著者
穴田 義孝
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

(1)行政単位よりも小さな各地域社会において了解、共有、伝承されてきた「郷土のことわざ」という、いわゆる『ことわざ辞典』類には載っていないことわざが存在することに注目した。これに関する文献資料を各都道府県立図書館にて蒐集し、それをコピーして持ち帰り、拙者の作成した一定の形式による文字データ化という情報の整理を実施してきた。約250の文献から数万句もの研究の土台としてのデータを得ることができた。(2)新たに「ことわざ創り調査法」という調査法を考案し、この調査票を用いて学生や文化講座などの聴講者を対象に調査を実施し、多くのデータを集め、整理、分析している。この調査法は、特定社会における「意見・態度調査法」といえる。(3)(1)伝統的(既成の)ことわざ、拙者の考案による(2)「ことわざ創り調査」による「創作ことわざ」などをデータとして、特定社会・文化の諸相を分析・考察し、下記の著作等を上梓した。これらの著作等をご覧いただければ幸甚である。
著者
金山 紀久 永木 正和 石橋 憲一 伊藤 繁
出版者
帯広畜産大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究では、(1)フードシステム(以下FSと略)に援用可能な複雑系経済理論の検討、(2)複雑系経済理論を援用したFSの時間的構造変化の過程の解明、(3)複雑系経済理論を援用したシステム環境の変化と空間的構造変化の過程の解明、の三つの課題を設定して研究を行った。第1の課題に対する研究では、複雑系の考え方に基づく経済理論を背景にFSを捉えることの必要性を明らかにした。具体的には、「ゆらぎ」と「創発」の考え方をFSの研究に援用することの意義を明らかにした。第2の課題に対しては、牛乳・乳製品のFSと小麦のFSを分析対象として取り上げた。牛乳・乳製品のFSでは、雪印食品の食中毒問題が、経営状況の悪化の過程で停電を引き金にして起こっているが、発生要因を確定できるような単純系ではなく、従業員のメンタルな側面など複雑系のもとで起こっており、このような複雑系下においても食品の安全性を確保するシステムの必要性を明らかにした。また、北海道の加工原料乳の製造は牛乳のFSの「ゆらぎ」をシステム内に緩和する働きを持っており、加工原料乳制度は、その働きをサポートする制度であることを明らかにした。小麦のFSでは、これまでの食糧管理制度が、原料生産者と実需者の関係を断ち切るよう形で生産者を保護しており、需給のミスマッチを発生させていた。FSは原料生産者、加工業者、流通業者、消費者の各主体によって形成され、一つの主体だけではシステムを形成できず、一つの主体だけ単独に存続できるような制度はシステム上問題である。しかし、つい最近まで制度設計者にその認識が希薄であったことを明らかにした。第3の課題に対しては、食品工業の立地変動を分析対象とし、食品工業の立地変動に内生的な集積力があることを確認した。また、FS内での創発によって生まれ、ゆらぎをもたらす技術について、化工澱粉を取り上げ、その特性と冷凍食品への利用について整理した。
著者
原 拓志
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、高度技術システムにおける安全確保のためのテクノロジーマネジメントのあり方について、理論的研究および経験的研究を実施した。すなわち、一方で、技術社会学および組織論における先行研究の検討から理論的枠組みを導出した。他方で、この理論的枠組みを使って、鉄道および航空サービス・航空管制などにおけるフィールドワークや文献資料に基づいた事例研究を実施した。
著者
中村 博之
