著者
本田 徹
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

高効率発光ダイオードがダブルへテロ構造および量子井戸、pn接合により実現されているが、マイクロディスプレイ応用の観点から、製作コストの点からデバイス構造の抜本的改革が必要とされている。本研究ではショットキー型発光ダイオードに着目し、低コスト集積化応用およびその発光効率向上を検討してきた。本素子は、逆方向リーク電流が少ないことが、素子の動作原理上要求される。窒化物上に蒸着したアルミニウム薄膜の大気中酸化およびその大気中エッチングにより低リーク電流を実現した
著者
金森 修
出版者
東京水産大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

最近のクローン羊の事例などにおいても明らかなように、医学、生物学などの生命科学は専門内部での議論にとどまることなく、その成果が社会的、思想的に外挿されることで社会的波及性をもつ。本研究は、科学内在的に当時の科学の実質的内容を追いかけると同時に、それらの成果が当時の社会の思想的側面にどのように波及していったのかを具体的に調査することを目的とする。この問題設定の霊感源は、筆者が長く研究を続けてきたフランスのエピステモロジーに根ざすものである。この研究が始まる時点で予定していた進化論思想史の一端としてのル・ダンテク論や、19世紀生理学史を彩るクロード・ベルナール論などはすでに完了した。ただしベルナール論については、共著者まちの状態で、刊行にはまだしばらく時間がかかる。平成9年度は黎明期細菌学と黎明期免疫学の研究を主に予定していたが、その後者の研究はすでに開始されたが、前者は依然未完了に留まっている。ただ資料収拾は完了した。その代わり、昭和期に活躍した特異な生理学者、橋田邦彦の調査が進み、専門雑誌にその研究成果を発表することができた。また、今世紀の代表的文芸理論家であるバフチンが若い頃、精神分析にどのような対応を示したのかをめぐる論考、さらにヘッケルの生物発生原則が精神分析や解剖学など、周辺領域にどのように受容されてそれぞれの領域で独自の論考の霊感源となっていたのかをめぐる論考を完成することができた。総体的にみて、三年間続いた本研究は、一九世紀後半から二十世紀初頭という比較的限られた時代状況のなかにおいてさえ、実に多様なアプローチが可能であることを改めて私に確認させてくれた。研究成果としては、進化論思想史、薬理学思想史、免疫学思想史、生理学思想史、現代の実験室研究、生物発生原則という単一概念の外挿研究など、いろいろな場面での多角的な研究ができたと思う。
著者
西沢 富江 春日 規克
出版者
至学館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

筋損傷は一過性除神経を引きこす。運神経終末と筋の再接合期に、筋線維は多重神経支配を受ける。その後、余剰神経が排除されて単一神経支配の状態に戻る。筋損傷から再生過程に起こる余剰神経排除の選択はその後の筋線維タイプの決定を左右するだろう。一方、余剰神経の選択的排除には運動が大きく関与し、筋線維から運動神経終末へ何らかの情報が発信されている可能性が考えられる。筋の情報としてミオシン重鎖mRNAの発現量があげられる。そこで本研究では、一過性除神経期の神経筋接合部形態と運動がミオシン重鎖mRNA発現量に及ぼす影響から仮説を検討した。結果、運動に伴うミオシン重鎖mRNA発現量の増加、筋線維タイプ移行が示された。一過性除神経期の運動は、筋から神経への情報伝達に関与し、余剰神経の排除に影響を及ぼす可能性が示唆された。
著者
齊木 久代 広渡 純子 千葉 武夫 上田 哲世 中川 香子 丸尾 喜久子 上田 哲世 中川 香子 広渡 純子 千葉 武夫 丸尾 喜久子 金山 千広 井頭 均 清原 知二
出版者
聖和大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

