著者
大泉 英次 大井 達雄 豊福 裕二
出版者
和歌山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

今日の先進諸国の住宅市場は、持家市場と住宅ストック流通の高度な発達によって特徴づけられる。この成熟した住宅市場は、他方で不安定ならびに格差という性格が顕著である。本研究は、その理由を説明する住宅市場不安定仮説を提起し、これにもとづきイギリス、アメリカ、ドイツ、日本の住宅市場のパフォーマンスを比較した。住宅政策は不安定な住宅市場の管理という困難な課題に直面している。この認識に立って、本研究は日本の住宅市場ガバナンスに求められる政策課題を検討した。
著者
坂田 清美 小野田 敏行 大澤 正樹 丹野 高三
出版者
岩手医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

先ず、BMIを基本とした小児期の新しい肥満指標を開発し、使用マニュアルを作成した。次に、新しい肥満度評価指標(以下標準BMI法とする)を用いて、岩手県において、児童・生徒の肥満度調査を実施した。その結果岩手県では、全国同様小中高と学年が進むにつれて肥満者の割合が高くなる傾向が認められたと同時に、統計学的には有意ではなかったが市街地よりも山間部、沿岸部において肥満者の割合が高い傾向が認められた。使用の感想たついてまとめると、学年に関係なく利用できること、評価が安定していること、大人と連続して利用可能なことがメリットとして挙げられた。デメリットとしては、慣れていないこと、文部科学省のお墨付きがないことによる不安、パソコンが必要なこと等が挙げられた。また、文部科学省の指標では、学年が一つ上がることにより、身長、体重が変化していないにもかかわらず肥満度が突然上下してしまうことが上げられる。この点については、標準BMI法による方法では、安定して評価するころが可能である。和歌山地区における標準BMI法の活用状況調査結果では、和歌山市の小中養護学校の3分の2の学校において使用しており、使用校の8割ではとても使いやすいと答えている。使っている理由としては、パソコンに入力するたけなので簡単だから、使い方が簡単だから、時間がかからないからが上位を占めた。使っていない理由として多かったのは別の方法を利用しているからで、4分の1を占めた。別の方法としては、ローレル指、日比式、保健室用ソフトなどを使用していた。
著者
斎藤 晃 宇賀 直樹 宇賀 直樹
出版者
鶴見大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

新生児期アテンションの指標であるNBAS敏活性が18ヶ月における認知課題解決と有意な関連性を示した。そして情動調節機能の指標であるアタッチメント行動が18ヶ月における認知課題解決と有意な関連性を示した。アタッチメント行動と認知課題解決との関連性は,B群児が認知課題を効果的に解決するという欧米の先行研究と一致する。また,脳波前頭部非対称性がアタッチメント行動と有意な関連性があることを示した。
著者
斉藤 晃 多田 裕
出版者
鶴見大学女子短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

平成6〜9年の3年間で316名の母親(満期産,経膣分娩)にブラゼルトン尺度(NBAS)を依頼し,105名の協力者を得た。この中の48名から家庭訪問の許可が得られ,1,3,6,9,12ヶ月まで家庭訪問を行ったところ,A群5名,B群35名,C群6名,啼泣強く実験中止した児1名であった。A群児はNBASの自律性においてB,C群児と顕著な差を示した。B,C群児の自律性は生後1ヶ月で上昇するが,A群児は生後8日目に一度低下し,その後1ヶ月目に上昇する。自律性は驚愕反射,振戦等から構成されており,A群児は生後1ヶ月間の成熟過程における何らかの一時的停滞を示唆した。アタッチメント形成には母親の敏感性が重要だといわれている(Ainsworth)。本研究では母親の敏感性の一側面であるの啼泣に対する応答性(随伴性)を測定した。その結果,A群児の母親は1年間を通じて他群よりも一貫して応答性が高く,そして児の啼泣時間も短い。Sroufe(1985)は安全性(B群・非B群)は母親の応答性に左右され,A・C群の違いは気質に影響を受ける,と述べた。そしてEgeland and Sroufe(1981)によれば,安全性に影響を与える要因として,肉体的虐待・敵意,無視・養育不足よりも心理的利用不能性(psycological unavailability)の方が大きな影響があったという。しかし我々のA群の母親は他群と比較して明らかに応答的であり,心理的利用性は高い。本研究の被験者は316名中の46名であり,かなり等質な集団,しかも「開放的,肯定的で受容的な母親」にぞくする。従って,アタッチメントパターンは,母親よりも児自身の気質に大きな影響を受けている可能性大である。そうであれば,彼らが見せたアタッチメントパターンは,ある狭い幅の,すなわち児にとって良好な環境において成長した児が見せる気質的特徴を反映したものだと考えられる。
著者
河田 興 伊藤 進 磯部 健一 日下 隆 大久保 賢介 安田 真之
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

