著者
マーク ケヴィンL. 中嶋 正夫 三宅 和子
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

学習者コーパス構築への従来のアプローチは、有用であると考えられてはいたが、教育の過程からは切り離されているものであった。この研究プロジェクトの主な成果は、パラレル学習者コーパスを構築する過程が、教育といかに結合されていくかというモデルを見せることが出来たことである。言い換えれば、この研究におけるコーパス構築技術は、同様に教育技術であると呼ぶことができるのである。この研究は、その他のプロジェクト、特に生徒の積極的な参加や創造性を生かすようなプロジェクトに、この研究モデルが適用できることを示した。学習者コーパス研究と実践的教育の系統だった結合は、CALL(Computer Assisted Language Learning)の分野の新しい活用を含め、広範囲のカリキュラム開発(教育体系開発)をもたらすことになる。加えて、学習者コーパスの構築に平行し、CALL教材が携帯電話の使用に合わせて開発された。
著者
奥松 俊博 岡林 隆敏 永田 正美
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、高精度振動特性推定法による橋梁構造物の健全度診断とリアルタイムモニタリングの確立を目指したものである。移動体通信による可搬型動態観測・データ転送システムを用いて、実現場対応型のシステムへと発展させた。橋梁動特性や温度などの各種データの統合、高機能携帯端末による遠隔モニタリングにより、橋梁維持管理のためのユビキタス環境の構築を行なった。一方で、本研究で開発したシステムを実橋梁長期モニタリングに適用し、橋梁健全度診断を行うための基礎データの蓄積、すなわち気温等の環境変動に伴う、橋梁振動特性の年間変化を明らかにした。以下に研究実績を示す。(1)構造同定理論を用いた高精度振動特性推定法およびプログラム開発:健全度診断のための構造同定理論を用いた高精度振動特性推定法を適用し、実構造物の挙動から固有振動数の推定を行った。(2)リアルタイム計測システムの開発:小型センサを導入し、多点計測の有効性を確認した。その一方で橋梁構造物の健全度診断を行なうためには、長期モニタリングが必要となるため、現状では電源供給等に問題があることを認識した。よって本研究期間内の実橋長期モニタリングを行なう上では、従来の加速度計を適用した。(3)データ抽出等に関する検討:多機能携帯端末を利用したデータブラウジング、および実時間モニタリングシステムについて、必要情報の効率的抽出について検討および処理ソフトの開発を行なった。さらに遠隔地の管理事務所において統合化した情報を効率的に閲覧するためのモニタリングシステムを構築した。(5)実橋梁長期モニタリングの実施:実橋梁の長期遠隔振動モニタリング実験を行なった。固有振動数は季節的な温度変化により変化することを確認した。
著者
谷口 伸一 山崎 一眞
出版者
滋賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究はエコ・ミュージアム(Eco-Museum)の本来の定義に基づき、以下の課題について実践的に研究する。(1)エコ・ミュージアム・マスタープランの設計手法を提案する。(2)ユビキタス技術を応用してエコ・ミュージアムに対応した学習型観光システムを研究開発する。(1)の研究に関しては、(1)彦根をテストベッドとするエコ・ミュージアムの形成、(2)エコ・ミュージアムの重要要素"elder"に相当する「語り部」の発掘と育成モデルの提案、(3)文化遺産の保護活動に関する方法論の提案からなる。(1)では彦根旧城下町地区の歴史遺産の特性や分布状況から6つのサテライトからなる「彦根エコ・ミュージアム」を提案した。(2)では「それぞれの彦根物語」と題した市民研究会を開催して、歴史、文化、自然、建築、観光などの分野から「語り部」を発掘した。本研究会は平成21度末で72回を数えるに至った。(3)では文化遺産としての価値が高い芹橋地区足軽屋敷の存続に向けて「彦根古民家再生トラスト」を立ち上げ、売却に出された足軽辻番所を地域住民が主体となって募金活動を行い買い上げた。この市民活動が行政を動かすことになり、彦根市が再生することになった。