保育者が問題と考えている自分自身の"対人的不安"傾向と保育者としての熟達とに関連性がみられた。また、短期大学在学中の「保育者としての自己評価」の変化過程を検討したところ、授業や実習によって自己評価が高まるだけでなく、一時的に低下が見られることもあり、その低下は不安傾向の高い者に、より見られる傾向があった。一方、授業の成績の芳しくない学生には、自分自身を過大評価する傾向がみられた。さらに、歌唱指導やストーリーテリング指導時の顔面眉間部の皮膚温を赤外線サーモグラフィで測定した結果、不安感や自律神経系の反応性と皮膚温の変化とに関連がみられた。
著者
中谷 奈津子 森田 美佐
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究でいう「育児をめぐる迷惑意識」とは、社会全体が抱きがちな育児に対する迷惑意識のことをいう。「育児をめぐる迷惑意識」の実態と形成要因、またその意識が育児を担う人々に与える影響について明らかにし、育児不安や出生意欲との関連も検討した。自分の子育てについて、配偶者や祖父母、迷惑をかけたと回答するものは多く、職場や公共の場での迷惑も指摘された。育児をめぐる迷惑意識は、育児不安や出生意欲と関連しており、育児をめぐる迷惑意識を規定する要因として母親規範意識や世間の目が考えられた。
著者
菊池 慶子
出版者
聖和学園短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

今年度は研究の最終年であったが、これまでの作業に引き続き、本研究に資するための図書の購入、および関連論文、資史料等の収集作業に取り組むとともに、収集した史料の一部について分析・解読を進めた。また、研究の成果を報告書として作成し整理する作業にかかり、報告書には期間中に発表した2本の小論のほか、本研究に関わる研究史を整理して「近世社会のなかの高齢者-研究の現状と課題」と題して収録した。「近世社会のなかの高齢者」はこの3年間に収集した資史料の分析と文献の整理を行いながら、研究史を振り返り問題点と課題をまとめたものであるが、あらためて近世社会の高齢者介護のありかたをみるうえでの視点に気がついた。これまで武家の日記からは、武士が親の看病や看取りにさいして「看病断」の制度を利用して自ら介護にあたる姿を確認していたが、日記は当主の目で当主自身の行為を中心に記録されている。当主の妻や母を始め他の家族員がそのさいどのように動き、役割を持っていたのかという、家族全体の動向を捉えた上で当主である男性の看病介護の中身を位置づける必要があり、これを通じてはじめて近世家族の高齢者介護のありかたの特質がみえてくることになる。また、庶民家族の扶養介護の問題では、個々の家族の経済状況が大きく影響するほかに、地域社会の扶助役割の役割が大きかったが、地域は直接的な介護負担を避けて金銭で負担を解決しようとする動きや、村を越えた広域地域で対応するなどの動向も確認できた。以上の点は期間内に個別論文としてまとめることはできなかったが、準備を進めている段階であり、近いうちに発表したいと考えている。
著者
伊藤 驍 桜田 良治 長谷川 武司
出版者
秋田工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