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、現代企業の緊急課題とされる地球環境問題との対応で、いかなる設備投資を行うかの意思決定に際し、必要不可欠な予測要素である設備投資のキャッシュ・フロー予測の測定枠組みを検討することを課題とした。このため、環境については、管理会計のみならず環境工学との関連を重視したアプローチを試みた。それによれば環境工学的には、環境配慮のために、化学的研究を通じて排気物質の無害化や削減は可能となるが、そのことの経済性についての検討が非常に不足した状況にあることが判明した。そこで、設備投資の段階において、そのような有害廃棄物の放出が少なく、節電、省エネ型の設備の導入が今後ますます必要となることとその金額的効果の測定が必要なことは明らかである。このために、本研究では、理論構築に際し、企業実務の観察を並行したが、環境配慮という新たな目的を持った新型の設備投資が促進されていることが目立っていた。このことは日本のみならず海外調査先の先進国では顕著であった。しかしながら、日本企業の製造子会社ネットワークの重大拠点を形成する中国企業においては、法制度の影響もあってか日本ほどの導入状況ではなく、今後の課題となることが実感された。このような実務の対応状況を受けて、環境配慮設備投資のキャッシュ・フローをいかなる方法で行うことが適切であるかを継続的に研究してきた。従来の設備投資の効果とは異なり、この設備の場合、リサイクル促進や廃棄物処理コスト低減をもたらすという特長があるため、これらの数量化が不可欠である。このため、従来は、製造間接費の中に埋没していた環境配慮活動を行うことのメリットを、他のコストから切り分け、キャッシュ・フローとしなければならない。このために、本研究ではABC(Activity-Based Costing)により、環境関連アクティビティを抽出し、それをもとに広範かつ正確にキャッシュ・フローを予測する方法を明示した。これにより、設備投資がどのような環境関連アクティビティの節約をもたらし、それがキャッシュ・フローとして予測できるかという実践的な予測モデルを明らかにした。
著者
川出 敏裕
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究期間中,JR福知山線の列車脱線事故や,福島大野病院事件等,社会の注日を集める出来事が起き,本研究の課題である事故調査と刑事司法制度に関する社会的関心も急速に高まった。そのため,本研究では,当初予定していた事故調査と刑事司法制度に関する基礎的な問題の洗い出しと,それに対応した外国法制の調査と分析に加え,とりわけ具体的な議論の高まりが見られた,医療事故に特化した研究を行った。前者については,(1)過失犯の処罰範囲,(2)事故調査機関と捜査機関との関係,(3)刑事制裁以外の制裁制度の有無とその運用の状況を軸に,調査・検討を行い,その結果を,いくつかのシンポジウムや研究会で報告するとともに,雑誌論文として公表した。その要旨は,既存の制度の下での刑事責任の追及と事故原因の究明は,一定の場合には対立する場合があることは確かであるが,刑事責任をおよそ問わないという方法は妥当ではなく,(1)業務上過失致死傷罪への法人処罰の導入,(2)捜査機関と事故調査機関との協力関係の緊密化,(3)事故調査によって得られた資料の刑事手続での利用制限等の,事故原因の解明の妨げとなっている要因を解消する方策を考えるべきということである。後者については,日本内科学会を母体とする「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」の運用状況を調査するとともに,研究の一環として,日本医師会が主催した「医療事故責任問題検討委員会」に委員として出席し,事故調査のあり方を含む,医療事故に対する刑事責任の追及にあり方に関する検討を行った。同委員会による報告書は,既に公表されている。また,東京大学大学院医学系研究科の医療安全管理学講座主催による,モデル事業の関係者を対象としたトレーニングセミナーにおいて,「事故調査と刑事手続」と題する講演を行った。
著者
岡村 吉永 森岡 弘
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

測定的な手法を用いた、IT活用型の学習指導方法について、その効果の検証ならびに教材の開発等を行った。のこぎりびき作業の学習に関する研究では、学習者の技能を類型化し、これに基づく指導方法の提案とその効果を検証する授業を行い、学習改善効果を認めることができた。また、作業技能との関わりが深い前腕部の技能評価については、被験者の技能レベルを反映すると考えらる有効な資料を得ることができた。さらに、赤外線や無線通信を使った装置の利便化や教材への応用も検討し、実用化に近づけることができた。
著者
日吉 武
