著者
玉置 昌義 辻 義之
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

固有安全炉における受動的安全システムの原理的検証として、炉運転過渡時の冷却水流動挙動に基づくサブループによる安定制御法、代替起動運転法の提案と実験的検証をおこなった。また、基礎実験として、二相波状流における気液界面挙動の研究、ベナ-ル対流の可視化およびシミュレーションション解析を行った。さらにサーモサイフォンによる余熱除去基礎実験を進め、可視化技術の高度化のために中性子ラジオグラフィに関する研究をおこなった。1.PIUS炉の安定制御性の裕度を向上させる鍵として新たに模擬熱流動実験装置(EARTH)に導入したサブループを小型ポンプでフィードバック制御し、格段に安全性の高い軽水炉実機への適応可能性を示した。さらに一次系ポンプ速度摂動にたいする密度ロック中の冷暖界面の周波数応答性を伝達関数表現により解析し、実機適用へのスケーリングの進め方を明らかにした。また、起動-停止-再起動の熱水力的安定性について実験し、平行ループモデルで解析した。またPIUS炉の新しい起動法の開発を行い良好な結果を得た。2.軽水炉配管破断時の成層波状流における気液界面挙動について、気相流速により界面波の発達,エントレインメントの発生等について明らかにし、気液界面せん断応力を駆動力とするモデルで解析評価することができた。また、ベナ-ル対流について実験的な可視化と、α-FLOWコードによるシミュレーション実験の経験的固有関数解析を行い、乱流に関する組織構造についての知見を得た。3.中性子ラジオグラフィによる可視化技術の有用性に着目して、テレビジョン法を用いて、断熱部に屈曲部を持つサーモサイフォン内における対向二相流の可視化・画像処理・時空間相関解析により、固有安全炉崩壊熱除去システムの気液対向二相流挙動を定量的に可視化解析する方法を確立できた。
著者
加藤 内藏進 松本 淳
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

1.GAME特別観測年であり長江流域の大洪水の起きた1998年6月下旬には,前線帯南方の亜熱帯高気圧自体はゆっくりと遷移しながらもそこでの東西の気圧傾度は維持され,水蒸気輸送を担う下層南風も持続した。この時期は,冬までの顕著なエルニーニョからラニーニャに転じた直後であったが,モンスーン西風の熱帯西太平洋域への侵入やそこでの対流活動は抑制された。2回の長江流域での大雨期は,そのような状況下での熱帯西太平洋域での対流活動の季節内変動の一連のサイクルに伴ったものである点が明らかになった。2.大陸上の前線帯でのメソα低気圧は,1991年,1998年の事例で示されるように,中国乾燥地域の影響を受けた総観規模低圧部に伴う北向き流れと亜熱帯高気圧に伴うそれ(より北へ水蒸気を輸送)とが合体して活発化した梅雨降水帯の中で,降水系がメソαスケールへ組織化されることによって形成されるという過程の重要性を明らかにした。つまり,かなり異なるスケール間の現象の受け渡しで,全体として梅雨前線帯スケールの水循環が維持されるという側面があることになる。3.年によっては春の時期から日本付近の前線帯へ向かって比較的大きな北向き水蒸気輸送が見られるが,東南アジアモンスーンが開始する前の時期(例えば3〜4月)には,中緯度の傾圧帯の中での現象であり,亜熱帯高気圧域内の現象である梅雨最盛期の水輸送システムとはかなり質的に異なる点が分かった。4.冷夏の1993年7月後半〜8月中旬にかけて,西日本を中心に,台風の北上と梅雨前線双方の影響を受けて降水量が大変多くなった。これは,15N付近を145Eから120Eへ向けてまとまりながら西進する対流活動域(〜130Eで最も強まる)が,台風の発達・北上,及び,その後の梅雨前線への水蒸気輸送,という一連のサイクルを引き起こしたこと,それに対して,春からの弱いエルニーニョの影響が季節進行の中での履歴を通して重要な役割を果たしていたことを明らかにした。