著者
菊地 成朋
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

五島列島のキリシタン集落は,明治以降も隠れキリシタンであり続けた集落と,明治期に名乗り出て教会に属しカトリックとなった集落とがある。隠れキリシタン集落「月の浦」の事例検討では,「クルワ」と呼ばれるキリシタン組織がもともとは血縁にもとづく属人的な集団であったと考えられ,その領域が父系の血縁集団ごとに定められ,その中で分家が展開されていったことがわかった。分家は本家を中心に放射状に展開しており,その際,段状に広がる耕地のエッジに屋敷を構えている。生産優先の原則と険しい地理条件との中で分家が慣行的に行なわれ,独特の村落景観が形成されたと解釈される。カトリック集落「大水」の事例検討では,隠居分家を基本とするイエワカレ慣行が一貫して持続され,その際,平等配分を原則とする分割相続が行なわれてきたことがわかった。ただし,明治から大正にかけてのイエワカレでは,集落エリアの外側に新たにイエと耕地をセットにして居住地を開発し,そこに分家を排出していったのに対し,後期のイエワカレは,屋敷近傍の耕地を宅地化することによって行なわれるようになった。そのため,集落景観は以前の散村的状況からやや集村的な状況へと変化してきている。両者の村落景観を比較すると,キリシタン集落は斜面に形成された段々畑の中に家々が散在する景観をもつのに対し,カトリック集落ではその焦点に教会を配した統合的な景観がみられ,空間構成は一見大きく異なっている。しかしながら,これらを領域モデルで比較すると,その構成は基本的に類似しており,さらに形成過程の分析によって両者は同じ原理で展開してきたことがわかった。五島キリシタン集落の独特の村落景観は,キリスト教徒という属性に直接起因するのではなく,斜面という立地特性をベースに,分割相続型のイエワカレ慣行とその具体的分与システムによって形づくられたとみることができる。
著者
杉内 友理子
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

上丘は従来、急速眼球運動(サッケード)の生成に関与することが知られているが、サッケード開始の引き金となるメカニズムは長い間不明であった。一方、上丘の前方には固視機能に関与する部分があることが示唆されてきた。本研究で、上丘からのサッケードの発現機構と固視の発現機構は相互に抑制し合っており、この相互抑制が、サッケード開始の引き金に関与することが明らかとなり、眼球運動研究の歴史での長い間の謎が解明できた。
著者
山谷 修作 信澤 由之
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

自治体アンケート調査を通じて、全国市町村の有料化実施状況、ごみ減量効果、併用施策の実施状況、不法投棄の発生・収束状況を詳細に把握・分析した。大部分の有料化自治体においてごみ減量効果が維持されており、リバウンドが発生するのは手数料水準が低いケース、超過量方式の料金体系できめ細かな制度設計がなされていないケースにほぼ限定されることを明らかにした。またレジ袋を全市で有料化した伊勢市において市民アンケートを実施し、支払意志額(WTP)の計測、有料化の有効性検証、環境行動の誘発効果などに関する新たな知見を得た。
著者
吉田 久
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の主な目的は、1.Renyiのα次拡張ダイバージェンスを用いた統一的な新しい等価帯域幅のクラスの提案とその理論構築、2.非定常過程における瞬時等価帯域幅の新たな提案とその推定法に関する研究の推進、3.本研究で提案する解析法を心音などの実際の生体信号解析へ応用し、新たな知見を得ることであった。当該研究期間に得られた研究成果は以下の通りである。1.Renyiのα次拡張ダイバージェンスを用いることによって、音声処理分野でスペクトルの広がりを表現するときによく使われるSpectral Flatness Measureを包含するような等価帯域幅の表現を得た。また、従来から提案している等価帯域幅との比較を行った。2.統計学におけるCopulas理論を援用して非定常確率過程の正値の時間-周波数分布を推定する方法を検討し、非定常確率過程に対する等価帯域幅の拡張を行った。3.非定常信号の等価帯域幅に関する理論構築において、時間-周波数分布の時間周辺分布の推定法、および周波数周辺分布の新規な推定方法の提案を行った。4.提案する非定常性解析法を実際の生体信号である脳波に適用した。その結果、覚醒維持の努力をしている区間の脳波は非常に帯域が広く、脳の活動が活発化しているように見えることを明らかにした。これは覚醒と睡眠の中枢である視床下部と能動的行動を司る前頭部の関係を知る上でも大変興味深い研究成果である。眠気に逆らって覚醒維持を続けるといった状態の脳波解析はあまりなく、こうした脳波の生理学的知見を得ることは、仕事の効率を定量的に検討する場合に大変有用であると考えられる。こうした関係をより詳しく調べる上でも、前頭部に混入する瞬きや眼球運動によるアーチファクトの除去法などの信号処理における課題を今後解決していく必要がある。
著者
北浦 賢一
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