これらの研究は都市計画論と地域デザイン論に基づいて実践しており、エコ・ミュージアム・マスタープランの設計手法として提示できたと考える。詳細を「びわ湖世界の地域デザイン」として刊行した。(2)の研究に関しては、(1)QRコードに代わる当該地点の情報取得技術の開発、(2)コンテンツデータベースの構造化設計技法の確立、(3)観光者が発見や連想から学習する観光の仕組みづくりの実証研究を進めてきた。(1)ではおサイフケータイ(R)の普及が8割を超えているため3者間通信を利用した情報取得装置「ユビキタスみちしるべ」を開発し操作性を向上させた。さらにPICマイコンで制御し、太陽電池駆動のための省電力化を図るとともにSDメモリに記録された音声ガイダンスを実現した。なお、文字、画像、音声、動画などのマルチメディア情報の配信は携帯電話の通信機能を活用した。(2)ではデータベースの設計技法である実体-関連モデルとオブジェクト指向モデルの応用により、学芸員のような高度な知識がなくても観光魅力の概念拡張を含めて構造化設計ができる技法を提案した。(3)ではエコ・ミュージアムに定義される「発見の小径」を学習しながら散策できる「ケータイまち遊び検定」システムを作成した。さらに、携帯電話のGPS機能とカメラ機能により観光者の気づきや疑問をその場で撮影してWebサーバに送信し、それらを集約してGoogleの地図に重ね合わせる「ケータイまち遊びマイニング」も完成させた。これらのシステムにより物見遊山の観光から、点である観光魅力を深く理解し、さらにそれらを線としてつなぎ合せて文脈とする学習型観光が提案できた。
著者
小田 啓二 山内 知也
出版者
神戸商船大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

宇宙活動に伴うシャトル乗務員の被曝線量測定、環境中ラドン濃度測定、個人中性子線量計等に利用されているCR-39飛跡検出器は、その製造過程、エッチング条件及び評価手法が研究者によって異なっているため、データの直接比較が出来ない状況にある。そこで、本研究では、これまで独立に基礎データを収集してきたサンフランシスコ大学(USF,米)、フランシュ・コンテ大学(UFC,仏)、ドレスデン工科大学(DUT,独)及び神戸商船大学の4チームが、統一された諸条件の下で軽イオン較正実験を行い、世界共通のデータベースとして確立することを目的とした。まずはじめに、1999年度までに3チーム個別に収集した水素同位体(p,d,t)およびα粒子のデータを見直すとともに、一部データを補充した。次に、4.8,6,8,10.8MeVのLiイオンを照射したサンプルを各チームに配布し、個別にエッチング処理およびデータ解析を行った。その結果、DUTチームの10.8MeVサンプルに対する評価値のみおよそ20%ずれていたが、その他のデータは概ね一致した。また、詳細に調べると、本来一本のレスポンス関数となるべきデータが、入射エネルギーに少し依存していることを見出した。同時平行で進めている潜在飛跡形成に関する基礎研究の結果から、表面に低感度の薄い層が存在しているためではないかと推論した。最後に、炭素イオンに関する実験を行った。この結果、3チーム間の評価値のずれがリチウムイオンより大きくなる傾向にあった。炭素イオンはリチウムイオンと比べてトラックエッチ率の変化が一層激しいため、特に飛跡終端での誤差が大きくなったためだと考えられる。このため、我々のチームでは、エッチング間隔を密に取るとともに、我々が開発したトラック追跡法も適用した。これらとの比較から、評価したレスポンスの誤差はエッチング間隔の選定が重要なファクターとなっていることを明らかにした。
著者
多田 充裕
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、低出力レーザー照射の生物学的効果についてラットを用いたin vivo実験系を応用して実証することを目的とし、Type 2 collagenのブースター免疫による膝関節リュウマチの病態モデルを作成して半導体レーザー照射と自由電子レーザー(FEL)照射を行い、低出力レーザー照射による炎症抑制効果について検討を行った。実験動物はLewis系ラットを用い、初回感作としてウシII型コラーゲンを含むFreund's Adjuvant Incompleteのエマルジョンを背部に皮内投与し、初回感作の7日後に同エマルジョンを尾根部より皮内投与して関節炎を発症させた。