5.秋雨前線帯での雲活動は,梅雨前線帯以上に東西方向の偏り方の年々の違いが大きい。これは,熱帯西太平洋域の海面水温の特に高い領域は,気候学的には9月頃に最も東方まで広がっているため,夏の熱帯の対流活動のアノマリーの履歴によって,9月の対流活動域の東西の偏りが大変大きくなりやすく,前線帯の南側の亜熱帯高気圧による下層南風強風域の東西方向の年々の偏りが大きいためであることが分かった。6.地球規模の大気環境の変動に対する東アジア前線帯の応答過程の理解を深めるために,1997/98年エルニーニョ時の顕著な暖冬への移行過程を調べた。その結果,地球規模でのアノマリーへの応答が通常11月頃に起こる急激な冬への進行を阻害することでエルニーニョが大きく影響したことを明らかにした。
著者
鈴木 幹雄 堀 典子 長谷川 哲哉
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本科学研究費補助金研究では、事例カッセル・ドクメンタを手掛りに、芸術学校バウハウス第二世代が第二次世界大戦後ドイツにおける文化的・芸術的な文化創出システム《ドクメンタ》にどのような貢献を行ったかについて研究した。その為に、まず第一に、バウハウスを改革史的な文脈に生まれた学校と位置付け、戦後ドイツの教育界、芸術学校の世界の中でバウハウス第二世代がどのように活躍したかを明らかにした(対象:ハンブルク芸術大学、ベルリン芸術大学、デュッセルドルフ芸術大学)。当該研究の研究経過は次の通りであった。課題設定・分析・調査(平成14-15年度):(1)カッセル・ドクメンタの展開とA・ボーデの構想、(2)戦後ドイツにおけるバウハウス第二世代の教育思想と造形芸術観の形成過程・展開過程について(モティーフ:ハンブルク芸術大学長ハッセンプフルークの教育理念、同芸術大学「自由芸術」コース招待講師講義(1953-55年))、(3)デュッセルドルフ芸術大学の戦後改革とその学長代行E・マタレの芸術学校改革について、(4)ベルリン芸術大学の戦後改革について(モティーフ:同芸術大学教授G・フィーツの教育実践)。当該研究の成果(平成14-16年度):ドクメンタ参加芸術家と戦後の芸術運動団体Zen 49グループの活動を糸口に、ハンブルク芸術大学、カッセル芸術大学、デュッセルドルフ芸術大学、ベルリン芸術大学へ在職していた「バウハウス第二世代」教授達が、カッセル《ドクメンタ》の発展に重要な貢献を行ったことを解明した。
著者
棟方 充 本間 行彦
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

卵白アルブミン(Ovalbumin,OA)皮下注および吸入感作ラットにOAを連続吸入させることにより、気道のリモデリングが形成されるか否かを検討し、以下の成績を得た.1.抗原濃度を0.1,1.0,5.0%とした1ヵ月間の慢性抗原暴露では、1.0,5.0%の群においてのみ、気道上皮及び気道壁の肥厚が形成された.2.今回のモデルで形成される気道のリモデリングは気道上皮および気道壁の肥厚に限られており、気道平滑筋の肥厚はいずれの群でも観察されなかった.3.気道上皮の肥厚は主に杯細胞の増生により生じていることが明かになった.4.In vivoでのメサコリン気道過敏症は気道上皮での杯細胞数と有意な相関を示し、気道過敏性形成における気道上皮リモデリングの重要性が明かになった.5.浸等圧ポンプによるβ2-刺激薬・副腎皮質ステロイド薬の投与では、β2-刺激薬連続投与により気道過敏性の更なる亢進が認められたが、気道形態にはいずれも有意な変化を及ぼさなかった.以上の結果から、気道のリモデリングは吸入抗原濃度が高いほど形成されやすいこと、気道上皮のリモデリングは平滑筋のリモデリングに先行する可能性があること、杯細胞増生を主体とする気道上皮のリモデリングは気道過敏性形成に重要であること、などが明かになった.