高張力鋼HT590材で製作された平滑ならびに環状切り欠き(応力集中係数Kt=1.7、2.4、3.2)を有する丸棒試験片に対して主に低サイクル疲労には落重式衝撃引っ張り疲労試験機を用い、中サイクル疲労には回転式衝撃引っ張り疲労試験機を用いて試験を行い次の結果を待た。1)低サイクル領域では平滑材、切り欠き打=1.7の破壊形式は断面収縮型の疲労破壊を示す。2)断面収縮型の疲労破壊を示す残留ひずみの挙軌は応力の大きさによらずクリープ初期領域、残留ひずみの増加量Δε_c(=dε/dN)がほぼ一定のクリープ安定領域およびクリープ加速領域の3段楷に分けることができる。また塑性ひずみ速度Δε_cはΔε_c/Tの値である。ここで、Tは最大応力持続時間である。3)Δε_cと衝撃応力δの間には次の関係がある。δ/δn=S・(Δε_c/ε_f)^β (a)ここに、S、βは試験片形状によって定まる定数4)Δε_cと衝撃引っ張り疲労寿命N_fの間には次の関係がある。(Δε_c/ε_f)・N_f^m=C (b)ここに、m、Cは材料定数5)破断繰り返し数N_fが5000回以上の場合の形式は平滑材および切り欠き材ともにすべてクラック型の疲労破壊である。6)落盤式疲労試験と回転式疲労試験の衝撃疲労強度は次式により表わすことができる。δ(N_f・T)^n=D (c)ここに、n、Dは試験片形状によって定まる定数
著者
牧山 康志
出版者
文部科学省科学技術政策研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

児童虐待問題の解決を図る施策に、育児支援、虐待事例への対応、及び、社会的養育の3本柱がある。これらへのアプローチを統合的に行い、最善の公共政策の実現を図るためには、現場を取り込み、一貫して問題の解決を図ることに責任と権限とを担う行政の機関と、ネットワークの枠組みなど、共同体のガバナンス(協働的統治)が適切に機能する制度的枠組みが必要である。優れた政策策定能力、現況に即した施策の決定・実現・見直し、その鍵となるのが、「中間的専門機関」を核とするガバナンス制度にあることを本研究で明確にした。
著者
長瀬 勝彦
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究の成果のひとつとして、意思決定と理由との関係について整理することができた。意思決定は事前に設定された理由に基づいておこなわれる、また意思決定をした本人はその理由を事前に認識しているし、事後に想起された理由も信用できるというのが一般的な通念であるし、規範的意思決定理論とその関連分野の研究も、基本的にはその認識に立脚している。しかし、われわれの研究を通じて浮かび上がってきたのは、理由がもっと不確かで融通無碍な存在であることである。人間の意思決定のほとんどは無意識的におこなわれるが、そこに理由があるかどうかもあやふやであるし、あったとしても意識されていない。意識的な意思決定に際しては、しばしば理由探しがおこなわれるが、分析的な理由付けは人間本来の意思決定とは質的に異なっているために、期待ほどの成果が上げられない。他者に説明するときとそうでないときには異なった理由が採用される。事後的に想起された理由は、客観的な記録ではなく、そのときに妥当と思われた解釈であって、無意識の自己正当化などに影響されている。理由のこのような側面は、さらに研究していく必要がある。そのほかの成果として、人間の記憶の不確かさについて、やや新しい知見が得られた。過去の研究では、日常的に目にしている紙幣や硬貨のデザインを描かせると、ほとんどまともに描けないことが見出されている。それをもって記憶の不確かさの証左のひとつとされてきたのであるが、紙幣や硬貨はデザインが複雑であるし、記憶しにくい。本研究では、コンビニエンスストアのセブン・イレブンとローソンの看板のマークを被験者に描かせた。このようなマークは単純で、目立つようにデザインされている。したがって記憶に残りやすいと予想される。しかし、ほとんどの被験者は十分に正確とみとめられるほどには描くことができなかった。
著者
北村 晶
出版者
日本医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