積雪寒冷地域の凍結・融解災害の地域特性を調査研究するため、平成12年度〜平成13年度に亘って行ってきた事を要約すると次のようになる。(1)先ず初年度は屋外観測用の設備購入を行う傍ら、現地における地温測定作業の測定位置を秋田県建設交通部と協議し、平成13年12月に県道沿いに観測機器を設置し、観測は平成14年2月から開始し、現在も実観測を行っている段階である。(2)道路築造計画中の路床土試料の凍結実験を行うため、凍結・融解実験装置の製作に取り組み現在室内実験を行っている。一方、小型低温環境試験機を購入し、現地から採取した試料の凍結・融解繰り返し試験にも着手した。(3)凍結・融解現象の地域的特性解明のため、全国各地の気象資料の収集を行い、その資料解析を行った。その研究成果については関連学会で発表してきた。その主な内容は以下の通りである。凍結指数は近年減少傾向にある。スペクトル分析によると札幌で11年、横手や湯沢など本州内陸部で9年程度に卓越周期がみられ、厳冬期1,2月の日最低気温の時系列解析によると、札幌、旭川など高緯度帯で温暖化現象が著しかった。最近50年間で札幌で約3℃、秋田で2.5℃、福井で1.5℃前後の上昇があったことをつきとめた。この現象は直接凍結指数の変動にも現れていた。(4)秋田北空港へのバイパス取り付け工事現場から路床土を採取し、その地盤工学的実験を行った。その結果、原試料は火山灰質でこの路床土が凍結・融解現象を起こさず融解軟弱化しない条件は、生石灰4%混入土が最適であることを見いだした。(5)2001年1,2月は各地で凍結災害・豪雪災害が報じられたが、これについて東北地方の凍結指数の分布調査を行ったところ、全般的に凍結指数が大きく、被害を裏付ける結果を得たが、特に沿岸部より山間部で大きかった。(6)凍結指数、凍結深、海抜高度間には一定の法則(対数分布則)があることが見出した。この分布則の係数は土地それぞれで異なり、いわゆる地域係数であることを見い出した。(7)凍結・融解現象のうち地盤破壊に強く関わる温度幅Tmin≦-4℃〜Tmax≧+4℃の出現率は近年低めに推移し、沿岸部では極度に少なく、温暖化現象は積雪寒冷地帯にも着実に忍び寄っていることを検証した。
著者
重藤 寛史 谷脇 考恭 菊池 仁志
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

目的:難治性てんかんの焦点切除術以外の方法として,頸部を冷却することによりてんかん閾値を上げる方法をラットで試みた.方法:1.電位に依存して温度が低下するペルチェ素子を用い,電圧をコントロールして素子の表面温度を計測. 2.ペルチェ素子を用いず直接凍結エチレングリコールを頚部に接触循環させ冷却開始15分後の脳深部温度を計測(6匹).3.刺激・記録電極を設置し,非麻酔下覚醒状態で頚部冷却群と非冷却群でてんかん性放電(afterdischarges:ADs)誘発刺激閾値,ADs持続時間を比較(7匹).4.追加実験として冷却による皮質イオン分布に着目し,両側海馬周囲皮質外側硬膜下に5mm×5mmの銅板設置.非麻酔覚醒下で左海馬周囲皮質に2mA,3秒の陰性,続いて1mA,6秒の陽性直流電流を通電.陰極刺激時と非刺激時で海馬内電極によるADs誘発刺激閾値を計測(10試行).結果:1.冷却面と反対側の放熱面の温度上昇がペルチェ素子全体の温度を招き冷却効果を得られなかった. 2.非冷却側30.3±0.7℃,冷却側29.0±0.7℃で有意差を認めなかったものの冷却側で1℃の温度低下が観察できた.3.ADs誘発刺激閾値は冷却群2.0±0.7mA,非冷却群1.9±0.4mA. ADs持続時間は冷却群10.3±6.3秒、非冷却群9.2±3.7秒で有意差を認めなかった. 4.計10対記録.直流下3.7±2.7mA,非直流下2.3±1.2mAで,直流下で誘発閾値が有意に高かった.(P=0.0149)結論・考察:頚部冷却で15〜20度の脳温低下を得ることは困難であった.冷凍エチレングリコールで頚部冷却しても誘発4閾値に有意差は得られなかった.追加として行った直流電流を皮質に面分布させた電極に流すとてんかん性後放電の誘発閾値が上昇した.今後はこの方法が非侵襲的な難治性てんかんの治療方開発の礎になると期待している.
著者
前川 泰之
出版者
大阪電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