著者
小泉 龍人
出版者
国士舘大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究により、人々の暮らしに欠かせぬ「火の利用」の一端に迫ることができた。復原構築した窯による焼成実験の結果、彩文土器の焼成には800℃以上の温度を約1時間維持する必要があり、900℃以上の高温を1時間以上持続させることで西アジア都市形成期の彩文土器に近い硬質な仕上がりとなることを確認した。また、黒色顔料(二酸化マンガン)よりも赤褐色顔料(酸化第二鉄)の吸着に高度な技術が必要であったことも確かめた。
著者
佐竹 彰治
出版者
東京理科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

光機能性分子であるポルフィリン誘導体を基盤とした複数の超分子システムの開発に成功した。トリスポルフィリン誘導体を自己組織化させると超分子ポルフィリンナノリングが定量的に生成する。この内部にエネルギー受容体をゲスト分子として導入することに成功した。また、6個の安息香酸を有するポルフィリンナノリングを垂直に連結した超分子ポルフィリン組織体の構築にも成功した。これらは人工光合成系への応用が期待される。
著者
木下 孝司
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究の概要は以下の通りである。1.理論的考察:幼児期における「心の理論」と時間的に拡がりをもつ自己の発達的関連について,時間的視点という観点から概観し,「いま・ここ」にない"不在のもの"に対する態度を測定する方法として遅延自己映像認知課題を提案した。また,過去と現在の時間的関係を理解し,時間的視点から自他理解を深める上で,過去をめぐる対話が重要な役割を果たしていることを,聴覚障害児の「心の理論」に関する研究から示した。2.実験1:3〜5歳の聴覚障害幼児と母親を対象に,絵日記を手がかりにして,過去の出来事を共同想起してもらった。その結果,(1)絵日記を用いることで,過去をめぐる対話がより持続すること,(2)子どもから母親を注視する頻度と,母親が過去の出来事に言及する頻度に相関があることが明らかになった。3.実験2:11組の健聴児(2,3歳)とその母親,5組の聴覚障害児(2,3歳)と母親が,写真を見ながら,過去の出来事について対話をするプロセスを分析した。その結果,次のようなことが明らかになった。(1)聴覚障害児が過去の出来事や心的状態に言及する頻度には個人差が大きく,子どもの言語スキルと母親の発話スタイルからの影響が大きい.(2)母親が聴覚障害者であるペアにおいては,手話を有効に用いて,過去や心的状態に関する話題が多かった.(3)母親の発話スタイルは子どもの言語発達に応じて,「新情報聴取型」,「情報共有(提供)型」,「相互構成型」に分類できた。4.結論:「いま・ここ」にない"不在のもの"である過去の出来事に関する対話には,2,3歳児が他者との視点の相違に気づく契機が多数含まれており,相互の心の理解を進めていく上で重要である。音声言語ならびに手話はそうした対話を成立させるものであり,心の理解や自己発達において不可欠な役割を果たしていると考えられる。
著者
小黒 康正
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、ホメロスからゲーテ、クライスト、ドイツ・ロマン派(ブレンターノ、フケー、アイヒェンドルフ等)、ハイネ、アンデルセンを経て20世紀ドイツ文学(リルケ、カフカ、トーマス・マン、バッハマン等)に至るトポス「水の精の物語」を身体論的観点から考察した。その際、近代における水の精の歌の復活と消失の問題に集中的に取り組み、同問題の背後にある「視覚と聴覚の弁証法」の実相と意味を明らかにした。
著者
吉本 貴宣