全身麻酔薬の作用機序の探索を目的として、ラット皮質ニューロンの初代培養標本から、パッチクランプ法をもちいて自発性抑制性および興奮性シナプス後電流(miniature IPSCおよびEPSC)を記録し、ハロタンとプロポフォールの興奮性および抑制性シナプス伝達へのmodulationについて調査した。麻酔薬はシナプス後膜への効果として抑制性GABAergicなシナプス伝達を増強する作用があり、今回の実験でもそれぞれの麻酔薬がCl^-電流を増強した。シナプス前への効果の機序として、神経伝達物質の放出への影響のメカニズムを考察するために、選択的Ca^<2+>チャンネル拮抗薬を用いて、frequencyへの効果を調査した。ハロセンはfrequencyを低下させ、ω-conotoxinおよびω-agatoxin存在下ではその低下の効果が減少した所見が得られた。すなはちハロセンはN-typeおよびP/Q-typeのCa^<2+>チャンネルをブロックすることで、細胞内カルシウム流入を減少させ、シナプス前よりの興奮性神経伝達物質の放出を抑制する可能性が示唆された。miniature IPSCへの効果において、両薬剤はdecay phaseおよびamplitudeeへの効果から、Cl^-電流の動態が一様でないことが観察された。cell-attachedモードにおいて、それぞれの麻酔薬によりコンダクタンスは変化せず、開口確率を増加させたが、ハロタンではmean open timeの延長、プロポフォールではinterburst intervalの低下が観察された。以上の結果より、薬剤によっての神経伝達物質の放出の抑制作用、Cl^-チャネルの開口確率の増加、開寿命の延長、閉寿命の短縮へ及ぼす作用に相違があり、臨床作用での相違に関連づけて考察した。
著者
青山 吉隆 中川 大 松中 亮治 柄谷 友香 田中 啓一
出版者
広島工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

近年においては従来の大量消費型ライフスタイルから,都市における生活の質「都市アメニティ」を重視したライフスタイルへの転換期を迎えている。この「都市アメニティ」は,人々の生活の豊かさと環境保全の共生を図っていくうえで重要な概念となっている。そこで,本研究では,都市アメニティの維持・拡大と環境が共生した都市社会システムを構築するための施策体系を明らかにする。具体的には,まず「都市アメニティ」の概念を体系化・計量化する。また,都市アメニティの利害関係者の構成を明らかにすると共に,受益と負担に対する施策の提示と目標に向けた実現可能性についての合意形成を目指した。本研究の成果をまとめると以下の通りである。1.都市アメニティを,「ある空間に存在する多種多様な都市の要素の量・質・配置に対して、ある都市活動を行うに際して大多数の人々が主観的に感じる共通の価値」と定義し,空間アメニティ・アメニティ機能・アメニティ要素といった階層構造として提示した。2.京都市北部における学校・緑地・神社仏閣・墓地の4つのアメニティ要素を対象に,その影響範囲を明らかにした。さらに,京都市都心部において,面的集積を保持した京町家の近隣外部効果は土地資産価値を高める傾向があること,京町家の影響範囲よりも中高層建築物のほうがより広範囲な学区レベルに及んだこと,中高層建築物の集積が土地資産価値を低める傾向にあること,以上3点を明らかにした。3.京町家まちなみ保全の活動に対して,周囲の協力の割合が高いほど,個別地域住民の協力選択確率が高まること,調査対象とした元学区19のうち,16の地域では潜在的な保全可能性を担保していること,これを担保していない3つの元学区に対しては,社会的相互作用の視点から,保全可能性を確保するための方策案を各元学区の特性に応じて提示した。
著者
平野 和弘
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

