著者
柏木 敦
出版者
兵庫県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は(1)太平洋戦前期における地方長官会議関係資料の収集・分析を行う、(2)中央と地方との相互作用による政策(徳に教育政策)決定のプロセスを解明する、という2点を主な目的として進めた。その結果3年間の研究により、アジア太平洋戦前・戦後にかけて、のべ112(113)回開催された地方長官会議の関係資料を、帝国憲法体制が発足した1890(明治23)年以降分(およそ96回分)に関して、全体の7割以上にあたる74回分の史料収集ならびに所在確認を行うことが出来た。
著者
田隈 泰信 荒川 俊哉 設楽 彰子 岡山 三紀
出版者
北海道医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、当初、仙台ウイルス(HVJ)・エンベロープ・ベクターを用い、分泌マーカーcDNAと分泌関連タンパク質のsiRNAをラット顎下腺に導入し、唾液分泌機構のin vivo解析を計画した。しかし、予期に反し、このエンベロープ・ベクターには遺伝子導入活性がなかったため、計画変更を迫られた。そこで、培養細胞に、分泌マーカーとSNAREタンパク質を別の色の蛍光タンパク質として発現し、二波長全反射蛍光顕微鏡観察法により、構成的分泌を調節する分泌関連タンパク質の同定を試みており、現在、siRNAの効果から対象が徐々にしぼられてきている。
著者
伊藤 大雄 石田 祐宣 松島 大 石田 祐宣 松島 大
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

リンゴ園で微気象観測ならびに乱流計測を長期間実施し、複数の解析手法により蒸発散量を明らかにした。また、群落内貯熱量や融雪潜熱量の推定手法を考案するとともに、渦相関法における熱収支インバランス問題を追究し、得られた成果を蒸発散量の計算プロセスに反映させた。その結果、土壌水分推定法の開発には至らなかったが、月別の作物係数をもとにした蒸発散量の高精度推定を可能にした。更に衛星画像を利用した日射量推定法や、これを利用した蒸発散量推定法を考案し、蒸発散速度の広域的推定に展望を開いた。
著者
宿谷 昌則
出版者
武蔵工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究では、通風によって得られる「涼しさ」や昼光照明によって得られる「ほどよい明るさ」は、環境の物理要素がどのような変動をするときに得られるのかを被験者実験によって明らかにするとともに、人体エクセルギー収支と温冷感との対応関係を明らかにして、自然共生建築を計画するための基礎的な知見を得ることができた。以下に明らかになった内容を要約して示す。●設定温度25℃の冷房室では、空気温の変動が大きいにもかかわらず、温冷感申告の経時変化がほとんどなく、冷房室における温冷感の特徴は定常的で画一的であるのに対して、通風室では「汗をふく」などの行動が見られ、被験者の暑さへの対処方法は多様である。●「涼しさ」が得られるときの気流の振幅は、「涼しさ」が得られないときの2倍以上あり、気流の波形は、急激な上昇に引き続くゆっくりとした下降である。●ふだん昼光照明を行なうほとんどの被験者は、昼光照明を行なっている部屋で「ほどよく明るい」を申告し、窓から入ってくる光や屋外の様子から時間を把握していて、昼光照明のみの部屋では、申告した時間と実際の経過時間との差は最も小さい。●事務作業程度を行なっている人体が暑くも寒くもないような中立的な環境に置かれている場合、人体エクセルギー消費速度が最小になる。
著者
加藤 常員 小澤 一雅
出版者
大阪電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究は、日本考古学において重要な位置づけにある弥生時代の高地性集落遺跡および拠点集落遺跡のデータを地勢情報のデータベースと連携させ、実践の考古学研究に有効な支援を行う情報システムの開発・構築をめざした。具体的な研究支援システムでは、考古学および歴史学等で共通的な作業、あるいは研究過程を支援する汎用的なものと、特定研究課題に特化したものとが考えられる。汎用的な研究支援システムとして遺跡位置計測システムを構築した。これは、2万5千分1の数値地図を用い、地図上の位置をマウスクリックすることにより緯度・経度を取得するシステムである。このシステムは、考古学、人文科学に限らず位置情報を取得するシステムとして汎用的研究支援システムの好例である。