雨域分布に関連した降雨時の衛星通信回線のネットワーク動作特性については、まず本学(寝屋川)において方位角が約30°離れた3衛星間でのサテライトダイバシティ効果の検討をそれぞれの降雨減衰の測定値を用いて数値的に検討を行なった。降雨減衰値には、SCC、N-STAR、およびBSのKu帯あるいはKa帯電波を同時に測定したデータを用いた。一方、20〜50km距離が離れた数地点間におけるサイトダイバシティ効果についても、同様に測定値に基づく数値実験的な評価より総合的に検証を行った。測定地点としては、本学(寝屋川)と本学から北東に18km離れた京都大学宇治構内、および約42km東方の同信楽MUレーダーサイトを選び、SCC(スーパーバード)およびBS電波受信装置をそれぞれ設置した。そして降雨減衰同時の累積発生時間率分布について2003年から2004年のほぼ2年間にわたって蓄積された各測定点のデータからサイトダイバシティ効果の評価を行った。その結果、Ku帯において1地点では年間時間率0.1%程度発生する3〜4dB程度の減衰量は、2地点間でサイトダイバシティによる切替え受信を行うことにより、ほぼ0.01%以下に減少させることが可能であることが示された。また上記の3地点間での減衰発生の時間差から雨域の移動速度と移動方向の推定し、2003年から2004年の2年間に得られた約100例の降雨事象について、天気図での前線や低気圧等の移動速度や方向と比較を行った結果、両者の間に0.9を超える良い相関があり、数十km程度の距離では前線とほぼ垂直な方向へ雨域が全体的に移動していることが本測定により実証された。そしてサイトダイバシティ効果については、前線と垂直な通過方向に2局を配置するほどその効果が上がることが統計的に示された。また、サテライトダイバシティでの伝搬路の差による効果についても同様の傾向が認められた。
著者
古屋 秀隆
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

(1)分類日本海産アオリイカから1種(Dicyema koshidai)、土佐湾産スナダコから3種(Dicyema irinoense, Dicyema tosaense, Dicyema sphaerocephalum)、瀬戸内海産イイダコから3種(Dicyema akashiense, Dicyema awajiense, Dicyema helocephalum)、土佐湾産ヨツメダコから2種(Dicyemas balanocephalum, Dicyema leiocephalum)およびの沖縄産コブシメから1種(Dicyemennea ryukyuense)、10新種を発見し記載した。(2)系統と進化ニハイチュウ類の系統と進化について、次のことを明らかにした。1)ニハイチュウの極帽形態が宿主の頭足類間で収斂していることが示唆された。2)ニハイチュウの生活史戦略を明らかにした。3)2科6属のニハイチュウ類の滴虫型幼生の細胞数と細胞構成を明らかにした。3)頭足類の腎臓の構造とニハイチュウ類の寄生状況を比較検討した。4)ニハイチュウと頭足類との関係(宿主特異性や共進化)を明らかにする前段階として、まずミトコンドリア遺伝子(16S rRNA,12S rRNA,COI)を用いて日本沿岸産の頭足類33種の系統関係を明らかにした。ニハイチュウの系統関係に関しては、現在までにアオリイカ、マダコ、イイダコ、アマダコ、スナダコ、コウイカ、カミナリイカ、シリヤケイカに寄生する16種のニハイチュウについて、ミトコンドリアCOI遺伝子の塩基配列を明らかにした。現段階で、ニハイチュウ類の系統に関しては、同じ宿主の頭足類にみられる種どうしは、異なる宿主の間の種よりも近縁であり、ニハイチュウ類は頭足類と共進化してきたことが示唆された。
著者
前川 泰之
出版者
大阪電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