科研費補助金の助成を受ける以前からのものも含めて30名の群馬の小・中・高の教師の公開インタビューを実施し、参加者が10名に満たない時もあったが、多い時は50名を超える一般市民も含めた参加者たちと共に、「語り」を触媒とする地域における意味生成の実験的空間を創出・維持してきている。その貴重な記録は、「戦後教育史学習会ニュース」というかたちで学習会を支える会員たちに郵送され、さらにそれを製本した「年報戦後教育史を学ぶ」も3冊が刊行済みで、4冊目もすでに編集を終え、印刷・製本を待つばかりになっている。2009年3月にはシンポジウム「日本の教師の歩んできた道」を開催し、北海道における「教師の学校」の実践・研究との交流を通じて、教師のライフヒストリーの語り・聞き取りの研究的実践の現段階における成果と課題を確認した。
著者
中野 優
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

コルチカム科花き園芸植物を用いて遠縁種間交雑を行ったところ、胚珠培養により、グロリオーサ類、サンダーソニアおよびリットニア間の複数の組み合わせにおいて属間雑種が得られた。これらの雑種は、いずれも新規形質を示したことから、コルチカム科花き園芸植物における新品種育成に属間交雑が有効であると考えられた。また、GISH法により属間の染色体が明確に識別できたことから、属間のゲノムの相同性は低いことが予想された。
著者
三原 誠 吉村 浩太郎 朝戸 裕貴
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

われわれの研究グループは、毛包由来培養細胞移植による毛髪再生医療を究極的な目標として研究している。本研究課題の目的は、これまでわれわれが経験してきた3次元培養皮膚モデルを応用して、ヒト細胞を用いたin vitro毛包再生モデルを新たに開発し、特定の条件操作を加えて分析することにより、ヒト毛包再生にまつわる分子基盤・細胞間相互作用について研究することである。毛包由来細胞のうちの2系統である毛乳頭細胞と角化細胞を混合培養することにより、毛包を3次元的に模倣した構造を作成することを試み、結果としてスフィア培養法を開発できた。このスフィアはin vitroにおいて顕微鏡下に経時的観察可能であり、in vivoへの移植も可能であった。このスフィアにおいて毛包誘導であるWnt 10bが発現していることが示され、この発現を増強する因子の検索を行ったところ、特定の有望な候補物質を見出すことができた。このようなin vitro毛包再生モデルを開発することにより、従前のin vivoモデルでは不可能(または多大な労力が必要)であった、毛包再生にまつわる遺伝子・蛋白レベルの解析や、移植細胞の遊走・分化についての詳細な観察がさらに進展する見込みが得られた。またヒト毛包由来細胞を用いた毛髪再生治療を実現する上で不可欠であろう、毛包上皮系幹細胞の単離、および毛乳頭細胞の毛包誘導能に関連する遺伝子解析をおこなった。ヒト毛包上皮系幹細胞はCD200やCD34の表面抗原だけでなく、細胞の大きさも利用することで、コロニー形成能の高い細胞群を生きたまま分取することが可能であることがわかった。また培養ヒト毛乳頭細胞におけるTGF-β2の発現および生体内で機能することが毛包再生において重要であることが示された。これらの結果は、将来的な毛髪再生治療の開発において、基盤となる研究結果であると考えられる。
著者
細貝 良行
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では放射線治療時における照射線量をシンチレータとして人工ルビーを使用し、リアルタイムでモニタリング可能なシステムの構築を行ってきた。ルビーからの光を光ファイバーで道光しフォトンカウンタに取り込み解析を行う。光量を定量化するために核医学的手法を応用し、X線CTの3D画像から体内に分布する臓器の距離・形状を把握し、光の吸収を補正することで可能とした。本研究期間中に特許の出願を行った。
著者
増子 正
出版者
仙台大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