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究により1)アルドステロン(Aldo)負荷高血圧ラット(Aldoラット)での高血圧、血管炎症の発症機序の一部にはミネラロコルチコイド受容体(MR)活性化によりアンジオテンシン変換酵素(ACE)の発現増加が生じ、心血管局所でのAng II産生と作用の増加が関与する。この、“局所レニン・アンジオテンシン系"の活性化が血管壁での各種向炎症性遺伝子群mRNAの発現増加および酸化ストレス増加を介してAldoによる心血管障害に関与することが明らかとなった。2)ラット大動脈由来初代培養血管内皮細胞を用いた検討で、AldoはMRを介した低分子量蛋白Raclの活性化によりNAD (P) H oxidaseを介してO_2^-産生を誘導することが明らかとなった。3)内皮保護作用を示す抗血小板薬のシロスタゾール投与がAldoラットでの血中酸化ストレスマーカーの低下、尿中NO排泄量の増加、および血管壁でのNADPHオキシダーゼや向炎症性因子の遺伝発現減少を伴った"Aldo誘導性血管炎"の改善効果を示すことを明らかにした4) Aldoによる糸球体障害機序としてメサンジウム細胞でのMRを介したSGK-1とNFkB活性化経路が関与することを明らかとした。以上の研究成果によりAldoが心血管および腎組織に直接作用して臓器障害に至る分子機構の一端が解明された。
著者
原 三紀子 小長谷 百絵 海老澤 睦 寺町 優子 水野 敏子
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

【目的】神経難病患者の心のケアについて、看護師がどのように思い、取り組んでいるかの実態を明らかにし、より良いケアのあり方を検討していくこと。【方法】対象:神経難病患者への看護経験のある看護師20名。調査期間:2004年5月〜2005年3月。調査方法:半構成的面接によるインタビューを行い、質的帰納的に分析した。【結果・考察】対象者は女性19名、男性1名で、平均年齢29.5歳(SD6.03)、臨床平均年数7.5年(SD6.25)であった。大カテゴリー20、中カテゴリー65、小カテゴリー146が抽出された。大カテゴリーは「看護師が思う心のケア」「看護師の心を支えるもの」「心のケアの取り組みを阻むもの」の3つに分類された。「看護師が思う心のケア」は【病気をもちながらも本来の人生の意味を再確認できるような働きかけ】で、【患者がリフレッシュできるような働きかけ】【苦悩の軽減】【告知後の患者の心理状態のフォロー】などに努めることが重要と考えていた。また、【心と体は関連がある】と心身をトータルに捉えることや、【患者の気持ちを察知できるようアンテナを張る】感覚を持つことなどが重要と考えていた。「看護師の心を支えるもの」は【ケアの方法に患者固有の工夫を見つけ出すことが難病看護の醍醐味】と感じたり、【退院に向けて患者・家族と協働する】ことなどであった。また、【難病患者への思い込みが覆されたことによる驚き】によって神経難病患者へのステレオタイプ化した見方が除かれ、患者の理解を深めていた。「心のケアの取り組みを阻むもの」は【身の回りの世話に追われている】【独特なコミュニケーション方法が存在する】【難病看護は期待通りの成果が得られない】など看護体制や神経難病の病態の特性などが抽出された。また、【心のケアに対する苦手意識】【患者の気持ちに触れることが不安なので関わらない】【信頼関係は心のケアの基盤という思い込み】などの看護師自身の思いや、患者の話を【聴きだす技術の不足】が心のケアの取り組みを困難にしていると捉えていた。したがって、心のケアを行うためには神経難病の疾患特性の理解、看護体制の整備に加え、看護師が抱える問題の解決を考慮に入れた看護教育プログラムの開発の必要性が示唆された。
著者
宮下 晃一
出版者
鳴門教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

中学校の技術科において生徒が機械的な動く仕組みを製作して動かす実習を通して様々な機構に触れて学ぶことができる,組立て式の機構学習キットの開発を行った。キットは回転軸と無給油ブッシュ,プーリー,歯車,スライダー,リンク等数サイズから構成されている。機構学習キットの教育的効果を評価するために研究授業を行った。研究授業は、講義と実例紹介による従来型の授業と、機構学習キットを用いた授業を行い,それぞれの授業後に生徒たちを対象としてアンケート調査を実施した。その結果,機構学習に本キットを用いることによって,生徒は高い関心を持って授業を受けることができ,身近な機械の仕組みをよく理解することができたことが分かった。
著者
川上 紳一