大阪電気通信大学(寝屋川市)構内の衛星通信実験局で過去15年間以上にわたり連続測定を行ったCS-2、CS-3、およびN-StarのKa帯ビーコン波(19.45GHz、右旋偏波、仰角49.5°)を用いて、各種前線通過時の降雨減衰の累積時間と継続時間特性を詳しく調べた。その結果、4dB以下のしきい値では、温暖・寒冷・閉塞前線、5dB以上のしきい値では、停滞前線や夕立・台風による降雨時に発生する減衰がより大きな累積時間率を占めることが分った。また、継続時間分布は3〜10dB程度のしきい値に対し、寒冷前線、停滞前線、夕立・台風の順に大きくなり、しきい値が低い場合には温暖前線が占める時間率が大きくなり、しきい値が高くなると停滞前線南側の影響が大きくなることが示された。同様に過去13年間にわたって連続測定されたKu帯放送衛星電波(11.84GHz、右旋偏波、仰角41.4°)を用い、各種前線通過時におけるKa、Ku両周波数帯間の降雨減衰特性の比較検討を行なった。その結果、減衰比の年変化については、梅雨期に停滞前線上を低気圧が通過する際に発生する降雨では減衰比が大きいのに対し、秋雨期の停滞前線の南側で発生する降雨では夏季の夕立と同様減衰比が小さいことが分った。この変化は主として雨滴粒径分布の差異で生じ、前者は霧雨型、後者は雷雨型との対応が示された。さらに、過去4年間(1995-1998)測定されたKu帯JCSATの上下回線(14/12GHz)の降雨減衰量を用い、軌道位置110°(BS)、132°(N-Star)、および150°(JCSAT)の各衛星間でサテライトダイバシティを行なった際に期待される不稼働率の改善度について数値的に検討を行なった。計算は降雨事象毎の雨滴粒径分布に応じて減衰係数を変換し、衛星間の測定値をKa帯(19.45GHz)あるいはKu帯(11.84GHz)に換算することにより行なった。その結果、Ka帯では10〜20dB(Ku帯では3〜10dB)程度の減衰量に対し、約20〜50%の不稼動率の改善が見込めることが分った。
著者
大津留 厚
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

第一次世界大戦初期のハプスブルク帝国では、一方で総力戦体制に向けて諸政策が取られたが、他方で難民、敵性自国民、捕虜兵など総力戦体制から排除された人々を抱え込むことになった。
著者
中村 隆 原 英一
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