平成12年に施行された社会福祉法で、平成15年以降、市町村における地域福祉は、地域福祉計画に基づいて推進されることになった。策定する地域福祉計画を具現化したり、策定された地域福祉計画の達成度を評価するための進行管理と計画の達成度を評価、モニタリングすることが重要になる。全国社会福祉協議会は、行政機関の政策評価で採用しているベンチマーク方式の積極的な活用を推奨しているものの、ベンチマーク方式に関しては、わが国でもアメリカ・オレゴンベンチマーク方式を活した行政機関の政策評価に関する研究が近年行われているものの、福祉領域での研究はほとんど行われていないのが現状である。政策評価で多く用いられる4つの象限を用いたベンチマーク方式の評価では、各象限にプロットされた事業の、取り組みの詳細な優先順位付けに限界があることから、本研究では医療分野で有用性が確立されている分布関数分析の手法を用いて詳細な事業の優先順位付けを試みた。また、策定された計画の達成状況を評価するために、地域福祉事業については、その性質上、スケールメリット効果を定量的に測定することが困難なものも多く存在するが、本研究では定量的に評価が可能であると考えられる事業の目標値の設定と評価指標の検討を行って、実際のフール度でその妥当性を検証た結果、本研究の手法が宮城県柴田町社会福祉協議会の地域福祉活動計画策定段階に採用され実用化に寄与することができた。
著者
三井 斌友 齊藤 善弘
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では, 数学定数であり超越数でもある円周率πの数値表現を, 擬似乱数生成に用いる提起を行い, その実現のため数値的な検証を行った. πの超多数桁10進表現を適宜な桁数ごと区切ったのち規格化し, [0,1]区間に分布する一様乱数とみなしたとき, 他の生成法と比較して統計的優劣があるかどうかを検定した. この結果, πを用いる方法は他の方法と比較して決して劣ることはなく, むしろいくつかの優位さが見られることを示した.
著者
田口 まゆみ
出版者
大阪産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

研究の目的:表題の研究を進めるにあたり、特にMS Pepys 2125,Magdalene College Cambridge, and MS G.31,St.John's College, Cambridgeを対象とした。成果[Pepys 2125]-1:"Dimitte me, Domine,..."(item 3)の校訂が完了し、国際的学術雑誌Mediaeval Studies(Toronto University)に掲載が決まった。本エディションには詳細な注を付し、Introductionでは、Pepys2125写本全体の考察、本文の内容、筋立て、またどのような読者を対象にいつ書かれたものか、原典となった文献や類似した素材を扱った関連文献などについて論じている。成果[Pepys 2125]-2:中世の文献はオリジナリティより、過去のオーソリティを継承することが重要であったが、換骨奪胎、複数の文献からの抜粋の組み合わせ他自由な書き換えが常套的であった。"Against despair"という1つの作品を材料に、このような創作過程を実例によって考察した。使用した写本はMS Pepys 2125(item 12,"Teaching of St Barnabas"),MS Hopton Hall, Keio University, and MS Additional 37049,British Library, London.成果[St John's College, G.31]:G.31は、『創世記』の中世英語訳である。主にウルガタ聖書をもとにしており、Peter ComestorのHistoria scholastica、その中仏語訳La Bible historiale、Peter RigaのAuroraなどからの引用と、訳者自身の加筆を加えた自由でこなれた訳となっている。14世紀末Wyclif派によって聖書の英語訳が初めて試みられたが、教会はWyclif派を弾圧して、1408年、一切の聖書の翻訳、またそれを使用したり保有したりすることを厳しく禁じた。弾圧は宗教改革まで続いたことを考えると、15世紀半ばにこのような自由な聖書訳が上梓されたことは驚異に値する。本テキストの校訂本(エディション)は、Middle English Textsシリーズ(Heidelberg University)から、出版が決まり、編集部と準備を進めている。エディションは英語テキストと、及びウルガタ聖書、Historia scholasticaの対応箇所を並列段組で示し、La Bible HistorialeはAddendumとして巻末に付す。Introductionでは時代背景、作品のスタイル、原典についての論述、創作年代、対象などについて論じ、詳細にわたる注とglossary, bibliographyを付ける。準備の一環として、Wyclif派と15世紀イギリスの英訳聖書、また本テキストとWyclif聖書との関連を論じた論文を学会で発表した。
著者
磯部 彰 真鍋 俊照 新宮 学 金 文京 藤本 幸夫 山田 勝芳
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