低出力レーザー照射装置はGa-Al-As半導体レーザー照射装置(松下電器産業)を、FELは日本大学量子科学研究所電子線利用研究施設に設置されているものを用いた。レーザーの出力は2.2Wで総照射エネルギー密度は5J/cm^2であり、照射時間は500秒とした。動物は1群5匹として3群にわけ、第1群は無処置群、第2群はコラーゲン感作を行い数日おきにレーザー未照射で動物を固定するだけとしたレーザー未照射群、第3群はコラーゲン感作を行い数日おきにレーザー照射したレーザー照射群とした。実験期間中は、動物の一般状態を毎日観察し、週1回体重測定および関節部分の腫脹をノギスで測定し、頚静脈より血液を採取した。その結果、いずれの低出力レーザー照射によっても、実験的に引き起こされたラット後肢の腫脹を抑制することが認められた。また、炎症性サイトカインであるIL-1βおよびIL-6の血清中の濃度を測定したところ、レーザー未照射群に比較して照射群で有意に低下していた。これらの結果より、低出力レーザー照射によって腫脹抑制効果が得られたものと示唆され、低出力レーザー照射は副作用のない非侵襲的な抗炎症効果を期待しうる治療法であることが示唆された。
著者
大谷 渡
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

昭和前期に日本の高等教育機関に学んだ台湾知識人の日本統治下における日本認識と、台湾社会での活躍や役割、さらにはその心情について、聞き取り調査によってその生の声を記録化し、当時の新聞、雑誌、公文書、手紙、手記などとの照合検討をとおして、これを社会・文化史的観点から多角的かつ具体的に解明した。その成果は『台湾と日本 激動の時代を生きた人びと』(大谷渡、東方出版、1頁-244頁、2008年)として出版した。
著者
池田 隆 RAOUF A. Ibrahim
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では,自由液面を有する正方形断面の剛体容器が水平方向に正弦励振またはランダム励振を受ける場合,容器内に二つの振動モードが同時に発生する液面スロッシングの内部共振現象について,非線形性を考慮した数学的モデルを構築し,数値計算と実験によりスロッシング挙動を明らかにするとともに,スロッシング波高を精度良く予測できることを示した.また,液面スロッシングの内部共振現象を利用した正方形断面容器が構造物の制振装置として有効であることを示した.
著者
橋本 修 渡邊 慎也 松本 好太 KUMAR Pokharel Ramesh
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

無線通信環境の問題点を解決する設置環境側の対策手法の一つとして電波吸収体の適用が注目され、これまでにレイトレーシング法による解析や実験用ブースなどを使った実験的研究が広く行われ、種々の吸収体が提案されてきた。しかし、このような吸収体の提案に対して、1.無線LANを想定した環境で実際に無線LAN対応の電波吸収体を設置し、その通信環境の改善効果を実験で検討した例は極めて少ない。2.オフィス内の中央などで使用されるパーティションにおいても、電波が乱反射して影響を及ぼすといった恐れがあるが、パーティションなど室内に設置されたものに電波吸収機能を付加し、無線LANに対応した電波吸収体を検討した例は少ない。そこで、無線LAN環境改善をメインとし、下記の検討をそれぞれ行った。1.一般的な建物への適用を想定し、取り扱いが容易な一般内装建材を組み合わせた無線LAN対応の三層型電波吸収体を、小規模オフィスを模擬した空間に設置し、無線LAN実機を用いた伝搬実験を行った。この結果、まず壁1面への一般建材を用いた三層型吸収体の設置により、通信速度は設置前後で全ての測定点で向上し(平均40%)、吸収体設置による無線LAN通信速度の改善を確認した。2.パーティションに電波吸収機能を付加することで、無線LANで使用される周波数帯域に対応したパーティションタイプ電波吸収体について検討した。この結果、無線LANの使用周波数帯域である2.45GHzおよび5.2GHzにおいて、垂直入射で20dB以上、TE・TM両偏波および円偏波において、入射角度が5度から20度まで、15dB以上の吸収量が得られることを確認した。以上のことから、無線LAN用のパーティションタイプ電波吸収体の実現性を理論的かつ実験的に確認することができた。