ディケンズの後期の小説と1860年代のセンセーション・ノヴェルの相互の影響関係は、従来考えられていたよりもはるかに密接である。主題に関する幾つかの局面を検証することにより、これら相互の影響関係は明白となる。それは以下のように記述できる。1.物語のヒーローよりもむしろヒロインが中心的な位置を占める。2.ヒロインは重婚、不倫などの性的な逸脱を犯す。3.ヒロインは、夫殺し、放火、毒殺などの犯罪を犯す。4.ヒロインに酷似したもう一人の女性が登場し、二重人格の主題が形成される。5.二人の女性のアイデンティティが混同され、「幽霊」の主題が形成される。6.ヒロインの犯罪・秘密を暴くものとして男性の「探偵」が登場する。7.男性の探偵は、ヒロインの秘密を暴き、ヒロインの破滅を目論む。このような一般的法則に近接するディケンズのセンセーション・ノヴェル的作品として、『ドンビー父子』、『ディヴィッド・コパフィールド』、『荒涼館』、『辛い時代』があり、同様にまたウッド夫人とメアリー・ブラッドンの幾つかの作品(『イースト・リン』、『ハリバートン夫人の難題』、『アシュリダットの影』、『オードリー夫人の秘密』、『医師の妻』、『ジョン・マーチモンの遺産』など)も上記の条件を満たすことが明らかにされた。ディケンズの作品とセンセーション・ノヴェルの密接な関係を示すさらなる証拠として1869年から70年にかけて、ディケンズによってなされた「サイクスとナンシー」の公開朗読がある。そこでは、センセーション・ノヴェルに通底する「夫殺し」と「幽霊」の主題が、娼婦ナンシーを通して前景化する。
著者
豊見山 和行
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究の目的は、近年注目され、かつ多くの成果をあげつつある漂流・漂着という歴史的事象に着目し、琉球史の再構成を図ることにある。漂流・漂着という歴史的事象は、偶発的な海難事故である。しかし、前近代において、それらの難船した船舶や人員に対して各国がどのように対応、処遇していたかという点では、それぞれに差異があった。その差異を検討することは、それぞれの前近代国家が海上交通や海域をどのように認識し、陸の権力として海上交通や海域をどのように処理していたかを明らかにすることにつながると言えよう。そのような問題意識から本研究では、琉球史における漂流・漂着の事例を探索することと同時に、漂流・漂着の前提となる琉球における海運の問題へのアプローチを行うこととした。これまでの琉球史における漂流・漂着の研究は、それ相応の蓄積が行われてきた。それらは、主に琉球列島へ漂着した日本船、朝鮮船、唐船、そしてオランダ船などである。他方、琉球船が中国、朝鮮、東南アジアなどへ漂流・漂着し、それらがどのように処遇され、送還されたかの議論も積み重ねられつつある。しかしながら、日本へ漂着した琉球船に関する研究は十分なものとは言えない状況にある。そのため、このような研究状況を打開するには、まず日本へ漂着した事例とそれに関する史料の探索が必要となる。そのような視角で史料探索した結果、四点の漂着関係文書を発掘することができた。旧来、注目されることのなかった史料であり、今後、琉球船の漂流・漂着関係を検討する上で重要な位置を占めるものと言えよう。本報告書は、第一部<論考篇>と第二部<史料篇>で構成されている。その第二部に上記四点の漂着関係史料を収録した。本研究のもう一つの柱は、琉球における海運の研究である。漂流・漂着という事象の前提には海上交通がある。つまり、海上交通・海運の状況が漂流・漂着という事象を生み出すのであり、漂流・漂着と海運は表裏の関係にあると言えよう。そのような視点で琉球の海上交通・海運を回顧した時、旧来の研究において琉球列島域内の海上交通研究はけっして豊かなものとは言えないことが分かる。むしろ、不十分な研究状況が続いており、そのような研究状況を打開する上でも関係史料の探索・発掘は不可欠の作業と言えよう。そのため、本報告では論考篇では海上交通、海運に関する論考を中心に編むこととした。さらに、史料篇においても三点の海運関係史料を収録した。
著者
梶原 毅 綿谷 安男 佐々木 徹
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究期間中に明らかにしたことは概略次のとおりである。1.左右内積をもつ可算生成ヒルベルトC^*双加群が有限指数をもつことと、conjugationを持つことが同値であることを証明し、また有限指数をもつ可算生成ヒルベルトC^*双加群の例を多数構成した。また、一般に直交しない可算生成基底の性質についても明らかにした。これらの結果は、"Jones index theory for Hilbert C^*-bimodules and its equivalence with conjugation theory"において刊行した。2.有理関数によってリーマン球面上に与えられる複素力学系からヒルベルトC^*双加群を構成し、それからPimsner構成によって作られるC^*-環について、単純性と純無限性を証明した。また、いくつかの例において、K-群の計算を行った。これらの結果は、"C*-algebras associated with complex dynamical system"において刊行した。3.縮小写像の組から作られる自己相似集合に対しても、ヒルベルトC^*-双加群を構成し、Pimsner構成によってC^*-環を構成した。適当な条件のもとで、構成されたC^*-環が単純かつ純無限になることを示した。代表的な自己相似集合の例であるシルピンスキギャスケットに対して二通りの構成法で作られたC^*-環が同型でないことをK-群によって示した。またコッホ曲線から作られたC^*-環のK-群も計算した。これらの結果は、"C^*-algebras associated with self-similar sets"において刊行した。4.複素力学系、また自己相似写像から作られるヒルベルトC^*双加群に対して、可算基底の具体的な構成を行った。これはもともとテント写像の場合にウエーブレット基底にヒントを得て構成したものを一般化したものであり、具体的な可算生成ヒルベルトC^*双加群に対して初めて構成されたものである。これはまだ刊行された論文には含まれていないが、複素力学系から作られるC^*-環上のKMS stateの分類を考える際に大きな助けになった。5.超越関数からも同様なやりかたでC^*-環を構成して研究した。特に指数関数から作られる場合に単純になることを示し、日本数学会等で公表した。ただし、この場合ピカールの定理により無限遠点が真性特異点になり、これをどのようにうまく扱うかが未解決な問題である。
著者
高松 寿夫 新川 登亀男 吉原 浩人 陣野 英則 河野 貴美子 後藤 昭雄 波戸岡 旭 仁平 道明
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