特化した研究支援システムとしては、弥生社会の社会構成を考究するための弥生集落遺跡分布分析システムを構築した。このシステムは特定の課題に特化はしているが拡張性を有している点が重要であり、研究支援システムとして不可欠な要素と言え、構築したシステムは、実践的雛形と位置づけることが出来る。前者のシステムは、従前の作業を軽減し、データの信頼性、再現性を向上させる一般的な支援である。一方、後者のシステムは、考古学者等が頭の中で思い描いていたイメージを具現化し、より深化した思考へのヒントを提示する思考実験の装置と捉えることが出来る。すなわち、過去を探る、あるいは再現する道具であり、一種のシミュレーション装置であると言える。この視点は、考古学をはじめとする人文科学分へのコンピュータ応用にとって重要であり、研究活動支援のシステムの基底をなす考えであると思われる。構築したシステムは実践的研究支援の意義に符合するシステムであり、具体的な事例と位置づけられる。
著者
岩井 儀雄
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,草木などの揺れにより背景領域を物体として検出してしまう問題と,背景色と同じ物体は抽出することが出来ない問題に対して,人物領域を安定に抽出する方法を開発する.しかしながら,この2つの問題はトレードオフの関係にあり,草木の揺れなどに対応しようとして,安易に背景の範囲を広げてしまうと,背景色が多くなり,物体の検出率が落ちてしまう.そのため,事例データベースに基づく手法により,安定的に人物領域を抽出できる手法を開発し,数値的には遜色のない抽出性能を得られた.
著者
坂本 理郎 西尾 久美子
出版者
大手前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、キャリア初期にある若手社員の成長に対して、どのような態様の関係性が有効であるか、どのようにしてその関係性は形成されるかを探った。ある製造企業の大卒若手社員35名とその上司11名に対して、アンケートおよびインタビュー調査を実施した結果、相対的に高い成長を示す若手社員は、特定の上司や先輩との垂直的で濃密な人間関係を持つ者よりも、対象が比較的多様で緊密さが緩やかな人間関係を構築していることを確認することができた。
著者
矢部 京之助 鶴池 政明
出版者
大阪体育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、日常的にスポーツ活動を行っている脊髄損傷者(15名)の上肢と下肢の筋系および末梢循環系の機能と構造について調査した。被験者の中、7名に対して8週間(5種目、10RM・3セット、週3日)の上肢筋力トレーニングを実施させ、トレーニング前後の変化を測定した。結果は以下のようにまとめられる。1.スポーツ活動を行っている脊髄損傷者の上肢・下肢の安静時血流量は、健常者とほぼ同じ値であった。麻痺部の下肢が健常者と同等であった理由は、日常のスポーツ活動の効果と推察された。2.血管拡張能力は、健常者に比べ、上肢は優れていたが、下肢は劣り、拡張時間も延長する傾向が見られた。これは、脊髄損傷による自律神経機能の欠如が関連していることと示唆された。3.8週間の上肢筋力トレーニングは、上肢と下肢の筋系および末梢循環系の機能と構造に大きな変化を及ぼさなかった。これは、被験者の循環系機能が日常のスポーツ活動ですでに十分向上していたためと推察された。4.4週間の筋力トレーニング後、血圧の上昇が見られた。4週間でトレーニングを中止した被験者は、その後4週間でトレーニング実施前の血圧値に戻った。8週間トレーニングを継続した被験者は、さらに血圧が上昇する傾向にあった。しかし、全被験者のトレーニング後の血圧値は正常範囲内であった。以上の結果より、脊髄損傷者の日常的なスポーツ活動は、上肢の血管拡張能力を高め、下肢の安静時血流量を維持することが明らかになった。また、8週間の上肢筋力トレーニングは、上肢・下肢の筋系および末梢循環系の機能と構造に効果を及ぼすには至らなかった。これは、今回の被験者が現在継続しているスポーツ活動で上肢と下肢の筋系および末梢循環系の機能と構造が十分に発達していたためではないかと推察された。さらに脊髄損傷者が筋力トレーニングを行う際には血圧の管理が必要であることが示唆された。
著者
山下 巖 淺間 正道 前野 博