著者
中西 啓子
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究では、宗密の現存する全著述にわたって彼の三教論に関する記述を調査し、『円覚経大疏』『円覚経大疏釈義鈔』から「原人論」へと集約されるその議論を報告書にとりまとめた。目次は次のようである。序-「原人論」における三教論。1、「一心」と「一気」。2、儒道二教批判(其の一)-『円覚経』普眼章法空門疏鈔。3、儒道二教批判(其の二)-『円覚経』弥勒章業報門疏鈔。4、一気(元気)批判とその周辺。結びにかえて-「原人論・会通本末篇」の検討。これによって、おおよそ以下のようなことを指摘した。宗密は仏教主体の三教一致論を提示し、仏教の宗本たる「一心」に対して、儒道二教の本源を「一気」にまとめ、一心のうちに一気を包摂しようとする。その場合まず、儒道二教の万物生成論(虚無大道・天地・自然・元気)をとりあげ、仏教の因縁にもとづいて、法空や業報を理解せず矛盾を生じていると批判する。ついで、気についてはこれを物質的な元素として意味を限定したうえで、一気から形身と天地世界が生成される過程を、一心における三細六麁の展開過程に組みいれている。これは、澄観によって示唆されていた論点をふまえながら、宗密自身の教学にもとづいてまとめたものである。いうまでもなく、このような議論においては理論的な不整合はまぬがれがたい。しかし、宗密は、六朝以来の神不滅論を継承しながら、それを一心の立場から再構築し、心識(神)と形身の関係、迷いの心識(神)から絶対的な霊性(一心)への展開過程などを明らかにしているのである。神不滅論における「神」と「形」を、「一心」と「一気」に変換し、後世の三教論にたいして新たな枠組みを提供していると言えよう。
著者
山田 望
出版者
南山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ペラギウス派の思想史的起源は、アクイレイアのルフィーヌスによるオリゲネス、バシレイオス、エヴァグリオスらのラテン語訳、さらにペラギウス派のキーワードである「キリストの模範と模倣」の概念においては、ルフィーヌスの前任者であったアクイレイアのクロマティウスによる著作からの影響のあることが判明した。これらアクイレイア司教たちの手による翻訳や著作に、オリゲネス主義者として知られるエヴァグリオスやオリゲネスの影響を決定的に受けていたバシレイオスの著作も含まれることから、オリゲネス主義が思想史的起源ではないかとの当初の仮説が証明されたと結論づけることができる。
著者
片岡 俊一 佐藤 俊明 宮腰 淳一 早川 崇 佐藤 俊明 宮腰 淳一 早川 崇
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

1923年関東地震の余震のうち連携研究者が所属する機関で保有している13個の余震記録を整理し、地動を推定した。ついで、大規模な余震の一つである1924年1月15日に発生した丹沢を震源する地震の震源モデルを復元地動を参考に求めた。さらに、この震源モデルから首都圏各地の広帯域の地震動を予測した。その大きさは現行設計レベルよりも概ね小さいものであることが分かった。また、数値実験により今村式2倍強震計の飽和記録の復元の精度を確認した。
著者
前田 忠直 水上 優 千代 章一郎
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

近代住宅の構成システムを,その変容過程の分析をとおして場所論的にあきらかにしようとする本研究は,平成12年度には,アルヴァ・アアルトの住宅作品(マイレア邸を中心として)他の研究として遂行され,平成13年度には,ル・コルビュジエの住宅作品(クルチェット邸)の研究他として,平成14年度には,ルイス・バラガン(バラガン自邸)の研究,ル・コルビュジエの住宅作品(ラ・ロッシュ=ジャヌレ邸)の研究,さらにはルイス・カーンの住宅作品(ホーニックマン邸)他として遂行され,別リストの諸論文が公表された。