2004年10-12月に香川大学医学部附属病院で出産した新生児33名およびその母親32名について、カフェイン及びメチルキサンチン血中濃度測定を行った。分娩時の母体血、娩出時の臍帯から得られた臍帯静脈、日齢2、日齢5に新生児血を採取し高速液体クロマトグラフィーで測定した。臍帯静脈血中カフェイン濃度が4mg/L以上の12名、臍帯静脈血中カフェイン濃度が4mg/L未満の21名の2群について日齢2、日齢5に行ったブラゼルトン新生児行動評価法について比較検討した。母体血と臍帯静脈血のカフェイン濃度の比較はWilcoxon順位検定で行った。母体血と膀帯静脈血のカフェイン/カフェイン及びその代謝物の和の比を比較した。その比較はpaired t検定で行った。母体血と臍帯静脈血のカフェイン及び代謝物濃度比(カフェイン/総メチルキサンチン)はそれぞれ0.68±0.13、0.69±0.14(平均±標準偏差)で差を認めなかった(p=0.469)。母体血カフェイン濃度と臍帯静脈血カフェイン濃度は対数変換後の換算値の平均値及び標準偏差値で1.47±1.87mg/L、1.73±1.76mg/Lであった(P=0.078)。更に、臍帯血濃度、日齢2血中濃度、日齢5血中濃度を測定し、新生児カフェイン消失半減期を求めた。新生児カフェイン消失半減期が14日以上は10名とで14日未満は23名であった。分娩前に母体に摂取されたカフェインを臍帯血カフェイン濃度の高低で検討すると、そのカフェイン濃度が日齢2と5の新生児行動の方位反応に影響することが示された(p=0.076)。
著者
大城 昌平 藤本 栄子 小島 千枝子 中路 純子 池田 泰子 水池 千尋 飯嶋 重雄 福永 博文
出版者
聖隷クリストファー大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、ハイリスク児の出生早期からの発達と育児支援の方法を開発し、フォローアップシステムを構築することを目的とした。その結果、出生早期からの親子の関係性を視点とした"family centered care"によるディベロップメンタルケアの取り組みが、児の行動発達、両親の心理的安定、育児の自信につながることが示された。また、そのような取り組みには、関係専門職者に対する、ディベロップメンタルケアの理論的実践的な教育の機会を提供し、低出生体重児・早産児のケアの質を改善することが急務の課題であると考えられた。
著者
平岡 義和
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、聞き取り調査とその分析を中心にして、水俣病が生起した時期において、人々が水俣病をどのようなものととらえていたのか、当時の生活の変容とともに考察する試みである。その中で、多くの人々が、危険なのは弱った魚であるといった日常知に基づく解釈のもと、魚介類を食べ続けたことが明らかになった。また、この時代は、水俣においても、都市的生活様式の普及が急速に進み、地縁、血縁が希薄化し、家族の独立性が高まったことが示唆された。
著者
佐藤 徹
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