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、体ほぐし・心ほぐしを音楽学習の中で実践するための指導方法と指導プログラムを開発した。そして小中学校の教育現場で実践を行いその効果の検証に取り組んだ。実践の結果、本研究で開発した指導方法や指導プログラムが、学習者の体や心をほぐし、音楽活動に楽しく取り組める効果を挙げ、さらに呼吸の改善、歌唱における発声の改善、器楽演奏における響きの改善、音楽表現の改善に効果を挙げるという示唆を得ることができた。
著者
光永 徹 徳田 迪夫
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究では樹皮の浄化作用の一つである消臭作用に着目し、樹皮抽出物中の縮合型タンニンおよびそのアセトアルデヒド付加縮合変性物のアンモニアとメチルメルカプタンに対する消臭活性メカニズムを分子軌道計算結果から明らかにすることを目的としている。平成13年度はヘッドスペースガスをGC/MSで分析する消臭試験を行ったところ、従来のデシケータ法に比べ圧倒的に再現性があると同時に、少量の試料で試験ができる点が改善され、信頼性のより高い消臭試験を確立した。その結果、樹皮由来の縮合型タンニンおよび茶抽出物のポリフェノールはアンモニアに対しては良好な消臭活性(消臭率70〜100%)を示したが、メチルメルカプタンに対しては柿抽出物以外はほとんどその効果を示さないことが明らかとなた。用いた柿抽出物は、渋柿を熱水で抽出し熟成させたものであるため、柿の生体内で蓄積されるアセトアルデヒドと縮合型タンニンが付加縮合してできる高分子不溶性物質であると考えられた。そこでアカシア樹皮由来のワットルタンニンを用いてアセトアルデヒドとの付加縮合物を合成し、その消臭活性を検討したところ、メチルメルカプタンに対し85%以上の良好な消臭活性を示すことを明らかにした。平成14年度はメチルメルカプタン分子の捕捉サイトを明らかにする目的で、付加縮合物のカテキンdimerの半経験法による分子軌道計算を行ったところ、ジフェニルメタン炭素原子上(付加縮合サイト)には分子上で一番大きなプラスのチャージが存在し、メチルメルカプタン分子の硫黄原子の大きいマイナスチャージがこのサイトに引き寄せられることが予測された。また静電ポテンシャルのマッピングの結果その分布状態が大いに消臭活性と関連することを明らかにした。
著者
櫻井 敏雄
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究では城下町など、歴史的背景をもつ都市空間や集落において、社寺建築のもつ空間がどのような関わりもってきたかを著名な、ないし由緒のある社寺を通じて分析、考察したものである。社寺建築を個別的な建築の集合と見るのではなく、それら取り巻く境内全体を境内の外部空問の変容や、その周辺の空間を含めて検討したものである。都市空間の中心部は政治・経済・商業の中心となり、人間が集住する空間を狭め、一方で中心部は空洞化する現象を生み出している。本研究で扱った社寺の境内や門前の空間は経済性を追求する都市空間によって侵食され急激に変貌したが、宗教的・祝祭的空間は二度と再生できない空間である。そのためにはこの種の空間が町とどのような意味と係わり合いをもってきたか、ないしもっているかを明らかにし、見落としていた事実を掘り起こし、現在の都市の町づくりの中で再考する必要がある。本研究では大阪では大阪天満宮と天神祭り・天神橋筋・淀川、江戸では仲見世として賑わう浅草寺・浅草神社の境内の建築構成と歴史的変容の過程を考察し、戦災にあわなかった城下町金沢では観音院と東茶屋町(伝統的建造物保存群)の成立過程、卯辰山麓寺院群との関連性などについて検討した。その結果、江戸時代における庶民と祭事の関わりや、その重要性が認識され、為政者による行楽の場としての空間が現在の都市空間に大きな足跡を残し、ゆとりと行楽の場としての役割をなお留めている事実を明らかにすることができた。
著者
福原 敏男
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