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究の成果として、1)ブレンディドラーニングにおけるe-ラーニングと教室内対面授業の連携をより密にしたプレ・コア連動型モデルの開発に着手したこと、2)ウェブ上に形成した学習コミュニティが予備教育の場として機能したこと、3)ムードルが成績不振者の学習活性化や学習支援に大きな役割を果たす可能性があることなどが揚げられる。特に第1点目に関しては、単なるe-ラーニングと対面学習とを組み合わせただけに留まらず、ウェブ・コミュニティを活用した知識探求型学習と教室内における発表を主体とした知識活用型学習との組み合わせにより、大きな学習効果が期待できる。また、ムードルを活用した成績不振者の学習サポートも、スマートフォンの本格的普及により大きな学習効果へとつながった。
著者
萩原 芳幸
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

直径3.75mm,長さ13.10mm のインプラントを超硬質石膏に埋入し,ConicalおよびUCLAアバットメントを介して金合金製の下顎小臼歯形態のクラウンを5,10,20,32Ncmの条件にて固定した.ペリオテストによる衝撃振動をFFTアナライザーにてフーリエ変換し振動波形と周波数スペクトラムとして求めた.ConicalおよびUCLAともに締結トルクが強くなるに従い振動持続時間は短くなる傾向を示した。また,両アバットメントともにトルクが強くなるに従いピーク周波数も高くなる傾向を示し,特にConicalにおいては10Ncm以上のトルクで固定してもピーク周波数に影響がなく,10Ncmと20Ncm間,20Ncmと32Ncm間を除く全ての条件間で有意差が認められた.また,UCLAでは32Ncmで最も高い値を示した.上部構造体は審美性を考慮した材質が種々用いられるが,その違いが振動特性に与える影響についての報告は少ない.上部構造体は陶材焼付鋳造冠(PFM),エステニア(ES)および即時重合レジン(Ull)にて同一外形を有する下顎小臼歯形態の単冠を作製し,20Ncmで固定した.Conicalにおける振動持続時間はPFM, ES, Ullともに6.5msec前後であり有意差はなかった.またピーク周波数もPFM, ES, Ullともに2.65KHz前後で有意差はなかった.UCLAにおける平均振動持続時間(msec)は,PFM(3.56),ES(3.44),Ull(4.18)で,PFMとUllおよびESとUll間に有意差があった.また平均ピーク周波数(KHz)は,PFM(3.85),ES(3.84),Ull(2.98)で,PFMとUllおよびESとUll間に有意差があった.Conicalを使用した場合は,アバットメント自体およびネジ止め機構が衝撃を吸収し,上部構造体材質の影響が顕著に現れなかった.一方UCLAでは,インプラント体に上部構造が直接ネジ止めされるため,上部構造体材質の影響が振動時間およびピーク周波数に直接反映したものと思われる.臨床的には、緊密咬合・パラファンクション・グループファンクションなどの症例において,UCLAを使用する際には上部構造体材質の慎重な選択が要求される.
著者
田中 淳 宇井 忠英
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

北海道駒ケ岳ならびに樽前山は、日本の活火山の中でも最も活動的な火山であるが、噴火の規模や推移は多様であり、迅速な避難が必要であることから、防災意識の涵養が求められる。そこで、住民意識調査と地域リーダーへの面接調査を実施した。駒ヶ岳調査は、駒ヶ岳周辺4町の住民から郵送法で439票(回収率=43%)の回答を、樽前山調査は、苫小牧市内危険の高い地区と低い地区2地区の住民から211票(回収率=42%)の回答を得た。地域リーダーへの面接調査は、12人を対象とした。主な知見を示すと以下の通りである。1.この15年間で防災意識も防災情報行動も向上している。2.駒ヶ岳小噴火ならびに2000年有珠山噴火への関心は高く、大半の人が周囲の人と話題にしているが、職場や同業者で話題になる率が高い。3.防災教育上の課題として、避難の判断を行政に依存していると思われる点、前回の噴火パターンへの拘泥や誤った周期説が流布してしまっている点等が見いだされた。4.防災情報行動にとって重要なのは、単に危険性を認知させたり、不安を高めるだけではなく、関心を高めることが必要である。5.防災情報行動は、噴火への関心の程度といった個人変数だけではなく、地域要因も関係していることを示している。6.地域凝集性の高い地区では、資源動員論でいうフレーム増幅戦略が、未形成な地域では、フレーム拡張戦略が採用されている。
著者
原田 隆典 村上 啓介
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