体育授業において、生徒に教材の運動を習得させる際には、動きのメカニズムや生理的機能の説明をするのではなく、自分の身体で動きのコツをつかませることが必要である。本研究の目的は、動きのコツをつかむことの内実を明らかにし、コツの獲得が効果的に実現される体育授業の方法を開発するための理論的基礎を探求することにある。従来、運動の研究は動きを外から見た特徴を分析するいわゆる科学的手法が主流であったが、それだけでは生命ある人間の運動の研究として不十分であることから、本研究では、フッサールの意味での発生現象学の方法を土台として、運動を実施している人間の内的過程を重点的に考察した。動きのコツをつかませるための方策を考えるにあたり、コツがうまくつかめない生徒は運動習得の過程においてどのような特徴があるのかを重点的に考察した。また、運動実施者がコツをつかむということは、新たな動きを発生させることであることから、動きを覚えさせるために効果的な言語指示のあり方などを研究した。上記の観点から、体育授業で行われるさまざまなスポーツ運動に関して事例的に考察を進めた結果、コツを指導するためには,他者の動きを外部から観察した情報に基づくだけでは不十分であり,指導者自身の運動経験や指導経験,なかでも運動感覚意識を形成していく努力が不可欠であることが分かった。具体的な研究事例に関しては、学会発表ならびに論文として公開された。
著者
平野 満
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、採薬記を集成して資料集として提供するための基礎的研究にあった、主として諸写本の書誌的調査により関連史料を援用した。年度内の成果は以下である。1.小野蘭山の採薬記のうち、『常野採薬記』『甲駿豆相採薬記』の諸写本を書誌的調査と蘭山の『日記』によって検討し、成立事情と転写系統を明らかにした。(研究発表1)2.蘭山の採薬記のうち、『遊毛記』『紀州採薬記』『駿州勢州採薬記』『上州妙義山武州三峯山採薬記』について,1.と同様に、その転写系統を明らかにした。また、蘭山に同行した門人による採薬記,宮地維則『常毛採品目録附常毛物産目録』・『藤子南紀採薬志稿』三谷笙州『信州駒ヶ岳採薬記』についても触れた。また、『藤子南紀採薬志稿』の著者「藤子」が江戸金助町住の医師加藤玄亭であることを明らかにした。(研究発表2)1.2.の検討から蘭山「採薬記」の転写本は山本読書室の蔵本が底本となって流布した事実を確認できた、山本読書室は近世後期の本草挙の情報発信源であったことが判明した。3.蘭山門人山本亡羊読書室の採薬の年表を作成して、いかに山本読書室が採薬を重んじたかをみた。(研究発表3,原稿提出済み)4.山本読書室の採薬記について、所在の確認と書誌的な調査により転写関係を明らかにした。5.近世から明治期にいたる間に成立した「採薬記」すべての(仮)所在目録を作成した。適時、増補改定が必要であることはいうまでもない。
著者
鯨 幸夫
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究では、水田の環境を保全しながら水稲の超多収を実現させる戦略について検討した。得られた結果の概要は以下の通りである。1)1992年に998kg/10aの超多収を示した長野県伊那市の農家水田で生育するコシヒカリを調査し解析した。伊那コシヒカリの超多収性は、総根重、土壌表層根重の多さ、根の生理活性の高さに支えられた高い光合成速度と蒸散速度が背景にある。また、低水温の農業用水と土壌中の気相割合の多さも関係している。2)有機資材の連用により土壌中の腐植含有量は増加し、超多収を示した伊那コシヒカリと類似した根系形態を示すようになった。また、根の生理活性も高いことから、土壌への有機物連用は地力維持と環境保全への近道であると考えられた。3)コスト削減と外部環境に及ぼす影響を軽減するには、不耕起直播栽培や土中打込み点播方式も効果的である。また、LP肥料を用いたF1水稲品種の乾田不耕起直播栽培も北陸では有効であると考えられた。4)慣行的に施用されてきたN,R,K施肥の意味について、三要素継続試験から検討すると、三要素区、無P区、無K区での収量、根重、根の活力に有意な差が認められないことから、慣行的な施肥法を再考する必要性があることが明確となった。5)水稲の無農薬有機栽培の可能性について、コシヒカリBLを用いて検討した。再生紙マルチを用いて水稲を有機栽培すると575kg/10aの収量を示した。根系生育および根の生理活性は、超多収を示した伊那市のコシヒカリに近似していたことから、有機資材を用いて多収を実現することの可能性が示唆された。なお、畦畔にはアジュカ、イワダレソウを埴栽した。また、植物資材を利用した除草効果を検討したところ、米糠の利用が現実的であると判断された。6)2002年の伊那市の超多収コシヒカリの収量は800kg/10a以上を示した。
著者
宇都宮 裕貴 高野 忠夫 八重樫 伸生 小林 里香 山崎 幸 高林 俊文
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