東アジア社会の構造及び将来のあり方を考える時、意志疎通、情報の伝達、文化の共有に多大な影響と役割を果たした出版文化は文化・政治・経済・宗教等の基本をなした。本研究は、中国・朝鮮・日本等の近世出版システムと文化形成との関係を解明すべく立案され、文学・歴史学・思想宗教学・書誌文献学・言語学・美術史学等の多方面から成る研究者を研究分担、もしくは研究協力者として結集し、十数回に及ぶ小地区会議、三回の全体会議を開催して検討した。その結果、近い将来、特定領域Aに企画案を申請することとし、今回なお検討を要する問題は継続検討課題とする一方、東アジア諸国における出版文化研究の現況成果を知るため、更に企画案に盛り込むべき外国調査、共同研究を実施することとし、明年の国際学術研究に申請することを計画した。研究の大綱は、次のように決定した。○研究会名称:東アジア出版文化研究機構○総括機構 五大地区・計画研究代表から組織五大地区・計画研究双方を統合して、一般市民も含めた研究シンポジウム・出版展示会・特別講演を指導する。総括機構に直属する情報図書インフォメーション支構を通して、インターネットで資料・情報・文献の提供を図書館・研究所に対して行う。○研究期間は5年間○地区は東北・京浜・京阪・中国・九州の5ブロック○計画研究は(1)出版交流研究、(2)出版形成・機構研究、(3)出版文化論研究、(4)出版環境研究、(5)出版政策研究、(6)出版物の研究の6本を基幹研究のもとに2〜3件づつ設ける。○公募研究は(1)〜(6)基幹研究(計画研究)の下でそれぞれ公募し、約八十の個別研究を計画研究の支柱とする。○外国研究機関との共同研究・調査も実施し、例えば中国では社会科学院文学研究所と共催で北京出版文化研究シンポジウムを開く。○事務局を総括機構に設ける。
著者
尾城 隆 竹山 春子
出版者
東京水産大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