剛性マトリックス法による震源・地震波伝播過程の定式を一般化することに成功した。コンピュータプログラムを整備し、試算例として、震源断層の深さや表層地盤の厚さによって、断層による永久変位を含む地表の地震動の時間・空間分布特性がどのように変わるかについて調べ、表層地盤の厚さや、断層上端の深さが重要な要因であることを明らかにした。地表面の動きを3次元的に視覚化し、震源域の地表面の動きは、台風時の雲の動きのように渦を巻いていることを始めて示すことができた。地表面の水平・鉛直方向の3成分変位に関する運動と共に地表面の傾きや回転に関する運動の3成分波形が大きくなるなど従来あまり知られていない地震動特性に関する成果を得ることができた。断層近傍に典型的な都市高速道路の連続高架橋とパイプラインを想定し、3次元非線形応答解析を実施し、その応答挙動を調べた。断層に平行なケースや横断するケース、回転地震動の影響を調べた。その結果、断層を横断する連続高架橋とパイプラインにおいても、断層上に表層地盤が存在する場合(断層が地表に現れない場合)には、応答を崩壊限度内に抑えることが可能であるが、断層が地表に現れるような場合には、断層を横断するケースで、応答は崩壊限度を大きく超え、特に、連続高架橋の橋脚に大きなねじりモーメントが発生することを示した。長波理論に基づく津波シミュレーションコードの改善を行っい、日向灘地震(1968年)、南海地震(1854年)による津波高記録と計算結果を比較し、計算精度の妥当性を確認した。また、日向灘地震については、沿岸構造物への津波の波力を計算するプログラムを開発した。試算例では、波力と地震力を比べると、波力は1/10程度と見積もられる結果であったが、条件を変えた試算例も実施する必要がある。
著者
渡邉 俊雄 藤原 靖弘 富永 和作 谷川 徹也 樋口 和秀
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

Prostaglandin(PG)の代謝酵素である15-hydroxyprostaglandin dehydrogenase(15-PGDH)の胃癌の病態生理における役割について検討した。進行胃癌71例中35例において15-PGDH蛋白の発現は低下しており、多変量解析では15-PGDHの発現低下は生命予後の不良と関連していた。15-PGDH陰性群では15-PGDH陽性群に比較してKi67陽性率は有意に高値であった。15-PGDH発現をsiRNA法でノックダウンすると胃癌細胞株であるAGS細胞の増殖能は亢進した。以上の結果から15-PGDHは胃癌における独立した予後規定因子であることが判明した。
著者
川角 由和 中田 邦博 児玉 寛 岡本 詔治 森山 浩江 若林 三奈 松岡 久和 潮見 佳男
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、第一にEU域内市場の拡大・展開を受け、EUレベルで進行する私法の統一化の動きを全体として跡付けてその特質を解明すること、第2に、こうした動きを基礎づける近代ヨーロッパ私法の原理(とくに契約法にみられる原理的共通性)や統一私法典の構想等を分析し、わが国の私法への影響を考察することにある。今回の研究期間内には、とくにこうしたヨーロッパ私法統一の動向そのものの分析と、日本法に対してそれがどのような影響を及ぼすのかを比較法的手法を用いて解明することに重点を置くものとした。この期間内には、本研究の中核メンバーによってヨーロッパ契約法原則の意義を明らかにし、それが日本法にどのような影響を及ぼすかを検討するシンポジウムを、比較法学会において開催した。また、こうした研究作業の基礎資料となる「ヨーロッパ契約法原則」についての翻訳プロジェクトに取り組み、すでに潮見佳男=中田邦博=松岡久和『ヨーロッパ契約法原則I・II』(法律文化社、2006)の刊行を終わり、IIIの刊行を予定している。また、これまでの研究成果を集大成した『ヨーロッパ私法の展開と課題』の刊行が予定している。以上のように、本研究は、さらなる展開を示しつつあるヨーロッパ私法・契約法の全体像を解明するために、さまざまなプロジェクトにおいて深化し、またすぐれた研究成果を挙げている。
著者
岩橋 政宏
出版者
長岡技術科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

