく低下したほか、不斉収率は低いことが解った。このほかにジアミイミダゾリジノン、アミノオキサゾリジノン型触媒を検討した。これらの触媒はDiels-Alder反応においては高活性を示し、不斉収率も極めて高かった。
著者
田中 克史 米竹 孝一郎 木村 浩
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.(1)球状のシリカ粒子、板状のベントナイト粒子/水系コロイド分散系に関して、レオロジー挙動を検討した。板状粒子系の場合、塩添加にともなって粘度が減少し、さらに高塩濃度では増加する結果が得られ、球状粒子系との相異が認められた。(2)徹底的な脱塩・脱水処理を施した板状のベントナイト、ヘクトライト/有機溶媒コロイド分散系では、粒子分散は分散媒の誘電率増大によって安定化する傾向が得られ、電気二重層が水系と比較して極めて薄いことが考察された。2.(1)フラーレン混合物/ポリスチレンプレス複合膜では、極めて良好な粒子分散、熱安定が得られた。(2)酸化チタン/セルロース誘導体等方水溶液系では、溶媒除去による固定化の初期過程が偏光顕微鏡観察及び動的粘弾性計測により高感度で検出された。後者では、測定治具端部の局所的な挙動を反映したと考えられる。また、電気特性計測によって固定化の後期過程が良好に検出された。大振幅正弦波電場下での固定化試料では、セルロース誘導体のらせん軸は、電場方向と垂直な方向に一軸的に配向する傾向が得られ、粒子の分散は良好である結果が得られた。3.(1)反応性シリコーン、カーボンナノファイバー分散系等について、熱特性、レオロジー特性等を検討した。シリコーン系の硬化過程は、電気的測定よりはレオロジー測定によって、より良く検出される結果が得られた。(2)上記分散系における電場配列を行った結果、分散系における見かけの電気特性との間に相関関係が得られ、その場でのモニタリングに有効である結果が得られた。(3)セルロース誘導体異方性水溶液、多層カーボンナノチュ-ブ分散系において、せん断及び正弦波電場印加を行い、電場配向挙動を検討した。観察初期に与えるせん断方向と電場方向の関係によって、電気的な特性に差異が認められたが、より詳細な検討を行う必要があると考えられる。
著者
青木 幹喜 水谷 正大 山田 敏之 石井 昌宏 松崎 友世
出版者
大東文化大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、チーム・エンパワーメントの概念を明らかにするとともに、チーム・エンパワーメントの先行要因やその諸効果を明らかにした。チーム・エンパワーメントは、チームに有意味感や自己決定感、効力感、到達感のある状態のことである。そして、こうした状態に至るには、外部チームリーダーの行動等が関係していることが明らかになった。さらに、チーム・エンパワーメントにより、チームの創造性発揮も促進されることが予測されている。
著者
鈴木 啓之
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

研究成果の総括1) UVA照射による実験結果についてマウスの背部皮膚を用い、UVA照射群ならびにPUVA施行群の2群に分けて実験を行った。その結果、PUVA施行群の一部の表皮にヘマトキシリン・エオジン染色でエオジン好性の顆粒の出現が見られ,epidermolytic hyperkeratosis(EHと略す)によく似た所見が認められた。この好酸性顆粒の性状につき、ケラチンを主とした免疫組織学的検討を行ったが顆粒の性状を同定するには至らなかった。ケラチンの凝集塊と思われるが、その他の物質である可能性も否定できないといった段階である。2) Persistent actinic epidermolytic hyperkeratosis(PAEH)のケラチン凝集塊についてPAEHはケラチンの凝集塊の形成が特徴的である。病巣部のケラチン凝集塊につき、どのようなケラチンの凝集塊なのか光顕ならびに電顕レベルで免疫組織化学を用いて検討した。その結果、ケラチンの凝集塊はケラチン1とケラチン10から成ることが判った。3) PAEHの病因病態ならびに分類に関する考察PAEHの病巣部のケラチン凝集塊がケラチン1とケラチン10から成ることが判った。研究期間内には遺伝子レベルでの検討にまでは至らなかったが、PAEHも先天性のEHと同じくケラチン1とケラチン10の遺伝子のmutationによる可能性が考えられ、誘因は強い太陽光線の照射であろうと推測した。分類に関しては、PAEHは強い日光照射により発症すると考えられ、後天性のEHを来す疾患のなかで独立した位置に置かれるべきと考える。
著者
三浦 信孝 CHI LEE Pei-Wha SUNENDAR Dadang NGUYEN XUAN Tu Huyen
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