従来の都市祭礼研究においては、主として氏子町組などで祭祀組織の研究に焦点が向けられており、山車の研究は疎略に扱われてきた。都市祭礼においては山車・仮装・つくり物などに地域的特色が反映され、これらが町中を練り歩く練物は、地域社会の独自性を体現する事象として注目すべきである。今年度は、三重県津市の津八幡宮祭礼、鹿児島市の鹿児島神宮祭礼、愛媛県西条市伊曽野神社との西条祭礼、三重県上野市の天神祭礼、長崎県長崎市の長崎クンチ、静岡県島田市大井神社の島田帯祭り、仙台市東地大学図書館における仙台東照宮祭礼(絵画と文献)、岩手県花巻市の花祭り、青森県三戸町の三戸祭り、岩手県盛岡市の盛岡祭り、山梨県富士吉田市の浅間神社祭礼、埼玉県秩父市秩父神社祭礼、和歌山県闘鶏神社祭礼、愛知県津島市の天王祭り、岡山市玉井宮の岡山東照宮祭礼、栃木県日光市の日光東照宮祭礼関係の祭礼資料を収集した。
著者
谷 直樹 中嶋 節子 増井 正哉 岩間 香 西岡 陽子
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究は、祭礼時の町家および街路空間を中心としたハレの日の演出に着目して、その現状を詳細に調査し、聞き取りや文献研究によって、歴史的変遷を明らかにすることを目的に進めてきた。調査期間は、平成9年度、10年度の2年間で、現地調査は本調査・補足調査を含めて近江日野祭、越前三国祭、京都祇園祭、大阪天神祭、小浜放生会、近江大津祭、京都鞍馬祭、丹波亀岡祭、伊賀上野天神祭で実施した。現地調査にあたっては、建築班・街路班・民俗班・美術班を編成して総合的な調査分析を試みた。町家・町会所でのお飾りの実測調査、街路空間における演出要素の分布調査、祭礼の建営母胎や準備状況についての聞き取り調査、屏風の作品調査等を行った。また、祭礼関係絵図、地誌、町の共有文書などの資料を収集することによって、歴史的変遷を解明した。以上の調査研究によって、神事や山車を中心にしたものが主流であった従来の祭礼研究に、町家や街路の演出手法についての新たな知見を加えることができた。その概要は次の4点に要約できる。(1) 両側町という比較的閉鎖的な都市空間では、軒庇を利用した幔幕、提灯の飾りが定型になっている。(2) 町並みを構成する町家はふだんは閉鎖的であるが、祭礼時には通りに向かって開放的になり、展示空間として機能している。(3) 町会所や当番の町家では、山車の懸装品等が展示され、コミュニティ施設にふさわしいハレの演出が見られる。(4) 祭礼時の空間演出の研究は、民家史研究や住生活史研究のみならず、歴史を活かしたまちづくりを進める上で、建築計画学、都市計画学においても大きな意味をもつものといえる。報告書は、総論として建築・都市、美術史、民俗の3つの視点から分析を行い、事例報告で鞍馬祭、天神祭、大津祭、日野祭、亀岡祭、上野天神祭、小浜放生会、三国祭を紹介した。
著者
感本 広文 河村 庄造
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

自動車衝突事故は大きな社会問題となっている.事故後の車両停止位置と事故現場の状況から事故前の車両速度等を求める問題は,結果から原因を推定する逆問題である.本研究では車両衝突事故の逆解析手法を構築する事を目的としてニューラルネットワークによる車両衝突事故の逆解析を行い,以下の知見を得た.1.衝突後の車両運動の逆解析と車両衝突の逆解析を組み合わせる事により,二車両の直角側面衝突に対して車両停止位置から衝突初速度を求める逆解析を行った.その結果,実用的に良好と思われる精度で車両の衝突初速度を求める事ができた.今回は時間の都合上,直角側面衝突のみを扱ったが他の衝突形態についても逆解析を行ってニューラルネットワークによる車両衝突事故再現の再現精度と適用範囲を調査していく必要がある.2.本研究でニューラルネットワークの教師データ作成に用いた衝突後の車両運動解析は比較的詳細な車両モデルによって精度の高いシミュレーションが行われていると考えられる.一方,車両衝突解析は剛体衝突理論によるものであり,衝突前後の二車両の運動量は保存され,物理的には合理的な結果を与えるが,車両の変形形状や衝突中の車両移動等の詳細は考慮されない.したがって現段階では例えば本手法を詳細推定の第一次近似として用いる等,使用法を適切に選択すれば合理的かつ効率的な事故再現の有効な補助手段になり得る.3.本研究では剛体衝突理論ならびに車両運動シミュレーションによってニューラルネットワークの教師データを作成したが,他の手法あるいは実際の事故データによって,系統的で信頼性の高い教師データが利用できれば,本研究で述べた逆解析の枠組みは同様の手法で適用する事ができる.