従来の監視カメラは常に我々を写し続け、受信者に対して被写体の細部までを克明に伝えてしまう。いわば被写体の気持ちを無視した映像通信システムとなっている。これに対し本研究では、映りたくない人は自動的に隠す、いわば見られる人の気持ちを反映するプライバシー・コンシャスなビデオ通信方式を開発し、これをもって国際交流に貢献することを目的としている。1年目は、1)映像中から人物領域を抽出し、2)カメラからの距離に応じて人物ごとの透明度を決め、3)必要最小限の情報のみを圧縮符号化および伝送し、4)受信側で透明人間を映し出す方法を提案した。提案手法はとくに、画像符号化の国際標準であるJPEG2000(JP2K)の要素技術を活用しているため、世界的に普及しているIPコアなどのハードウェア・ソフトウェア資産を活用でき、開発期間の短縮や製品コストの削減が可能となる優れた特徴を有している。2年目は、5)本システムをDSPによりハードゥェア実現し、6)諸般の利用形態における改善点を明らかにし、システムの実用化を目指した評価実験を行った。既存の画像認識モジュールと既存の画像符号化モジュールを単に組み合わせるだけでは学術的な特色があるとは言えない。本研究では、7)JP2K画像符号化国際標準の要素技術を活用し、8)認識処理にフィードバックすることで人物領域や透明度を決定する。このような点で学術的に特色があり独創的であると言える。結果として、認識と符号化の協調技術が開発され、小型で省電力な知能ビデオカメラの開発が期待できる。更にはこれを太陽電池と風力発電で駆動することで、プライバシー・コンシャスな環境調和型モニタリング・システムを構築できる、あるいは、人に緊張感を強要しない遠隔共同研究空間を提供できる、等の意義を有する。
著者
杉村 孝夫
出版者
福岡教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

南琉球、宮古諸島方言に属する来間島方言の話者は60代以上の数十名のみであり、中年層以下の者はすでに標準語との中間方言に移行している。2001・2002年度の2年度にわたり70・80代の伝統方言を話す話者から音声・文法と語彙の一部を聞き取り、記述した。全戸のヤーヌナ(屋号)についても、各戸の配置図とともに記録した。音声面の特徴は、母音では5母音の他、摩擦的操音を伴う狭口中舌母音が存在すること、狭口母音の[i,u]のみならず、広口母音の[a]においても無声化が起こることである。子音に関しては唇歯無声摩擦音[f]、唇歯有声摩擦音[v]が存在する。また、[v,m]は成節子音となる。これらの特徴は、例えば、宮古島本島の平良市内ではほとんど失われてしまった宮古諸島方言の古い姿をよく残しているものである。文法面では用言の活用形、助詞・助動詞、可能表現を文例とともに記述した。2年目には、音声、文法の特徴を反映する項目について高年層の男女7名の話者の発音をデジタル録音及びデジタルビデオ録画を行った。併せて、来間島のわらべ歌及び来間島の島民の由来談も収録した。これらの録音、ビデオ記録はこれまで行われたことはなく、来間島方言の重要な資料となる。既に収録済みの他の宮古諸島方言、すなわち、大神島、池間島、伊良部島、宮古島狩俣の猪方言の録音・録画と比較考察することにより、宮古諸島方言の姿を総体的にとらえることができる。
著者
若林 良和
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、カツオを漁獲する漁船乗組員たちを漁撈集団、そして、そこでの集団生活を海上生活構造と位置付けて、その移動と交流に着目した実態把握を推進し、その特性を明らかにすることである。漁船の大型化、航海・漁撈機器の高度化、エンジンの高馬力化のなかで、太平洋海域を大きく移動しながらカツオを漁獲する漁船乗組員の生活にっいて、生活史法をもとに検討した。主たるフィールドは沖縄県(宮古島市)、鹿児島県(枕崎市)、愛媛県(愛南町)、高知県(土佐清水市、中土佐町)、静岡県(焼津市)などである。カツオ漁船乗組員(現役者・引退者)のライフヒストリーをインタビューにより収集するとともに、関連のライフドキュメントを確保した。また、併せて、地域社会の基本的な文献・史料も収集して整理した。また、鰹節製造業者、さらには、マグロ漁船乗組員との対比によって、カツオ漁船乗組員の移動と交流の実態をより明確に把握できように配慮した。本研究で得られた知見を概括すると、以下のようになる。1.海上生活構造の生産的局面である漁業労働においては、閉鎖性、随時性、危険性という特殊性がより明確になり、カツオ漁船乗組員は労働規則・慣行上、大きく行動規制されている。特に、海域移動が拡大するに伴い、操業期間が長期化し、労働強化は顕著になっている。2.海上生活構造の消費的局面である衣食住については、漁業労働への従属性が高く、また、海域移動の拡大と航海期間の長期化のなかで、少しでも娯楽性を高めようとする生活の創意工夫が見られる。3.こうした環境下にあるカツオ漁船乗組員は母港への帰港、あるいは、補給地への寄港で、家族との交流、さらいは、地元住民との交流が物心の両面において展開されることが素描できた。この点は質的調査のメリットが遺憾なく、発揮でき、調査手法の妥当性も検証できた。(770字)