子宮内膜癌細胞株を用いてERαが直接結合する新たな転写制御領域を同定しその機能解析を行うことにより、新たな分子機構の解明を試みた。始めに転写制御領域を同定するためにChIP クローニングを行い、47 の標的部位を得た。それらの中には、従来まで重要でないとされてきたイントロンも多数含まれていた。そして、ERα転写コアクチベーターであるGRIP1 に着目しその機能を検討したところ、子宮内膜癌細胞株においてGRIP1はアポトーシスを抑制することにより生存細胞数を増加させる可能性が示唆された。
著者
田邉 裕貴 小川 圭二
出版者
滋賀県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

セラミックス被覆鋼の高機能化を図るための新表面改質手法として 「成膜後レーザ焼入れ処理」 を提案し, 本手法の効果を調べた. 各種セラミックス被覆鋼に対して本処理を適用し, 薄膜の割れ, はく離等の損傷, 硬さや破壊強度の低下を生じることなく材の焼入れが可能で, 密着強度と耐摩耗性を向上させることができることを明らかにした. また, 本処理を応用した実部品を試作し,本手法の実用化の可能性についても検討した.
著者
中屋 晴恵
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

地殻表層部の温度履歴を推定することは、生物の生存領域に重なる場での地質現象を明らかにするために重要であるが、これまで有効な地質温度計が得られていなかった。本研究では2年にわたり、自生粘土鉱物の酸素同位体を温度履歴の推定に用いることを目的として計画した。統一した見解の得られていない続成過程での自生鉱物形成メカニズムを検討した後に、粘土鉱物を分離して酸素同位体比の測定を行い、地質温度計として有効であるかどうかを検討した。さらに、室内で、水と粘土鉱物の酸素同位体交換実験を行うことにより、天然と実験室内で得られた同位体分別係数の妥当性を確認することも目的であった。簡単に結果をまとめる。1 南海トラフから得られた堆積物コア中の自生粘土鉱物の詳しい観察と単一結晶の化学分析を行い、自生粘土鉱物組み合わせが、堆積物の砕屑性粒子の組成によって異なり、粘土鉱物組み合わせの出現は地質温度計として精密ではないことが明らかになった。また、続成過程においても、地熱系同様に、自生粘土鉱物の形成過程は溶解沈澱によるものか卓越していることが明らかになり、酸素同位体比を温度計として用いることの妥当性を与えた。2 地熱井から得られたスケール中のスメクタイトの分析により、摂氏200度を超える温度でのスメクタイト-水間の同位体分別係数を決定した。また、1で用いた自生粘土鉱物の酸素同位体比を測定し、採取深度(すなわち温度)に依存して重酸素が減少する傾向があることを確認した。3 イライト-水間の同位体分別係数を決定するために静水圧下で行う水熱合成実験のための耐圧容器と電気炉を設計、製作した。また、実験に用いるイライトの選択を行った。この実験は現在も進行中である。
著者
朝日 譲治
出版者
明海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究は、急速に高齢化・少子化が進むわが国において、今後どのような社会資本を、どの主体が、どれだけ整備すべきであるかを解明する。われわれの目指す望ましい社会資本整備は、公的年金・健康保健への国庫負担増等から生じる「高齢化の社会的費用」をできるだけ小さくするものである。従来、高齢者は年齢で区切られ、ひとまとめに論じられてきた。本研究は、むしろ高齢者を取り巻く自然環境や社会システムのなかで高齢者の経済問題を論じた。さらに、これまで顔の見えなかった高齢者を、肉体的・環境的・経済的に異なる生活者としてとらえた。これにより、高齢者の真に求める公共政策が浮かび上がり、高齢化の社会的費用を最小にする社会資本整備を考えるフレームワークを構築することができた。なお、財政面での現在肥大化している財政投融資制度の仕組みと問題点を詳細に検討した。同時に、社会資本をより広義にとらえ、公的年金や公的健康保険の社会的制度も含めて、望ましい制度のあり方を検討した。公的年金については、従来型の国庫補助依存体質を改め、各人が自己責任による老後の生活設計の下で資産蓄積を進めること、健康保険に関しては、わが国の医療体制そのものを長期的に見直し、地域医療の充実と、高度医療の区分を明確にする方策を論じた。高齢社会は現役引退後の時間が長期にわたることを意味する。その際、とくに重要となる余暇時間との関連で、米国における国立公園と博物館の二つの社会資本を論じ、望ましいあり方を提言する具体的な事例研究を行った。
著者
玉田 芳史
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