著者
田辺 誠 小宮 聖司
出版者
神奈川工科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

地震時に鉄道車両が軌道構造上を高速走行すると、車両と軌道構造間で激しい連成振動・衝撃現象が生じる。本研究では、地震時の高速走行車両と軌道構造間の連成振動・衝撃現象を、有限要素法とMultibody Dynamicsを用いて数値的に解くためのシンプルで効果的な力学モデルと数値計算法が提案される。具体的には、地震時の車体、台車、輪軸間の衝撃現象を考慮した車両の運動方程式、地震時の繰り返し荷重によってひずみ-応力関係が履歴依存となる軌道構造の力学モデル、および高速走行車輪のレール上での飛び上がり、接触衝撃や脱輪の現象を表現する車輪とレール間の接触衝撃の力学モデル等が明らかにされ、地震時での軌道上の高速走行解析で必要となる,大規模な車両と軌道構造の非線形運動方程式を効果的に解くための数値計算法が開発された。また本研究で得られた力学モデルと、連結車両と軌道構造の非線形運動方程式を効果的に解くための数値計算法にもとづき、地震時の高速走行連結車両と軌道構造間の連成振動・衝撃解析のシミュレーションプログラムが開発され、実際の地震波を入力して、高速走行連結車両と軌道構造間の連成振動・衝撃解析を行い、与える地震波や走行速度によって生じる、車輪のレール上の飛び上がり、接触衝撃、脱輪や、軌道構造損傷の発生・発展のメカニズムが数値的に解明された。
著者
高槻 成紀 三浦 慎吾 玉手 英利
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

金華山では1966年以降初期は断続的に、最近10数年は毎年ニホンジカの個体数調査がおこなわれている。戦後減少していた個体数は1960年代までには500頭前後にまで回復し、安定状態にあったが、1984年に厳冬の影響で約半数が死亡した。これは密度非依存的な減少であるが、しかい半数は残ったので爆発崩壊型の変動パターンとも違う。1997年にも大量死亡が起きたが、このときは厳冬ではなかった。現一在は500頭前後で再び安定している。また一部の人慣れした集団は過去15年間、完全な個体識別により、全個体の年齢と母子関係がわかり、この間に死亡した個体の年齢も明らかになった。また全個体は原則として毎年春と秋に体重、外部計測などをおこなっている。またほとんどの個体は採血をすることによりDNA情報も確保されている。これらをもとに、いくつかの解析をおこなった。食性はイネ科に依存的で、最近ではシバへの依存度が高くなっている。全体に栄養不足であり体重は本土個体に比較して30-40%も少なく、骨格も小型化している。オスは5,6歳まで成長し、このうち20%がナワバリをもった。優位ではあるがナワバリをもてないのが10%、残りの70%は劣位であった。ナワバリオスは交尾の67%を独占した。メスは初産が4歳までずれこみ(通常は2歳)、60%は4歳までに死亡した。出産はほぼ隔年で妊娠率は50%であった(健康な集団では80%以上)。育児年の夏は体重が増加できなかった。父親が特定できた子の父親は交尾回数と対応して、半数以上がナワバリオス約1割が優位オスであった。遺伝子頻度の変動はおおむね機会的であり、選択は働いていないようである。
著者
黒川 勲
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

交付申請書の「研究の目的・研究計画」に対応した研究実績の概要は以下の通りである。1.ホッブスの物体論とスピノザのコナトゥス論との比較を通して,コナトゥスに関してホッブスがもっぱら位置の移動としての運動の意義を見いだすのに対して,スピノザはものの本質として包括的・有機的に運動を説明する方向性が見いだせる。2.デカルトの物体的世界とスピノザの物体的世界の構成に関する比較を通して,デカルトの物体論は物体の本質を不完全性のもとに位置づける伝統的な把握であるが,スピノザの物体論は延長に無限性・完全性を認める特徴的なものであることが明らかになった。3.スピノザのコナトゥス論の中世哲学との連関の検証については,関連する文献・先行研究の資料収集に努めるとともに,『Suarez Opera Omnia』の物体論・運動論及びヘールボールド『Meletemata philosophica』の著作における「原因性」・「実体性」に関する該当箇所の翻訳を試みた。4.スピノザのコナトゥス論及び物体的世界の構成に基づき,スピノザ哲学の頂点である「最高善」・「第三種の認識」について検証を行った。すなわち,最高善とは「コナトゥスの自覚化」において見いだされるものであり,第三種の認識は人間存在全体の統合的本質である「コナトゥスの認識」に他ならないのことが明らかになった。