上記の住宅作品の研究は,草案群の吟味を基礎とし,3種のダイアグラムの作成による平面分析,作品の模型作成による検証,さらに建築家自身の言葉による解釈をとおして遂行されている。主題解明は,2つのアスペクトをとおしてなされる。(1)住宅の内部を構成する諸要素のシステムの解明。(2)住宅(内部)と土地(外部)との関わり合いの解明。前者については,主室の諸要素の配置構成の変容分析をとおして,アアルト,ル・コルビュジエ,バラガン,カーンの構成方法の特性があきらかにされた。後者については,内部と外部を媒介する要素,つまり中庭(マイレア邸),テラス(クルチェット邸,バラガン邸),サテライト(ホーニックマン邸)の意味がそれぞれダイアグラムC(住宅と土地とのゲシュタルト図)の作成とともに主題化され,その場所論的解釈が目論まれる。さらに,ル・コルビュジエの住宅作品では,移行の場所,「斜路」が主題化され,空間構成の深まりの仕方が景観の問題として分析された。カーンの住宅作品では,内部成立を担う特異なエレメントが「サテライト」として,その存在論的意味が分析された。
著者
高橋 伸夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

この研究計画では、協調的な経営行動に対してさまざまな角度から分析を試みた。経営理論や経営の実践の現場で見られる現象をAxelrod流の協調行動の進化の観点から描いてみたのである。そのために、まずはAxelrodの進化理論のエッセンスを抽出して未来傾斜原理として定式化して使い易くする必要がある。単純化して言えば、現在の損得勘定や過去への復讐にこだわることなく、より良き未来をこそ選ぶべきだというのが未来傾斜原理である。このことによって、経営理論や経営の実践における協調行動の出現を説明することが容易になる。未来係数が高い場合には、未来への期待に寄り掛かる形で、苦しいても現在をなんとか凌いでいく行動につながるが、このことは日本企業でも、利益を分配したり使ってしまったりせずに、こつこつと内部留保して、将来の拡大投資のためにとっておこうとする強い成長志向として観察できる。さらに、このことを応用して、組織均衡を説明するための有望な二つの指標、見通し指数、未来傾斜指数を開発した。これらの二つの指数はAxelrodの未来係数の代替的指標として作られており、見通し指数は、その人の会社における将来への重みづけを表し、未来傾斜指数は将来に対する心理的な未来係数を表している。そして、この二つの指数が高い値をとるとき、職務満足を感じ、参加の意思決定が行われるという仮説の検証が行われた。見通し指数については、日本の大企業21社の2600人以上のホワイトカラーのデータによって支持され、見通し指数と職務満足比率との間には決定係数0.9989、参加比率との間には決定係数0.9980の非常に強い線形の関係があった。未来傾斜指数については、日本の大企業67社の約23万3千人のデータによって支持され、未来傾斜指数と職務満足比率との間には決定係数0.9970、参加比率との間には決定係数0.9678の強い線形の関係がやはりあった。
著者
梁 洪淵 斎藤 一郎 森戸 光彦 美島 健二 井上 祐子
出版者
鶴見大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

目的:口腔の老化度指標を確立することを目的に抗加齢医学に基づいた全身と口腔の老化度検査を行い両者の比較検討をする。背景:「健康と若さを保ちながら年を重ねることを可能にする医学」として抗加齢医学の確立が望まれ、健康増進のための指導や療法は「健康日本21」を実現させるための新たな予防法としての取り組みであることから、歯科領域においても抗加齢歯科医学の実践が急務である。一方、本学ドライマウス外来を受診した2600人の統計解析の結果より、ドライマウスの大半は生活習慣病や服用薬剤の副作用等により発症していることが明らかとなり、さらに唾液分泌障害の要因の一つに酸化ストレスが関与している事も判明した。これらのことを背景に本研究では口腔と全身の老化度の関係を検討する。対象:本学アンチエイジング外来を受診した30名を対象に下記の検査を実施した。方法:検査項目口腔の老化度検査 1.唾液分泌量 2.現在歯数 3.カンジダ菌検査 4.歯周組織検査 5.咬合力 6.反復唾液嚥下テスト 7.唾液CoQ10検査全身の老化度検査 1.血液検査(酸化ストレス、ホルモン等) 2.