平安時代前期の漢詩文集、とりわけ『菅家文草』の諸本調査を行い、本文の異同、諸本の系統についての検討を行い、新たな見識を得た。2種版本(寛文版本・元禄版本)の本文異同については、漢詩部分(前半6巻)については、一覧にした冊子も作成した。渤海使関係詩の注釈作業を行ったが、その際にも、『菅家文草』諸本調査の成果が役立った。渤海使関係詩の注釈成果は、『早稲田大学日本古典籍研究所年報』誌上に公表した。
著者
加藤 雪枝 橋本 令子 雨宮 勇
出版者
椙山女学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

現代の社会生活においては、毎日の生活の中に人間が本来求めている方向性を見極め、安らぎのある生活空間を特に必要としている。本研究は最も身近な環境すなわち、生活環境の色、室空間容積と照明や音環境などを整え、日々のストレスを解消していく環境とは何かについて研究するものである。生理学的には刺激に対する人体反応の評価方法として有効な中枢神経活動や自律神経活動の測定方法を用いた。中枢神経活動の測定には脳波計を用い、自律神経活動の測定では心電計を用いた。心理学的にはSD法を実施し、因子分析などの解析法を用いた。生活環境下の光色刺激、室内空間や被服の色などの身近な生活環境の色彩について心理的・生理的影響を調べ、比較検討した。対象が異なっても、心理評価の活動性の因子は刺激の高い色において高まり、その結果、α波含有率が抑制され、HF成分は小値となり、評価性の因子が低下することが確認された。音刺激を受けるとα波含有量が増加する環境音は、小鳥のさえずりと風鈴であり、リラックス状態を示した。また花火は、情景を連想して興奮状態となるが、快適な気分となることが確認できた。ヒーリング音楽は、音楽開始後にα波含有量が増加し、音楽を聴取した場合の影響がわかった。そしてヒーリング音楽は、単調で落ち着く音楽が生理評価と心理的評価においてよい影響を与えることが明らかとなった。好みの音楽は、快適感を得る音楽と明るく元気のでる音楽が生理的、心理的評価によい影響を与えた。空間容積、内装色、照度の違いによる快適感の実験である。空間容積では、天井高が2.3〜2.7mで見ると4種の面積のうち6、12畳の長方形空間が快適感が高く、天井高2.3mに限定すると4,5畳が最も高いことがわかった。照度では、270Lx近辺で快適性の高い範囲があり、これは被験者の自室の大きさに近いことが影響を与えていると考えられる。照度を5Lx〜1500Lxに広げると照度が増す毎にα波出現率が下がることが示唆された。
著者
佐々木 正晴
出版者
弘前学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

1.早期開眼手術後における定位・移動行動の形成過程開眼少女YKは,生後73日目に両眼の先天性白内障の手術を受け,2001年で9歳になる。聴覚障害(推定聴力損失80-90dB)、心臓疾患(心房中隔欠損等)を伴う。われわれはその6年前にYKと出会い,YKが小学校入学以降組織的な関わりを続けてきた。その視・運動系活動,移動行動の状況を5年前と現在とで対比させると,【5年前】触覚(手)の支えなしに立ち上がることができない。仰向けに寝る姿勢でいることが多く,その姿勢で自分の手や手に持つ物を眼前で動かす。移動の際,仰向けに寝る姿勢のまま手や足で床面を四方に進む。夜の屋外での花火に視線を向けることはないが,テレヒ画面上に映る花火の光をテレビの両端に両手を添えてその所在を捉えて追視する。【現在】触覚の支えなしに立ち上がり,歩行により移動する。場所により他者と手をつながずに一人で歩くことができる。ただし,繰り返し歩いている場所と初めて行く場所とでは路面の段差,陰に対してその対処の仕方を変える。繰り返し歩くことを積み重ねて着実に移動空間が拡大している。2.視野遮蔽,視野変換,視野制限事態における移動空間と操作空間の形成過程本報告者(佐々木)が数日間アイマスク,逆さめがね,視野制限ゴーグルをかけて移動行動と操作行動の形成過程を探索し,それらの結果を開眼受術者の視覚形成過程と比較した。その結果,1)視野遮蔽・アイマスク事態における移動行動と開眼者における形の弁別行動との形成過程において,対象の外郭を基準点によりつなげる,2)逆さめがね・視野変換における移動行動と開眼者における立体の弁別行動の形成過程において,各視点から得られた情報を統合する,という共通点が見出された。
著者
安藤 宏
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