著者
黒川 勲
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

交付申請書の「研究の目的・研究計画」に対応した研究実績の概要は以下の通りである。1.ホッブスの物体論とスピノザの物体論との比較,及びコナトゥスの意義の抽出については,ホッブスの物体論の精査と文献・先行研究の資料収集に努め,一方スピノザ哲学の成立史に関係する文献・先行研究を網羅的に収集した。コナトゥスに関してホッブスがもっぱら位置の移動としての運動の意義を見いだすのに対して,スピノザはものの本質として包括的・有機的に運動を説明する方向性が見いだせる。2.デカルトの物体的世界とスピノザの物体的世界の構成に関する比較,及びコナトゥスの位置付けについては,その結果,デカルトの物体論は物体の本質を不完全性のもとに位置づける伝統的な把握であるが,スピノザの物体論は延長に無限性・実体性を認める特徴的なものであることが明らかになった。3.スピノザの物体論の中世哲学との連関の検証については,関連する文献・先行研究の資料収集に努めるとともに,スアレス『Disputationes Metaphysicae』及びヘールボールド『Meletemata philosophica』の著作における「完全性」・「無限性」の該当箇所の翻訳を行った。4.スピノザの物体論の核心は,無限性を中心とする特徴的な神理解にあり,その根幹は実体性であることが明らかになった。
著者
荻野 弘之 大橋 容一郎 田中 裕 渡部 清 勝西 良典 谷口 薫
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

過去4年間の研究を集約して以下のようなまとめを得た。(1)西洋古代哲学の領域では、実践的推論の結論を字際の行為に媒介する「同意」の概念から派生した「意志」に相当する「われわれのうちにあるもの(如意)」(epi hemin)に関して、後期ストア派、特にエビクテトスとマルクス・アウレリウスにおける展開が跡づけられた。これについては07年度末までに、単行本として成果の一端を刊行する予定。(2)アウグスティヌスの内面的倫理思想の分析として、正戦論の祖とされる聖書解釈の検討により、中世盛期スコラ学の自然法思想との相違が明らかになった。これらについては単行本の形ですでに刊行された。(3)同時にこの概念が、仏教的な「如意」の思想として近代日本思想史に接続する状況を跡づけた。その結果、西川哲学を、孤立した(独創的な)日本独自の思想としてのみならず、明治期の西洋哲学の受容史のうちに置き据えることにより、これまで仏教、特に禅との比較でのみ論じられがちであった西田哲学を、キリスト教の受容史の視点から読み直すという新しい視座を獲得しつつある。これについては渡部によって引き続き研究が継続される。西田に関しては新カント派を経由するかたちで大橋によって、また東西の比較霊性史の見地から田中によっても積極的な提題があり、とりわけ「自覚」と「意識」「人格」の概念的な結びつきが改めて問われることになった。清沢満之の新しい全集の刊行もあって、今後はストア倫理学と仏教思想、キリスト教修道思想の微妙な関係を歴史的、構造的に問題にしていく可能性が開かれつつあることは大きな前進といえよう。(4)残された課題も依然として多い。そのうちでも、近年英米圏の哲学において「後悔」「自信(自負)」といった感情の分析が、モラル・サイコロジーの手法によって、また哲学史研究としても隆盛を見せている、こうした研究動向を睨みながら、従来の思想史の読み直しがどういった可能かについては、今後の課題でもある。
著者
岡田 謙一
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