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は,国際宇宙ステーションなどの人工衛星を活用した科学教育プログラムの開発である.これまでに科学研究を目的とした明るい人工衛星の飛行経路や到来時刻を予報したホームページを公開し,運用を続けている.今年度は「人工衛星観測ナビゲータ」に掲載されている人工衛星の明るさを観測し、予測式を導いて、予報値を公開するためのプログラム開発を行った.また、米国の情報セキュリティ強化にともなって、従来のような人工衛星軌道情報の取得が困難になり、軌道情報自動更新ソフトを新たに開発する必要が生じたため、ソフトの開発を行った.国際宇宙ステーションから見た地球のシミュレーションソフトについては,平成16年度に静止画版を公開したが,本研究では,3D動画配信版の開発に関する技術的検討を行った.このソフトの開発には,MatrixEngineというゲームエンジンが有効であり,このソフトで表示するための3D地球オブジェクトの開発が必要であることを明らかにした.これらのソフト開発についても本研究と密接に関連するプロジェクトとして進め,2005年9月の段階で,試作版をweb公開した.このソフトをさらに魅力的なものにするには、気象衛星の雲画像を取得して一定時間ごとに更新するようなシステム開発が望まれる.この課題についても,気象衛星画像の入手方法について調査を行い,複数の気象衛星の画像からコンポジット画像を合成して表示することは技術的に可能であることを明らかにした.一方,こうしたソフトを活用した天体観察会についても実施し,星空のなかを飛行する国際宇宙ステーションが,児童・生徒の学習の動機づけとして有効であるというデータを取得した.このように,本研究は当初の予定を上回る成果を挙げることができた。科学教育プログラムとしての完成のためには,当初想定していなかった雲画像の表示ならびに更新システム開発、地球情報とのリンクの確立など,新たな課題が明確にできた.
著者
仲川 秀樹
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究は、「情報の受信・発信による若者の地方都市定着へ向けての社会学的研究」である。平成8年から9年度の2年間にわたり本研究テーマに沿った研究を別紙報告書記載の通り論じてきた。特に、社会学的研究という性格をふまえ学説研究としてのアプローチ、実証研究としてのアプローチをバランスよく取り入れることにした。学説研究としては、情報の受信・発信をメディアに求めた。それは映像による若者への影響を映画を媒体に考えた。それにはH・ブルーマ-の社会理論が適切であると考え、本研究の理論背景はブルーマ-の理論に負った。次にそれを実証するために、地方都市として国内と海外2つの都市を取り上げた。国内は、山形県北山形高瀬集落、海外はカナダ、プリンス・エドワード州をその対象地とした。この都市はいずれも映画の舞台となり多数の若者が集う場所でもあった。そこには女性分化としての性格が存在してそり、その視点も含めたヒアリングを実施することになった。その結果は、単なる流行りとする影響ではなく、生活様式まで取り入れた情報受容のスタイルがあった。学説研究、理論研究の2つのアプローチから若者の地方都市定着へ向けて、社会学が何をすべきかという課題にひとつの問題提起をなす結果として、情報の受信・発信がリアルに実施され、それが若者へ1次情報として認知される環境形成が不可欠なこと。これに応えられるべき環境の整理こそが若者を地方都市に定着させる処方箋に成り得ることなどが明らかにされた。その包括的な環境こそ若者がもっとも望んでいることであると考えられる。
著者
熊澤 栄二 堀内 美緒
出版者
石川工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、潜在的に潜む地域特有の場所構造を基として修景・保存および地域景観形成の指針を明らかにし(基礎研究)、その研究成果を基として実際の景観整備手法の開発する(応用研究)ことを目的とする。申請研究では、基礎研究の第一段階として石川県能登半島最北端に位置する珠洲を事例とした場所構造の解明を目的とする研究を行った。第二段階として地域の祭礼の存続の可能性を明らかにするため各地区公民館でのヒアリング調査を行った。
著者
野村 忍 中尾 睦宏