タイの政治は1990年代に民主化が進んだ。92年5月事件と97年憲法がもっとも重要な出来事である。この民主化について虚像に惑わされず、実像に迫ろうと試みた。研究者は92年5月事件について誰が参加したのかに目を向け、なぜ参加したのかを見過ごしてきた。大規模集会を可能にしたのはチャムローンであった。民主化にとってこの事件の意義は、その彼が動員戦術の成功ゆえに危険視され、政界を逐われたことである。政治は院外政治ではなく国会中心に行われるべきことが確認された。もう1つの意義はマス・メディアによって中間層が5月事件の主役に祭り上げられたことである。中間層は政治への発言力を強め、政治改革を要求するようになる。政治改革論は下院議員批判に起因していた。議院内閣制を採用しながら、下院議員の閣僚就任を禁止しようとする主張も行われた。改革論が目指したのは政治の能率、安定、倫理であった。こうした目的を念頭において97年憲法が制定された。この憲法は民主的と喧伝されているものの、実際にはさほど民主的ではない。たとえば、大卒者は総人口の5%にも満たないにもかかわらず、国会議員や閣僚には大卒以上の学歴が必要とされた。それでも、この憲法は民主化に寄与するところがあった。それは議会政治に不満を抱き、テクノクラート支配に郷愁を抱く人々を慰撫することにより、議会政治の堅持を可能にしたからである。結局のところ、90年代の民主化にとっては、推進派勢力の活躍よりも、保守派勢力を慰撫して穏健な議会政治を定着させたことが重要であったといえる。
著者
岡 眞人
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