著者
緒方 茂樹
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

●本研究は島嶼圏を抱える沖縄県の地域的な特殊性に鑑み、離島地域である宮古島の地域性を最大限に活かした今後の特別支援教育の在り方を、地域ネットワーク作りを通じて考えていこうとするものである。●平良市教育委員会、宮古教育事務所と連携して、特に公立学校の担当者を対象とした研修会と学校支援を進め、最終年度は伊良部島も含めて全ての地域まで範囲を広げることができた。●平成17年度にまず毎月行われている県の巡回医療相談・訓練に宮古養護学校と連携しながら教育相談窓口を同時に開設した。これを受けて平成18年度はこの相談活動を「出張教育相談」として、宮古地域特別支援連携協議会の事業として正式に取り入れ、養護学校職員が巡回アドバイザーとして正規に相談に当たれるように図った。平成19年度は3年目という事もあり、相談窓口への相談件数が増加し、特に就学前の相談件数が増えたことが特徴的であった。●平成17年度に宮古地域特別支援連携協議会が立ち上がった。平成19年度は、特に専門家チームの在り方や教育相談、学校支援に当たっての課題を整理し、宮古教育事務所及び宮古島市教育委員会と連携しながら学校支援の件数を増やしていった。●最終年度は、教育、医療・保健、福祉、労働の4つの関係分野に加えて特に就学前についても視野を広げ、これまでに個別に行われてきた障害児支援の現状と課題についてさらに調査、研究を進めた。
著者
不二門 尚 日下 俊次 大鳥 安正 細畠 淳 三好 智満 前田 直之
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

(1)網膜色素変性モデル動物に対する、経角膜電気刺激の神経保護効果。経角膜電気刺激が視細胞に対して神経保護効果があるかどうか、遺伝的に視細胞が変性するRCSラットを用いて検討した。網膜電位図(ERG)を用いて、電気生理学的に検討したところ、生後3週から1週間に1回計4回電気刺激を行った群の網膜は、電気刺激していない群の網膜に比べて、光に対する反応が大きく、網膜機能の低下が遅延していた。また、視細胞の核が存在する外顆粒層(ONL)の厚みを電気刺激群と非電気刺激群で比較した結果、電気刺激群の網膜のONL厚は、有意に厚かった。以上の結果から、経角膜電気刺激は視細胞に対しても神経保護効果があることがわかった。(2)視神経症の症例に対する経角膜電気刺激の臨床研究。経角膜電気刺激治療を行った、虚血性視神経症12例13眼、外傷性視神経症7例7眼、視神経萎縮群8例8眼に対して、擬似光覚(phosphene)閾値、電気刺激に対する瞳孔反応の起こる閾値電流量(縮瞳閾値)、視野の面積(V/4)および視力の関係を検討した。その結果、中心部におよぶphosphene閾値は視力と相関し、周辺および中心phosphene閾値は縮瞳閾値と相関した。周辺phosphene閾値は視野の面積と相関した。また、視力の改善と中心phosphene閾値は相関した。これらの事実から、視力には中心phosphene閾値に反映される中心部の網膜機能が関係し、視野の広さには、周辺phosphene閾値に反映される周辺部の網膜の機能が反映されることを示された。また、他覚的な指標として、縮瞳閾値はphosphene閾値と相関することから、自覚的応答が不明確な場合、瞳孔反応検査は有用と考えられた。
著者
本橋 豊 金子 善博 佐々木 久長 藤田 幸司
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

社会格差が自殺に及ぼす影響について、1)無職者の自殺の実態に関する統計学的解析研究、2)域自殺対策緊急強化基金の効果に関する研究(都道府県別の自殺率格差に影響を及ぼす要因)、3)域住民を対象としたソーシャル・キャピタルと心理的ストレスの関連性に関する研究(食事への配慮と教育歴に注目して)、4)東日本大震災被災地住民の地域の絆づくり支援と心の健康に関する研究、について検証した。無職者の自殺率ほど高率だった。基金の効果は自殺対策の先進地域の東北地方で大きかった。また、ソーシャル・キャピタルは心理的ストレスと有意に関連し、地域の絆を重視した自殺対策が重要と考えられた。