三浦が2004年7月に国際フランス語教授連合FIPFアジア太平洋委員会委員長になったのを契機に申請した研究課題である。台湾、インドネシア、ヴェトナムの同僚を研究協力者に、日本、タイ、台湾、パリ,などで開かれる国際学会で研究交流を積み重ねた。かつてフランスの植民地だったヴェトナムやインド洋のレユニオン、モーリシャス、南太平洋のニューカレドニアを旅行しフランス語の使用状況について調査した。研究成果は研究課題に直接間接にかかわる多くの論文にまとめて発表した。
著者
大場 清 横川 光司 橋本 義武
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

我々は,複素平面上のある種の図形である稲妻対というものを考え,その稲妻対からdipoleを持つリーマン面を構成する方法を利用して,リーマン面のモジュライ空間の位相的な性質を明らかにしていくことを目的として研究を進めた.稲妻対は,深度と呼ばれる非負整数と複素数のあるある条件を満たす列と対称群の対という組み合わせ的データにより与えられるものであり,そのデータからリーマン面の種数が如何に決まるかを決定した.また,リーマン面上の2次微分に關するStrebelの研究を通して,我々の研究がdipoleのみの状況から一般の第2種アーベル微分を持つリーマン面へと拡張できることがわかった.リーマン面は標数0の代数曲線であるが,正標数の代数曲線に関しても,前丹後構造という概念を導入して,小平の消滅定理が成立しない代数曲面をモジュライ空間の中で正の次元をもつほど多く構成することができた.数理物理的側面からは,最も基本的なリーマン面である2次元球面に関連して,5次元Ads Kerrブラックホールの2つの地平線を近づけrescaleして極限をとることにより,2次元球面上の3次元球面束上に可算無限個の新しいEinstein計量を構成することに成功した.また,Killingベクトル場のツイストにより,Gauntlettたちにより構成されたコンパクトな佐々木-Einstein多様体を再構成することも行った.一方,稲妻対のある種の高次元化として,6次元球面にsmoothに埋め込まれた3次元球面たちを考えた.これはHaefliger結び目と呼ばれる高次元結び目であり,我々は(6,3)-型のHaefliger結び目の結び目解消数を定義して,そのすべてを決定した.
著者
荒木 兵一郎
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

精神障害者の自立生活と居住環境との関係について、一昨年度はグループホーム居住者を含む在宅精神障害者を、昨年度は自立度が最も低い入院患者と救護施設等の入所者を対象としたが、本年度はそれらと比較するため自立度が高い健常者(学生等38名、高齢者向け住宅居住者76名)を対象に同一の面接アンケート調査と行動観察調査を実施した。調査内容は、当該対象者の基本属性としてのとしての家族構成、障害程度、問題行動や特殊行動の種類と状況、日常生活動作能力(ADL)、生活歴(職歴、入院歴など)などをみたのち、各種の日常生活行為について、これに係わる空間構成との関係をみている。日常生活行為としては、就寝、食事、だんらん、接客、排泄、入浴、家事、および近隣や友人との交流状況や就労状況などについて、その自立度または介護度を3段階の評価基準を設定して尋ねている。平均自立度は想定通り、健常者・学生>高齢者向け住宅居住者>グループホーム居住者>外来患者>救護施設等入所者>入院患者(とくに高齢精神障害者)の順である。しかし健常者だからといっても満点の人はなく、それぞれの生活部面でそれぞれが役割分担したり、社会資源で補なったり、手抜きしたりしている。自分の意思で手抜きしたりするのはいいが、自立や社会参加をしたくても、それが心身の障害によってできない人たちの問題が改めて提起される。とくに高齢精神障害者の場合には、病院や施設内で無為無欲の状況に陥り、ただ死を待つような状況さえもが見られる。これに対応する環境整備の充実を痛感している。
著者
宮本 新吾 目加田 英輔 園田 顕三
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