脈波伝播速度 3.体組成検査 4.骨密度 5.握力 6.脳機能検査 7.毛髪検査評価:過去の文献より口腔の老化度に関する項目を設定し、口腔と全身の老化度を測定することにより両者の老化度の関連を評価した。結果:全身ならびに口腔の検査を実施した結果、次の項目に相関が認められた。握力と安静時唾液分泌量(r=0.5770 p=0.03)、総テストステロンと安静時唾液分泌量(r=0.6607 p=0.05)、BMIと安静時唾液分泌量(r=-0.5752 r=0.03)、ウエスト/ヒップ比と安静時唾液分泌量(r=-0.5933 p=0.03)、PWVと現在歯数(r=-0.4958 p=0.005)、骨密度と現在歯数(r=0.4011 p=0.02)以上の結果から、口腔の老化度検査は全身の老化度を把握する一つの指標となる可能性が示唆された。
著者
塚原 康子
出版者
東京芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、近代日本の音楽家(本研究でいう「音楽家」とは、洋楽・邦楽をふくめ音楽の種類を問わず、職業的に音楽の演奏・教育に携わる人々をさす)の人材養成と就業の実態を、二つの方法によって明らかにすることを目的とする。第一は、人材養成と就業の基盤が民間にあった邦楽(雅楽をのぞく)の音楽家の変化を、複数の名簿・統計資料によって数量的に明らかにした。具体的には、地域を東京に限定し、『諸芸人名録』(明治8年刊)、『明治41年東京市市勢調査』(明治44年刊)、『警視庁統計書』(明治25年縲恟コ和11年)から邦楽各ジャンルの専門家数を抽出し、1870年代〜1930年代の変化(年代差、地域差、男女差、関東大震災の影響)を跡づけた。第二は、官制の中に人材養成と就業の基盤を有した雅楽と洋楽の音楽家の全体像を明らかにするために、諸名簿にもとづき4種のデータベースを作成した。その結果、明治期から昭和戦前期までの在籍者総数は、宮内省楽部で約240名、陸軍軍楽隊・海軍軍楽隊で約4,400名、東京音楽学校では約13,400名に上ることがわかった。このうち、宮内省楽部と軍楽隊は、音楽演奏を主たる職務とする専門機関で人材養成機能ももつが、その養成期間は楽部の7年に対して軍楽隊が1〜2年と対照的である。また、楽部は在職期間がきわめて長く中途退部者も少ないのに対し、軍楽隊員の多くは在職期間よりも退役後の民間での就業期間が長い。もともと教育機関である東京音楽学校は、正規コースである本科・師範科のほかに、実技のみを履修できる非正規コースの選科をもち、全在籍者の約3分の2が選科に在籍した経験を有していた。また、女性や留学生にも門戸を開くなど、多様な教育機会を提供し、在籍者の多くを教職に送り出していたことが明らかになった。
著者
竹濱 朝美
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、日本とドイツの太陽光発電の普及政策について、費用と効果を比較分析した。(1)ドイツの太陽光発電に対するフィード・イン・タリフ(FIT)の買取価格は、システム価格の10%程度の売電収入を実現している。ドイツのFIT制度の普及促進効果は、日本政府補助金よりも6倍も高い。1kWh当たりのFIT分担金は小額である。ドイツの電力集中型企業に対するFIT分担金減免は、非特恵電力消費者のFIT分担金を0.17セント/kWh押し上げている(2009年)。分担金減免を受ける企業は、鉄鋼、金属、化学産業および中小企業である。 (2)日本の住宅用太陽光発電の累積設備容量を2020年までに18.5GW、2030年までに31.6GWにするシナリオを検討した。ドイツのFIT制度の検討から、システム価格に対する年間売電収入比率で10%を実現する買取価格が必要である。原油価格が80ドル/バレルの水準から年3%で上昇する場合、原油輸入費用節約により、FIT買取費用の30~40%を回収できる。購入電力費用が大規模になる電力集中型企業に対して、FIT分担金の減免が必要である。
著者
坪郷 英彦
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