太宰治の肉筆原稿は現在確認されているものの八割近くが遺族によって日本近代文学館に寄贈されており、現在同館の「太宰治文庫」に収蔵されている。しかし、これらの原稿の調査は膨大な時間と人手を要するため、これまでほとんど手つかずの状態にあった。申請者はこのうち、いまだに原稿が全集に未収録の22作品、2648枚を対象に、そのすべてに関して訂正後、抹消跡の調査を行い、その成果をCDと二分冊の冊子に集成した。まず、初年度においては全国の原稿の所蔵状況を調査すると共に備品の整備を行い、近代文学館との協議を重ねた。二年目に、青森県近代文学館所蔵の太宰治の肉筆資料に関する貴重な調査を行うことができた。これらと平行し、2〜4年目にかけ、作業補助者の協力の下に現行の調査を推し進めた。本調査の成果は今後の同館の「太宰治文庫」閲覧に大きく寄与すると共に、海外を初めとする遠隔地にあって、原稿の閲覧が困難な研究者にとって、太宰治の原稿を一望できる貴重な資料といえる。また、作者が原稿を訂正しながら書き進めていく過程を再現したものとして、近代文学の原稿調査の方法に一つの実例を提示することができたものと考える。なお、本調査は日本近代文学館との協議のもとに、同館としてはじめて化学研究費補助金にもとづく貴重資料の調査許可を得たケースであり、今後の同館収蔵資料の共同調査のためのテストケースとして、さまざまな可能性を提示するものである。
著者
濱 日出夫
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

(1)博物館の戦争展示と戦争の集合的記憶の関わりを考察するための理論的枠組みの検討を行なった(成果報告書「序「歴史の社会学」の可能性」「1記憶のトポグラフィー」『2社会変動のミクロロジー」参照)。アルヴァックス、ベンヤミン、シュッツらの業績の検討を通して、(1)記憶とは過去の出来事の再現であるのではなく、現在の視点から行なわれる過去の再構成であること、(2)過去の再構成が行なわれるさいに、物質や空間が重要な役割を果たしていることについての理論的見通しを得た。(2)この理論的見通しをもって、(1)土浦市、(2)米国ワシントンD.C.、(3)広島市、(4)カンボジア・プノンペンにおいて、博物館の戦争展示と戦争の集合的記憶の関わりに関する調査を行なった(成果報告書「3歴史と集合的記憶」「4他者の場所」「5ヒロシマを歩く」「7モニュメントとしての写真」参照)。その結果、(1)土浦市においては土浦まちかど蔵の飛行船グラーフ・ツェッペリン号の飛来に関する展示が予科練の記憶を、(2)米国ではスミソニアン航空宇宙博物館に展示されたエノラ・ゲイの機体が原爆の記憶を、(3)広島市内のさまざまな資料館や記念碑、またさまざまな追悼行事が原爆の記憶を、(4)カンボジアにおいてはトゥール・スレン博物館の写真の展示がポルポト政権による虐殺の記憶を、それぞれ形成し再生産するうえで果たしている役割が確認された。(3)とくに土浦市・広島市における調査によって、戦争の記憶が単一のものではなく、地域の内部でいくつにも分裂し、たがいに対抗し合い、「記憶のアリーナ」を形成していることを明らかにした。