卵巣癌は婦人科悪性腫瘍の一つで、タキサン系・プラチナ系抗癌剤によりQOLの改善を認めるものの、その予後は未だ不良である。新たな抗癌剤開発が困難な現状では、卵巣癌に対する標的治療薬の開発が切望されている。しかしながら、現在まで、EGFRを中心にして分子標的治療の開発が行われているが、有効な卵巣癌治療薬は開発されていない。そこで、我々は、卵巣癌への新たな分子標的治療の開発を目的に、本研究において標的分子の同定およびその特異的抑制剤を用いた治療開発を行った。卵巣癌腹水中にはLPA(Lysophosphatidic acid)が高値に存在し、癌増殖活性化因子として作用していることが報告されている。LPAはEGFRリガンドを分泌型に変換し卵巣癌細胞増殖の中心的役割を担うEGFRを活性化する。したがって、EGFRリガンドの標的分子の可能性について明かにする目的で、腹水中および卵巣癌組織中ではEGFRリガンドの発現を検討した。その結果、HB-EGFが他のEGFRリガンドに比較し著明に発現が亢進していることを明らかにした。また、1)HB-EGFの発現を抑制すること2)HB-EGF分泌型にすることを抑制することで卵巣癌細胞のヌードマウス上での腫瘍形成が著明に抑制されることを明らかにした。これらの結果から、HB-EGFは卵巣癌における標的分子であるあることを同定した。さらに、HB-EGFの特異的抑制剤であるCRM197投与がヌードマウス上での腫瘍形成を抑制することを証明した。このことから、無毒でありヒトへの投与可能であるCRM197は、卵巣癌分子標的治療薬として臨床応用可能であることを明らかにした。
著者
塩谷 隆 桑江 一洋 藤原 耕二
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

近年,測度距離空間の幾何解析の研究が非常に盛んである.研究代表者は測度距離空間の曲率と収束,特にアレクサンドロフ空間,測度距離空間のリッチ曲率,測度距離空間の列の収束などに絡む幾何解析に焦点を当てて研究してきた.一方で,ディリクレ形式の収束を関数解析的に調べる変分収束理論がMoscoによって研究されたが,これを応用・拡張することは,測度距離空間の列の収束を調べる上で,統一的な視点を与えることとなる.この様な動機により,研究代表者の塩谷と分担者の桑江は,幾何学的な視点から変分収束理論を拡張したが,本研究費の研究において一応の完成を見た.我々はこれを「幾何学的変分収束理論」と呼んでいる.この理論で現れる収束概念は,現在,「Mosco-桑江-塩谷収束」と呼ばれ,確率論の有限次元近似やhomogenizationの研究などにおいて広く応用されつつある.まだ研究途上ではあるが,もう一つの成果として,アレクサンドロフ空間上で「リッチ曲率が非負」に相当する条件の下で,ラプラシアンの比較定理および分割定理を証明した.リーマン多様体に対しては、リッチ曲率がある定数以上になることは,ビショップ・グロモフの不等式の無限小バージョンと同値である.アレクサンドロフ空間上ではリッチ曲率テンソルは定義されないので,リッチ曲率条件の替わりにこのビショップ・グロモフの不等式を仮定した.リーマン多様体の場合と決定的に異なるのは,カットローカスの状況である.リーマン多様体ではカットローカスは閉集合であるのに対して,アレクサンドロフ空間では一般に閉集合にならず稠密になるような例もある.このことから,ラプラシアンの比較定理の証明ではリーマン多様体と同じ方法は通用せず,新しい方法を開発した.
著者
石津 みゑ子 米澤 弘恵
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

【研究目的】在宅高齢者の主観的睡眠感と対処行動を把握することによって,高齢者が質のよい睡眠を得て,健康でQOLの高い生活を送るための資料とする。【対象と方法】静岡県H市中央地区に在住する65歳以上の男女を対象に本調査に協力が得られた259人を初回調査の対象とした。次年度以降は,前回の調査対象のうち追跡調査に協力が得られた人を対象に行った。主観的睡眠感の全問回答が得られた1年目,2年目の126人と3年目123人(入院,死亡による3人を除外)を分析対象とした。【結果および考察】1.初回調査時の対象者の年齢は65〜94歳に分布し,平均74.0±6.8歳,2年目は75.0±6.8歳,3年目には76.0±6.7歳を示した。性別では1,2年とも男性が42人(32.5%),女性は84人(66.7%)であった。3年目では男性40人(32.5%),女性83人(67.5%)であった。2.家族構成は,3年のうちで最も多かったのは,配偶者がなく同居家族がいる人で,3年目では46人(37.4%)であり,他の2年よりも有意(p=.05)に増加していた。3.健康度自己評価は,3年間とも「普通」以上の健康の人が8割弱を占めていた。4.老研式活動能力指標は,平均得点が初回調査時11.1±2.8点,2年目は10.7±3.0点,3年目では10.5±3.2点となり年を経るにつれて有意(p=.05)に低下していた。5.主観的睡眠感は,3年間とも早朝の目覚め,中途覚醒後の寝つきの悪さを訴える人が多かった。主観的睡眠感の平均得点は,初回調査時で696.9±122.0点,2年目は698.2±116.1点,3年目は704.7±125.3点であった。6.対処行動では,いつも安定剤や睡眠薬を飲む人は,初回調査時7人(13.0%),2年目11人(20.4%),3年目では11人(16.4%)であり,すぐ薬に頼る人が少ないことが示された。