近年,世界的に様々な分野においてデジタルデータの圧縮技術や伝送技術の進歩により,情報のデジタル化が進んでいる.放送業界においてもデジタル化が進展しており,放送の主流はアナログ放送からデジタル放送へと移行しつつある.一方,大学内の情報環境においては数百Mbpsの高速LAN環境やPCの普及などデジタル情報を取得するための通信基盤が整っている.実際に,大学ホームページでの学内行事などさまざまな情報を取得できるだけでなく,Web上での履修申告というのが主流になっている.しかし,大学内放送ではアナログの音声放送のみであり,しかも授業の妨げになるという理由からあまり頻繁に利用されていないのが現状である.そこで,本研究では次世代のデジタル校内放送を想定した情報配信プラットフォームを提案する.この次世代の校内放送では音声放送のみならず,現在の掲示板に貼られている情報,学事課や図書館からの配布情報などさまざまなコンテンツを対象とすることを想定する.また,コンテンツの形式においても静止画のみならず,動画の作成技術の進歩に伴い動画形式のコンテンツも増加することが予測されるため動画も対象とする.このような想定環境において,以下のような特徴を持つ提案を行った.(1)通信の信頼性を確保できるユニキャストの利点、そしてデータ受信者数が増加してもデータ配信のコストがそれほど変化しないため,クライアント数が非常に多い場合に通信品質を落とすことなく情報配信ができるブロードキャストの利点の双方を生かした通信方式,(2)ユーザ全員が放送することができる自由な放送を可能にすること,(3)放送場所,放送対象,放送チャンネル,放送重要度,有効期間という属性を付加することによる柔軟な放送,(4)静止画の再生時間,繰り返し放送間隔を設定し,コンテンツの属性である放送重要度と有効期間から決定される放送スケジュール.
著者
生越 重章 秦 正治 吉田 彰顕 西 正博
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

(1)伝搬損失距離特性市街地(岡山・広島)、郊外地(高松・岡山)、丘陵地(広島・岡山・高松)を自動車で走行しながら、UHFテレビ放送波の受信レベルを測定し、伝搬損失距離特性を求めた。(1)市街地では、平均建物高と送信アンテナ高との関連で見通伝搬の影響が大きく、伝搬損失は、奥村-秦式より10dB程度小さい。伝搬定数は、奥村-秦式の値2.8とほぼ一致する。(2)郊外地では見通伝搬が顕著であり、伝搬損失は奥村-秦式より10dB程度小さい。高松では、変動幅が10〜20dB程度と大きい。伝搬定数は、奥村-秦式の値より大きい。(3)丘陵地では、伝搬損失は奥村-秦式とほぼ一致する。伝搬損失の変動幅は20〜30dB程度と大きい。伝搬定数は、広島では奥村-秦式の値とほぼ一致し、岡山、高松では奥村-秦式の値より大きい。これから、固定送信・固定受信を前提としたUHFテレビ放送帯を用いた通信・放送融合型情報ネットワークの構築においては、上記結果を考慮したシステム設計を行う必要があることを明らかにした。ダイバーシティ受信時にも見通伝搬が顕著であることが示された。具体的な改善効果については今後の検討を待たなければならない。(2)システム関連事項(1)通信放送融合システムの形態下りにテレビ放送、上りに移動通信システムの適用を前提として、セル構成と周波数割当について検討した。overlapped法とsuperimposed法の特性について比較した。(2)サービスエリア評価走行受信を前提としたシステムのサービスエリアを評価した。受信レベル変動幅が大きいことにより、デジタル放送では、従来のアナログ放送エリアの35〜55%に減少する可能性があることを指摘した。(3)情報配信アルゴリズム利用者のアクセス頻度、データサイズ、リンク伝送速度などに基づいて、次のフェーズに配信するデータを適切なリンクに割り振る方法について有効性を明らかにした。
著者
鈴木 治
出版者
鳥羽商船高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、アナログ放送にかわるデジタル放送を船舶で受信し、船舶でも家庭用の受信装置と市販のアンテナでハイビジョン放送が受信可能であることを確認した。日本のデジタル放送は、十分な電界強度を得られれば、陸上と同じ画質を得られることがわかった。しかし、既存の無指向性アンテナを使用する場合、アナログ放送に比べると、受信可能範囲が狭く、本研究で開発した受信系のシステムが必要となることがわかった。