1.産卵ホルモン(CDCH)の筋収縮作用の検討:精製CDCHを用いたin vivo投与では、排卵誘発効果を確認できなかったが、CDCHを多量に含む脳交連(COM)のリンゲル液抽出物は、in vitroで両性生殖腺(一部)から放卵を誘起した。さらに、両性生殖輸管後端部の生体外収縮・弛緩を電気生理学的手法で記録し、その筋収縮効果を直接証明できた。2.卵母細胞の減数分裂抑制因子のin vitroでの解析:排卵された卵細胞は、体内受精後輸卵管に入る直前まで不定形で胚胞を有するが、摘出して生殖腔液よりやや低張なリンゲル液、ヘモリンパ液、および蒸留水中に移すと、直ちに吸水して球形となり、続けて正常な成熟分裂と発生とを行った。しかし、実際のGVBDは産卵直前まで、極体放出と卵割は産卵直後まで抑制された。この抑制は、卵細胞を包むカプセル構造(囲卵腔液+卵膜)によることが判明した。産卵直後の卵をカプセルごと0〜1000mMのマンニトール液に浸すと、極体放出・発生は体液より高張の140mM以上で起こらず、低張液でのみ起こった。また種々の溶液への浸漬実験では、卵膜は卵白など高分子物質を通さず、低分子物質のみを速やかに通した。すなわち、体内では種々の電解質や低分子物質による浸透圧差は生じず、囲卵腔液はコロイド物質で周囲の体液より高張となる。実際、輸卵管内で卵膜は常に膨張状態を保ち、囲卵腔液は体液より高張で、その結果極体放出・発生は体内では抑えられるが、淡水中に放卵されカプセル内の浸透圧が低下すると誘発されると考えられる。3.卵白腺に対するエクジソンの分泌促進効果の検討:産卵中の親貝をβ-エクジソン溶掖に浸漬すると、産出卵のカプセル容積全体が増加する傾向を示すことから、エクジソンが卵白分泌を促進するものと推定された。4.エクジソンレセプクー遺伝子のクローニング:卵白腺を含む生殖器官系からmRNAを抽出し、RT-PCR法で増幅したcDNAをクローニングし、そのシークエンスを解析した。その結果、Drosophilaにおけるエクジソン応答タンパク質(E74B)、および接着タンパク質(Lgp-1)などに相同性の高い配列を得たが、エクジソンレセプクー遺伝子そのものは得られなかった。5.ヘモリンパ中のエクジステロイドの変動(HPLC-EIA法):CDCH放出推定時刻より、ヘモリンパ中のβ-エクジソン濃度は急激に増加し、卵の梱包(packaging)初期、すなわち卵白腺の分泌期に最大となり、以後急激に減少した。α-エクジソン濃度は遅れて増加し、卵莢膜腺分泌期から産卵直前にかけて最大となった。β-エクジソンは卵白による卵の梱包を促すことを介してそのGVBD・発生を抑制し、α-エクジソンは産卵直前のGVBDを直接・間接的に誘起する可能性が示唆された。
著者
岩佐 和晃
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

物質の性質・新機能を明らかにする基礎科学分野において、温度などの環境の変化に伴う物質の状態変化である相転移の研究が必要である。磁性や電気伝導性の相転移に伴い物質の原子配列(結晶)構造をも変化する現象が見られる。本研究では、希土類元素と隣接原子から供給される電子が互いに強く混ざり合う化合物における電子相転移と結晶構造変化の物理的機構について、構造的なダイナミクスの観測から明らかにすることを試みた。
著者
三浦 佑之 栃木 孝惟 中川 裕 荻原 眞子
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

多くの民族や地域において、口承文芸が衰亡に瀕し忘れられようとしている現在、一方では、国家的、民族的なアイデンティティ発揚のために英雄叙事詩が見直されている場合もあり、英雄叙事詩を学際的に考察することは緊要の課題である。しかも、ユーラシア大陸の西の果てから日本列島に至るまでのさまざまな民族に語り継がれてきた英雄叙事詩を考えることは、単に口承文芸研究という狭い領域にとどまらず、それぞれの民族や地域の言語・文化・歴史・生活の総体を見通すことだという点において重要であり、今回の共同研究「叙事詩の学際的研究」によって、我々は多くの知見を得ることができた。4年間にわたる研究期間に、我々は、20回以上の研究発表を行い、さまざまな議論を交わすことができた。そこで取り上げられた地域(あるいは民族)は、カザフ・ロシア・モンゴル・シベリア・中国東北部・アイヌ・日本など、ユーラシア全域を覆っていると言っても過言ではない。そして、その議論の中で、叙事詩や口承文芸の様式や表現について、多くの時間を割いて議論をくり返したのは当然であるが、その他にも、語り方や語り手、伴奏楽器の有無、その継承の仕方、語ることと書くことなどについても意見交換を行うことで、それぞれの地域や民族における差異と共通性について、多くの有益な成果を得ることができたのである。もちろん、今回の共同研究だけで、ユーラシアの叙事詩や口承文芸のすべてを理解したとは言えないが、興味深い研究発表と長時間の質疑を通して、我々が、今後の研究の大きな足掛かりを手に入れたのは間違いないことである。その成果の一端は、報告書『叙事詩の学際的研究』に収めた研究論文5篇と、口承資料の翻刻4篇に示されているが、今後も、その成果を踏まえて叙事詩研究を深めて行きたいと考えている。