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

今回の研究目的は、本態性高血圧症に対する血圧バイオフィードバック(以下BFと略す)の降圧効果を検討することである。また、ストレス負荷テストによる昇圧反応をどのくらい抑制できるかの検討を行った。本態性高血圧症を対象にした血圧BFの治療効果の検討では、30人の外来患者(男性10名、女性20名)を無作為に2群に分けて比較試験を行った。A群ではBF治療を4回行い、B群ではコントロール期間は血圧自己モニターのみ行いその後BF治療を4回施行した。その結果、A群では治療期間前後の比較で平均して収縮期血圧は17mmHg、拡張期血圧は8mmHgの有意な低下が認められた。B群では、コントロール期間では血圧の変化は認められず、治療期間前後で平均して収縮期血圧は20mmHg,拡張期血圧は9mmHgの有意な低下が認められた。また、治療期間前後に施行したストレス負荷テスト(暗算負荷法)による昇圧反応は、A,B両群において顕著な抑制効果が認められた。本態性高血圧症を対象にした暗算負荷法(以下MATと略す)と鏡映描写試験(以下MDTと略す)の循環動態ならびに内分泌的反応性の比較試験を10人の外来患者に施行した。MATおよびMDTにより平均収縮期血圧はそれぞれ37.8mmHg,41.0mmHg、平均拡張期血圧はそれそれ17.5mmHg,21.2mmHg、平均心拍数はそれそれ17.1拍/分,12.5拍/分と顕著な増加が認められた。血中ノルエピネフリン濃度は、MATおよびMDTで同様な反応性を示したが、エピネフリンはMATでより増加する傾向が認められた。その結果、MATはより交感神経-副腎髄質系を賦活するメンタルテストであることが示唆された。
著者
郡 千寿子
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

従来、発掘整理や資料価値など、研究が十分にすすんでいなかった、往来物資料について、調査を実施し、その分類整理を行った。特に北東北地域所蔵の往来物資料について、書誌的文献学的な紹介とともに、その分布や偏在状況を提示した。近世期における秋田、岩手、青森の諸地域の教育環境や文化的背景を考察検討するうえで、それらの資料群が重要な示唆を与えてくれるものであることが判明した。今後、近世庶民生活や教育の実態について、発展的応用的な研究基盤となることが期待される。
著者
石原 謙 立石 憲彦 木村 映善
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

現在、産婦人科専門医の確保が厳しく、遠隔診断やオピニオンが求められるようになっている。医師との迅速な連携の為に愛媛大学では携帯電話を用いたCTG(胎児心拍陣痛図)の伝送や、安全な医療情報ネットワークを介した伝送による遠隔医療期間の連携の試みを行ってきた。それらは一定の成果を挙げたが、CTG伝送をする為にはサーバの設置やネットワークの整備、設定を要求されるなど、利用までの敷居が高く、普及する要素が低かった。翻って一般家庭におけるブロードバンド環境の普及は進み、現在ではADSLやFTTHの引き込みを前提環境として想定することが容易になった。そこで、一般家庭で利用されているブロードバンド環境下に設定の必要がないCTG伝送システムを実現することによって容易に胎児心拍陣痛図の監視システムの導入が出来ることを目指した。この事によって高リスク因子の妊婦を自宅にて静養させることが実現出来る。具体的には一般家庭で導入されているブロードバンドルータのDHCPもしくはUPnP機能からホームネットワークの環境を自動的に検出し、インターネットへの接続を確立する。どのような環境でも胎児心拍陣痛図のモニタリング・センターへデータを伝送出来るようにHTTPプロトコル上に暗号化されたSOAPメッセージを使って胎児心拍陣痛図を伝送する。RS232Cで接続された胎児心拍陣痛図のプローブからデータを採取し、SOAPメッセージに載せるXML形式の連続データに変換を行い、あらかじめ指定されているモニタリング・センターのWebサービスサーバと公開鍵認証を行って送信する。センターでは各地から取得されたメッセージをXML形式で保存し、データベース参照や地域医療システムとの連携を実現している。設定が不要で場所、時を選ばずに誰でも容易に胎児心拍陣痛図の確認を依頼出来るようになる為、周産期医療の充実化が期待される。本研究を進めるにあたって、医療機関毎に導入している医療機器によって扱われる胎児心拍陣痛図や各種医用波形データが異なる為、MFERの利用を着想し、MFERデータを扱う為のパーサを開発した。現在、医用波形をMFER形式に変換し、それをSOAPメッセージにエンコーディングした上で、リライアブル・マルチキャスト技術を利用したメッセージングシステムでSOAPメッセージを配布する実装の開発中である。