山地・丘陵地・台地の竹籠の生産と使用について調査分析を行った。秩父・多摩地域の竹籠職人5名の製作技術の調査、博物館及び資料館10カ所の収蔵資料370点の資料収集を行った。成果として、論文発表とともに収集資料目録の作成、2職人の製作工程映像の編集を行った。研究は次のようにまとめられる。1、対象地域の竹籠は地域の自然環境(山地・台地)と、これにともなう生業の形態(雑穀畑作)に大きく関連している。雑穀の保管及び傾斜地での運搬のために竹籠は必要とされた。2、多様に展開した竹籠の種類・形状の基本形は畑作における落葉を活用した堆肥づくりの用具である。斜め網代編みの底に笊目編みの胴の技法と底胴とも六つ目編みの技法が基本である。3、竹籠の多様な展開は明治以降の養蚕、都市近郊の野菜作り、製茶など副業の多様さを反映したものである。いずれの場合も収穫、運搬、保管の役割を担っていた。4、山地では馬での運搬、背負板での運搬に適した独特の籠が使用され、形状や使い方に一定の型が生み出されていた。5、職人には専業と非専業の2つの営業形態があり、非専業は農家副業として行われていた。大正期のデータでは非専業の比率が専業を上回っていた。6、専業と非専業の職人は異なった職人意識を形成していた。多様な竹籠を生み出していったのは専業の職人であり、「何でも出来て一人前」という意識が根底にあった。非専業の職人は基本的な種類に限って生産しており、地域で了解された、実用的な形を作り出すことを心がけていた。
著者
門田 修平 野呂 忠司 長谷 尚弥 島本 たい子 越智 徹
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では「コンピュータ版英語語彙処理テスト開発に関する研究を、その中心的な成果として報告し、大規模なテストの妥当性の検証を行った。その結果、英語の語彙処理能力において、日本人英語学習者の場合には、「語彙知識量(語彙知識の正確さ)」と「語彙知識運用度(語彙アクセスの流暢性)」の間に乖離があり、この乖離の程度が、ある個人(被験者)内でも、どのようなプライム語の後で、どのターゲット語にアクセスするかによって大いに変わってくるという結論に達した。
著者
横山 真貴子
出版者
奈良教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

幼児の「ことばの力」と絵本とのかかわりの関連を検討した結果、家庭での絵本体験が豊かな幼児は、保育の場での絵本とのかかわりも多く、発揮される「ことばの力」も概して高かった。一方、家庭での絵本体験があまり豊かでない幼児の場合、両者との関連は見られなかった。また園での絵本体験は、家庭での絵本体験量を増やし、多様に変化させており、家庭の経験を補い、幼児と絵本との出会いを創り出す保育者の役割の大きさが指摘された。
著者
宮川 葉子 MIYAKAWA Yoko
出版者
淑徳大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

柳沢家の文芸、特に和歌における公家と武家の文化交流の実際を探った。1.東京駒込の六義園の造園意図を知るために、柳沢文庫蔵「楽只堂年録」収載の「六義園記」及び、吉保作自筆の巻子本「六義園記」の二本を翻刻。結果、吉保は和歌の浦と玉津嶋、対岸の藤代峠一帯までもを射程距離に入れた大規模な構想で六義園を造り上げていたこと、京都の新玉津嶋社を園内に勧請していたこと、黄檗山万福寺住持悦峰和尚の提案で西湖孤山の放鶴亭を真似た東屋を妹背山に建てていたことなどが明らかになった。2.大和郡山市社会教育課保管の類題和歌集「続明題和歌集」について調査研究した。新出史料である。吉保息男吉里の編纂と思われる該本は、約7000首の和歌を春・夏・秋・冬・恋・雑に分類したかなり大部な典型的類題和歌集。霊元院と東山院を筆頭に、おもには当代の公家と武家の和歌を収録する。江戸期における公家と武家の和歌文化の接点の実際を知ることのできる貴重な資料である。当該研究期間内には、「詠者目録」「題名目録」「春」「夏」「秋」「冬」の翻刻を終えたので、引き続き「恋」「雑」の翻刻及び全貌の調査研究を行いたい。3.吉保側室正親町町子の出自は不明であったが、父は正親町公通、母は水無瀬氏信女で、江戸城大奥総取締役に至った右衛門佐であることを証明できた。町子は正統な三條西実隆の子孫であったのである。彼女が『松陰日記』に多く『源氏物語』を引くのも三條西家の源氏学の学統に連なっていたからであった。『松陰日記』の本格的研究は是非なされなくてはならない。