今日のオランダでは退職は健康維持や家庭生活に良い影響を及ぼすと考える人が多数を占めており「早期退職文化」が深く根付いている。60歳前後の退職・引退が社会常識化し、早期退職制度の廃止には強い抵抗がある。オランダ政府は高齢者の就業意欲を高めるため、生涯学習・訓練による就業能力の維持・開発という総合的・長期的戦略に基づく政策を推進している。高齢者雇用問題を高齢期だけの問題とみなさず、生涯にわたる労働生活の視点から捉え、全年齢層との関係で捉えるところにオランダの政策的特徴がある。イギリスではオランダとは対照的に、サッチャー政権の新自由主義路線の下で早期引退制度は導入されなかった。しかし労働不能給付制度が事実上早期引退への抜け道として機能し、高齢者雇用率の長期的低下傾向が続いた。ブレア労働党政権は雇用保障を国民福祉の基本に据え、EU諸国と歩調をそろえて高齢者雇用促進に取り組んだ。その中核は「ニューディール50プラス」である。この施策は就業不能給付受給層の多い50歳以上にきめ細かな就労支援を提供して自立を促すことを狙いとし、一定の効果を上げたと評価されている。さらに年齢差別禁止に関する法律が2006年に制定されたことも大きな一歩と思われるが、その効果について評価するのは時期尚早である。オランダとイギリスに共通する政策的特徴は、年齢差別、性差別、障害者差別、人種差別などを個別的に捉えるのではなく、包括的に人権問題として位置づけ、各分野の取り組みを関連付けて相乗効果を引き出す戦略にある。非正規社員と呼ばれる不安定雇用の渦の中に多くの高齢労働者が巻き込まれている日本の実態を見ると、英蘭両国の包括的アプローチから学ぶべき点は少なくないといえよう。
著者
小川 千里 高橋 潔
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は,プロスポーツ選手の現役引退に伴っておこるキャリア上の諸問題を,経営学的視点から明らかにし,第二の職業人生に対する望ましい支援の方法について検討することを目的に行われた。プロスポーツ選手のキャリア・トランジションに関して,(元)Jリーガーと既存の支援システムを対象とした定性的調査を実施した。その結果,スポーツ選手の引退とその後のキャリアへの移行の実態を詳らかにした。そして「現役時代」の行動や考え方の傾向と周囲の人の属人的な要素が,引退に関する「内的キャリア」や支援に影響を与えること,選手個人が引退に伴う心理的激動を受容するために望ましい支援の特徴と組織の在り方を見出した。
著者
吉本 秀子 三宅 義子 藤目 ゆき 纐纈 厚 吉本 秀子 三宅 義子
出版者
山口県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

これまで在日米軍基地問題は、主として政治領域の問題として扱われてきたが、本研究は、これにジェンダーの視点を持ち込み、女性を中心とした岩国市民のオーラル・ヒストリーを記録することで、基地問題を公的領域としてだけでなく、公的領域と私的領域を橋渡しする問題として捉え直している。三宅は、岩国市民のキーパーソンに聞き取り調査を実施、オーラル・ヒストリーを記録した。藤目は、占領期における基地被害を女性史の視点から描き出し、著書『女性史からみた岩国米軍基地』を出版した。纐纈は、日米安保条約の枠組みから見た岩国基地の位置を考察した。吉本は、在日米軍基地が米国でどう報道されてきたかについて、ニューヨークタイムズ紙を例に分析した。基地問題で私的領域は顕在化しにくい。本研究は、顕在化しにくい部分を聞き取り調査と一次史料調査で顕在化させることを試みた。また、メディア分析で私的領域が公的領域として顕在化する事例を探った。
著者
内田 和子
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ため池卓越地域においては、その決壊に備えるためのハザードマップ作成が重要である。筆者は全国都道府県対象にため池ハザードマップ作成状況の調査を行い、作成例が?なく、作成方法や活用方法も多様であることを明らかにした。次に、その中から先進事例について現地調査を行い、マップ作成の成功要因や留意事項を明らかにした。結果は、ハザードマップ作成は行政が主体と成らざるを得ない、想定区域の想定手法は何種類かあり、行政の予算に応じた方法を選択すべきである、行政と住民が連携したマップ作りが効果的であるが、ファシリテーターと住民の危機意識が鍵となる等である。マップ作成は地域性に応じた方法を考慮すべきであって、作成マニュアルが必要であり、その作成も可能であることが明らかとなった。
著者
忍足 俊幸
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

糖尿病網膜症における神経細胞死にはミトコンドリア・カスペース依存性経路が関与することを網膜器官培養を用いて解析した。また、同時に小胞体ストレス関連細胞死経路も糖尿病誘導神経細胞死に関与していることを網膜培養及び人糖尿病網膜組織切片を用いて解析した。このことからミトコンドリア・カスペース依存性経路と小胞体ストレスの間には分子レベルでのクロストークがあることが示唆された。さらにBDNF,NT-4,citicolineは糖尿病誘導神経細胞死を救済し再生を促進することを確認した。特にNT-4は糖尿病環境における神経保護・再生に最も適した神経栄養因子であることが示唆された。