著者
勝俣 隆
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

中世小説(お伽草子・室町物語)が、いかなる形で発生し、展開し、他のジャンルに影響を与えたかについて、伝本を調査し、諸本を校合し、考察を加えた。中でも、『七夕(天稚彦物語)』を中心に、他の作品についても検討を加えた。本研究の特色は、国の内外に所蔵される中世小説の伝本を実際に調査して、実証的に行う点にある。調査研究旅費で現地に赴き、閲覧し、直接撮影あるいは撮影を依頼し、挿絵や本文を入手することに努めた。日本では、仙台市立博物館・公文教育研究会・広島大学・慶應義塾大学・東京国立博物館・静嘉堂文庫・国立国会図書館・西尾市立図書館・海の見える杜美術館・小田原市立図書館・MOA美術館等、全国の博物館・図書館・美術館で中世小説を閲覧し、『七夕』の伝本について解題をつけて翻刻できた。海外では、台湾の国立台湾大学、アメリカのイリノイ州立大学、スウェーデンの東方博物館等の所蔵する中世小説を閲覧し、イタリアの国立中央図書館の所蔵する古典籍と併せて、調査報告書を上梓した。またコンピューターを購入し、デジタル撮影したものの画像処理を行った。名大でのシンポジウム「『十二類絵巻』とその周縁」ではパネラーとして、奈良絵本・絵巻国際会議広島大会では「お伽草子『七夕(天稚彦物語)』の諸問題」の題目で、それぞれ講演した。イタリアのローマでの第18回日本資料専門家欧州協会年次総会でも、「中世小説『七夕』の本文と挿絵について」という題目で、研究発表を行った。各講演・発表は、それぞれ論考として発表した。さらに中世小説と近縁の作品群の関係を論じた。
著者
荒木 龍太郎 石井 望 岡村 真寿美
出版者
活水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

儒教偏重を脱却する新しい漢文教科書を作るため,多数の資料を蒐集した。広く世界の常識的事物を平易に叙述した漢文を教材として採用した。特に長崎は日本・アジア・西洋の交点として重要な場所であり,長崎関聯漢文には異文化接触的題材が多いので利用した。これらに注解を加えて今年度出版助成を申請する準備を整えた。
著者
阿南 透
出版者
江戸川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、近代日本の都市祭礼について、変遷を時系列に沿って分析していく試みである。特に明治期から昭和戦前期までに作られた祭礼や、一回限りの奉祝行事・記念祭、さらには祭礼に類似したスポーツイベントを対象として、成立事情や変化、内容の特徴を考察し、近代日本の社会変動と文化変容にも関連づけて理解を試みた。本研究の成果は次のとおりである。1.昭和初期に新しい祭礼が続出するが、京都の「染織祭」、神戸の「みなとの祭」、大阪の「商工祭」など京阪神の大規模な祭礼の例を紹介し、成立事情と内容の特徴をまとめた。2.昭和大礼における市民による奉祝行事について、京都府の例を紹介するとともに、警察の警備記録から全体像を推測し、その祝祭性を明らかにした。3.近代に成立した北海道における神社祭礼について、札幌祭を例に成立史を描き出し、祭礼が必要とされた事情を推測した。4.地域の大規模な年中行事となっているスポーツイベントについて、祭礼との類似性を、戦前期の釧路市民大運動会を例に明らかにした。5.戦後に発展した青森ねぶた祭と仙台七夕まつりについて、戦前と戦後の相違点を比較した。その上で、仙台七夕まつりに関して、戦前の復活期の様相を詳細に跡付けた結果、復活した年が通説よりも1年早いことが明らかになった。6.これらの個別事例の成果を通じて、近代の祭礼の成立と展開について、特徴を試論としてまとめた。